説明

メチルメタクリレート系共重合体の判定方法

【課題】メチルメタクリレート系共重合体(A)からなる成形体表面に存在するメチルメタクリレート系共重合体異物(B)と、上記メチルメタクリレート系共重合体(A)とが同一であるかを判定する方法を提供する。
【解決手段】下記の工程(1)〜(3)を含む、メチルメタクリレート系共重合体異物を判定する方法。
工程(1):メチルメタクリレート系共重合体(A)について、顕微IRスペクトル測定によりパラメータ(イ)〜(ハ)を測定し、それぞれの上限値と下限値決定する工程。
工程(2):メチルメタクリレート系共重合体異物(B)について、顕微IRスペクトル測定によりパラメータ(イ)〜(ハ)を測定する工程。
工程(3):メチルメタクリレート系共重合体異物(B)について測定した上記パラメータ(イ)〜(ハ)とメチルメタクリレート系共重合体(A)の対応するパラメータ(イ)〜(ハ)の上限値、下限値とを比較する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメチルメタクリレート系共重合体の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルメタクリレート単位を優位量とする共重合体から得られる成形品は、容器類、筐体類、被覆部品類、光学製品類等の日用品から工業用品に至るまで様々な用途に幅広く使用されている。
【0003】
それらの製品には、成形品を得るための成形工程や成形品の加工工程又は成形品を他の製品へ組み込む工程等の種々の工程において、種々の異物が付着する場合がある。
【0004】
上記異物の種類としては、成形品の成形工程や成形品の加工工程等の工程の環境によって異なるが、例えば、製造ラインに構造部材として使用される各種金属材料、樹脂材料の破片類、作業者の着衣類に由来する各種繊維類、生体組織(例えば、髪の毛や皮膚の一部)及び生産活動に不可欠な製品の一部(例えば、紙製品類)が挙げられる。
【0005】
上記異物の付着頻度の許容範囲は成形品の用途によって大きく異なるが、例えば、ノートパソコンや液晶テレビ等の液晶表示装置に用いられる導光体や携帯電話等の液晶パネルの被覆体(前面板)等の用途では、視認できるレベルのものは一製品中に一つも許されないほどの厳しい品質管理が求められる場合がある。
【0006】
従って、それらの異物を低減するためには、異物が何であるかを特定すると共に、異物の発生源を特定することが不可欠である。
【0007】
上記の異物は数十μm以下の大きさしかないものも稀ではないため、それらを分析する手法が限定されることも少なくないが、有効な分析手法に顕微赤外吸収スペクトルによる分析がある。
【0008】
しかしながら、上記の異物を定性分析できても、異物の発生源の可能性のある物質が製造環境中等に複数存在した場合、これらの物質の顕微赤外吸収スペクトル(以下、「顕微IRスペクトル」という。)がいずれも類似していて、特定が困難な場合がある。
【0009】
異物を特定できない場合には、異物低減対策を効率的に実施することができず、成形品への付着を低減することが難しい。
【0010】
このような状況において、例えば、上述したような紙製品類(セルロース製品類)、生体組織又はシリコーン等の異物を同定するための分析方法(判別方法)が提案されている。(特許文献1及び特許文献2)
しかしながら、成形品に付着した異物が成形品と成分の類似した物質であった場合、この異物が成形品の一部であるのか、別の原因に由来するものであるのかを顕微IRスペクトルを単純に比較することにより判断することは困難である。
【0011】
このような状況において、リサイクルプラスチックに付着した異物の全反射赤外吸収スペクトル(以下、「IRスペクトル」という。)を測定し、特定の波数範囲に吸収を有するかどうかで、それらの異物が何であるかを識別する方法が提案されている。(特許文献3)
しかしながら、メチルメタクリレート単位を優位量とする共重合体の異物についての識別方法については何ら開示されていない。
【0012】
通常、メチルメタクリレート単位を優位量とする共重合体は分子鎖のメチルメタクリレート単位の繰り返し構造部分(以下、「PMMA構造部分」という。)にシンジオタクティック構造の立体規則性を持っている。
【0013】
PMMA構造部分における上記立体規則性の変化(シンジオタクティック構造が占める割合の変化)は、IRスペクトルのいくつかの特定吸収帯におけるピーク強度の変化によって観測することができる。(例えば、非特許文献1)
即ち、メチルメタクリレート単位を優位量とする共重合体の異物とメチルメタクリレート単位を優位量とする共重合体から得られる成形品や成形品を得るための原料樹脂であるメチルメタクリレート単位を優位量とする共重合体との間において、PMMA構造部分の立体規則性の違いを、顕微IRスペクトルにおける上記吸収のピークの大きさによって比較照合し、それらの特徴に違いがあるか否かを把握できれば、両者が同一であるかを判定することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−304317号公報
