説明

ミシンの糸通し装置

【課題】三本以上の縫い針に糸通しフックを適正に導く。
【解決手段】 糸通しフック20を保持する糸通し軸11と、糸通しフックの前後動作を付与する糸通し動作入力機構300と、糸通し時に縫い針を挟んで縫い糸を保持する糸保持部材50と、糸通し軸をX軸方向に移動可能に支持する第一の支持機構100と、Y軸方向に移動可能に支持する第二の支持機構200と、移動操作部401への入力操作により糸通し軸を各縫い針の配置に対応する軌跡で移動させる位置決め機構400とを備え、位置決め機構は、移動操作部の入力操作により糸通し軸にX軸方向に移動させる第一のカム機構420と、Y軸方向に移動させる第二のカム機構430とを有し、第一及び第二のカム機構は協働して糸通し軸を各縫い針の配置に対応する位置に順次移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の縫いを行うミシンの糸通し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
縫い針の目穴の高さが異なる二本針のミシンに糸通しを行う従来の糸通し装置は、針棒に併設されると共に下端部に糸通しフックを備える糸通し軸と、針棒と平行な支軸により回動可能にミシンフレームに支持されると共に糸通し軸を上下動可能に支持する揺動台と、糸通し軸に下方への移動動作を入力する糸通しレバーと、糸通し時の糸通しフックの高さを決定する糸通しガイドとを備えている(例えば、特許文献1参照)。
上記糸通し軸は、揺動台に対して上下動及び回転動作可能に支持されている。
糸通しフックは、糸通し軸の下端部において当該糸通し軸を中心とする円周方向に沿って配設され、糸通し軸が一方に回転することで縫い針の目穴に挿通されてその先にある縫い糸の端部を引っかけ、糸通し軸が他方に回転することで引っかけた縫い糸を目穴に引き込んで糸押しを実現する。
糸通しレバーには斜め方向にカム溝が形成され、糸通し軸にはカム溝に係合する従節ピンが設けられている。そして、糸通し軸には下降移動の途中で、糸通しガイドの当接面に当接するガイドピンが設けられている。このため、糸通し軸は、糸通しレバーが下方に押圧操作されることで共に下降移動し、当該下降移動の途中で糸通し軸のガイドピンが糸通しガイドの当接面に当接する。これにより、糸通し軸は下降移動が規制された状態となり、さらに糸通しレバーを下方に操作すると、カム溝に対して相対的に従節ピンが下降移動し、糸通しレバーに対して糸通し軸が回転して糸通しフックが前進移動を行うこととなる。その際、糸通しフックはいずれかの縫い針の目穴に挿通されて糸通しが行われる。
ところで、二本の縫い針は配置が異なり、各縫い針の目穴は高さも異なっている。上記糸通し装置では、揺動台の揺動により糸通し軸の位置を変えることで各縫い針の位置に糸通しフックを通過させることを可能としている。そして、糸通しガイドに高さの異なる二つの当接面を設け、揺動台の揺動による糸通し軸の位置変更により各当接面にガイドピンを当接させることで各縫い針の目穴の高さの差に対応している。
つまり、揺動台を所定角度に合わせて糸通しレバーを下方に押圧すると、糸通し軸が糸通しレバーと共に下降し、そのガイドピンが一方の当接面に当接し、従節ピンとカム溝の作用で糸通し軸が回転して一方の縫い針の目穴に糸通しフックが挿通され、糸通しが行われる。そして、揺動台を別の所定角度に合わせて糸通しレバーを下方に押圧すると、糸通し軸の配置が切り替わり、糸通しレバーの操作による糸通し軸の下降の際にそのガイドピンがもう一方の当接面に当接し、糸通し軸が回転して他方の縫い針の目穴に糸通しフックが挿通され、糸通しが行われる。
【特許文献1】特開平10−137481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ミシンはその縫いの種類に応じて使用される縫い針の本数は二本では足りず、より多くの縫い針が必要な場合がある。さらに、最近は、複数種類の縫いを一台のミシンで実現するものも登場し、例えば、オーバーロックとカバーステッチの縫いの両方を一台で実現可能なミシンにあっては縫い針が5本も設けられている。そして、このように3本以上の縫い針を有するミシンにあっては、平面視での各縫い針の配置が一列に並ぶような単純な配置となることは少なく、上記従来のミシンのように揺動台の揺動による糸通し軸の位置調節では糸通しフックを各縫い針に導くことは困難であった。
【0004】
本発明は、ミシンが少なくとも三本以上の縫い針を有する場合に、各縫い針に糸通しフックを適正に導くことをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、平面視で一列とならない配置で設けられた少なくとも三本以上の縫い針に糸通しを行うミシンの糸通し装置であって、前進により縫い針の目穴に侵入すると共に後退により捕捉した縫い糸を前記目穴に挿通させる糸通しフックを保持する糸通し軸と、前記糸通し軸を介して前記糸通しフックに糸挿入動作を付与する糸通し動作入力機構と、前記縫い針を挟んで前記糸通しフックの反対側となる配置で縫い糸を保持する糸保持部材と、前記糸通し軸を前記各縫い針に垂直な平面における第一の方向に移動可能に支持する第一の支持機構と、前記糸通し軸を前記各縫い針に垂直な平面における第二の方向に移動可能に支持する第二の支持機構と、前記各縫い針への位置切替操作を順次入力する移動操作部への入力操作により前記糸通し軸を前記各縫い針の配置に対応する軌跡で移動させる位置決め機構とを備え、前記位置決め機構は、前記移動操作部と、当該移動操作部の入力操作により前記糸通し軸に第一の方向に沿った移動動作を付与する第一のカム機構と、前記移動操作部の入力操作により前記糸通し軸に第二の方向に沿った移動動作を付与する第二のカム機構とを有し、前記第一及び第二のカム機構は、前記移動操作部への入力操作により、協働して前記糸通し軸を前記各縫い針の配置に対応する位置に順次移動させることを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記糸保持部を前記糸通し軸と同じ枠体に装備し、これらを共に移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、第一の支持機構と第二の支持機構とにより糸通し軸を縫い針に垂直な平面における第一及び第二の方向に移動可能に支持するので、前記平面における任意の位置に糸通し軸を移動させることができる。そして、位置決め機構は、第一及び第二の方向に糸通し軸を移動させる二つのカム機構を備えるので、これらカム機構の協働により前記平面における各縫い針に対応する位置に順番に糸通し軸を位置決めすることができる。つまり、縫い針が三本以上であってその平面視での配置が一直線上に並ぶような単純な配置とはならない場合であっても順番にその対応位置に糸通し軸を位置決めすることができ、かかる三本以上の縫い針に対して的確な糸通しを行うことが可能となる。
