説明

メタノール水蒸気改質触媒およびその製造方法

【課題】金属表面に銅−亜鉛系触媒成分を、均一且つ多量に担持させたメタノール水蒸気改質触媒とその製造方法を提供する。
【解決手段】金属板、金属筒または金属管の表面に、亜鉛の無電解めっきによる第一のめっき層と、前記第一のめっき層の直上に、銅のフラッシュめっきによる第二のめっき層と、前記第二のめっき層の直上に、銅の無電解めっきによる第三のめっき層とを形成し、焼成処理により前記亜鉛および前記銅を表面に露出させたメタノール水蒸気改質触媒1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノール水蒸気改質触媒およびその製造方法に関し、特に金属表面に銅−亜鉛系触媒のめっき層を形成したメタノール水蒸気改質触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、触媒反応は、容器に粒状の触媒を充填して行われることが多いが、近年、より効率の良い触媒反応装置としてマイクロリアクタが注目されている。この触媒反応用のマイクロリアクタは、反応場である微小な(1mm程度以下)流路の壁面に触媒を担持させたものである。
このマイクロリアクタは、流路幅が微小であるため、単位体積当たりの伝熱面積が大きく、精密な反応温度の制御が可能、理想的な押し出し流れに近く反応時間が厳密に制御できるなどの特徴がある。この特徴により、マイクロリアクタは、高い反応転化率が得られ、また副反応が抑制されるため目的の反応だけを促進することができる、つまり反応選択率を向上させることができる。
また、マイクロリアクタは、微小な流路を集積した構造であるため、従来の触媒反応容器と比較して、装置の大幅なコンパクト化が可能である。
【0003】
一方、近年、次世代のクリーン燃料として水素が注目されている。水素は天然ガス、ガソリン等種々の原料から製造できるが、メタノールの水蒸気改質で水素を製造する方法は、安全性が高く、また、比較的低温(200〜300℃)の反応であるため、中低温排熱の利用が可能であるという利点を有する。
メタノール水蒸気改質反応は吸熱反応であり、温度が厳密に制御可能なマイクロリアクタを利用することで、反応効率を向上させることができるため、メタノール水蒸気改質反応は、マイクロリアクタのメリットが活かせる反応である。
メタノール水蒸気改質の触媒は銅−亜鉛系触媒である。従って、メタノール水蒸気改質反応により水素を製造するためのマイクロリアクタを実現するためには、微小な流路表面に触媒成分である亜鉛と銅を被着させることが必要である。
触媒成分を金属表面に被着させる方法として無電解めっき法が知られている。無電解めっきは、電気めっきと比較して緻密なめっきが可能であり、それにより電気めっきよりも単位面積当たりの触媒成分の担持量を多くすることができるという特徴を有している。
また、電気めっきは、電流密度の不均一性によりめっき厚さが場所によって不均一となり、均一な性能の触媒層を形成させるのが難しい。一方、無電解めっきは、ほぼ均一な厚さのめっき層が容易に形成できるという利点がある。
【0004】
無電解めっき法で触媒成分を担持する方法が次の2つの特許文献に記載されている。
特許文献1は、アルミニウムを含有する金属部材にニッケルを含有する金属を担持させて表面を触媒化する方法である。ニッケルを含有する金属を担持させる方法として無電解めっき法が好適であるとしている。このニッケル系触媒は、メタノールの改質反応に用いられる。この反応は水蒸気改質反応ではなく、水を使わずにメタノールのみを原料とし、比較的高温(500℃程度)でメタノールから水素を生成する反応である。なお、このニッケル担持法は、アルミニウム部材の表面に無電解めっきでニッケルを被着させる方法であり、一般的に知られている方法である。
特許文献2は、伝導加熱区域と被加熱改質区域とを持った改質ガス製造装置であり、被加熱改質区域側の面に改質ガス製造用触媒成分を無電解めっきにより被着する。触媒成分の無電解めっきによる被着の方法については、具体的には、アルミニウム材の表面に、亜鉛置換めっきにより亜鉛を被着した後、無電解めっきによりニッケルを被着させて触媒層を形成させる方法が提示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平2−141402号公報
