説明

ミシン用アタッチメント、ミシン及び縫製方法

【課題】縫製時において上下の布がずれながら送られてしまう縫いづれ防止に有利なミシン用アタッチメント、ミシン及び縫製方法を提供する。
【解決手段】レバー6の回転操作により、加工材の押え具を下端位置から上昇させることができるミシンに用いるミシン用アタッチメント10であって、本体部11と、本体部11に取り付けられる可動部12とを備えており、本体部11は、膝上げレバー6の回転移動と一体に移動するように、ミシンに取り付けられるものであり、可動部12は、その先端をミシンに当接させて、レバー6を静止させるものであり、可動部12の本体部11からの延出量を調節可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レバーの回転操作により、加工材の押え具を下端位置から上昇させることができるミシンにおいて、押え具を下端位置から上昇した位置で保持できる機構及びこの機構を用いた縫製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンを用いた縫製においては、支持面と押え具との間に、複数の布を挟み込んだ状態で縫製が進行する。工業用ミシンにおいては、押え具の上側への持ち上げに、膝上げレバーを用いるものがある(特許文献1,2参照)。膝上げレバーは、リンク機構を介して、押え具と一体の押え棒に連結されている。
【0003】
膝上げレバーに取り付けられたパッドに膝を当て、膝上げレバーを回転させることにより、膝上げレバーの回転角に応じて、押え具が上昇する。膝上げレバーが回転しきると、押え具は上端位置まで上昇している。この状態で支持面上に布を置くことができる。
【0004】
パッドを押えている膝の力を緩めるにつれて、膝上げレバーは元の位置に戻りつつ、押え具は下降する。パッドから膝を離すと、押え具と一体の押え棒に取り付けられたばねの反発力により、押え具は布を押圧する。この状態で縫製を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−19364号公報
【特許文献2】特開2006−149440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のような従来のミシンにおいては、縫製時には、押え具が布を押圧している。この構成では、上下の2枚の布を縫い合わせる場合、支持面側の下側の布は送り歯により送られるが、押え具側の上側の布は、押え具により押圧されている。このため、上下の布がずれながら送られてしまう「縫いづれ」という現象が生じる場合があった。布の素材によっては、この縫いづれを手加減で調整することは困難であった。
【0007】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、縫製時において上下の布がずれながら送られてしまう縫いづれ防止に有利なミシン用アタッチメント、ミシン及び縫製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のミシン用アタッチメントは、レバーの回転操作により、加工材の押え具を下端位置から上昇させることができるミシンに用いるミシン用アタッチメントであって、本体部と、前記本体部に取り付けられる可動部とを備えており、前記本体部は、前記レバーの回転移動と一体に移動するように、前記ミシンに取り付けられるものであり、前記可動部は、その先端を前記ミシンに当接させて、前記レバーを静止させるものであり、前記可動部の前記本体部からの延出量を調節可能であることを特徴とする。
【0009】
本発明のミシンは、レバーの回転操作により、加工材の押え具を下端位置から上昇させることができるミシンであって、前記レバーの静止位置を調節する調節機構を備えており、前記調節機構は、本体部と、前記本体部に取り付けられた可動部とを備えており、前記本体部は、前記レバーの回転移動と一体に移動し、前記可動部は、その先端を前記ミシンに当接させて、前記レバーを静止させるものであり、前記可動部の前記本体部からの延出量を調節可能であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第1の縫製方法は、前記本発明のミシン用アタッチメントが取り付けられたミシンを用いた縫製方法であって、前記押え具の下側に前記加工材を置き、前記可動部の前記延出量の調節により、前記レバーの静止位置を調節して、前記押え具を前記下端位置から上昇した位置に保持し、前記保持状態で前記加工材を縫製することを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の縫製方法は、前記本発明のミシンを用いた縫製方法であって、前記押え具の下側に前記加工材を置き、前記可動部の前記延出量の調節により、前記レバーの静止位置を調節して、前記押え具を前記下端位置から上昇した位置に保持し、前記保持状態で前記加工材を縫製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、縫製時において上下の布がずれながら送られてしまう縫いづれ防止に有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態に係るミシンの正面図である。
