説明

メタルハライド放電ランプおよびメタルハライド放電ランプシステム

【課題】
本発明は、電極間の色温度差を許容範囲内にした直流点灯用として好適なメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムを提供する。
【解決手段】
メタルハライド放電ランプMHLは、耐火性で透光性の気密容器1と、一対の電極2A、2Bと、ハロゲン化物および希ガスを含んで封入され、かつ、本質的に水銀が封入されていない放電媒体とを具備し、気密容器内に流れる電流の向きが時間とともに変化しない単一方向で点灯した際に、一方の電極の先端から電極間距離の1/8間での範囲における相関色温度をT(K)とし他方の電極の先端から電極間距離の1/8間での範囲における相関色温度をT(K)(ただし、T>Tとする。)としたとき電極間相関色温度差T−TがT−T≦3000を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本質的に水銀を封入していないメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HIDランプ(高輝度放電ランプ)は、高効率・長寿命という特徴から屋外照明分野などに広く応用されている。中でもメタルハライドランプは、演色性が良好で、その特性を生かして屋外照明分野のみならず、屋内照明分野にも普及しつつあり、また映像機器用の光源・車両の前照灯用光源として注目されている。なお、従来から一般に用いられているメタルハライドランプは、緩衝体として水銀蒸気が希ガスと一緒に封入されている(以下、便宜上「水銀入りランプ」という。)。
【0003】
一方、水銀を封入しないメタルハライドランプが本発明者らにより発明され(特許文献1参照。)、以後その実用化に向けた開発が活発に行われている。そして、自動車前照灯用としては2004年7月から実用化されだしている。水銀を封入しないメタルハライドランプ(以下、便宜上「水銀フリーランプ」という。)は、水銀を封入しないので、環境的に好ましく、また始動時の分光特性の立ち上がり特性が良好であり、調光に適する、ランプ特性のばらつきが少ない、などの利点がある。今後この構成のメタルハライドランプが普及していくと考えられる。
【0004】
現行の水銀フリーランプは、交流点灯されている。このため、点灯回路に直流−交流間変換回路としてフルブリッジ形インバータを用いて交流電圧を得ている。このインバータには、比較的大型で価格の高い半導体スイッチング素子を4個用いているため、コスト増大および装置の大型化が生じる。
【0005】
これに対して、特許文献1には、水銀フリーランプを直流点灯することも開示されており、上述の問題がないことが指摘されている。また、電極間の色温度の差は小さく、十分に実用できることも示されている。
【特許文献1】特開平11−238488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水銀フリーランプを直流点灯した場合にも一対の電極のそれぞれの側の相関色温度に差が生じる。この色温度差は、以下の理由により肉眼では区別がつかない程度であるが、測定器を用いて測定した結果、一対の電極側における相関色温度に差が生じ、またその相関色温度差がメタルハライド放電ランプの構成によって変化することが分かった。
【0007】
すなわち、直流点灯において、金属元素は陰極に引かれ、また電気泳動速度が金属の種類により異なるので、陰極側と陽極側とでは発光が異なってくる。
【0008】
まず、放電媒体中のハロゲン化物としてScI−NaI−ZnIを封入する場合について説明する。この場合には、Naの方が、移動速度が大きいので、陰極側と陽極側でScとNaの発光の割合が異なり、陽極側では陰極側よりもScの発光割合が大きくなるために、陽極側は陰極側よりも相関色温度が高くなる。一方、Znによる発光も発生し、陽極側で強くなる。
【0009】
次に、放電媒体中のハロゲン化物としてDyI−NdI−ZnIを封入する場合について説明する。この場合には、DyやNdが陰極に引かれるために、陰極側と陽極側とでDyやNdの濃度分布が異なり相関色温度が変化する。一方、前記と同様にZnによる発光も発生し、陽極側で強くなる。
【0010】
したがって、以上の例から理解できるように、水銀フリーランプにおいても電極間の位置により相関色温度は変化するが、Znの発光は白色であるとともに上記ハロゲン化物の全体による発光色の色度が黒体放射軌跡に近いため、肉眼では相関色温度差識別できない。
【0011】
さらに、放電媒体中のハロゲン化物としてInIを封入する/場合について説明する。この場合には、Inが電気泳動作用により陰極に引き寄せられる。そのため、電極間でInの分圧分布が生じる。Inの発光は、その分圧に依存する。Inは410.4nmおよび451.1nmの共鳴線を有するが、分圧が高くなると、その発光線がブロードニングにより可視光域全体にわたる連続線が生じ、相関色温度が低下する。
【0012】
したがって、陰極側および陽極側のいずれもInの発光が生じるが、陰極側はInの分圧が高いために、相関色温度が低く、陽極側はIn分圧が低いために、相関色温度が高く、その結果色むらが生じる。
【0013】
以上の例から理解できるように、水銀フリーランプを直流点灯する場合であっても、電極間の位置による色温度差が生じる。この色温度差はハロゲン化物全体による発光色の色度が黒体放射軌跡に近いために、肉眼では識別できないが、反射鏡やレンズなどの光学系を用いて所望の配光を得ようとする場合には問題になる。
【0014】
これに対して、水銀入りランプの直流点灯の場合には、水銀に比べて分圧の低い発光金属のSc、Na、Dy、Ndなどは陰極側に引かれるため、陽極側では上記発光金属の分圧が陰極側より低くなるので、Hgが発光する。水銀発光は青緑色であるために、肉眼でも明瞭に電極間の位置による色むらが識別され、したがって実用上大きな障害になる。
【0015】
そこで、本発明者は、研究の結果水銀フリーランプの直流点灯における実用上許容できる電極間の位置による色温度差の範囲を明らかにすることができた。また、電極間の位置による色温度差を小さくするための構成を明らかにした。
【0016】
よって、本発明は、直流点灯した際における電極間の色温度差を許容範囲内にした直流点灯用として好適なメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムを提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、電極間の色温度差を低減するための構成を備えた直流点灯用として好適なメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のメタルハライド放電ランプは、耐火性で透光性の気密容器と;気密容器内に封装された一対の電極と;ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入され、かつ、本質的に水銀が封入されていない放電媒体と;を具備し、気密容器内に流れる電流の向きが時間とともに変化しない単一方向で点灯した際に、一方の電極の先端から電極間距離の1/8間での範囲における相関色温度をT(K)とし他方の電極の先端から電極間距離の1/8間での範囲における相関色温度をT(K)(ただし、T>Tとする。)としたとき電極間相関色温度差T−Tが数式1を満足することを特徴としている。
