説明

ミキサ

【課題】ダイレクトコンバージョン方式や低IF方式では局部発振器信号の高調波成分によるノイズを低減させる。
【解決手段】位相差がそれぞれ120°異なる3相信号を局部発振信号として受信信号と乗算し、それぞれの復調波の同相信号をキャンセルすることで、局部発振信号の高調波成分のうち、第3高調波によるノイズ成分をキャンセルすることができるミキサを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル放送の画像受信機若しくは音声受信機に用いるミキサ関する発明である。より具体的には、通信信号を変調したり、受信した信号を同期検波する際にこれらの信号と局部発振信号を混合するミキサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、チューナの小型化にともない、トラッキングフィルタを持たないチューナが使用されている。このタイプのチューナは、局部発振器信号の高調波により妨害波を受信してしまうといった問題点を有している。具体的にはダイレクトコンバージョン方式の受信装置においては、受信周波数の3倍の周波数の信号も受信してしまい、所望波の受信に対するS/N比を劣化させてしまうことがある。
【0003】
この問題に対して、局部発振器信号の高調波に対する信号を相殺させる方法が提案されている(特許文献1)。このアプローチでは、局部発振器信号の第3高調波による妨害波を相殺しようとするとき、互いに位相が60度異なった局部発振器信号を用いて二つのミキサに掛け、その出力を加算する。通常、ダイレクトコンバージョン方式や低IF方式のチューナでは2相以上の出力信号が必要となるので、特許文献1の方法では、2相の出力信号を得るには四つのミキサが必要となる上に、局部発振器信号として0°、60°の位相の信号だけではなく、90°、150°の信号が必要となる。しかし、それらの信号を精度良く生成させることは容易ではない。
【0004】
一方、非特許文献1においては、互いに位相が45°ずつずれた局部発振器信号を用いて局部発振器信号の高調波に対する妨害波を相殺させる方法が提案されている。しかし、多くのミキサを必要とする上に、1:√2といった整数比ではないミキサのゲインの比率を精度良く実現する必要があり、高調波の相殺精度をあまり期待できない。
【0005】
さらに、局部発振器の第3高調波による妨害波を除去する方法として、3相の局部発振器信号を用いる方法(非特許文献2)があるが、この方法では局部発振器信号の第2高調波による妨害波が除去できないといった問題があった。
【特許文献1】USPAT.6766158
【非特許文献1】IEEE JSSC 36−12, pp.2003−2015, 2001
【非特許文献2】Yamaji, T.; Itakura, T.; Ito, R.; Ueno, T.; Okuni, H.;Balanced 3−phase analog signal processing for radio communicationsIEEE International Symposium on Circuits and Systems, 2006. ISCAS 2006. Proceedings. pp. 21−24, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
受信送信機器は、より小型化が求められ、またより高い信号帯域が使用されるという状況下では、ダイレクトコンバージョン方式や低IF方式が多く利用されてきている。しかし、上記のような従来技術では、第3高調波を相殺するために局部発振器信号に対して多くの相数を必要とするため、機器の小型化ができないという課題があった。
【0007】
そこで、本発明では、局部発振器の相数を抑えながら局部発振器信号の第3高調波に対する受信信号を相殺する機能を実現でき、ダイレクトコンバージョン方式や低IF方式の受信機に用いることができるミキサを実現することを目的とする。特に、局部発振器の相数とミキサの数はできるだけ少なくし、また、1:1以外のゲインなどの比率を必要としないような構成を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、上記目的を達成するために本発明は、
平衡信号が入力される信号入力端子と、
前記信号入力端子が入力端子に接続され、それぞれが信号出力端子とスイッチング信号入力端子を有するスイッチング部を3つ有するミキサであって、
