説明

ミシン

【課題】 縫い速度を調整する調整部を備えたミシンであって、使用者の意図しない要因で縫い速度が変わってしまうことを抑制するミシンを提供すること。
【解決手段】
ベッド部2と、ベッド部2から立設する脚柱部3と、脚柱部3からベッド部2に対向して延在するアーム部4と、アーム部4に設けられ、縫い速度を調整するスライドボリウム10とを備えたミシン1であって、スライドボリウム10は、アーム部4の使用者側に対向する面に突設され、アーム部4に対して相対移動することで縫い速度を調整するスライダー12と、スライダー12に回動自在で、スライダー12より下方に吊り下げて突出する状態と、スライダー12に収納された状態と、を有する調整つまみ13と、を備えるミシン1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫い速度を調整する縫い速度調整部を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンとして、ベッド部と、ベッド部の端部から立設する脚柱部と、脚柱部の上端からベッド部に対面して延在するアーム部と、を備え、ミシンのベッド部と対向するアーム下面に縫い速度調整部とを備え、縫い速度調整部は吊り下げ式の縫い速度を調整する調整部と、調整部をスライドさせる操作部とを有するものがある(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−207540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のミシンでは、カーテンなどの大きなものを縫製する際に、縫い目の右側の部分で布が大きな塊となり、ミシンのアーム部の下を通そうとして、吊り下げ式の縫い速度を調整する縫い速度調整部に布が触れてしまい、縫い速度が変わってしまう問題がある。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みて成されたものであり、縫い速度調整部は縫い速度を調整する調整部を備えたミシンであって、使用者の意図しない要因で縫い速度が変わってしまうことを抑制するミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の課題解決手段は、ベッド部と、前記ベッド部から立設する脚柱部と、前記脚柱部から前記ベッド部に対向して延在するアーム部と、前記アーム部に設けられ、縫い速度を調整する縫い速度調整部とを備えたミシンであって、前記縫い速度調整部は、前記ミシン使用時に前記アーム部の使用者側に対向する面に突設され、前記アーム部に対して相対移動することで縫い速度を調整する調整部と、前記調整部に支持され、前記調整部より下方に突出自在な操作部とを備え、前記縫い速度調整部が、前記調整部より前記操作部が下方に突出した第1状態と、前記調整部に前記操作部が重合して収納される第2状態とに変位自在である構成である。
【0007】
本発明の第2の課題解決手段は、前記第2状態において、前記操作部は、少なくとも前記操作部と対向する前記調整部の面に設けられた係合部と、前記係合部と係合する前記操作部に設けられた被係合部とが係合して前記調整部に収納される構成である。
【0008】
本発明の第3の課題解決手段は、前記係合部と前記被係合部とが凹凸嵌合する構成である。
【0009】
本発明の第4の課題解決手段は、前記操作部は、前記調整部にピンを介して回動自在に軸支される構成である。
【0010】
本発明の第5の課題解決手段は、前記操作部は、前記第2状態で前記調整部の先端面の外形と同一又は小さく形成されている構成である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のミシンでは、操作部を調整部より下方に吊り下げて突出した第1状態とすることで、縫い速度を調整するために操作部を操作する際、布を押さえる手の移動量と、針先を凝視する視点の移動量とが少なくて済む。さらに、操作部を収納した第2状態とすることで、例えば、カーテンなどの大きなものを縫製する際に、縫製するものをミシンのアーム部の下を通そうとしても縫い速度調整部に触れにくくし、縫い速度調整部に布が触れて使用者の意図に反して縫い速度が変わってしまうことを抑制する。
【0012】
また、第2状態において、操作部は、少なくとも操作部と対向する調整部の面に設けられた係合部と、係合部と係合する操作部に設けられた被係合部とが係合して調整部に収納されることで、別部材を用いることなく調整部に操作部を収納した状態を保持でき、操作性を向上できる。
【0013】
また、第2状態において、係合部と被係合部とが凹凸嵌合することで部品の構造を単純にできる。
【0014】
また、操作部が調整部にピンを介して回動自在に軸支されるため、第1状態と第2状態との変形が容易であるため、縫い速度調整部に布が触れて使用者の意図に反して調整部が移動することなく、縫い速度が変わってしまうことを抑制する。
【0015】
また、操作部は、第2状態で調整部の先端面の外形に対して納まる大きさであるため、縫い速度調整部をミシンのアーム部に組み付けることを容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係るミシンの正面図である。
【図2】図1に示すスライドボリウムの調整つまみを下方に吊り下げて突出した状態の拡大斜視図である。