【0019】
[数式1]
−T≦3000
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光学系を用いて所望の配光特性を得る場合に電極間相関色温度差を許容範囲内にしたメタルハライド放電ランプおよびこれを点灯するメタルハライド放電ランプシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するに際して各構成要素の許容し得る主な形態について説明する。
【0022】
気密容器は、耐火性で透光性でなければならない。また、その内容積は、用途に応じて適宜設定することができる。しかし、前照灯用としては、一般的には0.005〜0.1ccがよく、好適には0.01〜0.05ccである。加えて気密容器は、好適には最大径部が内径2〜10mm、外径が5〜13mmである。液晶プロジェクタなどの投射用としては、1cc以下、好適には0.5cc以下である。一般照明用の場合、定格ランプ電力に応じて広範囲に設定され、一例として定格ランプ電力50Wで0.1cc以下である。
【0023】
気密容器が「耐火性で透光性」であるとは、放電ランプの通常の作動温度に十分耐える耐火性を備える材料である。したがって、放電によって発生した所望波長域の可視光および赤外光を外部に導出することができれば、どのような材料で作られていてもよい。例えば、石英ガラスや透光性アルミナ、YAGなどの多結晶または単結晶のセラミックスなどを用いることができる。なお、必要に応じて、気密容器の内面に耐ハロゲン性または耐金属性の透明性被膜を形成するか、気密容器の内面を改質することが許容される。
【0024】
また、気密容器は、一般に包囲部および一対の封止部を備えて構成されている。包囲部は、その内部に適当な形状、例えば球状、楕円球状、ほぼ円柱状などをなした放電空間として機能する中空の部分を提供する。なお、前照灯用のメタルハライドランプとして好適には放電空間をほぼ円柱状にすることができる。これにより、放電アークが水平点灯においては上方へ湾曲しようとした場合には、放電容器の上側の内面に接近するので、放電容器の上部の温度上昇が早くなる。また、気密容器が石英ガラスからなる場合、包囲部は、その肉厚を比較的大きくすることができる。すなわち、電極間距離のほぼ中央部の肉厚をその両側の肉厚より大きくすることができる。これにより、放電容器の伝熱が良好になって放電容器の放電空間の下部および側部内面に付着している放電媒体の温度上昇が早まるために、光束立ち上がりが早くなる。気密容器が透光性セラミックスからなる場合、包囲部は、その肉厚がほぼ均一に形成されているのがよい。
【0025】
一対の封止部は、包囲部を封止するとともに、電極の軸部がここに支持され、かつ、点灯回路から電流を電極へ気密に導入するのに寄与する手段であり、包囲部の両端から一体的に延在している。そして、電極を封装し、かつ、点灯回路から電流を電極へ気密に導入するために、好適には気密容器の材質が石英ガラスの場合に、封止部の内部に適当な気密封止導通手段として封着金属箔を気密に埋設している。気密容器が透光性セラミックスからなる場合、封止部を小径筒部として形成し、電極軸が小径筒部の内部にキャピラリーと称されるわずかな間隙を形成するように挿通し、小径筒部の端部に挿入された導入導体と小径筒部との間を封止し、導入導体の先端と電極軸の基端とを接合する構造を採用することができる。
【0026】
なお、封着金属箔は、封止部の内部に埋設されて封止部が気密容器の包囲部の内部を気密に維持するのに封止部と協働しながら電流導通導体として機能するための手段であり、気密容器が石英ガラスからなる場合、材料としてはモリブデン(Mo)が最適である。モリブデンは、約350℃になると酸化するので、外部側の端部の温度がこれより温度が低くなるように埋設される。封着金属箔を封止部に埋設する方法は、特段限定されないが、例えば減圧封止法、ピンチシール法およびこれらの組み合わせ法などの中から適宜選択して採用することができる。内容積が0.1cc以下の小形でキセノン(Xe)などのガスを室温で6気圧以上封入する自動車前照灯などに用いるメタルハライドランプの場合は、後者が好適である。また、封着金属箔の包囲部側の一端には後述する電極の基端が接続し、他端には外部導入線の先端が接続する。外部導入線の基端側は封止部の端面から外部へ露出する。
【0027】
一対の電極は、気密容器の内部に離間対向して封装されている。電極間距離は、液晶プロジェクタや自動車など移動体の前照灯に用いる投射用や一般照明用として用いる小形で電極間距離の小さいメタルハライド放電ランプの場合、6mm以下が好ましい。その中で液晶プロジェクタなどの場合、好適には3mm以下、例えば1mmであり、所望によっては0.5mmのものであってもよい。前照灯用としては中心値で4.2mmが規格化されている。そして、電極は、その直径が好ましくは長手方向に沿ってほぼ同一の直棒状をなした軸部を備えている。なお、軸部の直径は、好ましくは0.25mm以上、さらに好適には0.45mm以下である。そして、軸部から直径が大きくなることなしに先端に至り、かつ、先端が平坦な端面を形成するか、アークの起点となる先端が曲面ないし切頭円錐形を形成している。あるいは、軸部の先端に軸部より径大の部分を形成することができる。
【0028】
また、本発明のメタルハライドランプは気密容器内に流れる電流の向きが時間とともに変化しない単一方向で点灯する、すなわち直流点灯するので、陽極として機能する側の電極は、温度上昇が激しくなるから、陰極より放熱面積の大きい、したがって先端の電極主部が太いものを用いることができる。
【0029】
さらに、一対の電極は、耐火性で、導電性の金属、例えば純タングステン(W)、ドープ剤を含有するドープドタングステン、酸化トリウムを含有するトリエーテッドタングステン、レニウム(Re)またはタングステン−レニウム(W−Re)合金などを用いて形成することができる。直流点灯の際に陰極として機能する側の電極の少なくとも電極主部には、電子放射性の良好な電極材料、例えばトリエーテッドタングステンなどを用いるのが好ましい。そうすれば、後述するように全光束を増加することができる。
【0030】
放電媒体は、気密容器の内部に封入されて蒸気またはガス状態で放電を生起する媒体として作用し、少なくとも発光金属のハロゲン化物および希ガスを含んでいる。しかし、本質的に水銀(Hg)は封入しないものとする。また、ハロゲン化物には、主として発光に寄与する金属のハロゲン化物を第1のハロゲン化物とした場合に、これに加えて可視域における発光量が第1のハロゲン化物の金属によるに発光量に比較して相対的に少なくて、かつ、主としてランプ電圧を形成するのに寄与するための第2のハロゲン化物を含むことができる。以下、第1および第2のハロゲン化物についてさらに詳細に説明する。
