説明

マンコンベアの移動手摺用加温装置及びマンコンベア用手摺

【課題】マンコンベアで使用される移動手摺を簡単に且つ短時間で温めることができ、外気温の低下によって移動手摺が硬化しても、マンコンベアの通常走行を早期に再開することができるようにする。
【解決手段】マンコンベアの移動手摺7の表面に、移動手摺7の長手に沿って電極13a及び13bを設ける。また、この移動手摺7の内部に複数の電熱線14を埋め込み、各電熱線14を電極13a及び13bに接続する。そして、電極13a及び13bに電圧を印加することによって各電熱線14に電流を流し、移動手摺7を温めるための熱を各電熱線14から発熱させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレータや動く歩道等のマンコンベアで使用される移動手摺用加温装置、及び、マンコンベアでの使用を目的としたマンコンベア用手摺に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道といったマンコンベアでは、一般に、横断面C字状を呈する無端状の移動手摺が使用され、乗客が移動する際に乗る踏段と同期するように、この移動手摺が駆動されている。
【0003】
マンコンベアで使用される移動手摺には、通常、ゴム材料が多く使用されているため、移動手摺は、外気温の低下とともに硬くなる特性を有している。このため、寒冷地では、例えば、建物内の暖房が止められてしまう夜間に移動手摺の柔軟性が失われることがあり、かかる場合は、マンコンベアを朝起動させても、移動手摺の走行が開始されないことがあった。
【0004】
このような事情に鑑み、移動手摺を温めることができる装置を備えたマンコンベアも提案されている(例えば、特許文献1参照)。このマンコンベアでは、移動手摺の走行を案内する案内レールの内部に電熱線を配置することにより、通電によって上記電熱線を発熱させて、移動手摺の凍結を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−269142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のものでは、案内レールの内部に電熱線が配置されているため、電熱線を発熱させても、案内レール内部の空気を介してしか移動手摺に熱を伝えることができない。このため、熱効率が著しく悪く、移動手摺が一旦硬化してしまうと、走行に必要な柔軟性を回復させるまでに、長時間を要してしまうといった問題があった。
【0007】
また、特許文献1に記載のものでは、電熱線が移動手摺の往路側の下方にしか配置されていない。このため、移動手摺の帰路側の構成(走行経路等)によっては、往路側のみ温めても、移動手摺全体に作用する走行抵抗を十分に低下させることができず、その後にマンコンベアを起動しても、移動手摺の走行が開始されない、或いは、移動手摺が踏段と同期しないことがあった。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、マンコンベアで使用される移動手摺を簡単に且つ短時間で温めることができ、外気温の低下によって移動手摺が硬化しても、マンコンベアの通常走行を早期に再開することができるマンコンベアの移動手摺用加温装置と、マンコンベアにおいて上記効果を実現可能なマンコンベア用手摺とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るマンコンベアの移動手摺用加温装置は、マンコンベアの乗客が把持するために設けられた無端状の移動手摺と、移動手摺の表面に、移動手摺の長手に沿って設けられた第1電極と、移動手摺の表面に、第1電極に接することなく移動手摺の長手に沿って設けられた第2電極と、移動手摺の内部に設けられ、第1電極及び第2電極を接続する電熱線と、第1電極及び第2電極間に電圧を印加することにより、電熱線を発熱させる加温制御装置と、を備えたものである。
【0010】
この発明に係るマンコンベア用手摺は、手摺本体の表面に、手摺本体の長手に沿って設けられた第1電極と、手摺本体の表面に、第1電極に接することなく手摺本体の長手に沿って設けられた第2電極と、手摺本体の内部に設けられ、第1電極及び第2電極を接続する電熱線と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、マンコンベアで使用される移動手摺を簡単に且つ短時間で温めることができ、外気温の低下によって移動手摺が硬化しても、マンコンベアの通常走行を早期に再開することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】マンコンベアの全体構成を示す側面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるマンコンベアの移動手摺用加温装置を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1における移動手摺の要部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0014】
実施の形態1.
