説明

マンガン接触酸化装置及びその方法

【課題】従来使用されている表面積が小さいマンガン砂を触媒とし、被処理水に溶解しているマンガンが塩素で酸化不溶化されて不溶化マンガンとなりマンガン砂の表面に結合した場合であっても、マンガン砂の触媒としての機能が低下するのを防止することが出来る装置を提供する。
【解決手段】マンガン砂20で形成されている充填層21を備え、塩素が添加されている溶解性マンガンを含む被処理水を、LV=850〜3000m/日の高線速度の流速で上向流にて充填層21に通水し、溶解性マンガンを酸化不溶化させるマンガン接触酸化装置であって、マンガン砂20同士を衝突させマンガン砂20の表面積を維持させる装置を内設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マンガンが表面に被着されたろ材に、溶解性マンガンを含む被処理水を通水することで、溶解性マンガンを酸化不溶化させるマンガン接触酸化装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被処理水に溶解しているマンガンを酸化不溶化させろ過するには、図6及び図7に示すような接触マンガン砂ろ過装置100を用いて行っていた。即ち、この装置100は、下方にろ材支持床101が設置されていて、このろ材支持床101の上にろ材である水和二酸化マンガンを被着させたろ過砂(以下「マンガン砂」という。)102の充填層103が形成されている。マンガンが溶解している被処理水は、次亜塩素酸ナトリウムが必要量添加された後、充填層103を図6に示す下向流、若しくは図7に示す上向流にて通水され、被処理水の溶解性マンガンはマンガン砂102を触媒として塩素で速やかに酸化不溶化されたマンガン(以下「不溶化マンガン」という。)となり、マンガン砂102の表面に結合しろ過されていた。
【0003】
しかし、上述の方法で溶解性マンガンをろ過しようとすると、高空塔速度(SV=100〜300h−1)で処理を行った場合、不溶化マンガンがマンガン砂102に結合することによりマンガン砂102の表面積が著しく減少し、マンガン砂102の触媒としての機能が低下するため、マンガン砂102の容量を大きくする必要があり処理装置をコンパクト化がするのが難しいとの不具合点があった。尚、マンガン砂の表面積の減少による触媒としての機能が低下するのを防止するため触媒粒子であるマンガン砂の表面積が大きい結晶構造のものを使用する方法もあるが、マンガン砂の表面積が大きい結晶構造のものは通常使用されるマンガン砂に比較して非常に高価であった。
【0004】
また、高線速度(LV=1000〜2500m/日)で処理を行った場合、上述と同じく、不溶化マンガンがマンガン砂に結合することによりマンガン砂の表面積が著しく減少し、マンガン砂の触媒としての機能が低下するため、マンガン砂の容量を大きくする必要があり処理装置をコンパクト化がするのが難しいとの不具合点があった。更に、高線速で且つ被処理水を下向流で処理する場合、被処理水に含有される濁質により閉塞し、圧力損失が高くなり、洗浄頻度が多くなるという不具合があった。
【0005】
このような不具合点を解決するために、下記特許文献1では、被処理水に溶解しているマンガンをマンガン砂を触媒として塩素で酸化不溶化させる工程と、不溶化マンガンを膜ろ過することにより除去する工程と、別々に行うことが提案されている。しかしながらこの発明においては、酸化不溶化させる工程で使用する触媒粒子としてのマンガン砂は、10〜30m/gの表面積を持つベータ型結晶構造を持つものであり、従来使用しているマンガン砂の表面積1〜5m/gと比較して非常に高価であるとの不具合点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−103275
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の不具合点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、従来使用されている表面積が小さいマンガン砂を触媒とし、被処理水に溶解しているマンガンが塩素で酸化不溶化されて不溶化マンガンとなりマンガン砂の表面に結合した場合であっても、マンガン砂の触媒としての機能が低下するのを防止することが出来る装置及びその方法を提供することである。