説明

メタルガスケット

【課題】 ストッパを設けなくても、へたりの少ないメタルガスケットを提供する。
【解決手段】 断面形状が台形をしたビードを有するビード板からなるメタルガスケットであって、当該メタルガスケットの厚さをtとするとき、前記台形の頂部の幅Wと、前記台形の側面をなす部分の長さLが、2.0×t≦W≦6.0、1.5×t≦L≦3.0×tの範囲にあることを特徴とするメタルガスケット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車用エンジンのシリンダヘッドに用いるのに好適なメタルガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンダヘッドガスケットのボア周りなどに用いられるメタルガスケットは、金属板にビードを形成したものであるが、ビードは、締付け荷重や繰り返しの振動を受けるとへたりを生じてしまうため、通常はストッパを設け、一定以上の変形が起こらないようにしている。このストッパとしては、折返しやシム、硬質の樹脂コートなどがある。
【0003】
一方、特開昭61−255253号公報(特許文献1)には、金属板に断面コ字形の高剛性の突条を設け、これをストッパとするものも提案されている。又、その発展形として、特開2001−289323号公報(特許文献2)には、凸状の中央部を凸状と反対側に突出させ、断面M字状にすることで、上2箇所と下1箇所の3点で相手面と接し、高いシール性を得るメタルガスケットが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−255253号公報
【特許文献2】特開2001−289323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このうち、折返しやシムをストッパとするものにおいては、厚さが一定のために面圧調整が難しく、エンジンの構造によっては部分的な面圧集中によりボア変形を生じてしまう場合がある。硬質樹脂コートでは、それらより面圧調整は行い易いものの、振動や熱負荷の激しい箇所ではコート自体のへたりや破壊が生じる恐れがあり、また別途シール用コーティングが必要となる場合が多く、コストがかかるという問題もある。
【0006】
又、特許文献1に記載されるような方法では、弾性変形量が小さいため振幅の大きい振動には十分に追従できない場合がある。また、突条の上下の端部に荷重が極度に集中するため、この突条の端部がシリンダヘッドやシリンダブロックに圧痕をつけてしまう恐れや、その端部における応力集中により、長期間使用すると疲労破壊を生じる恐れもある。しかも、このコ字形部はビード部と別に設けることを前提としており、そのためのスペースが必要であって、特に小さいエンジン等ではレイアウトが難しく、ビード設計の自由度が制限される。又、特許文献2に記載される技術は、シール性を目的としたもので、ストッパを不要としたりへたりを低減することを目的としたものではない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ストッパを設けなくても、へたりの少ないメタルガスケットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための第1の手段は、断面形状が台形をしたビードを有するビード板からなるメタルガスケットであって、当該メタルガスケットの厚さをtとするとき、前記台形の頂部の幅Wと、前記台形の側面をなす部分の長さLが、
2.0×t≦W≦6.0×t
1.5×t≦L≦3.0×t
の範囲にあることを特徴とするメタルガスケットである。
【0009】
ここで「断面形状が台形」であるというのは、ビード部において、ビード板の断面形状が斜めに立ち上がり、その後、ビード部以外の部分と平行な頂部を経た後、斜めに立ち下がるような形状のことである。又、台形の頂部の幅Wは、前記平行な頂部をその上面(凸部となっているビード部の凸部の表面)側で測定したものである。又、「台形の側面をなす部分の長さL」とは、台形の立ち上がり辺、立ち下がり辺の斜めになっている部分を、凸部となっているビード部の裏面側で測定したものである。これらの意味は、実施の形態の説明でより詳細に説明する。
【0010】
前記課題を解決するための第2の手段は、断面形状が開いたM字形をしたビードを有するビード板からなるメタルガスケットであって、当該メタルガスケットの厚さをtとするとき、前記M字型の頂部間の幅Wと、前記M字型の斜めの立ち上がり部分をなす部分の長さLが、
