説明

メタクリル酸製造用触媒およびその製造方法、並びにメタクリル酸の製造方法

【課題】機械的強度が高く、優れた触媒活性および触媒寿命を有するメタクリル酸製造用触媒を提供する。
【解決手段】本発明のメタクリル酸製造用触媒は、リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒であって、含水率が0.7〜2.5重量%である。このような本発明のメタクリル酸製造用触媒は、触媒の原料を含む水性混合物を乾燥し、成形して焼成した後、得られた焼成物の含水率を0.7〜2.5重量%に調整することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸製造用触媒およびその製造方法に関し、さらにこの触媒を用いてメタクリル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタクロレインなどの気相接触酸化反応によりメタクリル酸を製造する際に用いる触媒としては、リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸やその塩からなるものが有効であることが知られている(特許文献1〜6)。例えば、特許文献1には焼成して得られる触媒を、所定の透湿度の容器に保存し、含水率が0重量%、0.08重量%、0.27重量%、0.52重量%、3.24重量%および3.06重量%のメタクリル酸製造用触媒を得たことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−10695号公報
【特許文献2】特開2004−188231号公報
【特許文献3】特開2005−21727号公報
【特許文献4】特開2007−90193号公報
【特許文献5】特開2008−284508号公報
【特許文献6】特開2009−248035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のメタクリル酸製造用触媒は、機械的強度、触媒活性および触媒寿命の点で必ずしも満足のいくものではなかった。
【0005】
本発明の課題は、機械的強度が高く、優れた触媒活性および触媒寿命を有するメタクリル酸製造用触媒を提供することにある。さらに、この触媒を製造する方法や、この触媒を用いて原料を良好な転化率で転化し、長期間にわたり安定してメタクリル酸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒であって、含水率が0.7〜2.5重量%であることを特徴とする、メタクリル酸製造用触媒。
(2)前記ヘテロポリ酸化合物が、さらに、
バナジウムと、
カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選択される少なくとも1種と、
銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタンおよびセリウムからなる群より選択される少なくとも1種と、
を含むことを特徴とする、(1)に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(3)リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
前記触媒の原料を含む水性混合物を乾燥し、成形して焼成した後、得られた焼成物の含水率を0.7〜2.5重量%に調整することを特徴とする、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(4)前記ヘテロポリ酸化合物が、さらに、
バナジウムと、
カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選択される少なくとも1種と、
銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタンおよびセリウムからなる群より選択される少なくとも1種と、
を含むことを特徴とする、(3)に記載の方法。
(5)(1)または(2)に記載のメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタンおよびイソ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を、気相接触酸化反応に供することを特徴とする、メタクリル酸の製造方法。
(6)(3)または(4)に記載の製造方法によって得られたメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタンおよびイソ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を、気相接触酸化反応に供することを特徴とする、メタクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、機械的強度が高く、優れた触媒活性および触媒寿命を有するメタクリル酸製造用触媒が得られるという効果を奏する。さらに、この触媒を用いると、原料を良好な転化率で転化して長期間にわたり安定してメタクリル酸を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(メタクリル酸製造用触媒)
本発明のメタクリル酸製造用触媒は、リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなる。このようなヘテロポリ酸化合物は、遊離のヘテロポリ酸からなるものであってもよいし、ヘテロポリ酸の塩からなるものであってもよい。これらの中でも、ヘテロポリ酸の酸性塩(部分中和塩)からなるものが好ましく、ケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩からなるものがより好ましい。
【0009】