併せて、被処理水に含まれている濁質を効率よく凝集させるための凝集剤の攪拌方法についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係るマンガン接触酸化装置は、酸化マンガンが表面に被着されたろ材で形成されている充填層を備え、塩素が添加されている溶解性マンガンを含む被処理水を、LV=850〜3000m/日の高線速度の流速で上向流にて前記充填層に通水し、前記溶解性マンガンを酸化不溶化させるマンガン接触酸化装置であって、前記ろ材同士を衝突させろ材表面積を維持させる装置を内設したことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の請求項2に係るマンガン接触酸化装置は、請求項1に記載のマンガン接触酸化装置において、前記ろ材同士を衝突させろ材表面積を維持させる装置が、前記ろ材を前記充填層から処理水側に移動させ再び前記充填層へ戻す循環装置、又は前記ろ材を回転翼若しくは空気流にて撹拌する撹拌装置であることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項3に係るマンガン接触酸化装置は、前記循環装置を内設した請求項1に記載のマンガン接触酸化装置において、前記循環装置から吐出された前記ろ材及び前記被処理水を合わせて戻すための流路を形設したことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項4に係るマンガン接触酸化方法は、酸化マンガンが表面に被着されたろ材で形成されている充填層と、前記ろ材同士を衝突させろ材表面積を維持させる装置、とを備える装置を用い、溶解性マンガンを含む被処理水に塩素と共に鉄系凝集剤を添加し、前記被処理水をLV=850〜3000m/日の高線速度の流速で上向流にて前記充填層に通水し、前記溶解性マンガンと合わせて前記鉄系凝集剤に含有されている溶解性マンガンを酸化不溶化させることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項5に係るマンガン接触酸化方法は、溶解性マンガンを含む被処理水に塩素と共に凝集剤を添加し、酸化マンガンが表面に被着されたろ材で形成されている充填層に、前記被処理水をLV=850〜3000m/日の高線速度の流速で上向流にて通水し、前記溶解性マンガンを酸化不溶化させると共に前記凝集剤を撹拌することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
上記構成を備えた本発明の請求項1に係るマンガン接触酸化装置は、被処理水に溶解しているマンガンがろ材を触媒として塩素により酸化不溶化されて不溶化マンガンとなり、ろ材に結合した場合であっても、内設されているろ材同士を衝突させろ材表面積を維持させる装置によりろ材同士が撹拌循環されて衝突し、結合している不溶化マンガンがろ材から脱離し、処理に必要なろ材の表面積が維持されるので、ろ材の触媒としての機能が低下するのを防止することができる。
【0014】
また、高空塔速度(SV=100〜300h−1)で処理を行った場合であっても良好な処理を行うことができるので、高線速度(LV=850〜3000m/日)で処理を行う場合でも、ろ材層厚を大きくする必要がなく装置をコンパクトとすることができる。
【0015】
更に、処理に必要なろ材表面積の減少が防止され、常時維持されるので、従来使用されている表面積が小さいろ材で処理を行うことができ、安価な装置とすることができる。また、通常、1回/10年程度で行うろ材の交換費用も安価とすることができる。
【0016】
ろ材同士を衝突させろ材表面積を維持させる装置としては、エアリフト管等のような前記ろ材を前記充填層から処理水側に移動させ再び前記充填層へ戻す循環装置、又は前記ろ材を回転翼若しくは空気流にて撹拌する撹拌装置が好適である。
【0017】
また、請求項3に係るマンガン接触酸化装置は、前記ろ材を前記充填層から前記処理水側に移動させ再び前記充填層へ戻す循環装置によりろ材が撹拌循環される場合には、循環装置から吐出されたろ材及び被処理水を合わせて戻すための流路が形設されているので、被処理水の一部がエアリフト等され、ろ材充填部を通過する機会が失われた場合であってもろ材との接触時間が確保され、溶解しているマンガンの酸化不溶化を促進することができる。
【0018】
また、請求項4に係るマンガン接触酸化方法は、鉄系凝集剤を塩素と共に被処理水に添加すると、被処理水がLV=850〜3000m/日の高線速度の流速で通水されろ材の間隙を移動するとき、鉄系凝集剤は、効率よく分散撹拌されると共に、ろ材同士を衝突させろ材表面積を維持させる装置によっても分散撹拌され、被処理水に含まれている溶解性マンガンと合わせて鉄系凝集剤に含まれている溶解性マンガンも酸化不溶化させることができる。合わせて被処理水に含有されている濁質を凝集することができ、凝集剤を撹拌するための工程を不要とすることができる。
