説明

ミョウガの養液循環栽培方法

【課題】設備コストを低減しながら、多量に排水される廃液を速やかに殺菌して有効に再利用し、さらに、養液栽培装置1に供給する水の塩素濃度を極めて低くする。
【解決手段】養液循環栽培方法は、ミョウガの養液栽培装置1から排出される廃液に、次亜塩素酸ナトリウムと酸性剤を添加して、廃液を次亜塩素酸ナトリウムの添加された酸性廃液として殺菌する殺菌工程と、この殺菌工程で殺菌された殺菌廃液に原水と肥料とを添加する調整工程と、調整工程で得られる溶液をミョウガの養液栽培装置1に供給する給水工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミョウガの養液循環栽培方法に関し、とくに、養液栽培装置から配水される廃液を循環して繰り返し再使用する養液循環栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミョウガの養液栽培には、多量の水を使用する。たとえば、1000平方メートルでミョウガを養液栽培する場合、1日に約2トンもの水を給水する必要がある。給水される水の約10%ないし20%が廃液として排水されるので、毎日200リットルもの廃液が排水される。この廃液は、決して綺麗な清水でなく、吸収されなかった肥料を含有し、さらに極めて暗い黒色に濁っている。この廃液が田畑に排水されて、種々の弊害の原因となっている。養液栽培装置に供給する水量を少なくして、廃液量を少なくできる。ただ、養液栽培装置の給水量を少なくすると、栽培される全てのミョウガに均一に給水できなくなる。全てのミョウガに均一に給水することから、廃液量を10%ないし2%よりも少なくできない。このため、多量の廃液が汚水として田畑に排水されているのが実状である。この弊害を解消するために、養液栽培装置から排水される廃液を繰り返し再利用する技術が開発されている。(特許文献1及び2参照)
【特許文献1】特開2004−82095号公報
【特許文献2】特開昭64−47324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1は、光触媒を使用して、農業用廃液を浄化する技術を記載する。この特許文献は、光触媒として、金属アルコキシドを含有する光反応性半導体を多孔質基材に塗工し、乾燥凝固させた膜を焼成して、微細孔性の膜を形成した光触媒担持体を用い、かつ、光触媒の光反応用光として太陽光のみを用いて、農業用液体を浄化処理する。
【0004】
この方法は、光触媒で廃液を処理することから、毎日多量に排水される廃液を短時間で効果的に処理するのが難しい。また、太陽光のエネルギーを利用して廃液を浄化するので、天候に左右され、毎日確実に安定して廃液を理想的な状態に処理できない。
【0005】
特許文献2は、廃液を土壌浄化装置とオゾンで殺菌、浄化する。土壌浄化装置による浄化は、多量の廃液を処理するために極めて大きな設備を必要とし、設備コストが極めて高くなる。また、オゾンによる殺菌は、オゾン濃度のコントロールが極めて難しく、濃度が低いと殺菌能力が低下し、また濃度が高くなると作業環境を極めて危険な状態として、安定して処理するのが極めて難しい。
【0006】
本発明は、これらの欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、設備コストを低減しながら、多量に排水される廃液を速やかに殺菌して、外部に排水していた廃液を有効に再利用するミョウガの養液循環栽培方法を提供することにある。
また、本発明の他の大切な目的は、廃液を塩素で効果的に殺菌しながら、養液栽培装置に供給する循環水の塩素濃度を極めて低くできるミョウガの養液循環栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のミョウガの養液循環栽培方法は、前述の目的を達成するために、以下の工程でミョウガを養液栽培する。
ミョウガの養液栽培装置から排出される廃液に、次亜塩素酸ナトリウムと酸性剤を添加して、廃液を次亜塩素酸ナトリウムの添加された酸性廃液として殺菌する殺菌工程と、
この殺菌工程で殺菌された殺菌廃液に原水と肥料とを添加する調整工程と、
調整工程で得られる養液をミョウガの養液栽培装置に供給する給水工程とからなる。
【0008】
本発明の請求項2に記載するミョウガの養液循環栽培方法は、調整工程において、殺菌工程で殺菌された殺菌廃液に、塩素分解剤を添加する。
【0009】