ヘテロポリ酸化合物は、リンおよびモリブデンを必須の元素として含むものであれば、触媒活性を阻害しない限り、他の元素を含んでいてもよい。他の元素としては、バナジウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、タリウム、銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン、セリウムなどが挙げられる。例えば、ヘテロポリ酸化合物は、以下の元素を含むものが好ましい。
リン;
モリブデン;
バナジウム;
カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素(以下、「X元素」と記載する場合がある);ならびに
銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタンおよびセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素(以下、「Y元素」と記載する場合がある)。
【0010】
特に、ヘテロポリ酸化合物は、モリブデン12原子に対して、リン、バナジウム、X元素およびY元素を、それぞれ3原子以下の割合で含むものが好ましい。
【0011】
本発明のメタクリル酸製造用触媒は、含水率が0.7〜2.5重量%である。含水率がこのような範囲を満たすことにより、本発明のメタクリル酸製造用触媒は、機械的強度が高く、優れた触媒活性および触媒寿命を有し、原料を良好な転化率で転化して長期間にわたり安定してメタクリル酸を製造することができる。含水率が0.7重量%未満の場合、触媒の機械的強度が低くなり、過酷な条件下では使えないおそれがある。一方、含水率が2.5重量%を超える場合、触媒寿命が短く、短期間で転化率が低下するおそれがある。含水率は、好ましくは1.5〜2.2重量%である。
【0012】
(メタクリル酸製造用触媒の製造方法)
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と記載する場合がある)は、上記のように、リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、触媒の原料を含む水性混合物を乾燥し、成形して焼成した後、得られた焼成物の含水率を0.7〜2.5重量%に調整する。
【0013】
触媒の原料となる化合物は、各元素のオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。例えば、リンを含有する化合物としては、リン酸、リン酸塩などが挙げられる。モリブデンを含有する化合物としては、モリブデン酸、モリブデン酸塩、酸化モリブデン、塩化モリブデンなどが挙げられる。バナジウムを含有する化合物としては、バナジン酸、バナジン酸塩、酸化バナジウム、塩化バナジウムなどが挙げられる。上記X元素を含有する化合物としては、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。上記Y元素を含有する化合物としては、オキソ酸、オキソ酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。
【0014】
これらの化合物は、所望の割合で(好ましくは、上記のモリブデン12原子に対して、リン、バナジウム、X元素およびY元素を、それぞれ3原子以下の割合となるように)水と混合され、水溶液や懸濁液のような水性混合物の状態にされる。すなわち、ヘテロポリ酸化合物は、以下の元素を含むものが好ましい。
リン;
モリブデン;
バナジウム;
カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素(X元素);ならびに
銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタンおよびセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素(Y元素)。
【0015】
この水性混合物は、スプレードライヤーを用いた噴霧乾燥などによって乾燥される。乾燥後、乾燥物は、通常、所望の形状(例えば、円柱状、球状、リング状など)に成形され、成形の際に、必要に応じて成形助剤を用いてもよい。得られた成形体は、好ましくは、酸化性ガスまたは非酸化性ガスの雰囲気下にて180〜300℃程度の温度で熱処理(前焼成)が施される。なお、乾燥物に熱処理(前焼成)を施した後、成形を行ってもよい。
【0016】
上記水性混合物を調製する際、さらにアンモニアやアンモニウム塩を添加して、アンモニウム根を含む水性混合物とするのが好ましい。アンモニアやアンモニウム塩を添加する代わりに、リン、モリブデン、バナジウム、X元素またはY元素を含む上記の化合物の少なくとも1種に、アンモニウム化合物を用いてもよい。このような処方の場合、非ケギン型ヘテロポリ酸塩からなる乾燥物が得られ、熱処理(前焼成)を施すことによって、非ケギン型からケギン型への転移反応が生じ、ケギン型ヘテロポリ酸塩からなる成形体を得ることができる。
【0017】
次いで、得られた成形体は焼成される。焼成は、特に限定されず、酸化性ガス(空気、酸素など)、非酸化性ガス(不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなど)、還元性ガス(二酸化炭素、水素、アンモニアなど)など)などの雰囲気下で行われる。これらの中でも、好ましくは窒素、空気、アルゴン、ヘリウムまたは二酸化炭素の雰囲気下で行われ、より好ましくは窒素または空気の雰囲気下で行われる。これらのガスは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
焼成は、好ましくは360〜500℃、より好ましくは380〜450℃で、好ましくは1〜20時間、より好ましくは1〜10時間行われる。また、焼成は、異なる温度で多段階に分けて行ってもよい。多段階の焼成方法として、例えば、420〜500℃で非酸化性ガス雰囲気下にて1〜10時間焼成(第1焼成)を行った後、360〜410℃で酸化性ガス雰囲気下にて1〜10時間焼成(第2焼成)を行う方法や、360〜410℃で非酸化性ガスまたは酸化性ガス雰囲気下にて1〜10時間焼成(第1焼成)を行った後、420〜500℃で非酸化性ガス雰囲気下にて1〜10時間焼成(第2焼成)を行う方法などが挙げられる。