【特許文献2】特開2009−156764号公報
【特許文献3】特願2003−227793号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J.Appl.Polym.Sci.,7,P1697(1963)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、メチルメタクリレート系共重合体を含有する成形体中に存在するメチルメタクリレート系共重合体異物と上記メチルメタクリレート系共重合体を含有する成形体を構成するメチルメタクリレート系共重合体との同一性を判定できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の要旨は、下記の工程(1)〜(5)を含む、メチルメタクリレート系共重合体(A)と前記共重合体(A)からなる成形体表面のメチルメタクリレート系共重合体異物(B)とが同一であるかを判定する方法にある。
工程(1):メチルメタクリレート系共重合体(A)について、顕微IRスペクトル測定により下記パラメータ(イ)〜(ハ)を測定し、それぞれの上限値と下限値決定する工程。
工程(2):メチルメタクリレート系共重合体異物(B)について、顕微IRスペクトル測定により下記パラメータ(イ)〜(ハ)を測定する工程。
工程(3):メチルメタクリレート系共重合体異物(B)について測定した上記パラメータ(イ)〜(ハ)とメチルメタクリレート系共重合体(A)の対応するパラメータ(イ)〜(ハ)の上限値、下限値とを比較する工程。
【0018】
パラメータ(イ):波数1,500〜1,470cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度を波数1,800〜1,650cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度で除した値。
【0019】
パラメータ(ロ):波数1,100〜1,020cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度を波数1,800〜1,650cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度で除した値。
【0020】
パラメータ(ハ):波数970〜920cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度を波数1,800〜1,650cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度で除した値。
【発明の効果】
【0021】
本発明により成形体の表面に付着した微小な異物が成形体を構成する共重合体と同一であるか否かを判定できることから成形体表面の異物の付着防止対策の効率的な実施が可能となり、ノートパソコンや液晶テレビ等の液晶表示装置に用いられる導光体や携帯電話等の液晶パネルの被覆体(前面板)等の厳しい品質管理が要求される用途向けの成形体の製造に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本共重合体の波数4000〜650cm−1の範囲における顕微IRスペクトルの一例を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(メチルメタクリレート系共重合体)
本発明において、メチルメタクリレート系共重合体はメチルメタクリレート単位を主体とする共重合体である。メチルメタクリレート以外の、他の単量体としては、特に限定さないが、ノートパソコンや液晶テレビ等の液晶表示装置に用いられる導光体や携帯電話等の液晶パネルの被覆体(前面板)等の異物品質に厳しい用途に使用できる点で、メチルアクリレートが好ましい。前記メチルアクリレート単位の含有量としては15質量%以下が好ましい。
【0024】
(成形体)
本発明において成形体としては、例えば、前記メチルメタクリレート系共重合体を成形して得られる成形体、及び前記メチルメタクリレート系共重合体を得るために使用される単量体原料を重合賦形により得られる成形体が挙げられる。
【0025】
前記共重合体を成形する方法としては、例えば、射出成形法及びシート押出成形法が挙げられる。
【0026】
また、単量体原料を重合賦形する方法としては、例えば、単量体原料を熱重合又は光重合によりシート状に重合賦形する方法が挙げられる。
【0027】
(メチルメタクリレート系共重合体異物)
本発明において、メチルメタクリレート系共重合体異物はメチルメタクリレート単位を主体とする共重合体である。本異物は成形体の成形工程、加工工程又は成形体を他の製品へ組み込む工程等の各種工程において成形体表面に付着したものである。
【0028】
工程(1):メチルメタクリレート系共重合体(A)について、顕微IRスペクトル測定により下記パラメータ(イ)〜(ハ)を測定し、それぞれの上限値と下限値決定する。
【0029】
