説明

メッキコンタクト及びコンタクトのメッキ方法

【課題】半田上りを防止するために必要なバリア領域を、容易、且つ低コストで、さらに確実に形成できるメッキコンタクト及びそのメッキ方法を提供する。
【解決手段】一端側に端子部が形成され、他端側に接触部が形成される本体の外表面にニッケル系下地メッキ11を施す。つぎに、この下地メッキ11に前記一端側から、その終端12aに至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面12bとされる金系メッキ12を施す。つぎに、この下地メッキ11上に前記他端側から、前記金系メッキより厚肉であって、その終端13aに至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面13bとされる錫系メッキ13を施す。この際、前記金系メッキ12の終端12bに至る傾斜面12bに前記錫系メッキ13の終端13bに至る傾斜面13bが乗り上げる乗り上げ部16が形成される。そして、前記乗り上げ部16を含む前記錫系メッキ13の終端13aに至る傾斜面13bに露出状態となった、前記ニッケル系メッキ11との合金層15を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品であるコネクタなどの各種端子に用いられるコンタクトであって、詳しくは金や錫などのメッキ処理が施されたメッキコンタクト、及び、コンタクトのメッキ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンタクトは、主として相手側コネクタ及びプリント配線基盤における相互間の接続に供されるコネクタ内に嵌装され、一端側には相手側コネクタと電気的接触するための端子部を、他端側にはプリント配線基盤へ半田付けにより実装接続されるための接触部を有するものとなっている。
【0003】
前記コンタクトには、銅合金等からなるコンタクト素材の全面に亘り下地メッキとしてニッケル或いはニッケル合金メッキ(単に「ニッケル系メッキ」という)が施されており、前記端子部には、端子部における接触電気特性を向上させるため、例えば金や金合金などの接点用メッキ(単に「金系メッキ」という)が施されている。
一方、前記接触部には、接触部での半田に対する親和性を向上させるために、例えば錫や錫合金などの半田メッキ(単に「錫系メッキ」という)が施されている。
【0004】
このような2種類のメッキが施されたコンタクトにおいて、実装時、前記接触部の溶融半田が前記端子部側へ這い上り、又は吸い上る、所謂「半田上り」が発生する。
従って、前記接触部上の溶融半田が前記端子部側に達し、つまり半田上りが発生し、前記端子部の金メッキ上に半田が付着することによって、端子部における接点電気特性が極端に劣化する。これを阻止するために、接触部と端子部との間の連設部にバリア領域を形成する必要がある。
【0005】
従来、この種のコンタクトにおける周知技術として、例えば、連設部に半田濡れ性の低い、極薄い錫とニッケルとの合金層(単に「極薄合金層」という)をマスキングベルトを用いて設けることにより、これをバリア領域としたコンタクト(特許文献1参照)が挙げられる。
【0006】
特許文献1は半田上りを防止する目的で連設部にバリア領域を有するコンタクトの一例を示しており、この連設部において錫系メッキに隣接した極薄合金層を有し、これをバリア領域としていることを特徴としている。
前記例では、メッキ製造方法として、マスキングベルトを利用したメッキ法、所謂「ドラム法」を採用している。しかし、この製造方法では、金系メッキ製造時にマスキング部から金系メッキ液が浸入することで、連設部で極薄い「金にじみ」が生じ、そのままでは半田上りを助勢する。
【0007】
ここで、前記極薄合金層は、ニッケル系メッキ層上にメッキされた極薄い錫系メッキ層に対してリフロー処理をすることにより形成される。例え、リフロー処理以前に、極薄い錫メッキ層上に金にじみが達し、極薄い金メッキ層が形成された場合でも、リフロー処理と同時に極薄い金メッキ層は極薄い錫メッキ層中に溶解し、さらに半田に対して濡れ性が極端に劣化した極薄合金層がその表面に至るまで形成され、これがバリア領域として機能する。
【特許文献1】特開2003−342782号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の構成において、極薄合金層の形成過程により極薄錫系メッキ層上の金にじみ問題を解消し、バリア領域を形成するという工程は、少なくとも金にじみが極薄合金層上に残るなどの不確実な要素を含んでいる。
また、前記工程は、極薄錫系メッキ層を形成するために利用される、高度な技術を要するマスキングベルトなどの装置の維持及び管理などを必要とし、メッキ製造工程が複雑、且つ高コストである。
