説明

ミトコンドリア組成物及びその使用

ミトコンドリアの異常を治療するための組成物及び方法を提供する。組成物は、ミトコンドリアを標的とする部位(例えば親油性陽イオン)を有する化合物を含む。ある化合物は、対象(例えば哺乳動物)においてホスホクレアチン/クレアチンの比を増加させることに有効である。他の化合物は、対象においてホスホクレアチン/クレアチンの比を減少させる。例示化合物は、下記構造(式Ia):


ここで、RがH又はリン酸塩であり、二重結合がNとCとの間又はNとCとの間に存在し;Rがミトコンドリアを標的とする部位であり;Rがアルキル基、アルキルアリール基、アルキルヘテロアリールスペーサ基、開裂可能なリンカー基であるか、又は、存在せず;RがH、アルキル基、アリル基又はヘテロアリール基であり;Rがアルキル基、アリル基又はヘテロアリール基であり;NとCとNとが少なくとも5つの原子を含む複素環を共に形成しているか、NとNとR−Rとが上に定義された通りであるか、若しくは、NとRとが少なくとも4つの原子を含む複素環を共に形成する;で定義される化合物か、又は、この化合物の薬学的に許容可能な塩又は薬学的に許容可能なプロドラッグである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2007年9月7日に提出された米国仮特許出願第60/970,683号に基づく優先権の利益を主張し、可能な範囲でその全体を参照として組み込む。
【0002】
本発明の態様は、一般に、ミトコンドリアを標的とする組成物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
クレアチン、又は2−(カルバムイミドイル−メチル−アミノ)酢酸は、筋肉及び神経細胞へのエネルギー供給を助ける天然の窒素有機酸であり、脊椎動物の肝臓で合成される。クレアチンは、S−アデノシル−L−メチオニン(SAM)をメチルドナーとして用いてグアニド酢酸をメチル化するGAMT(グリシンアミジノトランスフェラーゼとしても知られているグアニジノ酢酸N−メチルトランスフェラーゼ)を含む2つのステップの酵素プロセスを経て、アミノ酸アルギニン、メチオニン及びグリシンから合成される。グアニジノ酢酸自体は、アミノ酸アルギニン及びグリシンから腎臓で生成される。肝臓で作られるか、又は、消化を通して得られると、クレアチンは、筋肉及び脳などの細胞中に蓄えられる。ミトコンドリアの酵素クレアチン(リン)キナーゼは、ATPリン酸塩のクレアチンへの移行を触媒し、クレアチンリン酸を生成する。エネルギー需要が高い場合(例えば、筋力発揮又は脳活動)にクレアチンリン酸がADPにリン酸塩を供与してATPを生成するように、その反応は可逆的である。クレアチン及びクレアチンリン酸のいずれもが筋肉、脳及び血液でみられる。
【0004】
最も多量な供給源である食肉加工品を用いると、通常の混合食により、一日当たり約1〜2gのクレアチンが供給される(Persky and GA Brazeau, Pharmacol Rev,53:161−176(2001))。ミトコンドリアの異常にクレアチンを使用する根拠は、ホスホクレアチン(PCr)蓄積を増加させて、ミトコンドリアの機能が混乱する結果として生じるATPの減少を防止することである。ミトコンドリア性筋障害の患者は、筋肉のPCrが減少し、脳のPCr:ATP比が低下することが示されている(Eleff et al.,Proc Natl Acad Sci USA,81:3529−3533(1984);Montagna et al.,Ann Neurol 31:451−452(1992);Radda et al.,Biochim Biophys Acta,71:15−19(1995))。健康なコントロール被験者及びスポーツ選手の研究によって、筋肉クレアチン含量が低い場合に、クレアチン補給が非常に有効であることが実証されている(Harris et al.,Clin Sci(Lond)83:367−374(1992))。ミトコンドリア異常の患者における短期試験では、クレアチン補給は、より高い負荷の嫌気性活動及び有酸素活動を改善したが、より低い負荷の有酸素活動には効果がなかった(Tamopolsky et al.,Muscle Nerve 20:1502−1509(1997))。ミトコンドリアの異常におけるクレアチンの長期的使用による有利な効果についてはわかっていないが、330g/日という高投薬量でも副作用は報告されていない(Harris et al.,Clin Sci(Lond)83:367−374(1992))。
【0005】
クレアチンは、ミトコンドリアの呼吸の潜在的アゴニストである(Walsh et al.,Journal of Physiology,537(Pt3):971−978(2001))。ホスホクレアチン(PCr)は、ミトコンドリアのADPで促進される呼吸の重要なレギュレーターである。PCrは、ADPにミトコンドリアの呼吸の感受性を低下させるが、Crには逆の効果がある。静止状態から高負荷運動までの移行においてPCr/Cr比が低下すると、ADPに対するミトコンドリア呼吸の感受性が効果的に増加するであろう。脳切片培地を用いた試験において、20mMのクレアチンは、ミトコンドリアの活動を充分に促進した(Li et al.,Cell 119:873−887(2004))。ミトコンドリアの形態操作と同様に、クレアチン処理は、後シナプス肥厚並びに樹状突起棘及びニューロンシナプスの活性依存性の形態的可塑性を増大させる。したがって、ミトコンドリア機能の薬物的強化は、神経機能及び全体的代謝の健康を著しく増進させる。
【0006】
本発明は、ミトコンドリアの異常の少なくとも1つの症状を治療又は緩和するためにミトコンドリアを標的とする化合物を提供することを目的とする。
【0007】
別の目的は、ミトコンドリアを標的とする部位に作用可能に結合したミトコンドリア代謝産物の投与によりミトコンドリアの異常を治療する方法を提供することである。
【発明の概要】
【0008】
ミトコンドリアの異常を治療するための組成物及び方法を提供する。その組成物は、ミトコンドリアを標的とする部位(例えば、親油性陽イオン)を有する化合物を含む。ある化合物は、対象(例えば、哺乳動物)のクレアチンリン酸/クレアチンの比を上昇させるのに有効である。他の化合物は、対象のクレアチンリン酸/クレアチンの比を低下させる。例示化合物は、下記構造:
【0009】
【化1】