本発明の請求項3に記載するミョウガの養液循環栽培方法は、殺菌工程において、廃液に0.1ppm以上であって、10ppm以下の次亜塩素酸ナトリウムを添加する。
【0010】
また、本発明の請求項4に記載するミョウガの養液循環栽培方法は、殺菌工程において、次亜塩素酸ナトリウムと酸性剤の添加された酸性廃液を、ph2以上であって、ph7.5未満とする。
【0011】
また、本発明の請求項5に記載するミョウガの養液循環栽培方法は、酸性剤にリンゴ酸、クエン酸、酢酸、塩酸、蓚酸、Lアスコルビン酸の少なくともひとつを使用する。
【0012】
さらに、本発明の請求項6に記載するミョウガの養液循環栽培方法は、殺菌工程において、廃液に次亜塩素酸ナトリウムを添加した後、酸性剤を添加してph調整する。
【0013】
さらにまた、本発明の請求項7に記載するミョウガの養液循環栽培方法は、調整工程において、肥料の添加された養液の肥料濃度を濃度センサで検出しながら肥料の添加量を制御する。
【0014】
本請求項8に記載されるミョウガの養液循環栽培方法は、調整工程において、塩素分解剤に、生石灰の粉末もしくは顆粒と、パイナップル果汁から抽出し複数種類の高分子有機化合物を分解するパイナップル酵素と、鉱滓の粉末とを有する塩素化合物分解剤を使用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のミョウガの養液循環栽培方法は、設備コストを低減しながら、多量に排水される廃液を速やかに殺菌して、外部に排水していた廃液を有効に再利用できる特徴がある。廃液を再利用することは、汚水を外部に排水しないことに加えて、ミョウガに供給する水量少なくできる特徴も実現する。とくに、ミョウガの栽培は、給水量が多いことから、排水量と給水量を少なくすることが大切である。
【0016】
さらに、本発明の養液循環栽培方法は、塩素を使用して、安定して確実に殺菌された多量の廃液を有効に再利用しながら、養液栽培装置に供給する養液の塩素濃度を極めて低くできる特徴も実現する。それは、本発明の養液循環栽培方法が、廃液に次亜塩素酸ナトリウムを添加してph調整して、塩素による殺菌効果を理想的な状態にコントロールして廃液を殺菌することから、廃液に添加する次亜塩素酸ナトリウムの濃度を極めて低くできるからである。図1は次亜塩素酸ナトリウムが添加された水溶液のph値に対する次亜塩素酸(HOCl)と次亜塩素酸イオン(ClO)の濃度を示すグラフである。この図に示すように、phを中性とする状態で、次亜塩素酸(HOCl)と次亜塩素酸イオン(ClO)の濃度のほぼ等しくなるが、phを小さくして酸性液にすると、殺菌効果力のある次亜塩素酸(HOCl)の濃度が高くなる。本発明は、廃液に次亜塩素酸ナトリウムに加えて酸性剤を添加し、酸性剤で廃液を酸性廃液とする。酸性廃液に調整された廃液は、次亜塩素酸(HOCl)の濃度が高くなって、効果的に殺菌される。たとえば、廃液の塩素濃度を0.1ppmないし1ppmとする、飲料水と同等な極めて低濃度な状態で、廃液を効果的に殺菌できる。このため、本発明は、多量の廃液を確実に安定して殺菌して再利用できる状態に処理でき、養液栽培装置に供給される状態では、新しく供給される原水と同等の塩素濃度として、高品質なミョウガを栽培できる。すなわち、廃液を確実に殺菌して再利用することから、廃液を繰り返し循環して使用するにもかかわらず、ミョウガの病害虫の弊害を確実に防止して、高品質なミョウガを栽培できる特徴がある。
【0017】
さらに、本発明の請求項2の養液循環栽培方法は、塩素で殺菌された廃液に塩素分解剤を添加して塩素濃度を低くするので、養液栽培装置に供給する養液の塩素濃度をさらに低くできる。それは、塩素殺菌した後、塩素分解剤を添加して、塩素濃度を1/1000以下とさらに低レベルに処理して養液栽培装置に供給するからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するためのミョウガの養液循環栽培方法を例示するものであって、本発明は養液循環栽培方法を以下の方法に特定しない。さらに、この明細書は、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。
【0019】