【0009】
従って、本発明は、金系メッキや錫系メッキなどのメッキ処理が施されたコンタクトにおいて、半田上りを防止するために必要なバリア領域を、容易、且つ低コストで、さらに確実に形成できるメッキコンタクト、及びこのコンタクトのメッキ方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、第1の発明は、一端側に端子部が形成され、他端側に接触部が形成されるコンタクトであって、
このコンタクトの外表面に施されるニッケル系下地メッキと、
この下地メッキ上に前記一端側から施され、その終端に至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面とされる金系メッキと、
この下地メッキ上に前記他端側から施され、前記金系メッキより厚肉であって、その終端に至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面とされる錫系メッキと、
前記金系メッキの終端に至る傾斜面に前記錫系メッキの終端に至る傾斜面が乗り上げて形成される乗り上げ部と、
前記乗り上げ部を含む前記錫系メッキの終端に至る傾斜面に露出状態で形成される、前記ニッケル系メッキとの合金層と、を備えなることを特徴としている。
【0011】
これにより、前記金系メッキの終端に至る傾斜面に前記錫系メッキの終端に至る傾斜面が乗り上げていることにより、リフロー処理時に形成される前記合金層が前記錫系メッキの表面に至るまで確実に形成され、前記金系メッキにその表面が覆われることがない。従って、溶融半田に対して低い濡れ性を有した前記合金層が前記錫系メッキの終端に至る傾斜面に、その表面に至るまで十分に形成されることにより、半田上りを確実に阻止することができる。
【0012】
第2の発明は、第1発明記載のメッキコンタクトであって、前記金系メッキの厚みは、0.03〜0.1μであり、前記錫系メッキの厚みは1〜4μであることを特徴としている。
【0013】
これにより、前記金系メッキの厚みを前記錫系メッキの厚みの100〜10分の1とすることで、リフロー処理の際、前記乗り上げ部における前記合金層の形成に対して、前記金系メッキが影響を及ぼさないようにする。
【0014】
第3の発明は、第2発明記載のメッキコンタクトであって、前記錫系メッキの終端における前記金系メッキの厚みは、0.04μ以下であることを特徴としている。
【0015】
これにより、前記錫系メッキの終端における前記金系メッキの厚みを0.04μ以下とすることで、溶融半田に対して低い濡れ性を有した前記合金層が前記錫系メッキの終端に至る傾斜面に、より十分に形成されることで、半田上りをさらに確実に阻止することができる。
【0016】
第4の発明は、第1発明又は第2発明記載のメッキコンタクトであって、前記端子部は、一対の端子片を対向させて形成され、前記境界部は、前記端子片の根元に形成されることを特徴としている。
【0017】
これにより、前記バリア領域を要する境界を最小限とすることで、より確実に接触部からの端子部への半田上りを阻止することができる。
【0018】
第5の発明は、一端に端子部が形成され、他端側に接触部が形成されるコンタクト本体の多数を、前記接触部側の端で保持部に連設したコンタクト列によるメッキ方法であって、
このコンタクト列の全体をニッケル系メッキ槽に漬けて、コンタクト列の全体にニッケル系下地メッキを施す工程と、
前記コンタクト列を前記端子側から金系メッキ槽に漬けて、この下地メッキ上に前記一端側から前記接触部に至るまでの途中までに金系メッキを施し、その終端に至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面を形成する工程と、
前記コンタクト列を前記保持部の側から錫系メッキ槽に漬けて、この下地メッキ上に前記金系メッキに至るまでの錫系メッキを施し、その終端に至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面を形成すると共に、前記金系メッキの終端の傾斜面に前記錫系メッキの終端の傾斜面が乗り上げて乗り上げ部を形成する工程と、
リフロー処理して、前記錫系メッキの終端の傾斜面に露出する、前記錫系メッキと前記ニッケル系メッキとの合金層を形成する工程と、を備えることを特徴としている。
【0019】