なお、「各縫い針の配置に対応する位置」とは、当該各位置に糸通し軸を位置決めした状態で糸通しフックを前進させると各縫い針の目穴に糸通しフックを挿通させる可能な位置をいう。
また、縫い針に垂直な平面における第一の方向と第二の方向とは、いずれも縫い針に垂直な平面には平行であるが、互いには平行とはならない方向であることが必須である。
【0008】
請求項2記載の発明では、糸保持部を糸通し軸と同じ枠体で移動するので、糸保持部も糸通し軸と同様に各縫い針に適正に位置決めすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(ミシンの糸通し装置の全体構成)
本発明の実施の形態であるミシンの糸通し装置10を図1〜図14に基づいて説明する。図1は糸通し装置10の斜視図、図2は正面図、図3は一部の構成を除いた正面図、図4は一部の構成を除いた平面図である。
糸通し装置10が搭載されるミシンは、オーバーロックとカバーステッチの縫いの両方を一台で実現可能なミシンであって五本の縫い針1〜5を備え、オーバーロック縫いに使用される二本の縫い針1,2が平面視で一列に並んで配置され、カバーステッチ縫いに使用される三本の縫い針3,4,5が平面視で一列に並んで配置される。そして、縫い針1,2と縫い針3,4,5とはその並び方向は平行だが、並び方向に直交する方向にオフセットして配置されている。また、各縫い針1〜5は一つの針棒6によって保持されている。
なお、以下の説明において、針棒6に平行な方向をZ軸方向、針棒6に垂直な方向であって縫い針1,2又は3,4,5の並び方向をX軸方向(第一の方向)、針棒6に垂直な方向であってX軸方向にも垂直な方向をY軸方向(第二の方向)とする。
【0010】
糸通し装置10は、ミシンの面部に搭載され、針棒6に隣接して配置される。
糸通し装置10は、前進により縫い針1〜5の目穴に侵入すると共に後退により捕捉した縫い糸を目穴に挿通させる糸通しフック20を保持する糸通し軸11と、糸通し軸11を介して糸通しフック20の前後移動動作を付与する糸通し動作入力機構300と、縫い針1〜5を挟んで糸通しフック20の反対側となる配置で縫い糸を保持する糸保持部材50と、糸保持部材50を縫い針1〜5を挟んで糸通しフック20の反対側となる配置である糸通し位置と縫い針1〜5から離間した待機位置との間で移動可能に支持する糸保持部材支持機構60と、糸通し軸11をX軸方向に移動可能に支持する第一の支持機構100と、糸通し軸11をY軸方向に移動可能に支持する第二の支持機構200と、移動操作部としての移動操作ダイヤル401への入力操作により糸通し軸11を各縫い針1〜5の配置に対応する軌跡で移動させる位置決め機構400と、各構成を支持するメインフレーム90とを備えている。
【0011】
(糸通し軸と糸通しフック)
図5は糸通し軸11の下端部の拡大斜視図である。
糸通し軸11は、図1乃至図2に示すように丸棒状であって針棒6の近傍で当該針棒6と平行にZ軸方向に沿って配設されている。
糸通し軸11の下端部にはフック保持アーム21を介して糸通しフック20が装備されている。フック保持アーム21は、糸通し軸11を中心とする円の半径方向であってなお且つ下方に延出されている。
糸通しフック20は、フック保持アーム21の先端部に装備され、糸通し軸11を中心とする円の接線方向に向かって延出装備されている。そして、糸通しフック20は、糸通し軸11を中心とした円周上において接線方向を向いて配設されていることから、糸通し軸11の正回転によりその先端部を前に向けて前進し、逆回転により後退する。
さらに、糸通しフック20は、その先端部に鈎状の返しが形成されており、前進時にその先端部からいずれかの縫い針1〜5の目穴に挿入されると共にその先端部の返しにより縫い糸を捕捉し、後退時に捕捉した縫い糸を目穴に引き込んで糸通しを実行する。
【0012】
フック保持アーム21の先端部であって、糸通しフック20の両側には、その平板面を糸通しフック20と糸通し軸11の双方にほぼ平行に向けた一対の案内板22,23が設けられている。かかる案内板22,23は、互いに先端部に向かって広がる形状に湾曲すると共に相互の間隔が通常の縫い針の太さよりも若干広く設定されている。かかる案内板22,23により、前進移動時にいずれかの縫い針1〜5の目穴を正しく糸通しフック20に導くことを可能としている。
さらに、各案内板22,23には、糸通しフック20の延出方向に沿って、糸通しフック20よりも若干低い位置に縫い糸案内用の切り欠きが形成されており、前進移動時に縫い糸を適正な高さに導いて糸通しフック20に捕捉させることを可能としている。
【0013】
(メインフレーム)
メインフレーム90は、図1及び図4に示すように、板金加工により形成された構造体であり、図示しないミシンフレームに固定装備されている。かかるメインフレーム90は、ほぼ平面状の背面板91と折曲により三つの側壁部を有する正面枠体92とを固定連結して構成されている。
背面板91はその平板面がX−Z平面に沿うようにミシンフレームに固定支持され、その背面側において、位置決め機構400の主要な構成を保持している。
正面枠体92は、背面板91の正面側に密接するX−Z平面に沿った背面側壁部93と当該背面側壁部のX軸方向の両端部から直角に折曲していずれもY−Z平面に向けられて互いに対向した二つの左右側壁部94,95とから構成されている。これら対向する左右側壁部94,95の内のミシン面部側(以下、左側とする。また、これとは逆側を以下において右側とする)となる左側壁部94は、右側壁部95に比してY軸方向幅が非常に小さく設定されている。
また、X−Z平面に沿った背面側壁部93は、背面板91によりもX軸方向幅が狭く設定されており、背面板91は、背面側壁部93に対して左方に大きく張り出している。
そして、正面枠体92の内側となる領域には、第二の支持機構200が配置され、さらにその内側には第一の支持機構100が配置されている。
【0014】
(第二の支持機構)
