説明

メソポーラス炭化珪素膜及びその製造方法

【課題】耐熱性を改善し、かつ比表面積やメソ細孔を保持したメソポーラス炭化珪素膜を提供する。
【解決手段】耐熱性及び耐腐食性が改善されたメソポーラス炭化珪素系セラミックスであって、Si−C結合、あるいは一部にSi−O結合を基本とする非晶質ネットワークを有していること、10−500nmの粒径を有する無機充填剤が分散していること、細孔径50nm以下の微細な細孔分布を有すること、を特徴とするメソポーラス炭化珪素系セラミックス、及び耐熱性、耐腐食性を改善したメソポーラス炭化珪素系セラミックスの製造方法。
【効果】有機珪素ポリマーにセラミックス粒子充填剤を含有させ熱処理することにより、大型で高価な装置を用いることなく、600℃以上の高温での寸法変化、細孔の消失を粒子充填剤によって抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラス炭化珪素膜及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、耐熱性、耐腐食性を改善し、かつ50nm以下の微細な細孔と高比表面積とを併せ持つメソポーラス炭化珪素系セラミックス被膜及び自立膜、その製造方法及び分離部材に関するものである。本発明は、例えば、工業廃水などの腐食性溶液の浄化、水処理プラントや淡水化プラント、又は高温での特定のガス分離など、苛酷な環境下で使用されるセラミックス膜あるいは支持体との中間層において、その細孔径が50nm以下であり、高い分離性能を有する多孔質炭化珪素膜、その製造方法及び分離部材を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
各種燃焼機関をはじめ、食品工業や医療用機器、更には、廃棄物処理等の分野で、分離膜が注目されている。しかしながら、従来の分離膜の膜材質は、一般に、高分子を用いることが多いため、耐熱性や耐食性に問題があった。加えて、これらの分野における分離膜の用途では、分離の対象物が、ガスやイオン等であるため、100nm以下の細孔径が要求されている。最近では、微細な細孔を有するセラミックス膜を使ったフィルタが注目されてきている。
【0003】
セラミックス多孔質フィルタについては、マクロポーラス(50nm以上)体の製造には、部分焼結や再結晶化法等が有用であるが、メソ/ミクロポーラス体(2−50nm/2nm以下)の製造には、ゾルゲル法や有機珪素ポリマー等の前駆体を用いた熱分解法が使用されている。
【0004】
耐熱性、耐食性に特に優れるメソ/ミクロポーラス炭化珪素セラミックスの分離フィルタに関する先行技術としては、下記に示す数報が報告されている。これらの分離部材の形状は、非対称構造を形成しており、支持体、中間層、分離層と細孔径が傾斜化してゆく構造を成している。
【0005】
すなわち、先行技術として、例えば、炭化珪素分離フィルタは、ポリカルボシランなどの有機珪素ポリマーの焼成によって得られており、焼成温度と細孔径、分離能に関する技術が種々検討されている(特許文献1)。また、ジイン類又はトリアルキニルボラジン類を反応させて得られる前駆体ポリマー、ポリカルボシランとジイン類もしくはトリアルキニルボラジン類との混合物、又は有機珪素前駆体ポリマーを熱分解又は焼成して得られる炭化珪素系分離膜では、600℃で焼成している(特許文献2)。
【0006】
また、支持体に、0.05−1μmの厚さを有する炭化珪素あるいはSi−C−O系セラミックスの分離膜を形成させ、非対称構造を得た後、500℃で焼成し、その流体透過係数が検討されている(非特許文献1)。また、α−アルミナ支持体上に、γ−アルミナ中間層を塗布し、分離膜として、ポリカルボシランを用いて非対称構造を得ること、1−1.4μmの厚さの分離膜は、350−550℃にて焼成され、10nm以下の細孔を有していること、が報告されている(非特許文献2)。
【0007】
また、他の先行技術では、上記と同様の支持体、中間層に、ポリカルボシランの塗布、焼成により、分離膜として、炭化珪素非晶質膜を形成している。焼成温度は550℃以下を採用しており、10nm以下の細孔を達成しているものの、600℃以上の焼成では、微細な細孔が消失している(非特許文献3)。この方法では、炭化珪素支持体を用い、ポリジメチルシランを塗布、焼成し、非晶質炭化珪素分離膜を得ているが、分離膜は、300及び600℃で焼成している。600℃以上の焼成では、細孔が収縮により消失し始めるため、同時に分離能も減少している。
【0008】
以上のような無機系高分子から得られる炭化珪素系セラミックスでは、ポリカルボシラン等の有機珪素ポリマーを出発原料として、100−200℃の酸素架橋(不融化)を経て、400−1200℃で焼成し、分子構造から水素を除くことで、Si−C及び一部Si−O結合からなるネットワーク構造を形成している。この手法を用いて炭化珪素系被膜や繊維を得る技術は、広く知られた製造方法であるが、分離フィルタを得る際には、分離対象物の分子径と同程度又はより小さい細孔を形成することによって、各種流体の透過に対する選択性を高め、分離性能を向上させることが重要である。
【0009】