これにより、前記金系メッキの終端に至る傾斜面に前記錫系メッキの終端に至る傾斜面が乗り上げるという構成が、簡単且つ確実に形成される。従って、溶融半田に対して低い濡れ性を有した前記合金層が、前記金系メッキにその表面を覆われることなく、前記錫系メッキの終端に至る傾斜面に、その表面に至るまで十分に形成されることにより、半田上りを確実に阻止することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明のメッキコンタクト、及びコンタクトのメッキ方法は、金系メッキや錫系メッキなどのメッキ処理が施されたコンタクトにおいて、金系メッキ層の終端に乗り上げるように錫系メッキ層を形成することで、下地のニッケル系メッキ層と錫系メッキ層との合金層を、錫系メッキ層の表面に至るまで確実に露出した状態で形成する構成とされるので、メッキ時にメッキ槽の液面を管理するだけで、容易、且つ低コストに、さらに確実にバリア領域を形成することができる。また、本発明は、前メッキ或いは後メッキのいずれにおいても有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るメッキコンタクト及びそのメッキ方法の実施形態例について説明する。
【0022】
まず、メッキコンタクトの構成を、図1乃至図3に基づいて説明する。
図1において、メッキコンタクト1は、所定形状の本体2の外周に所定のメッキを施して形成される。
本体2は、黄銅、りん青銅のような銅合金からなる金属板をプレス成形加工して所定形状に加工される。メッキが施された本体2は、一端側から延在し、電気的な接続を達成する端子部3と、他端側に位置し、基板に半田付けされる接触部4と、端子部3と接触部4との間の連設部5からなる。
端子部3は、可動の端子片3aと固定の端子片3bとからなる一対の端子片3a、3bを対向させたコの字状となっている。接触部4は、基板に半田付けし易いようにL字形状になっている。
この端子部3の一端側から金系メッキ層12が形成され、この接触部4の他端側から錫系メッキ層13が形成される。これら金系メッキ12と錫系メッキ13との境界部14は、前記端子片3a,3bの根元部に形成される。
【0023】
本体2に対するメッキの構成を、図1のA−A線断面図である図2、及び図2の部分拡大図である図3により更に説明する。まず、本体2の外周に、ニッケル系下地メッキ層11が形成される。ニッケル系メッキとは、ニッケル又はニッケル合金によるメッキのことである。ニッケル系下地メッキ層11は、通常1〜2μの厚みを有する。
本体2の端子部側(一端側)から、ニッケル系下地メッキ層11の上に金系メッキ層12が形成される。金系メッキとは、金又は金合金によるメッキのことである。この金系メッキ層12は、0.03〜0.1μの厚みを有する。
本体2の接触部側(他端側)から、ニッケル系下地メッキ層11の上に錫系メッキ層13が形成される。錫系メッキ層13とは、錫又は錫合金によるメッキのことである。この錫系メッキ層13は、1〜4μの厚みを有し、前記金系メッキ層12の10〜100倍の厚みとなっている。そして、この錫系メッキ層13の内側は、錫とニッケルとの合金層15が形成されている。この合金層15は、350℃以上の高温によるリフロー処理により、ニッケル系メッキと錫系メッキとの熱拡散によって形成される。
【0024】
図3により、この金系メッキ層12と錫系メッキ層13との境界部14近傍を更に説明する。金系メッキ層12の端は、その終端12aに至るまで徐々に厚みが薄くなる傾斜面12bとなっている。錫系メッキ層13の端も、その終端13aに至るまで徐々に厚みが薄くなる傾斜面13bとなっている。錫系メッキ層13の終端13aが、金系メッキ層12の傾斜面12bに乗り上げることで、乗り上げ部16が形成される。この乗り上げ部16の高さは、好ましくは0.04μ以下である。そして、錫系メッキ層13の終端13aには、谷状のくぼみが形成されることが好ましい。
錫系メッキ層13の終端13aに至る傾斜面13b及び乗り上げ部16には、ニッケルと錫との合金層15が露出状態で形成される。なお、この傾斜面13b以外の錫系メッキ層13の表層は、錫系金属が露出したままである。
【0025】
錫系メッキ層13の錫系金属は、溶融半田材に対して濡れ性がある。また、金系メッキ12の金系金属も、溶融半田材に対して濡れ性がある。ただ、合金層15を形成するニッケルと錫との合金は、溶融半田材に対して濡れ性がなく、溶融半田の上りを阻止する作用がある。そのため、図4に示すように、基板に半田付けされる際の溶融半田17の吸い上り現象、すなわち半田上りは、境界部14近傍、或いは接触部4側であって境界部14の手前で止まることとなる。
【0026】
このようなメッキコンタクト1は、図5に示されるように、プリント基板用のコネクタ31に好適に用いられる。コネクタ31、ハウジング32内に多数のメッキコンタクト1を嵌入固定し、ハウジング32内にスライドハウジング33をスライド可能に取り付けた構造である。このコネクタ31は、プリント基板35の上に設置され、メッキコンタクト1の接触部4において基板に半田付けされる。フラットケーブル36がハウジング32内に差し込まれ、スライドハウジング33を押し込むことにより、フラットケーブル36が、メッキコンタクト1の端子部3の端子片3aに電気的に接続される。このとき、メッキコンタクト1に接触部4からの半田上りがあったとしても、境界部14近傍、或いは接触部4側であって境界部14の手前で半田上りが止まる為、端子部3の接触電気特性を劣化させる半田が付着することがない。
