説明

メチオニンの製造方法

本発明は、メチオニンの発酵による製造方法、その際に得られたメチオニンの単離方法、単離の際に生じたメチオニンを含有するバイオマス、飼料又は飼料補助剤の製造のためのその使用並びに食料又は飼料若しくは食料補助剤又は飼料補助剤の製造のための単離されたメチオニンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチオニンを発酵により製造する方法、その際に形成されたメチオニンを単離する方法、単離の際に生じたメチオニンを含有するバイオマス、飼料及び飼料補助剤を製造するためのその使用、並びに食料又は飼料若しくは食料補助剤又は飼料補助剤を製造するための単離されたメチオニンの使用に関する。
【0002】
背景技術
メチオニンは、食料工業、飼料工業、化粧品工業及び製薬工業を含めた種々の分野で使用されている。
【0003】
従来、D、L−メチオニンの化学的製造方法が技術的に重要であるにすぎなかった。この合成の出発物質は、硫化水素、メチルメルカプタン、アクロレイン、青酸又はメチルメルカプトプロピオンアルデヒドである(ウールマン工業化学百科事典(1985年)、A2巻、71頁(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry(1985), Vol. A2, Seite71)を参照のこと)。
【0004】
メチオニンはまた、天然の細胞の物質代謝プロセスを介して生産される。その工業的基準の生産は、大量の所望の物質を生産及び分泌させるために開発された細菌培養によって非常に合理的に実施された。この目的のために特に好適な生物は、非病原性コリネフォルム細菌である。
【0005】
メチオニンを、コリネフォルム細菌株、特にコリネバクテリウム・グルタミクム(Colynebacterium glutamicum)菌の発酵によって製造できることは公知である。これは極めて重要であるので、この製造方法の改善について絶え間なく研究されている。方法の改善は、例えば、発酵技術手段、栄養培地の組成、又は微生物それ自体の固有の能力特性に関連し得る。
【0006】
所定の分子の生産に関してこの微生物の能力特性の改善のために、突然変異、選択及び変異体選択の方法か又はアミノ酸生産株、例えばコルネ細菌の株の改善のための組換えDNA技術の方法を、個々のアミノ酸生合成遺伝子を増幅するか又は消失させることによって使用でき、これによりアミノ酸生産の改善がもたらされる。
【0007】
例えば、WO−A−02/10209号及びDE−A−10136986号は、遺伝子改変されたL−メチオニン生産コルネフォルム細菌を使用して、L−メチオニンを発酵により製造する方法を記載している。そこでは、とりわけ、細菌の発酵、培地中か又は細菌中のアミノ酸の富化及びアミノ酸の単離を含むL−メチオニンの製造方法が記載されている。更に、以下の段階:a)L−メチオニン生産微生物の発酵;b)発酵ブロスの濃縮;例えば蒸発による濃縮;c)バイオマスの分離(0〜100%)、例えば遠心分離による分離;及びd)乾燥、例えば凍結乾燥又は噴霧乾燥、噴霧造粒による乾燥を含む発酵ブロスからのL−メチオニンを含有する動物飼料添加剤の製造方法が記載されている。
【0008】
スワパンら(Swapan et al)は、微生物バイオテクノロジー紀要4号(1)35〜41頁(1989年)(J.Microbial Biotechnology, 4(1), 35~41(1989))に、発酵ブロスからの細胞を分離すること、pHを5に調節すること、活性炭及びイオン交換クロマトグラフィーで処理することによる、巨大菌(Bacillus metaterium)変異体を用いるメチオニンの微生物生産を記載している。
【0009】
DE−A−3533198号からは、特定の好熱性細菌を用いるL−ロイシンの発酵的製造が公知である。この発酵は、+60℃で連続的に、バイオマスを維持しつつ、生成物を含有する消費培地の分離、結晶器内での冷却(+2℃まで)、結晶化されたアミノ酸の回収及び反応器への母液の返送を実施する。そこには、発酵によるメチオニンの生産については記載されていない。
【0010】
これまでに記載された微生物によるメチオニンの生産方法は、依然として工業的基準の生産の要求を満たすものではない。この理由は、一方では水性発酵培地中のメチオニンの限定された溶解性であり、これは生合成能が高い場合に、メチオニンが発酵ブロス中に沈殿することをもたらし、これにより精製が阻害される。更なる理由は、技術水準により操作する場合には、相当の廃棄物流が生じ、この除去が高コストと結びつくことである。
【0011】
本発明の簡単な説明
従って本発明の課題は、特に、メチオニンを部分的に結晶形で含有する発酵ブロスに使用できる、発酵により製造されたメチオニンの改善された単離方法を提供することである。別の課題は、実際に廃棄物流が生じず、これにより特に経済的に実施できる、メチオニンを含有する発酵ブロスの後処理方法を提供することである。
【0012】
驚くべきことに、前記課題は、バイオマス分離のためにメチオニンの溶解性を集中的に利用する後処理方法を提供することによって解決された。この方法は、発酵により製造されたL−メチオニンの精製方法として結晶化を利用する。これは、飼料添加剤として使用される異なる2種の生成物(低濃度生成物及び高濃度生成物)を供給する。特定の方法においては、実際に廃棄物流が生じず、そして特に工業的基準における経済的なメチオニン製造が可能になる。
【0013】
本発明の詳細な説明
A)一般的な定義
「メチオニン」は、本発明の意味においては、原則的に、L−メチオニン又はD−メチオニン、これらの異性体の混合物、例えばラセミ体を含むが、L−メチオニンが好ましい。
【0014】
メチオニンの溶解度は、水中で20℃では約30g/lであり、70℃では90g/lを上回る。発酵ブロス中においては、この条件下で、これに匹敵する規模の溶解度が観察される。
【0015】
方法の手段、例えば「濃縮」、「分離」、「洗浄」、「乾燥」は、本発明の意味においては、当業者の能力の範囲内に存在する全種の方法を含む。例えば、「濃縮」は、大気圧下か又は真空適用での液相の蒸発と解してよい。「濃縮」は、例えば、慣用技術、例えば逆浸透又はナノ濾過若しくは慣用設備、例えば流下膜式蒸発器、薄膜式蒸発器又は回転式蒸発器若しくはこれらの組み合わせ物の使用下で実施してよい。「分離」は、例えば遠心分離、濾過、デカンテーション又はこれらの方法の組み合わせを含んでよい。「洗浄」は、例えば、固体の濾別及び場合により濾過残留物の懸濁後の一回又は数回の洗浄を含んでよい。「乾燥」は、例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥、噴霧造粒、流動層乾燥又はこれらの方法の組み合わせを含んでよい。
【0016】
B)本発明の好ましい実施形態
本発明の第一の対象は、発酵により製造されたメチオニンを単離する方法において、
a)メチオニン生産微生物の発酵の際に生じ、メチオニンを含有し、特にメチオニンを部分的に未溶解の形で含有する液体分画を、液相中のメチオニンの溶解度が増大するのに十分な温度、好ましくはメチオニンが実質的に完全に溶解するのに十分な温度に加熱し、
b)この液体分画から、メチオニンが富化された液相を得て、そして、
c)場合により富化された液相を濃縮した後に、メチオニンを結晶化する方法に関する。
【0017】
「実質的に」完全に溶解とは、メチオニンが、液相中のメチオニンの全含有率に対して、例えば95%を上回って溶解している場合、98%を上回って溶解している場合、特に100%まで溶解している場合である。
【0018】
メチオニンを含有する「液体分画」は、一般的には、発酵工程から得られ、特にメチオニンを部分的に未溶解の形で含有するブロスであり、場合により、慣用的に発酵ブロス中に含まれていてよい更なる固体構成成分を有するブロスか:又はこれに由来する液体、例えば好適な前処理によって得られた液体を有していてよい。「前処理」は、例えば、蒸発による濃縮又は物質の添加であってよい。例えば、メチオニン含有分画を、前の後処理バッチからブロスに添加するか若しくは引き続いての後処理段階又は目的に応じた生成物の使用(例えば飼料添加剤として)を促進する添加剤(以下を参照のこと)を添加してよい。
【0019】
場合により高められた発酵ブロスの未溶解メチオニンの含有率は、発酵ブロスの全質量に対して、約1質量%〜約10質量%、好ましくは約3質量%〜約8質量%の範囲内か又は全固体含有率に対して約30質量%〜約80質量%、好ましくは約50質量%〜約57質量%の範囲内である。
【0020】
例えば、本発明にかかる発酵は、約96g/lのメチオニン含有量をもたらすことができ、このうち、一般的な発酵温度では、約46g/lが溶解しており、かつ約50g/lが未溶解で存在する。
【0021】
