説明

メッシュを有する椅子部材の製造方法及びその椅子部材

【課題】
メッシュ生地を有する背部、座部等の椅子部材を、簡単にかつきれいに、経済的に成形できる製造方法を提供する。
【解決手段】背部や座部の枠体を形成するためのキャビティを構成するコア金型2とキャビ金型1を有する。このコア金型2の外側面11に、メッシュ生地9を保持しかつキャビティ17の一部を構成する型面を有するメッシュ押え型3の内側面10を添着し、コア金型方向に移動させてメッシュ生地9に必要とされる張力を付与する。メッシュ生地9の周縁側は、コア金型2とメッシュ押え型3の間からキャビティの外方に引き出される。上記キャビティにプラスチック材料を射出してメッシュ生地をインサート成形する。その後、周縁から飛び出しているメッシュの周縁部を切り取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッシュを有する背部や座部等の椅子部材の製造方法及びその椅子部材に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスやホール、集会場などで利用される椅子には、背部や座部にクッション材を取り付けた構造が多いが、この種の椅子とは別に、背部や座部を、開口部を有する枠体に構成し、その開口部に弾性のあるメッシュ生地を張設した椅子が知られている。このようなメッシュを有する椅子は、軽快感があり、快適な座り心地を実現することができる。このようなメッシュ生地を設置する方法として下記のような方法が知られている。
【0003】
従来より広く知られている構成として、背枠や座枠を開口部を有する枠体に形成し、この開口部にメッシュ生地を張り込んだ別部材を嵌め込んだもの(例えば特許文献1参照)がある。しかし、この構成では、枠部と、メッシュ生地を保持する部材と、これらを固定するねじ等の連結部材が必要であり、部品点数が多く、枠部の強度も要求され、形状も大きくかつ太くなり、経済的に得にくくなる。
【0004】
また、金属フレームの枠部に巾着袋状にしたメッシュ生地をかぶせる構成も知られている(例えば特許文献2参照)。しかし、この構成では枠部を金属フレームにしなければならないので、枠部の形状の自由度が少なくなり、巾着袋状にメッシュ生地を縫製するためコストも高くなる。さらに、金属フレームにメッシュ生地を張り込んだものを、インサート成形によりプラスチックで一体的に形成する構成も知られている(例えば、特許文献3参照)が、この構成ではメッシュ生地を張り込んだ金属枠がプラスチック内に設けられている複合材料となるため、製品の廃棄時に分別できず、リサイクル性に乏しくなるという問題がある。
【0005】
上記のような問題を生じない方法として、メッシュ生地のみをプラスチック製の枠部と射出成形により一体成形する方法も知られている(例えば特許文献4参照)。この場合はデザインの自由度もあり、メッシュ生地をインサートして枠部と一体成形するため、部材点数が少なく、経済的に得ることができる。この方法を図13の成形フローを参照して説明すると、例えば座枠を形成する一次射出成形金型を固定した射出成形機を開けてメッシュ生地をこの金型の前面に手作業で垂れ下げ、周囲をクリップで固定したのち、金型を閉じ該金型内に樹脂材料を射出して一次射出成形を行う。この金型から成形品を取り出すと、メッシュ生地が樹脂枠と一体になって周囲が枠部から飛び出している構造であるから、樹脂枠部以外の余分なメッシュ生地をカッターナイフ等でトリミングし、一次成形品を得る。次に射出成形機に2次射出成形金型を固定し、成形機を開けて上記1次成形品をセットし、座枠の残りの部分を形状を2次射出成形する。成形後、金型から取り出された2次成形品は、メッシュ生地がゆるくたるんだ状態である。その理由は、1次成形でメッシュ生地を強く引き込み過ぎると、その張力により1次成形品がたわんだり、ねじれたりして変形し、2次成形金型にセットできなくなるからである。したがって、最後にメッシュ生地を加熱し、生地のたるみを取り、張った状態にして背部、座部等の製品が完成する。このメッシュ生地の加熱機はアルミ金型を有し、この金型を加熱し、メッシュ生地を挟み込むように接近させて加熱するものであり、加熱機から取り出したメッシュ生地は、冷却過程での収縮作用によりたるみがなくなり、ピンと張った状態になる。
【0006】