【特許文献2】特開平3−119094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記2つの従来技術は、いずれも無電解めっき法により金属表面にニッケル系触媒を形成させる方法を提示したものであるが、銅−亜鉛系触媒層の形成方法については述べられていない。
特許文献2には、亜鉛置換めっきにより亜鉛を被着させた後、ニッケルを無電解めっきにより被着させる方法、即ちニッケル−亜鉛系触媒層の形成方法が提示されているが、この方法を銅−亜鉛系触媒層の形成に適用することはできない。
また、ニッケル無電解めっきは、pH5〜7程度の弱酸性〜中性のpH条件で行われるため、亜鉛めっきの上からニッケルめっきをすることが可能であるが、銅無電解めっきは、pH12前後のアルカリ条件で行われるため、亜鉛置換めっき後に銅無電解めっきを行うと亜鉛がアルカリで溶出してしまい、亜鉛めっきが殆ど残らないという問題があった。
従って、特許文献2の方法は、銅−亜鉛系触媒層の形成には適用できなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、亜鉛めっき層を溶出させることなく、金属表面に銅−亜鉛系触媒成分を、均一且つ多量に担持させたメタノール水蒸気改質触媒とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、金属板の片面または両面に複数のめっき層を形成したメタノール水蒸気改質触媒であって、前記金属板の表面に、亜鉛の無電解めっきによる第一のめっき層と、前記第一のめっき層の直上に、銅のフラッシュめっきによる第二のめっき層と、前記第二のめっき層の直上に、銅の無電解めっきによる第三のめっき層とを形成し、焼成処理により前記亜鉛および前記銅を表面に露出させたことを特徴としている。
【0009】
この構成により、金属板の表面に形成された触媒は、めっき被膜を緻密にして触媒成分の担持量を多くすることができ、また、めっき厚さが金属板全体に均一であるため、場所による触媒性能のバラツキを少なくすることができる。
【0010】
請求項2に記載のメタノール水蒸気改質触媒は、前記金属板が、さらに、ガスケットと交互に積層され、メタノールが流通する少なくとも1つの空間層を設けて、反応容器に装着可能に固定されたことを特徴としている。また、請求項3に記載のメタノール水蒸気改質触媒は、前記金属板が、波型の金属板であることを特徴としている。
【0011】
この構成により、金属板の特性を活かして、よりコンパクトで、温度制御が可能な触媒として提供でき、また反応容器に装着容易な形状とすることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、ハニカム状または格子状金属筒の内壁に複数のめっき層を形成したメタノール水蒸気改質触媒であって、前記内壁の表面に、亜鉛の無電解めっきによる第一のめっき層と、前記第一のめっき層の直上に、銅のフラッシュめっきによる第二のめっき層と、前記第二のめっき層の直上に、銅の無電解めっきによる第三のめっき層とを形成し、焼成処理により前記亜鉛および前記銅を表面に露出させたことを特徴としている。
【0013】
この構成により、金属筒の表面に形成された触媒は、めっき被膜を緻密にして触媒成分の担持量を多くすることができ、また、めっき厚さが金属筒の内壁全体に均一であるため、場所による触媒性能のバラツキを少なくすることができる。また、金属筒の特性を活かして、よりコンパクトで、温度制御が可能な触媒として提供でき、また反応容器に装着容易な形状とすることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、金属管の内面、外面または両面に複数のめっき層を形成したメタノール水蒸気改質触媒であって、前記金属管の表面に、亜鉛の無電解めっきによる第一のめっき層と、前記第一のめっき層の直上に、銅のフラッシュめっきによる第二のめっき層と、前記第二のめっき層の直上に、銅の無電解めっきによる第三のめっき層とを形成し、焼成処理により前記亜鉛および前記銅を表面に露出させたことを特徴としている。また、請求項6に記載のメタノール水蒸気改質触媒は、前記金属管が、さらに、径の異なる多重管として形成され、メタノールが流通する少なくとも一つの空間を設けたことを特徴としている。
