説明

メタクリル酸製造用触媒の製造方法

【課題】メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒であって、メタクリル酸を高収率で製造可能な触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン、モリブデン、バナジウム、銅、Z元素(カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素)及び酸素を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、(A)三酸化モリブデン100質量部に対し、過酸化水素を5質量部以上、40質量部以下、水を300質量部以上、1200質量部以下添加し混合することで混合物を調製する工程、(B)前記混合物に残りの触媒原料を添加してさらに混合する工程、を含むことを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインの気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用される触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用される触媒としてヘテロポリ酸系触媒がある。メタクリル酸収率の向上は地球環境に優しく、経済的優位にもなるため、メタクリル酸収率向上に関するヘテロポリ酸系触媒の研究開発が進められている。
【0003】
従来技術として、特許文献1、2には、三酸化モリブデンとV、Al、P及びAsをそれぞれ含む化合物とを一度に脱イオン水中に分散させ、時々過酸化水素水を添加しながら6時間煮沸還流することにより橙赤色の透明溶液(均一溶液)を調製することが記載されている。また、特許文献3、4には、Mo+6、V+5及びSb+3を含む水性媒体中に過酸化水素を添加してアクリル酸製造用の触媒を調製することが記載されている。しかし、これらの方法により調製された触媒を用いてメタクロレインの気相接触酸化反応を行う場合高いメタクリル酸収率は得られず、更なる改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−31615号公報
【特許文献2】特開昭58−11416号公報
【特許文献3】特開平11−285636号公報
【特許文献4】特開平11−343261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒であって、メタクリル酸を高収率で製造可能な触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン、モリブデン、バナジウム、銅、Z元素(カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素)及び酸素を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、(A)三酸化モリブデン100質量部に対し、過酸化水素を5質量部以上、40質量部以下、水を300質量部以上、1200質量部以下添加し混合することで混合物を調製する工程、(B)前記混合物に残りの触媒原料を添加してさらに混合する工程、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、メタクリル酸を高収率で製造可能な触媒を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン、モリブデン、バナジウム、銅、Z元素(カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素)及び酸素を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、(A)三酸化モリブデン100質量部に対し、過酸化水素を5質量部以上、40質量部以下、水を300質量部以上、1200質量部以下添加し混合することで混合物を調製する工程、(B)前記混合物に残りの触媒原料を添加してさらに混合する工程、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る製造方法では、工程(A)において三酸化モリブデンと過酸化水素と水とを特定の範囲の配合比率で混合することで、高い粘性を有する粘土状の混合物が得られる。これは過酸化モリブデン錯体が結晶水を取り込みながら粘土状に変化するためと推測される。また、この状態で工程(B)において残りの触媒原料を投入していくと再びスラリー(液体状態)に戻る。本発明者らは、特定の組成を有する触媒の調製過程において、三酸化モリブデンと過酸化水素と水との配合比率を特定の範囲としてこれらを混合し、残りの原料をその後添加しさらに混合することでこのような現象が見られ、得られるスラリーを乾燥、焼成して調製された触媒が高いメタクリル酸収率を示すことを見出した。本発明者らが推測するに本発明に係る製造方法によれば、前記工程(A)において結晶水を含む過酸化モリブデンが調製され、前記工程(B)において他の成分が結晶水を含む過酸化モリブデンと遅い反応速度で反応することで、従来にない化学構造を有するヘテロポリ酸が得られると考えられる。一方、従来の製造方法では三酸化モリブデンと過酸化水素と水との配合比率を考慮せず、全ての触媒原料を一斉に混合してスラリーを調製していた。しかし、この方法では粘性の制御ができず、得られる触媒のメタクリル酸収率は低い。
【0010】
また、本発明に係る方法により製造される触媒の特徴として、触媒に含まれるヘテロポリ酸の還元度が比較的高い(還元電子数が大きい)ことが挙げられる。本発明の方法で製造される触媒においては、組成が同じであれば、還元電子数の大きいヘテロポリ酸を含む触媒ほど高いメタクリル酸収率を示す傾向がある。
【0011】