富化された液相のメチオニン含有率は、乾燥残留物に対して、約60質量%〜約100質量%、又は約90質量%〜約100質量%、例えば約75質量%〜約85質量%又は約95質量%〜約100質量%の範囲内であり、これらはそれぞれ乾燥質量に対するものである。
【0022】
メチオニンを実質的に溶解させるために、段階a)において、溶解されるべき生成物の量に応じて、約60℃〜約120℃、好ましくは約70℃〜約100℃の範囲内の温度に加熱する。その際、場合により圧力をわずかに高めて、例えば1〜5atmの下で操作することが必要であり得る。
【0023】
段階a)においては、液体分画として、更なる前処理がなされていないバイオマスを含有する発酵ブロスを使用することが好ましい。
【0024】
段階b)のメチオニンが富化された液相は、溶解したメチオニンが富化され、加熱された発酵ブロスからバイオマスを分離することによって得ることが好ましい。メチオニンの早期の結晶化を防ぐために、バイオマスの分離の間、同様に温度を高めて、好ましくは上述した範囲の温度で操作する。
【0025】
本発明の好ましい一実施形態においては、
d)結晶化されたメチオニンを分離し、
e)分離された固体の、好ましくは結晶性メチオニンを、場合により洗浄し、そして
f)それを場合により乾燥させる。
【0026】
更なる好ましい変法により、段階b)において、分離されたバイオマスを、
g1)場合により洗浄し、その際、洗浄に使用される液体を場合により加熱し、そして
g3)それを乾燥させる。
【0027】
この場合、この洗液の加熱は、例えば分離されたバイオマス分画中に固体メチオニンが含まれることが望ましい場合に必要であり得、かつこのバイオマス分画からメチオニンを可能な限り得ることが望ましい。
【0028】
廃棄物流を回避するために、好ましくは、
g2)段階g1)において生じた洗液と、段階b)のメチオニンが富化された液相とを合する。
【0029】
上述の方法の後に得られた段階b)のメチオニンを含有する液相を、例えば加熱しつつ、蒸留すること及び場合により真空を適用することによって更に濃縮する。その際に生ずる濃縮物のメチオニン含有率は、このとき濃縮物の全質量に対して約10質量%〜約40質量%の範囲内である。この場合、メチオニンの分離は、好ましくは冷却結晶化によって実施する。このために、この溶液を0〜20℃の範囲内の温度に冷却する。結晶化の完了後に、この固体メチオニンを低温の洗液、例えば水で洗浄し、そして場合によりわずかに加熱して乾燥させる。
【0030】
更なる変法によれば、段階d)において生じた母液を、
d1)メチオニン生産微生物を有する別の発酵バッチからのメチオニンを含有する液体分画と合するか;又は
d2)メチオニン生産微生物を有する同じ又は別の発酵バッチから分離されたバイオマスに、段階g3)による乾燥の前に添加する。
【0031】
更なる変法によれば、段階e)において生じた洗液を、
e1)メチオニン生産微生物を有する別の発酵バッチからのメチオニンを含有する液体分画と合するか;又は
d2)メチオニン生産微生物を有する同じ又は別の発酵バッチから分離されたバイオマスに、段階g3)による乾燥の前に添加する。
【0032】
母液及び洗液の返送によって、廃棄物流の発生が更に阻止される。
【0033】
本発明によれば、更に、段階g3)による乾燥は、噴霧乾燥段階を含むことが好ましい。
【0034】
本発明の更なる対象は、メチオニンを発酵により製造する方法において、天然微生物又は組換え微生物を自体公知のように発酵し、そして形成されたメチオニンを上述の定義による方法によって単離する方法に関する。
【0035】
好ましい実施形態においては、本発明にかかる方法は、コリネバクテリウム属の天然細菌又は組換え細菌から選択されたメチオニン生産微生物の使用下で実施する。
【0036】
更に本発明は、飼料又は飼料補助剤(飼料添加剤)の製造のための、上述の段階g3)によって得られた乾燥物の使用に関する。
【0037】
本発明の対象はまた、食料又は飼料若しくは食料補助剤又は飼料補助剤を製造するための、本発明により単離されたメチオニンの使用である。
【0038】
最後に、本発明は、上述の定義による方法によって得られたメチオニンを含有する乾燥バイオマス;かかるバイオマスを有する飼料添加剤;並びに慣用の飼料構成成分の他にかかる飼料添加剤を含有する飼料組成物に関する。
【0039】
以下の段落においては、更なる本発明の展開を説明する。
【0040】
C)本発明により使用される宿主細胞
本発明にかかる方法には、コリネフォルム細菌を使用することが好ましい。コリネバクテリウム属の細菌が好ましい。コリネバクテリウム属からは、特にL−アミノ酸生産能が当業者に知られているコリネバクテリウム・グルタミクム種を挙げることができる。
【0041】
好適な株の例として:
コリネバクテリウム属から:
コリネバクテリウム・グルタミクム ATCC13032、コリネバクテリウム・アセトグルタミクム(Colynebacterium acetoglutamicum) ATCC15806、コリネバクテリウム・アセトアシドフィルム(Colynebacterium acetoacidophilum) ATCC13870、コリネバクテリウム・テルモアミノゲネス(Colynebacterium thermoaminogenes) FERM BP−1539、コリネバクテリウム・メラッセコラ(Colynebacterium melassecola) ATCC17965;コリネバクテリウム・グルタミクム KFCC10065;又はコリネバクテリウム・グルタミクム ATCC21608、
又は、ブレビバクテリウム属から:
ブレビバクテリウム・フラブム(Brevibacterium flavum) ATCC14067;ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(Brevibacterium lactofermentum) ATCC13869及びブレビバクテリウム・ジバリカツム(Brevibacterium divaricatum) ATCC14020を挙げることができる;
(KFCC=韓国連合細胞保存機関(Korean Federation of Culture Collection);ATCC=米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection);FERM BP=生命工学工業技術研究所保存機関、科学技術振興機構、日本(Sammlung des National institute of bioscience and Human-Technology, agency of Industrial Science and Technology, Japan))。
【0042】
この場合、これらの細菌株は、未改変で使用するか又は好適に遺伝子改変して使用してよい。例えば、メチオニン生合成経路の遺伝子が増幅された微生物を使用して、そうして多くのメチオニンを細胞内に存在させてよい。選択的に又は付加的に、メチオニンを分解する代謝経路に関連する遺伝子を消失させるか又は減衰させてもよい。メチオニン生産を改善させる好適な戦略は、技術水準から公知であり、例えばWO−A−02/10209号、DE−A−10217058号、DE−A−10239308号、DE−A−10239073号、DE−A−10239082号及びDE−A−10222858号に記載されており、これらは参照をもって開示されたものとする。
【0043】
メチオニン含有量を低下させうる酵素の活性又は量を減らすために、当業者は種々の手段を単独で又は組み合わせて実施できる。本発明にかかるタンパク質をコードする遺伝子の転写頻度を低減させることによって、上述のタンパク質の濃度を低下させることができる。当業者は、コード遺伝子のプロモーター領域又は調節領域並びにリボソーム結合部位を改変又は交換することによってこれを達成できる。当業者は、コード領域の下流で、ターミネーターを改変させるか又は転写の安定性減少を導く配列を挿入することができる。mRNAの寿命を減らすこれらの手段によって、関連するタンパク質の発現を低下させ、これによりその濃度を低下させることが可能になる。
【0044】
発現した酵素のレベルでは、融合された配列は、分解速度を高めることができ、これにより同様にこのタンパク質の濃度の低下をもたらすことができる。更に、当業者は、コード遺伝子の標的又は非標的突然変異誘発によってその活性、基質親和性及び基質特異性を改変できる。酵素は、相応する遺伝子の突然変異によって、酵素反応の反応速度の部分的又は完全な減少が生ずるほどにその活性が影響を受けうる。かかる突然変異の例は、当業者には知られている(モトヤマ・H、ヤノ・H、テラサキ・Y、アナザワ・H、応用微生物学と環境微生物学 67号:3064〜3070頁、2001年(Motoyama H. Yano H. Terasaki Y. Anazawa H. Applied & Environmental Microbiology.67:3064-70, 2001)、エイクマン BJ、エゲリング・L、サーム・H、アントニー・ファン・レーウェンフック64号:145〜163頁、1993〜94年(Eikmanns BJ. Eggeling L. Sahm H. Antonie Van Leeuwenhoek. 64:145-63, 1993-94))。タンパク質の変異体は、酵素複合体のホモ又はヘテロ多量体形成を減少又は阻害することもでき、これにより同様に酵素特性の悪化に導くこともできる。