【0019】
このようにして得られた焼成物の含水率を、0.7〜2.5重量%、好ましくは1.5〜2.2重量%に調整することによって、メタクリル酸製造用触媒が得られる。含水率を調整する方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法が挙げられる。
(I)水分を含む雰囲気に曝し、含水率が0.7〜2.5重量%となるように吸湿させる。
(II)焼成物の含水率が2.5重量%を超える場合は、焼成物を乾燥させる。
【0020】
上記(I)の場合、含水率を調整できれば温度や湿度は特に限定されないが、例えば、温度が20〜25℃で湿度が20〜50%RHの室内や恒温恒湿槽に、置いて吸湿させればよい。また、上記(II)の場合は、風乾、熱風乾燥、真空乾燥など任意の乾燥方法によって、含水率が0.7〜2.5重量%となるように乾燥すればよい。
【0021】
(メタクリル酸の製造方法)
本発明のメタクリル酸製造用触媒は、機械的強度が高く、優れた触媒活性および触媒寿命を有する。このメタクリル酸製造用触媒を用いて、例えば、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタン、イソ酪酸などの原料化合物を、気相接触酸化反応に供することにより、原料化合物を良好な転化率で転化して、メタクリル酸を長期間にわたり安定して製造することができる。
【0022】
メタクリル酸の製造は、通常、固定床多管式反応器に触媒を充填し、この反応器に原料化合物と酸素を含むガスとを供給することによって行われる。また、固定床の代わりに、流動床や移動床の形態も採用され得る。酸素を含むガスとしては、一般的に空気や純酸素が用いられる。酸素を含むガスおよび原料化合物の他に、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気などを反応器に供給してもよい。本発明のメタクリル酸製造用触媒は、その機械的強度が高いため、固定床多管式反応器への充填時に、触媒の粉化や破壊による粉塵の発生を低く抑えることができ、固定床多管式反応器における各反応管の圧力損失のばらつきを抑制し、安定してメタクリル酸を製造することができる。
【0023】
メタクロレインを原料化合物として用いる場合、好ましくは、反応は以下の条件下で行われる。なお、空間速度は、反応器内を通過する1時間当たりの原料(原料化合物およびその他のガス)供給量(L/h)を、反応器内の触媒容量(L)で除して求められる。
原料中のメタクロレインの濃度:1〜10容量%
原料中の水蒸気の濃度:1〜30容量%
メタクロレインと酸素とのモル比:1/1〜1/5(メタクロレイン/酸素)
空間速度:500〜5000h-1(標準状態基準)
反応温度:250〜350℃
反応圧力:0.1〜0.3MPa
【0024】
イソブタンを原料化合物として用いる場合、好ましくは、反応は以下の条件下で行われる。
原料中のイソブタンの濃度:1〜85容量%
原料中の水蒸気の濃度:3〜30容量%
イソブタンと酸素とのモル比:1/0.05〜1/4(イソブタン/酸素)
空間速度:400〜5000h-1(標準状態基準)
反応温度:250〜400℃
反応圧力:0.1〜1MPa
【0025】
なお、イソブチルアルデヒドおよびイソ酪酸を原料化合物として用いる場合は、メタクロレインを原料化合物として用いる場合と、ほぼ同様の条件下で反応が行われる。また、これらの原料化合物は、精製された高純度品である必要はない。例えば、メタクロレインの場合、イソブチレンやt−ブチルアルコールの気相接触酸化反応によって得られたメタクロレインを未精製のまま用いてもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、使用した空気は2容量%の水分を含み(大気相当)、窒素は実質的に水分を含んでいない。
【0027】
(調製例1:触媒前駆体の調整)
まず、以下のそれぞれの原料を混合して、A液およびB液を調製した。
<A液(溶液)>
イオン交換水(40℃):224kg
硝酸セシウム(CsNO3):38.2kg
オルトリン酸(75重量%品):27.4kg
硝酸(70重量%品):25.2kg
<B液(懸濁液)>
イオン交換水(40℃):330kg
モリブデン酸アンモニウム4水和物((NH46Mo724・4H2O):297kg
メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3):8.19kg
【0028】
次いで、撹拌しながら、A液をB液に滴下した。滴下後、密閉容器中で120℃にて5.8時間撹拌した。次いで、10.2kgの三酸化アンチモン(Sb23)および10.2kgの硝酸銅3水和物(Cu(NO32・3H2O)を23kgのイオン交換水に懸濁させて上記密閉容器中に添加し、120℃にてさらに5時間撹拌した。
【0029】
得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥し、得られた乾燥物100重量部に対して、4重量部のセラミックファイバー(SiO2−Al23系繊維、直径2〜4μm、繊維平均長400μm)、13重量部の硝酸アンモニウム、および9.7重量部のイオン交換水を加えて混練し、円柱状(直径5mm、高さ6mm)に押出成形した。次いで、得られた成形体を、温度90℃および湿度30%RH雰囲気下で3時間乾燥した。得られた乾燥物に、220℃の空気気流中で22時間、その後250℃で1時間熱処理(前焼成)を施し、ケギン型ヘテロポリ酸塩からなる前焼成された触媒前駆体を得た。
【0030】
(比較例1)
上記調製例1で得られた触媒前駆体を、窒素気流中で、435℃にて3時間保持した。次いで、窒素気流中で300℃まで冷却した後、窒素を空気に切り替えて空気気流中で390℃にて3時間保持した。次いで、焼成物を空気気流中で70℃まで冷却し、大気中に取り出した。得られた焼成物(触媒)は、リン(1.5)、モリブデン(12)、バナジウム(0.5)、アンチモン(0.5)、銅(0.3)およびセシウム(1.4)を含むケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩であった。なお、かっこ内の数値は原子比である。
