説明

メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の製造方法

【課題】長期間にわたって高い収率、有効選択率を維持できるメタクロレイン及び/またはメタクリル酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】ターシャリーブタノール及び/またはイソブチレンを原料とし、これを反応管ガス流れ方向に二つの発熱ピークを有するように酸化触媒を充填した反応管に供給し、分子状酸素の存在下で原料を部分酸化しメタクロレイン及び/またはメタクリル酸を製造する方法において、二つの酸化触媒層の発熱ピークの間の温度の極小値をTm、反応浴温度をTbとしたとき、Tm−Tb≧15℃とすることを特徴とするメタクロレイン及び/またはメタクリル酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターシャリーブタノール及び/またはイソブチレンを原料とし、固定床接触酸化反応により分子状酸素の存在下でメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を製造する方法は既によく知られており、種々提案されている。
【0003】
特許文献1(特開平4−217932)には反応管内での占有容積が、ガス流れ方向にむかって小さくなるように触媒を充填し、メタクロレイン及び/またはメタクリル酸を製造する方法が記載されている。
特許文献2(特開平6−192144)には、不活性担体に触媒活性成分を担持してなる触媒を、ガス流れ方向に沿って触媒の担持量が高くなるように充填し、メタクロレイン及び/またはメタクリル酸を製造する方法が記載されている。
特許文献3(特許第2934267号)には触媒成分のうちの、アルカリ金属およびタリウムの量を調節して触媒活性を制御し触媒を調製し、ガス流れ方向に向かって活性が高くなるように触媒を充填する方法が記載されている。
特許文献4(特開2002−212127)には触媒層内に反応浴温度との差が50℃を超える箇所が一つもなく、該差が15〜50℃となる高温域を2箇所以上設ける方法が記載されている。
特許文献5(特開2003−252820)には触媒層内の最大ピーク温度と最小ピーク温度の差が20℃以下になるようにする方法が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平4−217932号公報
【特許文献2】特開平6−192144号公報
【特許文献3】特許第2934267号
【特許文献4】特開2002−212127号公報
【特許文献5】特開2003−252820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの発明は原料の酸化による発熱を抑制することによって、触媒寿命、反応収率などを改善するというものであり、触媒層内の最高温度に着目し、それを低減することで触媒寿命、反応収率を改善しようとしている。たしかに、ある程度の効果は得られるものの、同様の触媒によるプロピレンからのアクロレインおよび/またはアクリル酸の製造の収率に比べると、さらなる収率の改良が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、こうした実状のもと鋭意研究した結果、発熱ピークの間の温度の極小値を制御することで収率が著しく改良され、かつその収率が長期にわたって安定して得られることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)ターシャリーブタノール及び/またはイソブチレンを原料とし、これを反応管ガス流れ方向に二つの発熱ピークを有するように酸化触媒を充填した反応管に供給し分子状酸素の存在下で原料を部分酸化することでメタクロレイン及び/またはメタクリル酸を製造する方法において、二つの酸化触媒層の発熱ピークの間の温度の極小値をTm、反応浴温度をTbとしたとき、Tm−Tb≧15℃とすることを特徴とするメタクロレイン及び/またはメタクリル酸の製造方法である。
(2)原料ガス入り口側の触媒層を不活性物質で希釈することにより二つの発熱ピークが得られるようにすることを特徴とするメタクロレイン及び/またはメタクリル酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によればメタクロレイン及び/又はメタクリル酸が長期間にわたって高収率で得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用する酸化触媒は、ターシャリーブタノールやイソブチレンを気相接触酸化してメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を得るために使用される触媒であればそれ自身公知の触媒が使用できる。
好ましい触媒としては下記一般式
MoBiFeCo