それぞれのスイッチング部は、
前記スイッチング信号入力端子に入力されるスイッチング信号によって、
前記入力端子と前記信号出力端子を接続するか、
前記信号入力端子の反転出力を前記信号出力端子に接続するか、
前記信号入力端子と前記信号出力端子を接続しないか、
のいずれかの状態を選択するスイッチング部であるミキサを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のミキサは、3相の局部発振器信号を用いて入力信号を切換ながら出力することで位相が120度ずつ異なる出力信号を得ることができるので、局部発振信号の第3高調波成分によって復調される信号を相殺することができる。また、局部発振器信号を6相とすることで、相数が偶数となり、局部発振器信号に対しても平衡を保つようにミキサにおける信号処理を施すことにより局部発振器信号の第2高調波による妨害波を除去することができる。すなわち、局部発振器信号の第2高調波および第3高調波の成分が多く存在したとしても、良好なS/Nの信号を復調することができる。
【0010】
具体的な一例として、約2GHz近辺の携帯電話で使用される周波数帯が、テレビ放送で使用される約400MHzから700MHzの信号の周波数に対して、3倍の関係にある。したがって、テレビ放送帯域の信号を復調する際に本発明のミキサをチューナに利用することで、携帯電話帯域の信号が同時に復調され信号のS/Nが劣化するのを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施の形態1)
本発明のミキサの動作原理について説明する。
ミキサにおいて高周波信号である入力信号を3相の局部発振器信号で混合し、ベースバンド信号である3相の出力信号を得る場合を考える。入力信号をasin(ωst+φ)、局部発振器信号の角周波数をωLとし、ミキサ出力には局部発振器信号の第2高調波による変調成分が含まれないようにすると、局部発振器信号の第3高調波まで考慮したミキサ出力は(1)(2)(3)式のようになる。
【0012】
【数1】

ただし、k、hはそれぞれ変換ゲインである。
【0013】
ここで、ミキサ出力信号における局部発振器信号の基本波に対する成分は、3相において位相が120度ずつずれているのに対して、局部発振器信号の第3高調波に対する成分はすべて同相である。したがって、3相の信号の同相成分を除去することにより、局部発振器信号の第3高調波に対する信号成分を除去することができる。
【0014】
すなわち、局部発振器信号の第2高調波による変調成分が含まれないようにしながら3相の局部発振器信号により高周波信号に対して混合を行い、その結果として3相の信号を取り出すことで、前述の解決課題を解決できる。そのために、高周波信号を6相の局部発振器信号により混合を行なうことによって3相の出力信号を得るようにする。局部発振器信号を6相とすることで、相数が偶数となり、局部発振器信号に対しても平衡を保つようにミキサにおける信号処理を施すことにより局部発振器信号の第2高調波による妨害波を除去することができる。
【0015】
図1に上記原理を実現する本発明のミキサの構成を示す。本発明のミキサ1は、信号入力端子(RF+とRF−)と3つのスイッチング部(10、11、12)を含む。信号入力端子には差動信号が入力される。スイッチング部はそれぞれ2つの信号出力端子(OP1、ON1とOP2、ON2とOP3、ON3)を有する。スイッチング部にはそれぞれ2つの入力端子を有し、それぞれが信号入力端子と接続されている。
【0016】
スイッチング部は別にスイッチング信号(15、16、17)が入力され、このスイッチング信号によって入力された信号入力端子と信号出力端子の接続状態が切り替えられる。スイッチング信号が入力される端子はスイッチング信号入力端子である。スイッチング信号は、局部発振器の信号の位相が120度ずつ異なった信号である。ここでは、スイッチング信号15は位相が0°、スイッチング信号16は位相が240°、スイッチング信号17は位相が120°である信号であるとする。それぞれの信号は、180°ずれた信号も付与される。スイッチング信号は差動信号として入力されるためである。
【0017】
従って、スイッチング信号15には、0°だけではなく、180°の信号も与えられる。同様にスイッチング信号16には420°の位相の信号が付与され、スイッチング信号17には300°の信号が付与される。なお、位相が420°の信号とは、位相が60°の信号と同じである。結局、スイッチング信号は、0°、60°、120°、180°、240°、300°の6つの位相の信号からなる。
