説明

メディア撹拌型分散装置および磁気記録媒体

【課題】微粒子粉末が良好に効率よく分散され、凝集物のないスラリーが得られるメディア撹拌型分散装置を提供する。またこのメディア撹拌型分散装置で得られた磁性塗料を用いて高密度記録特性にすぐれた磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】スラリー入口11を有する分散容器10と、前分散容器内に配置され、軸外径が前記分散容器の内径の1/2以上の回転自在な攪拌軸20と、前記攪拌軸と前記分散容器との間の分散室に分散用メディアが充填され、前記攪拌軸を回転駆動しながら前記スラリー入口からスラリーを導入し、前記分散容器内部を分散容器外部に接続するスラリー出口25からスラリーを排出することにより前記スラリーを分散するメディア攪拌型分散装置において、前記撹拌軸の前記スラリー入口側の前記分散容器端面側の端部に、前記スラリー入口側の前記分散容器端面近傍のスラリーを撹拌させる撹拌手段24を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メディア撹拌型分散装置と、このメディア撹拌型分散装置により得られた磁性塗料を用いて製造された磁気記録媒体に関するものであり、とくに、微粒子粉末を含むスラリーの分散に適したメディア撹拌型分散装置とこのメディア撹拌型分散装置により得られた磁性塗料を用いて製造された、磁気特性や電磁変換特性に優れる磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微粒子粉末を含むスラリー(以下、塗料ともいう)は、さまざまな分野に応用されている、一例として微粒子磁性粉末を分散させた磁性塗料は、磁気記録媒体の製造に用いられている。
【0003】
磁気記録媒体のひとつである磁気テープには、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータテープなどの種々の用途があるが、とくにデータバックアップ用のコンピュータテープの分野では、バックアップ対象となるハードディスクの大容量化に伴い、1巻あたり数100GB以上の記憶容量のものが商品化されており、今後ハードディスクのさらなる大容量化に対応するため、バックアップテープの高容量化は不可欠である。
【0004】
高容量コンピュータテープとしては、一般に、磁性粉末をバインダ樹脂中に分散させた磁性塗料を、可撓性支持体上に塗布して作製される、いわゆる塗布型テープが用いられている。磁気記録媒体の高密度化に対応して、使用される磁性粉末の粒子径は小さくなり、飽和磁化σsで代表される磁気エネルギーの大きな強磁性金属粉未を使用するようになってきている。ところが、磁性粉末は、微粒子化や高磁気エネルギー化するほど、個々の粒子の凝集力が強まることが知られている。
【0005】
一般に、磁性塗料は、磁性粉末、バインダ樹脂、有機溶剤およびその他の必要成分からなる塗料組成物を、分散容器内に金属、セラミックス、ガラスなどの分散用メディアを充填したボールミルやサンドミルのような分散機を使用して分散され、製造される。とくに、最近の高容量磁気テープ用の磁性塗料は、分散容器に内設した攪拌軸で分散用メディアを強制攪拌するメディア撹拌型分散装置(サンドミル)を使用して製造されている。
【0006】
前述の微粒子粉末を分散させるためには、メディア撹拌型分散装置としては、撹拌軸の軸径を大きくして、分散容器と撹拌軸との間の分散室を、分散用メデイアが高速で運動し、高せん断力が発生する分散容器内の外周部分に限定するタイプのものが提案されている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−35203号公報
【特許文献2】特開2006−212489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記のサンドミルにおいては撹拌軸の軸径が大きいがゆえに、撹拌軸の軸方向の端部(撹拌軸の基部および先端部の少なくとも一方)に分散用メディアの存在密度が小さくかつ運動速度が小さい、いわゆるスラリーの停滞し易いゾーン(塗料溜り)が発生し易かった。このようなゾーンが発生すると、分散効率が低下するだけではなく、このゾーンの分散レベルの低いスラリーが分散レベルの正常なスラリーに混じりながらスラリー出口から出て行くため凝集物を含むスラリーが得られることになってしまう。
【0009】
