説明

メタル製シリンダヘッドガスケット

【課題】中央ガスケット基板の板厚を薄くせずに、シリンダブロック及びシリンダヘッドの隙間腐食や上側及び下側ガスケット基板からのゴムの剥がれによるシール性の低下を確実に防止できるメタル製シリンダヘッドガスケットを提供する。
【解決手段】上側及び下側ガスケット基板11,12の燃焼室孔15側に、それぞれ上下方向に対向する位置で頂部11a1,12a1同士を向き合わせるように膨出するフルビード部11a,12aを設けるとともに、上側及び下側ガスケット基板のフルビード部よりも燃焼室孔側に位置する中間ガスケット基板13の燃焼室15孔の周縁部に、その燃焼室孔の半径方向外向きに折り返した折り返し部13aを設ける。中央ガスケット基板の折り返し部の折り返し端13bと、シリンダブロック及びシリンダヘッドの対向面に開口するウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aとの間に、折り返し部の折り返し端の周囲を囲むように形成されたシム14を装着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介設されてそのシリンダブロックとシリンダヘッドとの互いの対向面同士の間をシールするメタル製シリンダヘッドガスケットに関し、詳しくは、シリンダブロックおよびシリンダヘッドの少なくとも一方の対向面に開口するウォータジャケットから燃焼室孔までの間での水シール性を確保する対策に係る。
【背景技術】
【0002】
一般に、メタル製シリンダヘッドガスケットは、少なくとも3層以上のガスケット基板を上下に積層して一体に形成され、その積層体の所要箇所に、シリンダボアの位置にあわせて穿設された複数の燃焼室孔が設けられている。
【0003】
そして、図6に示すように、従来より、燃焼室孔f付近でのシール性を確保する上で、上下両側に位置する上側および下側ガスケット基板b,cの燃焼室孔fの周縁部に、それぞれ上下方向に対向する位置で頂部b1a,c1a同士を向き合わせるように膨出するフルビード部b1,c1を設けているとともに、上記上側および下側ガスケット基板b,cの間に介在されかつ上記フルビード部b1,c1よりも燃焼室孔f側に位置する中央ガスケット基板dの燃焼室孔fの周縁部に、その燃焼室孔fの半径方向外向きに折り返した折り返し部d1を設けているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−210889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来のものでは、メタル製シリンダヘッドガスケットa(中央ガスケット基板d)の折り返し部d1は、シリンダブロックe1とシリンダヘッドe0との互いの対向面同士の間において高い面圧を加える上で有利であるものの、上側および下側ガスケット基板b,cのフルビード部b1,c1の過圧縮を防止するストッパ的な役目をなすため、シリンダブロックe1およびシリンダヘッドe0の組付時に上側および下側ガスケット基板b,cのフルビード部b1,c1が完全に圧縮されないことがある。これでは、シリンダブロックe1とシリンダヘッドe0との互いの対向面のうちの少なくとも一方(図4ではシリンダブロックe1およびシリンダヘッドe0の双方の対向面)に開口するウォータジャケットg1,g2の周縁と、上側および下側ガスケット基板b,cのフルビード部b1,c1との間に隙間が発生するおそれがあるため、上記ウォータジャケットg1,g2の周縁から燃焼室孔f側に冷却水が浸入してフルビード部b1,c1近傍まで達してしまい、このフルビード部b1,c1近傍まで達した冷却水によってシリンダブロックe1およびシリンダヘッドe0に隙間腐食が発生する。また、フルビード部b1,c1近傍まで冷却水が達すると、この冷却水がシリンダブロックe1およびシリンダヘッドe0からの熱を受けて沸騰し、上側および下側ガスケット基板b,cの上下両面にコーティングされているゴムを剥がしてシール性を低下させる要因となり得る。
【0005】
そこで、中央ガスケット基板の板厚を薄くし、折り返し部によるフルビード部の過圧縮防止のストッパ的な役目を抑制して、フルビード部を完全に圧縮させるようにすることが考えられるが、中央ガスケット基板の板厚を薄くすれば、折り返し部に亀裂が入ったり、折り返し部を形成した際に中央ガスケット基板の反りが大きくなって製品として扱えない状態となるおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、中央ガスケット基板の板厚を薄くせずに、シリンダブロックおよびシリンダヘッドの隙間腐食や上側および下側ガスケット基板からのゴムの剥がれによるシール性の低下を確実に防止することができるメタル製シリンダヘッドガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明では、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介設され、上記シリンダブロックとシリンダヘッドとの互いの対向面同士の間をシールするメタル製シリンダヘッドガスケットを前提とし、上記シリンダヘッド側に位置する上側ガスケット基板と、上記シリンダブロック側に位置する下側ガスケット基板と、これら両ガスケット基板の間に介在させた中間ガスケット基板とを備えるとともに、上記各ガスケット基板を上下方向に積層して一体に形成し、その積層体の所要箇所に、上記シリンダブロックの対向面に開口するシリンダボアの位置にあわせて穿設された複数の燃焼室孔を備える。更に、上記上側および下側ガスケット基板の燃焼室孔側に、それぞれ上下方向に対向する位置で頂部同士を向き合わせるように膨出するフルビード部を設けるとともに、上記上側および下側ガスケット基板のフルビード部よりも燃焼室孔側に位置する中間ガスケット基板の燃焼室孔の周縁部に、その燃焼室孔の半径方向外向きに折り返した折り返し部を設ける。そして、上記中央ガスケット基板の折り返し部の折り返し端と、上記シリンダブロックおよびシリンダヘッドの少なくとも一方の対向面に開口するウォータジャケットの開口端との間に、シムを装着している。
【0008】
この特定事項により、シリンダブロックおよびシリンダヘッドの組付時、上側および下側ガスケット基板のフルビード部の過圧縮を防止するストッパ的な役目をなす中央ガスケット基板の折り返し部によって上側および下側ガスケット基板のフルビード部が完全に圧縮されていなくても、中央ガスケット基板の折り返し部の折り返し端とシリンダブロックおよびシリンダヘッドの少なくとも一方の対向面に開口するウォータジャケットの開口端との間に装着されたシムによって、上記ウォータジャケットの開口端と上側および下側ガスケット基板のフルビード部との間でのシリンダブロックおよびシリンダヘッドの互いの対向面同士の面圧が確保されて隙間の発生が防止される。これにより、上記ウォータジャケットの周縁からフルビード部近傍に冷却水が浸入することがなくなり、冷却水によるシリンダブロックおよびシリンダヘッドの隙間腐食を確実に防止することが可能となる上、フルビード部近傍での冷却水の沸騰による上側および下側ガスケット基板からのゴムの剥がれをなくしてシール性の低下を確実に防止することが可能となる。
【0009】
しかも、中央ガスケット基板の板厚を薄くしていないので、折り返し部に亀裂が入ることがない上、折り返し部を形成した際に中央ガスケット基板の反りが大きくなることもなく、製品として円滑に扱える状態に保たれることになる。
【0010】
また、上記シムを、上記フルビード部の反燃焼室孔側端と、上記ウォータジャケットの開口端との間に亘って装着している場合には、シリンダブロックおよびシリンダヘッドの組付時、上側および下側ガスケット基板のフルビード部の過圧縮を防止するストッパ的な役目をなす中央ガスケット基板の折り返し部によって上側および下側ガスケット基板のフルビード部が完全に圧縮されていなくても、フルビード部の反燃焼室孔側端とウォータジャケットの開口端との間に亘って装着されたシムによって、フルビード部の反燃焼室孔側端とウォータジャケットの開口端との間でのシリンダブロックおよびシリンダヘッドの互いの対向面同士の面圧が確保されて隙間の発生が防止される。これにより、上記ウォータジャケットの周縁からフルビード部近傍に冷却水が浸入することがなくなり、冷却水によるシリンダブロックおよびシリンダヘッドの隙間腐食や、フルビード部近傍での冷却水の沸騰による上側および下側ガスケット基板からのゴムの剥がれをなくしてシール性の低下を確実に防止することが可能となる。
【0011】
更に、上記シムを、上記折り返し部により折り返された上記中間ガスケット基板の折り返し側面と、この中間ガスケット基板の折り返し側面と対面する上記上側または下側ガスケット基板の中間ガスケット基板側面との間に介在させている場合には、中間ガスケット基板の反折り返し側面と、この中間ガスケット基板の反折り返し側面と対面する上記上側または下側ガスケット基板の中間ガスケット基板側面との間に介在させた際に発生する中間ガスケット基板のシムの板厚による折り返し側面側への変形が防止され、フルビード部の反燃焼室孔側端とウォータジャケットの開口端との間でのシムによるシリンダブロックおよびシリンダヘッドの互いの対向面同士の面圧を効果的に確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