以上のようにしてメッシュ生地を張り込む方法では、2回の射出成形工程と加熱工程を経るため、リードタイムが長く、経費がかかり、変形により2次射出成形金型にセットできない1次成形品も発生することがあって、経済的でない。その上、2次射出成形時に射出圧力で金型内部の一次成形品があばれて、外観不良品が発生したり、トリミングした生地の破片(生地端材)が2次射出成形の際に異物として混入して外観不良品となったり、加熱工程においてメッシュ生地が溶けて不良品となったりすることがあった。さらに、座部の場合、2次成形するため、座枠の座面(上面)前縁部とメッシュ生地の連接部間に数ミリの段差が生じ、着座したとき着座者の大腿部を圧迫し、不快感を与えることもあった。
【0007】
上記の方法にかえて1回の射出成形によりメッシュ生地と枠体をインサート成形で製造する方法も知られている(例えば、特許文献5参照)。この方法では、張力付与機構(装置)によりメッシュ生地の周囲を金型の外方に引っ張り、金型によって形成されるキャビティ内で必要な張力を与えた状態でメッシュ生地を、型面に無接触あるいは点接触若しくは線接触すると共に周縁側が枠部材の縁部を通過するように設置して射出成形し、その後、枠部材の周縁からはみ出したメッシュ生地を切り取っている。しかし、この方法では、メッシュ生地の周縁部を金型の外方に引っ張るための張力付与機構(装置)を別に設けなければならないし、枠部材の周縁からメッシュ生地を引き出しているから、図14に示すように開口部30を有する枠部材31の周縁部32に、トリミングにより切り取ったメッシュ生地33の端縁部34があらわれてしまう。この周縁部32は、座部や背部のなったとき、手や指が触れるおそれもあり、ザラザラするから感じもよくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−110002号公報(請求項1、3、図3、図5)
【特許文献2】特開2005−103047号公報(請求項1〜4、図1、図6)
【特許文献3】特許第3200409号公報(請求項1、2、図1、図4)
【特許文献4】特開2008−259673号公報(段落0016、図11)
【特許文献5】特開2002−240081号公報(請求項1、段落0040、図1、図3、、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の解決課題は、メッシュ生地を枠体と一体に成形するインサート成形技術を利用し、特別な張力付与装置を別に設けなくても一回の射出成形で一体成形品が得られ、背部や座部等の製品になったとき周縁部がザラつくようなおそれもなく、経済的で、外観のきれいなメッシュ生地を有する椅子部材が得られる製造方法およびその椅子部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、 枠体にメッシュ生地を張設した椅子部材の製造方法であって、枠状のキャビティを形成する一対の金型を有し、一方の金型の外側にメッシュ生地を保持するメッシュ押え型を添着し該メッシュ押え型を該金型の外側に沿って移動させて該メッシュ生地に必要とする張力を付与し、該メッシュ生地の周縁側が上記キャビティにより形成される枠体の裏面の途中を通過するようにメッシュ生地の周縁側をキャビティから外方に引き出した状態で射出成形し、成形後枠体の裏面から延出するメッシュ生地の周縁部を切り取ることを特徴とするメッシュ生地を有する椅子部材の製造方法及びそれにより得られた椅子部材が提供され、上記課題が解決される。
【0011】
また、本発明によれば、上記一対の金型は突状の型面を有するコア金型と凹状の型面を有するキャビ金型であり、メッシュ押え型はコア金型に添着され、メッシュ押え型をコア金型方向に移動後、該コア金型とメッシュ押え型を上記キャビ金型に合着し、上記メッシュ押え型にはキャビティを形成する型面の一部となる型面が形成されている上記メッシュ生地を有する椅子部材の製造方法が提供され、上記課題が解決される。
【0012】
さらに、本発明によれば、上記メッシュ生地は、メッシュ押え型と該メッシュ押え型が添着する金型の間を通って延びており、上記メッシュ押え型と該メッシュ押え型が添着する金型には、メッシュ押え型を該金型方向へ移動させる際に係合する突部と凹部が形成されている上記メッシュ生地を有する椅子部材の製造方法が提供され、上記課題が解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記のように構成され、枠体にメッシュ生地を張設した椅子部材の製造方法であって、枠状のキャビティを形成する一対の金型を有し、一方の金型の外側にメッシュ生地を保持するメッシュ押え型を添着し該メッシュ押え型を該金型の外側に沿って移動させて該メッシュ生地に必要とする張力を付与し、該メッシュ生地の周縁側が上記キャビティにより形成される枠体の裏面の途中を通過するようにメッシュ生地の周縁側をキャビティから外方に引き出した状態で射出成形し、成形後枠体の裏面から延出するメッシュ生地の周縁部を切り取るようにしたので、従来のように1次、2次の射出成形をするために2面の金型を用意しなければならない方法に比べて射出成形金型が1面で済み、射出成形金型投資が半分となり、工程数削減によりリードタイムも短縮され、経済的に得られる。その上、メッシュ押え型を金型の外側に沿って移動させるだけでメッシュ生地に必要な張力を付与するようにしたから、特別にメッシュ生地の張力付与装置を設ける必要がなく、装置が簡素化される。また、従来のように成形後に溶着したり、縫製したり、ねじ止めしたりする必要もないので、著しく製造が簡単となり、成形品の周縁部にはメッシュ生地の端縁部のザラザラ面が現れないから、見栄えや手触り感もよく、しかも1回の射出成形で形成できるから、メッシュ生地を枠体の表面間の段差が少ない座り心地のよい背部、座部等の椅子部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を示す成形フロー図。
【図2】キャビ金型、コア金型およびメッシュ押え型の関係を示す説明図。
【図3】図2に示す状態からメッシュ押え型を移動させた状態の説明図。
【図4】図3に示す状態からメッシュ押え型をさらに移動させてメッシュ生地を引き込んだ状態の説明図。
【図5】図4に示す状態からメッシュ押え型でメッシュ生地を十分に押えた状態の説明図。
【図6】図5に示す状態からコア金型とメッシュ押え型を移動させてキャビ金型に合着し型締めした状態の説明図。
【図7】図6に示す状態で射出成形した状態の説明図。
【図8】図7に示す状態から型を開いた状態の説明図。
【図9】図8に示す状態からメッシュ押え型を移動させた状態の説明図。
【図10】図9に示す状態から型を十分に開いた状態の説明図。
【図11】図10に示す状態から成形品を離型させた状態の説明図。
【図12】製品の一実施例を示し、(A)は裏面から見た一部の斜視図、(B)は断面図。
【図13】従来の製造方法の一例を示すフロー図。
【図14】従来の製品の一例を示し、(A)は裏面から見た一部の斜視図、(B)は断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の一実施例を、図1に示すフロー図及び図2〜図11の説明図を参照しながら説明する。図2に示すように、本発明による射出成形機の金型は、射出ノズル(図示略)側のキャビ金型1と可動盤側のコア金型2とメッシュ押え型3を具備している。上記コア金型2とキャビ金型1は、断面が略弧状もしくは略L字状その他の裏面に凹み部を有する枠状のキャビティを形成する型面を有し、コア金型2には突状の型面4及び凹状の型面5とメッシュ生地押え面6が形成され、キャビ金型1には凹状の型面7とメッシュ生地押え面8が形成されているが、これらの型面は得ようとする枠体の断面形状等により種々の形状に形成することができる。
【0016】
上記メッシュ押え型3は、メッシュ生地9を保持して上記コア金型2の型巣の外側に添着できる形状に形成され、内側面10は該金型の外側面11に沿って該金型方向に移動可能であり、これらの外側面11及び内側面10には嵌合具合を考慮して緩やかな傾斜面が形成されている。該メッシュ押え型3には、上記キャビティの型面の一部となる突状の型面12や凹状の型面13が形成され、また、外面には上記メッシュ生地を引き込むことができるよう該金型2の段部14に形成した穴、溝等の凹部15に係合する突起や突条等の突部16が形成されている。なお、突部を金型側に設け、凹部をメッシュ押え型側に設けてもよく、上記型面は得ようとする枠体の断面形状により種々に形成される。
【0017】
メッシュ生地9は、椅子部材として好適な適宜の材料を用いることができ、図に示す実施例ではポリエステル弾性糸とポリエステル糸で織成したメッシュ生地が用いられ、上記コア金型の前面を覆い、メッシュ押え型3の内側面10とコア金型2の外側面11の間を通して保持できる充分な大きさに形成されている。
【0018】
而して、上記金型1、2及びメッシュ押え型3を用いて成形するには、最初にコア金型2の前面をメッシュ生地9で覆い、該メッシュ生地9の周囲をコア金型2の外側面11に垂らし、メッシュ押え型3の内側面10との間で挟着しながらメッシュ押え型3を該外側面11に沿ってコア金型2方向に移動させる(図3)。
【0019】
上記メッシュ押え型3の突部16とコア金型2の凹部15が係合し始めるとメッシュ生地9は引き込まれ(図4)、充分に係合するとメッシュ生地9は椅子部材として必要とされる強度の張力で上記コア金型2のメッシュ押え面6と突状の型面4の先端間に面接触状態で張り渡される(図5)。このとき、凹部15と突部16の深さ等を調節することによりメッシュ生地の張力を調節することができる。
【0020】