【図2】図2は、図1のミシンからアタッチメント10を取り外した状態の要部を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施の形態に係るミシンにおける押え具の側面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施の形態に係るアタッチメント10の斜視図である。
【図5】図5は、図2における膝上げレバー6近傍の拡大図である。
【図6】図6は、本発明の一実施の形態に係るアタッチメント10をミシンに取り付けた状態を示す要部斜視図である。
【図7】図7Aは押え具5と送り歯52との間に、2枚の布を介在させた状態を示す側面図、図7Bは押え具5の高さが高さh1からh2に変化した状態を示す側面図、図7Cは押え具5と送り歯52との間に、3枚の布を介在させた状態を示す側面図である。
【図8】図8は、本発明の一実施の形態において、図7Aの状態における膝上げレバー6及びアタッチメント10を示した正面図である。
【図9】図9は、本発明の一実施の形態において、アタッチメント10の当接部19の先端がプレート22に当接した状態を示した正面図である。
【図10】図10は、本発明の一実施の形態に係るアタッチメント30の斜視図である。
【図11】図11は、本発明の一実施の形態に係るアタッチメント30の側面図である。
【図12】図12は、本発明の一実施の形態において、アーム32を回転させてハンド31に挟んだ小片54をプレート22の位置まで運んだ状態を示す図である。
【図13】図13は、本発明の一実施の形態において、図12の状態におけるアタッチメント10の近傍の正面図である。
【図14】図14A及び図14Bは、本発明の一実施の形態において、布53と押え具5との間に薄小片を挟んだ状態を示した図であり、図14Aは側面図、図14Bは平面図である。
【図15】図15は、本発明の一実施の形態に係るミシン1の正面図である。
【図16】図16は、本発明の一実施の形態に係るミシン1の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のミシン用アタッチメント、ミシン及び縫製方法によれば、押え具と加工材との間の隙間をなくしつつ、押え具の位置を、押え具が加工材を押圧しない位置又は押圧力が十分小さく抑えられた位置にあらかじめ保持しておくことができる。この状態で縫製を開始することにより、縫製時において上下の布がずれながら送られてしまう縫いづれ防止に有利になる。
【0015】
前記本発明のミシン用アタッチメントは、前記可動部の前記延出量の調節により、前記レバーの静止位置を調節して、前記押え具を前記下端位置から上昇した位置に保持するためのものであることが好ましい。
【0016】
また、前記本体部及び前記可動部とは別に、前記加工材の小片を保持するハンドを含むアームをさらに備えており、前記アームは、前記ハンドに保持した前記小片を前記可動部の先端位置まで移動させるものであることが好ましい。この構成によれば、縫い合わせる布の枚数を増やす場合において、押え具の高さを容易に設定することができる。
【0017】
また、前記可動部を前記本体部に取り付けたときに、前記可動部は、前記本体部に螺合されており、前記可動部を回転させて、前記延出量を調節可能であることが好ましい。この構成によれば、簡単な構造でかつ容易に可動部の延出量を調節することができる。
【0018】
前記本発明のミシンにおいては、前記調節機構は、前記可動部の前記延出量の調節により、前記レバーの静止位置を調節して、前記押え具を前記下端位置から上昇した位置に保持するためのものであることが好ましい。
【0019】
また、前記加工材の小片を保持するハンドを含むアームをさらに備えており、前記アームは、前記ハンドに保持した前記小片を前記可動部の先端位置まで移動させるものであることが好ましい。この構成によれば、縫い合わせる布の枚数を増やす場合において、押え具の高さを容易に設定することができる。
【0020】