以上、要するに、中央ガスケット基板の折り返し部の折り返し端とシリンダブロックおよびシリンダヘッドの少なくとも一方の対向面に開口するウォータジャケットの開口端との間にシムを装着することで、ウォータジャケットの開口端と上側および下側ガスケット基板のフルビード部との間でのシリンダブロックおよびシリンダヘッドの互いの対向面同士の面圧を確保して隙間の発生をなくし、ウォータジャケットの周縁からフルビード部近傍への冷却水の浸入を防止して、シリンダブロックおよびシリンダヘッドの隙間腐食や上側および下側ガスケット基板からのゴムの剥がれによるシール性の低下を確実に防止することができる。しかも、中央ガスケット基板の板厚を薄くする必要がなく、折り返し部の亀裂や、折り返し部を形成した際の中央ガスケット基板の反りをなくして、製品として円滑に扱える状態に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るガスケット構造が適用される内燃機関としてのV型6気筒エンジンの一方のバンク用のシリンダヘッドガスケットについて図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1および図2は、V型6気筒エンジンの一方のバンク用のシリンダヘッドガスケット(メタル製シリンダヘッドガスケット)を示し、図2に示すように、このシリンダヘッドガスケット1が適用されたエンジンEの一方のバンクのシリンダブロックE1には、ピストンの数に合わせた3つの貫通孔E2(図2では1箇所のみ示す)が穿設されており、これら各貫通孔E2に円筒形のシリンダライナーE3がそれぞれ圧入されている。つまり、本実施例のシリンダヘッドガスケット1が適用されるエンジンEは、シリンダライナーE3の内部によってシリンダボアE4を構成したものが前提となっている。なお、エンジンEの他方のバンクも同一構成となるので、一方のバンクについてのみ説明する。
【0015】
上記シリンダブロックE1は、オープンデッキ型に構成されている。つまり、シリンダブロックE1には、各シリンダボアE4の略全周囲を囲むようにウォータジャケット21が形成され、このウォータジャケット21は、シリンダブロックE1の頂面(シリンダヘッドE0側面)に開口している。また、上記シリンダヘッドE0には、各燃焼室の略全周囲を囲むようにウォータジャケット22が形成され、このウォータジャケット22は、シリンダヘッドE0の下面(シリンダブロックE1側面)に開口している。この場合、シリンダブロックE1のウォータジャケット21とシリンダヘッドE0のウォータジャケット22とは、上下方向に対向する位置で互いの開口同士が向き合うように対応している。
【0016】
そして、上記シリンダヘッドガスケット1は、シリンダブロックE1とシリンダヘッドE0との間に介在され、従来周知のように、下方側のシリンダブロックE1と上方側のシリンダヘッドE0とを締結ボルトによって一体に連結することにより、シリンダブロックE1とシリンダヘッドE0との互いの対向面同士の間に挟持されて両者のウォータジャケット21,22の開口をシールするようにしている。上記シリンダヘッドガスケット1は、シリンダヘッドE0側(図2では上面側)に位置する上側ガスケット基板11と、シリンダブロックE1側(図2では下面側)に位置する下側ガスケット基板12と、これら両ガスケット基板11,12の間に介在させた中間ガスケット基板13とを備えている。そして、上記各ガスケット基板11〜13は、後述するシム14と共に、従来公知の連結手段(例えばランスロック等)によって相互に一体に連結されて積層体(シリンダヘッドガスケット1)を構成している。また、図1に示すように、シリンダヘッドガスケット1の所要箇所には、上記シリンダボアE4の位置にあわせて穿設された3つの燃焼室孔15,15,15が設けられている。更に、上側および下側ガスケット基板11,12の上面および下面には、それぞれ25μm程度の厚さのゴムがコーティングされていて、上側および下側ガスケット基板11,12の上下両面においてゴムによるシール性が発揮されるようになっている。
【0017】
上記上側および下側ガスケット基板11,12は、全域が同一厚さ(例えば、0.2〜0.25mm)となる比較的硬質でばね性を有するSUS材(例えばSUS301)によって構成されている。そして、図2に示すように、上記シリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0のウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22a(開口端)よりも燃焼室孔15側(図2では左側)に位置する上側および下側ガスケット基板11,12の燃焼室孔15近傍位置には、それぞれ上下方向に対向する位置で頂部11a1,12a1同士を向き合わせるように膨出するフルビード部11a,12aが設けられている。つまり、上側ガスケット基板11の燃焼室孔15近傍位置にはシリンダブロックE1側(図2では下方側)へ向けて膨出する断面略台形状のフルビード部11aが形成されている一方、下側ガスケット基板12の燃焼室孔15近傍位置にはシリンダヘッドE0側(図2では上方側)へ向けて膨出する断面略台形状のフルビード部12aが形成されていて、互いの頂部11a1,12a1同士が中間ガスケット基板13を挟んで向き合っている。