【0031】
第1のハロゲン化物は、主としてメタルハライド放電ランプとしての発光を行う金属のハロゲン化物からなる。このための金属としては、メタルハライドランプの用途に応じて所望波長域の放射を生じる多様な既知の金属群の中から適宜選択して、その一種または複数種を用いることができる。
【0032】
例えば、自動車前照灯用のメタルハライド放電ランプとしては、ナトリウム(Na)およびスカンジウム(Sc)のハロゲン化物を第1のハロゲン化物の主成分として用いると、規格に適合する白色光を効率よく発光させることができるので好ましい。また、発光の色度を調整するなどの目的で、ジスプロシウム(Dy)、ネオジム(Nd)、ホルミウム(Ho)およびツリウム(Tm)などの希土類金属のハロゲン化物、タリウム(Tl)およびインジウム(In)のグループからなる金属の一種または複数種のハロゲン化物を副成分として用いることができる。
【0033】
また、液晶プロジェクタなどのプロジェクション用のメタルハライド放電ランプとしては、ジスプロシウム(Dy)、ネオジム(Nd)、ホルミウム(Ho)およびツリウム(Tm)などの希土類金属のハロゲン化物の中から選ばれた少なくとも1種などを主成分として用いることができる。また、発光効率や発光の色度を調整するなどの目的で、ナトリウム(Na)、インジウム(In)およびタリウム(T1)などグループからなる金属の一種または複数種のハロゲン化物を副成分として用いることができる。
【0034】
そうして、第1のハロゲン化物としては、上記の例だけでなくメタルハライド放電ランプの用途に応じて既知の発光用の各種金属ハロゲン化物を用いることができる。
【0035】
第2のハロゲン化物は、次のグループの中から選択された一種または複数種の金属のハロゲン化物が主成分を構成することができる。すなわち、第2のハロゲン化物は、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)のグループの中から選択された1種または複数種のハロゲン化物とすることができる。上記のグループに属する金属は、第1のハロゲン化物の金属との併存下において、そのいずれも第1のハロゲン化物に比較して可視域における相対的に発光が少なくて、しかも蒸気圧が相対的に高いという特徴を有している。上記グループの中でも、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)およびガリウム(Ga)からなるグループの中から選択された1種または複数種のハロゲン化物が特に好適である。しかし、これらの金属は、主成分として用いられて最適であるが、マグネシウム(Mg)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)のグループから選択された1種または複数種を副成分として添加することにより、さらにランプ電圧を高くすることができる。また、上記グループの金属は、そのいずれも気密容器が石英ガラスおよび透光性セラミックスのいずれで形成されていても基本的には適応する。
【0036】
ハロゲン化物を構成するハロゲンは、反応性に関してハロゲンの中でヨウ素が最も適当であり、少なくとも上記主発光金属は、主としてヨウ化物として封入される。しかし、要すれば、例えば気密容器の内面の黒化を抑制するなどの目的でヨウ化物および臭化物のように異なるハロゲンの化合物を併用することもできる。
【0037】
希ガスは、メタルハライドランプの始動ガスおよび緩衝ガスとして作用し、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)のグループの一種を単独で、または複数種を混合して封入することができる。希ガスの中でもキセノンは、その原子量が他の希ガスより大きいため、熱伝導率が相対的に小さいので、これを5気圧以上封入することにより、点灯直後のランプ電圧形成に寄与するとともに、ハロゲン化物の蒸気圧が低い段階で白色の可視光発光を行い、光束立ち上がりに寄与する。このため、キセノンは、前照灯用のメタルハライドランプとして効果的である。この場合、キセノンの好ましい封入圧は、6気圧以上、より好適には8〜16気圧の範囲である。これにより、点灯直後からの光束立ち上がりと自動車前照灯用のHID光源としての白色発光の前記規格を満足することができる。
【0038】
さらに、水銀について言及しておく。本発明において、水銀(Hg)は、全く含まないのが環境負荷物質削減のために好ましいことであるが、不純物程度に含んでいても許容される。
【0039】
本発明において、メタルハライド放電ランプの点灯の態様は、点灯時に気密容器内に流れる電流(ランプ電流)の向き(極性)が時間とともに変化しない(一定な)単一方向である。いわゆる直流点灯がこの態様の概念に含まれる。しかし、上記電流の瞬時値は、ほぼ一定である必要はなく、いわゆる脈流であることを許容する。
【0040】
したがって、直流電流に高周波電流を重畳して音響的共鳴現象を生起させ、放電アークを重力誘導対流に反してほぼ直線的に矯正する点灯方式すなわちストレートアーク点灯方式を採用することが許容される。なお、高周波電流を重畳するストレートアーク点灯方式は、例えば特公平07−009835号公報に記載されている内容を採用することができる。また、重畳する高周波は20〜260kHzの範囲内から選択することができる。高周波電流を重畳する際の変調率は100%まで許容される。
【0041】
次に、一対の電極間における色温度差である電極間相関色温度差について説明する。本発明において、電極間相関色温度差T−T(K)は、数式1を満足する値、すなわち3000K以下である。この条件が満足されるならば、反射鏡やレンズなどの光学系を用いる場合であっても、電極間の色温度差が配光特性や全光束値に与える影響が実際上問題になることはなくなることを本発明者は多くの実験の結果見出した。また、好適には2000K以下である。
【0042】
また、相関色温度T(K)、T(K)は、一対の電極の陽極および陰極のいずれの側であるかは限定されないが、色温度の相対的に高い方をTとし、低い方をTとする。また、色温度を測定する発光領域は、電極間距離を8等分して、それぞれの電極の先端から最初の1/8の距離の間とする。このように発光領域を定義すれば、適当な大きさのスリットを用いて上記の発光領域を測光しやすくなる。例えば、自動車前照灯用のメタルハライド放電ランプの場合、電極間距離が4.2mmであるので、0.5mm幅のスリットを用いれば、電極先端からほぼ1/8の距離の領域を測光できる。
【0043】
本発明において、電極間相関色温度差T−Tを低減する手段は特段限定されない。しかし、効果的な手段は次のとおりである。すなわち、第2のハロゲン化物の封入量をB(質量)とし、第1および第2のハロゲン化物の封入量の和をA(質量)としたとき、封入比率B/Aが数式2を満足する。なお、好適には0.2以下である。
【0044】
[数式2]
B/A≦0.3