【0019】
また、請求項5に係るマンガン接触酸化方法においては、鉄系凝集剤若しくはアルミ系凝集剤を添加した溶解性マンガンを含む被処理水は、LV=850〜3000m/日の高線速度の流速で通水されると、ろ材の間隙を不規則且つ速やかに移動する。これにより添加した凝集剤は、効率よく分散撹拌され、被処理水に含有されている濁質は凝集されるので、凝集剤を撹拌するための工程を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマンガン接触酸化装置の概略説明図である。
【図2】図1のAの部分の拡大断面説明図である。
【図3】線速度と懸濁性マンガン排出率との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の第2実施形態に係るマンガン接触酸化装置の概略説明図である。
【図5】実施例における処理水溶解性マンガン濃度の推移グラフである。
【図6】従来例の接触マンガン砂ろ過装置の概略説明図である。
【図7】別の従来例の接触マンガン砂ろ過装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照して、この発明の実施の形態を例示して説明する。ただし、この発明の範囲は、特に限定的記載がない限り、この実施の形態に記載されている内容に限定する趣旨のものではない。
【0022】
第1実施形態:
図1は、本発明の第1実施形態に係るマンガン接触酸化装置の概略説明図であり、図2は、内設されているエアリフト管の部分の拡大断面説明図である。
【0023】
図1に示す通り、このマンガン接触酸化装置1は、下方にろ材支持床10が設置されていて、このろ材支持床10の上にろ材である水和二酸化マンガンを被着させたろ過砂(以下「マンガン砂」という。)20の充填層21が形成されている。この充填層21を形成しているマンガン砂20の表面積は、通常使用されている1〜5m/g程度の安価なものである。被処理水を上向流にて通水するために、ろ材支持床10の下方に原水流入部11が設置され、処理水流出部12は充填層21の上方に設置されている。更にマンガン接触酸化装置1の内部には、図2に示すように、マンガン砂20を充填層21から上方の処理水側に移動させ再び充填層21に戻す循環装置であるエアリフト管30が中央に配設され、エアリフト管30の両脇にはエアリフト管30の上方から吐出されたマンガン砂20及び被処理水を合わせて戻すための流路31が形設されている。
【0024】
次に、このマンガン接触酸化装置1における被処理水の流れについて説明する。図示しない原水貯水槽から流出した被処理水は、次亜塩素酸ナトリウム(塩素)及び鉄系凝集剤が添加された後、ポンプ40によりろ材支持床10の下方にある原水流入部11からマンガン接触酸化装置1に流入する。被処理水は、マンガン砂20で形成されている充填層21をLV=850〜3000m/日の高線速度の流速で上向流にて通水され、上方にある処理水排出部12より流出する。特に、図3に示すようにLV=1000〜2000m/日で通水する場合には、充填層21のマンガン砂20は20〜30%膨張して流動状態となり、被処理水に含有されている濁質で閉塞され圧力損失が高くなるのが防止され、後述するマンガン砂20に結合している不溶化マンガンが脱離し懸濁化したマンガンとなった場合に、最も効率よく排出されるようになっている。
【0025】
被処理水に溶解しているマンガン、及び添加された鉄系凝集剤に含まれている溶解したマンガンは、充填層21を通水するときに接触するマンガン砂20を触媒とし、次亜塩素酸ナトリウムにより酸化不溶化されて不溶化マンガンとなり、マンガン砂20の表面に結合する。その結果、複雑な表面形状のマンガン砂20表面が次第に単調化することにより表面積が減少し、触媒としての機能が低下する。しかし、この不溶化マンガンが結合したマンガン砂20は、エアリフト管30の中を通過する際にマンガン砂20同士が衝突するので、マンガン砂20の表面から結合している不溶化マンガンが脱離して懸濁化したマンガンとなるので、マンガン砂20の表面積が維持されるようになっている。従って、充填層21の厚さを大きくする必要がなく、マンガン接触酸化装置1をコンパクト化することができるようになっている。
【0026】
また、溶解性マンガンを含む被処理水に添加された鉄系凝集剤は、被処理水がLV=850〜3000m/日の高線速度の流速で通水され、ろ材の間隙を不規則且つ速やかに移動する際に効率よく分散撹拌され、更に、エアリフト管の中を通過する際にも分散撹拌されるので、被処理水に含有されている濁質を効率よく凝集することができる。
【0027】