【0015】
この構成により、金属管の表面に形成された触媒層は、めっき被膜を緻密にして触媒成分の担持量を多くすることができ、また、めっき厚さが金属管全体に均一であるため、場所による触媒性能のバラツキを少なくすることができる。また、金属管の特性を活かして、よりコンパクトで、温度制御が可能な触媒として提供でき、また他の排熱を利用する熱交換型反応容器とすることもできる。
【0016】
請求項7に記載のメタノール水蒸気改質触媒は、前記金属板、前記金属筒または前記金属管の表面に、同一方向に複数の凹状または波状の溝を設けたことを特徴としている。
この構成により、触媒の接触面積をさらに大きくできるので、よりコンパクトで、温度制御が可能な触媒として提供できる。
【0017】
請求項8に記載のメタノール水蒸気改質触媒は、前記金属がアルミニウムであり、且つ、前記第一のめっき層が、亜鉛の置換めっきによる無電解めっき層であることを特徴としている。この構成により、加工性および伝熱性に優れ、軽量・コンパクトで温度制御が容易な触媒が提供できる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、金属表面に複数のめっき層を形成したメタノール水蒸気改質触媒の製造方法であって、前記金属表面に、亜鉛の無電解めっきによる第一のめっき層と、前記第一のめっき層の直上に、銅のフラッシュめっきによる第二のめっき層と、前記第二のめっき層の直上に、銅の無電解めっきによる第三のめっき層とを形成し、焼成処理により前記亜鉛および前記銅を表面に露出させたことを特徴としている。また、請求項10に記載のメタノール水蒸気改質触媒の製造方法は、前記金属はアルミニウムであり、且つ、前記第一のめっき層は、亜鉛の置換めっきによる無電解めっき層であることを特徴としている。
【0019】
この構成により、めっき被膜を緻密にして触媒成分の担持量を多くすることができ、また、めっき厚さが金属表面全体に均一であるため、場所による触媒性能のバラツキを少なくする触媒の製造方法が提供できる。また、加工性および伝熱性に優れた軽量なアルミニウム基材の触媒が製造できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るメタノール水蒸気改質触媒は、金属表面に銅−亜鉛系触媒成分を、均一且つ多量に担持させることができるため、よりコンパクトで、温度制御が可能となり、また金属基材の特性を活かした加工性(形状)および伝熱性にも優れた触媒とすることができる。
また本発明に係るメタノール水蒸気改質触媒の製造方法は、めっき被膜を緻密にして触媒成分の担持量を多くすることができ、また、場所による触媒性能のバラツキが少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明に係るメタノール水蒸気改質触媒は、メタノールと水(水蒸気)を触媒反応させて水素を得るものである。この水素は燃料電池に供給されて電気となり、自動車やパソコン・携帯電話、そして家庭用等のクリーンなエネルギー源として注目されている。そのため、本メタノール水蒸気改質触媒においても、高反応効率(高水素転化率)は無論のこと、小型化、軽量化、加工性、そして高伝熱性なども求められ、マイクロリアクタ(超小型反応容器)の主要構成部品としても重要な位置づけとなっている。
【0022】
また、本発明に係るメタノール水蒸気改質触媒は、銅−亜鉛系触媒を金属基材に担持させるもので、無電解めっきによる第一の亜鉛めっき層、フラッシュめっきによる第二の銅めっき層、そして無電解めっきによる第三の銅めっき層を形成し、焼成処理により亜鉛と銅の両方を表面に露出させる。ここで、銅のフラッシュめっきを行うのは、亜鉛被膜を溶出させないための処理である。
【0023】
(金属基材の構造)
まず、図面を用いて本実施形態に係る金属基材の構造と、メタノール水蒸気改質触媒(以下、改質触媒とも言う)の形状の例について説明する。