また、前記可動部は、前記本体部に螺合されており、前記可動部を回転させて、前記延出量を調節可能であることが好ましい。この構成によれば、簡単な構造でかつ容易に可動部の延出量を調節することができる。
【0021】
また、前記ミシンの本体部を支持する支持台をさらに備えており、前記支持台は、前記加工材の送り方向と直交する方向において、前記押え具側から前記本体部の内側に進むにつれて高さが低くなるように傾斜していることが好ましい。この構成によれば、ミシンの本体部の内側にステッチ定規を取り付けた際に、加工材の端面がステッチ定規のガイド面にガイドされ易くなる。
【0022】
また、前記ミシンの本体部を支持する支持台をさらに備えており、前記支持台は、前記加工材の送り方向に進むにつれて高さが低くなるように傾斜していることが好ましい。この構成によれば、加工材の送りが容易になる。
【0023】
前記第1及び第2の縫製方法においては、前記加工材と前記押え具との間に薄小片を挟み、前記薄小片の抜き取り力の程度により、前記可動部の前記延出量を設定することが好ましい。この構成によれば、加工材をずらしながら微調整する方法に比べて、押え具の高さの微調整が容易になるとともに、精度も高めることができる。
【0024】
また、前記加工材にさらに前記加工材を重ねて縫い合わせる際に、前記可動部の先端と前記ミシンの一部との間に、前記加工材の小片を挟んで、前記レバーの静止位置を変化させ、前記押え具を前記小片の厚さ分だけ上昇した位置に保持し、前記保持状態で前記加工材を縫製することが好ましい。この構成によれば、縫い合わせる布の枚数を増やす場合において、押え具の高さを容易に設定することができる。
【0025】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るミシン1の正面図を示している。脚部4が固定された支持台3上に、ミシン本体2が搭載されている。押え具5の下部に加工材である布が置かれ縫製される。
【0026】
ミシン1は、膝上げレバー6を備えている。膝上げレバー6に取り付けられたパッド7に膝を当て押すことにより、膝上げレバー6は矢印a方向に回転する。この回転に応じて押え具5は、矢印b方向に上昇する。押え具5を上端位置まで上昇させた状態で、押え具5の下側から布を取り出したり、押え具5の下側に布を置いたりすることができる。
【0027】
ミシン1には、ミシン1に後付けするアタッチメント10、30を備えている。アタッチメント10は、膝上げレバー6の静止位置を調節して、押え具5の保持高さを調節するためのものである。アタッチメント10については、後に図4−6を参照しながら説明する。
【0028】
アタッチメント30は、布の小片をアタッチメント10の位置まで運ぶためのものである。アタッチメント30については、後に図10−11を参照しながら説明する。
【0029】
アタッチメント10について説明する前に、アタッチメント10を取り付けていない状態におけるミシン1の操作について説明する。
【0030】
図2は、図1のミシン1からアタッチメント10を取り外した状態の要部を示している。膝上げレバー6の端部は固定具8を挿通しており、これにより膝上げレバー6は固定具8に固定されている。固定具8には、さらにシャフト40が固定されている。固定具8は、シャフト40の中心40aを中心に回転可能である。したがって、膝上げレバー6は、固定具8を介してシャフト40の中心40aを中心に回転可能である。
【0031】
前記の通り、パッド7に膝を当てて押すことにより、膝上げレバー6を矢印a方向に回転させることができる。この回転と一体に、固定具8及びシャフト40も回転する。シャフト40はL字状に折れ曲がっており、固定具8の回転に伴い、シャフト40の端部は矢印c方向に上昇する。
【0032】
これに伴い、シャフト41は矢印d方向に持ち上げられ、レバー42が矢印e方向に回転し、シャフト43及びレバー44は矢印f方向に引かれる。このことにより、固定片46及びこれに固定された押え棒45が矢印b方向に持ち上げられ、押え棒45と一体の押え具5も、矢印b方向に持ち上げられる。
【0033】
押え棒45には、押え具5を支持面50側に押え付けるように、ばね47によるばね圧が加わっている。このため、押え棒45は、ばね47を圧縮しながら矢印b方向に上昇する。したがって、パッド7に加えている力を解除すれば、ばね47の反発力により、押え棒45は下降する。これに伴い、レバー44、シャフト43、レバー42、シャフト41及びシャフト40が、押え棒45を上昇させるときとは逆に移動しながら、膝上げレバー6は元の位置に戻る。
【0034】
図3は、押え具5の側面図を示している。押え具5は、針51の位置に配置されており、押え具5の下面が支持面50から突出した送り歯52に当接している。この状態は、図2において、膝上げレバー6が回転していない静止位置にあるときの状態である。したがって、図3の状態では押え具5は、ばね47(図2)の反発力により、送り歯52を押圧している。