2.0×t≦W≦6.0×t
1.5×t≦L≦3.0×t
の範囲にあり、かつ、前記M字型の中央部の底部側の部分がビード部の底部よりも頂部側にあることを特徴とするメタルガスケットである。
【0011】
「開いたM字形」というのは、M字の縦棒の部分が垂直でなく、斜めに立ち上がっていることを意味する。M字型の頂部間の距離は、凸部となっているビード部の表面側で測定したものであり、M字型の斜めの立ち上がり部分をなす部分の長さLは、凸部となっているビード部の裏面側で測定したものである。これらの意味は、実施の形態の説明でより詳細に説明する。
【0012】
前記課題を解決するための第3の手段は、断面形状が台形又は開いたM字型をしたビードを有するビード板からなるメタルガスケットであって、前記台形又は開いたM字型の形状は、前記メタルガスケットが使用時に締め付けられた状態で、開いたM字型となり、その後、締め付け力が解放された場合に、中央部が底部よりも頂部側にある開いたM字型の形状を保持するような形状とされていることを特徴とするメタルガスケットである。
【0013】
前記課題を解決するための第4の手段は、前記第1の手段から第3の手段のいずれかであって、前記ビード部の両面にコーティングが施されていることを特徴とするメタルガスケットである。
【0014】
前記課題を解決するための第5の手段は、前記第1の手段から第4の手段のいずれかのメタルガスケットに用いられるビード板と他の副板とを組み合わせて構成されるメタルガスケットである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ストッパを設けなくても、へたりの少ないメタルガスケットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態の例を、図を用いて説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態である1枚のビード板1からなるメタルガスケットのビードの形状の断面を示す図である。図1(a)は締め付け前の状態、(b)は、締め付け時の状態(圧縮状態)を示すものである。締め付け前において、このビード部は図に示すように台形の断面形状をしており、その厚さがt、台形の頂部(フラットな部分)の幅(図の上面側で計ったもの)がW1、台形の側面をなす部分(斜めとなっている部分)の長さ(図の下面側で計ったもので、斜辺に沿った長さでなく、水平方向の長さ)がL1であるとする。
【0017】
このようなビード板1を上部押圧部材(例えばシリンダヘッド)2と下部押圧部材(例えばシリンダブロック)3の間で押圧して両者の間をシールすると、図1(b)に示すように、ビード部は開いたM字型に変形し、その頂部の凹んだ部分と上部押圧部材の間にはh2だけの隙間ができる。その底部と下部押圧部材3の間にはh1だけの隙間ができることもあるし、底部が下部押圧部材3に接することもある。
【0018】
このような、ビード部を、上部押圧部材2と下部押圧部材3で押圧したときの、上部押圧部材2と下部押圧部材3との隙間と、押圧力の関係を調査した結果を、従来の単なる凸状(断面が半円形状)のビード部と比較して図2に示す。図2を見ると分かるように、比較例(従来のビード)では、低荷重のうちに大きく圧縮され、矢印で示す点(約40kN)近くで剛体に近い状態となる。よって、これ以上の大きな締め付け力で締め付けると(矢印に示す点より狭くなるまで圧縮すると)、ビード高さがほとんどゼロとなって潰れてしまい、ボア部に荷重を集めることができない。又、わずかな変位でも荷重が大きく低下する。すなわちシール性が低下することになる。そのため、隙間が矢印で示す点近傍で止まるように、別途ストッパを設ける必要があった。
【0019】
これに対し、本発明の実施の形態の場合には、100kN程度までの締め付け時には良好な弾性を有している。よって、このような高い締め付け点(矢印で示す)近くでも相手面とのなじみ性(ひずみ吸収性)に優れ、その結果、面圧のばらつきが小さくなる。
【0020】
又、復元時には高剛性となるので、ボア部の厚さ(荷重)が維持される。すなわちシール性が維持される。
【0021】
L1=a*t、W1=b*tとして、aとbを表1(単位はmm)のように変化させ、上部押圧部材2と下部押圧部材3で押圧したときの、上部押圧部材2と下部押圧部材3との隙間と、押圧力の関係を調査した結果を図3に示す。