また、上記手段において、電極間相関色温度差T−Tを上記封入比率B/Aの値に応じて変化させるのが好ましい。すなわち、B/Aが数式3を満足するときに数式4を満足し、B/Aが数式5を満足するときに数式6を満足するようにメタルハライド放電ランプを構成する。前者は、第2のハロゲン化物の封入比率B/Aが0.2以下の範囲のときに電極間相関色温度差T−Tを1400〜2000Kの範囲に規定する。後者は、同様に封入比率B/Aが0.2〜0.3の範囲のときに電極間相関色温度差T−Tを2000〜3000Kの範囲に規定する。
【0045】
[数式3]
0≦B/A≦0.2
[数式4]
−T≦3000(B/A)+1400
[数式5]
0.2≦B/A≦0.3
[数式6]
−T≦10000(B/A)
本発明のメタルハライド放電ランプシステムは、ストレートアーク点灯方式を利用してメタルハライド放電ランプを点灯するシステムである。
【0046】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。
【0047】
<第1の形態>
図1ないし図3は、本発明のメタルハライドランプを実施するための第1の形態としての自動車前照灯用のメタルハライドランプを示している。そして、図1はランプ全体の正面図、図2は平面図、図3は発光管の拡大正面図である。メタルハライドランプMHLは、発光管IT、絶縁チューブT、外管OTおよび口金Bからなる。
【0048】
発光管ITは、気密容器1、一対の電極2A、2B、一対の外部導入線3A、3Bおよび放電媒体を備えている。
【0049】
気密容器1は、石英ガラスからなり、以下の構成を備えている。すなわち、包囲部1aおよび一対の封止部1bを備えている。包囲部1aは、外形が紡錘形状に成形されてなり、その両端に一対の細長い封止部1b、1bを一体に備えているとともに、内部に細長いほぼ円柱状の放電空間1cが形成されている。放電空間1cの内容積は、0.025cc程度である。なお、放電空間1cがほぼ円柱状をなして細長いことにより、放電アークに相対的に接近しやすくなるので、気密容器1の上部の温度上昇が早くなる。
【0050】
また、包囲部1aは、その肉厚が比較的大きくなっている。すなわち、電極間距離のほぼ中央部の肉厚をその両側の肉厚より大きくなっている。このため、気密容器1の伝熱が良好になって気密容器1の放電空間1cの下部および側部内面に付着している放電媒体の温度上昇が早まるために、光束立ち上がりが早くなる。
【0051】
一対の封止部1b、1bは、包囲部1aを封止するとともに、後述する一対の電極2A、2Bの軸部を緩く支持し、かつ、点灯回路から電流を電極へ気密に導入するのに寄与しており、包囲部1aの両端から一体に延在している。そして、一対の電極2A、2Bを封装し、かつ、点灯回路から電流を電極1bへ気密に導入するために、内部に適当な気密封止導通手段として封着金属箔4を気密に埋設している。
【0052】
封着金属箔4は、モリブデン箔からなり、気密容器1の封止部1b内に気密に埋設されている。なお、封着金属箔4は、気密容器1の封止部1bの内部に埋設されて当該封止部1bが気密容器1の包囲部1aの内部を気密に維持するのに協働しながら電流導通導体として機能している。封着金属箔4を封止部1bに埋設する方法は、特段限定されないが、例えば減圧封止法、ピンチシール法などを採用することができる。キセノン(Xe)などの希ガスを室温で5気圧以上封入する場合は、両者を組み合わせて適用することができる。
【0053】
電極2Aは、陽極として機能し、電極軸部2aおよび電極主部2bを備えている。電極軸部2aは、直径0.35mmのドープドタングステンからなる。電極主部2bは、図3に拡大して示すように、電極軸部2aの先端に一体に形成され、直径0.6mmの球状をなしている。
【0054】
電極2Bは、陰極として機能し、電極2Aと同様に電極軸部2aおよび電極主部2bを備えている。電極軸部2aおよび電極主部2bは、直径0.35mmの1本のトリエーテッドタングステン棒からなり、先端部が電極主部となり、その他の部分が電極軸部となる。上記トリエーテッドタングステンは、1質量%の酸化トリウムを含有している。
【0055】
そうして、一対の電極2A、2Bは、そのいずれも電極軸部2aの基端部が封着金属箔4にそれぞれ溶接され、中間部が封止部1bに緩く支持され、先端部および電極主部2bが気密容器1の包囲部1aの放電空間1c内に露出している。そして、気密容器1の包囲部1a内において、軸方向の両端内部に離間対向して封装され、電極間距離が所定値になるように設定されている。
【0056】
なお、図1において、左方の封止部1bを形成した後、封止管1dの一部を切断しないで封止部1bの端部から管軸方向に一体に延長していて、口金B内へ延在させている。
【0057】
一対の外部導入線3A、3Bは、一対の電極2A、2Bに給電するために配設されている。そして、一対の外部導入線3A、3Bの先端は気密容器1の両端の封止部1b内において封着金属箔4の他端に溶接され、基端側が外部へ導出されている。図1において、気密容器1から右方へ導出された外部導入線3Bは、中間部が後述する外管OTに沿って折り返されて後述する口金B内に導入されて図示しない口金端子の一方t1に接続している。また、図1において、気密電容器1から左方へ導出された外部導入線3Aは、管軸に沿って延在して口金B内に導入されて口金端子の他方(図示しない。)に接続している。
【0058】
放電媒体は、気密容器1の内部に形成された放電空間1c内に封入されており、主として発光に寄与する金属のハロゲン化物からなる第1のハロゲン化物および主としてランプ電圧形成に寄与する金属のハロゲン化物からなる第2のハロゲン化物、ならびに希ガスを含んでいる。
【0059】
外管OTは、紫外線カット性能を備えており、内部に発光管ITを収納していて、その両端の縮径部5が気密容器1の封止部1bにガラス溶着している。しかし、内部は気密ではなく、外気に連通している。
【0060】
絶縁チューブTは、外部導入線3Bの折り返し部分を被覆している。
【0061】
口金Bは、自動車前照灯用として規格化されているもので、発光管ITおよび外管OTを中心軸に沿って植立して支持していて、自動車前照灯の背面に着脱可能に装着されるように構成されている。
【0062】
次に、第1の形態における実施例について比較例を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0063】
発光管IT
気密容器1 :石英ガラス製、球体長7mm、最大外径6mm、
放電空間が最大内径2.6mmのほぼ円柱状をなしている。
【0064】
電極2A、2B :電極間距離4.2mm
放電媒体
第1のハロゲン化物:ScI0.10mg+NaI0.25mg
第2のハロゲン化物:ZnI0.12mg(封入比率約0.26)
希ガス :Xe10.5気圧
外管OT :内部雰囲気は大気圧(大気)
安定時ランプ電力 :35W
点灯方向 :水平点灯
点灯方式 :直流点灯方式
電極間相関色温度差 :2500K
【実施例2】
【0065】
放電媒体
第1のハロゲン化物:ScI0.08mg+NaI0.20mg
第2のハロゲン化物:ZnI0.12mg(封入比率0.3)
その他は実施例1と同じ。
【0066】
電極間相関色温度差 :3000K

