説明

ムライト結晶相を含有するセラミック焼結体からなる耐衝撃バンパー

【課題】高速度域でのスペースデブリ破砕機能にすぐれ、衝突破壊時にスペースデブリ及びバンパー材がnmサイズにまで微細に破砕される耐衝撃バンパーの提供。
【解決手段】ウゴニオ弾性限界応力が12GPa以上であることを特徴とするムライト結晶相を含有するセラミック焼結体からなる耐衝撃バンパー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信頼性が高く、高速度域での破砕機能にすぐれ、高密度・高硬度の物体に対する破砕効果が大きいムライト結晶相を含有するセラミック焼結体からなる耐衝撃バンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
地球を取り巻く宇宙船・衛星等の軌道上には、スペースデブリと呼ばれる多くの不要物体が秒速8km以上の超高速度で飛行している。有人宇宙ステーションでは、これらのスペースデブリとの衝突が深刻な問題である。直径10cm以上のスペースデブリはレーダーと光学望遠鏡により観測可能であり、軌道変換により回避できる。一方、直径1cm以下の小型物体はアルミニウム合金製の防御バンパーへ衝突させ、微小な破片へ粉砕させて本体与圧モジュールの非貫通確率を低減させる設計が行われている。これはウイップルシールド(Whipple shield)と呼ばれている。現状のウイップルシールド(Whipple shield)は、想定されているアルミニウム合金製のデブリに有効性が認められているものの、硬度の高い物体や高密度の物体に対しては、その機能が発揮されない。特許文献1には耐高速衝撃貫通性に優れる高強度鋼が開示されている。金属であるため衝撃強度が強いことと、所望の形状に加工が容易であるメリットはあるものの、保護部材として硬度が低いことが問題となっている。また、特許文献2にはセラミックス粉体を鋳込成形して焼成した飛翔体の衝突による衝撃を緩和する保護部材が開示され、そのセラミック材料は比剛性率(弾性率/かさ密度)が100GPa以上であることが好ましい旨記載されているが、比剛性率が100GPa以上であれば保護部材として有効であるのでなく、衝撃破壊後の保護部材の形態がどのようになっているかが大変重要な問題であるにもかかわらず、本公報には一切それについての記載がない。現状の機能においても、速度域によっては破砕機能が十分でなく、しかも破片の大きさは広い分布をもつために、大きな破片の本体へ与える損傷が深刻な事態を引き起こす恐れが高い。
以上のようなことから、スペースデブリの衝突破壊時にスペースデブリとバンパー材がnmサイズにまで微細に破砕されるとともに広範囲に飛散し得るバンパー材が要求されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−264050号公報
【特許文献2】特開2002−167278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高速度域でのスペースデブリ破砕機能にすぐれ、衝突破壊時にスペースデブリ及びバンパー材がnmサイズにまで微細に破砕される耐衝撃バンパーを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記のような現状を鑑み鋭意研究を重ねてきた結果、ムライト結晶相を含有するセラミック焼結体において、セラミックス焼結体を所定のウゴニオ弾性限界応力値以上のものとすることにより、炭化珪素系セラミックスや炭化ホウ素系セラミックスに匹敵する高い衝撃弾性限界を有し、より高い衝撃圧力下では固相転移し、高密度な混合相となり、この固相転移が再編型構造相転移であり、圧力解放後はナノスケールの一様に微細なムライト結晶粒子もしくはガラス状粒子{ムライト結晶粒子はムライト結晶〔結晶とは成分原子やイオンがある対称に従って規則的に配列している(結晶性がある)固体〕が1つあるいはいくつか集まってできている粒子のことで、ガラス状粒子とは結晶とした形がなく結晶性がない粒子のことで両者は全く異なる。}となり、宇宙ステーション及び人工衛星等の耐衝撃バンパーとして高い性能を有することを見出し本発明を完成するに至った。従って、本発明の耐衝撃バンパーは固相域での破片分布がナノスケールとなることから、スペースデブリは霧状に破砕し、宇宙ステーション及び人工衛星等の本体への衝撃損傷の軽減効果の理想的な状態を実現することができる。