【0018】
そして、上側および下側ガスケット基板11,12のフルビード部11a,12aは、互いの幅(図2では左右方向の寸法)と膨出量がともに同一に設定され、それぞれ上下方向で互いに対向する燃焼室孔15近傍位置に設けられている。つまり、上側および下側ガスケット基板11,12のフルビード部11a,12aは、燃焼室孔15の周縁部から上側ガスケット基板11のフルビード部11aの頂部11a1までの寸法と、燃焼室孔15の周縁部から下側ガスケット基板12のフルビード部12aの頂部12a1までの寸法とが同じ寸法に設定されている。この各フルビード部11a,12aは、シリンダライナーE3の上方位置から反燃焼室側15側に外れたシリンダブロックE1の上面の上方側に位置している。この場合、各フルビード部11a,12aの幅は、2.60mmに設定されてあり、また、各フルビード部11a,12aの膨出量は、0.18mmに設定されている。なお、各フルビード部11a,12aの幅は、1.40〜3.50mmの範囲に設定されていればよく、また、各フルビード部11a,12aの膨出量は、0.09〜0.30mmの範囲に設定されていればよい。
【0019】
また、上記シリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0のウォータジャケット21,22の反ボア側開口縁21b,22bよりも反燃焼室孔15側(図2では右側)に位置する上側および下側ガスケット基板11,12の外方端側位置には、それぞれ上下方向に対向する位置で頂部11b1,12b1同士を向き合わせるように膨出するハーフビード部11b,12bが設けられている。つまり、上側ガスケット基板11の外方端側位置にはシリンダブロックE1側へ向けて膨出するハーフビード部11bが形成されている一方、下側ガスケット基板12の外方端側位置にはシリンダヘッドE0側へ向けて膨出するハーフビード部12bが形成されていて、互いの頂部11b1,12b1同士が中間ガスケット基板13を挟んで向き合っている。
【0020】
そして、上側および下側ガスケット基板11,12のハーフビード部11b,12bは、膨出端をそのまま反燃焼室孔15側に延ばした断面形状を呈し、それぞれ上下方向で互いに対向する位置に設けられている。つまり、上側および下側ガスケット基板11,12のハーフビード部11b,12bの幅(図2では左右方向の寸法)と膨出量はともに同一に設定され、燃焼室孔15の周縁部から上側ガスケット基板11のハーフビード部11bの頂部11b1までの寸法と、燃焼室孔15の周縁部から下側ガスケット基板12のハーフビード部12bの頂部12b1までの寸法とは同じ寸法に設定されている。この場合、各ハーフビード部11b,12bの幅は、1.30mmに設定されてあり、また、各ハーフビード部11b,12bの膨出量は、フルビード部11a,12aと同じ0.18mmに設定されている。なお、各ハーフビード部11b,12bの幅は、1.40〜3.50mmの範囲に設定されていればよく、また、各ハーフビード部11b,12bの膨出量は、0.09〜0.30mmの範囲に設定されていればよい。
【0021】
また、上記上側および下側ガスケット基板11,12のフルビード部11a,12aよりも燃焼室孔15側に位置する中間ガスケット基板13の燃焼室孔15の周縁部には、その燃焼室孔15の半径方向外向きに折り返した折り返し部13aが設けられている。この折り返し部13aにより折り返された中間ガスケット基板13の折り返し端13bは、中間ガスケット基板13の下面側(下側ガスケット基板12側)に位置している。上記中央ガスケット基板13は、全域が同一厚さ(例えば0.08〜0.2mm)となる比較的軟質で、加工性に優れたSUS板(例えばSUS304)によって構成されている。
【0022】
そして、上記中央ガスケット基板13の折り返し部13aの折り返し端13bと、上記シリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0の対向面に開口するウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aとの間には、図1にも示すように、中央ガスケット基板13の折り返し部13aの折り返し端13bの周囲を囲むように形成されたシム14が装着されている。このシム14は、上記折り返し部13aにより折り返された上記中間ガスケット基板13の折り返し側面(図2では下面)と、この中間ガスケット基板13の折り返し側面と対面する上記下側ガスケット基板12の中間ガスケット基板13側面(図2では上面)との間に介在されている。また、シム14は、全域が同一厚さとなる比較的軟質のSUS材(例えばSUS304)によって構成されている。この場合、シム14は、中間ガスケット基板13の板厚よりも板厚が0.02〜0.08mm程度薄いものが適用されている。
