説明

マンデル酸類の製造方法

【課題】高純度なマンデル酸類を廃棄物が少なく、回収率の高い、工業的に有利な方法で製造する技術を提供すること。
【解決手段】 以下の(1)〜(4)の工程を含む、マンデル酸類の製造方法。
(1) マンデロニトリル類を加水分解する工程。
(2) 工程(1)で得られたマンデル酸類を結晶化し、固液分離する工程。
(3) 工程(2)で固液分離されたマンデル酸類結晶を再結晶させる工程。
(4) 工程(3)で得られる母液を、工程(1)〜(3)のいずれか一つの工程に循環使用する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬原料、液晶材料や光学分割剤として有用なマンデル酸類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンデル酸類の製造方法としては、アルデヒド化合物とシアニドとの付加反応によりマンデロニトリル類を得、次いで、得られたマンデロニトリル類を酸加水分解する製造方法が知られている(特許文献1)。上記付加反応の際、化学的触媒を使用する方法(非特許文献1)、又は生物学的触媒を使用する方法(非特許文献2、非特許文献3)が知られている。また、酸加水分解後のマンデル酸類を採取する方法としては、有機溶媒によりマンデル酸類を抽出した後、該有機溶媒を濃縮、乾固する方法、有機溶媒と水との混合溶媒によりマンデル酸類を抽出した後、晶析する方法等が知られている(特許文献3、特許文献4、特許文献5)。しかし、採取過程において、マンデル酸類の二量体が生成し、マンデル酸類の化学純度を低下させることが問題であった(特許文献5)。さらには、マンデロニトリル類を加水分解してマンデル酸類を製造する場合、酸水溶液を大量に使用する必要があるが、この際、生成したマンデル酸類の着色や、後処理工程が煩雑になることが免れない上、該酸水溶液の廃棄処理は、環境汚染の問題を引き起こす原因となるため、工業的に有効な製造方法が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特開平10−59895号公報
【特許文献2】特開2001−348356号公報
【特許文献3】特開2001−342165号公報
【特許文献4】特開2003−206255号公報
【特許文献5】特開2003−226666号公報
【非特許文献1】Inoue, S. et al., J. Org. Chem., 55, 181-185(1990)
【非特許文献2】Effenberger, F. et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 33, 1555-1564(1994)
【非特許文献3】Effenberger, F. et al., Tetrahedron Lett., 31, 1249-1252(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、環境負荷が少なく、回収率の高い、高純度なマンデル酸類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の通りである。
以下の(1)〜(4)の工程を含む、マンデル酸類の製造方法。
(1) マンデロニトリル類を加水分解する工程。
(2) 工程(1)で得られたマンデル酸類を結晶化し、固液分離する工程。
(3) 工程(2)で固液分離されたマンデル酸類結晶を再結晶させる工程。
(4) 工程(3)で得られる母液を、工程(1)〜(3)のいずれか一つの工程に循環使用する工程。
;並びに、
以下の(1)〜(4)の工程を含む、マンデル酸類の製造方法。
(1) マンデロニトリル類を加水分解する工程。
(2) 工程(1)で得られたマンデル酸類を結晶化し、固液分離する工程。
(3) 工程(2)で固液分離されたマンデル酸類結晶を再結晶させる工程。
(4) 工程(2)で得られる母液を、工程(1)に循環使用する工程。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、環境負荷が少なく、回収率の高い、高純度なマンデル酸類の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本願の第1の発明について、工程順に詳細に説明する。
工程(1)では、マンデロニトリル類を加水分解する。本発明で使用されるマンデロニトリル類は、例えば、式(I)に示すアルデヒド類に青酸を付加することにより調製することができる。
【0008】
【化1】