【0018】
3つのスイッチング部は同じ構成なので、スイッチング部10についてさらに説明を加える。スイッチングアップ10は、入力された差動信号を同時に切り替えるスイッチである。切り替える状態は、差動信号を端子21と端子23に接続する、端子22と端子24に接続する、どちらの端子にも接続しないという3つの状態を有する。端子21と端子24は信号出力端子OP1に接続され、端子22と端子23はON1に接続されている。
【0019】
すなわち、入力された差動信号が端子21と端子23に接続された時は、信号出力端子OP1にはRF+が出力され、ON1にはRF−が出力される。また、差動信号が端子22と端子24に接続されたときは、OP1にはRF−が出力され、ON1にはRF+が出力される。また、差動信号がどの端子とも接続されなければ、OP1とON1の間の出力はゼロとなる。
【0020】
スイッチング信号15の位相が0°から60°の間は、OP1にRF+が出力され、ON1にはRF−が出力される。また、スイッチング信号15の位相が180°から240°まではOP1にはRF−が出力されON1にはRF+が出力される。
【0021】
スイッチング部11と12は、スイッチング信号が120度ずつ異なるので、スイッチング部10と同じ動作を位相120°分、すなわち、2/3周期、4/3周期遅れて行う。
【0022】
図2には、より具体的な回路構成で本実施の形態のミキサ2を示す。入力信号はRF+とRF−に接続される。入力信号はそれぞれトランジスタM1(以後、トランジスタは単に「M1」等と表す。)とM2のゲートに接続されている。M1およびM2のソースは共に接続され共通の電流源I1を介して接地される。また、M1とM2のドレインはそれぞれ電流源I2およびI3を介して電源電圧Vsupに接続される。従って、M1、M2、I1、I2、I3で差動増幅器が構成され、入力信号はこの差動増幅器で受けられる。
【0023】
LO0、LO60、LO120、LO180、LO240、LO300にはそれぞれ局部発振器信号の一つと位相が0°、60°、120°、180°、240°、300°異なる局部発振器信号が入力される。これが図1のスイッチング信号の入力に相当する。また、これらのスイッチング信号を受けるスイッチング部が図1の場合同様3つある。
【0024】
LO0とLO180が入力されるスイッチング部はM3、M4、M9、M10によって構成される。また、LO120とLO300が入力されるスイッチング部はM7、M8、M13、M14によって構成される。また、LO240とLO60が入力されるスイッチング部はM5、M6、M11、M12によって構成される。
【0025】
今LO0とLO180が入力されるスイッチング部に注目すると、M3とM10のドレインはOP1に接続され、M4とM9のドレインはON1に接続される。さらに、M3とM4のドレインはそれぞれ抵抗R1およびR2を介して電源電圧Vsupに接続される。
【0026】
スイッチング信号LO0は、M3とM4のゲートに入力され、LO180はM9とM10のゲートに入力される。
【0027】
M3とM9のソースはM1のドレインであるノードP1に接続され、M4とM10のソースはM2のドレインであるノードP2に接続されている。
【0028】
以下同様にLO120とLO300が入力されるスイッチング部に注目すると、M7とM14のドレインはOP3に接続され、M8とM13のドレインはON3に接続される。さらに、M7とM8のドレインはそれぞれ抵抗R5およびR6を介して電源電圧Vsupに接続される。
【0029】
スイッチング信号LO120は、M7とM8のゲートに入力され、LO300はM13とM14のゲートに入力される。
【0030】
M7とM13のソースはM1のドレインであるノードP1に接続され、M8とM14のソースはM2のドレインであるノードP2に接続されている。
【0031】
またLO240とLO60が入力されるスイッチング部に注目すると、M6とM13のドレインはOP2に接続され、M5とM12のドレインはON2に接続される。さらに、M5とM6のドレインはそれぞれ抵抗R3およびR4を介して電源電圧Vsupに接続される。
【0032】
スイッチング信号LO240は、M13とM12のゲートに入力され、LO60はM5とM6のゲートに入力される。
