説明

ミトコンドリア融合剤

【課題】本発明は、新規なミトコンドリア融合ペプチドを含むミトコンドリア融合剤等を提供する。
【解決手段】本発明のミトコンドリア融合剤等は、Asp−Pro構造を持ちアミノ酸数が2〜3個のミトコンドリア融合ペプチドを有効成分として含有する。このペプチドは、Asp−Proのジペプチドであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア融合剤に関し、より詳細にはミトコンドリア融合ペプチドを含有するミトコンドリア融合剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の食生活の欧米化に伴ってカロリーの摂取量及び脂肪の量が増加した結果、脂肪が蓄積した肥満症やメタボリックシンドロームが社会的問題となっている。肥満症やメタボリックシンドロームは、糖尿病、高血圧、動脈硬化等の重篤な疾患につながりやすい。抗肥満効果を持つ医薬品及び食品が精力的に開発されている。
【0003】
肥満症では、脂肪細胞に脂肪が蓄積、すなわち、細胞内のトリグリセリド量の増加が脂肪細胞を肥大化させる場合と、脂肪細胞の数が増える場合とがある。近年、脂肪細胞数が成人期以降でも増加することが明らかとなっている。前駆脂肪細胞から成熟脂肪細胞への分化を抑制し、成熟脂肪細胞数を減少させることや、成熟脂肪細胞の脂肪蓄積を抑制することで肥満の進行を抑え、肥満症を改善させることが期待される。
【0004】
従来、抗肥満効果を持つ物質として、β−コングリシニン(特許文献1)、イソフラボン(特許文献2)、カテキン(特許文献3)等の食品成分が知られている。Val−Val−Tyr−Proからなるペプチドは、血中トリグリセリド濃度の上昇を抑制するように脂質代謝を改善することが知られている(特許文献4)。
【0005】
抗肥満効果を持つ新たな物質のスクリーニング方法としては、分化した脂肪細胞を被検物質の存在下で培養した後、細胞内のミトコンドリアの形態を観察し、分化した脂肪細胞中のミトコンドリアが断片化及び/又は凝集せずに、チューブ状のネットワークを形成しているときに前記被検物質が抗肥満剤であると評価する方法がある(特許文献5)。この方法では、特定の物質を脂肪細胞に与えてミトコンドリアの状態を観察することにより、被検物質に抗肥満効果や内臓脂肪蓄積抑制効果があるかを調べることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−80533号公報
【特許文献2】WO02/004437号明細書
【特許文献3】特開2003−95942号公報
【特許文献4】特許第2805194号公報
【特許文献5】特開2007−228855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規なミトコンドリア融合ペプチドを有効成分として含有するミトコンドリア融合剤、抗肥満剤及び内臓脂肪蓄積抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、さまざまな被検物質を脂肪細胞に与えてミトコンドリア形状を調べた結果、ミトコンドリア融合活性を有する新規なペプチドを発見し、それを有効成分とするミトコンドリア融合剤、抗肥満剤及び内臓脂肪蓄積予防剤に作製するに至った。すなわち、本発明は、Asp−Proを含み、アミノ酸数が2〜3個のミトコンドリア融合ペプチドを有効成分として含有するミトコンドリア融合剤を提供する。
【0009】
特開2003−238589号には、Asp−Pro、Ala−Pro−Ser、Ala−Pro−Leu、Ala−Pro−Lysが、アンジオテンシン変換酵素阻害活性ペプチドとして記載されている。これらのペプチドは、レニン−アンジオテンシン系においてアンジオテンシンIが強力な血圧上昇効果を持つアンジオテンシンIIに変換するのを阻害する。しかし、Asp−Proのミトコンドリア融合活性に基づく抗肥満作用については、今まで全く報告されていなかった。
【0010】
本発明に使用する前記ミトコンドリア融合ペプチドは、好ましくは、Asp−Proのジペプチドである。
【0011】
本発明は、また、前記ミトコンドリア融合ペプチドを有効成分として含有する抗肥満剤や内臓脂肪蓄積抑制剤もまた提供する。
【0012】
本発明は、また、前記ミトコンドリア融合ペプチドを含有し、ミトコンドリア融合活性を示す機能性食品や飼料もまた提供する。
【発明の効果】
【0013】