(表1)
【0022】
【表1】

【0023】
図3を見ると分かるように、いずれの場合も、図2に示した実施の形態のカーブと同様のカーブが得られており、A〜Dまでのビード部においては、高い荷重(矢印で示す)まで締め付け時の荷重変動が緩やかな領域が続いていることが分かる。それに対し、Eのビードは、従来の物に比べて改善されているものの、不十分である。これは、上記のbの値が、本発明の範囲を外れているためである。又、図3から、W1とL1を適当に選定することにより、種々の隙間と締め付け荷重の関係が得られ、これらをコントロールすることにより、エンジンから要求される仕様に合わせたビード板を設計することができる。実際の締め付け力は、隙間と締め付け荷重の関係を示すカーブの勾配が急変する点、すなわち、矢印で示す点とすることが好ましい。
【0024】
一般に、L1を狭くしすぎると、斜辺部の加工度が高くなりすぎ、かつ、型の加工誤差により亀裂の起点となる恐れがある。一方、広くしすぎると、締め付け荷重点(矢印で示す点)が下がっていき、従来ビードに近い状態となり、ガスシールに必要な荷重(面圧)が確保できない。
【0025】
次に、板厚tが0.3mmのビード板についてL1を0.53mmと一定に保ち、W1を表2(単位はmm)に示すように変化させて、上部押圧部材2と下部押圧部材3で押圧したときの隙間と締め付け荷重の関係を調べた。その結果を図4に示す。
(表2)
【0026】
【表2】

【0027】

図4を見ると分かるように、G〜Iについては、図2に示した実施の形態と同様のカーブが得られているが、Fについては、隙間と締め付け荷重の関係を示すカーブの勾配が急変する点、すなわち、矢印で示す点での荷重が高すぎ、この点を過ぎると剛体の状態に近くなることが分かる。これは、bの範囲が本発明の範囲を外れているためである。
【0028】
このように、bの範囲としては、2.0〜6.0の範囲が適当である。2.0未満となると、上述のように締め付け荷重点が高くなり過ぎ、圧痕や亀裂が懸念されるため、また、頂部に良好な凹みができないため(M字型になりにくいため)、設計においては、エンジンとの関係を考慮して調整する。すなわち、bの範囲を適当に調整することにより、圧痕や亀裂の可能性を低く抑えつつ、適度な締め付け荷重点を設定できる。
【0029】
次に、図5に示すような、断面形状が開いたM字形のものについて検討した。このビード形状は、図に示すように、M字の縦棒の部分が斜めになっており、頂部が凹んだような形状をしている。図に示すようにM字形の頂部間の幅をW1とし、M字型の斜めの立ち上がり部分をなす部分の長さをL1とする。このビード形状は、頂部が凹んだ結果垂れ下がった部分の底部が、ビードの底部より、hだけ頂部側になるようになっている。よって、ビード部を上部押圧部材2と下部押圧部材3で挟んで荷重をかけないとき、頂部が凹んだ結果垂れ下がった部分の底部は、下部押圧部材3に接触しない。
【0030】
このような、断面形状開いたM字形のものと、図1に示すような台形のものとの特性の比較を行った。厚さ0.3mmのビード板について、共にW1=1.31mm、L1=0.46mmとし、上部押圧部材2と下部押圧部材3で押圧したときの隙間と締め付け荷重の関係を調べた(
なお、図5に示すhは、0.05mmである)。その結果を図6に示す。図6を見ると分かるように、断面が開いたM字形のものは、断面が台形のものに比して、隙間が広いときに荷重が急激に大きく立ち上がり、圧縮が抑制される。すなわち、厚さ減少が抑制され、締め付け荷重において隙間が維持される。よって、断面が開いたM字形のものの方が、断面が台形のものに比して特性が優れていると言える。
【0031】
なお、以上示したようなビード部の表裏面にコーティング材を施して使用すると、シール性がさらに向上して好ましい。又、このようなビード板を単独でメタルガスケットとして使用するのでなく、高さ調整用副板等の副板と組み合わせたメタルガスケットとするようにしてもよい。
【0032】
以下、図1に示すようなビード形状の形成方法の例を説明する。図7に示すように、ビード板となる板材4を、雌型5と雄型6の間に挟んでプレス成型によりビード部を形成する。図における雌型の凹部の幅W2、凹部と平面部との曲部の半径R1、雄型の凸部の幅W3、雄型の平面部から凸部の突き出た平面部に至る曲部の半径R2を適当に決定することにより、図1に示すビード板1のビード部のW1、L1を決定することができる。このような雌型5と、雄型6の設計はFEM解析により行うことができる。