第二の支持機構200は、図4に示すように、板金加工により形成された構造体であり、メインフレーム90の正面枠体92に対してY軸方向に移動可能に支持された第二枠体201と、当該第二枠体201を正面枠体92に対してY軸方向に移動可能に連結するガイド軸202とを備えている。
【0015】
第二枠体201は、正面枠体92の背面側壁部93に正対すると共にX−Z平面に沿った背面側壁部203と、当該背面側壁部203の右端部から直角に折曲して形成され、正面枠体92の右側壁部95に正対すると共にY−Z平面に沿った右側壁部204とから構成されている。
ガイド軸202は、右側壁部204の上端部と下端部のそれぞれにおいて立設された円柱状の突起であり、正面枠体92の右側壁部95の対応する位置には各ガイド軸202が挿通されるY軸方向に沿った長穴95aが形成されている。各長穴95aは各ガイド軸202の外径にほぼ等しい幅で形成され、各ガイド軸202はその先端部にCリング205が取り付けられて、長穴95aからの脱落が防止されている。なお、右側壁部204の下端部にはY軸方向に並んで二本のガイド軸202が設けられている。
第二枠体201は、各ガイド軸202が長穴95aに沿って滑動することでY軸方向に移動することを可能としている。つまり、第二の支持機構200は、第二枠体201が支持する全ての構成をY軸方向に移動可能としている。
さらに、第二枠体201の背面側壁部203の背面側壁部93との正対面には当該背面側壁部93側に向かってブラケット状の動作伝達アーム206がY軸方向に沿って立設されている。かかる動作伝達アーム206は、メインフレーム90に設けられた貫通穴90aを通じて背面板91の背面側まで延びており、その先端部は後述する位置決め機構400と連結されている。
つまり、第二枠体201はかかる動作伝達アーム206からY軸方向に沿って移動力が入力される。
【0016】
(第一の支持機構)
第一の支持機構100は、図4に示すように、板金加工により形成された構造体であり、第二の支持機構200の第二枠体201に対してX軸方向に移動可能に支持された第一枠体101と、当該第一枠体101を第二枠体201に対してX軸方向に移動可能に連結するガイド軸102とを備えている。
【0017】
第一枠体101は、第二枠体201の背面側壁部203に正対すると共にX−Z平面に沿った背面側壁部103と、当該背面側壁部103の両端部から直角に折曲して形成されて互いに対向する二つの左右側壁部104,105と、右側壁部105の一端部から折曲して形成されてX−Z平面に沿った正面側壁部106とから構成されている。
【0018】
背面側壁部103の正面側には、図3,4に示すように上下に並んで二つの支持ブラケット107が設けられている。各支持ブラケット107にはZ軸方向に沿った同心位置に糸通し軸11を挿通する挿通穴が形成されており、第一枠体101はこれらの挿通穴に糸通し軸11を挿通させることで当該糸通し軸11を上下方向に移動可能に支持している。
【0019】
また、背面側壁部103の背面側には、その上端部と下端部のそれぞれにおいてガイド軸102が立設されている。かかるガイド軸102は円柱状の突起であり、第二枠体の背面側壁部203の対応する位置には各ガイド軸102が挿通されるX軸方向に沿った長穴203aが形成されている。各長穴203aは各ガイド軸102の外径にほぼ等しい幅で形成され、各ガイド軸102はその先端部にCリング108が取り付けられて、長穴203aからの脱落が防止されている。なお、背面側壁103の下端部にはX軸方向に並んで二本のガイド軸102が設けられている。
第一枠体101は、各ガイド軸102が長穴203aに沿って滑動することでX軸方向に移動することを可能としている。つまり、第一の支持機構100は、第二枠体201に対して第一枠体101が支持する全ての構成をX軸方向に移動可能としている。従って、第一の支持機構100と第二の支持機構200との協働により、メインフレーム90に対して、第一枠体101が支持する全ての構成をX軸方向にもY軸方向にも任意に移動可能としている。
【0020】
左側壁部104の左側面上には、図4に示すように、正面から見て略コ字状となる動力伝達ブラケット109がX軸方向に沿って立設されている。かかる動作伝達ブラケット109は、その先端部は後述する位置決め機構400と連結されている。
つまり、第一枠体101はかかる動作伝達ブラケット109からX軸方向に沿って移動力が入力される。
【0021】
正面側壁部106は、図1,2に示すように、糸保持部材支持機構60の移動体61の待機位置と糸通し位置と間の移動をガイドするガイド溝106a,106bが形成されている。各ガイド溝106a,106bは、右下に向かう方向に平行に形成されている。
【0022】
(位置決め機構:全体構成)
位置決め機構400について図4,6,7,8,9に基づいて説明する。図6は糸通し装置の図1とは異なる方向から見た斜視図、図7は一部省略した糸通し装置の背面図、図8は移動操作ダイヤル401の段階切り替え部410を右側から見た側面図、図9は各カム421,431を展開して段階切り替え位置を示した説明図である。
位置決め機構400は、各構成が主にメインフレーム90の背面板91の背面側に支持されている。
位置決め機構400は、各縫い針1〜5への糸通し軸11の位置切替操作を順次入力する移動操作ダイヤル401と、各縫い針1〜5ごとの段階的な切り替え操作を行うために移動操作ダイヤル401の回転動作を間欠的に区切る段階切り替え部410と、移動操作ダイヤル401の入力操作により糸通し軸11にX軸方向に沿った移動動作を付与する第一のカム機構420と、移動操作ダイヤル401の入力操作により糸通し軸11にY軸方向に沿った移動動作を付与する第二のカム機構430とを備えている。
【0023】
(位置決め機構:移動操作ダイヤルと段階切り替え部)
移動操作ダイヤル401は、円形であり、その中心位置で第一のカム機構420の第一のカム421を固定軸支する第一の回転支軸422の一端部に固定連結されている。つまり、移動操作ダイヤル401を回転操作することにより第一のカム421への回転操作を入力することが可能となっている。
また、第一の回転支軸422の他端部には段階切り替え部410の回転体411が装備されている。すなわち、段階切り替え部410は、図8に示すように、第一の回転支軸422に固定支持され、各縫い針1〜5に個別に対応する係止凹部412〜416を外周に有する回転体411と、各係止凹部412〜416に嵌合して回転体411の回転を規制する板バネ417とを有している。