【0009】
式IのAr基としては、例えばフェニル、ベンジル、ナフチル、ピリジル、フリル等が挙げられる。置換されたAr基の場合、置換基としては、例えば、(保護されていても良い)ヒドロキシ、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、アルキルチオ、ハロゲン、置換されたフェニル、フェノキシ、アミノまたはニトロが挙げられる。好ましくは、Ar基はアリール基、特に好ましくはフェニル基である。それらAr基は無置換、あるいはC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、(保護されていても良い)ヒドロキシ、アセトキシ、Cl、Br、フェニル、フェノキシまたはフルオロフェノキシによって置換されていてもよい。
【0010】
具体的には、ベンズアルデヒド、m−フェノキシベンズアルデヒド、p−アセトキシベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、m−クロロベンズアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、3,4−メチレンジオキシベンズアルデヒド、2,3−メチレンジオキシベンズアルデヒド、フルフラール、ピリジン−2−カルバルデヒド等の芳香族アルデヒドが挙げられる。好ましくは、ベンズアルデヒド、m−フェノキシベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、m−クロロベンズアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、3,4−メチレンジオキシベンズアルデヒド、2,3−メチレンジオキシベンズアルデヒドであり、特に好ましくは、ベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、m−クロロベンズアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒドが挙げられる。
【0011】
マンデロニトリル類の合成に際しては、化学的触媒又は生物学的触媒の存在下で立体選択的に付加反応を実施することが可能である。化学的触媒としては、環状ジペプチドが挙げられる。生物学的触媒としては、生物体由来の(S)−ヒドロキシニトリルリアーゼ、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ等を含む粗酵素、精製酵素、固定化酵素が挙げられる。またこれらの酵素は、これら酵素をコードする遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え微生物によって生産されたものでも良い。
【0012】
上記式(I)で示されるアルデヒドを原料として用い、青酸を付加させた場合、次式(II)で示されるマンデロニトリル類が得られる。
【0013】
【化2】

【0014】
上記式(II)で示されるマンデロニトリルとしては、例えば、マンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−フェニルアセトニトリル)、3−フェノキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3−フェノキシフェニル)アセトニトリル)、4−アセトキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3−アセトキシフェニル)アセトニトリル)、4−メチルマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(p−トリル)アセトニトリル)、2−クロロマンデロニトリル(2−(2−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、3−クロロマンデロニトリル(2−(3−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、4−クロロマンデロニトリル(2−(4−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、3−ニトロマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3−ニトロフェニル)アセトニトリル)、3,4−メチレンジオキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3,4−メチレンジオキシフェニル)アセトニトリル)、2,3−メチレンジオキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(2,3−メチレンジオキシフェニル)アセトニトリル)、2−(2−フリル)−2−ヒドロキシアセトニトリル、2−(2−ピリジル)−2−ヒドロキシアセトニトリル等の2−アリール−2−ヒドロキシアセトニトリル等が挙げられる。好ましくは、マンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−フェニルアセトニトリル)、3−フェノキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3−フェノキシフェニル)アセトニトリル)、4−メチルマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(p−トリル)アセトニトリル)、2−クロロマンデロニトリル(2−(2−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、3−クロロマンデロニトリル(2−(3−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、4−クロロマンデロニトリル(2−(4−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、3−ニトロマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3−ニトロフェニル)アセトニトリル)、3,4−メチレンジオキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(3,4−メチレンジオキシフェニル)アセトニトリル)、2,3−メチレンジオキシマンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−(2,3−メチレンジオキシフェニル)アセトニトリル)であり、特に好ましくは、マンデロニトリル(2−ヒドロキシ−2−フェニルアセトニトリル)、2−クロロマンデロニトリル(2−(2−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、3−クロロマンデロニトリル(2−(3−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)、4−クロロマンデロニトリル(2−(4−クロロフェニル)−2−ヒドロキシアセトニトリル)が挙げられる。
【0015】
なお、上記マンデロニトリル類はラセミ体、光学活性体、いずれでも構わない。光学活性マンデル酸類の製造に使用する場合、次いで実施する加水分解反応に際し、上記マンデロニトリル類は、60%ee以上であることが好ましく、より好ましくは85〜100%eeであり、特に好ましくは、90〜100%eeである。なお、eeはエナンチオマー過剰率(enantiomeric excess;ee)を表す。
【0016】
上記方法で得られたマンデロニトリル類を加水分解することによりマンデル酸類を得る。加水分解により生成するマンデル酸類は、次式(III)で示される化合物である。
【0017】
【化3】