[比較例1]
放電媒体
第1のハロゲン化物:ScI0.06mg+NaI0.16mg
第2のハロゲン化物:ZnI0.12mg(封入比率約0.35)
その他は実施例1と同じ。
【0067】
電極間相関色温度差 :3700K

上記の実施例1、実施例2および比較例1における相関色温度T(K)、T(K)および電極間相関色温度差T−T(K)は表1のとおりであった。
【0068】
[表1]
資 料 相関色温度 相関色温度 電極間相関色温度差
(K) T(K) T−T(K)
実施例1 6600 4100 2500
実施例2 7000 4000 3000
比較例1 8700 5000 3700

表1から理解できるように、実施例1および実施例2によれば、電極間相関色温度差T−T(K)が3000K以下になることが分かる。
【0069】
また、上記の実施例1、実施例2および比較例1のメタルハライド放電ランプをそれぞれ20灯製作して、自動車前照灯用の灯具内に装着し、灯具から10m離間した測定点(9点)の色度を測定し、測定点全てが自動車前照灯白色色度規格を満足する灯数を評価した結果は表2のとおりであった。
【0070】
[表2]
実施例1 20/20
実施例2 18/20
比較例1 1/20

表2から理解できるように、電極間相関色温度差が3000K以下であれば、自動車前照灯の白色色度規格をほぼ満足するので、実用可能となる。また、第2のハロゲン化物の封入比率を30質量%以下にすれば、電極間相関色温度差を3000K以下にすることができる。
【0071】
図4は、本発明のメタルハライドランプを実施するための第1の形態において、ZnIからなる第2のハロゲン化物の封入比率を種々変えた場合の電極間相関色温度差の変化を示すグラフである。図において、横軸は第2のハロゲン化物の封入比率(質量%)を、縦軸は電極間相関色温度差(K)を、それぞれ示す。
【0072】
図から理解できるように、第2のハロゲン化物の封入比率を30質量%以下とすることによって電極間相関色温度差を3000K以下にすることができる。また、同じく20質量%以下とすることによって、より一層好適な電極間相関色温度差である2000K以下にすることができる。
【0073】
次に、第1の形態において、第2のハロゲン化物の金属をマンガン(Mn)に変えた場合を実施例3および実施例4について、比較例2を参照しながら示す。
【実施例3】
【0074】
第2のハロゲン化物:MnI0.12mg(封入比率約0.26)
その他は実施例1と同じ。
【実施例4】
【0075】
第2のハロゲン化物:MnI0.12mg(封入比率0.30)
その他は実施例2と同じ。

[比較例2]
第2のハロゲン化物:MnI0.12mg(封入比率約0.35)
その他は比較例1と同じ。

上記の実施例3、実施例4および比較例2における相関色温度T(K)、T(K)および電極間相関色温度差T−T(K)は表3のとおりであった。
【0076】
[表3]
資 料 相関色温度 相関色温度 電極間相関色温度差
(K) T(K) T−T(K)
実施例3 6800 4300 2500
実施例4 7300 4300 3000
比較例2 9000 5300 3700