(式中Mo、Bi、Fe及びCoはモリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトをそれぞれ表す。Xはアルカリ金属またはTlから選ばれる一種以上の元素、YはNi、Sn、Zn、W、Cr、Mn、Mg、Sb、CeまたはTiから選ばれる一種以上の元素を表す。また、元素記号右下の添字は各元素の原子比であり、a=13とした時、b=0.1−10、c=0.1−10、d=1−10、e=0.01−2、f=0−2、hは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。)で表される複合酸化物を触媒活性成分とする触媒が挙げられる。
ここでアルカリ金属としてはCsが特に好ましい。
この酸化触媒の調製方法及び原料については、特に制限はなく、この種の触媒の調製に一般的に使用されている方法及び原料を用いて調製することができる。必要に応じ、粉砕、焼成などの工程が含まれる。
【0010】
酸化触媒の形状に特に制限はなく、例えば円柱状、打錠状、球状、リング状等の形状が運転条件を考慮して適宜選択可能であるが、球状担体、特にシリカやアルミナ等の不活性担体に触媒活性成分を担持した、粒径3〜6mmの担持触媒が好ましい。
【0011】
本発明においては、異なった活性を持つ二種類の触媒を調製し、これらを混合することなく反応管内に別々に充填して、反応管ガス流れ方向に2つの酸化触媒層を形成する。これによって、反応管内の発熱ピークが、通常二つになる。一般的には原料ガス流れ方向に活性が高くなるように触媒を充填するのが好ましい。必要に応じ、原料ガス入り口側に予熱層を設置したり、ターシャリーブタノールを原料とした場合は脱水層を設置したりする。予熱層または脱水層に充填される物質は、シリカ、アルミナ、チタニア、あるいはシリカアルミナが好ましい。脱水層を設置することでターシャリーブタノールとイソブチレンの原料の差異を無視できる程度にすることができる。
【0012】
触媒活性の制御は、公知の方法で行うことが出来る。例えば触媒の焼成温度や、触媒組成を変更する方法、一方の触媒層(原料ガス入り口側)を、不活性物質で希釈する方法が挙げられるが、後者のほうが簡便で好ましい。なお、本発明において、不活性物質とは、酸化反応に使用する触媒の活性を100%とした場合に0から20%の活性を有する物質とする。
【0013】
こうして得られた二種類の活性の異なる触媒を、二つの発熱ピークの間の温度の極小値をTm、反応浴温度をTbとしたとき、Tm−Tb≧15となるように充填する。原料ガスの濃度、組成、空間速度、反応管径、反応圧力、反応器の除熱能力など、様々な要因がTb、Tmに影響するため、事前にコンピューターによるシミュレーションなどによって、触媒活性や不活性物質による希釈割合、異なる触媒層同士の充填長比などを最適化する。Tm−Tbは20℃以上がより好ましい。
【0014】
反応管内にガス流れ方向に熱伝対を設置し、10cm間隔程度で温度測定を行い、得られた触媒層内温度をY軸に、触媒充填長をX軸にしたプロットからTmを求める。10cm以上の間隔で測定した場合、正確なデータが得られない場合があり、好ましくない。
【実施例】
【0015】
次に本発明を更に実施例により具体的に説明する。なお、実施例において、転化率、収率、選択率は以下の式に従って算出した。
原料転化率(%)=(反応したターシャリーブタノールまたはイソブチレンのモル数)/(供給したターシャリーブタノールまたはイソブチレンのモル数)×100
メタクロレイン収率(%)=(生成したメタクロレインのモル数)/(供給したターシャリーブタノールまたはイソブチレンのモル数)×100
メタクリル酸収率(%)=(生成したメタクリル酸のモル数)/(供給したターシャリーブタノールまたはイソブチレンのモル数)×100
有効選択率(%)=(メタクロレイン収率+メタクリル酸収率)/原料転化率×100
【0016】
実施例1
(触媒の調製)
蒸留水12000mlを加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム3000gと硝酸セシウム55.2gを溶解して水溶液(A)を得た。別に、硝酸コバルト2782g、硝酸第二鉄1144g、硝酸ニッケル412gを蒸留水2300mlに溶解して水溶液(B)を、また濃硝酸292mlを加えて酸性にした蒸留水1215mlに硝酸ビスマス1167gを溶解して水溶液(C)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A)に(B)、(C)を順次、水溶液(A)を激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し、得られた粉末を460℃で5時間焼成し予備焼成粉末(D)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Fe=2.0、Co=6.75、Ni=1.0、Cs=0.20であった。
その後、予備焼成粉末(D)をシリカ−アルミナ混合物不活性担体(粒径4.0mm)に成型後の触媒に対して45重量%を占める割合で担持した。こうして得た成型物を520℃で5時間焼成し酸化触媒(E)を得た。