図1(a)はメタノール水蒸気改質触媒1の平面図、図1(b)は、(a)のA−A断面とした断面図である。図1に示すように、金属板2の片面に、同一方向に複数の凹溝を設けてメタノールと水蒸気の流路とし、その表面にめっきと焼成処理による銅−亜鉛系触媒層を形成し(図示なし)、メタノール水蒸気改質触媒1とした。ここで、金属板2は一辺の長さ100mmの正方形で、厚さは3mmである。流路は、幅0.5mm、深さ2mmの溝を90本設けた(図1では流路の一部を表示)。この程度の大きさの溝であれば、溝加工、各めっき層形成、焼成処理および流路での改質反応効率のいずれにおいても問題はない。
【0024】
図2は、改質触媒1を装着する平行四辺形の反応ケースを真上から見た図である。図2(a)は、反応ケースのフタ3であり、メタノールと水蒸気からなるガスのガス入口5と、生成ガス(水素)のガス出口6の2つの貫通孔が設けられている。このフタ3の下側の面は、流路の一部を構成するので、前記と同様のめっきと焼成処理により触媒層を形成している。図2(b)は反応ケース4の本体であり、深さ3mmの窪みを設けて、改質触媒1(金属板2)を収納し、かつ、ガスがガス入口5からガス出口6へ流通できる空間を形成している。なお、フタ3および反応ケース4の形状は、平行四辺形以外でも構わない。
図2(c)は、反応ケース4の窪みに、改質触媒1(金属板2)を収納した図を示している。
【0025】
図3は、前記した反応ケース4に改質触媒1を収納したものを、フタ3とともにボルト締め7で固定した反応容器の断面図であり、コンパクトなマイクロリアクタとしての一形態を示している。
【0026】
図4は、金属板2の加工の変形例であり、図4(a)はV字波状の溝、図4(b)は、U字波状の溝を示した図である。このように金属板の加工容易性を活かして、金属表面積を大きくし、且つ伝熱性の良い構造の変形例が可能である。
【0027】
また、複数の改質触媒1(金属板2)を組み合わせた例を図5に示す。
図5(a)は、4枚の金属板2と、3対のガスケット11とを交互に積層し、3層の空間層10(ガス流路)を形成して、ボルト締め7で固定し、メタノール水蒸気改質触媒1の触媒エレメントとした図である。このとき、中間の2枚の金属板2は、その両面に触媒層を形成し、一番上と下の金属板2は、内側(片面)のみに触媒層を形成する。このように構成された触媒エレメントを、燃料電池の反応容器(図示なし)に着脱自在となるように装着すれば、触媒の活性が落ちたときに、その交換が容易である。
【0028】
同様に、図5(b)は、波型の金属板2を用いた例として、3枚の平らな金属板2と、2枚の波型の金属板2とを交互に配置して、多数のガス流路を形成した触媒エレメントである。この変形例として、金属板2の積層数を増やしたり、渦巻き状に巻いて円筒形の触媒エレメントとすることも可能である。また波型の形状は、図5(b)に示す丸型以外にも、例えば台形、V字状、または凹凸状の波型であってもよい。
【0029】
次に、図6は、金属筒8に複数の貫通孔12を設けて、その内壁に触媒層を形成したメタノール水蒸気改質触媒1である。この複数の貫通孔12は、ハニカム状か、格子状のものがよい。かかる形状のものであっても、めっき浴でのめっき層形成や、電気炉での焼成処理には、問題はない。
【0030】
図7は、金属管9の表面に触媒層を形成して、二重管構造のメタノール水蒸気改質触媒1とした例である。ここでは、2つの空間10(流路)が設けられており、両方を改質反応のための流路としてもよいし、または一方を、廃熱を持つ流体の流路としてもよい。例えば溶融塩型燃料電池のように、高温で発電する場合に、その高温・中温の廃熱を持つ蒸気を、図7の内側の空間10(流路)に流通させ、外側の空間10(流路)では、その内壁と外壁に形成された改質触媒で改質反応を行わせることができる。前記したように改質反応は吸熱反応であるため、このように廃熱との熱交換を好適に行うことにより、効率のよい温度制御(反応制御)が可能となる。
【0031】
(各めっき層の形成)
次に、各めっき層の形成について説明する。
最初に、金属表面に形成する亜鉛の無電解めっきは、金属基材のアルカリ脱脂、酸処理などの前処理を行ってから、酸化亜鉛などの溶液を含む無電解めっき浴で、無電解めっきを行う。これにより、金属表面に亜鉛被膜が形成されるが、この被膜は0.1μmから50μmの膜厚とするのがよい。亜鉛の無電解めっき処理の後は、水洗を行ってから、次に銅のフラッシュめっきを行う。
【0032】