パラメータ(イ):波数1,500〜1,470cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度を波数1,800〜1,650cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度で除した値。
【0030】
パラメータ(ロ):波数1,100〜1,020cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度を波数1,800〜1,650cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度で除した値。
【0031】
パラメータ(ハ):波数970〜920cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度を波数1,800〜1,650cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度で除した値。
【0032】
本発明においては、メチルメタクリレート系共重合体におけるシンジオタクティック構造に由来する吸収のピーク強度の変化を表すパラメータとして上記3種類のパラメータを特定する。
【0033】
上記のパラメータを特定するために使用される立体規則性を反映するピークは、その強度がPMMA構造部分におけるシンジオタクティック構造の占める割合の変化に依存するものである。
【0034】
上記のピークの一例として、図1に示すメチルメタクリレート94.2質量%及びメチルアクリレート5.8質量%を含有する単量体組成物を共重合して得られた共重合体を射出成形して得られた成形体の顕微IRスペクトルを用いて具体的に説明する。
【0035】
尚、図1の顕微IRスペクトルは、上記の成形体から数10μmの大きさで採取した検体を、波数4,000〜650cm−1の範囲において透過法により測定して得たものである。
【0036】
上記の好適なピークとしては、例えば、波数1,500〜1,470cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピーク(以下、「ピークA」という。)(図1の符号1)、波数1,100〜1,020cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピーク(以下、「ピークB」という。)(図1の符号2)及び波数970〜920cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピーク(以下、「ピークC」という。)(図1の符号3)の3種類が挙げられる。
【0037】
上記3種類のピークは、PMMA構造部分におけるシンジオタクティック構造の占める割合が大きくなるほど強く発現されるため、本異物と本成形体との間で両者の立体規則性の特徴が異なるか否か、即ち、両者が同一の樹脂であるか否かを把握しやすいので好ましい。
【0038】
尚、本発明における上記のピーク強度は、透過測定による透過率若しくは反射測定による反射率又はそれら透過率や反射率から求められた吸光度のいずれかを指し、本発明ではそのいずれを用いても差し支えない。
【0039】
以下の例示では、上記ピーク強度に吸光度を用いて説明する。
【0040】
まず、上記のピークA、ピークB及びピークCのそれぞれの吸光度を基準となる他の吸収のピークの吸光度で除した値(吸光度比)を求める。
【0041】
基準となる他の吸収のピークとしては、その吸光度がPMMA構造部分の立体規則性の変化にあまり依存しないものであれば、特に限定されないが、例えば、波数1,800〜1,650cm−1の範囲に最も強く現れる吸収のピーク(以下、「ピークD」という。)(図1の符号4)を用いることができる。
【0042】
本発明では、上記のパラメータ(イ)、パラメータ(ロ)及びパラメータ(ハ)は、いずれも値が大きいほどPMMA構造部分におけるシンジオタクティック構造の占める割合が大きいことを示唆する。
【0043】
尚、上記のパラメータは、それぞれ任意に分子と分母を入れ替えた吸光度比から求めた値であってもよい。
【0044】
因みに、ピークDの吸光度をピークA、ピークB又はピークCのいずれかの吸光度で除した場合は、値が小さいほどPMMA構造部分におけるシンジオタクティック構造の占める割合が大きいことを示唆する。
【0045】
上記の吸光度は各ピーク毎に特定の波数範囲にベースラインを採り、各ピークの頂点から各ベースラインと交差する点まで垂線を引き、その線分から求めることができる。
【0046】
ベースラインを採る方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0047】
ピークAのベースラインを採る方法としては、チャート上における波数1,500cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と、波数1,470cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを直線で結ぶ方法が挙げられる。