【0010】
ここで、RがH又はリン酸塩であり、二重結合がNとCとの間又はNとCとの間に存在し;
がミトコンドリアを標的とする部位であり;
がアルキル基、アルキルアリール基、アルキルヘテロアリールスペーサ基、開裂可能なリンカー基であるか、又は、存在せず;
がH、アルキル基、アリル基又はヘテロアリール基であり;
がアルキル基、アリル基又はヘテロアリール基であり;又は、
とCとNとが少なくとも5つの原子を含む複素環を共に形成しているか、NとNとR−Rとが上に定義された通りであるか、若しくは、NとRとが少なくとも4つの原子を含む複素環を共に形成し;で定義される化合物、
又は、この化合物の薬学的に許容可能な塩又は薬学的に許容可能なプロドラッグである。
【0011】
上記二重結合がCとNとの間にあれば、陽電荷は一般にN上に存在する。上記二重結合がCとNとの間にあれば、陽電荷は一般にN上に存在する。
【0012】
代表的な化合物は、式Ib及びIcを含む。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
また、ミトコンドリアを標的とする部位を含むクレアチン類似化合物を提供する。ミトコンドリアを標的とする部位を含むように修飾され得る代表的なクレアチン類似化合物は、これらに限定されないが、シクロクレアチニン(1−カルボキシメチル−2−イミノイミダゾリドン)、N−クレアチンリン酸(N−ホスホリルクレアチン)、シクロクレアチニンホスフェート(3−ホスホリル−1−カルボキシメチル−2−イミノイミダゾリドン)、1−カルボキシメチル−2−アミノイミダゾール、1−カルボキシメチル−2,2−イミノメチルイミダゾリドン、1−カルボキシエチル−2−イミノイミダゾリドン、N−エチル−N−アミジノグリシン及びb−グアニジノプロピオン酸を含む。
【0016】
ミトコンドリアを標的とする部位に作用可能に結合され得る更なる化合物は、これらに限定されないが、葉酸塩/葉酸、スクシナート、オロテート、ウリジン、シチジン、ピルベート、ビタミンA/レチン酸、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、NADH、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)、NADPH、アスコルビン酸、葉酸、アデノシン、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン一リン酸(AMP)、グリセロール、ノノエート、s−アデノシルメチオニン(SAM)、サイクリックグアノシン1リン酸(cGMP)、サイクリックAMP(cAMP)、パルミチン酸塩、アセチル−1−カルニチンチオクト酸、α−リポ酸、カルディオリピン、コレステロール、アセチルCoA、アセチルCoA−SH、マロニルCoA、グルタメート、メチレンブルー、アスコルビン酸塩、亜硝酸塩、α−ケトグルタル酸、酢酸塩、アセトアルデヒド、リポ酸塩、グルタチオン、グリセルアルデヒド3−リン酸塩、リンゴ酸塩、オキサロ酢酸塩、フマラート、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、ビオチン、バルプロエート/バルプロ酸、ホスホエノールピルベート、グルコース、グルコース6−リン酸塩、フルクトース、フルクトース−6−リン酸、フルクトース1,6−ビスリン酸塩、グリコゲン、UDP−グルコース、グルコース1−リン酸塩、グルタミン、グルコサミン及び類似化合物を含む。
【0017】
本明細書に記載した化合物は、1つ又はそれ以上の不斉中心を有することがあり、従って、1つ又はそれ以上の立体異性体として存在し得る。そのような立体異性体は、単一の鏡像体、鏡像体の混合物、ジアステレオマーの混合物、又は、ラセミ混合物として存在することができる。
【0018】
開示されている化合物を1つ以上含む組成物を用いてミトコンドリアの異常を治療することができる。治療することができるミトコンドリア性筋障害には、カーンズ−セイヤ症候群、リー症候群、ミトコンドリアDNA消耗症候群(MDS)、ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス及び脳卒中様発作(MELAS)、赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん(MERRF)、ミトコンドリア神経胃腸脳筋障害(MNGIE)、神経性薄弱運動失調網膜色素変性症(NARP)、及び、進行性外眼筋麻痺(PEO)が含まれる。
【0019】
さらに、関節炎、鬱血心不全、非活動性萎縮、超らせん化萎縮、ハンチントン病及びマックアードル病の1つ以上の症状の治療にこの化合物を用いることができる。
【0020】
本発明の詳細な説明
I.定義
開示されている主題の説明及び特許請求の範囲への記載において、以下の用語は、以下に記載されている定義に従って用いられる。
【0021】
本明細書及び添付されている特許請求の範囲で用いられているように、単数形態「1種の(a)」、「1種の(an)」及び「その(the)」は、文脈で別段の定めがない限り、複数の指示対象を含むことに留意するべきである。したがって、例えば、「1種の化合物(a compound)」を含む組成物への言及は、2種以上の化合物の混合物を含む。また、「又は(or)」という言葉は、文脈で別段の定めがない限り、一般に「及び/又は(and/or)」を含む意味で用いられていることに留意するべきである。
【0022】
ここで用いられているように、「アルキル」は、直鎖アルキル基、直鎖アルケニル基又は直鎖アルキニル基を含む飽和脂肪族基若しくは不飽和脂肪族基、又は、分枝アルキル基、分枝アルケニル基若しくは分枝アルキニル基、又は、シクロアルキル基、シクロアルケニル基若しくはシクロアルキニル(脂環式)基、又は、アルキルで置換されたシクロアルキル基、アルキルで置換されたシクロアルケニル基若しくはアルキルで置換されたシクロアルキニル基、及び、シクロアルキル基で置換されたアルキル基、シクロアルキル基で置換されたアルケニル基若しくはシクロアルキル基で置換されたアルキニル基を指す。直鎖又は分枝のアルキル基は、別段の定めがない限り、その骨格中に30個以下(例えば、直鎖についてはC1−C30(分枝鎖についてはC3―C30))の、好ましくは20個以下の炭素原子を有する。同様に、好ましいシクロアルキル基は、それらの環状構造中に3−10個の炭素原子を有し、より好ましくはその環状構造中に5個、6個又は7個の炭素を有する。アルキル基は、これらに限定されないが、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アミノ基、チオ基、エーテル基、エステル基、カルボキシ基、オキソ基及びアルデヒド基を1又はそれ以上を含む基で置換されていてもよい。また、アルキル基は、1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0023】
「アルケニル」及び「アルキニル」という用語は、特に、1つ以上の二重結合又は三重結合と、上記アルキル基に対して可能な置換基とを含み、長さ(例えばC−C30)が類似している不飽和脂肪族を指す。
【0024】
ここで用いられているように、「アリル」は、5、6及び7員環の芳香族、ヘテロ環式、縮合芳香族、縮合ヘテロ環式、二芳香族、又は、二ヘテロ環式系であって、任意にハロゲン基、アルキル基、アルケニル基、及び、アルキニル基で置換されているものを指す。ここで用いられているように、広く定義されている「Ar」は、0〜4個のヘテロ原子を含むことができる5、6及び7員環の単環芳香族基、例えば、ベンゼン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン及びピリミジン等を含む。環状構造中にヘテロ原子を有するこれらのアリール基を「アリル複素環」又は「ヘテロ芳香族化合物」と呼んでもよい。その芳香環は、1又はそれ以上の部位において、上述したような置換基、例えば、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ、ニトロ、メルカプト、イミノ、アミド、ホスフォネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルフォニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族又はヘテロ芳香族部位、−CF、−CN等で置換されていてもよい。また、「Ar」という用語は、2以上の環を有する多環系を含み、2以上の炭素原子が隣接する2つの環(該環は「縮合した環」である)に共通しており、該環の少なくとも1つが芳香族(例えば、他の環は、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリル及び/又は複素環であることができる。)である環を含む。複素環の例には、限定するものではないが、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフラニル、ベンゾチオフェニル、ベンズオキサゾリル、ベンズオキサゾリニル、ベンズチアゾリル、ベンズトリアゾリル、ベンズテトラゾリル、ベンズイソオキサゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンズイミダゾリニル、カルバゾリル、4aHカルバゾリル、カルボリニル、クロマニル、クロメニル、シンノリニル、デカヒドロキノリニル、2H,6H−1,5,2−ジチアジニル、ジヒドロフロ[2,3b]テトラヒドロフラン、フラニル、フラザニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリル、lH−インダゾリル、インドレニル、インドリニル、インドリジニル、インドリル、3H−インドリル、イサチノイル、イソベンゾフラニル、イソクロマニル、イソインダゾリル、イソインドリニル、イソインドリル、イソキノリニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、メチレンジオキシフェニル、モルホリニル、ナフチリジニル、オクタヒドロイソキノリニル、オキサジアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,2,5−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、オキサゾリジニル、オキサゾリル、オキシインドリル、ピリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサチニル、フェノキシアジニル、フタラニジル、ピペラニジル、ピペリジニル、ピペリドニル、4−ピペリドニル、ピペロニル、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリドオキサゾール、ピリドイミダゾール、ピリドチアゾール、ピリジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル、ピロリニル、2H−ピロリル、ピロリル、キナゾリニル、キノリニル、4H−キノリジニル、キノキサリニル、キヌクリジニル、テトラヒドロキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、テトラゾリル、6H−1,2,5−チアジアジニル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、1,2,5−チアジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、チアントレニル、チアゾリル、チエニル、チエノチアゾリル、チエノオキサゾリル、チエノイミダゾリル、チオフェニル、及び、キサンチニルが含まれる。
【0025】
ここで用いられているように、「アルコキシカルボニル」は、下記式の構造を有する置換基を指す:
【0026】
【化4】

【0027】
ここで、Rは直鎖、分岐、又は、環式のアルキル基であり、jは約1〜約12である。
【0028】
ここで用いられているように、「アルコキシカルバミノ」は、下記式の構造を有する置換基を指す:
【0029】
【化5】