その後、上記コア金型2とメッシュ押え型3は、キャビ金型1方向へ移動され、該キャビ金型1と合着して型締めされる(図6)。この型締めにより枠体として必要なキャビティ17が形成されるが、このとき、メッシュ生地9の周縁側はこのキャビティにより形成される枠体の裏面の凹み部の途中を通過するようにメッシュ押え型3の内側面10とコア金型2の外側面11の間を通ってキャビティ17の外方に引き出された状態となる。
【0021】
この状態で、上記キャビティ内にプラスチック材料18が射出され、メッシュ生地は枠体と一体成形される(図7)。このプラスチック材料としては、図に示す実施例ではポリプロピレンが使用されているが、このプラスチック材料はメッシュ生地等を考慮して適宜の樹脂とすることができる。
【0022】
射出成形後、コア金型2をキャビ金型1から移動させて、型開きし(図8)、次にメッシュ押え型3をコア金型2から移動させる(図9、図10)。そして、メッシュ押え型3から成形品19を取り出す(図11)。最後に、該成形品19からメッシュ生地9の周縁部をカッターナイフ等でトリミングすれば、枠体20の裏面の凹み部21に端縁部22が隠された状態でメッシュ生地9が所望の張力で張設された椅子部材が得られる。
【0023】
上記のようにして得られた椅子部材は、図12に示すように裏面に凹み部21を有する枠体20の開口部23にメッシュ生地9が必要な強度で張設され、しかも枠体の周縁部24にはメッシュ生地9の端縁部22があらわれていない、見栄えのよい、手触りの滑らかな製品であり、背部、座部その他の適宜の椅子部材を構成することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 キャビ金型
2 コア金型
3 メッシュ押え型
9 メッシュ生地
10 メッシュ押え型の内側面
11 コア金型の外側面
15 凹部
16 突部
17 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体にメッシュ生地を張設した椅子部材の製造方法であって、枠状のキャビティを形成する一対の金型を有し、一方の金型の外側にメッシュ生地を保持するメッシュ押え型を添着し該メッシュ押え型を該金型の外側に沿って移動させて該メッシュ生地に必要とする張力を付与し、該メッシュ生地の周縁側が上記キャビティにより形成される枠体の裏面の途中を通過するようにメッシュ生地の周縁側をキャビティから外方に引き出した状態で射出成形し、成形後枠体の裏面から延出するメッシュ生地の周縁部を切り取ることを特徴とするメッシュ生地を有する椅子部材の製造方法。
【請求項2】
上記一対の金型は突状の型面を有するコア金型と凹状の型面を有するキャビ金型であり、メッシュ押え型はコア金型に添着され、メッシュ押え型をコア金型方向に移動後、該コア金型とメッシュ押え型を上記キャビ金型に合着する請求項1に記載のメッシュ生地を有する椅子部材の製造方法。
【請求項3】
上記メッシュ押え型には、キャビティを形成する型面の一部となる型面が形成されている請求項1又は2に記載のメッシュ生地を有する椅子部材の製造方法。
【請求項4】
上記メッシュ生地は、メッシュ押え型と該メッシュ押え型が添着する金型の間を通って延びている上記請求項1から3のいずれかに記載のメッシュ生地を有する椅子部材の製造方法。
【請求項5】
上記メッシュ押え型と該メッシュ押え型が添着する金型には、メッシュ押え型を該金型方向へ移動させる際に係合する突部と凹部を有する上記請求項1から4のいずれかに記載のメッシュ生地を有する椅子部材の製造方法。
【請求項6】
裏面に凹み部を有する枠体と、該枠体により形成される開口部を有し、該開口部にはメッシュ生地が張設され、該メッシュ生地の周縁部はインサート成形により上記枠体と一体成形され、該メッシュ生地の端縁部は上記枠体の裏面の凹み部の途中を通過して枠体外に位置している椅子部材。
【請求項7】
上記枠体とメッシュ生地は上記請求項1から5のいずれかに記載のメッシュ生地を有する椅子部材の製造方法により一体的に製造されている請求項6に記載の椅子部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−173268(P2011−173268A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37186(P2010−37186)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(391014114)三惠工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】