【0027】
上述した構成のメッキコンタクト1によると、金系メッキ12の厚みが0.03〜0.1μと薄く形成され、しかも終端12aに至る傾斜面12bを有するため、錫系メッキ13の終端13aが乗り上げる部分の金系メッキの厚みを薄くすることができる。
また、錫系メッキ13の厚みが1〜4μと、金系メッキ12の10〜100倍の厚みに形成されるため、錫系メッキ13の終端13aに至る傾斜面13bは広い範囲で形成される。そのため、錫系メッキ13とニッケル系下地メッキ11との合金層15も広い範囲にわたって形成される。
また、錫系メッキ13の乗り上げ部16の下の金系メッキ12は薄く僅かであるため、乗り上げ部16に至る合金層15の形成に対して前記金系メッキ12が邪魔することが少ない。
【0028】
このように、半田上りに対するバリアとなる合金層15が、金系メッキ12が存在するにもかかわらず、広い範囲で形成されるため、半田上りに対するバリア機能が有効に作用する。
【0029】
次に、上述したメッキコンタクトのメッキ方法を図6により説明する。
(コンタクト列のプレス成形)
まず、黄銅、りん青銅のような銅合金からなる金属板をプレス成形加工することにより、図1で示される本体2の多数が、その接触部4の側の端で保持部21に連結されたコンタク列22に加工される。
多数連結された本体2の各々は、一端側の端子部3と、他端側の接触部4とを有する。
この本体2は、前記接触部4側の端に設けられた保持部21において多数連なっており、従って一度に多数の本体2を同じ条件でメッキ処理できることから、その生産性が高くなっている。
【0030】
(ニッケル系下地メッキ工程)
次に、このコンタクト列22の全体をニッケル系メッキ槽に漬けることで、コンタクト列22すなわち本体2の外周に亘ってニッケル系下地メッキ層の厚みが1〜2μとなるように、ニッケル系下地メッキ11を施す。
【0031】
(金系メッキ工程)
次に、図6のa方向から、コンタクト列22を前記端子部3の側から金メッキ槽に漬けることで、ニッケル系メッキ層11の上に、前記一端側から前記接触部4に至るまでの途中までであって、前記端子部3の端子片3a,3bの根元付近まで、金系メッキ層の厚みが0.03〜0.1μとなるように、金系メッキ12を施す。その際、前記金系メッキ12の終端12aに至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面12bとなるように、金メッキ槽の液面を管理する。
【0032】
(錫系メッキ施工とその乗り上げ部形成工程)
次に、図6のb方向から、コンタクト列22を前記接触部4の側から錫系メッキ槽に漬けることで、前記ニッケル系メッキ層11上に、前記他端側から前記金系メッキ12に至るまで、錫系メッキ層の厚みが1〜4μとなるように、錫系メッキ13を施す。その際、前記錫系メッキ13の終端13aに至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面13bとなると共に、前記金系メッキ12の終端12aに至る傾斜面12bにこの錫系メッキ13の終端13aに至る傾斜面13bが乗り上げる乗り上げ部16が形成されるように、錫系メッキ槽の液面を管理する。この液面管理によって、前記乗り上げ部16の高さ、すなわち前記錫系メッキ13の終端13aにおける前記金系メッキ層12の厚みが、0.04μ以下になり、さらに、前記錫系メッキ13の終端13aに、谷状のくぼみが形成される。
【0033】
(リフロー処理と合金層の形成工程)
次に、コンタクト列22を350℃以上の高温にてリフロー処理することで、乗り上げ部16を含む、錫系メッキ層13の終端13aに至る傾斜面13bにおいて、ニッケル系メッキ11と錫系メッキ13とが熱拡散される。これにより、前記乗り上げ部16を含む前記傾斜面13bに、その表面に至る露出状態となって、錫とニッケルとの合金層15が形成される。
ここで、前記錫系メッキ層13の厚みが前記金系メッキ層12の厚みよりも10〜100倍であることと、前記錫系メッキ層13の終端13aに至る傾斜面13bが前記金系メッキ層12の終端12aに至る傾斜面12bに乗り上げて形成されていることと、前記錫系メッキ層13の終端13aにおける金系メッキ層12の厚みが0.04μ以下とされることと、により前記合金層15がより確実に、前記乗り上げ部16を含む前記傾斜面13bに、その表面に至る露出状態となって、形成される。