【0030】
ここで、Rはアルコキシ基であり、Rは水素、アルコキシアルキル基、又は、アルカノイル基であり、jは約1〜約12である。
【0031】
ここで用いられているように、「アルキルアリール」は、アリール基(例えば芳香族又はヘテロ芳香族基)で置換されたアルキル基を指す。
【0032】
「不斉中心」という用語は、4つの異なる種類の基が結合している炭素原子を指す。標準的な方法を用いて鏡像体対の分離するのに必要とされる適切な光学分割カラム、溶離剤及び条件の選択は、当業者に周知である(例えば、Jacques,J.et al,“Enantiomers,Racemates,and Resolutions”,John Wiley and Sons,Inc.1981を参照されたい。)。
【0033】
ここで用いられているように、「鏡像体(enantiomers)」という用語は、互いの鏡像で重ねることができない2つの立体異性体を指す。
【0034】
ここで用いられているように、「ジアステレオマー(diastereomer)」という用語は、鏡像でもなく、重ねることもできない2つの立体異性体を指す。
【0035】
ここで用いられているように、「複素環」又は「ヘテロ環」は、3〜10個の環原子を含む単環式又は二環式の環の環炭素又は環窒素を介して結合している環状基を指し、好ましくは、炭素と1〜4個のヘテロ原子とからなり、該ヘテロ原子は、それぞれ、非過酸化酸素、硫黄、及び、N(Y)からなる群より選択され、Yは存在しないか又はH、O、(C1−4)アルキル、フェニル又はベンジルであり、さらに、任意に1〜3個の二重結合を含み、1つ以上の置換基で任意に置換されている5−6個の環原子を含む単環式又は二環式の環の環炭素又は環窒素を介して結合している環状基を指す。複素環の例は、限定されないが、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフラニル、ベンゾチオフェニル、ベンズオキサゾリル、ベンズオキサゾリニル、ベンズチアゾリル、ベンズトリアゾリル、ベンズテトラゾリル、ベンズイソオキサゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンズイミダゾリニル、カルバゾリル、4aH−カルバゾリル、carbolinyl、クロマニル、クロメニル、シンノリニル、デカヒドロクイノリニル、2H,6H−1,5,2−ジチアジニル、ジヒドロフロ[2,3−b]テトラヒドロフラン、フラニル、フラザニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリル、lH−インダゾリル、インドレニル、インドリニル、インドリジニル、インドリル、3H−インドリル、イサチノイル、イソベンゾフラニル、イソクロマニル、イソインダゾリル、イソインドリニル、イソインドリル、イソキノリニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、メチレンジオキシフェニル、モルホリニル、ナフチリジニル、オクタヒドロイソキノリニル、オキサジアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,2,5−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、オキサゾリジニル、オキサゾリル、オキシインドリル、ピリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサチニル、フェノキシアジニル、フタラニジル、ピペラニジル、ピペリジニル、ピペリドニル、4−ピペリドニル、ピペロニル、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリドオキサゾール、ピリドイミダゾール、ピリドチアゾール、ピリジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル、ピロリニル、2H−ピロリル、ピロリル、キナゾリニル、キノリニル、4H−キノリジニル、キノキサリニル、キヌクリジニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロイソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、テトラゾリル、6H−1,2,5−チアジアジニル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、1,2,5−チアジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、チアントレニル、チアゾリル、チエニル、チエノチアゾリル、チエノオキサゾリル、チエノイミダゾリル、チオフェニル及びキサンチニルを含む。
【0036】
ここで用いられているように、「ヘテロアリール基」は、酸素と、非過酸化酸素、硫黄、N(Y)からなる群より選択される1、2、3又は4個のヘテロ原子であって、該Yは、存在しないか、又は、H、O、(C−C)アルキル、フェニル、若しくは、ベンジルであるヘテロ原子と、からなる5個又は6個の環原子を含む単芳香環を指す。ヘテロアリール基の例は、限定されないが、フラニル、イミダゾリル、トリアゾリル、トリアジニル、オキサゾイル、イソオキサゾイル、チアゾリル、イソチアゾイル、ピラゾリル、ピロリル、ピラジニル、テトラゾリル、ピリジル、又はそのN−酸化物、チエニル、ピリミジニル、又はそのN−酸化物、インドリル、イソキノリル、又はそのN−酸化物、キノリル、又はそのN−酸化物等を含む。「ヘテロアリール」という用語は、それらから誘導された約8〜10個の環原子を有するオルト結合した二環式の複素環基、特にベンズ誘導体又はプロピレン、トリメチレン若しくはテトラメチレンジラジカルをそれに結合させることにより誘導されたものを含みうる。ヘテロアリールの例は、フラニル、イミダゾリル、トリアゾリル、トリアジニル、オキサゾイル、イソオキサゾイル、チアゾリル、イソチアゾイル、ピラキソリル、ピロリル、ピラジニル、テトラゾリル、ピリジル若しくはそのN−酸化物、チエンチル、ピリミジニル若しくはそのN−酸化物、インドリル、イソキノリル若しくはそのN−酸化物、及び、キノリル若しくはそのN−酸化物等であってもよい。
【0037】
ここで用いられているように、「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を指す。
【0038】
「対象(host)」という用語は、これらに限定されないが、霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジなどの哺乳動物を含むミトコンドリアを有する多細胞生物を指す。
【0039】
「ミトコンドリア代謝産物」という用語は、ミトコンドリアで生じる代謝の出発物質、中間物又は最終産物である有機化合物を指す。
【0040】
ここで用いられているように、「非核の細胞小器官」という用語は、核以外の細胞中に存在する任意の細胞膜境界構造を指す。ここで用いられているように、「光学異性体」という用語は、「鏡像体」という用語と同義である。
【0041】
「作用可能に結合されている(Operably linked)」とは、構成要素がそれらの通常の機能を発揮するように構成された隣接状態を指す。例えば、化合物に作用可能に結合されているミトコンドリアを標的とする部位は、結合した化合物をミトコンドリアに局在するように移動させるであろう。結合された化合物は、ミトコンドリア内で生物学的活性を保持する。
【0042】
ここで用いられているように、「細胞小器官」という用語は、葉緑体、ミトコンドリア及び核等の細胞膜境界構造を指す。「細胞小器官」という用語は、天然及び合成細胞小器官を含む。
【0043】
オルト、メタ、及び、パラという用語は、それぞれ、1,2−、1,3−及び1,4−において2基置換されたベンゼンに用いられる。例えば、1,2−ジメチルベンゼンという名称と、オルト−ジメチルベンゼンという名称とは、同義である。
【0044】
「局在シグナル(Localization Signal)又は配列(Sequence)又はドメイン(Domain)」、又は、「ターゲットシグナル(Targeting Signal)配列(Sequence)又はドメイン(Domain)」は、互いに代用することができ、分子を特定細胞、組織、細胞小器官又は細胞内部位に移動させるシグナルを指す。そのシグナルは、ポリヌクレオチド、ポリペプチド又は炭水化物部位であってもよく、あるいは、結合した分子を望まれる位置に移動させるために十分な有機化合物又は無機化合物であってもよい。細胞小器官局在シグナルの例は、当業界で知られている核局在化シグナル、及び、表1、表2及びEmanuelson et al.,Predicting Subcellular Localization of Proteins Based on Their N−terminal Amino Acid Sequence.Journal of Molecular Biology,300(4):1005−16,2000 Jul 21,and in Cline and Henry,Import and Routing of Nucleus−encoded Chloroplast Proteins.Annual Review of Cell&Developmental Biology.12:1−26,1996(参照としてこれらの全体をここに組み込む。)で与えられるような、当業界で知られている他の細胞小器官局在シグナルである。表1及び2に一覧されている配列全体を含んでいる必要がないこと、及び、結合した分子を特定の細胞小器官に移動させるようにその配列が機能するのであればこれらの配列を切断することを含めた修飾を行うことが開示の範囲内であることは、理解されるであろう。本開示の細胞小器官局在シグナルは、表1及び2の中の配列に対して80〜100%の相同性を有することができる。適切な細胞小器官局在シグナルの1種は、受容体:リガンドメカニズムにおいて標的にされている細胞小器官と相互作用を有しないものを含む。細胞小器官局在シグナルは、例えば、総電荷(例えば陽電荷)を有するか又は与えるシグナルを含む。ミトコンドリアのような負に帯電した細胞小器官を標的にするために正に帯電したシグナルを用いることができる。正に帯電した細胞小器官を標的にするために負に帯電したシグナルを用いることができる。
【0045】
ここで用いられているように、「薬学的に許容できる塩」は、式I、II及びIIIによって定義される化合物の誘導体であって、親化合物の酸性塩又は塩基性塩を作ることによって親化合物を修飾したものを指す。薬学的に許容できる塩の例は、限定されないが、アミンなどの塩基性残基の無機塩又は有機酸塩;及び、カルボン酸などの酸性残基のアルカリ又は有機塩を含む。薬学的に許容できる塩は、従来の無毒な塩、又は、例えば無毒な無機酸又は有機酸から形成された親化合物の第四級アンモニウム塩を含む。そのような従来の無毒な塩は、塩化水素、臭化水素、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸等の無機酸に由来するもの;及び、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン、パモン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン、フェニル酢酸、グルタミン酸、ベンゾイン、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、ナフタリンスルホン、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、エタンシュウ酸及びエタンイセチオン酸等の有機酸から調製される塩を含む。
【0046】
従来の化学的方法により、塩基性又は酸性部位を含む親化合物から化合物の薬学的に許容できる塩を合成することができる。一般に、これらの化合物の遊離酸又は遊離塩基形態と、適切な化学量の塩基又は酸とを、水、有機溶媒又はこれらの混合物中で反応させることにより、そのような塩を調製することができ;一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール又はアセトニトリルなどの非水性溶媒が好ましい。適切な塩の一覧は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,20th ed.,Lippincott Williams & Wilkins,Baltimore,MD,2000,p.704;and“Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use,”P.Heinrich Stahl and Camille G.Wermuth,Eds.,Wiley−VCH,Weinheim,2002に記載されている。
【0047】
ここで普通に用いられているように、「薬学的に許容できる」ことは、医療的判断の範囲内の化合物、材料、組成物及び/又は投薬形態であって、過度の毒性、刺激、アレルギー反応若しくは他の問題がない人間及び動物の組織に接触させる使用、又は、合理的な利益/リスク比と相応する合併症に適していることを指す。
【0048】
ここで用いられているように、「プロドラッグ」は、不活性の(又は著しく活性が低い)形態で投与される薬学的物質(薬)を指す。プロドラッグは、投与されて体内(インビボ)で活性化合物へ代謝される。
【0049】
「ラセミ化合物」、「ラセミ混合物」又は「ラセミ体」という用語は、鏡像体の等量の混合物を指す。
【0050】
ここで用いられているように、「立体異性体」という用語は、同じ原子から構成され、同じ結合順序であるが、相互に置き換えられない異なる原子の三次元配置を有する化合物を指す。三次元構造を立体配置(configurations)と呼ぶ。
【0051】
ここで用いられているように、「溶媒和物」は、溶剤分子と溶質分子との相互作用によって形成される化合物を指す。
【0052】
ここで用いられているように、「治療する(treating)」という用語は、特定の疾患又は病状に関連する症状を緩和すること、及び/又は、該症状を防止若しくは除去することを含む。
【0053】
ここで用いられているように、「開裂可能なリンカー」は、ミトコンドリアを標的とする部位にクレアチン又はクレアチン類似化合物を共有結合で結合させることができる分子、部位、原子又は原子団を指す。「リンカー」という用語は、非ペプチジルリンカー又はペプチジルリンカーを指すことがある。リンカーに共有結合で細胞毒性化合物を結合させるために、リンカーは、任意に、下に定義されるように共有結合で結合している鎖を有していてもよい。ここで用いられているように、「ペプチジルリンカー」という用語は、少なくとも2つのアミノ酸を具え、かつ、ミトコンドリアを標的とする部位に結合できるペプチドを指す。リンカーは、カルボキシル末端にクロロメチルケトン(これに限定されない)などの反応性基を有していてもよい。ペプチジルリンカーのペプチドは、細胞内にみられるタンパク分解酵素によって開裂可能であってもよい。非ペプチジルリンカーの例は、限定されないが、ジスルフィド結合を含む。酵素(例えば加水分解)が存在又は非存在の状況で非ペプチジルリンカーを開裂してもよい。
【0054】
II.化合物
A.ミトコンドリアを標的とするクレアチン化合物
ミトコンドリアを標的とするように修飾されたクレアチン化合物を提供する。ある化合物は、対象(例えば哺乳動物)においてホスホクレアチン/クレアチンの比を上昇させるのに有効である。例示化合物は、下記構造:
【0055】
【化6】