本発明は、このような事情に照らして、微粒子粉末が良好に効率よく分散され、凝集物のないスラリーが得られるメディア撹拌型分散装置を提供すること、またこのメディア撹拌型分散装置で得られた磁性塗料を用いて高密度記録特性にすぐれた磁気記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を達成するために、一端側にスラリー入口を有する筒状の分散容器と、前分散容器内に長手方向に配置され、軸外径が前記分散容器の内径の1/2以上の回転自在な攪拌軸と、前記攪拌軸を回転駆動するために駆動装置とを備え、前記攪拌軸と前記分散容器との間の分散室に分散用メディアが充填され、前記攪拌軸を回転駆動しながら前記スラリー入口からスラリーを導入し、前記分散容器内部を分散容器外部に接続するスラリー出口からスラリーを排出することにより前記スラリーを分散するメディア攪拌型分散装置について鋭意検討した結果、前記撹拌軸の前記スラリー入口側の前記分散容器端面側の端部に、前記スラリー入口側の前記分散容器端面近傍のスラリーを撹拌させる撹拌手段を設けるメディア攪拌型分散装置を提供する。
【0011】
また、前記メディア撹拌型分散装置で得られた磁性塗料を用いて製造されたことを特徴とする磁気記録媒体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のメディア撹拌型分散装置は、一端側にスラリー入口を有する筒状の分散容器と、前分散容器内に長手方向に配置され、軸外径が前記分散容器の内径の1/2以上の回転自在な攪拌軸と、前記攪拌軸を回転駆動するために駆動装置とを備え、前記攪拌軸と前記分散容器との間の分散室に分散用メディアが充填され、前記攪拌軸を回転駆動しながら前記スラリー入口からスラリーを導入し、前記分散容器内部を分散容器外部に接続するスラリー出口からスラリーを排出することにより前記スラリーを分散するメディア攪拌型分散装置において、前記撹拌軸の前記スラリー入口側の前記分散容器端面側の端部に、前記スラリー入口側の前記分散容器端面近傍のスラリーを撹拌させる撹拌手段を設けるてあることで、分散用メディアの存在密度が小さくかつ運動速度が小さい、いわゆるスラリーの停滞し易いゾーンを効率よく撹拌することができるので、いわゆる塗料溜りがなくなり、スラリーの分散効率が良好になるとともに凝集物がなくなる。また、このメディア撹拌型分散装置で得られた磁性塗料を用いて高密度記録特性にすぐれた磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)本発明に係る一例のメディア撹拌型分散装置の撹拌軸の側面図である。(b)本発明に係る一例のメディア撹拌型分散装置の構造を示す断面図である。
【図2】(a)本発明に係る別の一例のメディア撹拌型分散装置の撹拌軸の側面図である。(b)本発明に係る別の一例のメディア撹拌型分散装置の構造を示す断面図である。
【図3】従来の一例のメディア撹拌型分散装置の構造を示す断面図である。
【図4】従来の別の一例のメディア撹拌型分散装置の構造を示す断面図である。
【図5】従来のさらに別の一例のメディア撹拌型分散装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のメディア撹拌型分散装置について、図面を参照しながら説明する。図1〜2に本発明のメディア攪拌型分散装置を、図3〜5に従来の代表的なメディア撹拌型分散装置の内部構造を表す断面図を示す。これらの図に基づいて、メディア撹拌型分散装置の基本構造、動作について説明する。図1に示したメディア撹拌型分散装置50は、筒状の分散容器10と、分散容器10の内部に長手方向に配置される撹拌軸20を含み構成される。撹拌軸20と分散容器10との間の分散室には不図示の分散用メディアが所定量充填される。撹拌軸20の外周部分には撹拌軸20の回転とともに、分散用メディアを撹拌するための撹拌部(ピン、ディスク、ブロックなどの突起)21が配置されている。撹拌部21が設けられる撹拌軸20の外周面23の外径dと分散容器10の内径dとの関係は、下式を満たすことが好ましい。
・d/2≦d<d
【0015】
がこの範囲にあると分散室が分散容器の比較的外周部分に設定されるので分散用メディアの運動速度分布が速い領域のみが利用できるので分散効率が向上する。
【0016】
分散用メディアの充填量は、見かけ体積で、分散室の体積の50〜90%が好ましい。分散用メディアとしては、ガラス、セラミック、金属などの従来公知の微小ビーズが用いられる。メディア径としては、0.01〜3mmのものが用いられる。
【0017】
微粒子粉末を含むスラリーは、不図示の供給ポンプによりスラリー入口11から分散室内に供給される。分散室内に供給されたスラリーは、撹拌軸20の撹拌部21により撹拌される分散用メディアによりせん断力を受けて分散される。
【0018】
分散用メディアによりせん断力を受けて、スラリーは徐々に分散されながら分散室内を図中右方に移送され、撹拌軸の基部と反対側の端部の回転軸の中心部から不図示の分散用メディアを分離するスクリーンを経由して撹拌軸の軸心に設けられた塗料通路22を経由してスラリー出口25から、分散容器の外部へと排出される。