【0033】
M5とM11のソースはM1のドレインであるノードP1に接続され、M6とM12のソースはM2のドレインであるノードP2に接続されている。
【0034】
トランジスタM1、M2および定電流源I1、I2、I3はトランスコンダクタンス・アンプ(電圧を入力とし、電流を出力とするアンプ)を形成し、高周波信号である入力信号電圧を電流信号に変換している。定電流源I1、I2、I3に流れる電流を素子名称で代用すると、(4)式の関係が成り立つように設定している。
I1>I2+I3 ・・・・(4)
ただし、ここで、I2=I3である。
【0035】
定電流源I2およびI3は、混合におけるスイッチング素子に流れる電流の直流成分を低減させるためのものであり、スイッチングの際に発生する1/fノイズの低減を目的としたものである。定電流源I2およびI3は抵抗であっても良いし、定電流源I2およびI3はなくても良い。
【0036】
以上のように接続された回路の動作について説明する。まず、それぞれのスイッチング信号はNチャンネルFETのゲートに接続されているので、スイッチング信号が正弦波であるとすると、あるスイッチング信号がXの値より大きい時には、他のスイッチング信号は全てX以下の値になっているといった値Xが存在する。そして、それは位相が60°進む間この関係が保持される。この位相
の範囲である角度を導通角と呼ぶ。具体的にはスイッチング信号LO0がX以上の値を有するのは位相角度で60°の間であり、この間は他のスイッチング信号の値はこれより小さい。すなわち、この位相角度60°の間はLO0がゲートに接続されているトランジスタM3とM4だけがON状態となっている。すると、M3のドレインとM4のドレインにはRF+とRF−の反転された電圧が出力される。一方、LO180が入力されたときはM9とM10がON状態となる。M9にはM4のドレインに流れる電流がながれ、M10にはM3に流れる電流が流れるためM10とM9のドレインにはRF−とRF+の反転された電圧が出力される。これは図1のスイッチング部10の動作と同じである。
【0037】
LO120とLO300が入力されるスイッチング部もLO240とLO60が入力されるスイッチング部も同様に動作する。
【0038】
以上を言い換えると以下のようになる。ミキサに入力された高周波の電流信号に対して、ノードP1から出力される分はトランジスタM3、M5、M7、M9、M11、M13によってスイッチングされ、六つの出力信号端OP1、ON1、OP2、ON2、OP3、ON3に振り分けられる。同様に、ノードP2から出力される分はトランジスタM4、M6、M8、M10、M12、M14によってスイッチングされ、六つの出力信号端OP1、ON1、OP2、ON2、OP3、ON3に振り分けられる。電流の振り分けは局部発振器信号LO0、LO60、LO120、LO180、LO240、LO300の大小比較によって行なわれる。すなわち、局部発振器信号の位相に応じて、位相が60度変化するごとにスイッチングされるトランジスタが変わり、電流の振り分けが行なわれる。
【0039】
このとき、局部発振器信号の第2高調波による妨害波は3相の出力信号に対して同相信号となって現れるので、差動信号として扱うことにより除去することができる。たとえば、出力信号端OP1、ON1を差動信号出力として考えた場合、ノードP1からの信号は出力信号端OP1に導通角60度だけ振り分けられ、出力信号端ON1にも導通角60度だけ振り分けられる。そして互いの導通角が180度ずれているため、結果として局部発振器信号の第2高調波による変調成分は出力信号端OP1とON1に等しく現れることになる。180度ずれた信号の第2高調波成分は位相も大きさも揃った同じ信号になるからである。
【0040】
図3に本発明のミキサを用いたチューナ4の一構成例を示す。
図3のチューナは、LNA110、第1ミキサ115、第1局部発振器170、ローパスフィルターフィルタ121、同相信号除去増幅器133、BB信号ポリフェーズ・フィルタ142、第2ミキサ150、第2局部発振器175、第2IFフィルタ161、バッファ165を含む。ここで第1ミキサ115が図1のミキサ1である。
【0041】
このチューナ4は、RF信号Srfを一旦3相のベースバンド信号に落としてからIF信号に周波数変換を行うダウンアップ・コンバージョン方式である。
【0042】