【0056】
ここで、RがH又はリン酸基であり、二重結合がNとCとの間又はNとCの間に存在し;
がミトコンドリアを標的とする部位であり;
がアルキル基、アルキルアリール基、アルキルヘテロアリールスペーサ基、開裂可能なリンカーであるか、又は、存在せず;
はH、アルキル基、アリル基又はヘテロアリール基であり;
はアルキル基、アリル基又はヘテロアリール基であり;又は、
とCとNとが少なくとも5個の原子を含む複素環を共に形成するか、NとNとR−Rとが上に定義された通りであるか、若しくは、NとRとが少なくとも4個の原子を含む複素環を共に形成する;で定義される化合物であるか、
又は、この化合物の薬学的に許容可能な塩又はプロドラッグである。
【0057】
代表的な化合物は、式Ib及びIcの化合物を含む。
【0058】
【化7】

【0059】
【化8】

【0060】
ミトコンドリアを標的とする部位を含む化合物として適切なものは、限定されないが、下記表中に示されている類似化合物を含むクレアチン類似化合物からも調製することができる。一般に、ミトコンドリアを標的とする部位は、カルボン酸基を介して共有結合でクレアチン又はクレアチン類似化合物に結合される。
【0061】
【化9−1】

【0062】
【化9−2】


【0063】
【化9−3】

【0064】
ミトコンドリアを標的とする部位を含むように修飾可能なクレアチン類似化合物のその他の例は、限定されないが、シクロクレアチニン(1−カルボキシメチル−2−イミノイミダゾリジン、N−クレアチンリン酸(N−ホスホリルクレアチン)、シクロクレアチニンリン酸(3−ホスホリル−1−カルボキシメチル−2−イミノイミダゾリジン)、1−カルボキシメチル−2−アミノイミダゾール、1−カルボキシメチル−2,2−イミノメチルイミダゾリジン、1−カルボキシエチル−2−イミノイミダゾリジン、N−エチル−N−アミジノグリシン及びb−グアニジノプロピオン酸を含む。
【0065】
ここに記載されている化合物は、1つ又はそれ以上の不斉中心を有し、1つ又はそれ以上の立体異性体として存在していてもよい。そのような立体異性体は、単一の鏡像体、ジアステレオマーの混合物又はラセミ混合物として存在することができる。
【0066】
B.更なる化合物
ミトコンドリアを標的にできる更なる化合物は、限定されないが、葉酸塩/葉酸、スクシナート、オロチン酸、ウリジン、シチジン、ピルベート、ビタミンA/レチン酸及びバルプロエート/バルプロ酸を含む。カルボン酸を有する化合物をミトコンドリアを標的とする部位(例えば、以下で論じる親油性陽イオン)に作用可能に結合させることができる。これらの化合物を用いてミトコンドリア活性を調節することができる。バルプロ酸誘導体を用いてミトコンドリア活性を下方制御するか又は阻害することができる。ミトコンドリア活性の下方制御又は阻害は、てんかん及び統合失調症の治療に有効である可能性がある。カルボン酸を有しない化合物を化学的に修飾して、カルボン酸を有するようにすることによって、親油性陽イオンに結合させることができる。
【0067】
C.ミトコンドリアを標的とする部位
開示されている組成物は、ミトコンドリアを標的とする1つ又はそれ以上の部位を含む。ミトコンドリアを標的とする部位は、この分野で知られており、生理学的条件下で該化合物に陽電荷を伝達する小分子と同様に、親油性陽イオンも含む。ミトコンドリアを標的とする代表的な部位は、限定されないが、アルキルトリフェニルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、テトラフェニルアルソニウム、トリベンジルアンモニウム、ホスホニウム、ポリアルギニン、ポリリジン、及び、1〜3個のカルボイミノ、スルホイミノ又はホスホイミノ単位(Kolomeitsev et al,Tet.Let.,Vol.44,No.33,5795−5798(2003)に記載されている)を含む非局在化された親油性陽イオンを含む。適切なアルキルトリフェニルホスホニウム部位は、限定されないが、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、又は、ブチレン基などの1〜6個の炭素を有するC−C直鎖アルキレン基を含むアルキルトリフェニルホスホニウム部位を含む。
【0068】
親油性陽イオンは、特殊な吸収メカニズムを必要とせずにリン脂質二重層を直接通り抜けることができ、大きい膜電位によりミトコンドリア内に実質的に蓄積するので、ミトコンドリアを標的とする部位として好ましい。TPP陽イオンは、その大きい疎水性半径により、他の陽イオンと比較して容易にリン脂質二重層を通り抜けることができる。1つの実施形態において、開示された化合物は、疎水性を増大させるように修飾されたTPP誘導体を含む。例えば、Asin−Cayuela et al.,FEBS Lett.,30:571(1−3),9−16(2004)に記載されているように、炭素鎖リンカーの長さを伸ばすことにより、標的部位の疎水性を増大させることができる。
【0069】
1つの理論に拘束されずに、親油性陽イオンは、正に帯電した細胞内区画から負に帯電した区画に、2つの区画の分子の電気化学ポテンシャルが等しくなる程に充分大きな濃度勾配が構築されるまで、吸収されると考えられている。膜電位が60mV増大するごとに、親油性陽イオンがミトコンドリア内に約10倍蓄積されるであろう。原形質膜の内部は、30−60mVの負電位を有するので、親油性陽イオンは、細胞質ゾル内に5〜10倍蓄積されるであろう。ミトコンドリア膜電位は一般に約140〜180mVであるので、細胞質ゾル内の親油性陽イオンは、ミトコンドリア内に蓄積されるであろう。
【0070】
D.基のリンク
ミトコンドリアを標的とする部位は、直接的に又はスペーサ基を介して開示された化合物に結びつくことができる。スペーサ基は、約C〜約C12、又は、その部分的範囲であるC〜C、C〜C若しくはその他の鎖長を有するアルキルアリールスペーサ基又はアルキルヘテロアリールスペーサ基を含む。スペーサ基は、任意に1つ以上の二重結合及び/又は三重結合で置換されている。ある態様において、アルキルアリール基及びアルキルヘテロアリール基の原子の総数は、約6〜約50である。
【0071】
スペーサ基は、開裂可能な連結又は結合を任意に含むことができ、化合物がミトコンドリアに入るとミトコンドリアを標的とする部位を開裂することができる。限定されないが、代表的な開裂可能な結合には、アミド結合、エステル結合及びジスルフィド結合を含まれる。
【0072】
III.製造方法
アルキルトリフェニルホスホニウム陽イオンの合成は、当業界で知られている。例えば、MP Murphy and RA Smith.Anna Rev Pharmacol Toxicol.2007;47:629−56(2007)を参照されたい。クレアチン又はクレアチン類似化合物と親油性陽イオンとを反応させることにより、ここに記載されている化合物を合成することができる。例えば、クレアチン又はクレアチン類似化合物のカルボン酸基を、酸塩化物又はエステルのようなさらに求電子性の基に変換することができる。修飾されたクレアチン又はクレアチン類似化合物とトリフェニルホスホニンとを反応させて、ここに記載されている化合物を形成することができる。あるいは、クレアチン又はクレアチン類似化合物のカルボン酸基又はさらに反応性の官能基と求電子性基を含むグリニャール試薬と反応させて、アルキル又はアリルスペーサーを導入することができる。その後、この化合物とトリフェニルホスフィンとを反応させてここに記載されている化合物を生成することができる。
【0073】
更に別の実施形態においては、PhP+(CHI等のハロアルキルトリフェニルホスホニウム塩とクレアチン化合物の脱プロトン化した水酸基とを反応させて、4個の炭素のアルキル鎖並びにエーテル若しくはエステル結合を介して結合したTPP陽イオンを形成する。
【0074】
ここに記載されている化合物の合成のための反応機構の例を以下に示す:
【0075】
【化10】