一般にモリブデンを主元素として構成されるヘテロポリ酸イオンは3価のアニオンであり、カウンターカチオンによってプロトン型ヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸塩に分類することができる。カウンターカチオンが全てプロトンの場合はプロトン型ヘテロポリ酸であり、水溶解性を示す。一方、カウンターカチオンのうち少なくとも一つがプロトン以外の例えばアンモニウムイオンやアルカリ金属カチオンである場合にはヘテロポリ酸塩であり、難水溶性を示す。ヘテロポリ酸のプロトンは酸点として機能するが、プロトン以外のカウンターカチオンは酸点としての機能が低い。プロトン型ヘテロポリ酸は強力な酸化力を有し、メタクロレイン分子を引き寄せ、ヘテロポリ酸の酸素の供給をうけてメタクロレインを酸化しメタクリル酸とする。しかし、プロトン型ヘテロポリ酸はメタクロレインをメタクリル酸に酸化させるには酸化力が強すぎる。一方、ヘテロポリ酸塩はプロトン型ヘテロポリ酸と比べて酸化力が希釈されているため逐次酸化が抑制される。しかし、ヘテロポリ酸塩を用いた場合にも逐次酸化反応の抑制は十分でない。
【0012】
本発明者らはヘテロポリ酸の還元電子数を大きくすることでより逐次酸化反応を抑制できることを見出している。本発明においては、特定の組成を有する触媒の調製において、三酸化モリブデン、過酸化水素及び水の配合比率を所定の範囲に特定し、残りの触媒原料を前記原料の混合後に別途添加して混合することで、従来法と比較して還元電子数の大きいヘテロポリ酸を含む触媒を製造できることを見出した。また、触媒中のヘテロポリ酸塩の還元電子数(γ)がプロトン型ヘテロポリ酸の還元電子数(β)より大きいことがメタクリル酸収率の点から好ましい。具体的には、γが0.6以上、βが0.6未満であることが好ましい。プロトン型へテロポリ酸の還元電子数(β)よりヘテロポリ酸塩の還元電子数(γ)を大きくするには、過酸化水素の水に対する割合を大きくすることで達成することができる。本発明に係る方法により製造される触媒に含まれるヘテロポリ酸の還元電子数(α:ヘテロポリ酸塩の還元電子数(γ)とプロトン型ヘテロポリ酸の還元電子数(β)の合計)は、ヘテロポリ酸の組成により異なり、一概に限定することはできない。なお、ヘテロポリ酸の還元電子数とは、JISK0102排水試験法に準じ、ヘテロポリ酸一分子当たりの還元電子数を過マンガン酸カリウムによる酸化還元滴定から求めた値である。なお、ヘテロポリ酸塩の還元電子数(γ)とプロトン型ヘテロポリ酸の還元電子数(β)の詳細については、後述する実施例にて説明する。
【0013】
以下、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法の実施形態を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0014】
(触媒組成)
本発明に係る方法により製造されるメタクリル酸製造用触媒は、少なくともリン、モリブデン、バナジウム、銅、Z元素及び酸素を含めば特に限定されない。しかし、下記式(1)で示される複合酸化物であることがメタクリル酸をより高収率で製造できる観点から好ましい。
【0015】
aMobcCudefgh (1)
(式(1)中、P、Mo、V、Cu及びOは、それぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅及び酸素を示し、Xはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示し、Yは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示し、Zはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g及びhは、各元素の原子比率を表し、b=12のとき、a=0.55〜0.8、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは、前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)。
【0016】
(触媒の原料)
本発明においてモリブデン原料には三酸化モリブデンを用いる。モリブデン以外の元素の原料については特に限定されず、各元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩等を適宜選択して使用することができる。リン原料としては、例えば正リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が使用できる。バナジウムの原料としては、例えばメタバナジン酸アンモニウム、五酸化二バナジウム等が使用できる。銅の原料としては、例えば硝酸銅、硫酸銅、炭酸銅等が使用できる。
【0017】
(工程(A))
本発明においては、まず三酸化モリブデン100質量部に対し、過酸化水素を5質量部以上、40質量部以下、水を300質量部以上、1200質量部以下添加し混合することで混合物を調製する。
【0018】
過酸化水素量は、三酸化モリブデン100質量部に対し5質量部以上、40量部以下とする。過酸化水素量が5質量部未満である場合、得られる触媒のメタクリル酸収率が低下するため好ましくない。一方、過酸化水素量が40質量部をこえる場合、それ以上過酸化水素を添加してもメタクリル酸収率の向上は得られず、コスト面から不利となるため好ましくない。過酸化水素量は、三酸化モリブデン100質量部に対し6質量部以上、36質量部以下であることが好ましい。なお、過酸化水素は過酸化水素水として添加してよく、この場合の過酸化水素量は過酸化水素水に含まれる過酸化水素自体の量である。
【0019】
水量は、三酸化モリブデン100質量部に対し300質量部以上、1200質量部以下とする。水量が300質量部未満である場合、十分に三酸化モリブデンが溶解せず、得られる触媒のメタクリル酸収率が低下するため好ましくない。一方、水量が1200質量部をこえる場合、得られる触媒のメタクリル酸収率が低下し、また後の乾燥工程において水分除去のために高エネルギーが必要となりコスト面で不利となるため好ましくない。水量は、三酸化モリブデン100質量部に対し314質量部以上、1184質量部以下であることが好ましい。なお、過酸化水素を過酸化水素水として添加した場合、水量は過酸化水素水に含まれる水量と別途添加する水量との合計の値である。
【0020】
三酸化モリブデン、過酸化水素及び水の混合方法は特に限定されないが、20℃以上、105℃以下で加熱して攪拌することが好ましい。例えば加熱還流により行ってもよい。