板バネ417は先端部に係合突起が形成されており、当該係合突起が回転体411を押圧するように付勢させた状態で背面板91に取付られている。このため移動操作ダイヤル401を回転させると、外周に設けられた各係止凹部412〜416に順番に係合突起が侵入し、そのたびに回転を規制する。つまり、回転操作が間欠的に行われる。なお、各係止凹部412〜416間での回転操作量が各縫い針1〜5間での糸通し軸11の移動に要する操作量となるように各係合凹部412〜416の角度間隔は設定されている。
【0024】
(位置決め機構:第一のカム機構)
第一のカム機構420は、背面板91の背面側においてX軸方向を向いた状態で回転可能に支持された第一の回転支軸422と、第一の回転支軸422と供回りするように支持された溝カムである第一のカム421(図4では図示略)と、第一のカム421の外周に形成されたカム溝421aに係合するカム従節である突起423aを備える揺動アーム423とを有している。
第一のカム421は、円筒状であって、その外周面には略螺旋状のカム溝421aが形成されている。図7はカム溝421aにおける一端部に従節突起423aが位置する状態を示しており、当該位置で糸通し軸11に支持された糸通しフック20が縫い針1に糸通し可能な配置となっている。
揺動アーム423は、その他端部に設けられた係合ピン423bを介して、第一枠体101に設けられた動力伝達ブラケット109に連結されている。動力伝達ブラケット109には、図4に示すように、Y軸方向に沿って長穴109aが形成されており、当該長穴109aに揺動アーム423の係合ピン423bが挿入されている。
そして、第一のカム421が左方から見て時計方向回りに回転すると、揺動アーム423の従節突起423aはX軸方向(右方向)に移動力が付与される。これにより、揺動アーム423の他端部は左方に移動を生じ、動力伝達ブラケット109を介して第一枠体101が左方向に移動する。また、第一のカム421が逆方向に回転すると第一枠体101は右方向に移動を生じる。
なお、動力伝達ブラケット109の長穴109aは、揺動アーム423の他端部の回動時に生じるY軸方向の変位を許容すると共に、後述する第二のカム機構430による第二枠体201のY軸方向の移動に伴う第一枠体101のY軸方向に移動を許容するためのものである。
【0025】
(位置決め機構:第二のカム機構)
第二のカム機構430は、揺動アーム423の揺動と共にX軸方向に沿って移動を行う直動カムである第二のカム431と、背面板91の背面側においてX軸方向を向いた状態で回転可能に支持された第二の回転支軸432と、回動支軸432に設けられて第二のカム431の直動動作を回転動作に変換して第二の回転支軸432に伝達する従節突起433と、第二の回転支軸432の回転により前述した第二枠体201に動作伝達アーム206を介してY軸方向の移動動作を付与する略L字状のリンク部材434とを有している。
【0026】
第二のカム431は、内部を中空とした円柱の外周面の一部を切り欠いた形状であって、その中心に第二の回転支軸432が挿通された状態で当該第二の回転支軸432によりX軸方向に沿って滑動可能に支持されている。
また、第二のカム431の外周面には外方に突出した係合突起431aが設けられており、前述した揺動アーム423の一端部側の長手方向に沿って形成された長穴423cに挿入されている。これにより、第一のカム421の回転により揺動アーム423が揺動を行うと第二のカム431はX軸方向に沿って移動を行うようになっている。なお、図7に示す符号435は、X軸方向に沿った長穴435aが形成された第二のカム431の回り止めである。長穴435aに係合突起431aが挿通されることで当該係合突起431aのY軸方向移動を規制し、第二のカム431の回転を規制する。
また、第二のカム431は、その外周面にX軸方向に沿った長穴431bが形成されており、当該長穴431bに従節突起433の先端部が挿入されている。この長穴431bは、その中間あたりで一部周方向に変形を生じている区間があり、第二のカム431が第二の回転支軸432に沿って滑動し、変形区間に従節突起433がさしかかると、当該従節突起433が周方向に沿って移動することにより第二の回転支軸432を回転させることを可能としている。
【0027】
リンク部材434は、第二の回転支軸432に軸支され、当該第二の回転支軸432と共に回動を行う。また、リンク部材434はおおむねZ軸方向に向けた状態で配設されており、その回動端部は第二枠体201から延出された動力伝達アーム206に連結されている。従って、第二のカム431の直動により第二の回転支軸432及びリンク部材434が回動すると動力伝達アーム206にはY軸方向に沿った移動力が付与され、第二枠体201及び第一枠体101はY軸方向に移動される。
【0028】
(位置決め機構:動作説明)
次に、移動操作ダイヤル401による五段階の切り替えにより各カム421,431がその従節に対して付与する移動状態を図9に基づいて説明する。
(1)係合凹部412に板バネ417の係合突起が嵌合する位置に移動操作ダイヤル401が合わせられた状態を第一状態とする。このとき、突起423aは第一カム421のカム溝421aの一端側である図9(A)の1番目の位置にあり、第一枠体101は最も右側に位置した状態にある。また、従節突起433は第二のカム431の長穴431bの一端部である図9(B)の1番目の位置にあり、第二枠体201は最も背面側に位置している。第一及び第二枠体101,201のこれらの配置により糸通し軸11は糸通しフック20が縫い針1に糸通しを行う位置となっている。
(2)係合凹部413に板バネ417の係合突起が嵌合する位置に移動操作ダイヤル401が合わせられた状態を第二状態とする。このとき、突起423aは第一カム421のカム溝421aの図9(A)の2番目の位置にあり、第一枠体101は左方に移動を生じる。また、従節突起433は第二のカム431の長穴431bの図9(B)の2番目の位置にあり、第二枠体201は(1)の状態から移動を生じない。このときの第一枠体101の移動距離は縫い針1と縫い針2のX軸方向の間隔に一致し、第一及び第二枠体101,201のこれらの配置により糸通し軸11は糸通しフック20が縫い針2に糸通しを行う位置となる。