【0076】
商業的に入手可能なサルコシンエステル塩酸塩(1)とN,N’ジ−Boc−N”−トリフリルグアニジン(3)との反応により、保護グアニジンが提供される(Baker et al.,Org.Syn.,78,91098(2002))。保護グアニジンを水性水酸化ナトリウムでエステル加水分解することにより、カルボン酸ナトリウム(4)が生産される。(4)と商業的に入手可能な3−ブロモプロピルトリフェニルホスホニウムブロマイド(5)との反応により、対応エステル(6)が提供される(Schweizer and Creasy,J Org.Chem.,36,2379−2381(1971))。酸性条件下のエステルの脱保護によりホスホニウム塩(1)が提供される。
【0077】
あるいは、機構2又は機構3に記載されている合成方法でホスホニウム塩(1)を調製してもよい。
【0078】
【化11】

【0079】
商業的に入手可能な3−ブロモプロピルトリフェニルホスホニウムブロミド(5)と、商業的に入手可能なBoc−サルコシン(7)とを、化学量論の水酸化ナトリウムの存在下で反応させることにより、対応エステル(8)が提供される。希釈されたHBrを用いてBoc基を除去することにより、ホスホニウム塩(9)が提供される。ホスホニウム塩(9)と保護されたグアニジントリフルオロメタンスルホンアミドとの反応により、グアニジン(10)が提供される。最終脱保護により、ホスホニウム塩(1)が生産される。
【0080】
【化12】