【0021】
工程(A)において前記配合比率で三酸化モリブデン、過酸化水素及び水を混合した場合、0.02Pa・s以上の粘度を有する混合物を得ることができる。なお、粘度はVISCOMETER(MODEL:DV−II+、BROOKFIELD製)を用いて測定した値である。
【0022】
(工程(B))
次に、工程(A)で得られた混合物に残りの触媒原料を添加してさらに混合する。
【0023】
前記残りの触媒原料の添加量は、製造される触媒が前記式(1)で示される組成を有すれば、その範囲内において適宜選択することができる。なお、前記式(1)における触媒の組成は、各元素の仕込み量から算出した値とする。
【0024】
前記混合物と残りの触媒原料との混合方法は特に限定されないが、20℃以上、105℃以下で加熱して攪拌することが好ましい。
【0025】
また、混合により得られるスラリーのpHは8以下であることが、高いメタクリル酸収率を発現する触媒が形成される観点から好ましい。得られるスラリーのpHは3以下であることがより好ましい。なお、スラリーのpHは三酸化モリブデン溶解やリン酸等を工程(B)で必要量添加することにより調整することができる。
【0026】
(乾燥工程)
前記工程(B)により得られたスラリーを乾燥することにより、触媒前駆体の乾燥物を得ることができる。前記スラリーの乾燥方法としては種々の方法を用いることができるが、例えば蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法等が挙げられる。乾燥に使用する乾燥機の機種や乾燥時の温度、雰囲気等は特に限定されず、乾燥条件を適宜変えることによって目的に応じた触媒前駆体の乾燥物を得ることができる。
【0027】
(予備成型工程)
前記触媒前駆体の乾燥物はそのまま焼成を行ってもよく、なんらかの予備成型を行った後に焼成を行ってもよい。予備成型方法は特に限定されず、公知の乾式及び湿式の種々の成型方法が適用できるが、担体等を含めず触媒成分のみで成型する方法が好ましい。具体的な成型方法としては、例えば、打錠成型、プレス成型、押出成型、造粒成型等が挙げられる。成型品の形状についても特に限定されず、例えば、円柱状、リング状、球状等の形状に成型することができる。
【0028】
(焼成工程)
前記触媒前駆体の乾燥物又はその成型品を焼成する方法や焼成条件は特に限定されず、公知の焼成方法及び焼成条件を適用することができる。焼成の最適条件は、用いる触媒原料、触媒組成によっても異なるが、通常、空気等の酸素含有ガス及び不活性ガス流通下で200〜500℃、好ましくは300〜400℃で、0.5時間以上、好ましくは1〜40時間行われる。ここで不活性ガスとは触媒活性を低下させないような気体を示し、例えば、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。
【0029】
(成型工程)
触媒の成型方法は特に限定されず、公知の乾式及び湿式の種々の成型方法が適用できるが、担体等を含めず触媒成分のみで成型する方法が好ましい。しかし、公知の添加剤、例えば、グラファイト、タルク等を少量添加しても差し支えない。具体的な成型方法としては、例えば、打錠成型、プレス成型、押出成型、造粒成型等が挙げられる。成型品の形状についても特に限定されず、例えば、円柱状、リング状、球状等の形状に成型することができる。
【0030】
(メタクリル酸の製造方法)
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、本発明に係る方法により製造されたメタクリル酸製造用触媒の存在下、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化させる。メタクロレイン、分子上酸素を含む原料ガス中のメタクロレイン濃度は広い範囲で変更することができるが、1〜20容量%が好ましく、3〜10容量%がより好ましい。原料ガス中の分子状酸素濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.5〜4モルが好ましく、1〜3モルがより好ましい。原料ガスは窒素、炭酸ガス等の不活性ガスを加えて希釈してもよく、また原料ガスに水蒸気を加えてもよい。反応圧力は常圧から数気圧までが好ましい。反応温度は230〜450℃の範囲で選択することができるが、250〜400℃が好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明に係る実施例を示すが本発明はこれらに限定されない。なお、「部」は「質量部」を示す。
【0032】
(ヘテロポリ酸の還元電子数の測定方法)
ヘテロポリ酸の還元電子数は、JISK0102排水試験法に準じ、ヘテロポリ酸一分子当たりの還元電子数を過マンガン酸カリウムによる酸化還元滴定から求めた。
【0033】
まず、触媒を適量(0.1〜1g)精秤後、純水100mlに分散させた。この液を便宜上水分散液(α)とする。該水分散液(α)を超音波洗浄器内で室温30分間処理し、その全量を遠心分離処理(16000rpm×5分間)した後、上澄み液を取り出した。さらに、この上澄み液を0.45μmのフィルターでろ過した。この液を便宜上水溶解成分(β)とする。
【0034】
前記水溶解成分(β)に硫酸水溶液(硫酸:水=1:2(容量比))10mlと5mmol/Lの過マンガン酸カリウム10mlを加えて、沸騰水浴中で30分間加熱処理を行った。次いで12.5mmol/Lのシュウ酸10mlを加え、過剰のシュウ酸を5mmol/Lの過マンガン酸カリウムで滴定(いわゆる逆滴定)した液量をAmlとする。
【0035】
一方、水分散液(α)を沸騰水浴中で30分間加熱処理し、次いで12.5mmol/Lのシュウ酸10mlを加えた。その後、0.45μmのフィルターでろ過して少量の純水で洗浄し、洗浄液を合わせた後、再び沸騰水浴中で3分間加熱した。過剰のシュウ酸を5mmol/Lの過マンガン酸カリウムで滴定した液量をA’mlとする。また、これらとは別に、空実験として触媒を添加せず純水100mlを用いたこと以外は前記と同様の操作を行うことにより得られた値をBml又はB’mlとする。
【0036】