図2は、本発明にかかるミョウガの養液循環栽培方法に使用するシステムのブロック図を示す。この図のシステムは、ミョウガを養液栽培する養液栽培装置1と、この養液栽培装置1から排水される廃液を蓄える廃液タンク2と、この廃液タンク2の廃液を移送する第1の移送ポンプ3と、この第1の移送ポンプ3で移送される廃液に、次亜塩素酸ナトリウムを添加する次亜塩素酸ナトリウム添加装置4と、さらに、第1の移送ポンプ3で移送される廃液に酸性剤を添加する酸性剤添加装置5と、次亜塩素酸ナトリウムと酸性剤が添加されて酸性になった酸性廃液を蓄えるて次亜塩素酸(HOCl)で殺菌する殺菌タンク6と、殺菌タンク6で殺菌された殺菌廃液を移送する第2の移送ポンプ7と、第2の移送ポンプ7で移送される殺菌廃液に原水を混合する原水混合装置8と、原水混合装置8で原水の添加された混合水に肥料を添加する肥料添加装置9と、肥料の添加された混合水に塩素分解剤を添加する塩素分解剤添加装置10と、さらに混合水に肥料の微量成分を添加する微量成分添加装置11とを備え、肥料と塩素分解剤と微量成分の添加された混合水が養液栽培装置1に供給される。
【0020】
図3は、ミョウガの養液栽培装置1を示す。この図の養液栽培装置1は、ミョウガの根を生育させる所定の厚さと幅を有する培地4と、この培地12を上に載せる栽培トレイ13とを備える。栽培トレイ13は、水平栽培台14の上に水平姿勢に載せられる。水平栽培台14は、所定の間隔で互いに平行に配設している3本又は4本の縦パイプ15を備える。縦パイプ15は水平に配設される。この縦パイプ15の上に栽培トレイ13が水平に載せられる。栽培トレイ13には、培地12が載せられ、この培地12に養液16を供給してミョウガを栽培する。
【0021】
さらに、図3の養液栽培装置1は、培地12の下に積層されて、培地12に植え付けされるミョウガの根が通過するのを阻止して水を通過させる根切りシート17と、この根切りシート17の下に積層されて、培地12に水を供給する保水シート18と、この保水シート18の下に積層している下地フィルム19とを、培地12を載せる栽培トレイ13に敷設している。これらの養液栽培装置1は、栽培トレイ13の上に配置している培地12に養液16を供給して培地12でミョウガを栽培する。
【0022】
培地12は、供給される水分を保水する保水性と、過剰な水分を排水する排水性とが要求される。図の培地12は、所定の厚さのマット状で、根切りシート17の上に載せている。培地12は、ミョウガの生育に最適なものが選択され、たとえば、ヤシガラやバーク等の有機物をプレスして、所定の厚さのマット状に固化したものが使用される。この培地12には、たとえば長さを1m、幅を40cm、養液を供給する状態での厚さを約12cmとするものを使用する。ただ、培地には、ミョウガの生育に適した保水性と排水性のある全てのもの、たとえば有機物や無機物を単独であるいは混合したものが使用できる。無機物である培地は、たとえば、シリカやアルミナを無数の空隙がある状態に焼結した粒体やロックウール等が使用できる。
【0023】
栽培トレイ13は、図3と図4に示すように、底面の両側縁に沿って上方に突出する一対の側壁20を一体的に成形して設けて、断面形状を溝形としている。この側壁20は、栽培トレイ13の上に載せられる培地12や給水管21から供給される養液16が、栽培トレイ13の外側にこぼれ落ちるのを防止する。したがって、側壁20の高さは、培地12や養液16が外にこぼれるのを防止できる高さに成形する。
【0024】
さらに、栽培トレイ13は、図3と図4に示すように、上面に3列の排水溝22を設けている。この図の栽培トレイ13は、排水溝22として、両側の側壁20に沿って設けた一対の側溝22Aと、一対の側溝22Aの間に設けた中央溝22Bを設けており、さらに、両側の側溝22Aと中央溝22Bとを連結溝で連結している。
【0025】
一対の側溝22Aは、一対の側壁20の内側にあって、側壁20に沿って設けている。側溝22Aは、栽培トレイ13の両端面まで延長して設けている。栽培トレイ13は、培地12を透過する廃液をこの側溝22Aに案内し、この側溝22Aから栽培トレイ13の外部に廃液として排水する。
【0026】
中央溝22Bは、一対の側溝22Aの中間に位置して、側溝22Aと平行に設けている。この中央溝22Bも、栽培トレイ13の両端面まで延長して設けている。この中央溝22Bは、栽培トレイ13の中央上面8Aの上方に配設される培地12を透過する廃液の一部を案内して効率よく排水する。
【0027】