【0045】
このように改変された遺伝子は、プラスミド又は好ましくは染色体の何れかに統合されて存在していてよい。この場合、このように改変されていない元の遺伝子が依然として付加的に存在してよいが、改変された遺伝子と交換することが好ましい。
【0046】
コリネフォルム細菌中で測定される酵素の活性を減らすために、機能的等価物、例えば人工的に生産された変異体又は他の生物からの天然のホモログをコードする遺伝子を発現させることが十分でありえる。この場合、元の遺伝子が依然として付加的に存在してよいが、改変された遺伝子又はホモログ遺伝子と交換することが好ましい。
【0047】
付加的に、有利には、細菌によるメチオニン生産にとっては、メチオニン生合成経路、システイン代謝経路、アスパラギン酸セミアルデヒド合成、解糖、アナプレロティック、ペントースリン酸代謝、クエン酸回路又はアミノ酸輸送の1種又は複数種の酵素を増強してよい。
【0048】
従って、メチオニンの製造のために、以下の1種又は複数種の遺伝子を増幅してよい:
− アスパラギン酸キナーゼをコードする遺伝子lysC(EP1108790号A2;DNA−配列番号281)、
− アスパラギン酸セミアルデヒドをコードする遺伝子asd(EP1108790号A2;DNA−配列番号282)、
− グリセリンアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子gap(エイクマン著(1992年)ジャーナル・オブ・バクテリオロジー、174号:6076〜6086頁(Eikmanns (1992),Journal of Bacteriology 174:6076~6086))、
− 3−ホスホグリセリン酸キナーゼをコードする遺伝子pgk(エイクマン著(1992年)ジャーナル・オブ・バクテリオロジー、174号:6076〜6086頁)、
− ピルビン酸カルボキシラーゼをコードする遺伝子pyc(エイクマン著(1992年)ジャーナル・オブ・バクテリオロジー、174号:6076〜6086頁)、
− トリオースリン酸イソメラーゼをコードする遺伝子tpi(エイクマン著(1992年)ジャーナル・オブ・バクテリオロジー、174号:6076〜6086頁)、
− ホモセリンO−アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子metA(EP1108790号A2;DNA−配列番号725)、
− シスタチオニン−ガンマ−合成酵素をコードする遺伝子metB(EP1108790号A2;DNA−配列番号3491)、
− シスタチオニン−ガンマ−リアーゼをコードする遺伝子metC(EP1108790号A2;DNA−配列番号3061)、
− シスタチオニン−合成酵素をコードする遺伝子metH(EP1108790号A2;DNA−配列番号1663)、
− セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子glyA(EP1108790号A2;DNA−配列番号1110)、
− O−アセチルホモセリン−スルフヒドリアーゼをコードする遺伝子metY(EP1108790号A2;DNA−配列番号726)、
− メチレンテトラヒドロ葉酸−レダクターゼをコードする遺伝子metF(EP1108790号A2;DNA−配列番号2379)、
− ホスホセリン−アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子serC(EP1108790号A2;DNA−配列番号928)、
− ホスホセリンホスファターゼをコードする遺伝子serB(EP1108790号A2;DNA−配列番号334、DNA−配列番号467、DNA−配列番号2767)、
− セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子cysE(EP1108790号A2;DNA−配列番号2818)、
− システイン合成酵素をコードする遺伝子cysK(EP1108790号A2;DNA−配列番号2817)、
− ホモセリン−デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子hom(EP1108790号A2;DNA−配列番号1306)。
【0049】
付加的に、本発明にかかるメチオニンの製法にとっては、同時に以下の少なくとも1種の遺伝子を変異させ、そうして相応のタンパク質の活性が変異していないタンパク質と比べて、代謝産物によってわずかな程度で影響を受けるか又は影響を受けなくなること、若しくはその比活性を増大させることが有利であり得る:
− アスパラギン酸キナーゼをコードする遺伝子lysC(EP1108790号A2;DNA−配列番号281)、
− ピルビン酸カルボキシラーゼをコードする遺伝子pyc(エイクマン著(1992年)ジャーナル・オブ・バクテリオロジー、174号:6076〜6086頁)、
− ホモセリンO−アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子metA(EP1108790号A2;DNA−配列番号725)、
− シスタチオニン−ガンマ−合成酵素をコードする遺伝子metB(EP1108790号A2;DNA−配列番号3491)、
− シスタチオニン−ガンマ−リアーゼをコードする遺伝子metC(EP1108790号A2;DNA−配列番号3061)、
− メチオニン合成酵素をコードする遺伝子metH(EP1108790号A2;DNA−配列番号1663)、
− セリン−ヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子glyA(EP1108790号A2;DNA−配列番号1110)、
− O−アセチルホモセリン−スルフヒドリラーゼをコードする遺伝子metY(EP1108790号A2;DNA−配列番号726)、
− メチレンテトラヒドロ葉酸−レダクターゼをコードする遺伝子metF(EP1108790号A2;DNA−配列番号2379)、
− ホスホセリン−アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子serC(EP1108790号A2;DNA−配列番号928)、
− ホスホセリン−ホスファターゼをコードする遺伝子serB(EP1108790号A2;DNA−配列番号334、DNA−配列番号467、DNA−配列番号2767)、
− セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子cysE(EP1108790号A2;DNA−配列番号2818)、
− システイン合成酵素をコードする遺伝子cysK(EP1108790号A2;DNA−配列番号2817)、
− ホモセリン−デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子hom(EP1108790号A2;DNA−配列番号1306)。
【0050】
更に、メチオニンの生産にとっては、以下の1種又は複数種の遺伝子を減衰させること、特にその発現を減少させるか又は消失させることが有利であり得る:
− S−アデノシルメチオニン合成酵素(E.C.2.5.1.6)をコードする遺伝子metK、
− ホモセリンキナーゼをコードする遺伝子thrB(EP1108790号A2;DNA−配列番号3453)、
− トレオニンデヒドラターゼをコードする遺伝子ilvA(EP1108790号A2;DNA−配列番号2328)、
− トレオニン合成酵素をコードする遺伝子thrC(EP1108790号A2;DNA−配列番号3486)、
− メソ−ジアミノピメリン酸D−デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子ddh(EP1108790号A2;DNA−配列番号3494)、
− ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼをコードする遺伝子pck(EP1108790号A2;DNA−配列番号3157)、
− グルコース−6−ホスフェート−6−イソメラーゼをコードする遺伝子pgi(EP1108790号A2;DNA−配列番号950)、
− ピルビン酸オキシダーゼをコードする遺伝子poxB(EP1108790号A2;DNA−配列番号2873)
− ジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする遺伝子dapA(EP1108790号A2;DNA−配列番号3476)、
− ジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードする遺伝子dapB(EP1108790号A2;DNA−配列番号3477)、
− ジアミノジピコリン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子lysA(EP1108790号A2;DNA−配列番号3451)。
【0051】
更に、メチオニンの生産にとって、少なくとも1種の前述の遺伝子metK、thrB、ilvA、thrC、ddh、pck、pgi、poxB、dapA、dapB、lysAを変異させ、そうして相応のタンパク質の酵素活性を部分的に又は完全に減少させることが有利であり得る。
【0052】
更に、メチオニンの生産のために、更なる不所望な副反応を消失させることが有利であり得る(中山著「アミノ酸生産微生物の培養」、微生物による生成物の過剰生産、クラムファンツル、シキタ、ベネク(編者)、学術出版、ロンドン、イギリス、1982年(Nakayama: "Breeding of Amino Acid Producing Microorganisms", in : Overproduction of Microbial Products, Krumphanzl, Sikyta, Vanek (eds), Academic Press, London, UK, 1982))。
【0053】
過剰発現を達成するために、当業者は、種々の手段を単独で又は組み合わせて選ぶことができる。従って、適切な遺伝子のコピー数を高めるか、若しくは、プロモーター領域及び調節領域又は構造遺伝子の上流に見られるリボソーム結合部位を変異させてよい。同様に、構造遺伝子の上流に挿入された発現カセットが作用する。誘導可能なプロモーターによって、発酵によるL−メチオニン生産の過程において発現を高めることが付加的に可能である。mRNAの寿命を延長する手段によって、同様に発現を改善する。更に、酵素タンパク質の分解の阻害によって、同様に、酵素活性を増強させる。この遺伝子又は遺伝子構造は、次の何れかで、種々のコピー数を有するプラスミド内に存在するか又は染色体内で統合及び増幅されて存在してよい。更に選択的に、関連する遺伝子の過剰発現は、培地組成及び培養条件の変更によって達成できる。
【0054】
これに関して、当業者は、とりわけ、マルティンら(Martin et al.)(バイオテクノロジー R5、137〜146頁(1987年))(Biotechnology R5,137-146(1987))、ゲレロら(Guerrero et al.)(遺伝子 138号、35〜41頁(1994年)(Gene 138, 35-41(1994)) ツシマ、モリナガ(Tsuchiya und Morinaga)(バイオ/テクノロジー 6号、428〜430頁(1988年))(Bio/Technology 6, 428-430(1988)),エイクマンら(Eikmanns et al.)(遺伝子 102号、93〜98頁(1991年)) (Gene 102, 93-98(1991)), EP0472869号、US4601893号、シュバルツア、プラー(Schwarzer und Puehler )(バイオテクノロジー 9号、84〜87頁(1994年))(Biotechnology 9, 84-87(1991))、レムシェイドら(Remscheid et al.)(応用微生物学と環境微生物学 60号、126〜132頁(1994年)) (Applied and Environmental Microbiology 60, 126-132(1994))、ラバールら(LaBarre et al. )(ジャーナル・オブ・バクテリオロジー 175号、1001〜1007頁(1993年))(Journal of Bacteriology 175, 1001-1007(1993))、WO96/15246号、マランブレスら(Malumbres et al.)(遺伝子 134号、15〜24頁(1993年)) (Gene 134, 15-24(1993))、JP−A−10229891号、イエンセン、ハマー(Jensen und Hammer )(バイオテクノロジーとバイオ工学 58号、191〜195頁(1998年))(Biotechnology and Bioengineering 58,.191-195(1998)), マクライド(Makrides)(微生物学紀要 60号:512〜538頁(1996年))(Microbiological Reviews 60:512-538(1996))及び公知の遺伝学及び分子生物学の教本にその手引きを見出す。
【0055】
D)本発明にかかる発酵の実施
本発明により製造された微生物は、連続的に又は不連続的に、メチオニンの生産のために、回分法(回分培養)か又は半回分法(供給法(zulaufverfahren))若しくは反復半回分法(Repeated fed batch Verfahren)(繰り返し供給法repetitive zulaufverfahren))により、培養できる。公知の培養法に関する概要は、クミエル(Chmiel)の教本(バイオプロセステクニック1 生物的方法技術入門(グスタフ・フィッシャー出版、シュツットガルト、1991年))(Bioprozesstechnik 1. Einfuehrung in die Bioverfahrenstechnik (Gustav Fischer Verlag, Stuttgart, 1991))又はシュトラス(Storhas)の教本(バイオリアクターとその周辺装置(フィエーク出版、ブラウンシュバイク/ビイスバデン、1994年))(Bioreaktoren und periphere Einrichtungen (Vieweg Verlag, Braunschweig/Wiesbaden,1994))に見出すことができる。
【0056】
使用されるべき培養培地は、好適に、それぞれの株の要求を満たさなければならない。種々の微生物の培養培地の説明は、米国細菌学学会(ワシントンD.C、アメリカ合衆国、1998年)(American Society fuer Bacteriology) (Washington D.C., USA, 1981)のハンドブック「遺伝学的細菌学のための方法マニュアル」("Manual of Methods fuer General Bacteriology")に含まれている。
【0057】
本発明により使用可能な培地は、大抵は、1種又は複数種の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミン及び/又は微量元素を含む。
【0058】
好ましい炭素源は、糖、例えばモノ−、ジ−又はポリサッカリドである。特に好ましい炭素源は、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、リブロース、ラクトース、マルトース、サッカロース、ラフィノース、デンプン又はセルロースである。糖は、複合化合物、例えば糖蜜、又は糖精製の他の副生物を介して、培地に添加してもよい。種々の炭素源の混合物を添加することも有利であり得る。考えられる他の炭素源は、油及び脂肪、例えば大豆油、ヒマワリ油、落花生油及びヤシ油;脂肪酸、例えばパルミチン酸、ステアリン酸又はリノール酸;アルコール、例えばグリセリン、メタノール又はエタノール;及び有機酸、例えば酢酸又は乳酸である。
【0059】
窒素源は、大抵、有機又は無機窒素化合物又はこれらの化合物を含有する物質である。窒素源の例は、アンモニアガス、又はアンモニウム塩、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム又は硝酸アンモニウム、硝酸塩、尿素、アミノ酸又は複合窒素源、例えばコーンスティープリカー、大豆粉、大豆タンパク質、酵母エキス、肉エキス等を含む。これらの窒素源は、単独で又は混合物として使用してよい。
【0060】
培地中に含まれていてよい無機塩化合物は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅及び鉄の塩化物、リン塩又は硫酸塩を含む。
【0061】
メチオニンを製造するための硫黄源としては、硫黄含有無機化合物、例えば硫酸塩、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩、四チオン酸塩、チオ硫酸塩、硫化物を使用してよいが、有機硫黄化合物、例えばメルカプタン及びチオールを使用してもよい。
【0062】
リン源としては、リン酸、リン酸二水素カリウム又はリン酸水素二カリウム、若しくは適切なナトリウム含有塩を使用してよい。
【0063】