【0048】
ピークBのベースラインを採る方法としては、チャート上における波数1,100cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と、波数1,020cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを直線で結ぶ方法が挙げられる。
【0049】
ピークCのベースラインを採る方法としては、チャート上における波数970cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と、波数920cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを直線で結ぶ方法が挙げられる。
【0050】
ピークDのベースラインを採る方法としては、チャート上における波数1,800cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と、波数1,650cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを直線で結ぶ方法が挙げられる。
【0051】
次に本発明では、得られたパラメータ(イ)〜(ハ)のそれぞれについて各パラメータの平均値と標準偏差を求め、各パラメータの平均値に各パラメータの標準偏差を加えた値を上限値とし、各パラメータの平均値から各パラメータの標準偏差を差し引いた値を下限値とする。
【0052】
即ち、本成形体のパラメータ(イ)の平均値にその標準偏差を加えた値を本成形体のパラメータ(イ)の上限値とし、上記平均値から上記標準偏差を差し引いた値を本成形体のパラメータ(イ)の下限値とする。また、本成形体のパラメータ(ロ)の平均値にその標準偏差を加えた値を本成形体のパラメータ(ロ)の上限値とし、上記平均値から上記標準偏差を差し引いた値を本成形体のパラメータ(ロ)の下限値とする。更に、本成形体のパラメータ(ハ)の平均値にその標準偏差を加えた値を本成形体のパラメータ(ハ)の上限値とし、上記平均値から上記標準偏差を差し引いた値を本成形体のパラメータ(ハ)の下限値とする。
【0053】
なおメチルメタクリレート系共重合体(A)の検体数としては、判別の精度の確保する点で、10箇所(10点)以上が好ましく、検査の効率化も考慮した場合、10〜20箇所(10〜20点)がより好ましい。
【0054】
工程(2):メチルメタクリレート系共重合体異物(B)について、顕微IRスペクトル測定により前記パラメータ(イ)〜(ハ)を測定する。
【0055】
メチルメタクリレート系共重合体異物(B)をメチルメタクリレート系共重合体(A)からなる成形体表面から採取する方法は、光学顕微鏡で確認しながら、針やピンセットを用いた手作業で行ってもよいし、市販のマニュピレータ付き顕微鏡を利用してもよく、特に限定はされないが、本成形品を傷つけない方法を選択することが好ましい。
【0056】
本異物の採取の際に本成形品を傷つけてしまうと、本成形品の破片が本異物を汚染してしまい、本異物の正確な顕微IRスペクトルを得にくくなるため好ましくない。
【0057】
メチルメタクリレート系共重合体異物(B)は、成形体から採取できる検体の点数に制限がある場合が多いが、一つの成形体から、2点以上の異物を採取し、それぞれ顕微IRスペクトル測定を実施することが好ましい。
【0058】
本異物を2点以上採取することが困難な場合は、1個の本異物を採取し、これをデザインナイフ等を用いて、上述の顕微IRスペクトル上のノイズに大きな影響を与えない大きさ(20μm以上が好ましい)を限度として分割したものを検体とすることも可能である。
【0059】
工程(3):本発明では、メチルメタクリレート系共重合体異物(B)について測定した上記パラメータ(イ)〜(ハ)と、メチルメタクリレート系共重合体(A)の対応するパラメータ(イ)〜(ハ)の上限値、下限値とを比較することで、メチルメタクリレート系共重合体(A)からなる成形体表面のメチルメタクリレート系共重合体異物(B)と上記メチルメタクリレート系共重合体(A)とが同一であるかを判定する。
【0060】
N個のメチルメタクリレート系共重合体異物(B)の検体の測定を行い、パラメータ(イ)〜(ハ)の全てのパラメータがメチルメタクリレート系共重合体(A)の対応するパラメータ(イ)〜(ハ)の上限値と下限値の範囲内にある検体の数をn個とした場合、nが検体の総数Nの50%以上である場合、チルメタクリレート系共重合体(A)と前記共重合体(A)からなる成形体表面のメチルメタクリレート系共重合体異物(B)とが同一であると判断する。
【0061】
顕微IRスペクトル測定方法としては、市販の顕微IRスペクトル測定装置を使用し、公知の透過法や反射法等の方法を用いることができ、特に限定はされないが、別途スペクトルの補正を必要としない等の理由から、透過法で行うことが好ましい。
【0062】