韓国大学のKimらによれば、3T3−L1前駆脂肪細胞(preadipocyte)の細胞膜にH−ATP合成酵素が存在し、その酵素が脂肪細胞の分化に従って増加する(Exp.Mol.Med,Vol.36,No.5,476−485(2004))。未分化3T3−L1前駆脂肪細胞のミトコンドリアは長いチューブ状のネットワークを形成しているが、前駆脂肪細胞が脂肪細胞に分化すると、ミトコンドリアの構造は断片化あるいは凝集した構造になる。すなわち、ミトコンドリアのダイナミックな形態変化(断片化)は脂肪細胞の分化誘導に重要な役割を果たしている。その証拠として、これまで報告されているF1阻害剤(ミトコンドリアH−ATP合成酵素の触媒部位であるF1を標的とする化合物、例えばレスベラトール、ピーセタノール、ケンフェロール等)は全て脂肪細胞における脂肪滴の蓄積を抑制し、ミトコンドリアをチューブ状に誘導することが明らかとなった。ミトコンドリアの断片化と凝集を抑制し、チューブ状にすることができれば、脂肪細胞の分化誘導を阻害して、細胞内脂肪滴を抑制することにつながる。
【0014】
本発明者らが発見したミトコンドリア融合ペプチドは、ミトコンドリアのチューブ状の形成を促進し、脂肪細胞への脂肪滴の蓄積を阻害する。したがって、これらのペプチドを含有するミトコンドリア融合剤は、抗肥満作用や内蔵脂肪蓄積抑制作用を発揮する。本発明のミトコンドリア融合剤は、抗肥満剤及び内臓脂肪蓄積予防剤として有用である他に、筋量の増加作用を有するので、スポーツマンのための筋力増強剤としての利用も期待される。また、本発明のミトコンドリア融合ペプチドを畜産動物に用いた際には、肉質量の増加効果や脂質の過剰蓄積の予防効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に従う二種類のミトコンドリア融合剤の存在下で培養した前駆脂肪細胞のミトコンドリアの顕微鏡写真(図面代用写真)を、PBSの存在下で培養したネガティブコントロールとともに示す。図中、DPはAsp−Pro、DPCはAsp−Pro−Cys、そしてControlはネガティブコントロールを意味する。なお、三つの写真は、すべて同スケールで拡大したものである。
【図2】本発明に従う二種類のミトコンドリア融合剤を添加して培養した脂肪細胞の顕微鏡写真(図面代用写真)を、PBSの存在下で培養したネガティブコントロールとともに示す。図中、DPはAsp−Pro、DPCはAsp−Pro−Cys、そしてControlはネガティブコントロールを意味する。なお、三つの写真は、すべて同スケールで拡大したものである。
【図3】本発明のミトコンドリア融合剤を添加した二種類の飼料をマウスに投与した際の内臓脂肪蓄積量の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のミトコンドリア融合剤、抗肥満剤及び内臓脂肪蓄積抑制剤(以下、ミトコンドリア融合剤等という)の一実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
まず、本発明のミトコンドリア融合剤等の有効成分であるミトコンドリア融合ペプチドを説明する。このペプチドは、Asp−Proを含むアミノ酸数が2〜3個のミトコンドリア融合活性を有するものであればよい。ペプチドがミトコンドリア融合活性を有するか否かを判定する方法は、特開2007−228855号に詳説されているので、該公報を参照のために本明細書に編入する。具体的には、ミトコンドリア融合ペプチドの候補となる物質の存在下で、分化した脂肪細胞を培養した後、細胞内のミトコンドリアの形態を観察し、分化した脂肪細胞中ミトコンドリアが断片化及び凝集せずに、チューブ状のネットワークを形成しているかどうかを調べる。その際、分化した脂肪細胞を、被検物質の非存在下に培養した場合のミトコンドリアの形態をネガティブコントロールとする。ミトコンドリアをチューブ状にする活性が強い化合物ほど、抗肥満活性が高い。
【0018】
前記ミトコンドリア融合ペプチドは、蛋白質の分解物から得てもよく、化学合成で得られたものを使用してもよい。また、上記ペプチドのアミノ酸配列に対応する塩基配列からなるcDNAを調製した後、これを適当なベクターに組み込んで当該遺伝子を適切な宿主中で発現させることにより、ペプチドを調製することもできる。
【0019】
ミトコンドリア融合ペプチドを蛋白質の分解物から得る場合、その原材料としてカゼイン、ホエー、魚肉蛋白質、卵白等の動物由来の蛋白質、大豆、大豆胚芽、小麦、とうもろこし等の植物由来の蛋白質を広く用いることができる。