金属イオンを溶液中で保持させるために、キレート剤を培地に添加してよい。特に好適なキレート剤は、ジヒドロキシフェノール、例えばカテコール、又はプロトカテキュエート(Protocatechuat)、若しくは有機酸、例えばクエン酸を含む。
【0064】
本発明により使用される発酵培地は、慣用的に他の成長因子、例えばビタミン、又は成長促進物質をも含有しており、例えばビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸、及びピリドキシンが挙げられる。成長因子及び塩は、しばしば、複合培地成分、例えば酵母エキス、糖蜜、コーンスティープリカー等に由来する。その上、培養培地に好適な前駆物質を添加してよい。培地化合物の厳密な組成は、それぞれの実験に強く依存し、かつかかる特定の事例ごとに決定する。培地の最適化についての情報は、教本「応用微生物学・生理学・実践アプローチ」編者P.M.ローデス、P.F.スタンベリー、IRL出版(1997年)53〜73頁("Applied Microbiol. Physiology, A Practical Approach"(Hrsg. P.M. Phodes, P.F. Stanbury, IRL Press (1997) S.53-73, ISBN 0199635773)から得られる。成長培地は、例えばStandard 1(Merck社製)又はBHI(ブレインハートインフュージョン、DIFCO社製)等を供給業者から購入することもできる。
【0065】
全ての培地成分は、熱(20分、1.5バール及び121℃)又は除菌の何れかによって滅菌する。これらの成分は、一緒に滅菌すること又は必要ならば別々に滅菌することの何れかを行ってよい。全ての培地成分は、培養の最初に添加するか又は、場合により連続的に又は回分的に添加してよい。
【0066】
培養温度は、通常、15〜45℃、好ましくは25〜40℃であり、かつ実験の間、一定に維持させるか又は変更してよい。培地のpH値は、5〜8.5の範囲、好ましくは7.0付近であることが望ましい。培養物のpH値は、培養の間、塩基性化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア若しくはアンモニア水、又は酸性化合物、例えばリン酸又は硫酸の添加によって調節することができる。泡の作用を調節するために、消泡剤、例えば脂肪酸ポリグリコールエステルを使用してよい。プラスミドの安定性を維持するために、培地に好適な選択的作用物質、例えば抗生物質を添加してよい。好気的条件を維持するために、酸素又は酸素含有混合物、例えば周囲空気を培養物中に入れる。この培養は、最大の所望の生成物が形成されるまで継続する。この目的は、通常、10〜160時間内で達成される。
【0067】
こうして得られた、メチオニンを含有する発酵ブロスは、慣用的に、乾燥質量が7.5〜25質量%である。
【0068】
更に、発酵は、少なくとも終盤で糖を制限して行うことも有利であるが、特に少なくとも30%の発酵時間をわたって、糖を制限して行うことが有利である。このことは、この時間の間、発酵培地中の使用可能な糖の濃度を≧0〜3g/lに維持するか若しくは低下させることを意味する。
【0069】
E)メチオニンの精製
本発明により結晶化の後に得られたメチオニンが、依然として所望の純度を有していないのであれば、これらを更に精製してよい。このために、この生成物を溶解した形で、好適な樹脂を有するクロマトグラフィーにかけ、その際、この所望の生成物又は不純物が完全に又は部分的にクロマトグラフィー樹脂上に留まる。このクロマトグラフィー段階は、必要であれば、繰り返してよく、その際、同じ又は別のクロマトグラフィー樹脂を使用する。当業者は、好適なクロマトグラフィー樹脂及びその有効な使用の選択に精通している。精製された生成物は、濾過又は限外濾過によって濃縮し、そして、生成物の安定性が最大である温度で貯蔵してよい。
【0070】
単離された化合物の独自性及び純度は、公知の技術によって測定できる。これらは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、分光的方法、染色的方法、薄層クロマトグラフィー、NIRS、酵素試験、又は微生物学的試験を含む。これらの分析方法は:パテックら著(1994年)応用環境微生物学60号:133〜140頁(Patek et al. (1994) Appl. Environ. Microbiol. 60:133-140);マラクホバら著(1996年)バイオテクノロジー11号27〜32頁(Malakhova et al. (1996) Biotechnologiya 11 27-32);及びシュミットら著(1998年)バイオプロセス工学19号:67〜70頁(Schmidt et al. (1998) Bioprocess Engineer. 19:67-70)、ウールマン工業化学百科事典(1996年)A27巻、VCH:ヴァインハイム、89〜90頁、521〜540頁、540〜547頁、559〜566頁、575〜581頁及び581〜587頁(Ulmann's Encuclopedia of Industrial Chemistry(1996) Bd. A27, VCH:Weinheim, S. 89-90,S. 521-540, S.540-547, S. 559-566, 575-581 und S. 581-587);ミハル・G著(1999年)生化学経路:生物化学及び分子生物学アトラス、ジョンウィリアンドサンズ(Michal, G(1999) Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, John Wiley and Sons);生化学及び分子生物学のラボラトリーテクニック17巻(Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Bd. 17)のファロン・Aら著(1987年)生化学におけるHPLCの応用(Fallon, A. et al.(1987) Applications of HPLC in Biochemistry)にまとめられている。
【0071】
F)バイオマスの乾燥
発酵の完了後に、メチオニンを含有する発酵ブロスを、最終的な乾燥飼料添加剤に直接加工してよい。しかしながら、本発明の好ましい実施形態によれば、最初に、この発酵ブロスからバイオマス分を完全に又は部分的に、好ましくは完全に、例えば遠心分離によって取り出して、そして本発明にかかる飼料添加剤に加工する。生じたバイオマスは、依然として所定のメチオニン分を含有し、該メチオニン分は所望により、中間に提供された洗浄段階によって減少していてよい。
【0072】
本発明にかかるバイオマスを好適な乾燥製品とする後処理は、技術水準から自体公知の種々の方法によって実施してよい。特に、製造には、乾燥方法、例えば噴霧乾燥、噴霧造粒、接触乾燥、流動層乾燥、又は凍結乾燥が好適である。好適な方法は、例えば:
O・クリシェール、W・カスト著 乾燥技術 第1巻「乾燥技術の科学的基礎」、シュプリンガー出版(1978年)(O. Krischer, W. Kast, Trocknungstechnik Erster Band, "Die wissenschaftlichen Grundlagen der Trocknungstechnik", Springer-Verlag 1978);クリシュール/クレール著 乾燥技術 第2巻「乾燥剤と乾燥方法」シュプリンガー出版(1959年)(Krischer/Kroell., Trocknungstechnik Zweiter Band, "Trockner und Trocknungsverfahren", Springer-Verlag 1959);K・クレール、W・カスト著 乾燥技術 第3巻「製造における乾燥と乾燥剤」シュプリンガー出版(1989年)(K.Kroell, W. Kast, Trocknungstechnik Dritter Band,"Trocknen und Trochner in der Produktion", Springer-Verlag 1989);K・マスターズ著「噴霧乾燥ハンドブック」ロングマンサイエンティフィック&テクニカル1991年、725頁(K. Masters, "Spray Drying Handbook", Longman Scientific & Technical 1991, 725 Seiten);H・ウールマン、L・メール著「流動層−噴霧造粒」シュプリンガー出版(2000年)(H.Uhlemann, L. Moerl, "Wirbelschicht-Spruehgranulation", Springer-Verlag 2000);凍結乾燥:ゲオルグ−ヴィルハイム エトイエン著、「凍結乾燥」、VCH1997年(Gefriertrocknung: Georg-Wilheim Oetjen, "Gefrietrocknen", VCH1997)並びにEP−A0809940号に記載されている。上述の文献は参照をもって開示されたものとする。