水分散液(α)(へテロポリ酸に相当)、水溶解成分(β)(プロトン型へテロポリ酸に相当)及び水難溶成分(γ)(ヘテロポリ酸塩に相当)の還元電子数は以下の計算式(1)〜(3)により算出した。
【0037】
<水溶解成分(β)の還元電子数の計算式>
還元電子数=0.005mol×(A−Bml)÷1000×5×ヘテロポリ酸分子量÷触媒量(g) 式(1)
<水分散液(α)の還元電子数の計算式>
還元電子数=0.005mol×(A’−B’ml)÷1000×5×ヘテロポリ酸分子量÷触媒量(g) 式(2)
<水難溶成分(γ)の還元電子数の計算式>
還元電子数=水分散液(α)の還元電子数−水溶解成分(β)の還元電子数 式(3)。
【0038】
(触媒の評価方法)
メタクリル酸の製造における原料ガスと生成物の定量分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、メタクロレインの反応率、生成するメタクリル酸の選択率及び単流収率は以下のように定義される。
【0039】
メタクロレイン(MAL)の反応率(%)=(B/A)×100
メタクリル酸(MAA)の選択率(%)=(C/B)×100
メタクリル酸(MAA)の収率(%)=(C/A)×100
ここで、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0040】
[実施例1]
三酸化モリブデン100部に水300部、30%過酸化水素水20部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。次いでリン酸7部、バナジン酸1.7部、三酸化アンチモン1部、硝酸銅0.8部を加えて分散させた。続いて硝酸セシウム12部、硝酸アンモニウム20部、硝酸ジルコニウム0.15部、硝酸鉄1.7部と28%アンモニア水30部を加えて加熱攪拌しながら蒸発乾固した。得られた固形物を130℃で16時間乾燥したものを加圧成型し、さらに破砕した。篩を用いて0.85〜1.70mmの破砕物を分取して、空気流通下に380℃で5時間熱処理して触媒を得た。この触媒の組成はP1Mo120.25Cu0.06Zr0.01Sb0.06Fe0.07Cs1.06であった。なお、前記触媒の組成は各元素の仕込み量から算出した値である。該触媒の還元電子数はαが1.00であり、βが0.45であり、γは0.55であった。
【0041】
この触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の混合ガスを反応温度270℃、接触時間3.6秒で通じて反応を行った。この結果、メタクロレイン転化率74.0%、メタクリル酸選択率88.9%、メタクリル酸単流収率65.7%であった。
【0042】
[実施例2]
三酸化モリブデン100部に水300部、30%過酸化水素水40部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例1と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが1.05であり、βが0.47であり、γは0.58であった。反応は実施例1と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率73.7%、メタクリル酸選択率89.7%、メタクリル酸単流収率66.1%であった。
【0043】
[実施例3]
三酸化モリブデン100部に水300部、30%過酸化水素水80部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例1と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが1.04であり、βが0.44であり、γは0.60であった。反応は実施例1と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率74.1%、メタクリル酸選択率90.5%、メタクリル酸単流収率67.1%であった。
【0044】
[実施例4]
三酸化モリブデン100部に水400部、30%過酸化水素水100部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例1と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.99であり、βが0.43であり、γは0.56であった。反応は実施例1と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率73.8%、メタクリル酸選択率91.6%、メタクリル酸単流収率67.6%であった。
【0045】
[実施例5]
三酸化モリブデン100部に水600部、30%過酸化水素水100部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例1と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが1.10であり、βが0.41であり、γは0.59であった。反応は実施例1と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率74.8%、メタクリル酸選択率90.1%、メタクリル酸単流収率67.4%であった。
【0046】
[実施例6]
三酸化モリブデン100部に水800部、30%過酸化水素水100部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例1と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが1.09であり、βが0.41であり、γは0.58であった。反応は実施例1と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率74.3%、メタクリル酸選択率89.5%、メタクリル酸単流収率66.5%であった。
【0047】
[実施例7]