(3)係合凹部414に板バネ417の係合突起が嵌合する位置に移動操作ダイヤル401が合わせられた状態を第三状態とする。このとき、突起423aは第一カム421のカム溝421aの図9(A)の3番目の位置にあり、第一枠体101は左方に移動を生じる。また、従節突起433は第二のカム431の長穴431bの図9(B)の3番目の位置にあり、第二枠体201は正面側に移動を生じる。このときの第一枠体101の移動距離は縫い針2と縫い針3のX軸方向の間隔に一致し、第二枠体201の移動距離は縫い針2と縫い針3のY軸方向の間隔に一致する。従って、第一及び第二枠体101,201のこれらの配置により糸通し軸11は糸通しフック20が縫い針3に糸通しを行う位置となる。
(4)係合凹部415に板バネ417の係合突起が嵌合する位置に移動操作ダイヤル401が合わせられた状態を第四状態とする。このとき、突起423aは第一カム421のカム溝421aの図9(A)の4番目の位置にあり、第一枠体101は左方に移動を生じる。また、従節突起433は第二のカム431の長穴431bの図9(B)の4番目の位置にあり、第二枠体201は(3)の状態から移動を生じない。このときの第一枠体101の移動距離は縫い針3と縫い針4のX軸方向の間隔に一致し、第一及び第二枠体101,201のこれらの配置により糸通し軸11は糸通しフック20が縫い針4に糸通しを行う位置となる。
(5)係合凹部416に板バネ417の係合突起が嵌合する位置に移動操作ダイヤル401が合わせられた状態を第五状態とする。このとき、突起423aは第一カム421のカム溝421aの図9(A)の5番目の位置にあり、第一枠体101は左方に移動を生じる。また、従節突起433は第二のカム431の長穴431bの図9(B)の5番目の位置にあり、第二枠体201は(3)の状態から移動を生じない。このときの第一枠体101の移動距離は縫い針4と縫い針5のX軸方向の間隔に一致し、第一及び第二枠体101,201のこれらの配置により糸通し軸11は糸通しフック20が縫い針5に糸通しを行う位置となる。
上記(1)〜(5)に示すように、移動操作ダイヤル401を第一状態から第五状態に順番に位置切替操作を行うことにより、縫い針1〜5の各位置に糸通しフック20が糸通し可能な位置に糸通し軸11が位置決めされ、それぞれに糸通しを行うことが可能となる。
【0029】
(糸通し動作入力機構:全体構成)
図2,3,10〜14に基づいて糸通し動作入力機構300について説明する。図10は糸通し動作入力機構300の斜視図、図11は糸通しカム機構340の要部説明図である。
糸通し動作入力機構300は、糸通し軸11を下方に移動させて糸通し動作を入力する糸通し操作入力手段としての操作レバー310と、操作レバー310からの下方への入力操作により糸通し軸11と共に下降動作を行う昇降枠体としての糸通しスライドガイド320と、各縫い針1〜5の目穴の高さに応じた複数の高さで糸通し軸11の下降を阻止する高さ調整機構330と、糸通し軸11に対して糸通しスライドガイド320のみが下方に移動すると糸通しフック20が前進する方向に糸通し軸11を回転させる糸通しカム機構340とを備えている。
【0030】
(糸通し動作入力機構:糸通しスライドガイド)
糸通しスライドガイド320は、上下に長尺であって断面弧状の背板321と、その上下両端部に一体的に設けられ、糸通し軸11を挿通する貫通穴が形成された板状の支持部322,323と、背板321からX軸方向に沿って左方に延出された操作レバー310との係合軸324とを備えている。
上記支持部322,323は、X−Y平面に沿った板状であっていずれも糸通し軸11を挿通させる貫通穴が形成されており、かかる貫通穴を介して糸通しスライドガイド320が糸通し軸11に対して当該糸通し軸11に沿って摺動可能に連結されている。そして、上側の支持部322と後述する糸通し軸に設けられた第一のガイドピン331との間には圧縮コイルバネ325が介挿されており、糸通し軸11の上端部には支持部322の上面に当接するストッパ11aが設けられているので、糸通し軸11と糸通しスライドガイド320の相互間は、糸通し軸11が下方、糸通しスライドガイド320が上方に押圧された状態となるように常時付勢されている。
【0031】
(糸通し動作入力機構:操作レバー)
操作レバー310は、図3,10に示すように、メインフレーム90の左側壁部94の左側面上に設けられ、当該左側壁部94の左側面の上下位置において左方に突出した二つのガイド軸96を挿通する上下方向の長穴311を備え、各ガイド軸96の先端部に設けられたCリング97により脱落しないように保持されている。操作レバー310は、かかる構造によりにメインフレーム90に対して上下動可能に支持されている。
そして、操作レバー310は、上下方向に沿った長尺状の本体部312と、本体部312の中間付近で当該本体部312に直交する方向(Y軸方向)に延出されたアーム部313と、アーム部313の先端部で直角に屈曲形成されてX軸方向に沿って延出された糸保持部材操作部314とを備えている。
本体部312には前述した長穴311が貫通形成されている。また、本体部312の下端部は直角に屈曲形成されてX軸方向に沿って延出された入力部315が形成され、ここから下方への押圧操作が入力される。さらに、本体部312はメインフレーム90との間で引っ張りバネ316により連結されており、常時上方への引っ張り力が付勢されている。
一方、アーム部313には、Y軸方向に沿って長穴317が貫通形成され、糸通しスライドガイド320から延びた係合軸324が挿入されている。従って、操作レバー310に入力された下降移動動作は、アーム部313から係合軸324を介して糸通しスライドガイド320及び糸通し軸11に伝達される。なお、アーム部313の長穴317がY軸方向に沿っているのは、第二の支持機構200によるY軸方向の移動を許容するためのものである。
糸保持部材操作部314は、糸通しフック20の前進時に糸保持部材50を縫い針側に近接移動させるための動作を付与するためのものである。操作レバー310に糸保持部材操作部314を設けることにより糸通しフック20の前進動作と糸保持部材50の近接動の連動を実現する。なお、糸保持部材操作部314の糸保持部材50への作用については、糸保持部材支持機構60の説明の際に詳述する。
【0032】
(糸通し動作入力機構:糸通しカム機構)
糸通しカム機構340は、糸通し軸11から糸通しスライドガイド320の背板321に向かって水平方向に突出した係合突起341と、糸通しスライドガイド320の背板321に形成された溝カムとしての長穴部342とを備えている。
上記係合突起341は、実際上は、糸通し軸11に貫通装備された後述する第一のガイドピン331の後端部である。かかる係合突起341は、背板321に貫通形成された長穴部342に挿入され、背板321の外側まで貫通する長さに設定されている。