【0073】
本発明にかかる乾燥段階は、噴霧乾燥、例えば組み込まれた流動床を用いる噴霧乾燥又は噴霧造粒によって実施することが特に好ましい。
【0074】
所望であれば、乾燥を、好適な飼料に適した担体材料の存在下で実施してよく、これにより特に流動性が改善され、これにより製品の質を改善することができる。
【0075】
飼料に適した担体材料としては、慣用の不活性担体を使用してよい。「不活性」担体は、添加剤中に含まれる食料添加剤との負の相互作用を示してはならず、かつ飼料添加剤中の助剤としての使用に懸念を示してはならない。好適な担体材料の例として:天然又は合成由来の無機又は有機化合物を挙げることができる。好適な低分子無機担体は、塩、例えば塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム及び硫酸マグネシウム、又はケイ酸である。好適な有機担体の例は、特に糖、例えばグルコース、フルクトース、サッカロース並びにデキストリン及びデンプン製品である。高分子有機担体の例としては:デンプン調製物及びセルロース調製物、例えば特にトウモロコシデンプン、穀粉、例えば小麦粉、ライ麦粉、大麦粉及びカラスムギ粉又はこれらの混合物若しくは小麦セモリナふすま(Weizengriesskleie)を挙げることができる。この担体材料は、調製物中に、乾燥量基準に対して、約5質量%〜約85質量%、例えば約10質量%〜約30質量%、20質量%〜40質量%又は50質量%〜85質量%の含有率で含まれていてよい。
【0076】
以下に、幾つかの好ましい乾燥技術を一般的な形で簡単に説明する。
【0077】
噴霧乾燥は、最初に、依然として湿潤なバイオマスを噴霧塔中のアトマイザーにポンプ導入して実施してよい。このアトマイジングは、例えば、圧力ノズル(一成分ノズル)、二成分ノズル又は遠心噴霧器を用いて実施する。液滴の乾燥は、噴霧乾燥器中に導かれた熱気流によって実施する。遠心噴霧器を使用する場合には、この乾燥は、並流において実施するのが好ましい。ノズルを使用する場合には、この乾燥は逆流又は混合流中で実施することも好ましい。乾燥した粉末は、塔において排出するか、空気流と一緒に飛沫同伴させ、そしてサイクロン及び/又はフィルター中で分離してよい。生成物及び動作様式に応じて、噴霧乾燥器にフランジ取付形の内部の流動床又は外部の流動床中で実施できる後乾燥が必要でありうる。
【0078】
本発明にかかる乾燥方法の変法においては、乾燥段階、特に噴霧乾燥に、連続的又は不連続的な流動床凝集を後接続する。このために、流動床乾燥器内で、この工程の最初に、粉末形状の材料、例えば噴霧乾燥によって得られた粉末形状の添加剤を装入する。この流動化は、例えば予熱された空気を供給することによって実施する。流動層に液相、例えば更なるバイオマス、又は結合剤を含有する溶液を噴霧し、これにより装入された粉末をこの溶液で湿潤させ、この付着特性によって更に凝集させる。同時に、連続的に又は準連続的、すなわち周期的な間隔で、部分量の凝集物を流動層から排出する。この排出物は、例えばふるいを用いて分級化する。その際に生ずる粗材料は、このときに粉砕し、そして流動床に再び連続的に返送してよい。微細成分、例えば排気フィルター装置からの微細成分は、同様に連続的に返送してよい。
【0079】
更なる好ましい変法は、噴霧乾燥された粉末の引き続いての凝集と結びつくバイオマスの粉末への噴霧乾燥を含む。これは、不連続的又は連続的に実施してよい。連続的な動作様式が好ましい。かかる方法は市販の噴霧乾燥装置を使用して実施できる。しかし、有利には、FSD(流動層噴霧乾燥器(Fluidized Spray Dryer))、SBD(スプレーベッド乾燥器(Spray Bed Dryer))、又はMSD(多段階乾燥器(Multistage Dryer))として公知の装置内で実施する。
【0080】
本発明にかかる乾燥製品の連続的製造のための流動層噴霧乾燥器(FSD)−乾燥装置は、特に、以下の型によって作動させてよい:湿潤なバイオマスを、FSD乾燥器の頂部に供給路を介して導入し、そして噴霧器を用いて噴霧する。この乾燥は、空気を並流で導入することによって実施する。この場合、空気は熱を介して予熱する。噴霧乾燥された粉末は、FSD乾燥器の底部の組み込まれた流動床中に集まり、そこで噴霧装置を用いて圧縮空気の使用下で、例えばこの粉末に結合剤溶液を噴霧し、それを導入された空気で流動させる。このために、空気を予熱し、そして供給路を介して組み込まれた流動床のガス整流板の下方に供給する。その際に生じた前凝集物は、後接続された外部の流動床に達する。この外部の流動床においては、予熱された空気が更なる供給路を介して下方から導入される。この流動床に装入された前凝集物に、更なる噴霧装置を用いて、圧縮空気の使用下で、(例えば、結合剤溶液を)再び噴霧し、そして凝集させて最終生成物を得る。微細な凝集物は、流動床から排出させ、そして上述のとおり、更なる後処理を行ってよい。
【0081】
噴霧される液体の組成及び量は、噴霧される溶液の付着特性、達成されるべき凝集物の大きさ及びプロセス条件に依存する。
【0082】
噴霧されるバイオマスの付着特性が十分でない場合には、噴霧の後に粒子の安定した付着を確保するために、結合剤を付加的に使用することが有利である。これにより、凝集物が乾燥の際に再び分かれることを回避する。かかる場合においては、水性媒質中に可溶であるか又は分散可能な結合剤を流動床中に噴霧することが好ましい。好ましい結合剤の例としては、糖質、例えばグルコース、サッカロース、デキストリン、とりわけ糖アルコール、例えばマンニットの溶液、又はポリマー溶液、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、エトキシ化セルロース(EC)、エチルセルロース又はプロピルセルロースの溶液を挙げることができる。噴霧される結合剤の量及び付着特性の目標とする選択によって、種々の大きさ及び強度の凝集物が生ずる。
【0083】
結合剤を別個の溶液として噴霧するのであれば、この溶液の結合剤含有率は、溶液の全質量に対して約1質量%〜約30質量%の範囲内である。これに関して、この結合剤は、同様に、水性媒質、好ましくは無菌の脱塩水中に溶解して存在している。慣用の添加剤、例えば緩衝液、又は可溶化剤が同様に含まれていてよい。
【0084】
本発明によれば、最終製品中の結合剤の含有率は、0質量%〜約20質量%、例えば約1質量%〜約6質量%である。また、最適な量は選択された結合剤の種類にも依存する。この場合、製品についての悪影響を回避することを留意しなければならない。
【0085】
G)配合物
i)飼料添加剤及び飼料組成物:
本発明にかかるメチオニンを含有する飼料添加剤は、流動性の微細な粉末として若しくは造粒された形で存在していることが好ましい。この場合、粒子は、例えば5〜200μm、例えば10〜150μm、20〜100μm又は30〜80μmの大きさの範囲内であってよいが、これらに限定されるものではない。
【0086】
本発明にかかる添加剤のかさ密度は、約100g/l〜約600g/l、例えば150〜400g/l又は200〜350g/lの範囲内であってよいが、これらに限定されるものではない。
【0087】
本発明にかかる添加剤のメチオニン含有率は、製法に応じて変動する。
【0088】
本発明により得られるメチオニン結晶は更に、メチオニン含有率が、60質量%よりも大きく、例えば約70質量%〜約98質量%、好ましくは約80質量%〜約95質量%、特に好ましくは約87質量%〜約95質量%である。塩(発酵ブロスからの残留物)の含有率は更に、約0質量%〜約20質量%、特に約5質量%〜約15質量%の範囲内であってよい。その他の発酵副成分は、約0質量%〜約20質量%、特に約5質量%〜約15質量%の含有率で含まれていてよい。
【0089】
本発明にかかるバイオマスメチオニンは更に、メチオニン含有率が、3質量%よりも大きく、例えば約5質量%〜約40質量%、又は約10質量%〜約35質量%である。更に、塩の含有率は、約0質量%〜約30質量%、例えば約5質量%〜約25質量%の範囲内であってよい。その他の発酵副成分は、約0質量%〜約20質量%、例えば約5質量%〜約15質量%の含有率で含まれていてよい。
【0090】
最終的な添加剤の残留湿分の含有率は、添加剤の全質量に対して、好ましくは約3質量%未満〜約5質量%未満の範囲内である。前述の質量%は、乾燥生成物(好ましくは残留湿分を有さない)の全質量に対するものである。
【0091】