フラッシュめっきとは、高電流密度で短時間のめっきにより素早く0.01〜1μm程度の薄いめっき膜を形成させるめっき法である。本実施形態における銅フラッシュめっきとしては、数秒〜数分の短時間の電気めっきを好適に用いることができる。銅フラッシュめっきは短時間で完了するため、銅の無電解めっきのように長時間アルカリ条件に曝露されることに起因する亜鉛皮膜の溶出が殆ど起こらない。また、銅のフラッシュめっきはアルカリ条件で行うこともあるが、亜鉛皮膜の溶出を抑制するためにpHが中性付近のめっき浴を用いることが好ましい。
【0033】
銅のフラッシュめっきをすることにより、その後の銅の無電解めっきを行う際には、亜鉛の溶出は起こらない。これは、亜鉛のめっき被膜をごく薄い銅のフラッシュめっき被膜で覆うことができるためである。これにより、亜鉛と銅をそれぞれ無電解めっき法により金属基材に被着させてメタノール水蒸気改質用の銅−亜鉛系触媒層を形成させることができる。
【0034】
用いる金属基材は特に限定しないが、加工性、伝熱性等からアルミニウムが好ましい。アルミニウムを金属基材として用いる場合は、亜鉛の無電解めっき法として、亜鉛の置換めっきを用いることができる。亜鉛の置換めっきの原理は、アルミニウムの溶解(アルミニウムイオンの溶出)とそれに伴う亜鉛イオンのアルミニウム表面への置換還元析出である。
【0035】
前記の銅のフラッシュめっきの後に、銅の無電解めっきを行う。これは、還元剤を用いた一般的な化学還元めっきを用いればよい。形成する銅の被膜の厚さは、0.5μmから50μmとするのがよい。
【0036】
本実施形態では、亜鉛被膜の上に銅被膜を形成させており、最表面は銅被膜で覆われて、亜鉛が最表面には出ていない状態であるため、めっき処理後に焼成処理を行う。この焼成処理により亜鉛が表面に移行し、表面に銅と亜鉛が露出した良好な状態の銅−亜鉛系触媒層となる。焼成温度は、200〜700℃程度とすればよい。200℃より低温では亜鉛の表面への移行が十分ではなく、700℃より高温では触媒成分が剥離する恐れがある。
【0037】
焼成処理を行った後は、銅と亜鉛が表面に露出した状態にあるが、これらは主に金属酸化物の形態になっており、そのままでは触媒の活性が低いため、本実施形態の改質触媒1は、反応容器に装着して改質反応の運転を行う前に、還元処理により金属酸化物の一部または全部を還元して触媒を活性化させることが好ましい。
【0038】
図8は、本実施形態に係るメタノール水蒸気改質触媒1の製造と運転までの工程の例を示したフローチャートである。
前記したように、まず金属基材を、反応容器の形状や寸法に合せた加工、または凹溝形成のための加工を行い(ステップS81)、アルカリ脱脂、酸処理など、めっき層形成のための前処理を行う(ステップS82)。次に、その金属表面に、無電解めっきにより、亜鉛のめっき層を形成させる(ステップS83)。水洗などを適宜行った後に、銅のフラッシュめっきを行い(ステップS84)、さらに、無電解めっきにより銅のめっき層を形成する(ステップS85)。金属基材がアルミニウムの場合は、亜鉛の置換めっきがよい。そして焼成処理を行って、亜鉛と銅の両方の元素を金属基材の表面に露出させる(ステップS86)。
【0039】
得られた改質触媒1は、反応ケース4に収納したり、触媒エレメントとして反応容器(マイクロリアクタ)に装着する(ステップS87)。そして還元ガスを用いて改質触媒1の還元処理を行えば(ステップS88)、メタノール水蒸気改質反応の運転が可能となる(ステップS89)。
【0040】
以上のように、本実施形態のメタノール水蒸気改質触媒1は、加工性、伝熱性に優れた金属基材、特にアルミニウムの表面に、銅−亜鉛系触媒成分を均一に多量に担持させることができるため、形状自在、コンパクト、且つ温度制御が可能な触媒エレメントとすることができる。
【実施例】
【0041】
図1に示すアルミニウム製の金属板2(縦100mm×横100mm×厚さ3mmの純アルミニウム板に、幅0.5mm、深さ2mmの流路を機械加工で90本作成したもの)の表面に以下の条件で銅−亜鉛系触媒層を形成させた。
【0042】
<触媒形成方法>
アルカリ脱脂、酸処理により、アルミニウム金属板2表面を洗浄した。
以下の亜鉛置換めっき浴にアルミニウム金属板2を30秒間浸漬し、膜厚0.6μmの亜鉛被膜を形成させた。
・酸化亜鉛:20g/L
・水酸化ナトリウム:120g/L
・塩化第二鉄:2g/L