【0006】
本発明の第1は、ウゴニオ弾性限界応力が12GPa以上であることを特徴とするムライト結晶相を含有するセラミック焼結体からなる耐衝撃バンパーに関する。
本発明の第2は、衝突物体がバンパーに衝突した際に発生するピーク応力が30GPaを超える衝撃を受けたとき、衝突物体と共にバンパー自体が30nm以下の微細な粉末に変化する物性をもつものである請求項1記載の耐衝撃バンパーに関する。
本発明の第3は、主としてムライト結晶相からなり、Al/SiO重量比が60/40〜80/20、かさ密度が2.8g/cm以上、平均結晶粒径が20μm以下である請求項1または2いずれか記載の耐衝撃バンパーに関する。
本発明の第4は、ZrOを2重量%以下含有している請求項3記載の耐衝撃バンパーに関する。
【0007】
以下に本発明のムライト結晶相を含有するセラミック焼結体からなる耐衝撃バンパーが充足すべき各要件について詳細に述べる。
【0008】
(1)ムライト結晶相を含有する点。
本発明においてはムライト結晶相を含有する必要がある。ムライト結晶相は高いウゴニオ弾性限界応力を有するために必要であり、圧力誘起相変態を起こすが、再編型相転移であるため、転移後に微細化することで耐衝撃バンパーとして、従来のセラミックス製バンパーに比し、高い衝撃抵抗を示すことからムライト結晶相の含有は必要不可欠である〔圧力誘起相変態とは圧力がかかることで結晶構造に変化が生じる現象で、高い圧力で結晶構造の骨組みにずれが生じ、もっと安定な構造に変化する。一方、再編型相転移とは上記の結晶構造の変化において、構成する原子(イオン)の再配列を生じる現象で、このとき物資の原子結合の切断→バラバラになった原子の拡散→格子の組み替えが起る〕。ムライト結晶相を含有することによってムライト結晶相以外の結晶相もムライト結晶相の転移による微細化が誘発される特徴を有する。
ここで言うムライト結晶相とは化学組成が3Al・2SiO(Al:71.8重量%、SiO:28.2重量%)で表されるムライト結晶相だけでなく、Al4+2xSi2−2x10−xで表されるAlSiOからAlまで変化する固溶体を含むものとする。
【0009】
(2)ウゴニオ弾性限界応力が12GPa以上である点。
本発明においてウゴニオ弾性限界応力が12GPa以上、好ましくは14GPa以上であることが必要である。ウゴニオ弾性限界応力が12GPa未満の場合は、衝突物体のバンパーへの衝突後の速度が低下しにくくなり、バンパーへの衝撃が大きくなるので好ましくない。
ウゴニオ弾性限界応力とは、衝撃によって生じる圧力により、固体が塑性変形を開始し、流体のように振舞う領域に入るが、この領域に入る限界応力を言う。
なお、本発明のセラミック焼結体のもつウゴニオ弾性限界応力の上限は20GPa程度である。
ウゴニオ弾性限界応力は下式により求める。
ウゴニオ弾性限界応力(GPa)=U×u×ρ
ρ:バンパーの密度(g/cm
U:衝撃波速度(km/s)
u:粒子速度(km/s)
(注)衝撃波速度(km/s)は衝撃波検出センサー(衝撃波が到達すると発光するオプトピン)をバンパーの前面と後面に配置し、衝撃波が到達したときのバンパー前面と後面に衝撃波が到達した時のセンサーのシグナルの時間差とバンパーの厚さから求める。
粒子速度、すなわち衝撃圧縮中のバンパーの速度u(km/s)は、バンパーの背面にレーザーを照射し、その反射光の波長変化をドプラーレーザー干渉計で取得し、バンパーの速度を求める。
【0010】
(3)衝突物体がバンパーに衝突した際に発生するピーク応力が30GPa以上を超える衝撃に対して衝突物体と共にバンパー自体が30nm以下の微細な粉末に変化する物性をもつ点。