【0018】
加水分解に使用するマンデロニトリル類は、抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、晶析または活性炭処理等の公知の方法によって精製し、加水分解反応に使用することができる。また、特に精製することなく、該反応液に鉱酸等を添加してマンデロニトリル類を安定化し、該反応液の溶媒を常圧又は減圧下で留去し、濃縮した後に、加水分解反応に使用することができる。なお、該反応液からの溶媒の留去は、マンデロニトリル類を含む濃縮液中の当該マンデロニトリル類の含有率が80重量%以上とすることが好ましく、90重量%以上とすることが特に好ましい。
【0019】
濃縮液中のマンデロニトリル類の加水分解は、鉱酸を用いて実施することが好ましい。ここで用いる鉱酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、過塩素酸等が挙げられ、好ましくは塩酸である。
鉱酸の使用量は、加水分解に供するマンデロニトリル類に対して0.5〜20当量使用することが好ましい。使用量は、0.9〜10当量とすることがより好ましく、1〜5当量とすることが特に好ましい。
【0020】
加水分解工程で用いる溶媒は、通常は水を用いるが、必要に応じて、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の極性溶媒、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等を用いることができる。これらの溶媒は単一で用いても組み合わせて用いても良い。
【0021】
加水分解工程における、マンデロニトリル類、鉱酸及び溶媒の添加方法は、反応効率向上の観点から、鉱酸中へマンデロニトリル類を添加した後、溶媒を添加する方法が好ましい。溶媒の添加方法としては、鉱酸及びマンデロニトリル類溶液に溶媒を添加しても良いし、溶媒中に鉱酸及びマンデロニトリル類溶液を添加しても良い。
溶媒の添加量は、マンデロニトリル類に対して重量比で0.5〜20倍とすることが好ましい。添加量は、1〜10倍とすることがより好ましく、1〜5倍とすることが特に好ましい。なお、このときの水の量として、鉱酸中の水は含まない。
鉱酸を多く使用すれば、必ずしも溶媒を添加する必要はないが、酸性廃液が増加することによる廃水負荷が大幅に増大する。また、副生物であるアンモニウム塩やマンデル酸類あるいはマンデルアミド類等の析出により、撹拌が困難となる場合があるため、鉱酸の使用量を低減できると同時に反応効率を向上できる点より、上記のように水を添加する方法が好ましい。
【0022】
鉱酸中のマンデロニトリル類の濃度は、特に限定されないが、1〜70重量%とすることが好ましい。5〜60重量%がより好ましく、10〜50重量%が特に好ましい。
【0023】
加水分解工程の反応温度は−5℃〜溶媒の沸点温度とすることが好ましく、10〜90℃の範囲とすることがより好ましい。この温度範囲内であると不純物を低減することができる。
また、加水分解工程中においては、マンデロニトリル類を鉱酸中へ添加する時の反応温度と、該反応液に溶媒を添加する時の反応温度は同じでも、異なっていても良い。例えば、酵素反応によりマンデロニトリル類を製造し、溶媒を留去したマンデロニトリル類を、鉱酸中へ添加する時の反応温度は−5℃〜溶媒の沸点温度とすることが好ましい。温度は、10〜40℃とすることが特に好ましい。該反応液に溶媒を添加する時の反応温度は10℃〜溶媒の沸点温度とすることが好ましく、30〜90℃とすることが特に好ましい。
【0024】
加水分解反応は、不活性ガス雰囲気下又は大気中でも良い。着色を防止する点から不活性ガス雰囲気下が好ましい。また、常圧下、加圧下又は減圧下、いずれの条件でも良い。不純物が低減し、工程が簡略化される点から常圧下とすることが好ましい。
【0025】
次に、工程(2)では、生成したマンデル酸類の結晶を析出させ、固液分離を行う。マンデル酸類結晶の析出方法としては、例えば、加水分解反応溶液を冷却する方法が挙げられる。
【0026】
