説明

メロシアニン色素を含む蛍光造影剤

【課題】毒性が低く、優れた水溶性を有し、かつ腫瘍への集積性が高い蛍光造影剤の提供。
【解決手段】メロシアニン色素(例えば、下記一般式(I)で示される化合物)を有効成分として含む蛍光造影剤。


(一般式(I)中、Z1はスルホン酸基等で置換されていてもよい含窒素複素環を形成し、Z2はスルホン酸基等で置換されていてもよい酸性核を形成し、R1はスルホン酸基アルキル基等を表し、M1〜M4はそれぞれ独立にメチン基等を表し、m は0又は1を表し、nは0〜4の整数を表し、CIは電荷を中和するイオンを表し、yは電荷の中和に必要なCIの数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光造影 (contrast)剤に関し、より詳しくはメロシアニン色素を含む蛍光造影剤
に関するものである。
【背景技術】
【0002】
疾病を治療する際に、疾病の初期の段階においてその疾病により生体内に引き起こされる形態学的及び機能的変化を検出することがきわめて重大である。特に癌を治療する場合、腫瘍の場所と大きさが効果的な治療計画を立てる上で重要な決定因子となる。この目的のために既に知られている方法としては穿刺等による生検、及びX線イメージング、MRI、超音波イメージング等のようなイメージング診断が挙げられる。生検は決定的診断に有効ではあるが、同時に被験者に大きな負担を強い、また病変の時間経過変化を追跡するには適していない。X線イメージング及びMRIは必然的に被験者を放射線及び電磁波にさらすものである。さらに、上記のような通常のイメージング診断は測定及び診断に複雑な操作と長い時間を必要とする。この目的に使用される装置の大きさも操作にこれらの方法を用いることを困難にしている。
【0003】
イメージング診断の1つが蛍光イメージングである(非特許文献1)。この方法は造影剤として特定の波長を有する励起光の照射により蛍光を放射する物質を用いる。たとえば、身体に外側から励起光を照射し、体内の蛍光造影剤から放射される蛍光が検出される。
このような蛍光造影剤は、例えば、腫瘍中に蓄積するポルフィリン化合物であり、ヘマトポルフィルンのように光力学的療法 (PDT) に用いられる。他の例としてはフォトフリン及びベンゾポルフィルンが挙げられる(非特許文献1;非特許文献2;特許文献1等を参照のこと)。これらの化合物は元来PDTに用いられており、光毒性を有するが、それこそがPDTの要求する性能である。従って、これらは診断薬としては望ましくない。
【0004】
一方、フルオレセイン、フルオレサミン及びリボフラビンのような既知の蛍光色素を用いた網膜循環微小血管造影法が知られている(特許文献2)。これらの蛍光色素は400-600 nmの可視光領域に蛍光を放射する。この領域では生体組織を通しての光透過は非常に低いため、身体の奥の部分の病変の検出はほとんど不可能である。
【0005】
さらに、肝臓機能や心拍出量を測定するために使用されるインドシアニングリーン(以下 ICG と略す)を含むシアニン化合物の蛍光造影剤としての利用が報告されている(非特許文献3、非特許文献4)。シアニン化合物は近赤外光領域 (700-1300 nm)に吸収を示す。
【0006】
近赤外光は生体組織を通して高い透過性を示し、約 10 cmの頭蓋を透過することができる。そのため、臨床医学の分野でますます注目を集めつつある。例えば、媒体の光学透過を用いる光学CT法が新しい科学技術として臨床分野で注目されている。これは近赤外光が生体を透過でき、生体内の酸素濃度及びその循環をモニターするのに使用できることによる。
【0007】
シアニン化合物は近赤外領域で蛍光を放射する。この領域の蛍光は生体組織を透過することができ、蛍光造影剤としての可能性を有する。種々のシアニン化合物が近年開発され、蛍光造影剤として試されている (特許文献3、特許文献4等)。しかしながら、正常な組織を患部組織と識別する能力(イメージング標的部位に対する選択性)とともに、十分な水溶性と生体に対する十分な安全性を有する造影剤は存在しない。既にヒトへの投与が認可されている診断用近赤外蛍光化合物の例としてはインドシアニングリーン(ICG:Indocyanine Green)が知られている。この薬剤は主として肝臓機能検査や眼底血管造影に用いられているが、がんの診断に応用するためには、蛍光強度が低い腫瘍部位集積性が低い毒性が高いなどの問題点があり、実用化にはなお大きな隔たりがあった。
化合物の側面からは、メロシアニン色素は例えば特許文献5にホログラム記録材料用の色素と記載されているが、蛍光造影剤としての報告はない。
【非特許文献1】Lipspn R. L. et al., J. Natl. Cancer Inst., 26, 1-11 (1961)
【非特許文献2】Meng T. S. et al., SPIE, 1641, 90-98 (1992)
【非特許文献3】Haglund M. M. et al., Neurosurgery, 35, 930 (1994)
【非特許文献4】Li, X. et al., SPIE, 2389, 789-797 (1995)
【特許文献1】WO84/04665
【特許文献2】米国特許第4945239号
【特許文献3】WO96/17628
【特許文献4】WO97/13490
【特許文献5】特開2006−268030
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、毒性が低く、優れた水溶性を有し、かつ腫瘍への集積性が高い蛍光造影剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはメロシアニン色素が腫瘍への集積性や高い水溶性を有するとともに毒性が低いことを見出し、この知見を基に本発明を完成させた。
すなわち、本発明はメロシアニン色素を有効成分として含む蛍光造影剤を提供するものである。
本発明の好ましい態様によれば、前記メロシアニン色素が下記一般式(I)で示される化合物である上記蛍光造影剤が提供される。
【0010】
【化1】