さらに、栽培トレイ13は、一対の側溝22Aと中央溝22Bを連結溝で連結している。連結溝は、両側の側溝22Aを連結するように設けた溝で、中央溝22Bを横断して、中央溝22Bと垂直に交差している。この連結溝は、中央溝22Bを流れる廃液を側溝22Aに流して排水する。また、連結溝は、栽培トレイ13の中央上面8Aの上方に配設される培地12を透過する廃液の一部を案内して排水するはたらきもある。
【0028】
排水溝22は、幅が狭すぎても、深さが浅すぎても、廃液に含まれる異物が詰まりやすくなり、廃液をスムーズに排水できない。このため、排水溝22の幅と深さは、たとえば1cm以上、好ましくは2cm以上とする。ただ、栽培トレイは、排水溝22の幅を広くして、深さを深くすると全体の強度が低下する。このため、排水溝22の幅と深さは、たとえば7cmよりも小さく、好ましくは6cm以下とする。排水溝22の幅と深さは、廃液の詰まりを少なく、かつ培地12を水平に保持することから、好ましくは3〜5cmとする。
【0029】
以上の構造の栽培トレイ13は、プラスチックを発泡成形して製作される。この栽培トレイ13は安価に多量生産できる。プラスチック発泡体で製作される栽培トレイ13は、表面に非発泡層を設けて、廃液の内部への浸透を阻止し、あるいは独立気泡に発泡させて、廃液の内部への浸透を阻止することができる。ただ、栽培トレイ13は、上に敷設される非透水シートの下地フィルム19で、廃液が栽培トレイ13に浸透するのを防止できるので、栽培トレイ13を完全な防水構造とする必要はない。プラスチック発泡体の栽培トレイ13は、発泡スチロールで製作して、とくに安価に多量生産できる。ただ、栽培トレイは、他のプラスチック発泡体、たとえば塩化ビニル発泡体、EVA発泡体、ウレタン発泡体等で製造することもできる。
【0030】
養液栽培装置1は、栽培トレイ13の上に非透水シートの下地フィルム19を敷設する。下地フィルム19は、栽培トレイ13の上に敷設している。この下地フィルム19は、上側に配設される培地12、根切りシート17及び保水シート18と、下側に配設される栽培トレイ13とを区画している。下地フィルム19は非透水シートで、培地12を通過した廃液がこれを透過して、栽培トレイ13まで浸透するのを防止している。下地フィルム19は、栽培トレイ13の外形よりも大きく、両側の側壁20の外側面まで延長して配設される。側壁20と下地フィルム19の間から廃液が浸入するのを防止するためである。
【0031】
下地フィルム19は、栽培トレイ13の上面8に沿う状態で敷設される。側溝22Aや中央溝22Bに敷設される下地フィルム19は、栽培トレイ13の内面に沿って敷設される。側溝22Aや中央溝22Bの内面に沿って敷設される下地フィルム19は、その内側に形成される溝内を廃液が流れる。
【0032】
下地フィルム19は、プラスチックフィルムからなる非透水シートである。プラスチックフィルムである非透水シートの下地フィルム19は、ポリエチレンフィルムが適している。ただ、この下地フィルムのプラスチックフィルムには、塩化ビニルフィルムも使用できる。さらに、本発明の養液栽培装置1は、非透水シートである下地フィルムを、プラスチックフィルムに特定しない。非透水シートである下地フィルムには、たとえば表面を防水加工した不織布や布等も使用できるからである。不織布や布で構成される下地フィルムは、プラスチックフィルムに比べて破れ難く、また熱に強い特長がある。
【0033】
保水シート18は、栽培トレイ13の上面8に位置して、下地フィルム19の上に敷設している。すなわち、保水シート18は、下地フィルム19と根切りシート17の間に配設している。この保水シート18は、培地12と根切りシート17を透過した廃液を吸水して保水する。保水シート18は、無機繊維を方向性なく立体的に集合している保水マット、繊維を方向性なく集合して繊維を交点で結合している不織布、所定の厚さのロックウール、織布、耐水性のある紙等が使用できる。保水シート18を保水マットである。ただ、保水シートには、ロックウールを使用することもできる。養液栽培装置1は、保水シート18に水分を保水するので、培地12が乾燥するときに、保水する水分を根切りシート17に透過させて、培地12に供給する。保水シート18の水分は、気化して培地12に供給され、あるいは根切りシート17を透過して培地12に浸透して補給される。したがって、これらの養液栽培装置1は、培地12の過乾燥を防止しながらミョウガを生育できる特長がある。
【0034】