加水分解反応溶液の冷却速度は、例えば、0.3〜30 ℃/時間とすることが好ましい。冷却速度は、0.4〜20℃/時間とすることがより好ましく、0.5〜10 ℃/時間とすることが特に好ましい。冷却以外の方法としては、無機塩を添加し塩析効果を利用することによる析出方法又は濃縮による析出方法が挙げられる。無機塩としては、塩析効果が期待できるものであれば特に限定されないが、例えば、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等である。これらの添加量は、マンデル酸類が析出する量であれば、特に限定はない。また、塩基を添加し、鉱酸との無機塩を生成させることによる塩析効果を利用することも可能である。濃縮の場合、加水分解反応液を濃縮する量としては、マンデル酸類が析出する量であれば特に限定されず、減圧下または常圧下で濃縮して良い。
【0027】
上記の方法により析出したマンデル酸類は、固液分離する前に、結晶が析出したまま放置又は攪拌する(以下、熟成工程という)ことが好ましい。この熟成工程により、加水分解工程で不純物として生成したマンデル酸類の二量体を低減することができる。マンデル酸類の二量体とは、マンデル酸類二分子からなり、各ヒドロキシル基とカルボキシル基の少なくとも一組が分子間でエステル結合を形成したものである。
【0028】
熟成工程は、不活性ガス雰囲気下、0〜90℃で、5分〜20時間、及び、攪拌又は放置することが好ましい。温度は、10〜70℃とすることがより好ましく、15〜60℃とすることが特に好ましい。
【0029】
次に、析出した結晶を固液分離により回収する。固液分離の方法としては、析出したマンデル酸類を分離して、マンデル酸類が回収できる方法であれば良い。例えば、加圧ろ過、自然ろ過、加熱ろ過又は遠心分離による固液分離方法が挙げられる。分離温度は、5℃〜熟成温度とすることが好ましい。この範囲内であるとマンデル酸類の二量体を減ずることができ、マンデル酸類の回収率が高い点から好ましい。分離温度は、5〜45℃とすることがより好ましく、10〜40℃とすることが特に好ましい。なお、分離温度とは、マンデル酸類を含むスラリー液の温度を意味する。
【0030】
分離操作は、不活性ガス雰囲気下又は大気中で良い。着色を防止する点から不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。
また、必要により、分離後のマンデル酸類を洗浄することもできる。洗浄に用いる溶媒は、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの極性溶媒、メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール溶媒、または、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤を用いることができる。これらの溶媒は単一で用いても混合して用いても良い。
【0031】
さらには、マンデル酸類に着色が生じた場合、再溶解させ活性炭処理を実施することも可能である。
活性炭処理に用いる溶媒は、マンデル酸類が溶解するものであれば特に限定されない。例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の極性溶媒、メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール溶媒または、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤を用いることができる。これらの溶媒は単一で用いても混合して用いても良い。
【0032】
活性炭処理する場合、マンデル酸類の濃度は、1〜80重量%で実施することが好ましい。この範囲内とすることにより生産効率が向上する。濃度は、5〜60重量%とすることがより好ましく、10〜50重量%とすることが特に好ましい。ここで、マンデル酸類の濃度は、溶媒に含まれるマンデル酸類の重量%を表し、マンデル酸類の重量は析出しているものと析出せずに溶解しているものを含む。活性炭の使用量は、マンデル酸類を含む溶液の重量に対して0.01〜10重量%とすることが好ましい。使用量は、0.05〜5重量%とすることが好ましく、0.1〜3重量%とすることが特に好ましい。
【0033】
活性炭の処理温度は、5℃〜溶媒の沸点温度とすることが好ましい。この範囲内とすることにより着色を優位に低減できる。処理温度は、10〜90℃がより好ましく、20〜80℃が特に好ましい。活性炭処理する場合の、pHの範囲は着色を減少できる範囲であれば良い。このpH調整は、酸性化合物あるいは塩基性化合物で調整することができる。