本発明においては衝突物体がバンパーに衝突した際に発生するピーク応力(最終的な圧縮状態の時の応力)が30GPaを超える衝撃に対して衝突物体と共にバンパー自体が30nm以下の微細な粉末に変化する物性を有する。30GPa未満の衝撃に対しては従来の炭化珪素系及び炭化ホウ素系セラミック焼結体に匹敵する高い衝撃抵抗を有していることは勿論であるが、30GPaを超える衝撃圧力下ではバンパーがバラバラに分解し、セラミック焼結体のムライト結晶相の一部もしくは全ては分解前の密度より高密度である混合相へと固相転移し、この固相転移が再編型構造相転移であるため、圧力解放後はナノスケールの一様で微細なムライト結晶粒子もしくはガラス状粒子となる特徴を有している。そのため、宇宙を高速で飛行しているスペースデブリがバンパーに衝突したとき衝突物体であるスペースデブリだけでなく、本発明の耐衝撃バンパー自体も30nm以下に微細粒子にバラバラに分解するため、宇宙ステーションへの損傷を大幅に低減できる(通常、バンパーと保護される物体との間隔は一定の間隔をあけて設置する。この距離は保護される物体、即ち、宇宙ステーションの壁の強度に応じてバンパーとの間隔を設定する。宇宙ステーションの壁の強度が低い場合は間隔を大きく取って、スペースデブリがバンパーに衝突し破壊して粉体状のものの影響を壁に及ぼさないようにする。)。
【0011】
(4)Al/SiO重量比が60/40〜80/20である点。
本発明においてAl/SiO重量比が60/40〜80/20、好ましくは65/35〜78/22とすることでムライト結晶相単相あるいはムライト結晶相を多く含有する焼結体とすることができ、圧力誘起相変態を促進することができる。その結果、よりすぐれた耐衝撃バンパーとすることができる。
【0012】
(5)かさ密度が2.8g/cm以上である点。
本発明においてかさ密度が2.8g/cm以上、好ましくは2.9g/cm以上とすることでウゴニオ弾性限界応力値を高めることができ、よりすぐれた耐衝撃バンパーとすることができる。
【0013】
(6)平均結晶粒径が20μm以下である点。
本発明において平均結晶粒径は20μm以下、好ましくは15μm以下である。
平均結晶粒径を20μm以下とすることにより機械的特性の低下がなく、高いウゴニオ弾性限界応力が得られるので好ましい。
なお、平均結晶粒径の測定は焼結体を鏡面に仕上げ、熱エッチングを施し、走査電子顕微鏡により観察し、画像解析により1個の結晶の断面積から等価円直径を算出し、総計100個の結晶を測定し、その平均値:dを用いて下式により平均結晶粒径を求める。
平均結晶粒径:D(μm)=1.5×d
なお、平均結晶粒径の下限値は現状では1μm程度である。
【0014】
(7)ZrOを2重量%以下含有する点。
本発明においては、ZrOを2重量%以下、好ましくは1重量%以下含有していることが望ましい。ジルコニアを含有することにより焼結性及び靭性の向上に効果がある。ZrO含有量が2重量%を超える場合にはZrO結晶粒子の分散性が低下したり、ZrO結晶粒子が大きくなって、焼結体内部に熱膨張差による歪みが大きくなり、機械的特性の低下を招くので好ましくない。
【0015】
本発明の耐衝撃バンパーは種々の方法で作製できるが、以下にその一例を示す。
原料粉末はAlとSiOの合計量が99%以上、平均粒子径2μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.5μm以下である。平均粒子径が2μmを超える場合には、焼結体内部に欠陥が多く存在するため、機械的特性が低下するので好ましくない。原料粉末は共沈法、ゾル−ゲル法等の液状原料から作製したムライト原料はもちろんのこと、アルミニウム化合物とシリカ化合物を均一に混合して仮焼合成した原料粉末も使用できる。また、焼成工程でムライト結晶となる原料を用いても良い。さらにジルコニア原料粉末としては、液相法により作製された粉末を用いるのが好ましく、比表面積が5m/g以上(平均粒子径としては1μm以下、好ましくは0.6μm以下のもの)であることが好ましい。また、ジルコニウムゾルや焼成によりジルコニアとなるジルコニウム化合物を用いることもできる。ジルコニア原料粉末の比表面積が5m/g未満の場合は、ジルコニア結晶粒子の分散性が低下するだけでなく、焼結体に存在するジルコニア結晶粒子が大きくなるため焼結体特性が低下するので好ましくない。ジルコニアにイットリアが1〜5モル%含有していることが好ましい。なお、焼結体に含有されてくるTiO、Fe、CaO、NaO及びKOの合計含有量は1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下であることが必要である。これら不純物量が1重量%を超えると結晶粒界に第2相及びガラス相を多く形成し、耐衝撃性の低下をきたすので好ましくない。ジルコニアを添加する場合はジルコニア含有量が所定量となるように各原料粉末に配合し、溶媒として水または有機溶媒を用いて、ポットミル、アトリッションミル等の粉砕機により粉砕・分散・混合する。