既存の先行技術に挙げたように、炭化珪素系の分離フィルタは、ポリカルボシランをはじめとする有機珪素ポリマー前駆体を用いて作製される。そして、これを600℃以下で焼成すると、微細な細孔径や高い比表面積が得られるため、フィルタとしての分離能も良好なようである。しかしながら、600℃以下の焼成では、前駆体の熱分解が不十分であるため、珪素−メチル基、珪素−水素、炭素−水素などの有機結合が残存し、耐熱性や耐食性が乏しくなってしまうという問題がある。それに対し、600−1200℃の焼成温度を適用すると、耐熱性や耐食性には優れた部材が得られるものの、微細な細孔、高い比表面積は、同時に起こる寸法変化よって消失してしまうという問題がある。
【0010】
【特許文献1】特開2005−60493号公報
【特許文献2】特開2005−95851号公報
【非特許文献1】K. Kusakabe, Z. Y. Li, H. Maeda and S. Morooka, “Preparation of supported composite membrane by pyrolysis of polycarbosilane for gas separation at high temperature”, J. Membr. Sci., 103 175-180 (1995)
【非特許文献2】Z. Y. Li, K. Kusakabe, and S. Morooka, “Preparation of Thermostable Amorphous Si-C-O Membrane and Its Application to Gas Separation at Elevated Temperature,” J. Membr. Sci., 118, 159-168 (1996)
【非特許文献3】L. - L. Lee and D. - S. Tsai, “A Hydrogen-Permselective Silicon Oxycarbide Membrane Derived from Polydimethylsilane”, J. Am. Ceram. Soc., 82 [10] 2796-800 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、高い耐熱性、耐腐食性を有し、しかも微細な細孔と高比表面積を併せ持つ炭化珪素系セラミックス被膜及び自立膜を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、炭化珪素前駆体と無機充填剤の組成物を焼成することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、600℃以上でポリカルボシランをはじめとする有機珪素ポリマーを熱処理することにより、耐熱性、耐腐食性を改善し、かつ50nm以下の微細な細孔と高比表面積とを併せ持つメソポーラス炭化珪素系セラミックス被膜及び自立膜を製造する方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、耐熱性、耐腐食性を改善した、50nm以下の微細な細孔と高比表面積とを併せ持つメソポーラス炭化珪素系セラミックス被膜、自立膜及びこれらを使用した分離部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)耐熱性及び耐腐食性が改善されたメソポーラス炭化珪素系セラミックスであって、1)Si−C結合、あるいは一部にSi−O結合を基本とする非晶質ネットワークを有している、2)10−500nmの粒径を有する無機充填剤が分散している、3)細孔径50nm以下の微細な細孔分布を有する、ことを特徴とするメソポーラス炭化珪素系セラミックス。
(2)前記充填剤が、体積比5−75vol%の割合で分散している、前記(1)に記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックス。
(3)前記充填剤として、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素のうちの少なくとも一種類を含有している、前記(1)記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックス。
(4)前記メソポーラス炭化珪素系セラミックスが、多孔質セラミックス支持体上に接着されている被膜あるいは自立膜である、前記(1)記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックス。
(5)前記多孔質セラミックス支持体が、多孔質シリカ、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素、又はコージェライトである、前記(1)記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックス。
(6)前記(1)から(5)のいずれかに記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックスを使用していることを特徴とする分離部材。
(7)前記メソポーラス炭化珪素系セラミックスの被膜又は自立膜からなる、前記(6)記載の分離部材。
(8)耐熱性、耐腐食性を改善したメソポーラス炭化珪素系セラミックスを製造する方法であって、1)有機珪素ポリマー及び無機充填剤を含有する組成物を、不融化後あるいは不融化せずに、不活性雰囲気下300℃以上1200℃以下で焼成させる、2)細孔径50nm以下の微細な細孔分布を有するメソポーラス炭化珪素系セラミックスを作製する、ことを特徴とするメソポーラス炭化珪素系セラミックスの製造方法。