【0020】
蛋白質を分解する方法としては、酵素を用いる方法、酸又はアルカリを使用する方法等がある。酵素を使用する場合、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ又はアルカリ性プロテアーゼのいずれを用いてもよい。必要に応じて、2種以上のプロテアーゼを用いても良い。酸、アルカリについても任意のものを使用することができる。
【0021】
上記で得られた蛋白分解物は、そのまま用いてもよく、精製工程を経たものを用いても良い。精製は濃縮、沈殿、脱塩、塩濃度やpH調整による分離、イオン交換樹脂法、限外ろ過法、逆相クロマトグラフィー法等、公知の精製工程を適宜組み合わせて採用することができる。
【0022】
ミトコンドリア融合ペプチドは、公知のペプチド合成法によって化学合成することもできる。例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法、酸化還元法等を挙げることができる。これらのペプチド合成法は固相合成法又は液相合成法のいずれによっても行うことができる。
【0023】
ミトコンドリア融合ペプチドの合成法では、側鎖官能基を有するアミノ酸、例えばチロシンやスレオニンは、当該側鎖官能基を保護しておくのが好ましい。保護基としては、公知の保護基、例えばベンジルオキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ベンジル基等を用いることができ、この保護基は公知の方法により脱保護を行うことができる。
【0024】
本発明のミトコンドリア融合剤等は、前記ミトコンドリア融合ペプチドの一種又は二種以上を単独で用いたものでもよい。また、医薬品、機能性食品、健康補助食品、飲食品等の最終製品に応じて、薬理学上使用可能な助剤や食品添加剤を配合した組成物であってもよい。本発明のミトコンドリア融合剤の形態は、固体、液体、ゾル、ゲル、可塑性組成物等のいずれでもよい。
【0025】
前記薬理学上使用可能な助剤の具体例としては、グルコース(ブドウ糖)、マルトース、フラクトース(果糖)、ガラクトース、トレハロース、オリゴ糖、ソルビット、乳糖、ショ糖、白糖、精製白糖、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、パラチノース、還元パラチノース、粉末還元麦芽糖、水アメ、カルメロース、デキストリン等の糖類;トウモロコシデンプン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、バレイショデンプン、コーンスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、アミノ酸、カオリン、無水ケイ酸、ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、重炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、脂肪酸またはその塩、脂肪酸モノグリセリド及びジグリセリド、アルコール、粘性パラフィン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの担体または賦形剤;結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デキストリン、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、マクロゴールなどの結合剤;合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ロウ類、水素添加植物油、ポリエチレングリコール、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、マクロゴール、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、含水二酸化ケイ素、ショ糖脂肪酸エステルなどの滑沢剤;潤滑剤;結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、トラガントなどの崩壊剤;大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴールなどの界面活性剤;リン酸ナトリウムなどの溶解補助剤;乳酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、クエン酸、Lりんご酸、DLりんご酸、氷酢酸、酢酸、グルコノデルタラクトン、L酒石酸、DL酒石酸、塩酸、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのpH調整剤;吸収促進剤;天然樹脂などの光沢剤;乳化剤;安定化剤;酸化防止剤;保存剤;湿潤剤;着色剤;無痛化剤などが挙げられる。