前記のようにして得られた原料粉末の平均粒子径は1.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以下である。平均粒子径がこれらの範囲外の場合は、成形性が低下し、得られた焼結体に欠陥が多く存在するため機械的特性の低下をきたすので好ましくない。
【0016】
成形方法としてはプレス成形、ラバープレス成形等の方法を採用する場合には、粉砕・分散スラリーに必要により公知の成形助剤(例えばワックスエマルジョン、PVA、アクリル樹脂等)を加え、スプレードライヤー等の公知の方法で乾燥させて成形粉体を作製し、これを用いて成形する。また、押出成形法を採用する場合には、粉砕・分散したスラリーを乾燥させ、整粒し、混合機を用いて水、バインダー(例えばメチルセルロース等)を混合して坏土を作製し、押出成形する。以上のようにして得た成形体を1500〜1800℃、好ましくは1550〜1780℃で焼成することによって耐衝撃バンパーを得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耐衝撃バンパーは高いウゴニオ弾性限界応力を有し、衝突物体がバンパーに衝突した際に発生するピーク応力が30GPaを超える衝撃に対して衝突物体と共にバンパー自体が30nm以下、好ましくは20nm以下の微細な粉末に変化する物性を有していることから、宇宙ステーションを防御するバンパーとして有用であるだけでなく、装甲車や戦車の防弾材料としてもすぐれた効果がある。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を示し、本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものでない。
【0019】
実施例1〜4
ムライト製バンパーは以下の方法により作製した。表1に示すAl/SiO重量比となるようゾル−ゲル法で作製した平均粒子径2μmからなる実施例1〜4に示す4種のムライト原料粉末を用いた。ムライト原料粉末にジルコニアを添加する場合には、所定量のジルコニア粉末を配合し、ポットミルで溶媒に水を用いて平均粒子径が0.3〜0.5μmになるように粉砕・分散・混合し、スラリーを作製した。得られたスラリーにバインダーとしてアクリル樹脂を添加し、スプレードライヤー乾燥を施して成形用粉体とした。得られた成形用粉体を金型を用いて1tonf/cmの圧力でプレス成形し、大気中1700℃で焼成して、φ70×8mmのバンパーを作製した。なお、得られたバンパーが含有しているTiO、Fe、CaO、NaO及びKOの合計量は全てのバンパーにおいて0.3重量%以下であった。
図1に示すように検証板ターゲット(SS400)集合体(検証板ターゲット集合体とはバンパーと検証板ターゲットを組み合せたものをいう。)を構成し、二段式軽ガス銃を使用して、秒速5kmから9kmの速度でのポリカーボネートの棒(φ12mm×4mm)の衝突実験を行い、ウゴニオ弾性限界応力の算出及び衝突実験後のバンパーの破壊状況を評価した。また、検証板ターゲットが存在することによるバンパーのダメージ減少効果についても調査した。
【0020】
【表1】

【0021】
以下にムライト製バンパー(実施例1)を用いた場合の衝撃試験後の検証板ターゲットに対するダメージ減少効果について調査した結果を示す。