第1ミキサ115は、LNA110からの入力信号を6相の第1局部発信器170からの3相信号Slo1と混合し、ベースバンド帯域の信号Sd3とする。このSd3は波形が同一で位相が120°ずつ異なる信号である。この信号にはRF信号Srfの第3高調波からの成分が同相信号として存在する。
【0043】
第1ミキサ115の出力Sd3をローパスフィルタ121を通し、その他の妨害波などをできるだけ除去する。ローパスフィルタ121の出力Sd3fは同相信号除去増幅器133に入力される。この時点で同相信号として重畳していたRF信号の3倍の周波数成分は相殺される。
【0044】
同相信号除去増幅器133の出力Sdfは3相のベースバンド帯域の信号である。この信号をBB信号ポリフェーズ・フィルタ142を用いて隣接波を除去し、信号Sdffとする。その後、第2ミキサ150で単相のIF信号Sif1に周波数変換し、通常のIFフィルタ161で余分な成分を除去し、信号Sif1fとした後、出力アンプ165から出力Sotとする。
【0045】
また、図4に3相信号Slo1を出力する第1局部発振器170の一構成例を示す。図4は3相信号を出力するリング発振器である。このリング発振器は、インバータV1乃至V6と、コンデンサC1乃至C6と、定電流源Icと、出力端子OUT1乃至6を含む。インバータV1、V2、V3はそれぞれの出力が次のインバータの入力となるように接続されており、インバータV3の出力はインバータV1の入力に接続されている。すなわち、インバータV1乃至V3はリング状に接続されている。なお、ここで、インバータは反転増幅器と同意味として使う。
【0046】
インバータV1の出力は、コンデンサC1を介してインバータV4の入力に接続されており、インバータV1の入力は、コンデンサC2を介してインバータV4の出力に接続されている。
同様にインバータV2の出力は、コンデンサC3を介してインバータV5の入力に接続されており、インバータV2の入力は、コンデンサC4を介してインバータV5の出力に接続されている。
【0047】
また、インバータV3の出力は、コンデンサC5を介してインバータV6の入力に接続されており、インバータV3の入力は、コンデンサC6を介してインバータV6の出力に接続されている。つまり、第1の増幅器列のインバータV1は第2の増幅器列のインバータV4と対応している。同様にインバータV2とV5、およびインバータV3とV6も対応している。
【0048】
インバータV1乃至V6は駆動電源Vccで駆動されており、接地側には定電流源Icが接続されている。出力端子OUT1乃至6はインバータV1乃至V6の出力端に接続されている。このように接続されたインバータは以下のように動作する。
【0049】
まず、インバータV1、V2、V3に注目すると、インバータV1の入力が最初にゼロであったとすると、遅延時間t後に出力が1になる。この出力はインバータV2の入力となり、やはり遅延時間t後にインバータV2はゼロの出力となる。同様にこの出力はインバータV3の入力となり、遅延時間t後にインバータV3は1を出力する。インバータV3の出力はインバータV1の入力となり、以下同様の動作を繰り返す。
【0050】
すなわち、インバータV1の出力は時間3t毎に変化し、周期は6tである。インバータV2およびV3の出力も同様である。しかし、インバータV1から見ると、インバータV3の出力は2t分だけ遅れており、インバータV2の出力は4tだけ遅れている。周期が6tであるので、2tは位相で120度に対応し、4tは240度に対応する。
【0051】
このように、インバータV1、V2、V3の出力はOUT1の位相をゼロ度とすると、OUT2は240度、OUT3は120度だけ位相がずれた信号である。この意味でOUT1をP0、OUT2をP240、OUT3をP120と表す。
【0052】
V4、V5、V6のインバータはそれぞれ対応する反転増幅器同士の出力を、位相差が180度となるように容量結合させている。このようにすることで、二つのリング発振器の位相差を確実に180度とし、結果として位相差が60度ずつ異なる6相の発振信号を得ることができる。
【0053】
本発明第1の実施の形態においては、増幅素子であるトランジスタM1、M2および、スイッチング素子であるトランジスタM3〜M14にFETを用いていたが、図5に示すようにバイポーラトランジスタを用いてもよい。図5では、図1のトランジスタM1乃至M14のゲートをベースに、ソースをエミッタに、ドレインをコレクタになるようにバイポーラトランジスタQ1乃至Q14で置き換えたミキサ3である。