根切りシート17は、防根シートとも呼ばれるシートで、すでに市販されているものを使用する。根切りシート17は、細繊維を立体的に集合した不織布が使用できる。また、微細な貫通孔を無数に設けているプラスチックフィルムも根切りシート17として使用できる。さらに、根切りシート17は、水を透過させて植物の根が成長して通過するのを阻止できる全てのシートを使用することができる。
【0035】
根切りシート17は、培地12の下に積層されて、培地12に植え付けしている植物の根が通過するのを阻止する。図3の根切りシート17は、培地12と保水シート18との間に配設されており、植物の根が伸びて保水シート18や栽培トレイ13の溝に侵入するのを阻止する。植物の根が保水シート18や栽培トレイ13の溝に侵入すると、根が廃液に接触して病気になるからである。したがって、根切りシート17は、好ましくは、図3に示すように、栽培トレイ13の上側全面に配設される。ただ、栽培トレイの上面の全面でなく、一部に培地を載せて植物を生育させる場合、必ずしも栽培トレイの全面に根切りシートを配設する必要はない。図の根切りシート17は、保水シート18の上に水平に敷設して、栽培トレイ13の側壁20の両側から下方に垂らしている。この養液栽培装置1は、植物の根や培地12が根切りシート17と下地フィルム19の間に侵入するのを確実に防止できる。
【0036】
以上の養液栽培装置1は、水平栽培台14の上に水平に配置される。図3に示す水平栽培台14は、地面から上に離して配置している載せ台である。このように、載せ台に載置される養液栽培装置1は、外部に排水される廃液を自然に流下させて効率よく回収できる特長がある。
【0037】
図3に示す養液栽培装置1は、ミョウガを植え付けている培地12に、養液16を供給する。植物は、定量の養液16を連続供給され、あるいは、所定量の養液16を所定の時間間隔で供給される。ミョウガに供給される養液16は、培地12と根切りシート5とを透過して、一部は保水シート18に吸収され、残りは廃液として側溝22Aに流入されて外部に廃液として排水される。
【0038】
ミョウガに供給される養液16は、水に肥料や薬剤を添加した溶液である。したがって、培地12と根切りシート17を透過した廃液を露地に排水するのは好ましくない。廃液に含まれる成分によって土壌を汚染し、あるいは、雑草や細菌等の繁殖を促進するからである。このように、栽培トレイから外部に排水される廃液を回収して再利用する養液循環栽培装置は、廃液が露地に浸透するのを防止して、理想的な環境で植物を栽培できる特長がある。
【0039】
廃液タンク2は、養液栽培装置1から排水される廃液を一時的に蓄える。ここに蓄える廃液が第1の移送ポンプ3で次の工程に移送される。廃液タンク2に所定量の廃液が蓄えられると、第1の移送ポンプ3が運転される。すなわち、第1の移送ポンプ3は、廃液タンク2の液面レベルを検出して運転され、液面レベルが所定のレベルよりも低くなると運転を停止する。
【0040】
次亜塩素酸ナトリウム添加装置4は、第1の移送ポンプ3が運転されて廃液タンク2から廃液が排出される状態で、廃液に次亜塩素酸ナトリウムを添加する。次亜塩素酸ナトリウム添加装置4は、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液を蓄える次亜塩素酸ナトリウムタンク4Aと、この次亜塩素酸ナトリウムタンク4Aから次亜塩素酸ナトリウム水溶液を吸入して廃液に添加する添加ポンプ4Bとを備える。次亜塩素酸ナトリウム添加装置4は、廃液の塩素濃度が、0.1ppm以上であって、10ppm以下となる量の次亜塩素酸ナトリウムを添加する。次亜塩素酸ナトリウム添加装置4は、廃液に添加する次亜塩素酸ナトリウム量をコントロールして廃液の塩素濃度を調整できる。次亜塩素酸ナトリウムの添加量を多くすると廃液の塩素濃度は高くなり、添加量を少なくすると廃液の塩素濃度は低くなる。廃液の塩素濃度が低すぎると、廃液を確実に安定して塩素殺菌できなくなる。また、塩素濃度が高く過ぎると、養液栽培装置1に供給する混合水に含まれる塩素濃度が高くなる。したがって、次亜塩素酸ナトリウム添加装置4は、廃液を確実に殺菌でき、かつ養液栽培装置1に供給する混合水の塩素濃度を低くするように、次亜塩素酸ナトリウムの添加量を前述の範囲とする。さらに、好ましくは、次亜塩素酸ナトリウムの添加量は、廃液の塩素濃度が0.5ppm以上であって、5ppmよりも低くなる量にコントロールする。
【0041】
次亜塩素酸ナトリウム添加装置4が廃液に添加する次亜塩素酸ナトリウムの添加量は、添加ポンプ4Bの流量と第1の移送ポンプ3の流量の比率でコントロールする。第1の移送ポンプ3と添加ポンプは、所定の流量で廃液を移送する。したがって、添加ポンプ4Bで所定の流量で次亜塩素酸ナトリウム液を廃液に添加して、廃液の塩素濃度を設定値にコントロールする。