上述の本発明にかかる配合物は、上述の構成成分の他に、更なる添加剤を含有してよく、それをバイオマスの後処理前、後処理の間又は後処理後に添加してよい。例として、保存剤、抗生物質、抗菌添加剤、酸化防止剤、キレート剤、生理学的に懸念のない塩、調味料、着色剤等を挙げることができる。栄養に関連する添加剤、例えばビタミン(例えば、ビタミンA、B、B、B、B12、C、D及び/又はE、K、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸);タウリン、カルボン酸、例えばトリカルボン酸及びその塩、例えばクエン酸塩、イソクエン酸塩、トランス−/シス−アコニット酸塩及び/又はホモクエン酸塩、酵素、カロチノイド、ミネラル、例えばP、Ca、Mg及び/又はFe及び微量元素、例えばSe、Cr、Zn、Mn、タンパク質、糖質、脂肪、アミノ酸が含まれていてもよい。更に、ピルビン酸、L−カルニチン、リポ酸、コエンザイムQ10、アミノカルボン酸、例えばクレアチン、オロト酸、ミオイノシトール、フラボノイド、ベタイン、p−アミノ安息香酸が含まれていてよい。
【0092】
本発明にかかるメチオニンを含有する飼料添加剤は、市販の動物飼料配合物中に添加でき、次いでそれを例えばウシ、ブタ、ヒツジ、家禽類等に与えることができる。本発明にかかる添加剤は、慣用の動物飼料構成成分と混合し、そして場合により仕上げ、例えばペレット化を行う。慣用の動物飼料構成成分は、例えばトウモロコシ、大麦、カッサバ、カラスムギ、大豆、魚粉、小麦セモリナふすま、大豆油、石灰、ミネラル、微量元素、アミノ酸及びビタミンである。
【0093】
ii)食料補助剤及び飼料補助剤
本発明により製造されたメチオニンは、食品又は飼料中の添加剤又は栄養補助剤及び飼料補助剤、例えば総合ビタミン剤中の添加剤として使用される。このために、本発明により製造された生成物は、所望の量で、かつ自体公知のように、市販の食料及び飼料若しくは食料補助剤又は飼料補助剤中に添加してよい。この場合、使用に応じて種々の適切な含有率で含まれていてよい。
【0094】
iii)被覆配合物
上述の本発明にかかる配合物は、場合により付加的に被覆を有していてよい。この場合、以下から選択された少なくとも1種の化合物を有する被覆剤を施す:
− ポリアルキレングリコール、特にポリエチレングリコール、例えば数平均分子量は約400〜約15000、例えば400〜10000である;
− ポリアルキレンオキシドポリマー又はポリアルキレンオキシドコポリマー、例えば数量的な分子量は約4000〜約20000であり、特にポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンとのブロックコポリマー;
− 置換ポリスチレン、マレイン酸誘導体及びスチレン−マレイン酸コポリマー;
− ビニルポリマー、特にポリビニルピロリドン、例えば数平均分子量は約7000〜約1000000である;単独又は他の化合物、例えばセルロースエーテル又はデンプンとの組み合わせの何れか;
− ビニルピロリドン/ビニルアセテート−コポリマー、例えば数平均分子量は約30000〜約100000である;
− ポリビニルアルコール、例えば数平均分子量が約10000〜約200000でありポリビニルアルコール、及びポリフタル酸ビニルエステル;
− ヒドロキシプロピルメチルセルロース、例えば数平均分子量は約6000〜約80000である;
− アルキル(メタ)アクリレートポリマー及びアルキル(メタ)アクリレートコポリマー、例えば数平均分子量は約100000〜約1000000であり、特にエチルアクリレート/メチルメタクリレート−コポリマー及びメタクリレート/エチルアクリレート−コポリマー;
− ポリビニルアセテート、例えば数平均分子量は約250000〜約700000であり、場合により、ポリビニルピロリドンで安定化されている;
− ポリアルキレン、特にポリエチレン;
− 芳香族ポリマー、例えばリグニン;
− ポリアクリル酸;
− ポリアクリルアミド;
− ポリシアノアクリレート;
− フェノキシ酢酸−ホルムアルデヒド−樹脂;
− セルロース誘導体、例えばエチルセルロース、エチルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート;
− 動物性脂肪、植物性脂肪又は合成脂肪及び改質脂肪、例えばポリグリコール、脂肪アルコール、エトキシ化脂肪アルコール、高級脂肪酸;高級脂肪酸のモノ−、ジ−及びトリグリセリド、例えばグリセリンモノステアラート、アルキルアリールエトキシレート及びヤシ油モノエタノールアミド;
動物性及び植物性ろう又は化学的に改質された動物性及び植物性ろう、例えば蜜ろう、カンデリラろう、カルナウバろう、モンタンエステルろう及び米胚芽ろう、鯨ろう、ラノリン、ホホバろう、サソールろう(sasolwachs);
− 動物性及び植物性タンパク質、例えばゼラチン、ゼラチン誘導体、ゼラチン置換物、カゼイン、ホエイ、ケラチン、大豆タンパク質;ゼイン及び小麦タンパク質;
− モノ−及びジサッカリド、オリゴサッカリド、ポリサッカリド、例えばヒアルロン酸、プルラン、エルシナン、デンプン、化工デンプン、並びにペクチン、アルギン酸塩、キトサン、ガラギナン;
− 植物性油、例えばヒマワリ油、アザミ油、綿実油、大豆油、コーン胚芽油、オリーブ油、ナタネ油、アマニ油、オイルツリー(oelbaum)油、ヤシ油、アブラヤシ油;合成又は半合成油、例えば中鎖トリグリセリド又は鉱物油;動物性油、例えばニシン油、イワシ油、及び鯨油;
− 硬化(水素化又は部分水素化された)油/脂肪、例えば上述のうちの、特に水素化パーム油、水素化綿実油、水素化大豆油;
− 塗料被覆、例えばテルペン、特にセラック、トルーバルサム、ペルーバルサム、サンダラック及びシリコーン樹脂;
− 脂肪酸、飽和C〜C24カルボン酸及びモノ不飽和又はポリ不飽和のC〜C24カルボン酸の両方;
− ケイ酸;
及びこれらの混合物。
【0095】
被覆の前に可塑剤又は乳化剤を脂肪又はろうに添加することは、場合により、皮膜の柔軟性を改善させるのに有利であり得る。
【0096】
被覆の適用は、自体公知のように、場合により添加剤と一緒に、一般的には、混合装置中に存在する有用な生成物上に滴下又は噴霧する装置を介して実施する。この例は、ランス、スプリンクラーヘッド、一成分又は二成分ノズル、回転式滴下装置又はアトマイズ装置である。非常に簡単な事例においては、集中的な噴射としての局所的な添加も考えられる。選択的に、最初に、混合装置内で、被覆材料を装入し、次いで有用な生成物を添加してよい。更なる可能性は、最初に、壁の加熱の結果として又は機械的なエネルギー入力に基づいて溶解し、そして有用な生成物を覆う固体の被覆材料を添加することである。
【0097】
ここで本発明を、添付の図面に関連してより詳細に説明する。その際、図1〜図4は、本発明にかかる結晶性の乾燥メチオニン及びメチオニンを含有する乾燥バイオマス(「バイオマスメチオニン」)の製造方法の異なる展開を示している。
【0098】
実施例1:
a)発酵によるメチオニンの製造
メチオニン精製のための代表的な発酵ブロスの製造のために、実験室発酵を実施した。コリネバクテリウム・グルタミクム株ATCC13032(米国培養細胞系統保存機関 マナッサス、アメリカ合衆国)を、200mlのBHI培地(Difco/Becton Dickinson社、フランクリンレイク(Frankin Lakes)、アメリカ合衆国)の予備培養物中で培養した。次いで、Techfors型発酵槽中において、この予備培養物を培養培地(約14l)中に移種した。
【0099】
本培養の発酵培地は、以下の組成
2g/l KHPO
2g/l KHPO
10g/l 硫酸アンモニウム
100g/l グルコース
5g/l 酵母エキス
20mg/l カナマイシン
1g/l KS911 ASM 消泡剤
pH7.0
であり、脱塩水を所望の最終容量になるまで補充した。
【0100】
微量塩溶液1ml/l培地
【0101】
【表1】

【0102】
1ml/lのプロトカテキュエート溶液(原液300mg/10ml)
ビオチン 1mg/l
チアミン 1mg/l
CaCl 5mg/l。
【0103】
予備培養による発酵槽のインキュベーション後に、この発酵槽を塩基(25%NHOH)の添加によりpH7に維持し、そして糖が消費されるまで発酵させた。このことは、pO2値の増大か若しくはOTR及びCTRの低下によって示された。
【0104】
b)発酵ブロスの後処理
後処理の手順を、図1において図式を用いて概要を示す。
【0105】
出発物質としては、区域a)により製造された発酵ブロスを利用する。30〜40℃の発酵温度では、含まれるメチオニンの約50%が結晶形で存在する。出発生成物は、含水率が約86%であり、高められたメチオニン含有率が約9%、かつバイオマス含有率が約3%である。その他の発酵副生物及び鉱質は、発酵ブロス中に微量(約2.5質量%)で含まれている。
【0106】
この発酵ブロス20kgを、15分にわたって70℃に加熱する。これによりメチオニンが完全に溶解する。次いで、一定の温度で、バイオマスを遠心分離する。次いで、上清(約15kg)を100℃かつ大気圧で、メチオニン含有率が20%になるまで濃縮する。次いで、この濃縮物を5K/hで5℃に冷却し、これにより大部分のメチオニンが結晶化する。次いでこの結晶を、ヌッチェフィルター上で結晶原料から分離し、事前に平衡化された4リットルの水(5℃)で洗浄し、次いで窒素を用いて40℃で吹付乾燥する。この手順によって、純度約90%の乾燥メチオニン1.3kgを単離することができた。