【0081】
この分野で周知の手法を用いて、3−ブロモプロパノール及びトリフェニルホスフィンから3−ヒドロキシプロピルトリフェニルホスホニウムブロマイド(12)が調製されている(Page et al.,Synlett.,1022−1024(2003);Ceruti et al.,J.Med.Chem.,35,3050−3058(1992))。アルコール(12)にサルコシンを結合させると、対応エステル(13)が形成される。エステル(12)の脱保護により、ホスホニウム塩(1)が提供される。
【0082】
IV.調合物
安全で有効な担体であって、不適当な生物学的副作用又は望まれない相互作用を引き起こさずに個体に投与可能な材料からなる薬学的に許容可能な担体を用いて、ここに記載されている化合物の1つ以上を含む調合物を調製してもよい。担体は、医薬調合物中の構成要素であって、有効成分以外のすべての要素である。ここで一般に用いられているように、「担体」は、限定されないが、希釈剤、バインダー、潤滑剤、崩壊剤、充填材、pH調整剤、保存剤、酸化防止剤、溶解度向上剤、及び、コーティング組成物を含む。
【0083】
また、担体は、可塑剤、色素、着色剤、安定化剤及び流動促進剤を含んでいてもよいコーティング組成物の構成要素のすべてを含む。“Pharmaceutical dosage form tablets”,eds.Liberman et.al.(New York,Marcel Dekker,Inc.,1989),“Remington−The science and practice of pharmacy”,20th ed.,Lippincott Williams & Wilkins,Baltimore,MD,2000,and“Pharmaceutical dosage forms and drug delivery systems”,6th Edition,Ansel et al.,(Media,PA:Williams and Wilkins,1995)等の標準参考文献に記載されているように遅延放出、持続放出、及び/又は、パルス放出の投薬調合物を調製してもよい。これらの参考文献は、担体、材料、設備、錠剤及びカプセル剤を調製するプロセス、並びに、錠剤、カプセル剤及び果粒剤の遅延放出の投薬形態についての情報を提供する。
【0084】
適切なコーティング材の例は、限定されないが、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースポリマー;酢酸フタル酸ポリビニル、アクリル酸ポリマー及び共重合体、並びに、商品名EUDRAGIT(登録商標)(Roth Pharma,Westerstadt,ドイツ)の下で商業的に入手可能なメタクリル樹脂、ゼイン、セラック、及び、多糖類を含む。
【0085】
コーティング材は、さらに、可塑剤、色素、着色剤、流動促進剤、安定剤、気孔形成剤及び界面活性剤のような従来の担体を含んでいてもよい。
【0086】
錠剤、ビーズ、果粒又は粒子を含む薬の中に存在する薬学的に許容可能な任意的な添加剤は、限定されないが、希釈剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、安定剤、及び、界面活性剤を含む。希釈剤は「充填材」とも呼ばれ、一般に、錠剤の圧縮又はビーズ及び果粒剤の形成のために実用的なサイズになるように固体の処方形態の体積を増加させるのに必要である。適切な希釈剤は、限定されないが、リン酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、微結晶性セルロース、カオリン、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、加水分解されたデンプン、α化デンプン、シリコーン二酸化物、酸化チタン、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及び、粉砂糖を含む。
【0087】
バインダーは、固体の投薬形態に粘着質を与え、錠剤若しくはビーズ又は顆粒を投薬形態の形成後に確実に無傷なままであるようにするために用いられる。適切なバインダー材料は、限定されないが、デンプン、α化デンプン、ゼラチン、砂糖(スクロース、グルコース、デキストロース、ラクトース及びソルビトールを含む)、ポリエチレングリコール、ろう、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースを含むセルロース、及び、ビーガム(veegum)を含む天然又は合成ゴム、アクリル酸及びメタクリル酸の共重合体、メタクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル共重合体、アミノアルキルメタクリル酸塩共重合体、ポリアクリル酸/ポリメタクリル酸及びポリビニルピロリドン等の合成高分子を含む。
【0088】
潤滑剤は、錠剤製造を容易にするために用いられる。適切な潤滑剤の例は、限定されないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセロール、ポリエチレングリコール、滑石、及び、鉱油を含む。
【0089】
崩壊剤は、投与後の投薬形態の崩壊又は「分解」を容易にするために用いられ、限定されないが、一般に、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、α化デンプン、粘土、セルロース、アルギニン、ゴム、又は、架橋されたPVP(ポリプラスドンXL、GAFケミカル社)等の架橋重合体を含む。
【0090】
安定剤は、例えば酸化反応を含む薬分解反応を阻害又は遅延させるために用いられる。
【0091】
界面活性剤は、陰イオン性、陽イオン性、両性、又は、非イオン性界面活性剤であってもよい。適切な陰イオン性界面活性剤は、限定されないが、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン及び硫酸イオンを含むものである。陰イオン性界面活性剤の例は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の長鎖アルキルスルホンのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及び、アルキルアリルスルホン酸塩;デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸ナトリウム;ビス−(2−エチルチオキシル)ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸ナトリウム;及び、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩を含む。
【0092】
陽イオン性界面活性剤は、限定されないが、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニウム、塩化ジステアリルジメチルベンジルアンモニウム、ポリオキシエチレン及びココナッツアミン等の第四アンモニウム化合物を含む。非イオン界面活性剤の例は、エチレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールミリスチレート、モノステアリン酸グリセリン、ステアリン酸グリセリル、ポリグルセリル−4−オレアート、ソルビタン有機酸塩、スクロース有機酸塩、PEG−150ラウレート、PEG−400モノラウレート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリソルベート、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、PEG−1000セチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルエーテル、ポロキサマー(登録商標)401、ステアロイルモノイソプロパノールアミド及びポリオキシエチレン水素化獣脂アミドを含む。両性界面活性剤の例は、N−ドデシルβ−アラニンナトリウム、N−ラウリルβイミノジプロピオナートナトリウム、ミリスト両性酢酸塩、ラウリルベタイン及びラウリルスルホベタインを含む。
【0093】
錠剤、ビーズ、果粒又は粒子は、必要に応じて、湿潤剤、乳化剤、染料、pH緩衝剤又は保存剤等の小量の無毒な補助的物質を含んでいてもよい。
【0094】
A.他の活性薬剤
本組成物は、さらに、1つ以上の活性薬剤を任意に含む。適切なクラスの活性試薬は、限定されないが、抗生物質、抗微生物薬、抗ニキビ剤、抗菌物質、抗真菌物質、抗ウイルス物質、ステロイド抗炎症剤、非ステロイド性抗炎症剤、麻酔剤、抗痒疹剤、抗原虫薬、抗酸化物質、抗ヒスタミン剤、ビタミン、及び、ホルモンを含む。
【0095】
1.抗生物質
代表的な抗生物質は、限定されないが、過酸化ベンゾイル、オクトピロックス、エリスロマイシン、亜鉛、テトラサイクリン、トリクロサン、アゼライン酸及びその誘導体、フェノキシエタノール及びフェノキシプロパノール、酢酸エチル、クリンダマイシンとメクロサイクリン;フラビノイド等のセボスタット(sebostats);α−ヒドロキシ酸とβ−ヒドロキシ酸;及び、硫酸シムノール及びその誘導体等の胆汁酸塩、デオキシコール酸塩及びコール酸塩を含む。抗生物質は抗真菌物質であり得る。適切な抗真菌物質は、限定されないが、クロトリマゾール、エコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ミコナゾール、オキシコナゾール、スルコナゾール、ブテナフィン、ナフチフィン、テルビナフィン、ウンデシレン酸、トルナフタート、及び、ナイスタチンを含む。
【0096】
1つの実施形態において、抗生物質の濃度は、最終組成物の重量に基づいて、約0.01%〜約20%であり、好ましくは約1%〜約15%であり、より好ましくは約6%〜約12%である。
【0097】
2.非ステロイド性抗炎症剤
非ステロイド性の抗炎症薬の代表例は、限定されず、ピロキシカム、イソキシカム、テノキシカム、スドキシカム等のオキシカム;アスピリン、ジサルシド、ベノリラート、トリリサート、サファプリン、ソルプリン、ジフルニサルおよびフェンドザール等のサリチル酸塩;ジクロフェナク、フェンクロフェナック、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、イソキセパック、フロフェナック、チオピナック、ジドメタシン、アセマタシン、フェンチアザク、ゾメピラック、クリンダナク、オキセピナク、フェルビナク及びケトロラック等の酢酸誘導体;メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、ニフルム酸、トルフェナム酸酸等のフェナム酸;イブプロフェン、ナプロキセン、ベノキサプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、フェンブフェン、インドプロフェン、ピルプロフェン、カルプロフェン、オキサプロジン、プラノプロフェン、ミロプロフェン、チオキサプロフェン、スプロフェン、アルミノプロフェン、及び、チアプロフェン酸等のプロピオン酸誘導体;フェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、フェプラゾン、アザプロパゾン及びトリメタゾン等のピラゾールを含む。これらの試薬の皮膚科学的に許容可能な塩及びエステルの他にも、これらの非ステロイド性抗炎症剤の混合物を使用してもよい。例えば、フルフェナム酸誘導体であるエトフェナマートは、局所適用に特に有効である。
【0098】
1つの実施形態において、非ステロイド性の抗炎症剤の濃度は、最終組成物の重量に基づいて、約0.01%〜約20%であり、好ましくは約1%〜約15%であり、より好ましくは約6%〜約12%である。
【0099】
3.ステロイドの抗炎症剤等のコルチコステロイド
ステロイドの抗炎症薬の代表例は、限定されず、ヒドロコルチゾン、ヒドロキシルトリアムシノロン、α−メチルデキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸クロベタゾール、デソニド、デスオキシメタゾン、酢酸デゾキシコルチコステロン、デキサメタゾン、ジクロリゾン、二酢酸ジフロラゾン、吉草酸ジフルコルトロン、フルアドレノロン、フルクロロンアセトニド、フルドロコルチゾン、ピバル酸フルメタゾン、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルコルチンブチルエステル、フルオコルトロン、酢酸フルプレドニリデン(フルプレドニリデン)、フルランドレノロン、ハルシノニド、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、コルチゾン、コルトドキソン、フルセトニド、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルオロゾン、フルラドレノロン、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルロゾン、フルランドレノロンアセトニド、メドリゾン、アムシナフェル、アムシナフィド、ベタメタゾン及びそのエステルの残留物、クロロプレドニゾン、酢酸クロロプレドニソン、クロコルテロン、クレスシノロン、ジクロリゾン、ジフルプレドナート、フルクロロニド、フルニソリド、フルオロメトロン、フルペロロン、フルプレドニソロン、吉草酸ヒドロコルチゾン、シクロペンチルプロピオン酸ヒドロコルチゾン、ハイドロコルタメート、メプレドニゾン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、トリアムシノロン及びこれらの混合物を含む。
【0100】
1つの実施形態において、ステロイドの抗炎症剤の濃度は、最終組成物の重量に基づいて、約0.01%〜約20%であり、好ましくは約6%〜約12%であり、より好ましくは約1%〜約15%である。
【0101】
4.抗微生物薬