・酒石酸カリウムナトリウム:50g/L
・硝酸ナトリウム:1g/L
・温度:20℃
【0043】
次に、水洗後、以下の条件で銅のフラッシュめっきを行って、膜厚0.1μmの銅被膜を形成させた。
・シアン化銅:15g/L
・シアン化ナトリウム:30g/L
・遊離シアン化ナトリウム:10g/L
・温度:40℃
・電流密度:8A/dm2
・時間:30秒
【0044】
次に、水洗後、以下の条件で銅の無電解めっきを行って、膜厚2μmの銅被膜を形成させた。
・硝酸銅:15g/L
・炭酸水素ナトリウム:10g/L
・酒石酸カリウムナトリウム:30g/L
・水酸化ナトリウム:20g/L
・37%ホルムアルデヒド:100mL/L
・温度:24℃
・時間:30分
【0045】
次に、水洗後、処理品を自然乾燥し、電気炉にて400℃、空気下で2時間の焼成処理を行い、メタノール水蒸気改質触媒1を作成した。
【0046】
この改質触媒1の切断試料を作成し、SEM観察および元素分析した結果を、図9に示す。
SEM観察は、試料の切断面を、日立製作所製S−4000電界放射型走査顕微鏡(FE−SEM)を用いて700倍で観察を行った(上側の画像)。
また、元素分析は、試料の切断面を、堀場製作所製EMAX−5770Wエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて、加速電圧20kV、測定時間100secで行った(下側の画像)。各元素(アルミニウムAl、酸素O、銅Cu、亜鉛Zn)について半定量分析を行い、カラーマッピングで各元素の濃度を色別に表示して、銅、亜鉛ともに試料表面に露出されていることが確認できた。
【0047】
このようにして得られたメタノール水蒸気改質触媒1を図3に示すような反応ケース4に収納して、フタ3をし、周りをボルト締め7で固定した後、250℃のオイルバスに入れた。250℃に予熱したガス(水素5%+アルゴン95%)をガス入口5より供給し、4時間流通させて触媒の還元処理を行った。
【0048】
<メタノール水蒸気改質実験>
還元処理後、ガス入口5より250℃に予熱したメタノールガス(20.0ミリモル/分)と水蒸気(40.0ミリモル/分)を流通させ、ガス出口6の水素濃度をガスクロマトグラフィーで測定し、水素ガス量を求めた。
【0049】
メタノールの水蒸気改質による水素生成反応は、次の反応式で表される。
CHOH + HO → 3H + CO
従って、メタノールが100%水素に転化されれば、1モルのメタノールから3モルの水素が生成する。よって、この反応の水素転化率は次式で表される。
水素転化率(%)= 100 × H /(3 × M)
H:生成した水素のモル数、M:使用したメタノールのモル数
【0050】
本実施例で、ガス出口6の水素ガス量は58.8ミリモル/分であったので、水素転化率は98.0%であり、高い水素転化率のメタノール水蒸気改質触媒1が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)は、本発明の実施形態に係るメタノール水蒸気改質触媒(金属板)の平面図、(b)は(a)のA−A断面での断面図である。
【図2】(a)、(b)、(c)は、本発明の実施形態に係る反応ケースの説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るメタノール水蒸気改質触媒を収納した反応容器の断面図である。
【図4】(a)、(b)は、本発明の実施形態に係るメタノール水蒸気改質触媒(金属板)の変形例を示す断面図である。
【図5】(a)、(b)は、本発明の実施形態に係るメタノール水蒸気改質触媒(複数の金属板)の概念図である。
【図6】本発明の実施形態に係るメタノール水蒸気改質触媒(金属筒)の概念図である。
【図7】本発明の実施形態に係るメタノール水蒸気改質触媒(金属管)の概念図である。
【図8】本発明の実施形態に係るメタノール水蒸気改質触媒の製造と運転までの工程の例を示したフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態に係るメタノール水蒸気改質触媒の切断面のSEM像と元素分析の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 メタノール水蒸気改質触媒(改質触媒)