【0011】
一般式(I)中、Z1はZ1が結合する窒素原子及び炭素原子ならびに−(M1−M2m−とともに置換基を有していてもよい含窒素複素環を形成する原子群を表し、Z2はZ2が結合するカルボニル基と該カルボニル基と結合する炭素原子とともに置換基を有していてもよい酸性核を形成する原子群を表し、R1は、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、又は置換又は無置換のヘテロ環基を表し、M1〜M4はそれぞれ独立に置換又は無置換のメチン基を表し、M1及びM2は結合して環を形成してもよく、M3及びM4、M3及びM3、又はM4及びM4は結合して環を形成してもよく、m は0又は1を表し、nは0〜4の整数を表し、nが2以上の時、複数のM3、M4 はそれぞれ同じでも異なってもよく、CIは電荷を中和するイオンを表し、yは電荷の中和に必要なCIの数を表す。
本発明のより好ましい態様によれば、前記メロシアニン色素が下記一般式(II)で示される化合物である上記蛍光造影剤が提供される。
【0012】
【化2】

【0013】
一般式(II)中、R1は、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、又は置換又は無置換のヘテロ環基を表し、nは0〜4の整数を表し、Z2はZ2が結合するカルボニル基と該カルボニル基と結合する炭素原子とともに置換基を有していてもよい酸性核を形成する原子群を表し、Xは−O−、−S−、−NR5−、又は−CR67−を表し、R5〜R7はそれぞれ独立に水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、又は置換又は無置換のヘテロ環基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基、ハロゲン原子、ニトロ基、アルコキシ基、置換又は無置換のアリールオキシ基、置換又は無置換のアシルアミノ基、置換又は無置換のカルバモイル基、ヒドロキシ基、置換又は無置換のアルキルチオ基、又はシアノ基を表し、Z3はZ3が結合する2つの炭素原子とともに置換基を有していてもよい芳香環を形成する原子団を表し、nが2以上の時、複数のR3、R4はそれぞれ同じでも異なってもよく、CIは電荷を中和するイオンを表し、yは電荷の中和に必要なCIの数を表す。
【0014】
本発明のさらに好ましい態様によれば、前記メロシアニン色素が分子中に2個以上のスルホン酸基を有する上記いずれかの蛍光造影剤;CIがナトリウムイオンである上記いずれかの蛍光造影剤;近赤外光領域に吸収及び蛍光を有する上記いずれかの記載の蛍光造影剤;腫瘍イメージングに用いられる上記いずれかの蛍光造影剤が提供される。
【0015】
本発明の別の観点からは、蛍光造影剤の製造のための上記のメロシアニン色素の使用;蛍光イメージング法であって、上記のメロシアニン色素を、ヒトを含む哺乳類動物に投与した後に造影する工程を含む方法;腫瘍イメージングであって、上記のメロシアニン色素をヒトを含む哺乳類動物に投与した後に造影する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、毒性が低く、優れた水溶性を有し、かつ腫瘍への集積性が高い蛍光造影剤が提供される。該蛍光造影剤を用いて腫瘍及び/又は血管の特定のイメージングを可能にする蛍光イメージングが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書において、基について「置換又は無置換」又は「置換基を有していてもよい」という場合には、その基が1又は2以上の置換基を有していてもよいことを示しているが、特に言及しない場合には、結合する置換基の個数、置換位置、及び種類は特に限定されない。2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