【0034】
(コンタクト列からの切り離し工程)
次に、コンタクト列22から、メッキされた本体2を切り離すことにより、所望のメッキコンタクト1を得ることができる。ここで、前述の切り離した箇所におけるメッキコンタクト1の切断面では、図2の右端に見られるように、本体2が露出しているが、メッキコンタクト1の機能には影響しない。
【0035】
上記メッキ法によると、まず、終端に至る傾斜面を有する薄い金系メッキ12を形成した後、液面管理法により、金系メッキ12の終端12aに至る傾斜面12bのより薄いところに、厚みのある錫系メッキ13を乗り上げさせるため、厚みのある錫系メッキ13の終端13aの位置を制御して、図3のようなメッキ構造を簡単且つ確実に形成できる。
【0036】
上記実施例では、図1に示すようなコンタクトに、金系メッキ層12に乗り上げるようにメッキされた錫系メッキ層13を基に、バリア領域、すなわち合金層15を形成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本願発明の技術的思考を逸脱しない範囲において自由に設計することができる。
【0037】
このメッキが適用されるコンタクトの形状は様々なものがある。例えば短冊状の細長い直線状のコンタクトであって、その一端側に端子部が形成され、その他端側に接触部が形成されたコンタクトにも適用できる。また、L字状に折り曲げられたコンタクトであって、その一端側に端子部が形成され、その他端部に接触部が形成されたコンタクトにも適用できる。
【実施例】
【0038】
本発明の作用効果を実証するために以下の実験を行った。
この実験では、厚さ(T)0.12〜0.2mmのばね用りん青銅とされるコネクタ用プレス材から、図1に示す形状のコンタクト1をプレス加工により作製し、その全体に亘って厚さが1μ以上になるように、下地メッキであるニッケルメッキを施した。
次いで、コンタクト1の端子部3から、その終端が徐々に薄くなる傾斜面になる、厚さが0.03〜0.1μの接点用メッキである金メッキを施した。
【0039】
続いて、コンタクト1の接触部4から、その終端が徐々に薄くなる傾斜面で、且つ、その終端が前記金メッキの終端に乗り上げるように液面を管理しながら、厚さが1〜4μになるように、半田濡れ性の良好な錫メッキを施した。
【0040】
このとき、錫メッキの終端、すなわち、その厚みがゼロとなるところにおける金メッキの厚みが、0.01μ、0.02μ、0.03μ、0.04μ、0.05μとなるものを作成し、各々本発明例1、2、3、4、5とした。
【0041】
このようにして作製されたコンタクト列22に対して、リフロー処理を施した。その際、コンタクト列22の材料温度は約400℃とした。
【0042】
また、比較例1として、ニッケル下地メッキの全面に亘って、厚さが0.03〜0.1μとなるように、接点用メッキである金メッキを施したものを作成した。ただし、この比較例1では、錫系メッキを施していない。
【0043】
さらに、比較例2として、ニッケル下地メッキの全面に亘って、厚さが1〜4μになるように、半田濡れ性の良好な錫メッキを施し、約400℃でリフロー処理を施したものを作成した。ただし、この比較例2では、金系メッキを施していない。
【0044】
このようにして得られた、本発明例1乃至5と、比較例1及び2に係るコンタクト1を用いて、半田実装試験の模擬試験を実施した。すなわち、コンタクト1の接触部4を一般的な電子基盤に、96.5%錫(Sn)3%銀(Ag)0.5%銅(Cu)の半田を用いて、窒素(N2)などの雰囲気(約100〜260℃、2〜3分)にてリフロー実装し、半田の付着状態を観察した。結果を表1に表す。
【0045】
(実験結果)
【表1】

【0046】
表1より、錫メッキの終端における金メッキの厚みが0.04μ以下の場合、すなわち本発明例1乃至4の場合、接触部4からの半田上りは、境界部14近傍、或いは接触部4側であって境界部14の手前で停止する。
【0047】
一方、錫メッキの終端における金メッキの厚みが0.05μの場合、すなわち本発明例5の場合、接触部4からの半田上りは、境界部14近傍、或いは接触部4側であって境界部14の手前で常に停止するとは限らず、境界部14を越える場合もある。
しかしながら、本発明例5の場合では、接触部4からの半田上りが境界部14を越えることはあっても、端子部3であって、相手側コネクタと電気的接触する接点箇所にまで達することはない。
【0048】
従って、錫メッキの終端における金メッキの厚みが薄いほど、好ましくは前記厚みが0.04μ以下であってより薄いほど、半田上りがより確実に停止することが分かる。
【0049】
又、メッキコンタクト1の全面に亘って、金メッキ、或いは錫メッキを施行した比較例1、及び2では、バリア領域が設けられていないため、メッキコンタクト1の全面に亘って半田上りが確認された。