【0026】
前記食品添加剤の例としては、澱粉のような穀物系粉体、油脂、乳化剤、増粘剤、香料等が挙げられる。前記澱粉の例としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、えんどう豆澱粉、及びこれらにエステル化処理、エーテル化処理、架橋処理、酸処理、酸化処理、湿熱処理、α化等の物理的又は化学的処理を単独であるいは組み合わせて施した加工澱粉を挙げることができる。
【0027】
前記油脂の例としては、大豆油、大豆胚芽油、菜種油、高オレイン酸菜種油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、高リノール酸ひまわり油、ミッドオレイックひまわり油、綿実油、ぶどう種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、胡桃油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、えごま油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、藻類油、及びこれら油脂の水添油、エステル交換油、分別油等から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせたものを挙げることができる。
【0028】
前記乳化剤の例としては、通常、食品用に使用される乳化剤であればよく、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレート、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、アルキルグリコシド酸、エリスリトール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチン等を1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
前記香料の例としては、通常食品に使用される天然系、合成系香料のいずれもが使用できる。増粘剤としては、水溶液にしたときに粘度を上昇させる多糖類、すなわち、アラビアガム、アラビノガラクタン、グアーガム、キサンタンガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、大豆水溶性多糖類(ヘミセルロース)、アルギン酸ナトリウム、プルラン、ペクチン、カラヤガム、ガッティガム、トラガントガム、カードラン、グルコマンナン、キチン、キトサン、微小繊維状セルロース、微結晶セルロース等を挙げることができる。
【0030】
このほかに、コラーゲンペプチド、乳蛋白ペプチド、カゼインペプチド、オリゴペプチド、乳性蛋白濃縮物、えんどう蛋白、ゼラチン等の蛋白質由来の物質、大豆ファイバー、えんどうファイバー等の繊維質、高度分岐環状デキストリン等のデキストリンもまた、添加可能である。
【0031】
本発明のミトコンドリア融合剤等中のミトコンドリア融合ペプチド量は、組成物の用途(医薬又は機能性食品)、摂取量、摂取方法等によって適宜調整される。含有量は、通常、0.0001〜100重量%でよく、好ましくは0.001%〜90重量%、より好ましくは0.01〜70重量%、さらに好ましくは1〜50重量%の範囲である。ペプチドの含有量が0.0001重量%以下であると、抗肥満効果を得るのに必要な量を摂取できない場合がある。
【0032】
本発明のミトコンドリア融合剤等の医薬としての用量・用法は、患者の症状、体重、投与間隔、投与方法、ならびに他の臨床的作用を左右する種々の因子を考慮して決定され得る。肥満予防の目的で使用する場合には、成人男性一日あたりの摂取量として、通常、0.01mg〜10000mgでよく、0.1mg〜500mgが好ましい。治療目的で使用する場合は、1mg〜10000mgで使用可能である。
【0033】