尚、エアリフト管30から吐出した被処理水の一部は、充填層21を通過していないが、吐出されたマンガン砂20と共に流路31を経由して処理水滞留部に戻されるようになっているので、マンガン砂20と接触する機会が付与され、溶解しているマンガンの酸化不溶化が促進されるようになっている。
【0028】
第2実施形態:
図4は、本発明の第2実施形態に係るマンガン接触酸化装置の概略説明図である。第1実施形態で内設されているエアリフト管30の代替として、回転翼により撹拌する撹拌装置である撹拌機50が配設されている以外は第1実施形態と同じ構成である。
【0029】
即ち、第2実施形態では、エアリフト管による撹拌循環の代替として撹拌機50によりマンガン砂20を撹拌して衝突させることで、マンガン砂20の表面から結合している不溶化マンガンを脱離させて懸濁化したマンガンとし、マンガン砂20の表面積を維持し触媒としての機能が低下しないようになっている。尚、第2実施形態においては、撹拌時間は10〜20秒程度とし、被処理水溶解性マンガン濃度が0.1mg/Lにおいて、3回/時間の頻度程度で行うのが好適である。
【実施例】
【0030】
第1実施形態で示したエアリフト管を配設した本発明と、従来例のエアリフト管を配設しない接触マンガン砂ろ過装置の場合とを比較した。実験条件としては、溶解性マンガン濃度が0.10〜0.11mg/Lである被処理水を、線速度をLV=1500m/日に、空塔速度をSV=250h−1に設定し、上向流にて通水し、経過時間による処理水溶解性マンガン濃度の推移を測定した。その結果、図5に示す通り、従来例では、ある時点から急激にマンガン濃度が増加し、240時間経過以前に濃度の値が0.045mg/Lを越えてしまったが、本発明は1440時間以上経過後であってもマンガン濃度は0.005mg/L以下で推移した。
【符号の説明】
【0031】
1 マンガン接触酸化装置
10 ろ材支持床
11 原水流入部
12 処理水流出部
20 マンガン砂(ろ材)
21 充填層
30 エアリフト管(循環装置)
31 流路
40 ポンプ
50 撹拌機(撹拌装置)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マンガンが表面に被着されたろ材で形成されている充填層を備え、塩素が添加されている溶解性マンガンを含む被処理水を、LV=850〜3000m/日の高線速度の流速で上向流にて前記充填層に通水し、前記溶解性マンガンを酸化不溶化させるマンガン接触酸化装置であって、
前記ろ材同士を衝突させろ材表面積を維持させる装置を内設したことを特徴とするマンガン接触酸化装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマンガン接触酸化装置において、
前記ろ材同士を衝突させろ材表面積を維持させる装置が、前記ろ材を前記充填層から処理水側に移動させ再び前記充填層へ戻す循環装置、又は前記ろ材を回転翼若しくは空気流にて撹拌する撹拌装置であることを特徴とするマンガン接触酸化装置。
【請求項3】
前記循環装置を内設した請求項1に記載のマンガン接触酸化装置において、
前記循環装置から吐出された前記ろ材及び前記被処理水を合わせて戻すための流路を形設したことを特徴とするマンガン接触酸化装置。
【請求項4】
酸化マンガンが表面に被着されたろ材で形成されている充填層と、前記ろ材同士を衝突させろ材表面積を維持させる装置、とを備える装置を用い、溶解性マンガンを含む被処理水に塩素と共に鉄系凝集剤を添加し、前記被処理水をLV=850〜3000m/日の高線速度の流速で上向流にて前記充填層に通水し、前記溶解性マンガンと合わせて前記鉄系凝集剤に含有されている溶解性マンガンを酸化不溶化させることを特徴とするマンガン接触酸化方法。
【請求項5】
溶解性マンガンを含む被処理水に塩素と共に凝集剤を添加し、酸化マンガンが表面に被着されたろ材で形成されている充填層に、前記被処理水をLV=850〜3000m/日の高線速度の流速で上向流にて通水し、前記溶解性マンガンを酸化不溶化させると共に前記凝集剤を撹拌することを特徴とするマンガン接触酸化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−214311(P2010−214311A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65286(P2009−65286)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000193508)水道機工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】