図1はマンコンベアの全体構成を示す側面図である。以下においては、マンコンベアの一例として、上下階床間の移動の際に利用されるエスカレータの構成について具体的に説明し、動く歩道等の他の例については、その説明を省略する。
【0015】
図1において、1は上下階床間に架け渡されたエスカレータの主枠、2は下部乗降口、3は上部乗降口、4は踏段、5は踏段4の走行制御等、エスカレータ全体の制御を司る制御盤である。上記踏段4は、エスカレータの乗客が下部乗降口2及び上部乗降口3間を移動する際に乗るためのものである。この踏段4は、踏段チェーン6に多数連結されることによって全体として無端状に構成され、下部乗降口2及び上部乗降口3間を循環移動している。
また、7は踏段4に乗って移動する乗客が把持するための移動手摺、8は移動手摺7を、摩擦駆動方式等によって駆動する手摺駆動装置である。
【0016】
移動手摺7は、その要部がゴム材料からなり、無端状を呈している。具体的に、移動手摺7は、その上部側が、踏段4の側方に立設された欄干9の上端部に沿って移動し、乗客が乗る踏段4と同期するように駆動されている。また、移動手摺7は、下部乗降口2及び上部乗降口3において上下に反転され、下部側が、踏段4の側方に設けられたスカートガード内等に配置されている。なお、移動手摺7の上部側と両反転部とは、欄干9の縁部に設けられた案内レール(図示せず)によってその走行方向が案内されている。
【0017】
上記構成を有するエスカレータが、例えば、寒冷地の建物に据え付けられている場合、冬季になると、外気温の低下とともに移動手摺7が硬化してしまう恐れがある。このため、上記エスカレータには、上部機械室等に加温制御装置10が備えられており、上記移動手摺7にも特有の構成が備えられている。
【0018】
以下に、図2及び図3も参照して、上記加温装置10及び移動手摺7の具体的構成について説明する。なお、図2はこの発明の実施の形態1におけるマンコンベアの移動手摺用加温装置を示す構成図、図3はこの発明の実施の形態1における移動手摺の要部を示す斜視図である。
【0019】
図1乃至図3において、移動手摺7は、横(短手方向)断面が略C字状を呈しており、対向する一縁部11a及び他縁部11bの間に、その長手に渡って開口12が形成されている。そして、移動手摺7の一縁部11aには、移動手摺7の長手に沿って棒状の電極13aが設けられており、この電極13aが、移動手摺7の長手に渡って一縁部11aの外側表面から僅かに突出するように配置されている。
【0020】
また、移動手摺7の他縁部11b側も、一縁部11a側と同様の構成を有している。即ち、移動手摺7の他縁部11bには、移動手摺7の長手に沿って棒状の電極13bが設けられており、この電極13bが、移動手摺7の長手に渡って他縁部11bの外側表面から僅かに突出するように配置されている。
なお、電極13a及び13bは、例えば、導電ゴムから構成される。
【0021】
また、移動手摺7には、その内部に、多数の電熱線14が埋め込まれている。電熱線14は、それぞれの一端部が電極13aに、他端部が電極13bに接続されることにより、電極13a及び13b間に並列接続されている。そして、電熱線14は、例えば、所定の間隔(例えば、L=20cm)毎に移動手摺7の短手方向に沿って設けられ、移動手摺7の長手全体に渡って配置されている。
【0022】
加温制御装置10は、各電熱線14を発熱させて、移動手摺7の全体を温めるための機能を有している。即ち、加温制御装置10は、電極13a及び13b間に電圧を印加して、移動手摺7内に設けられている各電熱線14に電流を流すことにより、移動手摺7を温めるための熱を各電熱線14から発生させる。
【0023】
上記機能を有するため、加温制御装置10には、例えば、電源15、制御用の電源制御ユニット16、加温温度調整用の可変抵抗17、電極18a及び18bが備えられている。
上記電源制御ユニット16は、電源15のON/OFF機能や可変抵抗17の調節機能を有している。例えば、電源制御ユニット16は、外気温や時刻、移動手摺7の温度等の各条件或いは組み合わせ条件に基づき、電源15のON/OFF制御を実施する。
【0024】
また、一方の電極18aは電極13aに、他方の電極18bは電極13bに対向するように配置されている。即ち、電極18a及び18bが電極13a及び13bの各露出部分に接触することにより、電源15の電圧が各電熱線14に印加される。なお、電極18a及び18bは、例えば、欄干9や主枠1内等に配置される。
【0025】
上記構成を有する移動手摺用加温装置の使用により、移動手摺7全体を簡単に且つ短時間で温めることができるようになる。このため、例えば、外気温が低下することによって移動手摺7が硬化しても、移動手摺7全体の柔軟性を短時間で回復させることができ、マンコンベアの通常走行を早期に再開させることが可能となる。
【0026】
即ち、電熱線14を発熱させることによって、移動手摺7をその内部から直接温めることができるため、熱効率が極めて良く、移動手摺7を短時間で所定の温度まで上昇させることができる。また、電熱線14が移動手摺7の長手全体に渡って配置されているため、移動手摺7全体を同時に温めることができ、移動手摺7全体の柔軟性を同時に回復させることができる。したがって、加温後に移動手摺7の走行が開始されないといった従来の不具合を確実に解消することが可能となる。
【0027】