三酸化モリブデン100部に水1000部、30%過酸化水素水100部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例1と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが1.05であり、βが0.42であり、γは0.63であった。反応は実施例1と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率74.5%、メタクリル酸選択率89.3%、メタクリル酸単流収率66.5%であった。
【0048】
[実施例8]
三酸化モリブデン100部に水1100部、30%過酸化水素水120部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例1と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが1.00であり、βが0.40であり、γは0.60であった。反応は実施例1と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率74.1%、メタクリル酸選択率88.6%、メタクリル酸単流収率65.7%であった。
【0049】
[比較例1]
三酸化モリブデン100部に水1200部、30%過酸化水素水120部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例1と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが1.05であり、βが0.50であり、γは0.55であった。反応は実施例1と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率73.4%、メタクリル酸選択率87.0%、メタクリル酸単流収率63.9%であった。
【0050】
[比較例2]
三酸化モリブデン100部に水300部、30%過酸化水素水10部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例1と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが1.01であり、βが0.49であり、γは0.52であった。反応は実施例1と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率72.0%、メタクリル酸選択率87.8%、メタクリル酸単流収率63.2%であった。
【0051】
[比較例3]
三酸化モリブデン100部に水400部を加え、30%過酸化水素水を添加せずに15分間加熱還流した。これ以降は実施例1と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.90であり、βが0.35であり、γは0.55であった。反応は実施例1と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率72.0%、メタクリル酸選択率87.9%、メタクリル酸単流収率63.3%であった。
【0052】
実施例1〜8、比較例1〜3における各原料の配合比、メタクロレイン(MAL)転化率、メタクリル酸(MAA)選択率、メタクリル酸(MAA)収率を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
[実施例9]
三酸化モリブデン100部に水300部、30%過酸化水素水20部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。次いでリン酸5部、ヒ酸4部、バナジン酸1.6部、硝酸ゲルマニウム0.2部、硝酸銅0.8部を加えて分散させた。続いて硝酸セシウム12部、硝酸アンモニウム20部、硝酸ジルコニウム0.2部と28%アンモニア水30部を加えて加熱攪拌しながら蒸発乾固した。得られた固形物を130℃で16時間乾燥したものを加圧成型し、さらに破砕した。篩を用いて0.85〜1.70mmの破砕物を分取して、空気流通下に380℃で5時間熱処理して触媒を得た。この触媒の組成はP0.75Mo120.24Cu0.06Zr0.01As0.29Ge0.05Cs1.01であった。なお、前記触媒の組成は各元素の仕込み量から算出した値である。該触媒の還元電子数はαが0.75であり、βが0.37であり、γも0.38であった。
【0055】
この触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の混合ガスを反応温度270℃、接触時間3.6秒で通じて反応を行った。この結果、メタクロレイン転化率75.0%、メタクリル酸選択率90.1%、メタクリル酸単流収率67.6%であった。
【0056】
[実施例10]
三酸化モリブデン100部に水300部、30%過酸化水素水40部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例9と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.74であり、βが0.34であり、γは0.40であった。反応は実施例9と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率75.2%、メタクリル酸選択率90.4%、メタクリル酸単流収率68.0%であった。
【0057】
[実施例11]
三酸化モリブデン100部に水300部、30%過酸化水素水80部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例9と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.69であり、βが0.23であり、γは0.46であった。反応は実施例9と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率74.9%、メタクリル酸選択率91.2%、メタクリル酸単流収率68.3%であった。
【0058】
[実施例12]
三酸化モリブデン100部に水400部、30%過酸化水素水100部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例9と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.70であり、βが0.21であり、γは0.49であった。反応は実施例9と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率75.2%、メタクリル酸選択率90.9%、メタクリル酸単流収率68.4%であった。