適切な抗微生物薬には、限定はないが、β−ラクタム薬剤、キノロン薬剤、シプロフロキサシン、ノルフロキサシン、テトラサイクリン、エリスロマイシン、アミカシン、トリクロサン、ドキシサイクリン、カプレオマイシン、クロルヘキシジン、クロールテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、クリンダマイシン、エタンブトール、メトロニダゾール、ペンタミジン、ゲンタマイシン、カナマイシン、リネオマイシン、メタサイクリン、メテナミン、ミノサイクリン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、ミコナゾール等の抗菌剤、抗真菌剤、抗原生動物剤及び抗ウイルス剤が含むまれる。また、塩酸テトラサイクリン、famesol、エリスロマイシンエストレート、ステアリン酸エリスロマイシン(塩)、硫酸アミカシン、塩酸ドキシサイクリン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、塩酸クロールテトラサイクリン、塩酸オキシテトラサイクリン、塩酸クリンダマイシン、塩酸エタンブトール、塩酸メトロニダゾール、塩酸ペンタミジン、硫酸ゲンタマイシン、硫酸カナマイシン、塩酸リネオマイシン、塩酸メタサイクリン、馬尿酸メテナミン、マンデル酸メテナミン、塩酸ミノサイクリン、硫酸ネオマイシン、硫酸ネチルマイシン、硫酸パラモマイシン、硫酸ストレプトマイシン、トブラマイシン硫酸塩、塩酸ミコナゾール、塩酸アマンファジン、硫酸アマンタジン、トリクロサン、オクトピロックス、ナイスタチン、トルナフタート、クロトリマゾール、アニデュラファンギン、ミカファンギン、ボリコナゾール、ラノコナゾール、シクロピロックス及びこれらの混合物も含まれる。
【0102】
1つの実施形態において、抗微生物の薬剤の濃度は、最終組成物の重量に基づいて、約0.01%〜約20%であり、好ましくは約1%〜約15%であり、より好ましくは約6%〜約12%である。
【0103】
B.投与量
開示されているすべてのクレアチン化合物について、さらなる研究が行われれば、様々な患者の様々な状態の治療に適切な投薬量レベルについて情報が得られるので、当業者は、レシピエントの治療経過、年齢及び健康状態を考慮して、適切な投与量を決めることができるであろう。選択される投与量は、所望の治療効果、投与経路、及び、所望の治療期間に依存する。哺乳動物には、一般に、体重当たり0.001〜10mg/kgの投薬量を毎日投与する。静脈内注射又は静脈内点滴については、一般に、投与量がより少なくてもよい。
【0104】
V.治療法
A.ミトコンドリア性筋障害
本開示の実施形態は、ミトコンドリアを標的として化合物を届けて、ミトコンドリアの機能を調節するか又はミトコンドリアの異常の1つ以上の症状を治療する組成物及び方法を提供する。ここに開示されている組成物を用いて適切に治療できるミトコンドリアの異常は、限定されないが、ミトコンドリア性筋障害を含む。ミトコンドリア性筋障害は、カーンズ−セイヤ症候群、リー症候群、ミトコンドリアDNA消耗症候群(MDS)、ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス及び脳卒中様発作(MELAS)、赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん(MERRF)、ミトコンドリア神経胃腸脳筋症(MNGIE)、神経障害、運動失調及び色素性網膜炎(NARP)、並びに、進行性外眼筋麻痺(PEO)を含む。
【0105】
ここに開示されている組成物を用いてホスホクレアチン/クレアチンの比の変えることにより、ミトコンドリアのATP生産を調節することができる。開示されている化合物の1種又はそれ以上を投与することによって、コントロールと比較してホスホクレアチン/クレアチンの比を上昇させることができる。ミトコンドリア内のホスホクレアチンの量を増加させることは、ミトコンドリアがATPを生産する能力を向上させる。したがって、別の実施形態において、有効量の開示されている組成物を対象に投与することにより対象におけるミトコンドリアのATP生産を増加させる方法を提供する。ATPを生成する能力を増加させることは、細胞がエネルギー問題をより良く処理することを可能にし、それにより、細胞損傷又は細胞死を防ぎ、細胞機能を改善し、細胞治癒及び細胞置換を増加させ、腫瘍発生を防ぐ。
【0106】
B.さらなる疾患
開示されている組成物は、関節炎、鬱血性心不全、非活動性萎縮、脳回転状萎縮、ハンチントン病、マックアードル病、アレキサンダー病、アルツハイマー病、パーキンソン病、アミノ酸異常、運動失調、バース(Barth)、タファジン、心筋症、カルニチン疾患、軟骨毛髪形成不全症、先天型筋ジストロフィー、けいれん、HAM、MELAS、MERRF、非症候群性難聴及びアミノ配糖体誘発難聴(amino−glycoside induced deafness)、DIDMOAD、難聴ジストニア(Deafness−Dystonia)、糖尿病、ジストニー、脳障害、失明、黄斑変性、レーベル遺伝性視神経症(LHON)、脳回転状萎縮症、視神経萎縮、ヴォルフラム、外眼筋麻痺、甲状腺亢進、疲労、運動不耐性、フリードライヒ運動失調症、ハンティングトン、低血糖症、カーンズ−セア、リー症候群、白質萎縮症、カエデシロップ病、Menkes、MILS、MNGIE、多発性対称性脂肪腫症、筋痛、ミオグロビン尿、封入体筋炎、NARP/MILS、腫瘍、感覚性ニューロパシー、後角症候群、傍神経節腫、ピアソン病、横紋筋変性、痙性不全対麻痺、脊髄筋萎縮症、ステュ−ヴェヴィーデマン症候群、乳幼児突然死(SIDS)、ウィルソン病、癌、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、脳卒中、心筋梗塞及び炎症に関連した1つ以上の症状の治療に用いることができる。
【0107】
開示されている組成物を医原性感染−HAART療法、アミノ配糖体抗生物質、COX−2阻害剤に関連する心臓病に用いることができる。
【0108】
1つの実施形態は、開示されているミトコンドリアを標的とする化合物を1又はそれ以上含む栄養補助食品を提供する。その栄養補助食品は、持久力トレーニング、筋力強度増強、骨密度増大、認知機能、創傷治癒、老化防止及び抗肥満/減量、抗活性酸素種(anti−ROS)に用いることができる。
【0109】
C.投与
開示されている化合物を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、経口的、非経口的(筋肉内、腹腔内、静脈内(IV)又は皮下注射)、経皮的(受動的、又は、イオン浸透療法若しくはエレクトロポレーションを用いて)、経粘膜的(鼻、膣、直腸、又は、舌下)投与経路による投与用、又は、生体内分解性挿入物を用いた投与用であってもよく、各投与経路に適する製剤形態で調剤することができる。好ましい実施形態においては、化合物を経口で投与する。別の実施形態においては、化合物を水溶液により非経口で投与する。一般に、有効量のクレアチン化合物又は類似化合物を含むように医薬組成物を提供する。
【0110】
1.経口投与
経口投与用に組成物を調剤することができる。経口の固体投薬形態は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.1990(Mack Publishing社、イーストン、ペンシルバニア、18042)(参照としてここに組込まれている)のChapter89に一般的に記載されている。固体の投薬形態は、錠剤、カプセル剤、丸剤、トローチ若しくはトローチ剤(lozenge)、カシェ剤、ペレット剤、散剤又は果粒剤を含む。また、本組成物を調剤するためにリポソームカプセル封入又はプロテイノイドカプセル封入を用いてもよい(例えば、米国特許4,925,673号で報告されているプロテイノイド小球体)。リポソームカプセル封入を用いてもよく、様々なポリマー(例えば米国特許第5,013,556号)でリポソームを誘導してもよい。治療用にあり得る固体の投薬形態の詳細は、ここに参照として組込まれているMarshall,K.In:Modern Pharmaceutics Edited by G.S.Banker and C.T.Rhodes Chapter 10,1979において与えられる。一般に、調合物は、ABC輸送体配位子(又は化学的に修飾された形態)、並びに、胃環境からの保護及び腸内での生物活性物質の放出を可能にする不活性成分を含む。
【0111】
別の実施形態において、薬学的に許容可能なエマルジョン、溶液、懸濁液及びシロップを含む経口投与用の液体の投薬形態であって、該投薬形態は、不活性希釈剤;湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤等の添加物;及び、甘味剤、香味剤及び芳香剤を含む他の構成要素を含んでいてもよい形態であるものを提供する。
【0112】
組成物を化学的に修飾して誘導体の経口投与が効果的なものにしてもよい。意図される化学的修飾は、一般に、構成分子自体に少なくとも1つの部位を付加することであり、該部位は、(a)タンパク分解の阻害;及び(b)胃又は腸から血流への吸収を許容する。また、構成要素の全体的安定性の増大及び体内の循環時間の伸長が望まれる。PEG化は、製薬用途に好ましい化学的修飾である。用いることができる他の部位は、プロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリプロリン、ポリ−1,3−ジオキソラン及びポリ−1,3,6−チオキソカン(例えば、Abuchowski and Davis(1981)“Soluble Polymer−Enzyme Adducts,”in Enzymes as Drugs.Hocenberg and Roberts,eds.(Wiley−Interscience:New York,N.Y.)pp.367−383;and Newmark,et al.(1982)J.Appl.Biochem.4:185−189を参照されたい)を含む。
【0113】
経口処方において、放出位置は、胃、小腸(十二指腸、空腸若しくは回腸)、又は、大腸であってもよい。当業者は、胃において溶解しないが、十二指腸又は腸中の他の場所で材料を放出する利用可能な製剤処方を有する。好ましくは、ペプチド(あるいは誘導体)の保護すること、又は、腸等の胃環境を越えてペプチド(若しくは誘導体)を放出することによって、放出されても胃環境の悪影響を回避するであろう。
【0114】
胃における完全な耐性を確実にするために、少なくともpH5.0に対して不浸透性のコーティングが必須である。腸溶性コーティングとして用いられるより一般的な不活性成分の例は、セルロースアセテートトリメリテート(CAT)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、HPMCP 50、HPMCP 55、ポリビニルアセテートフタレート(PVAP)、ユードラジット(Eudragit)L30D、アクアテリック(Aquateric)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、ユードラジットL、ユードラジットS及びシェラック(Shellac)である。混合フィルムとしてこれらのコーティングを用いてもよい。
【0115】
コーティング又はコーティングの混合物であって、胃からの保護を意図していないものを錠剤に用いることができる。これは、糖コーティング、又は、錠剤を呑み込むことをより容易にするコーティングを含むことができる。カプセル剤は、乾燥薬剤(すなわち、パウダー)の投与用に固いシェル(ゼラチン等)からなっていてもよく、液体形態用に柔軟なゼラチンシェルを用いてもよい。カシェ剤のシェル材料は、濃いデンプン又は他の食用紙であってもよい。丸剤、トローチ剤、湿製錠剤又は粉薬錠剤用に湿塊化技術(moist massing techniques)を用いることができる。
【0116】
薬剤中に、約1mmの粒径の果粒又はペレットの形態で多重微粒子物として有効成分(又は誘導体)を含むことができる。カプセル投与用の材料の処方設計は、パウダー、軽く圧縮したプラグとして、又は、錠剤としてであってもよい。圧縮によりこれらの薬剤を調製することができる。
【0117】
着色剤及び/又は香味剤が含まれていてもよい。例えば、組成物は、(リポソームカプセル封入又はマイクロスフェアカプセル封入等により)調剤され、さらに、着色剤及び/又は香味剤を含む冷却飲料等の食用製品に含まれていてもよい。
【0118】
2.非経口投与
ここで開示されている非経口投与用の調合薬は、水性又は非水性の無菌溶液、懸濁液又は乳剤を含む。非水性溶媒又は媒体の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイル及びトウモロコシ油等の植物油、ゼラチン、及び、オレイン酸エチル等の注入可能な有機エステルである。そのような投薬形態は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、及び、分散剤等の添加物も含んでいてもよい。例えば、バクテリアを留めるフィルタを用いた濾過によって、組成物に殺菌剤を含ませることによって、組成物を照射することによって、又は、組成物を熱することによって、それらを殺菌してもよい。滅菌水又は他の注射可能な滅菌媒体を使用直前に用いてもそれらを製造することができる。
【0119】
3.粘膜投与
直腸投与用又は膣投与用の組成物は、好ましくは、有効成分に加えてココアバター又は坐薬ワックス等の添加剤を含んでいてもよい坐剤である。鼻投与用又は舌下投与用の組成物は、当業界において周知の標準添加剤を用いて調製される。
【0120】
当業者は、決まり切った実験以上のものを用いることなく、ここに記載されている本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識又は確認することができるであろう。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲により包含されるように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造:
【化1】