長穴部342は、その長手方向が上下方向に対して傾斜して形成されている。そして、係合突起341は、糸通し軸11と糸通しスライドガイド320との間に設けられた圧縮コイルバネ325の作用により通常は長穴部342の下端部に位置している状態を維持する。かかる長穴部342は、係合突起341が当該長穴部342に沿って上昇する際に、糸通しフック20が前進する方向に糸通し軸11が回転する方向に変位を生じる方向に傾斜している。即ち、糸通し軸11は平面視で時計回りに回転することで糸通しフック20が前進移動するので、長穴部342は、上方に向かうにつれてY軸方向における背面側に向かう方向に傾斜している。
なお、係合突起341が長穴部342に沿って上方に移動するのは、糸通し軸11に対して糸通しスライドガイド320が相対的に下降する場合である。前述のように、糸通し軸11と糸通しスライドガイド320との間に設けられた圧縮コイルバネ325と糸通し軸11上端部のストッパ11aとの作用により、糸通し軸11と糸通しスライドガイド320とは、圧縮コイルバネ325の押圧力よりも大きな力が付与されない限り共に上下動を行う。従って、糸通し軸11の下降経路の途中にはその下降を阻止する高さ調整機構330が設けられ、操作レバー310により糸通しスライドガイド320及び糸通し軸11に下降動作が入力されると、糸通し軸11のみを途中で下降を阻止する。この際、操作レバー310から圧縮コイルバネ325よりも大きな押圧力を入力すると、糸通し軸11に対して糸通しスライドガイド320が相対的に下降し、糸通しカム機構340の作用により糸通し軸11が回転し、糸通しフック20が前進して糸通しが行われる。なお、糸通しフック20の後退は、操作レバー310を解放することで圧縮コイルバネ325の復帰力により行われる。
【0033】
(糸通し動作入力機構:高さ調整機構)
高さ調整機構330は、糸通しカム機構340を作動させるために糸通し軸11のみを下降を阻止する機能と、各縫い針1〜5の糸通し時に縫い針の配置に応じて糸通し軸11を移動位置決めする位置決め機構400との協働により各縫い針1〜5ごと糸通しフック20の高さ調節を行う機能とを有している。
即ち、高さ調節機構330は、糸通し軸11に設けられた第一と第二のガイドピン331,332と、いずれかのガイドピン331,332が上方から当接する五つの当接部351〜355を備える下側糸通しガイド350と、糸通し軸11の回動時に各ガイドピン331,332の周回移動を案内する上側糸通しガイド360(図10では図示略)とを備えている。
【0034】
第一及び第二のガイドピン331,332は、いずれも糸通し軸11に対して垂直に設けられ、第一のガイドピン331の方が上方に配置されている。また、二つのガイドピン331,332はX−Y平面上において糸通し軸11を中心として異なる角度で糸通し軸11に配置されている。
【0035】
図12は下側糸通しガイド350の斜視図、図13は位置決め機構400により各縫い針1〜5に対応する配置に糸通し軸11が位置決めされた場合における各ガイドピン331,332と当接部351〜355との関係を示す説明図である。
下側糸通しガイド350は、針棒6に固定支持され、上部に五つの当接部351〜355を備えたブロック状の部材である。
図13(A)に示すように、当接部351は糸通し軸11が縫い針1に糸通しを行う位置に位置決めされた時に第一のガイドピン331が下降して当接する配置にあり、図13(B)に示すように、当接部352は糸通し軸11が縫い針2に糸通しを行う位置に位置決めされた時に第一のガイドピン331が下降して当接する配置にあり、図13(C)に示すように、当接部353は糸通し軸11が縫い針3に糸通しを行う位置に位置決めされた時に第二のガイドピン332が下降して当接する配置にあり、図13(D)に示すように、当接部354は糸通し軸11が縫い針4に糸通しを行う位置に位置決めされた時に第二のガイドピン332が下降して当接する配置にあり、図13(E)に示すように、当接部355は糸通し軸11が縫い針5に糸通しを行う位置に位置決めされた時に第二のガイドピン332が下降して当接する配置にある。
また、糸通し軸11が当接して回動した時に各ガイドピン331,332が当接状態を維持することができるように、各当接部351〜355の平面はいずれも略円弧状に形成されている。
さらに、各当接部351〜355は、それぞれ糸通し時の糸通し軸11及び糸通しフック20の高さを決定するものであることから、それぞれその平面高さが各縫い針1〜5の目穴の高さに応じて異なる高さに設定されている。
また、当接部351,352と当接部353,354,355とは、それぞれガイドピン331,332の糸通し軸11を中心とする開き角度に応じて離れた配置となっている。このようにガイドピンの本数に応じて複数の当接部を分散配置し、各当接部の配置に干渉を回避している。
また、ガイドピン331,332は二本存在するが、いずれか一方が当接部に当接する場合には他方はいずれかの当接部に当接することがないように第一のガイドピン331と第二のガイドピン332とは高さに差が設けられている。また、一方のガイドピンが当接部に当接している時に他方のガイドピンが下側糸通しガイド350の当接部以外の箇所に当接しないように上面から一部低く形成した逃げ部356が形成されている(図13(A)参照)。
なお、下側糸通しガイド350は、糸通し時の糸通しフック20の高さを決定する機能を有することから、必ず一定区間の高さであることが要求される。従って、糸通し時には針棒が必ず同じ糸通し可能区間となるようにあらかじめ定められた一定区間の上軸角度となるようにミシンモータの制御が行われる。
【0036】
図14は下側糸通しガイド350と上側糸通しガイド360の拡大斜視図である。
上側糸通しガイド360は、下側糸通しガイド350の各当接部351〜355に当接したいずれかのガイドピン331,332が糸通し軸11の回転により当接部351〜355の上面を移動する際に当接を維持するように上方からと当接してガイドピンをガイドする機能を有している。
従って、図14に示すように、上側糸通しガイド360には、下側糸通しガイド350の当接部351に第一のガイドピン331が当接して移動する際に当接してガイドするガイド部361と、当接部352に第一のガイドピン331が当接して移動する際に当接してガイドするガイド部362と、当接部353に第二のガイドピン332が当接して移動する際に当接してガイドするガイド部363と、当接部354に第二のガイドピン332が当接して移動する際に当接してガイドするガイド部364と、当接部355に第二のガイドピン332が当接して移動する際に当接してガイドするガイド部365と、糸通し軸11の下降時に第一のガイドピン331の下降を許容する逃げ部366と、糸通し軸11の下降時に第二のガイドピン332の下降を許容する逃げ部367とを備えている。