【0035】
前記の通り、図2において、膝上げレバー6を矢印a方向に回転させると、押え具5は矢印b方向に上昇する。図3の破線は、膝上げレバー6が回転しきり、押え具5が高さhの上端位置まで上昇した状態を示している。したがって、パッド7に力を加えながら、膝上げレバー6の回転角度を変化させることにより、図3において、押え具5を、押え具5が送り歯52に当接した下端位置から、破線で示した上端位置までの任意の位置に、一時的に保持することが可能である。
【0036】
一方、パッド7に加えた力を解除すれば、押え具5は、ばね47(図2)の反発力により、送り歯52に当接した下端位置に戻る。
【0037】
図4は、図1に示したアタッチメント10の斜視図を示している。アタッチメント10は、本体部11と可動部12とを備えている。本体部11は、ミシン1(図1)への取り付け部13と、可動部12を支持する支持部14とを備えている。取り付け部13は、固定具8(図2)の両端を挟んだ状態で、ねじ15、16により固定具8に取り付けられる。支持部14は、ねじ17により、取り付け部13に取り付けられる。
【0038】
可動部12は、シャフト18を備えており、シャフト18に当接部19及びつまみ部20が取り付けられている。シャフト18にはおねじが形成されており、このおねじと、支持部14の孔21に形成されためねじとが螺合している。したがって、つまみ部20を回転させることにより、可動部12を上下方向(矢印g方向)に移動させることができる。このことにより、可動部12の本体部11からの延出量dを調節でき、当接部19先端の本体部11からの距離が変化する。
【0039】
なお、図4に示したアタッチメント10は一例であり、膝上げレバー6の回転移動と一体に移動するように取り付けられることができ、可動部を備え、この可動部の本体部からの延出量が調節可能であれば他の構成であってもよい。
【0040】
図5は、図2における膝上げレバー6近傍の拡大図を示している。本図の状態では、固定具8には、図4に示したアタッチメント10は、まだ取り付けられていない。支持台3(図1)の裏側には、プレート22がねじ23により取り付けられる。プレート22は、図4に示したアタッチメント10の当接部19の先端が、直接又は布の小片を介して当接する部分である。
【0041】
図6は、アタッチメント10をミシン1に取り付けた状態を示す要部斜視図である。本図は、図5の状態の固定具8に、図4に示したアタッチメント10を取り付けた状態を示している。
【0042】
図5において、固定具8のねじ24を取り外し、図4のアタッチメント10の取り付け部13により固定具8の両端を挟み込んだ状態で、ねじ15、16(図4)を締め付ける。このことにより、図6に示したように、アタッチメント10が固定具8に固定される。以下、アタッチメント10を用いた縫製方法について説明する。
【0043】
図7Aは、押え具5と送り歯52との間に2枚の布53を介在させた状態を示している。押え具5の支持面50からの高さは高さh1である。本図の状態は、押え具5を高さhの上端位置から下降させ、押え具5が布53に当接開始する位置で、押え具5を保持した状態である。
【0044】
したがって、図7Aの状態では、押え具5が布53を押圧しない位置で保持されている。すなわち、図7Aの状態から、布53を取り除いても、押え具5は高さh1を維持する。以下、図8、9を参照しながら、図7Aの状態にするまでの過程を説明する。
【0045】
図8は、図7Aの状態における膝上げレバー6及びアタッチメント10を示した正面図である。膝上げレバー6と一体のパッド7に加えた力Fを増大させると、膝上げレバー6は、シャフト40の中心40aを中心として、矢印a方向に回転する。
【0046】
図8の破線で示した膝上げレバー6は、膝上げレバー6が回転しきった状態を示している。この状態では、図7Aの破線で示した押え具5のように、押え具5は高さhの位置まで上昇する。この状態で布53を支持面50上に置くことができる。
【0047】
破線で示した膝上げレバー6の状態から、パッド7に加えた力Fを緩めると、膝上げレバー6は、矢印aと反対方向に回転し、元の位置に向かって移動する。この移動はばね47(図2)の反発力によるものである。この移動に伴い、図7Aの破線で示した押え具5は、支持面50側に下降していく。
【0048】
図8の実線で示した膝上げレバー6の位置は、図7Aの押え具5の高さが高さh1になる位置である。パッド7には力Fが加わっており、膝上げレバー6は実線で示した位置に一時的に保持されている。前記の通り、図7Aの高さh1は、押え具5が布53に当接開始する位置である。