図2は図1に示す衝撃試験においてバンパーを装着せずに飛翔体(φ12mm×4mmの棒状ポリカーボネート)を検証板ターゲットに秒速5.8kmで衝突させた時の検証板ターゲットの断面であり、図3は図1に示す衝撃試験においてバンパーを装着せずに飛翔体(φ12mm×4mmの棒状ポリカーボネート)を検証板ターゲットに秒速8.9kmで衝突させた時の検証板の断面である。バンパーが無い場合には深いクレータが生成し、衝突を受けた面の反対側の面ではスポール現象(スポール現象とは高速衝突を受けた物体の裏側面が剥離破壊することで、その剥離破壊面は衝突方向に対して垂直になる。)による剥離が起こることがわかる。両実験とも、検証板ターゲットの厚さは30mmである。
図4は図1に示す衝撃試験においてバンパーを装着して検証板ターゲットとバンパーの距離(スペーサー)を20mmにして、前記飛翔体を検証体ターゲット集合体に秒速6.5kmで衝突させた時の検証板ターゲットの表面写真であり、微細な破片が衝突して付着しているのが分かる。クレータもスポールも生成していない。
図5は図4の要領で前記飛翔体を検証板ターゲット集合体に秒速8.4kmで衝突させた時の検証板ターゲットの表面写真であり、図4と同様にダメージが小さく、さらに、ポリカーボネートの衝突物によるボツボツした小さな傷も少なくなっており、破片の広がりが大きくなっていることが分かる。
図6はバンパーを検証板ターゲットとの間を30mm離してセットし図4の要領で前記飛翔体を検証板ターゲット集合体に秒速6.5kmで衝突させた時の検証板ターゲットの表面写真であり、図4の20mm間隔の場合と比べて、破片が大きく広がっていることが分かる。アルミニウム合金などの本体強度に合わせたバンパーとの距離を置くことで、本体の破壊を防ぐバンパーとして機能する。
図7はムライト製バンパーに代えてSS400スチールバンパーを20mm離してセットし、図4の要領で前記飛翔体を検証板ターゲット集合体に秒速6.5kmで衝突させた時の検証板ターゲットの表面写真であり、図4と比較して破片が大きくて検証板ターゲットのダメージが大きいことが明らかである。ムライト結晶相を含有する焼結体からなるバンパーは優れた耐衝撃性を有することが明らかである。
図8は衝撃破壊されたムライト製バンパーの透過電子顕微鏡写真であり、10nm前後の組織構造からなることが明らかであり、衝撃を受けた直後の高圧圧縮状態の粒界は溶融相とガラス相からなるので高圧圧縮状態が常圧状態に一気に膨張する際に微細な破片となる。
【0022】
比較例1
純度99.8%、平均粒子径が2μmのアルミナ原料とカオリンとをAl/SiO重量比が58/42となるように秤量し、溶媒に水を用いて粉砕・分散・混合し、平均粒子径が0.6μmからなるスラリーを得た。得られたスラリーにバインダーとしてワックスエマルジョンを添加し、スプレードライヤー乾燥を施して成形用粉体とした。得られた成形用粉体を金型を用いて1tonf/cmの圧力でプレス成形し、大気中1600℃で焼成して、φ70×8mmのバンパーを作製した。得られたバンパーはかさ密度2.58g/cm、平均結晶粒径1.9μmで含有しているTiO、Fe、CaO、NaO及びKOの合計量は2.3重量%であった。実施例と同様の衝撃試験を行った結果、ウゴニオ弾性限界応力が5GPaで、衝撃試験後のバンパーは20nm以下の微粒子となっていた。
【0023】
比較例2
純度99.8%、平均粒子径0.5μmのAl粉末にMgOを0.05重量%添加し、溶媒に水を用いて粉砕・分散・混合を行い、平均粒子径が0.4μmからなるスラリーを得た。得られた混合スラリーにアクリル樹脂を添加し、スプレードライヤーで乾燥を施して成形用粉体とした。得られた成形用粉体を金型を用いて1tonf/cmの圧力でプレス成形し、大気中1650℃で焼成して、φ70×8mmのバンパーを作製した。得られたバンパーはかさ密度3.92g/cm、平均結晶粒径8.3μmであった。実施例と同様の衝撃試験を行った結果、ウゴニオ弾性限界応力が12GPaで、衝撃試験後のバンパーは破片サイズが数ミクロン〜数ミリメートルの広い分布からなる微粒子となっていた。
【0024】
比較例3