【0059】
[実施例13]
三酸化モリブデン100部に水600部、30%過酸化水素水100部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例9と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.70であり、βが0.20であり、γは0.50であった。反応は実施例9と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率75.0%、メタクリル酸選択率91.8%、メタクリル酸単流収率68.9%であった。
【0060】
[実施例14]
三酸化モリブデン100部に水800部、30%過酸化水素水100部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例9と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.72であり、βが0.21であり、γは0.51であった。反応は実施例9と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率75.3%、メタクリル酸選択率90.5%、メタクリル酸単流収率68.1%であった。
【0061】
[実施例15]
三酸化モリブデン100部に水1000部、30%過酸化水素水100部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例9と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.73であり、βが0.20であり、γは0.53であった。反応は実施例9と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率76.0%、メタクリル酸選択率90.0%、メタクリル酸単流収率68.4%であった。
【0062】
[実施例16]
三酸化モリブデン100部に水1100部、30%過酸化水素水120部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例9と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.74であり、βが0.24であり、γは0.50であった。反応は実施例9と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率77.1%、メタクリル酸選択率89.1%、メタクリル酸単流収率68.7%であった。
【0063】
[比較例4]
三酸化モリブデン100部に水1200部、30%過酸化水素水120部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例9と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.75であり、βが0.36であり、γは0.39であった。反応は実施例9と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率77.2%、メタクリル酸選択率86.9%、メタクリル酸単流収率67.1%であった。
【0064】
[比較例5]
三酸化モリブデン100部に水300部、30%過酸化水素水10部を加えてヒーター上で15分間加熱還流した。これ以降は実施例9と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.71であり、βが0.41であり、γは0.30であった。反応は実施例9と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率75.0%、メタクリル酸選択率88.1%、メタクリル酸単流収率66.1%であった。
【0065】
[比較例6]
三酸化モリブデン100部に水400部を加え、過酸化水素水を添加せずに15分間加熱還流した。これ以降は実施例9と同様の操作で触媒を得た。該触媒の還元電子数はαが0.71であり、βが0.41であり、γは0.30であった。反応は実施例9と同様に行なった。この結果、メタクロレイン転化率77.2%、メタクリル酸選択率86.9%、メタクリル酸単流収率67.1%であった。
【0066】
実施例9〜16、比較例4〜6における各原料の配合比、メタクロレイン(MAL)転化率、メタクリル酸(MAA)選択率、メタクリル酸(MAA)収率を表2に示す。
【0067】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン、モリブデン、バナジウム、銅、Z元素(カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素)及び酸素を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
(A)三酸化モリブデン100質量部に対し、過酸化水素を5質量部以上、40質量部以下、水を300質量部以上、1200質量部以下添加し混合することで混合物を調製する工程、
(B)前記混合物に残りの触媒原料を添加してさらに混合する工程、
を含むことを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により製造されるメタクリル酸製造用触媒。
【請求項3】
請求項2に記載のメタクリル酸製造用触媒の存在下、メタクロレインを分子上酸素により気相接触酸化させるメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−183268(P2011−183268A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49129(P2010−49129)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】