【図3】図1に示すスライドボリウムの調整つまみを収納した状態の拡大斜視図である。
【図4】図2に示すスライダーと調整つまみの拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施例に係るミシン1の正面図である。図1に示すように、ミシン1は、ベッド部2と、ベッド部2の図1における右端から立設する脚柱部3と、脚柱部3の上端側からベッド部上面2aに対向して延在するアーム部4とを備える。アーム部4の頭部5の図1の手前左下には、縫製作業の起動と停止を指令するスタート/ストップスイッチ6が設けられ、頭部下面5aからは縫い針22を取付けた針棒21と、布押さえ23が突出している。頭部5の背面には、布押さえ23を上下に移動させる布押さえレバー24が設けられている。また、アーム部4の前面には、選択モード表示LED&選択スイッチ7と、模様番号等選択スイッチ8と、及び主軸回転数、模様番号などを表示する7セグメントLED9が設けられている。さらに、アーム部前面4a(ミシン1使用時にアーム部4の使用者側に対向する面)にスライドボリウム10(縫い速度調整部)を備え、スライドボリウム10は、帯状の電気抵抗体(図示せず)を内蔵したボリウム部11と、電気抵抗体の表面をスライド(アーム部4に対して相対移動する)するスライダー12(調整部)と、スライダー12を指で摘んでスライドさせる調整つまみ13(操作部)と、から構成される。ボリウム部11は、アーム部前面4aの内部に設置される。また、アーム部前面4aは貫通穴であるアーム部スライド穴4bを有する。
【0018】
図2は、図1に示すスライドボリウム10の調整つまみ13を下方に吊り下げて突出した状態(第1状態)の拡大斜視図である。スライダー12は、先端面12cにスライダー12より一回り小さな略直方体形状の雄側ヒンジ12aを備えることで上方から見て凸字形状となり、雄側ヒンジ12aの下方にはピン14が貫通するピン孔が開口している。このピン孔の直径は、ピン14の直径より僅かに大きい。調整つまみ13は、略U字形状の溝13bを形成する左右対称の雌側ヒンジ13aを備え、雌側ヒンジ13a(図2では上方)にはピン14が挿入固定されるピン孔が開口される。このピン孔の直径は、ピン14の直径より僅かに小さい。そして、調整つまみ13の溝13bは、スライダー12の雄側ヒンジ12aに嵌入され、雄側ヒンジ12aと雌側ヒンジ13aのそれぞれに設けたピン孔にピン14を挿入する。これにより調整つまみ13は、上下方向にのみ回動可能に吊り下げられ、雄側ヒンジ12aに連結される。
【0019】
また、スライダー12の雄型ヒンジ12aは外周の長手方向に凹部12bを有し、調整つまみ13の雌型ヒンジ13aは溝13bの内周の長手方向に凸部13cを有し、凹部12bと凸部13cとが嵌合するように設けられる。
【0020】
図3は、図1に示すスライドボリウム10の調整つまみ13を畳み込んで収納した状態(第2状態)の拡大斜視図である。調整つまみ13は、ピン14を中心に上方向に回動され、スライダー12に調整つまみ13が重合して収納される。このとき、調整つまみ13は、雄型ヒンジ12aに設けられた左右対称の凹部12bと、雌型ヒンジ13aに設けられた左右対称の凸部13cとが凹凸嵌合してスライダー12に収納される。調整つまみ13は、スライダー12に収納されると固定されて動かない。さらに、雄型ヒンジ12aは雌型ヒンジ13aの溝13bに収納される。このとき、調整つまみ13は、スライダー12の先端面12cの外形に対して収まるような大きさである。また、スライドボリウム10が、スライダー12より調整つまみ13が下方に突出した第1状態と、スライダー12に調整つまみ13が重合して収納される第2状態とに変位自在である。
【0021】
図4は、図2に示すスライダー12と調整つまみ13の拡大斜視図である。図2〜4より、図1の手前側から見ると調整つまみ13の外形は、スライダー12の先端面12cの外形より左右の幅、上下の高さが共に小さい。また、スライダー12の雄型ヒンジ12aは左右対称に凹部12bを有し、調整つまみ13の雌型ヒンジ13aは左右対称に凸部13cを有し、凹部12bと凸部13cとが嵌合するように設けられる。
【0022】
本発明の実施形態の動作について説明する。
【0023】
例えば、カーテンなどの大きなものを縫製する際、調整つまみ13がピン14を中心に上方向に回動され、スライダー12が左右対称に有する凹部12bと、調整つまみ13が左右対称に有する凸部13cと、を嵌合させて固定されると、調整つまみ13はスライダー12に収納された状態とする。次に使用者は、スタート/ストップスイッチ6を押して縫製作業を開始する。そして、想定していた縫い速度と異なっている場合、使用者は、調整つまみ13を左方向あるいは右方向へスライドさせて、適当な縫い速度に調整しながら縫製を行う。
【0024】
また、通常の縫製では、スライダー12に左右対称に設けられる凹部12bと、調整つまみ13に左右対称に設けられる凸部13cと、の嵌合を外して調整つまみ13を下方に吊り下げて突出した状態とする。次に使用者は、スタート/ストップスイッチ6を押して縫製作業を開始する。そして、想定していた縫い速度と異なっている場合、使用者は、調整つまみ13を左方向あるいは右方向へスライドさせて、適当な縫い速度に調整しながら縫製を行う。
【0025】
さらに、ミシン1を組み立てる際、アーム部前面4aの内側(図示なし)からスライドボリウム10を組み付ける際にスライドボリウム10の調整つまみ13を畳み込んで収納した状態で組み付ける。