【0054】
また、増幅素子にはバイポーラトランジスタを使用し、スイッチング素子にFETを使用するようにしてもよいし、増幅素子にFETを使用し、スイッチング素子にバイポーラトランジスタを用いるようにしてもよい。
【0055】
(実施の形態2)
図6は本発明第2の実施の形態であるミキサ4の回路図である。本発明第1の実施の形態と原理は同じであるが、ミキサの構造がフォールデッド構造になっている点が異なる。本発明第1の実施の形態においては、トランジスタM3〜M14がNチャネルであったのに対して、本発明第2の実施の形態においては、トランジスタM3〜M14がPチャネルである点が大きな相違点である。定電流源I2、I3により電流の直流成分の向きが反転している。そのためには、定電流源の電流値に対して次の(5)式の条件を満たす必要がある。
I1<I2+I3 ・・・・(5)
ただし、I2=I3である。
【0056】
ミキサをフォールデッド構造にすることの利点は、電源電圧を低く設定することが可能であることである。ミキサのトランスコンダクタンス・アンプ部とスイッチングおよび負荷部を縦積みにしなくても済むために、低電圧動作が可能になる。フォールデッド構造のさらなる利点は、トランスコンダクタンス・アンプ部にNチャネルのトランジスタを用い、スイッチング部にPチャネルのトランジスタを用いることができる点である。トランジスタの増幅性能としてはNチャネルの方が有利であるのに対して、1/fノイズの発生の観点からはPチャネルの方が有利である。フォールデッド構造にすることにより、増幅性能を落とすことなく1/fノイズを小さくすることができるので、特にダイレクトコンバージョン方式のチューナに用いる際に有利となる。
【0057】
本発明第2の実施の形態においては、増幅素子であるトランジスタM1、M2および、スイッチング素子であるトランジスタM3〜M14にFETを用いていたが、増幅素子およびスイッチング素子にバイポーラトランジスタを用いてもよい。また、増幅素子にはバイポーラトランジスタを使用し、スイッチング素子にFETを使用するようにしてもよいし、増幅素子にFETを使用し、スイッチング素子にバイポーラトランジスタを用いるようにしてもよい。
【0058】
(実施の形態3)
図7は本発明第3の実施の形態であるミキサ5の回路図である。本発明第1の実施の形態と原理は同じであるが、ミキサの構造がスイッチング・ミキサとなっている点が異なる。出力端OP1,ON1、OP2、ON2、OP3、ON3に対する負荷としては、同相モードに対する直流インピーダンスが十分に高くなるようにする。本発明第1の実施の形態や第2の実施の形態においては、スイッチング素子に直流電流が重畳して流れているが、本発明第3の実施の形態においてはスイッチング素子に流れる電流に直流成分が含まれない。
【0059】
ミキサ構造としてスイッチング・ミキサにすることの利点は、1/fノイズを大幅に低減することができることである。しかし、局部発振器信号のレベルを相当に高くする必要があることや、大信号に対する歪が発生することを考慮する必要がある。
【0060】
本発明第3の実施の形態においては、増幅素子であるトランジスタM1、M2にFETを用いていたが、増幅素子にバイポーラトランジスタを用いてもよい。バイポーラトランジスタは信号のスイッチング動作をさせるのに信号に直流電流を重畳させる必要があるので、その場合でもスイッチング素子であるトランジスタM3〜M14はFETを使用する。
【0061】
(実施の形態4)
本発明第4の実施の形態であるミキサ6の回路図を図8に示す。このミキサは送信機に用いるミキサであり、ベースバンド信号を局部発振器信号により変調し、高周波信号を生成する。ベースバンド信号は平衡な3相信号であり、局部発振器信号は6相の信号を平衡な3相信号として用いている。
【0062】
3つの平衡なベースバンド信号をそれぞれ1つづつのスイッチング部が受け持つ。例としてBP1とBN1が入力端子であるスイッチング部20について接続関係を説明する。BP1とBN1はトランジスタM1およびM2のゲートに接続される。トランジスタM1とM2はソースが共通に接続され定電流源I1を介して接地される。トランジスタM1とM2のドレインには、それぞれソースを共通に接続した2つのトランジスタが接続されている。
【0063】