【0034】
活性炭処理でのマンデル酸類、活性炭、酸性化合物あるいは塩基性化合物及び溶媒の添加方法は特に制限されない。溶媒中にマンデル酸類、活性炭及び酸性化合物あるいは塩基性化合物を添加する方法が好ましい。
活性炭処理条件は、不活性ガス雰囲気下又は大気中でも良い。着色を防止する点から不活性ガス雰囲気下とすることが好ましく、窒素雰囲気下とすることが特に好ましい。
【0035】
活性炭処理した後の活性炭の分離方法は、活性炭とマンデル酸類が溶解した溶液を分離して該溶液を回収できる方法であれば特に制限されない。例えば、加圧ろ過、自然ろ過、加熱ろ過又は遠心分離による固液分離方法等が挙げられる。
【0036】
活性炭分離における分離温度は、活性炭及びマンデル酸類が溶解した溶液を含むスラリーの温度を意味する。分離温度はマンデル酸類が溶解している温度とすることが好ましい。分離温度は、5℃〜溶媒の沸点とすることがより好ましく、10〜90℃さらに好ましく、15〜80℃とすることが特に好ましい。活性炭分離後、マンデル酸類が溶解した溶液を回収する。必要に応じて、分離後の活性炭を1〜5回洗浄しても良い。
活性炭処理後のマンデル酸類を含む溶液は、再度、上述の方法に従い結晶を析出させ、固液分離を行う。
【0037】
次に、工程(3)において、固液分離したマンデル酸類結晶を再結晶させる。再結晶で用いる溶媒は、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の極性溶媒、メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール溶媒、または、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤を用いても良い。これらの溶媒は単一で用いても混合して用いても良い。
【0038】
再結晶母液のpHの範囲は、特に制限されない。必要に応じてpHを調整する場合のpHは、酸性であることが好ましい。pHは、3.5以下とすることがより好ましく、pH2.5以下とすることが特に好ましい。pHを調整する場合は、通常、酸または塩基を使用する。酸として、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、過塩素酸、クエン酸、酢酸、トルエンスルホン酸等が挙げられる。また、通常、用いる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、アンモニア、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0039】
再結晶するマンデル酸類溶液の濃度は、1〜80重量%とすることが好ましい。この範囲内であると、生産効率が向上する。濃度は、5〜60重量%とすることがより好ましく、10〜50重量%とすることが特に好ましい。ここで、重量%とは、溶媒に含まれるマンデル酸類を表し、重量は溶媒に析出及び溶解しているマンデル酸類の双方を含む。
【0040】
再結晶温度の最高温度は、20℃〜溶媒の沸点温度とすることが好ましい。この範囲内とすることによりマンデル酸類を高純度化すること及び生産効率が良い。最高温度は、30〜90℃とすることが特に好ましい。また、最低温度は溶媒の融点〜60℃とすることが好ましく、5〜50℃とすることが特に好ましい。
【0041】
なお、マンデル酸類を析出させるための冷却速度は、分離母液中に含有されるマンデル酸類の二量体が析出することを防止できることから、0.3〜30℃/時間で冷却することが好ましい。この冷却速度は、0.4〜20℃/時間とすることがより好ましく、0.5〜10℃/時間とすることが特に好ましい。
【0042】
また、必要に応じて、再結晶溶媒中からのマンデル酸類の析出量を調整する。析出するマンデル酸類の量を調整する手段としては、再結晶液を冷却する方法、一部を濃縮する方法、塩析効果を利用する方法等が挙げられる。これらの方法はいずれか一つの方法を実施しても良く、又は同時に実施しても良い。冷却による方法がより好ましい。
【0043】