【0031】
(実施例1〜3および比較例2〜6)
比較例1で得られた焼成物を、室内(温度20℃、湿度40%RH)に置いて吸湿させ、吸湿時間を変えることにより含水率の異なる触媒を調製した。
【0032】
各実施例および各比較例で得られた含水率の異なる触媒について、含水率、落下強度および強制劣化後のメタクロレイン転化率を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
(含水率測定)
約10gの触媒を精秤し、精秤した触媒をオーブン内に置いて、300℃にて1時間保持した。次いで、100℃まで冷却した後、ドライボックス内に移し、室温まで冷却して触媒を精秤した。加熱前の質量と加熱後の質量とから触媒の含水率を求めた。
含水率(%)=100−{(加熱後質量/加熱前質量)×100}
【0034】
(落下強度測定)
約30gの触媒を精秤し、垂直に設置したSUS製直管(内径30mmφ、管長5.0m)の上部から触媒を管内に投入した。触媒を管の下部(出口)に備えられたJIS標準網篩(目開き2.36mm)で受け、篩上に残った触媒を精秤した。管内に投入した触媒量に対する篩上に残った触媒量の割合((篩上質量/投入質量)×100)を測定し、3回測定した平均値を落下強度とした。この割合が高いほど、触媒が砕けることなく篩上に残っており、触媒の強度が高いことがわかる。
【0035】
(強制劣化後のメタクロレイン転化率)
得られた触媒を9g秤量して、16mmの内径を有するガラス製マイクロリアクターに充填し、炉温(マイクロリアクターを加熱するための炉の温度)を355℃まで昇温した。次いで、メタクロレイン、空気、水蒸気および窒素を混合して調製した原料ガス(メタクロレイン4容量%、分子状酸素12容量%、水蒸気17容量%、窒素67容量%)を、670h-1の空間速度でマイクロリアクター内に供給して1時間反応を行い、触媒を強制劣化させた。次いで、炉温を280℃にして、この劣化触媒に、上記の原料ガスを上記の空間速度(670h-1)で供給して、反応を開始した。反応開始から1時間後に、マイクロリアクター出口からの流出ガス(反応後のガス)をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにて分析して、以下の式に基づいてメタクロレイン転化率を求めた。
メタクロレイン転化率(%)=(A/B)×100
ここで、
Aは、反応したメタクロレインのモル数。
Bは、供給したメタクロレインのモル数。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示すように、実施例1〜3で得られた触媒は、落下強度が高く、強制劣化後のメタクロレイン転化率も高いことがわかる。一方、比較例1〜5で得られた触媒は、強制劣化後のメタクロレイン転化率については高めであるものの、落下強度が低いことがわかる。また比較例6で得られた触媒は、落下強度については高いものの、強制劣化後のメタクロレイン転化率が低いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒であって、含水率が0.7〜2.5重量%であることを特徴とする、メタクリル酸製造用触媒。
【請求項2】
前記ヘテロポリ酸化合物が、さらに、
バナジウムと、
カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選択される少なくとも1種と、
銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタンおよびセリウムからなる群より選択される少なくとも1種と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【請求項3】
リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
前記触媒の原料を含む水性混合物を乾燥し、成形して焼成した後、得られた焼成物の含水率を0.7〜2.5重量%に調整することを特徴とする、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記ヘテロポリ酸化合物が、さらに、
バナジウムと、
カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選択される少なくとも1種と、
銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタンおよびセリウムからなる群より選択される少なくとも1種と、
を含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタンおよびイソ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を、気相接触酸化反応に供することを特徴とする、メタクリル酸の製造方法。
【請求項6】
請求項3または4に記載の製造方法によって得られたメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタンおよびイソ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を、気相接触酸化反応に供することを特徴とする、メタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−245433(P2012−245433A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116926(P2011−116926)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】