表3から理解できるように、実施例3および実施例4もまた電極間相関色温度差T−T(K)が実施例1および実施例2と同様の結果であった。
【0077】
また、MnIからなる第2のハロゲン化物の封入比率を種々変えた場合についてもメタルハライド放電ランプを試作して測定した結果、電極間相関色温度差の変化は図4と同様であった。
【0078】
次に、実施例1と同じ仕様において、気密容器1の包囲部1aの最大内径を種々変えたメタルハライド放電ランプを試作し、点灯して相対全光束値を求めた結果を表4に示す。なお、相対全光束値は、試作したメタルハライド放電ランプを点灯して全光束を測定した結果のデータ中の最高値を100%とした。
【0079】
[表4]
最大内径(mm) 相対全光束値(%)
2.0 95
2.2 98
2.4 100
2.6 99
2.8 98
3.0 94

表4から理解できるように、自動車前照灯用のメタルハライド放電ランプにおいては、気密容器の包囲部の最大内径を2.2〜2.8mmの範囲内に設定することにより、相対全光束値が96%以上となった。相対全光束値が96%以上の場合、自動車前照灯に組み込んだときに照度低下が発生しなかった。
【0080】
なお、表4に示すように気密容器の包囲部の内径に応じて相対全光束値が異なるのは、次の理由による。すなわち、気密容器の内径が小さくなると、気密容器の温度が高くなって放電媒体の蒸気圧が上昇する。この場合、特に相対的に蒸気圧の高いZnハロゲン化物がその影響を強く受ける。Znハロゲン化物の蒸気圧が高くなることにより、Zn自体の発光が増加する。直流点灯の場合には、ScやNaが少なくなった陽極側でZnが発光を開始し、その結果電極間相関色温度差が大きくなる。また、第2のハロゲン化物が発光することで主発光金属の発光に寄与するエネルギーが低減するため、全光束が低下する。以上の理由で相対全光束値が悪化する。
【0081】
反対に、気密容器の内径が大きくなると、主発光金属であるScやNaは陰極に引かれやすくなる。また、電気泳動速度が金属の種類により異なるので、陰極側と陽極側とで発光が異なってくる。さらに、気密容器の内径が大きいため、金属蒸気の濃度拡散は発生するものの、電気泳動と比べるとその影響は小さくなる。そのため、電極間での発光色の変化量は大きくなる。そのため、両電極間相関色温度差が大きくなる。その結果、メタルハライド放電ランプ全体で見れば、全光束が低下する。また、両電極間相関色温度差が大きくなることで、第2のハロゲン化物の金属による発光も増加するので、この点においても全体として全光束が低下する。これらを要すれば、気密容器の内径が大きくなると、相対全光束値が悪化する。
【0082】
次に、第1の形態における実施例1と同じ仕様において、各種電子放射性物質(いずれも1質量%添加)を添加したタングステンを用いて形成されている陰極を備えたメタルハライド放電ランプを試作して、点滅試験1000時間経過後の全光束維持率を評価した結果を表5に示す。ここで、点滅試験方式はEUモードとした。また、全光束維持率とは、(1000時間経過後の全光束)/(点灯初期の全光束)を%で表わした数値である。なお、No.1は実施例1と同じ仕様である。No.6は実施例1の陽極と同じ電極材料である。
【0083】
[表5]
No. 陰極材料 全光束維持率(%)
1 ThO 87
2 CeO 85
3 La 86
4 Y 84
5 ZrO 85
6 ドープドW 60

表5から理解できるように、電子放射性物質を少量添加したタングステンを用いて陰極を形成することにより、高温になることなしに陰極の電子放射性が向上するので、点灯中のタングステンの飛散が抑制されて良好な全光束維持率を得ることができる。これに対して、例えばNo.6のドープドタングステンからなる陰極などの電子放射性の悪い陰極材料を用いると、電子を放出するために電極が高温にならざるを得なくなる。そのために、タングステンが飛散し、飛散したタングステンが気密容器の内面に付着して遮光されてしまい、その結果全光束維持率が大きく低下する。
【0084】
<第2の形態>
図5は、本発明のメタルハライドランプを実施するための第2の形態としての液晶プロジェクタ用のメタルハライドランプを示す発光管の拡大正面図である。図において、図1ないし図3と同一部分については同一符号を付して説明を省略する。図中、符号6はリード部材、7は近接導体である。
【0085】
気密容器1は、石英ガラス製で、包囲部1aがほぼ球に近い楕円球状をなしている。
【0086】
陽極として作用する電極2Aは、ドープドタングステンからなり、電極軸部2a、電極主部2bおよびくわえ込みコイル部2cを備えている。電極軸部2aは、直径0.7mmの棒である。そして、基端が後述する封着金属箔4に溶接され、中間部が封止部1bに緩く支持され、かつ、先端部が気密容器1の包囲部1aの内部に露出している。電極主部2bは、直径1.4mm、長さ3.5mmで、電極軸部2aの先端に一体に形成されている。くわえ込みコイル部1cは、ドープドタングステン細線を電極軸部2aの中間部の少なくとも封止部1bの石英ガラスによるくわえ込み部分に対向する部位に適当なピッチで巻装されている。
【0087】
陰極として作用する電極2Bは、電極軸部2a、電極主部2bおよびくわえ込みコイル部2cを備えている。電極軸部2aは、直径0.7mmの酸化トリウムを1.0質量%含有する1本のタングステン棒からなる。そして、基端が後述する封着金属箔4に溶接され、中間部が封止部1bに緩く支持され、かつ、先端部が気密容器1の包囲部1aの内部に突出している。電極主部2bは、電極軸部2aの先端部自体により形成されている。くわえ込みコイル部1cは、ドープドタングステン細線を電極軸部2aの中間部の少なくとも封止部1bの石英ガラスによるくわえ込み部分に対向する部位に適当なピッチで巻装されている。
【0088】
放電媒体は、第1および第2のハロゲン化物と希ガスとからなり、包囲部1aの内部に封入されている。
【0089】
口金Bは、図示されていない導入導体3Aに接続するとともに、封止部1bに無機質接着剤により固着されていて、発光管ITを図示しない周知の反射鏡に取り付ける際に利用され、また図示しない点灯回路の一極に接続する。
【0090】
リード部材6は、図において右側の導入導体3Bに先端部が接続するとともに、基端部が点灯回路の他極に接続する。
【0091】
近接導体7は、先端部が図において左側の電極2Aに接近した位置に延在し、基端部が図において右側の導入導体3Bに接続している。
【実施例5】
【0092】
発光管IT
気密容器1 :石英ガラス製、最大内径10mm
電極2A、2B :電極間距離2.0mm
放電媒体
第1のハロゲン化物:DyI0.5mg+NdI0.5mg
第2のハロゲン化物:ZnI0.33mg(封入比率約0.25)
希ガス :Ar1.0気圧
安定時ランプ電力 :150W
点灯方向 :水平点灯
点灯方式 :直流点灯方式
【実施例6】
【0093】
放電媒体
第1のハロゲン化物:DyI0.5mg+NdI0.5mg
第2のハロゲン化物:ZnI0.43mg(封入比率約0.30)
その他は実施例5と同じ。