【0033】
以下、図5に示すようなビード形状の形成方法の例を説明する。図8に示すように、ビード板となる板材4を、雌型7と雄型8の間に挟んでプレス成型によりビード部を形成する。図における雌型の凹部の幅W4、凹部と平面部との曲部の半径R3、凹部の中央部に設けられた凸部の幅W5、凹部からこの凸部に至る局部の半径R4、この凸部の高さh4、雄型の2つの凸部に跨る幅幅W6と2つの凸部の間隔W7、雄型の平面部から突き出た円形断面の半径R5を適当に決定することにより、図5に示すビード板1のビード部のW1、L1を決定することができる。このような雌型7と、雄型8の設計はFEM解析により行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施の形態である1枚のビード板1からなるメタルガスケットのビードの形状の断面を示す図である。
【図2】本発明の実施例と比較例であるビード板を上部押圧部材と下部押圧部材で押圧したときの、上部押圧部材と下部押圧部材との隙間と、押圧力の関係を調査した結果を示す図である。
【図3】W1とL1を変化させ、上部押圧部材と下部押圧部材で押圧したときの、上部押圧部材と下部押圧部材との隙間と、押圧力の関係を調査した結果を示す図である。
【図4】L1を一定に保ち、W1を変化させて、上部押圧部材と下部押圧部材で押圧したときの隙間と締め付け荷重の関係を調べた結果を示す図である。
【図5】断面形状が開いたM字形のものを示す図である。
【図6】上部押圧部材と下部押圧部材で押圧したときの隙間と締め付け荷重の関係を、断面形状が台形のものと開いたM字型のもので比較して示した図である。
【図7】図1に示すようなビード形状の形成方法の例を示す図である。
【図8】図5に示すようなビード形状の形成方法の例を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1…ビード板、2…上部押圧部材、3…下部押圧部材、4…板材、5…雌型、6…雄型、7…雌型、8…雄型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が台形をしたビードを有するビード板からなるメタルガスケットであって、当該メタルガスケットの厚さをtとするとき、前記台形の頂部の幅Wと、前記台形の側面をなす部分の長さLが、
2.0×t≦W≦6.0×t
1.5×t≦L≦3.0×t
の範囲にあることを特徴とするメタルガスケット。
【請求項2】
断面形状が開いたM字形をしたビードを有するビード板からなるメタルガスケットであって、当該メタルガスケットの厚さをtとするとき、前記M字形の頂部間の幅Wと、前記M字型の斜めの立ち上がり部分をなす部分の長さLが、
2.0×t≦W≦6.0×t
1.5×t≦L≦3.0×t
の範囲にあり、かつ、前記M字型の中央部の底部側の部分がビード部の底部よりも頂部側にあることを特徴とするメタルガスケット
【請求項3】
断面形状が台形又は開いたM字型をしたビードを有するビード板からなるメタルガスケットであって、前記台形又は開いたM字型の形状は、前記メタルガスケットが使用時に締め付けられた状態で、開いたM字型となり、その後、締め付け力が解放された場合に、中央部が底部よりも頂部側にある開いたM字型の形状を保持するような形状とされていることを特徴とするメタルガスケット。
【請求項4】
前記ビード部の両面にコーティングが施されていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のメタルガスケット。
【請求項5】
請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のメタルガスケットに用いられるビード板と他の副板とを組み合わせて構成されるメタルガスケット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−24066(P2007−24066A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202832(P2005−202832)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000230386)日本ラインツ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】