再結晶操作は、不活性ガス雰囲気下又は大気中でも良い。着色を防止する点から不活性ガス雰囲気下とすることが好ましく、窒素雰囲気下とすることが特に好ましい。また、常圧下、加圧下又は減圧下、いずれの条件下でも良い。不純物が低減し、工程が簡略化される点から常圧下とすることがより好ましい。
再結晶後、工程(2)で説明した固液分離に準じてマンデル酸類を取得することができる。固液分離後、必要に応じて結晶を洗浄しても良い。洗浄操作に関しても、工程(2)に準じて実施することができる。
【0044】
次に、工程(4)において、工程(3)で得られる分離母液を、工程(1)〜(3)のいずれか一つの工程に循環使用する。この操作を実施することにより、分離母液に含まれるマンデル酸類が回収でき、さらには酸性廃液による廃水負荷を低減することができる。
分離母液とは、工程(3)において、再結晶操作に次ぐ、固液分離後の分離母液、及び洗浄操作による洗浄母液が含まれる。再結晶操作、固液分離、洗浄を複数回繰り返すこともでき、その再結晶溶媒も循環使用することができる。それらの母液は、何ら調整する必要はなく、工程(3)で再利用されるが、母液中に含まれるマンデル酸類の二量体を分解することができる点から、pHを調整することが好ましい。pHの範囲は、必要に応じてpH2.0〜14.0とすることが好ましい。pH6.0〜14.0とすることがより好ましく、pH10.0〜14.0とすることが特に好ましい。通常、pHを調整するためには塩基を使用する。塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、アンモニア、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0045】
例えば、上記分離母液は、工程(1)では、加水分解反応の際の溶媒として使用することができる。この場合、分離母液が水を含むものであれば、改めて水を添加する必要がないため、使用する溶媒を削減することができる。工程(2)では、固液分離後の結晶を洗浄するための溶媒として使用することができる。また、活性炭処理の際のマンデル酸類結晶を溶解させるための溶媒としても使用可能である。工程(3)では、工程(2)と同様に使用される。
【0046】
特に結晶洗浄の洗浄液として、水を洗浄液として用いると、マンデル酸類の方がマンデル酸類の二量体よりも再結晶母液に対する溶解度が大きいため、マンデル酸類が優位に溶出して、分離したマンデル酸類を損失する。しかし、上述の分離母液を使用することにより、洗浄液に溶出するマンデル酸類を低減するとともに、洗浄液に対してマンデル酸類の二量体が溶解し易くなる。よって、洗浄効率を向上させ、結果として高純度なマンデル酸類を製造することができる。
【0047】
次に、本願の第2の発明について説明する。
第2の発明は、工程(2)で得られる分離母液を循環使用する点で第1の発明と相違する。工程(1)から工程(3)における反応条件、操作条件等は、上述した第1の発明と同様に実施することができる。工程(4)において、循環使用の対象となる分離母液、使用方法等も上述と同様に実施することができる。
以上の製造方法により、マンデル酸類の回収率を向上させることができ、酸性廃液による廃水負荷を低減することが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、実施例にあるマンデル酸類の純度、収率、マンデル酸の二量体含有割合および光学純度は高速液体クロマトグラフィーによって決定した。
【0049】
<マンデル酸類の化学純度、収率及びマンデル酸類結晶中の二量体含有割合>
試料調製方法: 試料20mgをキャリヤー25mLに溶解
装置: カラムオーブン 日本分光社製 865−CO
UV 日本分光社製 870−UV
ポンプ 日本分光社製 880−PU
インテグレーター 島津製作所社製 C−R3A
カラム: ODS−2 GLサイエンス社製
キャリヤー: アセトニトリル:水=3/7(リン酸でpH3.0に調整)
カラム温度: 40℃
流速: 1mL/min
波長: 220nm
検出限界値: マンデル酸結晶中の二量体含有割合0.015%(面積百分率)(マンデル酸とその二量体の HPLC分析結果の吸収ピーク面積合計を100面積%とした場合)
【0050】
<マンデル酸類の光学純度>
試料調製方法: 試料20mgをキャリヤー25mLに溶解