[比較例3]
放電媒体
第1のハロゲン化物:DyI0.5mg+NdI0.5mg
第2のハロゲン化物:ZnI0.54mg(封入比率約0.35)
その他は実施例5と同じ。

上記の実施例5、実施例6および比較例3における相関色温度T(K)、T(K)および電極間相関色温度差T−T(K)は表6のとおりであった。
【0094】
[表6]
資 料 相関色温度 相関色温度 電極間相関色温度差
(K) T(K) T−T(K)
実施例5 7000 4500 2500
実施例6 8000 5000 3000
比較例3 9500 5800 3700

表6から理解できるように、実施例5および実施例6によれば、第2のハロゲン化物の封入比率が小さく制御されているため、電極間相関色温度差T−T(K)が3000K以下になることが分かる。
【0095】
次に、第2の形態において、第2のハロゲン化物の金属をマンガン(Mn)に変えた場合を実施例7および実施例8について、比較例4を参照しながら示す。
【実施例7】
【0096】
第2のハロゲン化物:MnI0.33mg(封入比率約0.25)
その他は実施例1と同じ。
【実施例8】
【0097】
第2のハロゲン化物:MnI0.43mg(封入比率約0.30)
その他は実施例2と同じ。

[比較例4]
第2のハロゲン化物:MnI0.54mg(封入比率約0.35)
その他は比較例1と同じ。

上記の実施例7、実施例8および比較例4における相関色温度T(K)、T(K)および電極間相関色温度差T−T(K)は表7のとおりであった。
【0098】
[表7]
資 料 相関色温度 相関色温度 電極間相関色温度差
(K) T(K) T−T(K)
実施例7 7100 4600 2500
実施例8 8200 5200 3000
比較例4 9600 5900 3700