【0017】
(酸化反応試験)
熱媒体として溶融塩を循環させるためのジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径23mmのステンレス製反応器の原料ガス入り口側からターシャリーブタノールの脱水層として直径5mmのシリカ―アルミナ球を20cm、酸化触媒層第一層(原料ガス入り口側)として酸化触媒(E)とシリカ−アルミナ混合物不活性担体を重量比4:1で混合した希釈触媒90cm、酸化触媒第二層(ガス出口側)として酸化触媒(E)を225cmの順で充填し、反応浴温度Tbを345℃にした。ここに原料モル比がイソブチレン:酸素:窒素:水=1:2:10:1.6となるようにターシャリーブタノール、空気、窒素、水の供給量を設定したガスを空間速度1000h−1で酸化反応器内へ導入し、反応を行った結果、反応開始後200時間経過したときの原料転化率99.6%、メタクロレイン収率81.07%、メタクリル酸収率3.59%、有効選択率85.02%であった。また、触媒層内の温度は、酸化触媒層第一層目の発熱ピーク温度が410℃、酸化触媒層第二層目の発熱ピーク温度が389℃、二つの発熱ピークの間の極小値Tmが377℃、Tm−Tb=32℃であった。
【0018】
実施例2
実施例1の反応を原料転化率99.5%になるように反応浴温度Tbを調節しながら6000h継続したところ、メタクロレイン収率80.73%、メタクリル酸収率3.74%、有効選択率84.82%であった。また、触媒層内の温度は、Tbが348℃、酸化触媒層第一層目の発熱ピーク温度が399℃、酸化触媒層第二層目の発熱ピーク温度が377℃、二つの発熱ピークの間の極小値Tmが370℃、Tm−Tb=22℃であった。
【0019】
実施例3
実施例1の反応を原料転化率99.5%になるように反応浴温度Tbを調節しながら12000h継続したところ、メタクロレイン収率80.18%、メタクリル酸収率4.04%、有効選択率84.70%であった。また、触媒層内の温度は、Tbが355℃、酸化触媒層第一層目の発熱ピーク温度が408℃、酸化触媒層第二層目の発熱ピーク温度が384℃、二つの発熱ピークの間の極小値Tmが380℃で、Tm−Tb=25℃であった。
【0020】
実施例4
実施例1において触媒を充填する反応管の内径を21mmとし、空間速度を1200h−1としたこと以外は実施例1と同様に反応を行った。反応開始後300時間における、原料転化率は99.5%、メタクロレイン収率80.2%、メタクリル酸収率3.77%、有効選択率84.4%であった。また、触媒層内の温度は、Tbが352℃、酸化触媒層第一層目の発熱ピーク温度が403℃、酸化触媒層第二層目の発熱ピーク温度が375℃、二つの発熱ピークの間の極小値Tmが370℃、Tm−Tb=18℃であった。
【0021】
比較例1
実施例1において酸化触媒層第一層として酸化触媒(E)とシリカ−アルミナ混合物不活性担体を重量比2:1で混合した希釈触媒を充填したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。反応開始後300時間における、原料転化率は99.5%、メタクロレイン収率79.4%、メタクリル酸収率3.66%、有効選択率83.5%であった。また、触媒層内の温度は、Tbが351℃、酸化触媒層第一層目の発熱ピーク温度が370℃、酸化触媒層第二層目の発熱ピーク温度が385℃、二つの発熱ピークの間の極小値Tmが365℃、Tm−Tb=14℃であった。
【0022】
以上のように、反応浴温度Tbや、発熱ピーク温度を公知の範囲にした場合より、Tm−Tb≧15℃となるようにした場合のほうが、長期間にわたって高い収率、有効選択率を維持できることが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターシャリーブタノール及び/またはイソブチレンを原料とし、これを反応管ガス流れ方向に二つの発熱ピークを有するように酸化触媒を充填した反応管に供給し、分子状酸素の存在下で原料を部分酸化しメタクロレイン及び/またはメタクリル酸を製造する方法において、二つの酸化触媒層の発熱ピークの間の温度の極小値をTm、反応浴温度をTbとしたとき、Tm−Tb≧15℃とすることを特徴とするメタクロレイン及び/またはメタクリル酸の製造方法。
【請求項2】
原料ガス入り口側の触媒層を不活性物質で希釈することにより二つの発熱ピークが得られるようにすることを特徴とする請求項1記載のメタクロレイン及び/またはメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2009−114119(P2009−114119A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288469(P2007−288469)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】