装置: カラムオーブン 日本分光社製 865−CO

UV 日本分光社製 870−UV

ポンプ 日本分光社製 880−PU

インテグレーター 島津製作所社製 C−R3A

カラム: CHIRALCEL OJ−H(4.6mm×250mm)ダイセル化学工業社製

キャリヤー: Hexane/IPA/トリフルオロ酢酸=90/10/0.1

カラム温度: 35℃

流速: 1.0mL/min

波長: 220nm

検出限界値: 99.9%ee
【0051】

[実施例1]
(1)(S)−マンデル酸の調製
2Lフラスコ中に35%塩酸275g(HCl 2.64mol)を仕込み、この中に光学純度97%eeの(S)−マンデロニトリル222g(1.67mol)を添加した。その後、30℃で5時間撹拌した後、水600gを添加した。次いで、攪拌しながら80℃で2時間加水分解を行った。その後、減圧下、加水分解反応液を(S)−マンデル酸の濃度が30%になるまで濃縮した。次いで、30%水酸化ナトリウムで濃縮液をpH2.0に調整し、30℃まで冷却し(S)−マンデル酸を析出させた。析出した(S)−マンデル酸を遠心分離しながら水45gで洗浄した。次いで、遠心分離機に付着した結晶を回収した。得られた(S)−マンデル酸結晶238g(化学純度91.0%、収率85%、光学純度98.9%ee)のマンデル酸二量体含有割合は1.4%(面積百分率)であった。
【0052】
(2)再結晶母液の調製
1Lフラスコ中に実施例1の(1)で得られた(S)−マンデル酸結晶8.6g及び水18.3gを仕込んだ。これを60℃まで加温して(S)−マンデル酸結晶を溶解した。次いで、溶解液を60℃から冷却速度10℃/時間で30℃まで冷却し結晶を析出させた。析出した(S)−マンデル酸を遠心分離しながら水2gで洗浄した。次いで、遠心分離機に付着した結晶を回収し、減圧下で結晶を乾燥した。(S)−マンデル酸7.0g(化学純度99.4%、再結晶収率89%、光学純度99.8%ee)及び洗浄液を合わせた再結晶母液20gが得られた。得られた(S)−マンデル酸結晶のマンデル酸二量体含有割合は0.3%(面積百分率)であった。
【0053】
(3)再結晶母液の活性炭処理
1Lフラスコ中に実施例1の(1)で得られた(S)−マンデル酸結晶172.8g、水320g及び活性炭2gを仕込んだ。これを60℃で1時間撹拌した。この溶液から加熱ろ過によって活性炭を除去し、水48gで活性炭を洗浄した。ろ液と活性炭洗浄液をあわせた溶液を60℃から冷却速度10℃/時間で30℃まで冷却し結晶を析出させた。析出した(S)−マンデル酸結晶を遠心分離しながら水32gで洗浄した。次いで、遠心分離機に付着した結晶を回収し、減圧下で結晶を乾燥した。(S)−マンデル酸結晶136g(化学純度99.5%、再結晶収率86%、光学純度99.8%ee)及び洗浄液を合わせた再結晶母液398gが得られた。得られた(S)−マンデル酸結晶のマンデル酸二量体含有割合は0.3%(面積百分率)であった。
【0054】
[実施例2]
100mLフラスコ中に35%塩酸12.5g(HCl 0.120mol)を仕込んだ。この中に光学純度97%eeの(S)−マンデロニトリル10.1g(0.076mol)を添加して30℃で5時間撹拌した。実施例1の(3)で得られた再結晶母液27.3gを添加して80℃で2時間撹拌しながら加水分解した。減圧下、加水分解反応液を(S)−マンデル酸の濃度が30重量%になるまで濃縮した。30%水酸化ナトリウムで濃縮液をpH2.0に調整し、30℃まで冷却し結晶を析出させた。析出した(S)−マンデル酸結晶を遠心分離しながら水2gで洗浄した。次いで、遠心分離機に付着した結晶を回収した。得られた(S)−マンデル酸結晶11.2g(化学純度93.0%、収率90%、光学純度99.3%ee)のマンデル酸二量体含有割合は1.0%(面積百分率)であった。
【0055】
[実施例3]
洗浄に用いた水を実施例1の(3)で得た再結晶母液に変えた以外は、実施例2と同様の方法で行った。得られた(S)−マンデル酸結晶11.3g(化学純度94.0%、再結晶収率92%、光学純度99.4%ee)のマンデル酸二量体含有割合は0.8%(面積百分率)であった。
【0056】
[実施例4]