【0037】
(糸保持部)
糸保持部50は、板金の折曲加工により形成された部材であり、図2に示すように、下端部において糸掛けを行う二つの糸掛け部51,52と、糸端部を挟持する板バネを有する挟持部53とを備えている。二つの糸掛け部51,52はそれぞれ縫い糸を掛ける図示しない切り欠きを有しており、これらに縫い糸を掛け渡すことでX軸方向に縫い糸を渡らすことができるようになっている。また、挟持部53は、保持板と板バネとが圧接しており、それらの間に縫い糸端部を差し込むことで挟持させることを可能としている。また、挟持部53は二つの糸掛け部51,52の並び方向に隣接しており、二つの糸掛け部51,52に渡らせた状態で糸掛けを行った場合の縫い糸の余り端部を挟持部53に挟持させることで、二つの糸掛け部51,52の間でX軸方向に沿って縫い糸が張設された状態を維持することができる。
このようにX軸方向に沿って縫い糸が張設された状態で縫い糸を挟んで糸通しフック20の反対側に糸保持部材50を配置することにより、Y軸方向に沿って前進してきた糸通しフック20が直交する縫い糸の真上を通過するとその後退時に返しにより縫い糸の捕捉を円滑に行うことが可能となる。
【0038】
(糸保持部材支持機構)
糸保持部材支持機構60は、図2,4に示すように、糸保持部50を揺動可能に保持して正面側壁部106のガイド溝106a,106bにより移動する移動体61と、糸通し軸11の下降に伴い移動体を下降させる連動部材62と、糸通し位置にある糸保持部50を縫い針側に揺動させる揺動レバー63とを備えている。
【0039】
移動体61は、長尺状の平板であって上下方向に沿って配設され、その上部の二箇所にガイド軸64,64が設けられている。かかる各ガイド軸64は、正面側壁部106のガイド溝106a,106bにそれぞれ挿入され、正面側からCリング65により固定されている。かかる構造により、移動体61は、ガイド溝106a,106bに沿った移動を可能としている。なお、ガイド溝106a,106bの上端部に移動体61が位置する時の糸保持部50の位置を待機位置、ガイド溝106a,106bの下端部に移動体61が位置する時の糸保持部50の位置を糸通し位置とする。
移動体61の上端部背面側にはボス状の突起61bが設けられており、糸通し軸11と共に昇降を行う連動部材62が上方から当接するようになっている。
【0040】
さらに、移動体61は、その下部が直角に折曲されてY−Z平面に沿った平面部61aを備え、当該平面部61aの下端部でX軸方向に沿った支軸により糸保持部50を軸支している。また、同じ平面部61aの上部においてやはりX軸方向に沿った支軸により揺動レバー63が軸支されている。
糸保持部50は支軸よりも上方に揺動レバー63との当接部54を有している。
一方、揺動レバー63は、下方に垂下した揺動部63aを有し、当該揺動部63aには突起63bが設けられている。かかる突起63bは、糸保持部50の当接部54に対して背面側から当接している。また、揺動レバー63には、その上部背面側に、前述した操作レバー310の糸保持部材操作部314が上方から当接する係止延出部63cを備えている。かかる係止延出部63cに操作レバー310の糸保持部材操作部314が上方から当接すると、揺動レバー63の揺動部63aが揺動し、突起63bが糸保持部50の当接部54に対して正面側に向かって押圧し、糸保持部50を揺動させる。かかる揺動により、糸保持部50の下端部の糸掛け部51,52が縫い針1〜5側に接近して糸通しフック20に縫い糸を渡すことを可能としている。
【0041】
なお、糸保持部材支持機構60の移動体61は連動部材62により糸通し軸11と連動して下降するので、糸通し軸11が下側糸通しガイド350の各当接部351〜355により適正な高さに調整されると、移動体61を介して糸保持部50も適正な高さに調整することができるようになっている。
【0042】
(糸通し装置の動作説明)
上記構成からなる糸通し装置10の糸通し動作について説明する。
まず、糸通しを行う縫い針1〜5を移動操作ダイヤル401の回転操作により選択する。
このとき、移動操作ダイヤル401の角度位置に応じて第一のカム機構420が第一の支持機構100の第一枠体101をX軸方向に移動し、第二のカム機構430が第二の支持機構200の第二枠体201をY軸方向に移動する。そして、これらの協働によりX−Y平面内の所定位置に糸通し軸11が移動位置決めされる。
この時点で、高さ調整機構330はいずれのガイドピン331,332がいずれの当接部351〜355のいずれに当接するかが決定される。
そして、操作レバー310を下方に操作すると、糸通しスライドガイド320と共に糸通し軸11が下降動作を開始する。また、糸通し軸11の上端部の連動部材62により、移動体61が下方に押圧されて糸保持部50も下降動作を開始する。
そして、糸通し軸11から延びた所定のガイドピン331,332が所定の当接部351〜355に当接すると、下降動作が阻止されて、当該当接部の設定高さに応じて糸通し軸11及び糸通しフック20が選択された縫い針の高さに調整される。また、連動部材62で連動する糸保持部50も同様に選択された縫い針の高さに調整される。
この時点からさらに操作レバー310が下方に押し込まれると、糸通し軸11に対して糸通しスライドガイド320のみが下降移動し、その結果、糸通しカム機構340の作用により糸通し軸11が時計回りに回転する。また、操作レバー310の糸保持部材操作部314が揺動レバー63の揺動部63cを上方から押圧し、揺動レバー63を回動させる。その結果、糸通しフック20が前進移動して所定の縫い針の目穴に挿入され、糸保持部50は縫い針側に傾倒しX軸方向に張設された縫い糸を糸通しフック20の正面に接近させる。その結果、糸通しフック20の返しが縫い糸を捕捉する。
そして、操作レバー310を下方押圧状態から解放すると、糸通しフック20が後退移動を開始して捕捉した縫い糸を縫い針の目穴に引き込むことで糸通しが実行される。
さらに、他の縫い針に糸通しを行う場合には、再度、移動操作ダイヤル401を回転操作して、操作レバー310を下方に操作する。
【0043】
(糸通し装置の効果)
