説明

メタノールの合成装置

【課題】バイオマス(木材,竹,草本類等)や有機物を含む廃棄物(木質系廃棄物,プラスチック系廃棄物,畜産系廃棄物,汚泥等)等を熱分解・ガス化して発生した水素と一酸化炭素を含有するガスを原料ガスとして,メタノールを合成する装置を提供する。
【解決手段】従来の大規模な工業用メタノール合成プラントでは,約200〜250℃,5〜10MPaで運転されている。この状態でも,原料ガスのメタノールへの平衡転換率は約40〜50%程度であり,多量の未反応原料ガスを循環使用しているが,原料ガスの分圧低下により反応率が更に悪くなる。そこで,大型の実用プラントでは高圧用反応器を使用して加圧運転を行う。 メタノール合成反応触媒層を複数段に分割して使用し,分割した触媒層の各段毎に,合成されたメタノールを分離・回収する。合成反応塔は,低圧で運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,バイオマス(木材,竹,草本類等)や有機物を含む廃棄物(木質系廃棄物,プラスチック系廃棄物,畜産系廃棄物,汚泥等)等を熱分解・ガス化して発生した水素Hと一酸化炭素COを含有するガスを原料ガスとして,メタノールを合成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明で使用するメタノール合成原料としてのガスは,バイオマスや有機物を含む廃棄物等を熱分解・ガス化して発生したH2,COを含有するガスをいう。その他,有機物を含む廃棄物等をメタン発酵させて発生したガスを改質した後,吸着剤,吸収液や分離膜等を使用してH2,COを主体とするガス濃度を高めたガスを使用してもよい。
【非特許文献1】新メタノール技術,P28-29,株式会社サイエンスフォーラム,昭和62年9月10日
【0003】
一般に,メタノール合成反応は下記の反応(1)を主体とするが,触媒の選択により,反応(2)が進行する場合もある。従って,任意濃度の二酸化炭素COも原料ガスとして使用される場合もある。
【化1】

【化2】

【0004】
一般に,工業規模のメタノール合成は,メタンを主体とする天然ガスを原料として,これを水蒸気改質反応(反応(3)参照)により,H及びCOに改質したガスを使用する。本発明においても,天然ガスからの改質ガスを原料として使用しても問題はない。
【化3】