【0042】
酸性剤添加装置5は、第1の移送ポンプ3が運転されて廃液タンク2から廃液が排出される状態で、廃液に酸性液を添加する。酸性剤添加装置5は、酸性剤の水溶液を蓄える酸性液タンク5Aと、この酸性液タンク5Aから酸性液を吸入して廃液に添加する添加ポンプ5Bとを備える。酸性液タンク5Aは、酸性剤の水溶液を蓄える。酸性剤は、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、塩酸、蓚酸、Lアスコルビン酸等のひとつを、又はこれ等を複数混合したものである。酸性剤添加装置5は、次亜塩素酸ナトリウムと酸性廃を添加して酸性廃液が、たとえば、ph2以上であって、ph7.5以下、好ましくはph3以上であってph7以下、さらに好ましくは、ph3.5以上であってph7以下となる量の酸性液を添加する。酸性剤添加装置5は、廃液に添加する酸性液量をコントロールして酸性廃液のphを調整する。酸性液の添加量を多くすると酸性廃液のphは低くなり、添加量を少なくすると酸性廃液のphは高くなる。酸性廃液は、phが低すぎても、反対に高すぎても酸性廃液に含まれる殺菌力のある次亜塩素酸(HOCl)の濃度が低くなる。したがって、酸性剤添加装置5は、酸性廃液の次亜塩素酸(HOCl)濃度を高くして効果的に殺菌できるように、酸性液の添加量を前述の範囲とする。
【0043】
酸性剤添加装置5が廃液に添加する酸性液の添加量は、添加ポンプ5Bの流量と第1の移送ポンプ3の流量の比率でコントロールする。第1の移送ポンプ3と添加ポンプ5Bは、所定の流量で廃液を移送する。したがって、添加ポンプ5Bで所定の流量で酸性液液を廃液に添加して、廃液の塩素濃度を設定値にコントロールする。
【0044】
殺菌タンク6は、次亜塩素酸ナトリウムと酸性剤の添加された酸性廃液を蓄えて、次亜塩素酸(HOCl)で酸性廃液を殺菌し、酸性廃液を殺菌された殺菌廃液とする。酸性廃液は、ここに蓄えられて確実に殺菌されて殺菌廃液となる。殺菌タンク6は、養液栽培装置1から一時に供給する殺菌廃液を蓄える大きさを有する。たとえば、養液栽培装置1に一度に1トンの養液を供給し、供給する養液の20%を殺菌廃液とする場合、200リットル以上の廃液を蓄えられる容積を有する。
【0045】
第2の移送ポンプ7は、養液栽培装置1に養液を供給してミョウガの培地に給水するときに運転される。第2の移送ポンプ7から移送される酸性廃液は原水に添加される。
【0046】
図2の原水混合装置8は、地下水を吸い上げて養液栽培装置1に供給する原水ポンプを備える。この原水ポンプは、所定の流量で原水である地下水を養液栽培装置1に供給する。ただし、原水混合装置8は、図示しないが、所定量の原水を蓄える原水タンクと、この原水タンクの原水を吸入して、養液栽培装置1に供給する原水ポンプとで構成することもできる。この原水タンクは、一度に養液栽培装置1に供給する水量の原水を蓄える。
【0047】
肥料添加装置9は、原水混合装置8から供給される原水に、殺菌タンク6から供給される殺菌廃液を混合している混合水に、所定の肥料を添加する。この肥料添加装置9は、原水に酸性廃液の混合された混合水に液肥を添加する。液肥添加装置は、肥料の水溶液である液肥を蓄える液肥タンク9Aと、この液肥タンク9Aから液肥を吸入して混合水に添加する添加ポンプ9Bとを備える。液肥添加装置は、混合水の肥料濃度が設定値となるように液肥を添加する。液肥添加装置は、混合水に添加する液肥量をコントロールして混合水の肥料濃度を調整する。図2の肥料添加装置9は、肥料の添加された養液の肥料濃度を濃度センサで検出しながら肥料の添加量を制御する。この肥料添加装置9は、濃度センサに養液の電気伝導度を検出するセンサを使用する。濃度センサは養液の肥料濃度を検出し、検出された肥料濃度で添加ポンプ9Bの流量を制御して、養液の肥料濃度を所定の範囲にコントロールする。図2の装置は、2組の肥料添加装置9を有する。2組の液肥添加装置は、異なる液肥を混合水に添加する。各々の肥料添加装置9は、濃度センサの信号で添加ポンプ9Bの流量を制御して、養液の肥料濃度を設定濃度にコントロールする。各々の肥料添加装置9は、濃度センサで検出する養液の肥料濃度が設定値よりも低いと、添加ポンプ9Bの流量を多くして制御して肥料濃度を高くし、反対に濃度センサで検出する肥料濃度が高いと、添加ポンプ9Bの流量を少なく制御して肥料濃度を低くして、養液の肥料濃度を設定値にコントロールする。