【0049】
この位置になるように膝上げレバー6を一時的に保持させるためには、微調整が必要になる場合がある。この場合、例えば布53を前後にずらしながら微調整をすることができる。このような微調整は、パッド7に膝を当てて力Fを加えていれば、両手を使って行うことができる。また、後に図14を用いて、微調整を容易にする方法について説明する。
【0050】
図8において、線55はシャフト18の中心軸を示している。線54は、膝上げレバー6の初期位置におけるシャフト18の中心軸を示している。本図の例では、線54は支持台3と直交する線である。図8の状態では、シャフト18の中心軸は、膝上げレバー6の初期位置と比べると、線54から線55の位置に変位し、シャフト18は初期位置と比べると、角度θ1だけ傾斜している。あわせて、当接部19の先端と、プレート22との間には、隙間sが形成されている。
【0051】
この状態から力Fを解除すると、図7Aにおいて、押え具5はスプリング47(図2)の反発力により、高さh1の位置からさらに下降しようとし、布53を押圧する。
【0052】
本実施の形態では、アタッチメント10を備えたことにより、力Fを解除しても、図7Aのように、押え具5が高さh1の位置にある状態を保持することができる。このことについて、以下図8、9を参照しながら説明する。
【0053】
図8において、シャフト18は支持部14の孔21に螺合している。このため、つまみ部20を回転させることにより、可動部12の支持部14からの延出量dを調節することができる。図8では延出量dはd1である。この状態から、延出量dを大きくする方向につまみ部20を回転し続けると、隙間sはなくなり、当接部19の先端がプレート22に当接する。
【0054】
図9は、当接部19の先端がプレート22に当接した状態を示した正面図である。可動部12の支持部14からの延出量dは、図8のd1より大きいd2に変化し、隙間sはなくなっている。この場合、シャフト18は、図8の状態からシャフト18の中心軸(図8
の線55)に沿って移動しているので、図8の角度θ1は、図9においても維持されている。
【0055】
さらに、当接部19の先端がプレート22に当接しているので、アタッチメント10が移動する余地はなく、パッド7に加えている力Fを解除しても、シャフト18が角度θ1だけ傾いた状態が維持される。この場合、押え具5についても、図7Aの高さh1が維持され、押え具5が布53を押圧していない状態も維持される。
【0056】
一方、従来のミシンにおいては、縫製を開始する場合は、ばね47(図2)の反発力により支持面50側に向かう押え具5を、布53が高さh1の位置に持ち上げた状態になっている。この状態では、押え具5が布53を押圧している。この場合、支持面50側の下側の布は送り歯により送られるが、押え具5側の上側の布は、押え具5により押圧されている。このため、上下の布がずれながら送られてしまう縫いづれという現象が生じ易い。
【0057】
本実施の形態では、前記の通り、押え具5と布53との間の隙間をなくしつつ、押え具5の位置を、押え具5が布53を押圧しない位置又は押圧力が十分小さく抑えられた位置にあらかじめ保持しておくことができる。この状態で、縫製を開始すれば、縫製時において、押え具5側の上側の布は、支持面50側の下側の布と一体に移動し易く、手加減で上下の布のずれを防止することも容易である。
【0058】
すなわち、本実施の形態に係る縫製方法によれば、押え具5により布53を強い押圧力で押圧しながら縫製が進行する従来の縫製方法に比べ、縫いづれ防止に有利である。
【0059】
以上、2枚の布を縫い合わせる場合について説明したが、3枚の布を縫い合わせる場合について以下説明する。図7Aの状態で、2枚の布を縫い合わせた後、布を折り返し、3枚の布を縫い合わせる場合があり、この例について説明する。
【0060】
図7Aの状態は前記の通り、押え具5が布53を押圧していない状態である。この状態から、押え具5の下側の布53を3枚にすると、押え具5が持ち上がり、ばね47(図2)の反発力により、押え具5が布53を押圧する。
【0061】
押え具5が布53を押圧しないようにするには、図8、9を用いて説明したように、布が2枚の場合の調節手順と同様に、可動部12の支持部14からの延出量dを再調節してもよい。
【0062】
他方、本実施の形態に係るミシン1は、アタッチメント10とは別にアタッチメント30(図1)が取り付けられている。このアタッチメント30を用いることにより、縫い合わせ枚数を追加する場合の押え具5の高さ設定が容易になる。
【0063】