窒化けい素製バンパーについては、α率90%〔α率というのは窒化ケイ素はα型とβ型の2種類の結晶構造を持つが、焼結体を作る際に用いる粉体はα型がほとんどである。このα型の結晶が多いほど高特性の焼結体が得られる。そのため、窒化ケイ素の粉体特性の1つにα率(α型結晶の含有率)が挙げられている〕、平均粒子径1.1μmの窒化けい素粉末に純度99.9%、平均粒子径1.1μmのYを4.9重量%及び純度99.9%、平均粒子径0.4μmのAlを3.5重量%添加し、溶媒にエチルアルコールを用いて粉砕・分散・混合を行い、平均粒子径0.4μmからなる混合スラリーを得た。得られた混合スラリーにワックスエマルジュンを添加し、スプレードライヤーで乾燥を施して成形用粉体とした。得られた成形用粉体を金型を用いて1tonf/cmの圧力でプレス成形し、窒素雰囲気、8kgf/cmの圧力下で1780℃で焼成して、φ70×8mmのバンパーを作製した。実施例と同様の衝撃試験を行った結果、ウゴニオ弾性限界応力が15GPaで、衝撃試験後のバンパーは破片サイズが数ミクロン〜数ミリメートルの広い分布からなる微粒子となっていた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】衝撃実験方法の概略を説明するための図である。
【図2】図1に示す衝撃試験において、バンパーを装着せずに飛翔体(φ12mm×4mmの棒状ポリカーボネート)を検証板ターゲットに秒速5.8kmで衝突させた時の検証板ターゲットの断面写真である。
【図3】図1に示す衝撃試験において、バンパーを装着せずに飛翔体(φ12mm×4mmの棒状ポリカーボネート)を検証板ターゲットに秒速8.9kmで衝突させた時の検証板ターゲットの断面写真である。
【図4】図1に示す衝撃試験において、バンパーを装着して検証板ターゲットとバンパーの距離(スペーサー)を20mmにして、飛翔体(φ12mm×4mmの棒状ポリカーボネート)を検証板ターゲット集合体に秒速6.5kmで衝突させた時の検証板ターゲットの表面写真である。
【図5】図4における衝撃試験において飛翔体(φ12mm×4mmの棒状ポリカーボネート)を検証板ターゲット集合体に秒速8.4kmで衝突させた時の検証板ターゲットの表面写真である。
【図6】図1に示す衝撃試験において、バンパーを装着して検証板ターゲットとバンパーの距離(スペーサー)を30mmにして、飛翔体(φ12mm×4mmの棒状ポリカーボネート)を検証板ターゲット集合体に秒速6.5kmで衝突させた時の検証板ターゲットの表面写真である。
【図7】図1に示す衝撃試験において、バンパーをムライト製に代えてSS400を装着して検証板ターゲットとバンパーとの距離(スペーサー)を20mmにして、飛翔体(φ12mm×4mmの棒状ポリカーボネート)を検証板ターゲット集合体に秒速6.5kmで衝突させた時の検証板ターゲットの表面写真である。
【図8】(A)は衝撃破壊された実施例1のムライト製バンパーの透過電子顕微鏡写真であり、(B)はその拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウゴニオ弾性限界応力が12GPa以上であることを特徴とするムライト結晶相を含有するセラミック焼結体からなる耐衝撃バンパー。
【請求項2】
衝突物体がバンパーに衝突した際に発生するピーク応力が30GPaを超える衝撃を受けたとき、衝突物体と共にバンパー自体が30nm以下の微細な粉末に変化する物性をもつものである請求項1記載の耐衝撃バンパー。
【請求項3】
主としてムライト結晶相からなり、Al/SiO重量比が60/40〜80/20、かさ密度が2.8g/cm以上、平均結晶粒径が20μm以下である請求項1または2いずれか記載の耐衝撃バンパー。
【請求項4】
ZrOを2重量%以下含有している請求項3記載の耐衝撃バンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−118541(P2006−118541A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304616(P2004−304616)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000230629)株式会社ニッカトー (30)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】