説明

メコバラミン含有粉体

【課題】粉体中のメコバラミンの含量均一性及び経時的安定性を確保したメコバラミン含有粉体、並びに、該粉体を使用したメコバラミン含有内服用固形製剤を提供する。
【解決手段】平均粒子径が25〜45μmのメコバラミンを全体の0.1〜3質量%の割合で粉体内に均一に含有することを特徴とするメコバラミン含有粉体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メコバラミンを含有する粉体に関し、内服用固形製剤の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
生体内補酵素型ビタミンB12の1種として知られるメコバラミン(Mecobalamin)は末梢性神経障害の用途で内服用として1日あたり僅か1.5mgを3回に分けて服用することになっている。したがって、これを散剤、錠剤、カプセル剤等の内服用固形製剤として提供するにあたって、その含量均一性を如何に確保するかが課題となる。
【0003】
一般に微量成分の固形製剤中における含量均一性を確保するためには、該微量成分の平均粒子径を小さくし、賦形剤等の添加剤と混合することによって該微量成分を均一に含有する粉体を調製し、造粒等の操作を経て、該微量成分を含有する顆粒を調製し、さらに、固形製剤の調製に用いられる常套手段をもって、散剤、錠剤、カプセル剤等の各種固形製剤として提供される。
【0004】
ところが、メコバラミンは水溶液の状態で光により速やかに分解するなど不安定な成分であることが知られている(非特許文献1参照)。また、一般に粉砕・微細化された粉体は表面エネルギーが高くなり、結晶状態の変化に伴い安定性の低下を招来することがあることも知られている(非特許文献2参照)。
【0005】
そして、実際上、メコバラミンは平均粒子径を小さくするために、細かく粉砕等すると、未粉砕時と比べて安定性が低下することが確認された。
【0006】
【非特許文献1】安田和弘・砺波和子「石川県保健環境センター研究報告書」第39号、p.28、2002年
【非特許文献2】橋田充編著「経口投与製剤の処方設計」じほう、p.51、1998年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、粉体中のメコバラミンの含量均一性及び経時的安定性を確保したメコバラミン含有粉体、並びに、該粉体を使用したメコバラミン含有内服用固形製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決するため、粉砕能力の異なる3種の粉砕機を用いてメコバラミンを含有する粉体を粉砕し、その含量均一性及び経時的安定性を検討し、その折のメコバラミンの平均粒子径を調査したところ,ヤリヤ粉砕機No.4(商品名:ヤリヤ機械製作所製,スクリーン径1.0mm)を用いてメコバラミンの平均粒子径を約32μmとしたとき、錠剤中のメコバラミンの含量均一性及び経時的安定性ともに良好であることを見出した。
【0009】
かかる知見より得られた本発明の態様の1つは、平均粒子径が25〜45μmのメコバラミンを全体の0.1〜3質量%の割合で粉体内に均一に含有することを特徴とするメコバラミン含有粉体である。
【0010】
本発明の他の態様は、前記メコバラミン含有粉体を含有することを特徴とするメコバラミン含有内服用固形製剤である。
【0011】
本発明の他の態様は、錠剤である前記メコバラミン含有内服用固形製剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、メコバラミンを含有し、その含量均一性及び経時的安定性ともに良好なメコバラミン含有粉体、並びに、該粉体を用いて調製した錠剤などの各種メコバラミン含有内服用固形製剤を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における「メコバラミン」の平均粒子径は25〜45μmであり、好ましくは28〜36μmである。25μm未満ではメコバラミンの経時的安定性が低下するので好ましくないからである。また、45μmを超えるとメコバラミンの含量均一性が低下するので好ましくないからである。
【0014】
メコバラミンの平均粒子径を25〜45μmに調整するには、固形製剤の製造に用いられる粉砕機が用いられ、例えば、メコバラミンと公知の添加剤を混合して得られた混合粉体をヤリヤ粉砕機No.4(商品名:ヤリヤ機械製作所製,スクリーン径1.0mm)で粉砕することによって、メコバラミンの平均粒子径を25〜45μmにすることができる。
【0015】
なお、平均粒子径は前記粉砕後の粉体を採取後、顕微鏡で粉体中のメコバラミン粒子の粒子径を測定し、その合計を測定したメコバラミンの粒子数で除することによって求められる。
【0016】
メコバラミンの含有(配合)量は、粉体中0.1〜3質量%であり、好ましくは0.1〜1.5質量%である。0.1質量%未満では1日1.5mg、1回0.5mgを服用するためのメコバラミン含有内服用固形製剤を調製する際に、錠剤等の製剤が大型化し好ましくないからである。3質量%を超えるとメコバラミンに比し賦形剤等の固形製剤用添加剤の量が少なすぎて、メコバラミンを含有する内服用固形製剤の製剤化が困難となるので好ましくないからである。
【0017】
「メコバラミン含有粉体」は、メコバラミンと他の有効成分及び/又は公知の添加剤等を混合し、粉砕等することによって調製される。該粉体中のメコバラミンの含有量は前記のように0.1〜3質量%である。
【0018】
なお公知の添加剤としては乳糖、結晶セルロース、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及び軽質無水ケイ酸などが挙げられる。これらを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0019】
「メコバラミン含有内服用固形製剤」は、前記メコバラミン含有粉体を造粒等の公知の固形製剤製造技術を経て、メコバラミン含有顆粒を調製し、該顆粒をやはり公知の固形製剤製造技術をもってして、メコバラミンを含有する散剤、顆粒剤、錠剤及びカプセル剤等の態様で提供される。その際、メコバラミンと配合禁忌の関係にある他の有効成分を配合した顆粒を別途に調製し、メコバラミンを含有する顆粒や滑沢剤等と混合した上、公知の固形製剤製造技術を使って、散剤、顆粒剤、錠剤及びカプセル剤等の内服用固形製剤を調製し、提供することも可能である。
【0020】
「錠剤」は、メコバラミン含有顆粒又はメコバラミン含有顆粒とメコバラミンと配合禁忌の成分を含有する顆粒をステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤と混合し、打錠(圧縮成型)することによって調製され、そのままでも服用できるが、フィルムコーティングや糖衣を施してもよい。
【実施例】
【0021】
[1]試料
メコバラミン含有固形製剤として錠剤を調製するにあたり、その処方例とメコバラミン含有顆粒(A顆粒)の粉砕方法を表1に示す。メコバラミンを含むA顆粒合剤の粉砕については、粉砕能力の異なる3種類の粉砕機を用いた。最も粉砕能力の高い微粉砕ピンミル160Z(商品名:パウレック製)で粉砕したものを比較例1、次いで粉砕能力が高いヤリヤ粉砕機No.4(商品名:ヤリヤ機械製作所製)で粉砕したものを実施例1、最も粉砕能力が低いヤリヤ粉砕機No.2(商品名:ヤリヤ機械製作所製)で粉砕したものを比較例2とした。
【0022】
【表1】