【0019】
一方、図3に示すような従来のメディア撹拌型分散装置にあっては、分散効率を向上させるために撹拌軸120の軸径d’を比較的大きく設定しているために、撹拌軸の基部側端面とこれに対向する分散容器110のスラリー入り口111側の内側端面とで挟まれているゾーンTにおいて、入り口から供給される未分散スラリーが滞留し易いという問題があった。このゾーンTにおいては、撹拌軸120の半径方向の内側になるほど分散用メディアの存在密度が小さくなり、また分散用メディアの運動速度も小さくなるので未分散スラリーが溜まり易く、いわゆる塗料溜りとなる。
【0020】
ここに未分散スラリーが滞留すると、分散レベルの低いスラリーが分散レベルの正常なスラリーに混じりながらスラリー出口125から出て行くため凝集物を含むスラリーが得られることになってしまうという問題が起こる。また、これを対策しようとすると、スラリー出口125から出たスラリーを再度スラリー入り口111に戻して再分散したり凝集物をフィルターで除去したりすることになり、生産効率が低下するので好ましくない。
【0021】
このような問題は、撹拌軸120の軸径d’が比較的大きく、分散容器の内径d’の1/2以上であるメディア撹拌型分散装置で特に起こり易く、図3で示した分散装置以外にも、図4、図5で示したタイプの分散装置でも塗料溜りゾーンTが存在するので、同様の問題が起こる。
【0022】
本発明は、上述したような問題を解決するもので、塗料溜りゾーンTをなくすものである。
【0023】
図1に一例の本発明のメディア撹拌型分散装置を示す。本例のメディア撹拌型分散装置50は、図3に示した従来の分散装置と同様のタイプのものであるが、撹拌軸20の基部側端面に放射状の撹拌溝(凹部)24が設けられ、ゾーンTにおいて、スラリーを撹拌させる機能が発揮できるようになっている。このため、本例のメディア撹拌型分散装置では、いわゆる塗料溜りは発生せず、分散塗料に未分散の凝集物が混じることがない。撹拌軸20の基部側端面にスラリーを撹拌させるための機能を持たすことにより本発明のメディア撹拌型分散装置を提供することができるので、撹拌機能としては、従来公知の手段を用いることができ、前述した放射状の溝に限られず、放射状の突起(凸部)であってもよいし、形状も放射状には限定されない。
【0024】
また、図2に示したように、撹拌軸20の基部の軸径を絞り撹拌用の撹拌ピン26を設けてもよい。このようなピンを設けることにより、撹拌軸20の基部側端面の塗料を撹拌することができ、塗料溜りは発生しない。
【0025】
さらに、例えば、図5に示したような、従来のメディア撹拌型分散装置200で、撹拌軸220の基部側と反対側の端部の方にスラリー入り口211があるような分散装置では、塗料溜りのゾーンTは、撹拌軸220の基部側と反対側の端部とこれに対向する分散容器210のスラリー入り口211側の内側端面とに挟まれた部分に発生するので、撹拌軸220の基部側と反対側の端部の方に上述した撹拌手段を設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0026】
10 分散容器
11 スラリー入り口
20 撹拌軸
21 撹拌部
22 塗料通路
23 外周面
24 撹拌溝
25 スラリー出口
26 撹拌ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側にスラリー入口を有する筒状の分散容器と、前分散容器内に長手方向に配置され、軸外径が前記分散容器の内径の1/2以上の回転自在な攪拌軸と、前記攪拌軸を回転駆動するために駆動装置とを備え、前記攪拌軸と前記分散容器との間の分散室に分散用メディアが充填され、前記攪拌軸を回転駆動しながら前記スラリー入口からスラリーを導入し、前記分散容器内部を分散容器外部に接続するスラリー出口からスラリーを排出することにより前記スラリーを分散するメディア攪拌型分散装置において、前記撹拌軸の前記スラリー入口側の前記分散容器端面側の端部に、前記スラリー入口側の前記分散容器端面近傍のスラリーを撹拌させる撹拌手段を有することを特徴とするメディア撹拌型分散装置。
【請求項2】
請求項1に記載のメディア撹拌型分散装置で得られた磁性塗料を用いて製造された磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−214334(P2010−214334A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66495(P2009−66495)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】