本発明のミトコンドリア融合剤等を医薬として使用する場合の摂取方法は、特に限定されない。例えば、経口摂取、経皮投与、輸液、注射(筋肉内、腹腔内、皮下又は静脈)等である。好ましくは、投与の負担が少ない点で、錠剤又はカプセル剤の経口摂取である。
【0034】
本発明のミトコンドリア融合剤等を機能性食品、健康食品、サプリメント又は一般食品に用いる場合の用量・用法は、成人男性一日あたりの摂取量として、0.01mg〜10000mgが好ましく、0.1〜500mgがさらに好ましい。
【0035】
本発明のミトコンドリア融合剤等は、ヒト以外にも、家畜動物、愛玩動物等の動物へ摂取する医薬や機能性食品として用いてもよい。投与方法は、注射等の非経口摂取、機能性食品や配合飼料の形態の経口摂取がある。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1及び2〕
Asp−Proのジペプチド(実施例1)、及びAsp−Proを基本骨格としてもつトリペプチドであるAsp−Pro−Cys(実施例2)を化学合成した。これらのペプチドのミトコンドリア融合活性を、特開2007−228855号公報に記載の方法に基づいて以下の手順で解析した。
【0037】
1.3T3‐L1細胞の培養
10% Fetal bovine serum、グルコース、カナマイシン及びビオチンを含むDulbecco‘s Modified Eagle Mediumからなる基礎培地中で、未分化の3T3−L1前駆脂肪細胞(preadipocytes)をコンフルエントになるまで培養した。これを3T3−L1 preadipocytes(Day 0)としてミトコンドリアの形態観察に用いた。
【0038】
次いで、前記基礎培地に0.25mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン、1μMデキサメタゾン、及び2μMインシュリンを添加した分化誘導培地中で未分化の3T3−L1前駆脂肪細胞を約2日間培養し、さらに2μMインシュリンを含む分化誘導培地中で約14日間培養して脂肪細胞に分化させた。これを3T3−L1 adipocytes(Day 16)として内臓脂肪蓄積の観察に用いた。
【0039】
2.ミトコンドリア融合活性の測定
3T3−L1 preadipocytes(Day 0)の上清を除去し、培養培地に移した。表1に示す被検物質をPBSに希釈して上記培養培地に添加し、48時間培養した。ミトコンドリアの形態変化のためにミトコンドリアをMitoTracker Green FM(Molecular Probes)により37℃、30分で染色した。蛍光顕微鏡(オリンパス社製、OLYMPUS IX70)の100倍の対物レンズを使用して、油浸でミトコンドリアの形態を観察した。図1に、Asp−Pro又はAsp−Pro−Cysを添加して培養した前駆脂肪細胞のミトコンドリアの顕微鏡写真を、PBSの存在下で培養したネガティブコントロールとともに示す。
【0040】
ミトコンドリアを蛍光染色した細胞の明視野像10枚〜20枚、蛍光像10枚〜20枚ずつ写真撮影を行い、50細胞程度のミトコンドリア形態を記録した。写真撮影及び画像解析ソフトであるMetaMorphを用い、保存しておいた写真に対し、スケールバー(10μm)を挿入し、ミトコンドリアの長さを視覚的に測定した。個々の細胞につきミトコンドリアの長さを以下の基準で分類し、スコア化した。各写真及び細胞毎にスコアを計算し、合計をそのサンプルのミトコンドリア融合レベルとした。
(1) Granule type(1μm以下:score−1)
(2) Short tube type(1〜2μm:score+1)
(3) Medium tube type(2〜5μm:score+2)
(4) Long tube type(5μm以上:score+3)
(5) Highly tube type(5μm以上かつ高度にチューブ化:score+5)
【0041】
ネガティブコントロールのミトコンドリア融合レベルを100とした結果を、表1に示す。表1より、Asp−Proのジペプチド及びAsp−Proを基本骨格としてもつトリペプチドにミトコンドリア融合活性があることが証明された。
【0042】
3.細胞への脂肪蓄積抑制活性の測定
3T3−L1 adipocytes(Day 16)の上清を除去し、分化維持培地に移して、さらにPBSに希釈した被検物質(表1)を添加して48時間培養した。ここで被検物質の濃度は0.1μg/mlとした。また、ネガティブコントロールとしてPBSを用いた。細胞内脂肪滴をOil−Red Oで染色し、脂肪滴量を算出し脂肪滴蓄積に対する影響を解析した。まず、脂肪細胞を顕微鏡(オリンパス社製、OLYMPUS IX70)の40倍の対物レンズで観察した。図2に、Asp−Pro又はAsp−Pro−Cysを添加して培養した脂肪細胞の顕微鏡写真を、ネガティブコントロールとともに示す。