【0026】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0027】
本発明のミシン1では、調整つまみ13をスライダー12より下方に吊り下げて突出した状態とすることで、縫い速度を調整するために調整つまみ13を操作する際、布を押さえる手の移動量と、縫い針22を凝視する視点の移動量とが少なくて済む。さらに、調整つまみ13を収納した状態とすることで、例えば、カーテンなどの大きなものを縫製する際に、縫製するものをミシン1のアーム部4の下を通そうとしてもスライドボリウム10に触れにくくし、スライドボリウム10に布が触れて使用者の意図に反して縫い速度が変わってしまうことを抑制する。
【0028】
また、スライダー12の有する凹部12bと、調整つまみ13の有する凸部13cとが嵌合することで、別部材を用いることなくスライダー12に調整つまみ13を収納した状態を保持でき、操作性を向上できる。
【0029】
また、調整つまみ13は、収納された状態で、スライダー12の外形に納まる大きさであるため、スライドボリウム10をアーム部4のアーム部スライド穴4bに組み付けることを容易にできる。
【0030】
また、スライドボリウム10をアーム部前面4aに突設することで、例えば、カーテンなどの大きなものを縫製する際に、縫製するものをミシン1のアーム部4の下を通そうとしてもスライドボリウム10に触れにくくし、スライドボリウム10に布が触れて使用者の意図に反して縫い速度が変わってしまうことを抑制する。
【0031】
また、調整つまみ13を回動自在とすることで、例えば、カーテンなどの大きなものを縫製する際に、縫製するものをミシン1のアーム部4の下を通そうとしてもスライドボリウム10に触れにくくし、スライドボリウム10に布が触れて使用者の意図に反して縫い速度が変わってしまうことを抑制する。
【0032】
また、雄型ヒンジ12aの幅より雌型ヒンジ13aの幅が広いため、使用者が操作するときにつまみやすい。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下に示す態様に変更しても良い。
【0034】
・本実施形態ではスライダー12の雄型ヒンジ12aは左右対称に凹部12bを有し、調整つまみ13の雌型ヒンジ13aは左右対称に凸部13cを有し、凹部12bと凸部13cは嵌合するが、スライダー12の雄型ヒンジ12aは左右対称に凸部を有し、調整つまみ13の雌型ヒンジ13aは左右対称に凹部を有しても良い。
【0035】
・本実施形態ではスライダー12の雄型ヒンジ12aは左右対称に凹部12bを有し、調整つまみ13の雌型ヒンジ13aは左右対称に凸部13cを有し、凹部12bと凸部13cは嵌合するが、左右対称ではなく片方にのみ凹部12b、凸部13cを有しても良い。
【0036】
・本実施形態ではスライダー12の雄型ヒンジ12aは左右対称に凹部12bを有し、調整つまみ13の雌型ヒンジ13aは左右対称に凸部13cを有しているが、スライダー12aの雄型ヒンジに凸部を有し、調整つまみ13の雌型ヒンジ13aに凹部を有しても良い。
【0037】
・本実施形態では、ピン14を回動中心としてスライダー12に調整つまみ13を畳み込んで収納する構造であるが、スライダー12及び調整つまみ13に凹凸形状の溝を設けて、調整つまみ13を上方向にスライド移動させてスライダー12に重ねて収納する構造でも良い。
【符号の説明】
【0038】
1 ミシン
2 ベッド部
3 脚柱部
4 アーム部
10 スライドボリウム(縫い速度調整部)
12 スライダー(調整部)
13 調整つまみ(操作部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッド部と、
前記ベッド部から立設する脚柱部と、
前記脚柱部から前記ベッド部に対向して延在するアーム部と、
前記アーム部に設けられ、縫い速度を調整する縫い速度調整部とを備えたミシンであって、
前記縫い速度調整部は、前記ミシン使用時に前記アーム部の使用者側に対向する面に突設され、前記アーム部に対して相対移動することで縫い速度を調整する調整部と、
前記調整部に支持され、前記調整部より下方に突出自在な操作部とを備え、
前記縫い速度調整部が、前記調整部より前記操作部が下方に突出した第1状態と、前記調整部に前記操作部が重合して収納される第2状態とに変位自在であるミシン。
【請求項2】
前記第2状態において、前記操作部は、少なくとも前記操作部と対向する前記調整部の面に設けられた係合部と、前記係合部と係合する前記操作部に設けられた被係合部とが係合して前記調整部に収納される請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記第2状態において、前記係合部と前記被係合部とが凹凸嵌合する請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記操作部は、前記調整部にピンを介して回動自在に軸支される請求項1乃至3のいずれか1項に記載のミシン。
【請求項5】
前記操作部は、前記第2状態で前記調整部の先端面の外形と同一又は小さく形成されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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