すなわち、トランジスタM1のドレインにはトランジスタM3とM4のソースが接続されており、またトランジスタM2のドレインにはトランジスタM5とM6のソースが接続されている。トランジスタM3、M4、M5、M6のドレインは出力端子OPとONに接続され、また抵抗R1とR2を介して電源電圧と接続されている。
【0064】
そして6相局部発振器の位相ゼロ度の信号端子は、トランジスタM3、M5のゲートに接続され、位相180度の信号端子はトランジスタM4、M6のゲートに接続されている。また、トランジスタM3、M6のドレインは出力端子OPに接続され、トランジスタM4、M5のドレインは出力端子ONに接続される。出力端子OPとONはそれぞれR1とR2を介して電源電圧に接続されている。
【0065】
他の2つのスイッチング部もこれに準じており、M1、M2、M3、M4、M5、M6のトランジスタは、それぞれ、M7、M8、M9、M10、M11、M12と、M13、M14、M15、M16、M17、M18、に対応する。
【0066】
ベースバンド信号の各相の信号は局部発振器信号の平衡な一つの相によりそれぞれのスイッチング部で変調され、それらの出力がすべて加えあわされている。各相においては、ダブル・バランスト・ミキサにより変調が行われているので、出力信号である高周波信号には局部発振器信号の第2高調波成分は含まれない。局部発振器信号の第3高調波成分に関しては、それがベースバンド信号により変調されたものが出力信号である各相の高周波信号に含まれている。しかし、3相の出力がすべて加算されたところで局部発振器信号の第3高調波信号は相殺される。局部発振器信号の各相の第3高調波成分は位相がすべて同じであることと、ベースバンド信号の3相の信号の総和はゼロであることによる。
【0067】
送信機の構成例を図9に示す。本実施の形態のミキサ6は、この図ではミキサ186である。ベースバンド信号は2相のデジタル信号(PCM信号)180として与えられるものとする。2相のデジタル信号であるベースバンド信号は3相2相変換器が行うデジタル信号処理で3相のデジタル信号に変換される。そして、3相のうちの2相がDAC(デジタル−アナログ変換器)182によりアナログ信号に変換される。アナログ信号に変換された2相分の信号を加算して−1を乗じた信号を生成し、それを残る1相の信号191とする。DACを三つ用いないのは、回路規模の増大を抑えるためである。その後、ミキサ186を経て第2、第3高調波信号を含まないRF信号としてアンプ187から送信される。
【0068】
本発明第4の実施の形態においては、増幅素子であるトランジスタM1、M2、M7、M8、M13、M14および、スイッチング素子であるトランジスタM3〜M6、M9〜M12、M15〜M18にFETを用いていたが、増幅素子およびスイッチング素子にバイポーラトランジスタを用いてもよい。また、増幅素子にはバイポーラトランジスタを使用し、スイッチング素子にFETを使用するようにしてもよいし、増幅素子にFETを使用し、スイッチング素子にバイポーラトランジスタを用いるようにしてもよい。

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のチューナは無線信号を受信する受信機に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のミキサの構成を示す図。
【図2】本発明のミキサを実現する具体的な回路構成を示す図。
【図3】本発明のミキサを用いたチューナの構成を示す図。
【図4】本発明のミキサに入力される局部発振器の構成を示す図。
【図5】図2のトランジスタをバイポーラタイプに置き換えた場合の構成を示す図。
【図6】本発明のミキサをPチャンネル型FETで構成した場合を示す図。
【図7】本発明のミキサにおいて負荷抵抗を省略した場合の構成を示す図。
【図8】本発明の送信用ミキサの回路構成を示す図。
【図9】図8のミキサを用いた送信機の構成を示す図。
【符号の説明】
【0071】
1乃至6 ミキサ
10乃至12 スイッチング部
15乃至17 スイッチング信号
400 チューナ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
平衡信号が入力される信号入力端子と、
前記信号入力端子が入力端子に接続され、それぞれが信号出力端子とスイッチング信号入力端子を有するスイッチング部を3つ有するミキサであって、
それぞれのスイッチング部は、
前記スイッチング信号入力端子に入力されるスイッチング信号によって、
前記入力端子と前記信号出力端子を接続するか、