【0050】
とくに、本発明例3における、境界部14近傍の各メッキ層の厚みを測定した結果を図7に示す。また、本発明例3における、半田上りの状況を図8により模式的に示す。
【0051】
本発明例3の場合、半田上りは、境界部14近傍で止まっていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】メッキコンタクトの側面である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】メッキコンタクトの境界部を示す拡大断面図である。
【図4】メッキコンタクトの境界部における半田上りの停止を模式的に示す拡大断面図である。
【図5】メッキコンタクトが装着されたコネクタの側面の断面図である。
【図6】コンタクトが列設されたコンタクト列の上面図である。
【図7】本発明例3の境界部14近傍における各メッキ厚みを測定した結果を示すグラフ図である。
【図8】本発明例3の半田上りの停止状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 メッキコンタクト
2 本体
3 端子部
3a 端子片
3b 端子片
4 接触部
5 連設部
11 ニッケル系下地メッキ層
12 金系メッキ層
12a 終端
12b 傾斜面
13 錫系メッキ層
13a 終端
13b 傾斜面
14 境界部
15 合金層
16 乗り上げ部
17 溶融半田
21 保持部
22 コンタクト列
31 コネクタ
32 ハウジング
33 スライドハウジング
35 プリント基板
36 フラットケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側に端子部が形成され、他端側に接触部が形成される本体と、この本体の外表面に施されるニッケル系下地メッキと、この下地メッキ上に前記一端側から施され、その終端に至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面とされる金系メッキと、この下地メッキ上に前記他端側から施され、前記金系メッキより厚肉であって、その終端に至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面とされる錫系メッキと、前記金系メッキの終端に至る傾斜面に前記錫系メッキの終端に至る傾斜面が乗り上げて形成される乗り上げ部と、前記乗り上げ部を含む前記錫系メッキの終端に至る傾斜面に露出状態で形成される、前記ニッケル系メッキとの合金層と、を備えなるメッキコンタクト。
【請求項2】
前記金系メッキの厚みは、0.03〜0.1μであり、前記錫系メッキの厚みは1〜4μである請求項1記載のメッキコンタクト。
【請求項3】
前記錫系メッキの終端における前記金系メッキの厚みは、0.04μ以下である請求項2記載のメッキコンタクト。
【請求項4】
前記端子部は、一対の端子片を対向させて形成され、前記乗り上げ部は、前記端子片の根元に形成される請求項1または2記載のメッキコンタクト。
【請求項5】
一端に端子部が形成され、他端側に接触部が形成されるコンタクト本体の多数を、前記接触部側の端で保持部に連設したコンタクト列によるメッキ方法であって、このコンタクト列の全体をニッケル系メッキ槽に漬けて、コンタクト列の全体にニッケル系下地メッキを施す工程と、前記コンタクト列を前記端子部の側から金系メッキ槽に漬けて、この下地メッキ上に前記一端側から前記接触部に至るまでの途中までに金系メッキを施し、その終端に至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面を形成する工程と、前記コンタクト列を前記保持部の側から錫系メッキ槽に漬けて、この下地メッキ上に前記金系メッキに至るまでの錫系メッキを施し、その終端に至る厚みが徐々に薄くなる傾斜面を形成すると共に、前記金系メッキの終端の傾斜面に前記錫系メッキの終端の傾斜面が乗り上げる乗り上げ部を形成する工程と、リフロー処理して、前記乗り上げ部を含む前記錫系メッキの終端の傾斜面に露出する、前記錫系メッキと前記ニッケル系メッキとの合金層を形成する工程と、を備えるコンタクトのメッキ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−131977(P2006−131977A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324674(P2004−324674)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(390033318)日本圧着端子製造株式会社 (457)
【Fターム(参考)】