糸通し装置10は、第一の支持機構100と第二の支持機構200とにより糸通し軸11をX−Y平面における任意の位置に移動可能に支持し、位置決め機構400が二つのカム機構420,430の協働により移動操作ダイヤル401の回転操作に応じて各縫い針1〜5に対応する5カ所に選択的に移動位置決めする。
従って、オーバーロックとカバーステッチの縫いを一台で実現可能なミシンのように、五本の縫い針1〜5を搭載し、これらが例えば一列のような単純な配置ならない場合であっても、複数方向への個別的な位置調整動作の入力を必要とせず、移動操作ダイヤル401の回転操作だけで糸通し軸11を位置決めすることができ、しかも、全ての縫い針1〜5に順番に位置合わせを行うこともできる。従って、全縫い針1〜5に対して的確な糸通しを行うことが可能となる。
また、第一枠体101に移動体61を介して糸保持部50を装備しているので、糸通し軸11だけでなく、糸保持部50も移動操作ダイヤル401の回転操作だけでX−Y方向について全ての縫い針1〜5に順番に位置合わせを行うことができ、さらに、全縫い針1〜5に対して的確な糸通しを行うことが可能となる。
【0044】
また、糸通し装置10は、糸通し動作入力機構300の下側糸通しガイド350の各当接部351〜355は、各縫い針1〜5に個別に対応して高さ設定されているので、各縫い針1〜5の目穴に対して適正な高さに糸通しフック20を調整することが可能となる。
そして、オーバーロックとカバーステッチの縫いを一台で実現可能なミシンのように、五本もの縫い針1〜5を搭載している場合であっても、二本のガイドピン331,332を有するので、各当接部351〜355を分散して下側糸通しガイド350に設けることができ、糸通しフック20の高さ調節を適正に行うことができ、さらなるの糸通し適正化を図ることが可能となる。
【0045】
(その他)
糸通し軸11に設けられたガイドピンは三本以上であっても良い。
また、少なくともいずれか一方のガイドピン331,332については、偏心軸を有する構造の軸部材を使用しても良い。図15(A)は第二のガイドピン332を偏心ピン332Aに替えた場合を示している。
偏心ピン332Aは、図15(B),(C)に示すように、回転調節することで各当接部351〜355に当接する下面の高さを変更することができ、例えば、オーバーロックに使用する縫い針1,2とカバーステッチで使用する縫い針3,4,5との間に高さの差異を生じる場合に、速やかに調整し、適応を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態たる糸通し装置の斜視図である。
【図2】糸通し装置の正面図である。
【図3】糸通し装置の一部の構成を除いた正面図である。
【図4】糸通し装置の一部の構成を除いた平面図である。
【図5】糸通し軸の下端部の拡大斜視図である。
【図6】糸通し装置の図1とは異なる方向から見た斜視図である。
【図7】一部省略した糸通し装置の背面図である。
【図8】移動操作部の段階切り替え部を右側から見た側面図である。
【図9】図9(A)は第一のカムを展開して段階切り替え位置を示し、図9(B)は第二のカムを展開して段階切り替え位置を示した説明図である。
【図10】糸通し動作入力機構の斜視図である。
【図11】糸通しカム機構の要部説明図である。
【図12】下側糸通しガイドの斜視図である。
【図13】位置決め機構により各縫い針に対応する配置に糸通し軸が位置決めされた場合における各ガイドピンと各当接部との関係を示す説明図であって図13(A)〜(E)はそれぞれ縫い針一つ一つの配置に対応している。
【図14】下側糸通しガイドと上側糸通しガイドの拡大斜視図である。
【図15】図15(A)はガイドピンとして偏心ピンを使用した場合の斜視図、図15(B)は偏心ピンによる高さ調節前の状態を示し、図15(C)は偏心ピンによる高さ調節後の状態を示す。
【符号の説明】
【0047】
1〜5 縫い針
6 針棒
10 糸通し装置
11 糸通し軸
20 糸通しフック
50 糸保持部
51,52 糸掛け部
60 糸保持部材支持機構
90 メインフレーム
100 第一の支持機構
101 第一枠体
102 ガイド軸
200 第二の支持機構
201 第二枠体
202 ガイド軸
300 糸通し動作入力機構
310 操作レバー(糸通し操作入力手段)
320 糸通しスライドガイド(昇降枠体)
330 高さ調整機構
331 第一のガイドピン
332 第二のガイドピン
340 糸通しカム機構
341 係合突起
342 長穴部
350 下側糸通しガイド
351〜355 当接部
360 上側糸通しガイド
400 位置決め機構
401 移動操作ダイヤル(移動操作部)
420 第一のカム機構
421 第一のカム
430 第二のカム機構
431 第二のカム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視で一列とならない配置で設けられた少なくとも三本以上の縫い針に糸通しを行うミシンの糸通し装置であって、
前進により縫い針の目穴に侵入すると共に後退により捕捉した縫い糸を前記目穴に挿通させる糸通しフックを保持する糸通し軸と、
前記糸通し軸を介して前記糸通しフックに糸挿入動作を付与する糸通し動作入力機構と、
前記縫い針を挟んで前記糸通しフックの反対側となる配置で縫い糸を保持する糸保持部材と、
前記糸通し軸を前記各縫い針に垂直な平面における第一の方向に移動可能に支持する第一の支持機構と、
前記糸通し軸を前記各縫い針に垂直な平面における第二の方向に移動可能に支持する第二の支持機構と、
前記各縫い針への位置切替操作を順次入力する移動操作部への入力操作により前記糸通し軸を前記各縫い針の配置に対応する軌跡で移動させる位置決め機構とを備え、
前記位置決め機構は、前記移動操作部と、当該移動操作部の入力操作により前記糸通し軸に第一の方向に沿った移動動作を付与する第一のカム機構と、前記移動操作部の入力操作により前記糸通し軸に第二の方向に沿った移動動作を付与する第二のカム機構とを有し、
前記第一及び第二のカム機構は、前記移動操作部への入力操作により、協働して前記糸通し軸を前記各縫い針の配置に対応する位置に順次移動させることを特徴とするミシンの糸通し装置。
【請求項2】
前記糸保持部を前記糸通し軸と同じ枠体に装備し、これらを共に移動させることを特徴とする請求項1記載のミシンの糸通し装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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