2 金属板
3 フタ
4 反応ケース
5 ガス入口
6 ガス出口
7 ボルト締め
8 金属筒
9 金属管
10 空間層(空間)
11 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の片面または両面に複数のめっき層を形成したメタノール水蒸気改質触媒であって、
前記金属板の表面に、亜鉛の無電解めっきによる第一のめっき層と、
前記第一のめっき層の直上に、銅のフラッシュめっきによる第二のめっき層と、
前記第二のめっき層の直上に、銅の無電解めっきによる第三のめっき層と
を形成し、焼成処理により前記亜鉛および前記銅を表面に露出させたことを特徴とするメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項2】
前記金属板は、さらに、ガスケットと交互に積層され、メタノールが流通する少なくとも1つの空間層を設けて、反応容器に装着可能に固定されたことを特徴とする請求項1に記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項3】
前記金属板は、波型の金属板であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項4】
ハニカム状または格子状金属筒の内壁に複数のめっき層を形成したメタノール水蒸気改質触媒であって、
前記内壁の表面に、亜鉛の無電解めっきによる第一のめっき層と、
前記第一のめっき層の直上に、銅のフラッシュめっきによる第二のめっき層と、
前記第二のめっき層の直上に、銅の無電解めっきによる第三のめっき層と
を形成し、焼成処理により前記亜鉛および前記銅を表面に露出させたことを特徴とするメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項5】
金属管の内面、外面または両面に複数のめっき層を形成したメタノール水蒸気改質触媒であって、
前記金属管の表面に、亜鉛の無電解めっきによる第一のめっき層と、
前記第一のめっき層の直上に、銅のフラッシュめっきによる第二のめっき層と、
前記第二のめっき層の直上に、銅の無電解めっきによる第三のめっき層と
を形成し、焼成処理により前記亜鉛および前記銅を表面に露出させたことを特徴とするメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項6】
前記金属管は、さらに、径の異なる多重管として形成され、メタノールが流通する少なくとも一つの空間を設けたことを特徴とする請求項5に記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項7】
前記金属板、前記金属筒または前記金属管の表面に、同一方向に複数の凹状または波状の溝を設けたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項8】
前記金属はアルミニウムであり、且つ、
前記第一のめっき層は、亜鉛の置換めっきによる無電解めっき層
であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項9】
金属表面に複数のめっき層を形成したメタノール水蒸気改質触媒の製造方法であって、
前記金属表面に、亜鉛の無電解めっきによる第一のめっき層と、
前記第一のめっき層の直上に、銅のフラッシュめっきによる第二のめっき層と、
前記第二のめっき層の直上に、銅の無電解めっきによる第三のめっき層と
を形成し、焼成処理により前記亜鉛および前記銅を表面に露出させたことを特徴とするメタノール水蒸気改質触媒の製造方法。
【請求項10】
前記金属はアルミニウムであり、且つ、
前記第一のめっき層は、亜鉛の置換めっきによる無電解めっき層
であることを特徴とする請求項9に記載のメタノール水蒸気改質触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−268453(P2007−268453A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98599(P2006−98599)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】