【0005】
一般にメタノール合成反応において,原料ガスからメタノールへの転換率は,反応温度,反応圧力,触媒量比(原料ガスに対する触媒量の比)が大きく影響する。
反応温度については,低温ほど平衡反応率は大きいが,低温では反応速度が遅い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記反応式(1)または(2)に示すように,メタノール合成反応はモル数が減少する方に反応が進行する。すなわち,圧力の高い方が反応は右側に進行する。従って,現状の実用プラントでは数メガパスカル(MPa)以上の加圧状態で運転される。
【0007】
このような要因から,一般に大規模な工業用メタノール合成プラントでは,約200〜250℃,5〜10MPaで運転されている。この状態でも,原料ガスのメタノールへの平衡転換率はせいぜい30〜50%程度であり,多量の未反応の原料ガスが排出されることになる。そこで,実用プラントでは多量の未反応ガスを循環使用している。
【0008】
以上のように,大型の実用プラントでは高圧用反応器が使用されるため,装置コストが高い。
そこで,本発明は,小型用低コストのメタノール合成装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
現状のメタノール合成反応塔では,一般に,予熱された原料ガスは,メタノール合成反応部の触媒層内を通過する過程で,メタノール合成反応を進行させながら触媒層出口に移動して行く。メタノール合成反応部で合成されたメタノールは,未反応ガスに同伴されて触媒層出口に移動し,メタノール合成反応部の出口から,未反応ガスと一緒に混合ガスとして抜き出される。
【0010】
その後,当該混合ガスは冷却され,液状に凝縮したメタノールと未反応ガスとが分離される。未反応ガスは,原料ガスに混合されて合成反応塔に再度循環供給される。
【0011】
そこで,本発明は,当該メタノール合成反応部の触媒層を複数段に分割して使用し,分割した触媒層の各段毎に,合成されたメタノールを分離・回収する装置を提案する。
【発明の効果】
【0012】
(1)式または(2)式に示されるメタノール合成反応において,各反応式の右辺にあるメタノールCHOHを分離すると,反応の平衡が破壊されるため,反応式の右方向への進行が促進される。すなわち,合成された混合ガス中からメタノールを強制的に分離することにより,メタノール合成反応が加速されることになる。その結果,メタノール合成速度が増加することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態を,図1の実施例に基づいて以下に説明する。
原料ガスは,ライン1を経て予熱管2に供給され,所定の温度に予熱された後,第1段メタノール合成触媒層3に供給され,当該触媒層を流通する過程でメタノール合成反応により,メタノールを生成する。生成したメタノールと未反応ガスとの混合ガスは,当該触媒層から抜き出され,冷却器4によりメタノールが凝縮する温度まで冷却された後,気液分離器5に導かれる。ここで凝縮したメタノールと未反応ガスが分離され,未反応ガスはライン7を経て,予熱のライン8で再加熱された後,第2段メタノール合成触媒層9に供給される。未反応ガスは,以降同様にメタノール合成,気液分離を順治繰り返しながら,最終段のメタノール合成触媒層10から排出されて冷却器11で冷却され,気液分離器12で最後に凝縮したメタノールと未反応ガスに分離される。未反応ガスは,そのままライン13から系外に抜き出され,他の原料ガスや燃料に有効利用される。また,未反応ガスは,ブロワ14で再度昇圧されて,ライン15を経て原料ガス供給ライン1に供給され,再度循環使用される場合もある。
【0014】
各段で抜き出されて凝縮した生成メタノールは,一緒にとりまとめられて,ライン16を経てメタノール精製工程に供給された後,製品として使用される。排出された未反応ガスの一部または全部は,他設備の発電等の原料ガスまたは燃料ガスとして使用する場合もある。
【0015】
メタノール合成反応は発熱反応であるため,発生した反応熱は除去しなければならない。そこで,本発明では,メタノール合成触媒層の外側に併設した予熱管内を流通する低温の原料ガスの予熱に有効利用することにより,反応熱を除去することを提案する。
【0016】
さらに,本発明では,複数の予熱管及びメタノール合成反応触媒層の全体を予熱炉18の内部に配設することを提案する。その結果,予熱に必要な熱量の不足分を効率的に供給し,簡単に調整することが可能となる。
【0017】
また,別の実施例を図2に示す。
原料ガスは,ライン1を経て予熱管2に供給され,所定の温度に予熱された後,第1段メタノール合成触媒層3に供給され,当該触媒層を流通する過程でメタノール合成反応により,メタノールを生成する。生成したメタノールと未反応ガスとの混合ガスは,当該触媒層から抜き出され,冷却器4によりメタノールが凝縮する温度まで冷却された後,気液分離器5に導かれる。ここで凝縮したメタノールと未反応ガスが分離され,未反応ガスはライン7を経て,温度調整槽20,高温槽17で再加熱された後,第2段メタノール合成触媒層9に供給される。未反応ガスは,以降同様にメタノール合成,気液分離を順治繰り返しながら,最終段のメタノール合成触媒層10から排出されて冷却器11で冷却され,気液分離器12で最後に凝縮したメタノールと未反応ガスに分離される。未反応ガスの一部は,そのままライン18から系外に抜き出され,他の原料ガスや燃料に有効利用される。また,未反応ガスは,ブロワ14で再度昇圧されて,ライン15を経て原料ガス供給ライン1に供給され,再度循環使用される場合もある。