100mLフラスコ中に実施例1の(1)で得られた(S)−マンデル酸結晶10.8g、実施例1の(3)で得られた再結晶母液22.9gを仕込んだ。これを60℃まで加温して(S)−マンデル酸結晶を溶解した。次いで、60℃から冷却速度10℃/時間で30℃まで冷却し結晶を析出させた。析出した(S)−マンデル酸結晶を遠心分離しながら水2gで洗浄した。次いで、遠心分離機に付着した結晶を回収し、減圧下で結晶を乾燥した。(S)−マンデル酸結晶9.2g(化学純度99.6%、再結晶収率93%、光学純度99.8%ee)が得られた。結晶のマンデル酸二量体含有割合は0.1%(面積百分率)であった。
【0057】
[実施例5]
100mLフラスコ中に実施例1の(1)で得られた(S)−マンデル酸結晶10.8g、実施例1の(3)で得られた再結晶母液20g及び活性炭0.2gを仕込んだ。次いで、60℃で1時間撹拌した。この溶液から加熱ろ過によって活性炭を除去し、水3gで活性炭を洗浄した。ろ液と活性炭洗浄液を合わせた溶液を60℃から冷却速度10℃/時間で30℃まで冷却し結晶を析出させた。析出した(S)−マンデル酸を遠心分離しながら水2gで洗浄した。次いで、遠心分離機に付着した結晶を回収し、減圧下で結晶を乾燥した。(S)−マンデル酸結晶9.0g(化学純度99.7%、再結晶収率91%、光学純度99.9%ee)が得られた。結晶のマンデル酸二量体含有割合は0.1%(面積百分率)であった。
【0058】
[実施例6]
実施例1の(3)で遠心分離後の洗浄に用いた水を実施例1の(3)で得られた再結晶母液に変えた以外は実施例5と同様の方法で行った。(S)−マンデル酸9.2g(化学純度99.8%、再結晶収率93%、光学純度99.9%ee)が得られた。結晶のマンデル酸二量体の含量は0.1%であった。
【0059】
[実施例7]
100mLフラスコ中に35%塩酸25.0g(HCl 0.240mol)を仕込み、この中に光学純度97%eeの(S)−マンデロニトリル20.2g(0.152mol)を添加した。次いで、これを30℃で5時間撹拌した後、実施例1の(3)で得られた再結晶母液54.5gを添加した。これを攪拌しながら80℃で2時間加水分解した。この加水分解反応液を冷却して55℃で3時間(S)−マンデル酸結晶の一部を析出させながら撹拌した。さらに、これを撹拌しながら50℃で3時間熟成した。減圧下、(S)−マンデル酸の濃度が30重量%になるまで濃縮した。濃縮液を30%水酸化ナトリウムでpH2.0に調整し、30℃まで冷却し結晶を析出させた。析出した(S)−マンデル酸結晶を遠心分離しながら水4gで洗浄した。次いで、遠心分離機に付着した結晶を回収した。得られた(S)−マンデル酸結晶22.4g(化学純度96.0%、収率92%、光学純度99.5%ee)のマンデル酸二量体含有割合は0.08%(面積百分率)であった。
【0060】
[実施例8]
実施例1の(3)で得られた再結晶母液を30%水酸化ナトリウムでpH12.0に調整した。その後、室温で3時間静置した。実施例1の(3)で得られた再結晶母液を前記再結晶母液(pH12.0)54.5gに変えた以外は実施例7と同様の方法で行った。得られた(S)−マンデル酸結晶22.6g(化学純度96.1%、収率93%、光学純度99.5%ee)のマンデル酸二量体含有割合は0.07%(面積百分率)であった。
【0061】
固液分離した再結晶母液及び/又は晶析母液を循環利用しても高純度なマンデル酸類を製造することが可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(4)の工程を含む、マンデル酸類の製造方法。
(1) マンデロニトリル類を加水分解する工程。
(2) 工程(1)で得られたマンデル酸類を結晶化し、固液分離する工程。
(3) 工程(2)で固液分離されたマンデル酸類結晶を再結晶させる工程。
(4) 工程(3)で得られる母液を、工程(1)〜(3)のいずれか一つの工程に循環使用する工程。
【請求項2】
以下の(1)〜(4)の工程を含む、マンデル酸類の製造方法。
(1) マンデロニトリル類を加水分解する工程。
(2) 工程(1)で得られたマンデル酸類を結晶化し、固液分離する工程。
(3) 工程(2)で固液分離されたマンデル酸類結晶を再結晶させる工程。
(4) 工程(2)で得られる母液を、工程(1)に循環使用する工程。


【公開番号】特開2006−282546(P2006−282546A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102319(P2005−102319)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】