【0107】
遠心分離残留物(約5kg)は、乾燥バイオマスの他に、約6%のメチオニンをも含有する。噴霧乾燥によって、この残留物を、約0.7kgの淡黄色かつ流動性の残留湿分3%の乾燥粉末に変換でき、これは乾燥バイオマス及びその他の発酵副生物及び鉱物塩の他に、メチオニン(約30%)をも含有する。
【0108】
噴霧乾燥は、実験室噴霧乾燥器中で、以下の装置設定で実施した:
入口温度:200℃
出口温度:80〜82℃。
【0109】
加熱ガスとしては、60m/hの窒素を使用した。ノズルガスを、2バールの圧力で、1.2mmのノズルによって噴霧した。
【0110】
実施例2:
同じ出発材料を出発点として、この方法を改変し、バイオマスを遠心分離によって分離し、次いで分離されたバイオマスを5lの水で洗浄する(図2)。遠心分離後に、生じた上清を最初のバイオマス分離物に添加する。全ての上清を、100℃かつ大気圧で、メチオニン含有率が16%になるまで濃縮する。この濃縮物を5K/hで5℃に冷却することによって、メチオニンを結晶化する。この結晶を、ヌッチェフィルター上で分離し、事前に平衡化された4.5リットルの水(5℃)で洗浄し、次いで窒素を用いて40℃で乾燥させる。この手順によって、乾燥メチオニンの量が約1.5kgまで高まる。更に、単離された結晶体の純度は、約90%である。
【0111】
分離及び洗浄されたバイオマスの残留物を、噴霧乾燥によって約0.5kgの乾燥生成物に変換する。
【0112】
このように製造された生成物は、バイオマス及びその他の発酵副生物並びに鉱物塩の他に、メチオニン(約10%)をも含有しており、流動性を示す。
【0113】
実施例3:
同じ出発材料を出発点として、実施例2からの方法を更に改変し、結晶性メチオニンの分離の際に生ずる母液及び洗浄水を、次のバッチ中において、メチオニンを含有する発酵ブロスに再び添加する(図3)。
【0114】
他の点では実施例2と同様の手順で行うと、発酵の際に、結晶化から乾燥メチオニン約1.5kgが純度約90%で得られ、メチオニン含有率が約10%である噴霧乾燥されたバイオマスからは0.5kgの生成物が得られる。
【0115】
実施例4:
同じ出発物質を出発点として、実施例2からの方法を更に改変し、結晶性メチオニンの分離の際に生ずる母液及び洗浄水をバイオマス流に、噴霧乾燥の前に添加する(図4)。
【0116】
他の点では実施例2と同様の手順で行うと、約1.1kgのメチオニン含有バイオマスが生じ、これは乾燥バイオマス及びその他の発酵副生物並びに鉱物塩の他に、メチオニン(約30%)をも含有する。乾燥メチオニンの量は、1.5kgであり、その純度は約90%である。
【0117】
実施例5:
メチオニン結晶化の後の母液及び洗浄水の一部を、バイオマス分離の前に発酵ブロスに添加し、そして他方の部分流を噴霧乾燥の前にバイオマス流に添加する変法(実施例3及び4の組み合わせ)も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明にかかる結晶性の乾燥メチオニン及びメチオニンを含有する乾燥バイオマスの製造方法を示す
【図2】本発明にかかる結晶性の乾燥メチオニン及びメチオニンを含有する乾燥バイオマスの製造方法を示す
【図3】本発明にかかる結晶性の乾燥メチオニン及びメチオニンを含有する乾燥バイオマスの製造方法を示す
【図4】本発明にかかる結晶性の乾燥メチオニン及びメチオニンを含有する乾燥バイオマスの製造方法を示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵により製造されたメチオニンを単離する方法において、
a)メチオニン生産微生物の発酵の際に生ずるメチオニンを含有する液体分画を、液相中のメチオニンの溶解度が増大するのに十分な温度に加熱し、
b)この液体分画から、メチオニンが富化された液相を得て、そして
c)場合により富化された液相を濃縮した後に、メチオニンを結晶化する方法。
【請求項2】
段階a)において、メチオニンを実質的に完全に溶解させるのに十分な条件を選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
約60℃〜約120℃、好ましくは約70℃〜約100℃の範囲内の温度に加熱する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
段階a)において使用される液体分画が、バイオマスを含有する発酵ブロスである、請求項1から3までの何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
段階b)のメチオニンが富化された液相を、それが富化された発酵ブロスからバイオマスを分離することによって得る、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
d)結晶化されたメチオニンを分離し、
e)分離された固体メチオニンを場合により洗浄し、そして
f)それを場合により乾燥させる、請求項1から5までの何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
段階b)において分離されたバイオマスを、
g1)場合により洗浄し、その際、洗浄に使用される液体を場合により加熱し、そして
g3)それを乾燥させる、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
g2)段階g1)において生じた洗液と、段階b)のメチオニンが富化された液相とを合する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
段階d)において生じた母液を、
d1)メチオニン生産微生物を有する別の発酵バッチからのメチオニンを含有する液体分画と合するか;又は
d2)メチオニン生産微生物を有する同じ又は別の発酵バッチから分離されたバイオマスに、段階g3)による乾燥の前に添加する、請求項6から8までの何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
段階e)において生じた洗液を、
e1)メチオニン生産微生物を有する別の発酵バッチからのメチオニンを含有する液体分画と合するか;又は
e2)メチオニン生産微生物を有する同じ又は別の発酵バッチから分離されたバイオマスに、段階g3)による乾燥の前に添加する、請求項6から9までの何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
段階g3)による乾燥が噴霧乾燥段階を含む、請求項7から10までの何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
メチオニンを発酵により製造する方法において、天然微生物又は組換え微生物を自体公知のように発酵させ、そして形成されたメチオニンを、請求項1から11までの何れか1項に記載の方法によって単離する方法。
【請求項13】
メチオニン生産微生物が、コリネバクテリウム属の天然細菌又は組換え細菌から選択される、請求項1から12までの何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
L−メチオニンを単離する、請求項1から13までの何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
飼料又は飼料補助剤の製造のための、請求項7から11までの何れか1項に記載の方法によって得られた段階g3)の乾燥物の使用。
【請求項16】
食料又は飼料若しくは食料補助剤又は飼料補助剤の製造のための、請求項1から14までの何れか1項に記載の方法によって単離されたメチオニンの使用。
【請求項17】
請求項5から11までの何れか1項に記載の方法によって得られた、メチオニンを含有するバイオマス。
【請求項18】
請求項17に記載のバイオマス及び/又は請求項1から4までの何れか1項に記載の方法によって得られたメチオニンを含有する飼料添加剤。
【請求項19】
請求項18に記載の飼料添加剤を含有する飼料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−514430(P2007−514430A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544362(P2006−544362)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014423
【国際公開番号】WO2005/059155
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】