また、移動手摺7内の電熱線14が電極13a及び13b間に並列接続されているため、電熱線14に通電した際の発熱量を大きくできる。更に、電熱線14を移動手摺7の短手方向に配置して各電熱線14の長さを短くしていることからも、発熱量を大きくすることができる。したがって、移動手摺7を温めるために必要な時間を大幅に短縮させることができ、移動手摺7が硬化していても、マンコンベアの通常走行を早期に再開させることが可能となる。
【0028】
また、電極13aを移動手摺7の一縁部11aに、電極13bを移動手摺7の他縁部11bに沿って配置し、この電極13a及び13b間に電熱線14を接続しているため、移動手摺7の両縁部11a及び11bまでも隈なく温めることができる。
なお、電極13a及び13bは、互いに接触することなく移動手摺7の長手に沿って配置されていれば良く、上記構成に限定されるものではない。例えば、電極18a及び18bを案内レールに設け、電極13a及び13bを、横断面C字状を呈する移動手摺7の内側面から露出させるように構成しても良い。
【0029】
また、電極13a及び13bを導電ゴムで構成することにより、移動手摺7に必要な柔軟性を容易に確保することができ、電極13a及び13bの設置によって移動手摺7の走行が阻害されることもない。
【0030】
なお、上記構成の移動手摺7を製造する際には、先ず、図3に示す移動手摺7と同じ構成を有する長尺の手摺本体を製作する。そして、この手摺本体を所定の長さに切断してその両端部を接続することにより、無端状(環状)の移動手摺7を完成させる。
なお、電極13aが電極18aに、電極13bが電極18bに接触すれば、電熱線14を発熱させることができるため、移動手摺7の電極13a及び13bを必ずしも無端状に形成する必要はない。即ち、上記手摺本体の接続部には、電極13aの両端部間、電極13bの両端部間に隙間が生じていても良い。かかる場合、例えば、電極18a及び18bの長さを上記隙間よりも長くしておけば、上記効果と同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0031】
1 主枠、 2 下部乗降口、 3 上部乗降口、 4 踏段、 5 制御盤、
6 踏段チェーン、 7 移動手摺、 8 手摺駆動装置、 9 欄干、
10 加温制御装置、 11a 一縁部、 11b 他縁部、 12 開口、
13a 電極、 13b 電極、 14 電熱線、 15 電源、
16 電源制御ユニット、 17 可変抵抗、 18a 電極、 18b 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンコンベアの乗客が把持するために設けられた無端状の移動手摺と、
前記移動手摺の表面に、前記移動手摺の長手に沿って設けられた第1電極と、
前記移動手摺の表面に、前記第1電極に接することなく前記移動手摺の長手に沿って設けられた第2電極と、
前記移動手摺の内部に設けられ、前記第1電極及び前記第2電極を接続する電熱線と、
前記第1電極及び前記第2電極間に電圧を印加することにより、前記電熱線を発熱させる加温制御装置と、
を備えたことを特徴とするマンコンベアの移動手摺用加温装置。
【請求項2】
電熱線は、移動手摺の長手全体に渡って配置されるように、前記移動手摺の短手方向に沿って複数設けられ、それぞれが、第1電極及び第2電極間に並列接続されたことを特徴とする請求項1に記載のマンコンベアの移動手摺用加温装置。
【請求項3】
第1電極は、横断面C字状を呈する移動手摺の一縁部に設けられ、
第2電極は、前記移動手摺の他縁部に設けられた
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマンコンベアの移動手摺用加温装置。
【請求項4】
第1電極及び第2電極は、導電ゴムからなることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のマンコンベアの移動手摺用加温装置。
【請求項5】
手摺本体の表面に、前記手摺本体の長手に沿って設けられた第1電極と、
前記手摺本体の表面に、前記第1電極に接することなく前記手摺本体の長手に沿って設けられた第2電極と、
前記手摺本体の内部に設けられ、前記第1電極及び前記第2電極を接続する電熱線と、
を備えたことを特徴とするマンコンベア用手摺。
【請求項6】
電熱線は、手摺本体の長手に渡って配置されるように、前記手摺本体の短手方向に沿って複数設けられ、それぞれが、第1電極及び第2電極間に並列接続されたことを特徴とする請求項5に記載のマンコンベア用手摺。
【請求項7】
第1電極は、横断面C字状を呈する手摺本体の一縁部に設けられ、
第2電極は、前記手摺本体の他縁部に設けられた
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のマンコンベア用手摺。
【請求項8】
第1電極及び第2電極は、導電ゴムからなることを特徴とする請求項5から請求項7の何れかに記載のマンコンベア用手摺。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−195569(P2010−195569A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45203(P2009−45203)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】