【0023】
なお、図1に示すように、各ガスケット基板11〜13には、シリンダブロックE1のシリンダボアE4,E4,…に合わせて穿設した3箇所の燃焼室孔15,15,…の他に、シリンダブロックE1とシリンダヘッドE0とを締結する締結ボルトが貫通される複数のボルト孔16,16,…と、オイルを戻す複数のオイル戻し孔17,17,…と、冷却水が流通する水孔18とがそれぞれ形成されている。
【0024】
したがって、上記実施例1では、シリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0の組付時、上側および下側ガスケット基板11,12のフルビード部11a,12aの過圧縮を防止するストッパ的な役目をなす中央ガスケット基板13の折り返し部13aによって上側および下側ガスケット基板11,12のフルビード部11a,12aが完全に圧縮されていなくても、中央ガスケット基板13の折り返し部13aの折り返し端13bとシリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0の対向面に開口するウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aとの間に装着されたシム14によって、折り返し部13aの折り返し端13bの周囲が囲まれているので、上記ウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aと上側および下側ガスケット基板11,12のフルビード部11a,12aとの間でのシリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0の互いの対向面同士の面圧が確保されて隙間の発生が防止される。これにより、上記ウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aからフルビード部11a,12a近傍に冷却水が浸入することがなくなり、冷却水によるシリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0の隙間腐食を確実に防止することができる上、フルビード部11a,12a近傍での冷却水の沸騰による上側および下側ガスケット基板11,12の上下両面からのゴムの剥がれをなくしてシール性の低下を確実に防止することができる。
【0025】
しかも、中央ガスケット基板13の板厚は、上側および下側ガスケット基板11,12と同等の板厚に設定されて薄くせずに使用されているので、折り返し部13aに亀裂が入ることがない上、折り返し部13aを形成した際に中央ガスケット基板13の反りが大きくなることもなく、製品として円滑に扱える状態に保つことができる。
【0026】
また、シム14は、上記折り返し部13aにより折り返された上記中間ガスケット基板13の折り返し側面と、この中間ガスケット基板13の折り返し側面と対面する上記下側ガスケット基板12の中間ガスケット基板13側面との間に介在されているので、中間ガスケット基板の反折り返し側面と、この中間ガスケット基板の反折り返し側面と対面する上側ガスケット基板の中間ガスケット基板側面との間に介在させた際に発生する中間ガスケット基板13のシム14の板厚による折り返し側面側への変形が防止され、フルビード部11a,12aの反燃焼室孔15側端とウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aとの間でのシム14によるシリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0の互いの対向面同士の面圧を効果的に確保することができる。
【0027】
更に、シム14は、中間ガスケット基板13の板厚よりも板厚が0.02〜0.08mm程度薄いものが適用されているので、中間ガスケット基板13の板厚との差が小さすぎず大きすぎない板厚に選定したシム14が適用されることになり、中間ガスケット基板13の板厚との差が小さすぎる板厚に選定したシムが適用された場合に起こり得るフルビード部11a,12aの過圧縮による亀裂の発生を防止することができる一方、中間ガスケット基板13の板厚との差が大きすぎる板厚に選定したシムが適用された場合に起こり得る、ウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aと上側および下側ガスケット基板11,12のフルビード部11a,12aとの間での隙間の発生を防止することができる。