透過法で顕微IRスペクトル測定を行う場合、検体を顕微IRスペクトル測定専用のダイヤモンドセル(例えば、住友電工(株)製Diamond EX’Press)に乗せて行うことが好ましい。
【0063】
尚、顕微IRスペクトル測定装置としては、市販の顕微IRスペクトル測定装置を使用することができる。
【0064】
顕微IRスペクトル測定する波数としては、例えば、4,000〜650cm−1の範囲が挙げられる。
【0065】
また、顕微IRスペクトル上のノイズによる弊害を受けなければ、積算回数や分解値(cm−1)等の条件は任意であってもよいが、一例として、積算回数:64〜256回、分解値:4〜8cm−1が好ましい。
【0066】
さらに、1回の測定領域(アパーチャーエリア)に特に上限はなく、検体の大きさに応じて、可能な限り広く設定することが、分析精度を確保する上で好ましい。
【0067】
逆に、検体の大きさが20μm以下しかない場合は、後述する各ピーク分析が、顕微IRスペクトル上のノイズによる弊害を受けてしまうため、好ましくない。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例によって、更に詳しく説明する。
(1)検体
(1−a)成形体
顕微IRスペクトル分析する成形体としては、表1に示すメチルメタクリレート(以下、「MMA」という)とメチルアクリレート(以下、「MA」という)の組成比を有する単量体組成物を重合して得られた共重合体を射出して得られた成形体(あ)〜(う)を用いた。
【0069】
【表1】

【0070】
(1−b)異物
顕微IRスペクトル分析する異物としては、上記の成形体(あ)〜(う)のそれぞれの表面に付着した50〜100μmの異物10点を検体として用いた。
【0071】
また異物(あ)〜(う)におけるそれぞれ10点の検体の名称を「n1」〜「n10」とした。
【0072】
尚、異物(あ)〜(う)は、いずれも異物の付着状況及び成形体(あ)〜(う)の製造環境等に鑑みて、異物(あ)〜(う)が付着していた成形体に由来するものである可能性が最も高いと予測されるものである。
【0073】
(2)異物の検体のサンプリング方法
成形体の表面に付着した異物の検体を実体顕微鏡((株)ニコン製、商品名:SMZ−U実体顕微鏡)下で針を用いて採取し、それをダイヤモンドセル(住友電工(株)製、商品名:Diamond EX’Press)上に移したものを顕微IRスペクトル分析用のサンプルとした。
【0074】
(3)成形体の検体のサンプリング方法
成形体の表面の異なる10箇所から、デザインナイフを用いて50〜100μmの大きさの検体を削り取り、それをダイヤモンドセル(住友電工(株)製、商品名:Diamond EX’Press)上に移したものを顕微IRスペクトル分析用のサンプルとした。
【0075】
(4)検体の顕微IRスペクトル測定
上記で得られた成形体の検体及び異物の検体について、波数4,000〜650cm−1の範囲における顕微IRスペクトル測定を、顕微IRスペクトル分析装置(日本分光(株)製、FT/IR420赤外分光光度計に付属するMICRO20顕微赤外分光光度計)を用いて行った。
上記測定は透過法で行い、アパーチャーエリアは50×50μmとし、積算回数を256回とし、分解を8cm−1とした。
【0076】
(5)パラメータ(イ)〜(ハ)の特定
上記で得られた成形体の検体及び異物の検体について得られた全ての顕微IRスペクトルについて下記の方法によりパラメータ(イ)〜(ハ)を求めた。
【0077】
(5−a)パラメータ(イ)の特定方法
顕微IRスペクトルにおける、波数1,500〜1,470cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピーク(ピークA)の吸光度を波数1,800〜1,650cm−1の範囲に最も強く現れる吸収のピーク(ピークD)の吸光度で除した値をパラメータ(イ)とした。
【0078】
ピークAの吸光度は、チャート上における波数1,500cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と、波数1,470cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを直線で結んでベースラインAとし、ピークAのピークトップとベースラインAとが交差する点まで垂線を引き、その線分とした。
【0079】
ピークDの吸光度は、チャート上における波数1,800cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と、波数1,650cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを直線で結んでベースラインDとし、ピークDのピークトップとベースラインDとが交差する点まで垂線を引き、その線分とした。
【0080】
(5−b)パラメータ(ロ)の特定方法
顕微IRスペクトルにおける、波数1,100〜1,020cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピーク(ピークB)の吸光度を上記のピークDの吸光度で除した値をパラメータ(ロ)とした。