【0018】
各段で抜き出されて凝縮した生成メタノールは,一緒にとりまとめられて,ライン16を経てメタノール精製工程に供給された後,製品として使用される。
各予熱管は,恒温槽17の内部に配接されており,加熱ガスがライン18から供給され,ライン19から排出されている。
【0019】
メタノール合成反応は発熱反応であるため,発生した反応熱は除去しなければならない。そこで,本発明では,メタノール合成触媒層の外側に温度調整槽20を設けて,ライン21から供給し,ライン22から排出される冷却ガスにより各反応槽の温度調節を行う。冷却器(4及び11)は,本実施例図2において,複数個設置しているが,一基にとりまとめた構造でもよい。
【実施例1】
【0020】
本発明による図1に示す装置を使用して,以下の条件によりメタノール合成運転のシミュレーション検討を行った。これは、反応装置各部の温度と、ガス組成を熱計算と化学反応計算を複合して用いるもので、これにより、メタノールの生成量を予測することができる。
(1)運転条件
1)原料ガス
ガス量=45.33(Nm/h)
ガス組成(mol%)
=49.2,CO=23.9,CO=15.0,CH=9.9,C=2.0
2)メタノール合成触媒層の運転条件
段数=5段
反応温度=180℃,反応圧力=5.0及び8.0MPa
未反応ガスの循環は行わない。
(2)運転シミュレーション結果
1)反応圧力=5.0MPaの場合
メタノール合成量=11.83(kg/h)
水素の反応率=22.5%
2)反応圧力=8.0MPaの場合
メタノール合成量=17.75(kg/h)
水素の反応率=33.8%
【実施例2】
【0021】
従来の運転方法を模擬するために,図1に示す装置において,各段からの生成物の抜き出しを行わず,最下段10から一括して生成メタノール及び未反応ガスの混合物を抜き出した場合の運転シミュレーション結果を以下に示す。
反応圧力=8.0MPaの場合
メタノール合成量=14.56(kg/h)
水素の反応率=27.7%
(実施例1)に示す本発明の運転結果に比較して,82%のメタノール収率であった。
以上の結果から,本発明による方法は,従来の方法に比較して,メタノール合成率が向上していることが明確である。従って,本発明は,中小規模のメタノール合成方法として,実用上有効な発明であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例を示す装置の一例である。
【図2】本発明の実施例を示す装置の一例である。
【符号の説明】
【0023】
1.ライン,2.予熱管,3.第1段メタノール合成触媒層,4.冷却器,5.気液分離器,6.凝縮メタノール抜出管,7.ライン,8.ライン,9.第2段メタノール合成触媒層,10.最終段のメタノール合成触媒層,11.冷却器,12.気液分離器,13.ライン,14.ブロワ,15.ライン,16.ライン,17.恒温槽,20.温度調整槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と一酸化炭素を含有する原料ガスを予熱部で所定温度に昇温した後に第1段のメタノール合成反応部に供給し,当該メタノール合成反応部の出口から排出される未反応ガスと合成したメタノールとの混合物を冷却して,凝縮したメタノールを分離した後,未反応ガスをさらに第2段の予熱部を経由してメタノール合成反応部に供給することを特徴とするメタノールの合成装置。
【請求項2】
請求項1において,漸次各段から合成したメタノールを抜き出し,未反応ガスを暫時次段の予熱部を経由してメタノール合成反応部に供給し,最終段の当該メタノール合成反応部から排出された未反応ガスを当該原料ガスに混合して循環使用することを特徴とするメタノールの合成装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において,当該メタノール合成反応部から排出された未反応ガスの一部または全部を,他設備の発電等の原料ガスまたは燃料ガスとして使用することを特徴とするメタノールの合成装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2または請求項3において,複数段の予熱部およびメタノール合成反応部の全体を予熱炉の内部に設置し,系外から供給する熱ガスと外気空気により,予熱部を所定の温度に昇温することを特徴とするメタノールの合成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−201754(P2008−201754A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41928(P2007−41928)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000236104)MHIソリューションテクノロジーズ株式会社 (33)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(502435889)学校法人長崎総合科学大学 (20)
【出願人】(000236034)株式会社リョーセンエンジニアズ (7)
【Fターム(参考)】