【0043】
細胞の明視野像10枚〜20枚撮影し、MetaMorphを用いて脂肪滴の直径を測定した。その際、各細胞につき脂肪滴の直径を、以下の基準で分類し、スコア化した。各写真及び細胞毎にスコアを計算し、合計をサンプルの細胞内脂肪レベルとした。
(1) Small type(2μm以下:score 0)
(2) Medium type(2〜5μm:score +1)
(3) Large type(5μm以上:score +2)
【0044】
ネガティブコントロール(PBS)の細胞内脂肪滴レベルを100とした結果を、表1に示す。表1の結果より、Asp−Proからなるミトコンドリア融合ペプチド、及び、Asp−Proを基本骨格としてもつトリペプチドからなるミトコンドリア融合ペプチドに内臓脂肪蓄積抑制効果があることが証明された。
【0045】
【表1】

【0046】
〔実施例3〕(マウスへの投与試験)
4週齢のC57BL/JJcl株雄性マウス(日本クレア製)を用いて、Asp−Proからなるミトコンドリア融合剤の投与試験を行った。まず、1週間の馴化飼育を行い、その後、以下のように1群5匹に群分けした。
(1) SD群:普通食(商品名:CE−2、日本クレア株式会社製)と水とを与える
(2) SD+DP群:普通食とAsp−Proを混ぜた水とを与える
(3) HF群:高脂肪食(商品名:High Fat Diet 32 (HFD32)、日本クレア株式会社製)と水とを与える
(4) HF+DP群:高脂肪食とAsp−Proを混ぜた水とを与える
【0047】
Asp−Proの投与量は、マウスの1日の飲水量を予め測定しておき、マウスのkg体重あたり3mgの投与となるようにAsp−Pro濃度を調整した。投与期間は1週間とした。
【0048】
投与試験前後の体重、投与期間中の飲水量と摂食量のデータを表2に示す。Asp−Pro混入水を与えた群は、通常の水を与えた群に比べて摂食量及び摂水量が増加傾向にあった。高脂肪食を摂取したHF群とHF+DP群との比較では、Asp−Pro混入水の飲水で体重変化量に減少傾向が見られた。
【0049】
【表2】

【0050】
投与終了後にマウスを解剖して内臓脂肪量を測定した結果を図3に示す。普通食及び高脂肪食の投与のどちらにおいても、Asp−Pro混入水の投与により内臓脂肪量が減少した。表2及び図3より、Asp−Proからなるミトコンドリア融合剤には、抗肥満効果及び内臓脂肪蓄積抑制効果があることが証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Asp−Proを含みアミノ酸数が2〜3個のミトコンドリア融合ペプチドを有効成分として含有するミトコンドリア融合剤。
【請求項2】
前記ミトコンドリア融合ペプチドがAsp−Proを含むトリペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載のミトコンドリア融合剤。
【請求項3】
前記ミトコンドリア融合ペプチドがAsp−Proのジペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載のミトコンドリア融合剤。
【請求項4】
Asp−Proを含みアミノ酸数が2〜3個のミトコンドリア融合ペプチドを有効成分として含有する抗肥満剤。
【請求項5】
Asp−Proを含みアミノ酸数が2〜3個のミトコンドリア融合ペプチドを有効成分として含有する内臓細胞蓄積抑制剤。
【請求項6】
Asp−Proを含みアミノ酸数が2〜3個のミトコンドリア融合ペプチドを含有し、ミトコンドリア融合活性を示す機能性食品。
【請求項7】
Asp−Proを含みアミノ酸数が2〜3個のミトコンドリア融合ペプチドを含有し、ミトコンドリア融合活性を示す飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−222319(P2010−222319A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73252(P2009−73252)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】