図10は、アタッチメント30の斜視図である。図11は、アタッチメント30の側面図を示している。アタッチメント30は、ハンド31が一体になったアーム32を備えている。ハンド31は隙間31a(図11)を形成しており、隙間31aに布の小片54を挟み込むことができる。この小片54は、縫製対象の布と同一である。
【0064】
図11において、支持板33はねじ34により、支持台3(図1)の裏面に固定される。アーム32と連結部材35とがねじ36により固定されており、連結部材35は支持板33にボルト37により回転可能に取り付けられている。このことにより、図10において、アーム32は、ボルト37を中心に矢印k方向に回転可能である。この回転により、ハンド31に挟んだ小片54をプレート22側に運ぶことができる。
【0065】
なお、図10、11に示したアタッチメント30は一例であり、ハンドに保持した小片54を可動部12の先端位置まで移動させることができれば、他の機構であってもよい。
【0066】
以下、アタッチメント30の使用方法について説明する。前記の通り、図7Aのように、押え具5の支持面50からの高さが高さh1の状態では、図9に示したように、アタッチメント10のシャフト18の傾斜角度はθ1になっている。
【0067】
図9のように当接部19がプレート22に当接した状態から、膝上げレバー6を矢印a方向に回転させると、当接部19とプレート22との間に隙間が形成される。この隙間を形成した状態において、図10のアタッチメント30のアーム32を回転させて、ハンド31に挟んだ布54をプレート22の下側の隙間まで運ぶことができる。
【0068】
図12は、アーム32を回転させてハンド31に挟んだ小片54をプレート22の位置まで運んだ状態を示している。本図の状態では、膝上げレバー6を回転させた力を解除しており、当接部19の先端が布に当接している。
【0069】
図13は、図12の状態におけるアタッチメント10の近傍の正面図を示している。当接部19とプレート22との間には、小片54が挟まれている。したがって、小片54が挟まれる前の図9と比べると、アタッチメント10及び膝上げレバー6は、シャフト40の中心40aを中心として、矢印a方向に回転している。
【0070】
すなわち、図9の傾斜角度θ1は、図13では角度θ1より大きい角度θ2に変化している。したがって、図7Aにおける押え具5の高さは、角度θ2と角度θ1との角度差に相当する高さ分、すなわち小片54の厚さ分だけだけ高くなる。
【0071】
図7Bは、押え具5の高さが高さh1からh2に変化した状態を示す側面図である。本図の押え具5の位置は、図13のように当接部19が小片54に当接したときの位置である。押え具5の高さは、図7Aにおいては高さh1であったのに対して、図7Bにおいては、これに隙間tが加わり高さh2になっている。隙間tが小片54の厚さに相当する。
【0072】
図13において膝上げレバー6を矢印a方向に回転させ、回転しきった破線の位置まで移動させることにより、図7Bにおいて、押え具5を図7Bの高さhの上端位置にまで持ち上げることができる。この状態で、支持面50上に重ねられた3枚の布53を置くことができる。次に、図13において、パッド7に加えている力を解除すれば、膝上げレバー6は、図13の実線で示した位置に戻る。したがって、押え具5の高さは、再び図7Bの高さh2の位置に戻る。
【0073】
図7Cは、押え具5の下側に、3枚の布53を置いた状態を示す側面図である。本図の状態は、布53が押え具5を持ち上げた状態ではなく、高さh2の位置に保持された押え具5の下側に、3枚の布が置かれた状態である。したがって、図7Cの状態は、布53に押え具5による押圧力が加わっていない状態又は押圧力が十分小さく抑えられた状態である。したがって、図7Cの状態で、縫製を開始すれば、布2枚分を縫製する場合と同様に、縫いずれ防止に有利である。
【0074】
以上のように、アタッチメント30を使用することにより、縫い合わせる布の枚数を増やす場合において、押え具5の高さを容易に設定することができる。
【0075】
次に、押え具5の高さ設定の別の一例について説明する。前記の通り、図7Aの押え具5の高さh1の位置は、布53に押え具5による押圧力が加わっていない位置又は押圧力が十分小さく抑えられた位置である。このような位置の設定には、微調整が必要になる場合がある。以下、押え具5の高さの微調整を容易にする方法について図14を参照しながら説明する。
【0076】
図14A及び図14Bは、布53と押え具5との間に、薄小片55が挟まれた状態を示しており、図14Aは側面図、図14Bは平面図である。薄小片55は、例えば紙片である。図14A、Bの状態から、矢印m、n方向に、薄小片55を抜き取る。
【0077】