(9)粘度及び膜厚調整成分を溶解させた組成物を多孔質支持体に塗膜後、不融化後あるいは不融化せずに、焼成させる、前記(8)記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックスの製造方法。
(10)有機珪素ポリマーが、ポリカルボシラン、又はポリメチルシランである、前記(8)記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックスの製造方法。
(11)ビニールブチラールあるいはポリスチレンを溶解させた組成物を多孔質支持体に塗膜する、前記(8)記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックスの製造方法。
(12)膜から多孔質材料へと細孔を傾斜させる、前記(8)記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックスの製造方法。
【0014】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、耐熱性及び耐腐食性が改善されたメソポーラス炭化珪素系セラミックスであって、Si−C結合、あるいは一部にSi−O結合を基本とする非晶質ネットワークを有していること、10−500nmの粒径を有する無機充填剤が分散していること、細孔径50nm以下の微細な細孔分布を有すること、を特徴とするものである。また、本発明は、上記のメソポーラス炭化珪素系セラミックスを使用していることを特徴とする分離部材、である。更に、本発明は、耐熱性、耐腐食性を改善したメソポーラス炭化珪素系セラミックスを製造する方法であって、有機珪素ポリマー及び無機充填剤を含有する組成物を、不融化後あるいは不融化せずに、不活性雰囲気下300℃以上1200℃以下で焼成させること、細孔径50nm以下の微細な細孔分布を有するメソポーラス炭化珪素系セラミックスを作製すること、を特徴とするものである。
【0015】
有機珪素ポリマーにより形成されるセラミックス膜の例としては、例えば、炭化珪素、シリコンオキシカーバイド等からなる被膜、自立膜(バルク体)が例示される。また、本発明では、これらの化合物と有機物とのハイブリット体を前駆体として使用することが可能であり、溶剤除去、乾燥、焼成により、それらの非晶質セラミックスを得ることができる。
【0016】
出発物質の炭化珪素前駆体としては、例えば、ポリカルボシラン、ポリメチルシラン、ポリシラザン、ポリシラスキレン、ポリシラン、ポリチタノカルボシラン等の有機珪素ポリマーが例示される。焼成後に、Si−C結合及び一部Si−O結合を基本とする非晶質ネットワークを有していれば、出発物質は特に限定されるものではない。これを、有機溶剤に溶解した後に、セラミックス充填剤と混合する。その際の配合は、充填剤/PCS=5−75/100の体積比とし、トルエン中でボールミルを用いて混合後、スラリーを得る。用いる有機溶剤は、トルエンが望ましいが、例えば、n−ヘキサン、キシレン、テトラヒドロフランを用いることも可能である。
【0017】
セラミックス充填剤としては、好適には、例えば、耐熱性に優れるβ−SiCが使用される。加えて、微細な細孔を付与するために、その粒径は、10−500nmが望ましく、特に望ましくは10−300nmである。しかしながら、汎用性の高いシリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル(日産化学工業株式会社製)は、ナノサイズの粒径を有しているため、これらを代替使用又は併用することが可能である。アルコキシドの加水分解によって得られるシリカ、アルミナ、ジルコニア等の各種酸化物ゾルを、代替、併用することも可能である。
【0018】
被膜を得る際には、粘度及び膜厚調整のために、ポリビニルブチラールあるいはポリスチレン等の有機物をスラリーへ混合することが好適である。また、以上の有機バインダーや造孔剤に限定されずに、他の同効の有機物を用いて、粘度や膜厚を調整することもできる。その際のこれらの混合重量比は、有機バインダー/スラリー=0.1/100−50/100が望ましく、特に望ましくは0.1/100−10/100である。また、このスラリーをキャスティングすることにより、自立膜を得ることもできる。
【0019】
製膜方法としては、よく知られた従来の液体コーティング塗布法を用いることが可能であり、例えば、スプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、蒸着コーティング、刷毛塗り等の技法を用いることができる。また、所望の膜厚を得るために、これらを単独、又は2種以上の手法を伴用することができる。簡便に製膜するためには、以上の汎用的な手法を用いることが望ましいが、製膜方法は、特に限定されるものではない。
【0020】
本発明のメソポーラス炭化珪素系セラミックス膜を流体分離部材として適用する際には、膜から多孔質支持体へと細孔径を傾斜させることが好適である。その際の被膜の支持体としては、例えば、多孔質シリカ、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素、コーディエライト等を用いることができる。支持体の細孔径は、100−0.1μmが望ましく、ガス分離等に対しては、1−0.1μmが特に望ましい。