【実施例2】
【0028】
次に、本発明の実施例2を図3に基づいて説明する。
【0029】
この実施例2では、シムの装着範囲を変更している。なお、シムを除くその他の構成は上記実施例1の場合と同じであり、同一部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0030】
本実施例では、上側および下側ガスケット基板11,12のフルビード部11a,12aの反燃焼室孔15側端と、シリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0の対向面に開口するウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aとの間に、上側および下側ガスケット基板11,12のフルビード部11a,12aの反燃焼室孔15側端の周囲を囲むように形成されたシム14′が装着されている。このシム14′は、折り返し部13aにより折り返された中間ガスケット基板13の折り返し側面(図3では下面)と、この中間ガスケット基板13の折り返し側面と対面する上記下側ガスケット基板12の中間ガスケット基板13側面(図3では上面)との間に介在されている。また、シム14′は、全域が同一厚さとなる比較的軟質のSUS材(例えばSUS304)によって構成され、中間ガスケット基板13の板厚よりも板厚が0.02〜0.08mm程度薄いものが適用されている。
【0031】
したがって、上記実施例2では、シリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0の組付時、上側および下側ガスケット基板11,12のフルビード部11a,12aの過圧縮を防止するストッパ的な役目をなす中央ガスケット基板13の折り返し部13aによって上側および下側ガスケット基板11,12のフルビード部11a,12aが完全に圧縮されていなくても、フルビード部11a,12aの反燃焼室孔15側端とウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aとの間に亘って装着されたシム14′によって、フルビード部11a,12aの反燃焼室孔15側端とウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aとの間でのシリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0の互いの対向面同士の面圧が確保されて隙間の発生が防止される。これにより、上記ウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aからフルビード部11a,12a近傍に冷却水が浸入することがなくなり、冷却水によるシリンダブロックE1およびシリンダヘッドE0の隙間腐食や、フルビード部11a,12a近傍での冷却水の沸騰による上側および下側ガスケット基板11,12の上下両面からのゴムの剥がれによるシール性の低下を確実に防止することができる。
【0032】
なお、本発明は、上記各実施例に限定されるものではなく、その他種々の変形例を包含している。例えば、上記各実施例では、中央ガスケット基板13の折り返し部13aの折り返し端13bまたはフルビード部11a,12aの反燃焼室孔15側端とウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aとの間にシム14,14′を装着したが、シムの外方端(反ボア側端)は必ずしもウォータジャケットのボア側開口縁に位置していなくてもよく、例えば、図4および図5に示すように、シム19,19′による実質的なシール性能は中央ガスケット基板13の折り返し部13aの折り返し端13bまたはフルビード部11a,12aの反燃焼室孔15側端とウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aとの間において発揮されることから、シム19,19′の外方端19a,19a′がウォータジャケット21,22のボア側開口縁21a,22aを超えて反ボア側開口縁21b,22bに届かない位置まで延ばされていてもよい。
【0033】
また、上記各実施例では、シリンダヘッドガスケット1をV型6気筒エンジンEの一方のバンクのシリンダブロックE1とシリンダヘッドE0との間に介在させたが、V型6気筒エンジンに限らず、V型8気筒、V型10気筒、V型12気筒エンジンなどあらゆるV型多気筒エンジンの他、水平対向エンジンや、直列型エンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介在されるシリンダヘッドガスケットであってもよい。