【0048】
塩素分解剤添加装置10は、混合水に液肥を混合した養液に、塩素分解液を添加する。この塩素分解剤添加装置10は、塩素分解液を蓄える塩素分解液タンク10Aと、この塩素分解液タンク10Aの塩素分解液を養液に添加する添加ポンプ10Bとを備える。塩素分解液は、すでに開発されている塩素分解液、たとえば、特許第2849018号に記載される塩素分解液、すなわち、生石灰の粉末もしくは顆粒と、パイナップル果汁から抽出し複数種類の高分子有機化合物を分解するパイナップル酵素と、鉱滓の粉末とを水に混合している塩素化合物分解液を使用する。
【0049】
この塩素分解液は、生石灰及びパイナップル酵素及び鉱滓の作用により塩素化合物を分解する。これは鉱滓中の多元素、例えば希土類、バナジュウム族、白金族が金属触媒(例えば金属錯体)となり、生石灰及びパイナップル酵素との両者により塩素化合物が分解されると考えられる。パイナップル酵素は、塩素化合物に対し、複数の酵素分解機能を発揮する。有機の塩素化合物、又はある種の無機の塩素化合物は酵素作用を受けて酵素分解し、小分子化する。無機の塩素化合物の一部はパイナップル酵素と結合する。そして生石灰(CaO)の他の作用としては、水分と反応して発熱するとともに、消石灰(Ca(OH))に変化して固化する。この発熱により塩素化合物の分解反応が促進されると考えられる。
【0050】
塩素分解液添加装置が廃液に添加する塩素分解液の添加量は、添加ポンプの流量でコントロールする。添加ポンプで所定の流量で塩素分解液を混合水に添加して、混合水の塩素濃度を低下させる。移送ポンプが混合水に添加する塩素分解液の添加量は、混合水の1/1000〜1/5000とする。
【0051】
微量成分添加装置11は、塩素分解液を添加した養液に、さらに、ミョウガの栽培に必要な種々の微量成分、たとえば金属元素等を添加する。この微量成分添加装置11は、微量成分を含有する溶液を蓄える溶液タンク11Aと、この溶液タンク11Aに蓄えられる微量成分含有溶液を養液に添加する添加ポンプ11Bとを備える。
【0052】
以上の養液循環栽培装置は、以下のようにしてミョウガに給水する。
[廃液の殺菌工程]
ミョウガの養液栽培装置1から排出される廃液に、次亜塩素酸ナトリウムと酸性剤を添加して、廃液を次亜塩素酸ナトリウムの添加された酸性廃液として殺菌する。この工程において、養液循環栽培装置から排水される廃液は、廃液タンク2に蓄えられる。この廃液タンク2に蓄えられた廃液は、第1の移送ポンプ3で殺菌タンク6に移送される。この移送途中において、次亜塩素酸ナトリウム添加装置4が次亜塩素酸ナトリウムを添加し、また、酸性剤添加装置5が酸性液を添加する。次亜塩素酸ナトリウムと酸性液が添加された酸性廃液が殺菌タンク6に蓄えられる。殺菌タンク6に蓄えられる酸性廃液は、塩素濃度を0.1ppmないし10ppmとし、ph2以上であって、ph7.5未満の酸性とする。酸性廃液は、殺菌タンク6に蓄えられて次亜塩素酸ナトリウムで殺菌される。このとき、酸性廃液は、phを酸性として次亜塩素酸(HOCl)の含有量を多くし、次亜塩素酸(HOCl)で効果的に殺菌される。
【0053】
[調整工程]
殺菌タンク6で殺菌された殺菌廃液が、原水に添加される。原水に酸性廃液を添加する割合は、養液循環栽培装置から排水される全て廃液を処理し、これを原水に添加して、全ての廃液を循環して外部に排水しないようにする。ミョウガを養液栽培する装置は、供給する養液の約15%〜20%が廃液として排水される。したがって、原水に対して15%〜20%の酸性廃液を原水に添加して再使用することで、廃液を外部に排水しないで、全てを循環して再使用できる。原水に酸性廃液が添加された混合水に、肥料添加装置9でもって所定量の液肥が添加される。液肥は濃度センサで養液の肥料濃度を検出しながら、設定された濃度となるように添加される。さらに、塩素分解液添加装置でもって塩素分解液が添加される。塩素分解液の添加量は、混合水に対して1/1000〜1/5000とする。塩素分解液が添加されて、ミョウガの養液循環栽培装置に供給される養液の塩素濃度は著しく低減される。さらに、図2の装置は、微量成分添加装置11でもって、微量成分も添加される。
【0054】