【0021】
被膜あるいは自立膜形成後の焼成温度は、600−1200℃が望ましい。これは、1300℃以上で焼成すると、有機珪素ポリマーからβ−SiCへの結晶化が進行するためである。加えて、フィラーとの反応や焼結(ネッキング)が進行し、細孔径が粗大化するため、1300℃以上は望ましくない。尚、焼成雰囲気は、酸化を防ぐために、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下が好適である。
【0022】
従来の炭化珪素系の分離材では、炭化珪素前駆体を用いて600℃以下で焼成することで、微細な細孔径や高い比表面積を有する分離材を製造していたが、耐熱性や耐食性の点で不充分であった。そして、600−1200℃で焼成すると、耐熱性や耐食性は向上するが、微細な細孔、高い比表面積は、同時に起こる寸法変化によって消失してしまい、微細な細孔径や高比表面積は、維持できないという二律背反の問題点があった。
【0023】
これに対し、本発明では、大型で高価な装置を用いることなく、ナノサイズの粒径を有する無機充填剤を所定の割合で混合した組成物を使用することで、600℃以上の高温で焼成しても、微細な細孔と高い比表面積を維持する、高耐熱性、高耐腐食性で、かつ細孔径50nm以下の細孔分布を有し、高い分離性能を有するメソポーラス炭化珪素系セラミックス、その製造方法及び分離部材を提供することを実現したものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)ナノサイズの粒子充填剤を有機珪素ポリマーへ導入することにより、前駆体の熱分解による寸法変化や細孔の消失を抑制することができる。
(2)600℃以上の熱処理を施しても、微細な細孔や最大270m/gの高い比表面積を保持することが可能となる。
(3)スラリー溶液を塗膜の出発原料として用いることで、部品の溶液中への浸漬と熱処理によるコーティングが可能になることから、複雑形状を有する部材への塗膜も対応可能である。
(4)高耐熱性、高耐腐食性で、細孔径50nm以下の細孔分布を有し、高い分離性能を有するメソポーラス炭化珪素系セラミックスを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
炭化珪素前駆体として、ポリカルボシラン(PCSタイプS、又はUH;日本カーボン株式会社製)を用いた。ポリカルボシランをトルエンに溶解後、充填剤としてβ−SiC(平均粒径30nm、比表面積40−50m/g;住友大阪セメント株式会社製)を、体積混合比β−SiC/(PCS+β−SiC)=0,0.28,0.51,0.71,1として混合した。これをボールミルを用いて混合後、スラリーを得た。
【0027】
被膜を得る際には、上記スラリーに、ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製)を溶解させた粘性溶液を調整した。その際の混合重量比は、有機バインダー/スラリー=5/100とした。このスラリーを支持体表面に塗膜した。このスラリーをテフロン(登録商標)シャーレにキャスティングすることにより自立膜を得ることもできる。
【0028】
被膜あるいは自立膜の焼成温度は、アルゴンガス流通下、600、800及び1200℃とした。焼成後に得られた炭化珪素膜(有機バインダー未導入)の光学顕微鏡写真を、図1に示す((A)有機珪素ポリマー、(B)充填剤28vol%含有部材)。有機珪素ポリマーを不融化せずに焼成を行うと、焼成に伴うガス放出、寸法変化が要因となり、形状保持が非常に困難であった。有機珪素ポリマーからの焼成物は、ガス放出に伴う発泡、しわ、亀裂等が多数観られたが、フィラーが存在することにより、寸法変化が抑制され、平滑で亀裂の無い表面が得られている。
【0029】
図2に、焼成温度に対する自立膜(有機バインダー未導入)の比表面積を示す。充填剤を未導入の部材は、600℃焼成で270m/gの高い比表面積を示したものの、800℃では、0.5m/gに大幅に減少した。ガス放出後に収縮も生じるため、細孔が消失している。一方、充填剤導入部材は、焼成温度に従って、徐々に比表面積は低下するものの、概ね100m/g以上を保持することができた。加えて、充填剤の量に従って、比表面積は低下してゆく傾向にある。以上、図2で明らかなように、本実施例で得られた分量程度の充填剤を前駆体ポリマーに含有することにより、高い比表面積を有する炭化珪素膜を作製することが可能になった。
【0030】
次に、1200℃焼成膜のBJH脱着側細孔径分布を図3に示す。BJH法とは、メソ孔を評価する際に、一般的に使用される公知の方法である。比表面積の結果と対応するように、充填剤含有部材は、メソ孔が検出され、充填剤未添加の部材は、細孔自体が観られなかった。一方、充填剤の量が多い部材は、凝集粒子が形成するマクロ孔も検出された。メソ孔のみを有する部材を所望する際には、充填剤の量は25vol%以下が良い。尚、水銀圧入法による細孔径分布も、充填剤含有部材にマクロ孔が検出された。
【0031】