前記信号入力端子の反転出力を前記信号出力端子に接続するか、
前記信号入力端子と前記信号出力端子を接続しないか、
のいずれかの状態を選択するスイッチング部であるミキサ。
【請求項2】
平衡信号が入力される信号入力端子と、
第1、第2および第3のスイッチング部を有するミキサであって、
前記信号入力端子は
ソース同士が連結され、かつ定電流源を介して接地され、ドレインは定電流源を介して定電圧源に接続された第1および第2の入力トランジスタのゲートに接続され、
前記第1、第2および第3のスイッチング部はそれぞれ4つのトランジスタと2つの抵抗と2つの信号出力端子を有し、
第1のトランジスタは、
ソースが前記第1の入力トランジスタのドレインに接続され、
ドレインが第1の信号出力端子と第1の抵抗を介して電圧源に接続され、
ゲートが第1のスイッチング信号端子に接続され、
第2のトランジスタは、
ソースが前記第2の入力トランジスタのドレインに接続され、
ドレインが第2の信号出力端子と第2の抵抗を介して電圧源に接続され、
ゲートが第1のスイッチング信号端子に接続され、
第3のトランジスタは、
ソースが前記第1の入力トランジスタのドレインに接続され、
ドレインが前記第2の信号出力端子に接続され、
ゲートが前記第2のスイッチング信号端子に接続され、
第4のトランジスタは、
ソースが前記第2の入力トランジスタのドレインに接続され、
ドレインが前記第1の信号出力端子に接続され、
ゲートが前記第2のスイッチング信号端子に接続されたミキサ。
【請求項3】
前記3つのスイッチング部を構成する前記4つのトランジスタはPチャンネル型FETである請求項2に記載されたミキサ。
【請求項4】
平衡信号が入力される信号入力端子と、
第1、第2および第3のスイッチング部を有するミキサであって、
前記信号入力端子は
ソース同士が連結され、かつ定電流源を介して接地され、それぞれのドレインは第1および第2の抵抗を解して定電圧源に接続された第1および第2の入力トランジスタのゲートに接続され、
前記第1、第2および第3のスイッチング部はそれぞれ4つのトランジスタと2つの抵抗と2つの信号出力端子を有し、
第1のトランジスタは、
ソースが前記第1の入力トランジスタのドレインに接続され、
ドレインが第1の信号出力端子に接続され、
ゲートが第1のスイッチング信号端子に接続され、
第2のトランジスタは、
ソースが前記第2の入力トランジスタのドレインに接続され、
ドレインが第2の信号出力端子に接続され、
ゲートが第1のスイッチング信号端子に接続され、
第3のトランジスタは、
ソースが前記第1の入力トランジスタのドレインに接続され、
ドレインが前記第2の信号出力端子に接続され、
ゲートが前記第2のスイッチング信号端子に接続され、
第4のトランジスタは、
ソースが前記第2の入力トランジスタのドレインに接続され、
ドレインが前記第1の信号出力端子に接続され、
ゲートが前記第2のスイッチング信号端子に接続されたミキサ。
【請求項5】
平衡信号が入力される信号入力端子と、スイッチング信号が入力される第1および第2のスイッチング信号端子をそれぞれ有する第1、第2および第3のスイッチング部と、
前記第1、第2および第3のスイッチング部の出力が接続され、
抵抗を介して電源電圧に接続された、
平衡信号を出力する第1および第2の信号出力端子を有するミキサであって、
前記それぞれのスイッチング部は6つのトランジスタを有し、
前記信号入力端子は
ソース同士が連結され、かつ定電流源を介して接地された、第1および第2の入力トランジスタのゲートに接続され、
前記第1のトランジスタのドレインはソース同士が連結された第3および第4のトランジスタのソースに接続され、
前記第2のトランジスタのドレインはソース同士が連結された第5および第6のトランジスタのソースに接続され、
前記第3および第6のトランジスタのドレインは前記第1の信号出力端子に接続され、
前記第4および第5のトランジスタのドレインは前記第2の信号出力端子に接続され、
前記第3および第5のトランジスタのゲートは前記第1のスイッチング信号端子に接続され、
前記第4および第6のトランジスタのゲートは前記第2のスイッチング信号端子に接続されたミキサ。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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