ここで、RがH又はリン酸塩であり、二重結合がNとCとの間又はNとCとの間に存在し;
がミトコンドリアを標的とする部位であり;
がアルキル基、アルキルアリール基、アルキルヘテロアリールスペーサ基、開裂可能なリンカー基であるか、又は、存在せず;
がH、アルキル基、アリル基又はヘテロアリール基であり;
がアルキル基、アリル基又はヘテロアリール基であり;
とCとNとが少なくとも5つの原子を含む複素環を共に形成しているか、NとNとR−Rとが上に定義された通りであるか、若しくは、NとRとが少なくとも4つの原子を含む複素環を共に形成する;を有する化合物、
又は、これらの薬学的に許容可能な塩又は薬学的に許容可能なプロドラッグ。
【請求項2】
前記ミトコンドリアを標的とする部位が親油性陽イオンを含む請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記親油性陽イオンがトリフェニルホスホニウムを含む請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記ミトコンドリアを標的とする部位がポリアルギニン又はポリリジンを含む請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記スペーサ基が開裂可能な結合を含む請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記開裂可能な結合がエステル結合である請求項3に記載の化合物。
【請求項7】
下記構造:
【化2】

を有する請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
下記構造:
【化3】

を有する請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物が、(トリフェニルホスホニオ)メチルN−[アミノ(イミニオ)メチル]−N−メチルグリシナート又はその薬学的に許容可能な塩又はプロドラッグである化合物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の化合物と薬学的に許容可能な補形薬とを含む医薬組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の化合物又は請求項10に記載の医薬組成物を対象に投与するステップを具えるホスホクレアチンレベルを上昇させる方法。
【請求項12】
ミトコンドリア性筋障害であるか又はその疑いがある対象に、請求項1〜10のいずれかに記載の化合物を投与するステップを具えるミトコンドリア性筋障害の治療方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、コントロールよりも対象のホスホクレアチン量を増加させるのに有効な量で前記化合物を投与する方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記ホスホクレアチン量の増加が対象のミトコンドリア内で生じている方法。
【請求項15】
前記ミトコンドリア性筋障害は、カーンズ−セイヤ症候群、リー症候群、ミトコンドリアDNA消耗症候群(MDS)、ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス及び脳卒中様発作(MELAS)、赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん(MERRF)、ミトコンドリア神経胃腸脳筋症(MNGIE)、神経障害、運動失調及び色素性網膜炎(NARP)、並びに、進行性外眼筋麻痺(PEO)からなる群より選択される請求項12に記載の方法。
【請求項16】
ミトコンドリアを標的とする部位に作用可能に結合されているミトコンドリア代謝産物。
【請求項17】
前記ミトコンドリアを標的とする部位が親油性陽イオンである請求項16に記載のミトコンドリア代謝産物。
【請求項18】
前記親油性陽イオンがトリフェニルホスホニウムイオンである請求項17に記載のミトコンドリア代謝産物。
【請求項19】
請求項16に記載のミトコンドリア代謝産物において、前記ミトコンドリア代謝産物は、葉酸塩/葉酸、スクシナート、オロテート、ウリジン、シチジン、ピルベート、ビタミンA/レチン酸、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、NADH、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)、NADPH、アスコルビン酸、葉酸、アデノシン、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン一リン酸(AMP)、グリセロール、ノノエート、s−アデノシルメチオニン(SAM)、サイクリックグアノシン1リン酸(cGMP)、サイクリックAMP(cAMP)、パルミチン酸塩、アセチル−1−カルニチンチオクト酸、α−リポ酸、カルディオリピン、コレステロール、アセチルCoA、アセチルCoA−SH、マロニルCoA、グルタメート、メチレンブルー、アスコルビン酸塩、亜硝酸塩、α−ケトグルタル酸、酢酸塩、アセトアルデヒド、リポ酸塩、グルタチオン、グリセルアルデヒド3−リン酸塩、リンゴ酸塩、オキサロ酢酸塩、フマラート、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、ビオチン、バルプロエート/バルプロ酸、ホスホエノールピルベート、グルコース、グルコース6−リン酸塩、フルクトース、フルクトース−6−リン酸、フルクトース1,6−ビスリン酸塩、グリコゲン、UDP−グルコース、グルコース1−リン酸塩、グルタミン、グルコサミン及び類似化合物からなる群より選択されるミトコンドリア代謝産物。
【請求項20】
請求項16〜19のいずれかに記載のミトコンドリア代謝産物をミトコンドリア異常の1以上の症状を緩和するために有効な量で対象に投与するステップを具えるミトコンドリア異常の治療方法。

【公表番号】特表2010−539089(P2010−539089A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524218(P2010−524218)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/075542
【国際公開番号】WO2009/033130
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(510060349)ゲンシア コーポレーション (1)
【氏名又は名称原語表記】GENCIA CORPORATION
【Fターム(参考)】