【0081】
ピークBの吸光度は、チャート上における波数1,100cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と、波数1,020cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを直線で結んでベースラインBとし、ピークBのピークトップとベースラインBとが交差する点まで垂線を引き、その線分とした。
【0082】
(5−c)パラメータ(ハ)の特定方法
顕微IRスペクトルにおける、波数970〜920cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピーク(ピークC)の吸光度を上記のピークDの吸光度で除した値をパラメータ(ハ)とした。
【0083】
ピークCの吸光度は、チャート上における波数970cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と、波数920cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを直線で結んでベースラインCとし、ピークCのピークトップとベースラインCとが交差する点まで垂線を引き、その線分とした。
【0084】
(5)成形体の検体のパラメータ(イ)〜(ハ)の上限値及び下限値の設定
成形体(あ)〜(う)におけるそれぞれの10検体について、パラメータ(イ)〜(ハ)のそれぞれの平均値及び標準偏差を求め、成形体(あ)〜(う)のパラメータ(イ)〜(ハ)のそれぞれについて平均値に標準偏差を加えた値を上限値とし、平均値から標準偏差を差し引いた値を下限値とした。成形体(あ)〜(う)の各検体におけるパラメータ(イ)〜(ハ)の上限値及び下限値を表2に示す。
【0085】
(6)異物(あ)〜(う)についてのパラメータ(イ)〜(ハ)の結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
(7)同一であるかの判定
表2に、パラメータ(イ)〜(ハ)の全てのパラメータがメチルメタクリレート系共重合体(A)の対応するパラメータ(イ)〜(ハ)の上限値と下限値の範囲内にあるものを○として示した。
【0088】
異物(あ)では50%、異物(い)では60%、異物(う)では60%であり、成形体と異物が同一であると判断できる。
【符号の説明】
【0089】
1:ピークA
2:ピークB
3:ピークC
4:ピークD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(1)〜(3)を含む、メチルメタクリレート系共重合体(A)と前記共重合体(A)からなる成形体表面のメチルメタクリレート系共重合体異物(B)とが同一であるかを判定する方法。
工程(1):メチルメタクリレート系共重合体(A)について、顕微IRスペクトル測定により下記パラメータ(イ)〜(ハ)を測定し、それぞれの上限値と下限値決定する工程。
工程(2):メチルメタクリレート系共重合体異物(B)について、顕微IRスペクトル測定により下記パラメータ(イ)〜(ハ)を測定する工程。
工程(3):メチルメタクリレート系共重合体異物(B)について測定した上記パラメータ(イ)〜(ハ)とメチルメタクリレート系共重合体(A)の対応するパラメータ(イ)〜(ハ)の上限値、下限値とを比較する工程。
パラメータ(イ):波数1,500〜1,470cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度を波数1,800〜1,650cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度で除した値。
パラメータ(ロ):波数1,100〜1,020cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度を波数1,800〜1,650cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度で除した値。
パラメータ(ハ):波数970〜920cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度を波数1,800〜1,650cm−1の範囲に現れる吸収の最も強いピークの強度で除した値。
【請求項2】
メチルメタクリレート系共重合体が15質量%以下のメチルアクリレート単位を有する共重合体である請求項1に記載のメチルメタクリレート系共重合体異物の判定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−164045(P2011−164045A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29820(P2010−29820)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】