【0034】
また、上記各実施例では、シリンダヘッドガスケット1を上側および下側ガスケット基板11,12と中間ガスケット基板13とで3層からなる積層体により構成したが、4層以上のガスケット基板からなるメタル製シリンダヘッドガスケットであってもよい。
【0035】
更に、上記各実施例では、折り返し部13aにより折り返された中間ガスケット基板13の折り返し端13bを中間ガスケット基板13の下面側に位置させたが、折り返し部により折り返された中間ガスケット基板の折り返し端が中間ガスケット基板の上面側に位置していてもよく、その場合、シムは、折り返し部により折り返された中間ガスケット基板の折り返し側面(上面側)と、この中間ガスケット基板の折り返し側面と対面する上側ガスケット基板の中間ガスケット基板側面との間に介在されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例1に係るシリンダヘッドガスケットの平面図である。
【図2】同じく図1のA−A線において切断した断面図である。
【図3】本発明の実施例2に係る図2相当図である。
【図4】実施例1の変形例に係る図2相当図である。
【図5】実施例2の変形例に係る図2相当図である。
【図6】従来例に係る図2相当図である。
【符号の説明】
【0037】
1 シリンダヘッドガスケット(メタル製シリンダヘッドガスケット)
11 上側ガスケット基板
11a フルビード部
11a1 頂部
12 下側ガスケット基板
12a フルビード部
12a1 頂部
13 中間ガスケット基板
13a 折り返し部
13b 折り返し端
14,14′ シム
15 燃焼室孔
19,19′ シム
21 シリンダブロックのウォータジャケット
21a ボア側開口縁(開口端)
22 シリンダヘッドのウォータジャケット
22a ボア側開口縁(開口端)
E0 シリンダヘッド
E1 シリンダブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介設され、上記シリンダブロックとシリンダヘッドとの互いの対向面同士の間をシールするメタル製シリンダヘッドガスケットにおいて、
上記シリンダヘッド側に位置する上側ガスケット基板と、
上記シリンダブロック側に位置する下側ガスケット基板と、
これら両ガスケット基板の間に介在させた中間ガスケット基板と
を備えているとともに、
上記各ガスケット基板は上下方向に積層されて一体に形成され、その積層体の所要箇所には、上記シリンダブロックの対向面に開口するシリンダボアの位置にあわせて穿設された複数の燃焼室孔を備えており、
上記上側および下側ガスケット基板の燃焼室孔側には、それぞれ上下方向に対向する位置で頂部同士を向き合わせるように膨出するフルビード部が設けられているとともに、上記上側および下側ガスケット基板のフルビード部よりも燃焼室孔側に位置する中間ガスケット基板の燃焼室孔の周縁部には、その燃焼室孔の半径方向外向きに折り返した折り返し部が設けられ、
上記中央ガスケット基板の折り返し部の折り返し端と、上記シリンダブロックおよびシリンダヘッドの少なくとも一方の対向面に開口するウォータジャケットの開口端との間には、シムが装着されていることを特徴とするメタル製シリンダヘッドガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載のメタル製シリンダヘッドガスケットにおいて、
上記シムは、上記フルビード部の反燃焼室孔側端と、上記ウォータジャケットの開口端との間に亘って装着されていることを特徴とするメタル製シリンダヘッドガスケット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のメタル製シリンダヘッドガスケットにおいて、
上記シムは、上記折り返し部により折り返された上記中間ガスケット基板の折り返し側面と、この中間ガスケット基板の折り返し側面と対面する上記上側または下側ガスケット基板の中間ガスケット基板側面との間に介在されていることを特徴とするメタル製シリンダヘッドガスケット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−38733(P2008−38733A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213277(P2006−213277)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000228383)日本ガスケット株式会社 (43)
【Fターム(参考)】