図4に、FE−SEM観察結果を示す。支持体には、部分焼結により作製したマクロポーラス炭化珪素を用いた。(A)は支持体表面の被膜、(B)は充填剤28vol%含有の支持体上の被膜、(C)は71vol%含有の被膜である。いずれも被膜が支持体を覆う様子が確認された。(B)の充填剤28vol%含有被膜では、ナノ粒子の隙間を有機珪素ポリマーが密に満たされているが、(C)の充填剤71vol%含有被膜は、凝集粒子が形成する隙間や、有機珪素ポリマーが満たされていない部位が観られた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上詳述したように、本発明は、メソポーラス炭化珪素膜及びその製造方法に係るものであり、本発明により、耐熱性、耐腐食性を改善し、しかも50nm以下の微細な細孔と高比表面積(270m/g)を保持したメソポーラス炭化珪素系セラミックスを提供することができる。本発明により、上記メソポーラス炭化珪素系セラミックスを利用した分離膜を提供できる。本発明の分離膜は、例えば、工業廃水などの、腐食性溶液の浄化、水処理プラントや淡水化プラント、又は高温での特定のガス分離など、苛酷な環境下で使用される液体分離膜として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】焼成後に得られた炭化珪素膜(有機バインダー未導入)の光学顕微鏡写真を示す。(A)はポリカルボシラン800℃焼成物、(B)は充填剤28vol%を含有するポリカルボシランの800℃焼成物である。
【図2】各焼成物の焼成温度に対する自立膜の比表面積を示す。
【図3】各焼成膜のBJH脱着側細孔径分布を示す。
【図4】FE−SEM観察写真を示す。(A)は炭化珪素支持体の被膜、(B)は炭化珪素支持体上の800℃焼成後の被膜(28vol%充填剤含有)、(C)は同800℃焼成後の被膜(71vol%充填剤含有)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性及び耐腐食性が改善されたメソポーラス炭化珪素系セラミックスであって、(1)Si−C結合、あるいは一部にSi−O結合を基本とする非晶質ネットワークを有している、(2)10−500nmの粒径を有する無機充填剤が分散している、(3)細孔径50nm以下の微細な細孔分布を有する、ことを特徴とするメソポーラス炭化珪素系セラミックス。
【請求項2】
前記充填剤が、体積比5−75vol%の割合で分散している、請求項1に記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックス。
【請求項3】
前記充填剤として、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素のうちの少なくとも一種類を含有している、請求項1記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックス。
【請求項4】
前記メソポーラス炭化珪素系セラミックスが、多孔質セラミックス支持体上に接着されている被膜あるいは自立膜である、請求項1記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックス。
【請求項5】
前記多孔質セラミックス支持体が、多孔質シリカ、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素、又はコージェライトである、請求項1記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックスを使用していることを特徴とする分離部材。
【請求項7】
前記メソポーラス炭化珪素系セラミックスの被膜又は自立膜からなる、請求項6記載の分離部材。
【請求項8】
耐熱性、耐腐食性を改善したメソポーラス炭化珪素系セラミックスを製造する方法であって、(1)有機珪素ポリマー及び無機充填剤を含有する組成物を、不融化後あるいは不融化せずに、不活性雰囲気下300℃以上1200℃以下で焼成させる、(2)細孔径50nm以下の微細な細孔分布を有するメソポーラス炭化珪素系セラミックスを作製する、ことを特徴とするメソポーラス炭化珪素系セラミックスの製造方法。
【請求項9】
粘度及び膜厚調整成分を溶解させた組成物を多孔質支持体に塗膜後、不融化後あるいは不融化せずに、焼成させる、請求項8記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックスの製造方法。
【請求項10】
有機珪素ポリマーが、ポリカルボシラン、又はポリメチルシランである、請求項8記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックスの製造方法。
【請求項11】
ビニールブチラールあるいはポリスチレンを溶解させた組成物を多孔質支持体に塗膜する、請求項8記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックスの製造方法。
【請求項12】
膜から多孔質材料へと細孔を傾斜させる、請求項8記載のメソポーラス炭化珪素系セラミックスの製造方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−261882(P2007−261882A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89766(P2006−89766)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】