表7から理解できるように、実施例7および実施例8もまた実施例5および実施例6と同様の結果であった。
【0099】
また、MnIからなる第2のハロゲン化物の封入比率を種々変えた場合についてもメタルハライド放電ランプを試作して測定した結果、電極間相関色温度差の変化は図4と同様であった。
【0100】
<第3の形態>
図6は、本発明のメタルハライド放電ランプシステムを実施するための一形態を示す回路ブロック図である。図において、メタルハライド放電ランプシステムは、メタルハライド放電ランプMHL、点灯回路OCおよび始動回路STを具備している。点灯回路OCは、基本波形発生回路BWGおよび高周波成分重畳回路HFGを備えている。
【0101】
メタルハライド放電ランプMHLは、図1ないし図3に示す第1の形態または図5に示す第2の形態のランプからなる。
【0102】
点灯回路OCは、メタルハライド放電ランプMHLを付勢して点灯を維持する回路であり、メタルハライド放電ランプMHLに直列接続した適当な限流インピーダンスを含んでいる。メタルハライド放電ランプMHLの付勢は、基本波形が交流または直流に高周波を重畳した態様の電圧、電流または電力を当該ランプに供給することにより行われる。
【0103】
上記高周波としては、ランプ中の放電媒体の放電アークが音響的共鳴現象を利用して電極間を結ぶ直線方向に矯正されるような周波数が選択される。すなわち、上記周波数の電圧、電流または電力がランプに供給されることにより、電極間を結ぶ直線と直交する方向に音響的共鳴現象が発生し、その結果放電アークがほぼ直線状に矯正されるような周波数である。このような周波数は、メタルハライド放電ランプの放電空間に存在する放電媒体の音速と、電極間を結ぶ直線と直交する方向の放電空間の長さとで決定される音響的共鳴周波数に等しい。また、高周波の周波数は、上記音響的共鳴周波数を含む所定の範囲内で変化する態様であってもよい。
【0104】
また、高周波の電圧、電流または電力の波形は、瞬時値が時間的に変化する波形であり、例えば正弦波、三角波、鋸歯状波、階段状波、指数関数波およびこれら二種以上の複合波などから選択することができる。なお、ランプに供給される電流の基本波形部分は、主として放電アークを生じるエネルギーを供給する。また、基本波は、矩形波や正弦波など適当な波形であることを許容する。
【0105】
点灯回路OCは、その一形態として、直流電源DC、基本波形発生回路BWGおよび高周波成分重畳回路HFGを備えている。
【0106】
直流電源DCは、基本波形発生回路BWGおよび高周波成分重畳回路HFGに対して直流の電源として機能する。低周波交流を整流して直流を得る整流化直流電源や電池電源によって直流電源DCを構成することができる。
【0107】
基本波形発生回路BWGは、前記基本波として交流または直流の電圧、電流または電力を発生する。交流の場合、インバータを用いてこれを発生させることができる。所望により、インバータの前段に直流−直流変換回路、例えば直流チョッパを介在させることができる。これにより、交流の電圧、電流または電力を制御しやすくなる。また、直流の場合、直流−直流変換回路、例えば直流チョッパを用いてこれを発生させることができる。
【0108】
高周波成分重畳回路HFGは、基本波に重畳される前記高周波を発生する。例えば、インバータを用いてこれを構成することができる。
【0109】
また、点灯回路OCは、前記のようにメタルハライド放電ランプMHLに直列接続する限流インピーダンスを含んでいるが、限流インピーダンスとしては、例えばインダクタを用いて適当な値のインダクタンスを用いるのが好ましい。
【0110】
さらに、点灯回路OCは、メタルハライド放電ランプMHLの始動直後に定格ランプ電流以上のランプ電流を供給し、その後時間の経過とともに順次ランプ電流を低減していき、やがて定格電流に落ち着かせるランプ電流傾斜制御特性を備えているように構成することができる。このような構成は、例えば車両用前照灯に用いるメタルハライド放電ランプを点灯する場合に好適である。
【0111】
さらにまた、点灯回路OCは、メタルハライド放電ランプMHLのランプ特性を検出して、基本波成分に重畳する高周波成分の周波数を音響的共鳴周波数に一致させる帰還制御回路手段を具備していることが許容される。
【0112】
始動回路STは、メタルハライド放電ランプMHLの始動時に高電圧パルスなどを発生してこれを上記ランプに印加することでその始動を容易にする。そのために、始動回路STは、メタルハライド放電ランプMHLと限流インピーダンスとの間に介在するように配設されるのが好ましい。
【0113】
そうして、本形態のメタルハライド放電ランプシステムは、そのメタルハライド放電ランプ中の放電媒体が水銀を本質的に含まないので、放電アークが水銀を含むメタルハライド放電ランプより強く湾曲しやすいにもかかわらず、以上説明したように構成されているため、音響的共鳴による定在波が電極間を結ぶ仮想直線と直交する方向に形成されて放電アークが上記直線方向に沿ったほぼ直線状に矯正される。
【0114】
放電アークがほぼ直線状に矯正される理由は、以下のように推察される。すなわち、メタルハライド放電ランプMHLに供給される電圧、電流または電力の周期的な変動によって放電アークにガス圧力の周期的な変動を生じる。このガス圧力の周期的な変動が粗密波(進行波)となって管軸の全周方向から気密容器1の内壁面に向かって進行し、内壁面で反射されて反射波となる。そのため、放電アークの近傍では、進行波と反射波とが衝突して、両波の変位に差があると、両波の変位が小さくなる位置に放電アークが移動してほぼ直線状に矯正されるものと推察される。
【0115】
高周波である音響的共鳴周波数の電圧、電流または電力をメタルハライド放電ランプMHLに供給すると、電極間を結ぶ仮想直線に直交する方向の放電空間の断面において、放電アークが包囲部の内壁面に対して等距離の位置(例えば上記断面が円形である場合には円の中心)では、放電アークを含むその近傍で進行波と反射波の変位を常に同レベルに制御でき、その結果放電アークが移動することなく安定に点灯できる。このとき、上記断面では2つの疎密波(進行波と反射波)が干渉して定在波が発生している。
【0116】
また、放電アークと交差する方向の放電空間の長さを電極間を結ぶ仮想直線と直交する断面の長さとすると、包囲部の内表面に対して等距離である上記断面の中心で放電アークが移動することなく安定になるため、放電アークの形状が直線状になる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明のメタルハライドランプを実施するための第1の形態としての自動車前照灯用のメタルハライドランプを示すランプ全体の正面図
【図2】同じく平面図
【図3】同じく発光管の拡大正面図
【図4】本発明のメタルハライドランプを実施するための第1の形態において、ZnIからなる第2のハロゲン化物の封入比率を種々変えた場合の電極間相関色温度差の変化を示すグラフ同じく比S/Rと発光効率の関係を示すグラフ
【図5】本発明のメタルハライドランプを実施するための第2の形態としての液晶プロジェクタ用のメタルハライドランプを示す発光管の拡大正面図
【図6】本発明のメタルハライド放電ランプシステムを実施するための一形態を示す回路ブロック図
【符号の説明】
【0118】
1…気密容器、1a…包囲部、1b…封止部、1d…封止管、1c…放電空間、2A、2B…電極、3A、3B…外部導入導線、4…封着金属箔、B…口金、IT…発光管、MHL…メタルハライド放電ランプ、OT…外管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性で透光性の気密容器と;
気密容器内に封装された一対の電極と;
ハロゲン化物および希ガスを含んで気密容器内に封入され、かつ、本質的に水銀が封入されていない放電媒体と;
を具備し、気密容器内に流れる電流の向きが時間とともに変化しない単一方向で点灯した際に、一方の電極の先端から電極間距離の1/8間での範囲における相関色温度をT(K)とし他方の電極の先端から電極間距離の1/8間での範囲における相関色温度をT(K)(ただし、T>Tとする。)としたとき電極間相関色温度差T−Tが数式1を満足することを特徴とするメタルハライド放電ランプ。
[数式1]
−T≦3000
【請求項2】
前記ハロゲン化物は、第1および第2のハロゲン化物を含み、第1のハロゲン化物が主として発光を行う金属のハロゲン化物であり、第2のハロゲン化物が相対的に蒸気圧が大きくて、第1のハロゲン化物の金属に比較して可視域における発光が相対的に少ない金属のハロゲン化物で、かつ、第2のハロゲン化物の封入量をB(質量)とし、第1および第2のハロゲン化物の封入量の和をA(質量)としたとき、封入比率B/Aが数式2を満足することを特徴とする請求項1記載のメタルハライド放電ランプ。
[数式2]
B/A≦0.3
【請求項3】
B/Aが数式3を満足するときに数式4を満足し、B/Aが数式5を満足するときに数式6を満足することを特徴とする請求項2記載のメタルハライド放電ランプ。
[数式3]
0≦B/A≦0.2
[数式4]
−T≦3000(B/A)+1400
[数式5]
0.2≦B/A≦0.3
[数式6]
−T≦10000(B/A)
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一記載のメタルハライド放電ランプと;
メタルハライド放電ランプの電極間を結ぶ直線と直交する方向に音響共鳴現象が発生する周波数成分を有する電流をメタルハライド放電ランプに供給して点灯する点灯回路と;
を具備していることを特徴とするメタルハライド放電ランプシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−318731(P2006−318731A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139459(P2005−139459)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】