以上の方法は、養液栽培装置1から排水される多量の廃液を、殺菌工程において次亜塩素酸ナトリウムで確実に殺菌し、とくに、酸性液を添加して酸性とすることで、次亜塩素酸(HOCl)濃度を高くしてより効果的に殺菌し、殺菌された殺菌廃液を原水に添加した後、肥料と塩素分解液を添加して養液として、これを養液栽培装置1に供給する。廃液は、次亜塩素酸(HOCl)で確実に殺菌され、さらに塩素分解液で残留塩素濃度を低下させて、養液栽培装置1に供給される。このため、廃液を塩素殺菌して再利用するにもかかわらず、養液栽培装置1に供給される養液の塩素濃度は極めて低く、ミョウガの病害虫による害を有効に防止しながら、高品質なミョウガを栽培できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のミョウガの養液循環栽培方法は、廃液を循環して有効に再利用して、廃液による田畑の汚染を防止しながら、高品質なミョウガを理想的な環境で栽培できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】次亜塩素酸ナトリウムが添加された水溶液のph値に対する次亜塩素酸(HOCl)と次亜塩素酸イオン(ClO)の濃度を示すグラフ
【図2】本発明の一実施例にかかるミョウガの養液循環栽培方法にシステムのブロック図
【図3】本発明の実施例に使用する液栽培装置の断面図
【図4】図3に示す養液栽培装置の栽培トレイの一部断面斜視図
【符号の説明】
【0057】
1…養液栽培装置
2…廃液タンク
3…第1の移送ポンプ
4…次亜塩素酸ナトリウム添加装置 4A…次亜塩素酸ナトリウムタンク
4B…添加ポンプ
5…酸性剤添加装置 5A…酸性液タンク
5B…添加ポンプ
6…殺菌タンク
7…第2の移送ポンプ
8…原水混合装置
9…肥料添加装置 9A…液肥タンク
9B…添加ポンプ
10…塩素分解剤添加装置 10A…塩素分解液タンク
10B…添加ポンプ
11…微量成分添加装置 11A…溶液タンク
11B…添加ポンプ
12…培地
13…栽培トレイ
14…水平載台
15…縦パイプ
16…養液
17…根切りシート
18…保水シート
19…下地フィルム
20…側壁
21…給水管
22…排水溝 22A…側溝
22B…中央溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミョウガの養液栽培装置から排出される廃液に、次亜塩素酸ナトリウムと酸性剤を添加して、廃液を次亜塩素酸ナトリウムの添加された酸性廃液として殺菌する殺菌工程と、この殺菌工程で殺菌された殺菌廃液に原水と肥料とを添加する調整工程と、調整工程で得られる養液をミョウガの養液栽培装置に供給する給水工程とかならなる、ミョウガの養液循環栽培方法。
【請求項2】
調整工程において、殺菌工程で殺菌された殺菌廃液に塩素分解剤を添加する請求項1に記載されるミョウガの養液循環栽培方法。
【請求項3】
殺菌工程において、廃液に0.1ppm以上であって、10ppm以下の次亜塩素酸ナトリウムを添加する請求項1に記載されるミョウガの養液循環栽培方法。
【請求項4】
殺菌工程において、次亜塩素酸ナトリウムと酸性剤の添加された酸性廃液を、ph2以上であって、ph7.5未満とする請求項1に記載されるミョウガの養液循環栽培方法。
【請求項5】
酸性剤にリンゴ酸、クエン酸、酢酸、塩酸、蓚酸、Lアスコルビン酸の少なくともひとつを使用する請求項1に記載されるミョウガの養液循環栽培方法。
【請求項6】
殺菌工程において、廃液に次亜塩素酸ナトリウムを添加した後、酸性剤を添加してph調整する請求項1に記載されるミョウガの養液循環栽培方法。
【請求項7】
調整工程において、肥料の添加された養液の肥料濃度を濃度センサで検出しながら肥料の添加量を制御する請求項1に記載されるミョウガの養液循環栽培方法。
【請求項8】
調整工程において、塩素分解剤に、生石灰の粉末もしくは顆粒と、パイナップル果汁から抽出し複数種類の高分子有機化合物を分解するパイナップル酵素と、鉱滓の粉末とを有する塩素化合物分解剤を使用する請求項2に記載されるミョウガの養液循環栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−54534(P2008−54534A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232850(P2006−232850)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(393019355)
【Fターム(参考)】