この抜き取るときの抜き取り力の程度により、押え具5の高さが目標位置にあるかどうかを判定する。例えば、薄小片55の抜き取り力が基準の大きさより小さいと判断した場合は、押え具5を下降させる。抜き取り力が基準の大きさであると判断できるまで、薄小片55の抜き差しを繰り返す。
【0078】
押え具5を下降させるためには、図9において、つまみ20を回転させて可動部12の支持体14からの延出距離dを小さくすればよい。延出距離dの小さくなった分、膝上げレバー6は、矢印a方向と反対方向に変位し、押え具5は下降する。延出距離dが小さくなった状態で、当接部19はプレート22に当接するので、押え具5が保持される位置は下降する。押え具5を微調整して上昇させる場合も、上記と同様に行うことができる。このような薄小片55を用いる微調整は、布53をずらしながら微調整する方法に比べて、微調整が容易になるとともに、精度も高めることができる。
【0079】
次に、ミシン本体2の支持台3に関する実施の形態について説明する。図15はミシン1の正面図であり、図16はミシン1の側面図である。
【0080】
前記の通り、アタッチメント10を用いた縫製方法によれば、縫いづれ防止に有利になる。図15に示した実施の形態は、縫いづれ防止を一層有利にするための実施の形態である。
【0081】
図16において、矢印p方向が布の送り方向である。したがって、図15の正面図では、矢印q方向は布の送り方向と直交する方向である。
【0082】
図15に示したように、ミシン本体2には、押え具5に隣接してステッチ定規60を取り付けている。ステッチ定規60は、ガイド面61を備えており、ガイド面61に沿って、布の端面をガイドすることができる。
【0083】
図15において、支持台2は、矢印q方向すなわち布の送り方向と直交する方向において、押え具5側からミシン本体2の内側に進むにつれて高さが低くなるように傾斜している。すなわち、支持台2の左端部は右端部に比べ高さh3だけ高くなっている。したがって、支持台2は、ステッチ定規60のガイド面61の位置が、押え具5の位置に比べ低くなっている。このことにより、布の端面がガイド面61にガイドされ易くなる。
【0084】
図16に示したように、支持台2は、矢印p方向すなわち布の送り方向に進むにつれて高さが低くなるように傾斜している。すなわち、支持台2の手前側の端部(右側)は、奥側の端部(左側)に比べ高さh4だけ高くなっている。このことにより、布の送りが容易になる。
【0085】
したがって、図15、16に示した実施の形態によれば、布の送りが容易になるので、重ねた布を送る場合に、上下の布を一体に移動させること、及び手加減で上下の布のずれを防止することが一層容易になり、縫いづれ防止に一層有利なる。
【0086】
なお、前記実施の形態においては、アタッチメント10を膝上げレバー6に取り付けた例で説明したが、アタッチメント10の取り付け対象は、膝上げレバーに限られない。アタッチメント10の取り付け対象は、回転操作により押え具を下端位置から上昇させるためのレバーであればよい。例えば、ペダルの踏み加減に応じてレバーが回転移動し、押え具が上昇する構成のものがある。この構成であれば、ペダルにより回転操作されるレバーに、アタッチメント10を取り付けることができる。
【0087】
また、前記実施の形態においては、ミシン1にアタッチメント10を後付けした例を説明したが、アタッチメント10に相当する調節機構を、ミシン自体の本来の構成部品として備えていてもよい。この場合の調節機構は、図4に示した取り付け部13は必ずしも必要ではなく、図4の取り付け部13及び支持部14を、図2に示した固定具8と一体に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明はミシンによる縫製に用いることができ、縫いづれ防止に有利になる。
【符号の説明】
【0089】
1 ミシン
2 ミシン本体
3 支持台
5 押え具
6 膝上げレバー
10,30 アタッチメント
11 本体部
12 可動部
13 取り付け部
14 支持部
31 ハンド
32 アーム
53 布
54 小片
55 薄小片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レバーの回転操作により、加工材の押え具を下端位置から上昇させることができるミシンに用いるミシン用アタッチメントであって、
本体部と、前記本体部に取り付けられる可動部とを備えており、
前記本体部は、前記レバーの回転移動と一体に移動するように、前記ミシンに取り付けられるものであり、
前記可動部は、その先端を前記ミシンに当接させて、前記レバーを静止させるものであり、
前記可動部の前記本体部からの延出量を調節可能であることを特徴とするミシン用アタッチメント。