【0023】
[2]製造方法
主薬及び賦形剤等の成分を表1記載の割合で秤量し、A顆粒及びB顆粒をそれぞれ混合後粉砕した。ここで、A顆粒の粉砕において、比較例1では微粉砕ピンミル160Z、実施例1ではヤリヤ粉砕機No.4、比較例2ではヤリヤ粉砕機No.2を使用した。その後バーチカルグラニュレータ(パウレック製)を用いて、A顆粒はエタノールを造粒用溶媒とし、B顆粒は精製水を造粒用溶媒として撹拌造粒を行い、湿粒を流動層乾燥機にて乾燥した。得られた顆粒をそれぞれ22M篩で整粒し、A顆粒、B顆粒及びステアリン酸マグネシウム等の整顆成分を添加混合した後、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)にて、1錠重量を256mgに設定し、錠径8.5mm、2段R面の錠剤を製した。さらにドリアコーター(商品名:パウレック製)を用いてフィルムコーティングを施した。
【0024】
[3]A顆粒合剤中のメコバラミンの平均粒子径測定
A顆粒合剤粉砕後のメコバラミンの粒子径を顕微鏡を用いて各ロット100個測定し、その数平均を算出した。
【0025】
[4]メコバラミンの含量均一性試験
打錠の初期、中期、後期の各過程でサンプリングした各10錠について、メコバラミンの含量均一性試験を行い、30錠でのCV値を評価した。
【0026】
[5]メコバラミンの安定性評価
実施例1並びに比較例1及び2の各錠剤の含水分値を1.0%付近に揃えた上で、65℃で1週間及び2週間経過後のメコバラミンの安定性を評価した。
【0027】
[6]結果および考察
(1)A顆粒合剤中のメコバラミンの平均粒子径測定
A顆粒中のメコバラミンの平均粒子径は、ピンミルで粉砕した比較例1では14μm、ヤリヤ粉砕機No.4で粉砕した実施例1では32μm、ヤリヤ粉砕機No.2で粉砕した比較例2では50μmであった。メコバラミン原末では54μmであったことから、ヤリヤ粉砕機No.2ではほとんどメコバラミンは粉砕されておらず、一方粉砕能力の最も高いピンミルでは4分の1程度まで小さくなることが判明した。
(2)メコバラミンの含量均一性の確認
結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
実施例1並びに比較例1及び2の中心値は100%から数%ずれているが,バラツキを示すCV値(30錠)を用いて比較すると、ピンミルで粉砕してメコバラミンの平均粒子径が最も小さい比較例1は1.78と良好であった。平均粒子径が最も大きい比較例2では3.10とバラツキが大きかったことから、平均粒子径が小さいほど含量均一性が高くなることが示唆された。また平均粒子径が32μmの実施例1でも含量均一性は比較例1と同様に良好であった。
【0030】
(3)メコバラミンの安定性評価
実施例1並びに比較例1及び2のメコバラミン安定性試験の結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
メコバラミンの平均粒子径が14μmと最も小さい比較例1では、含量均一性は良好であったが、65℃2週間保存後の安定性が悪く、残存率(対直後%)は77.9%であった。メコバラミンの平均粒子径の増大に伴い残存率が上昇し、32μmの実施例1では87.5%、さらに平均粒子径50μmの比較例2では91.1%であった。
【0033】
なお、メコバラミン残存率のクライテリアは65℃2週間で対直後87%である。
【0034】
(4)まとめ
これまでの結果をまとめると、表4の通りとなる。
【0035】
【表4】

【0036】
メコバラミンの65℃2週間保存後の残存率の許容値は対直後比87%であることから、A顆粒合剤の粉砕にヤリヤ粉砕機No.4を使用し、メコバラミンの平均粒子径を32μmとすることで、メコバラミンの含量均一性が良好で、かつ安定性のクライテリアを満たす製剤の製造が可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により、メコバラミンを含有し、その含量均一性及び経時的安定性共に良好な散剤、顆粒剤、錠剤及びカプセル剤等の各種内服用固形製剤の提供が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が25〜45μmのメコバラミンを全体の0.1〜3質量%の割合で粉体内に均一に含有させることを特徴とするメコバラミン含有粉体。
【請求項2】
請求項1に記載のメコバラミン含有粉体を含有することを特徴とするメコバラミン含有内服用固形製剤。
【請求項3】
錠剤である請求項2記載のメコバラミン含有内服用固形製剤。

【公開番号】特開2008−280268(P2008−280268A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124313(P2007−124313)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】