【請求項2】
前記ミシン用アタッチメントは、前記可動部の前記延出量の調節により、前記レバーの静止位置を調節して、前記押え具を前記下端位置から上昇した位置に保持するためのものである請求項1に記載のミシン用アタッチメント。
【請求項3】
前記本体部及び前記可動部とは別に、前記加工材の小片を保持するハンドを含むアームをさらに備えており、前記アームは、前記ハンドに保持した前記小片を前記可動部の先端位置まで移動させるものである請求項1又は2に記載のミシン用アタッチメント。
【請求項4】
前記可動部を前記本体部に取り付けたときに、前記可動部は、前記本体部に螺合されており、前記可動部を回転させて、前記延出量を調節可能である請求項1〜3のいずれかに記載のミシン用アタッチメント。
【請求項5】
レバーの回転操作により、加工材の押え具を下端位置から上昇させることができるミシンであって、
前記レバーの静止位置を調節する調節機構を備えており、
前記調節機構は、本体部と、前記本体部に取り付けられた可動部とを備えており、
前記本体部は、前記レバーの回転移動と一体に移動し、
前記可動部は、その先端を前記ミシンに当接させて、前記レバーを静止させるものであり、
前記可動部の前記本体部からの延出量を調節可能であることを特徴とするミシン。
【請求項6】
前記調節機構は、前記可動部の前記延出量の調節により、前記レバーの静止位置を調節して、前記押え具を前記下端位置から上昇した位置に保持するためのものである請求項5に記載のミシン。
【請求項7】
前記加工材の小片を保持するハンドを含むアームをさらに備えており、前記アームは、前記ハンドに保持した前記小片を前記可動部の先端位置まで移動させるものである請求項5又は6に記載のミシン。
【請求項8】
前記可動部は、前記本体部に螺合されており、前記可動部を回転させて、前記延出量を調節可能である請求項5〜7のいずれかに記載のミシン。
【請求項9】
前記ミシンの本体部を支持する支持台をさらに備えており、前記支持台は、前記加工材の送り方向と直交する方向において、前記押え具側から前記本体部の内側に進むにつれて高さが低くなるように傾斜している請求項5〜8のいずれかに記載のミシン。
【請求項10】
前記ミシンの本体部を支持する支持台をさらに備えており、前記支持台は、前記加工材の送り方向に進むにつれて高さが低くなるように傾斜している請求項5〜9のいずれかに記載のミシン。
【請求項11】
請求項1から4のいずれかに記載のミシン用アタッチメントが取り付けられたミシンを用いた縫製方法であって、
前記押え具の下側に前記加工材を置き、
前記可動部の前記延出量の調節により、前記レバーの静止位置を調節して、前記押え具を前記下端位置から上昇した位置に保持し、前記保持状態で前記加工材を縫製することを特徴とする縫製方法。
【請求項12】
前記加工材と前記押え具との間に薄小片を挟み、前記薄小片の抜き取り力の程度により、前記可動部の前記延出量を設定する請求項11に記載の縫製方法。
【請求項13】
前記加工材にさらに前記加工材を重ねて縫い合わせる際に、前記可動部の先端と前記ミシンの一部との間に、前記加工材の小片を挟んで、前記レバーの静止位置を変化させ、前記押え具を前記小片の厚さ分だけ上昇した位置に保持し、前記保持状態で前記加工材を縫製する請求項11に記載の縫製方法。
【請求項14】
請求項5から10のいずれかに記載のミシンを用いた縫製方法であって、
前記押え具の下側に前記加工材を置き、
前記可動部の前記延出量の調節により、前記レバーの静止位置を調節して、前記押え具を前記下端位置から上昇した位置に保持し、前記保持状態で前記加工材を縫製することを特徴とする縫製方法。
【請求項15】
前記加工材と前記押え具との間に薄小片を挟み、前記薄小片の抜き取り力の程度により、前記可動部の前記延出量を設定する請求項14に記載の縫製方法。
【請求項16】
前記加工材にさらに前記加工材を重ねて縫い合わせる際に、前記可動部の先端と前記ミシンの一部との間に、前記加工材の小片を挟んで、前記レバーの静止位置を変化させ、前記押え具を前記小片の厚さ分だけ上昇した位置に保持し、前記保持状態で前記加工材を縫製する請求項14に記載の縫製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−125688(P2011−125688A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240854(P2010−240854)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(508170003)株式会社ラ・モード (3)
【Fターム(参考)】