置換基の例としては、ハロゲン原子(本明細書において「ハロゲン原子」という場合にはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素のいずれでもよい)、アルキル基(本明細書において「アルキル基」という場合には、直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよく、環状アルキル基にはビシクロアルキル基などの多環性アルキル基を含む。アルキル部分を含む他の置換基のアルキル部分についても同様である)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、アルキル及びアリールスルフィニル基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール及びヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基、及びスルホン酸基が挙げられる。上記の置換基は上記の置換基で置換されていてもよい。
なお、スルホン酸基とは、当該スルホン酸基が塩を形成している場合においてスルホン酸塩 (-SO3-)を意味することもある。
【0018】
メロシアニン色素とは、共役メチン鎖の両末端が酸素原子と窒素原子である色素の総称である。具体的にはメロシアニン色素として、特開2006−268030、F.M.Harmer著、Heterocyclic Compounds−Cyanine Dyes and Related Compounds、John&Wiley&Sons 、New York、London、1964年刊、511頁から611頁等に記載の化合物などの任意の化合物を用いることができる。
メロシアニン色素としては、特に下記一般式(I)で表される化合物が好ましい。
【0019】
【化3】

【0020】
一般式(I)中、Z1はZ1が結合する窒素原子及び炭素原子ならびに−(M1−M2m−とともに置換基を有していてもよい含窒素複素環を形成する原子群を表す。
含窒素複素環としては5員もしくは6員の含窒素複素環又は5員もしくは6員の含窒素複素環と芳香環が縮合した環が好ましい。
含窒素複素環としては、例えば、インドリン環、ベンゾインドリン環、ベンゾイミダゾリン環、ナフトイミダゾリン環、オキサゾリン環、ベンゾオキサゾリン環、ナフトオキサゾリン環、チアゾリン環、ベンゾチアゾリン環、ナフトチアゾリン環、セレナゾリン環、及びベンゾセレナゾリン環、ならびにこれらの環と他の環とが縮環した環などが挙げられる。なお、他の環としてはベンゼン環、ベンゾフラン環、ピリジン環、ピロール環、インドール環、チオフェン環等が挙げられる。
含窒素複素環としては、インドリン環、ベンゾインドリン環、ベンゾオキサゾリン環、及びベンゾチアゾリン環が好ましい。
【0021】
また、前記含窒素複素環は置換基を有していてもよい。前記含窒素複素環の置換基として好ましくは、スルホン酸基、及びスルホン酸基で置換されていてもよいアルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基)などが挙げられる。
インドリン環としては、3、3−ジアルキルインドリン環、特に3、3−ジメチルインドリン環が好ましく、ベンゾインドリン環としては、3、3−ジアルキルベンゾインドリン環、特に3、3−ジメチルベンゾインドリン環が好ましい。前記含窒素複素環が5員もしくは6員の含窒素複素環と芳香環が縮合した環であってかつ置換基としてスルホン酸基を有する場合は、スルホン酸基は芳香環に直接結合していることが好ましい。
【0022】
一般式(I)中、Z2は、Z2が結合するカルボニル基と該カルボニル基と結合する炭素原子とともに置換基を有していてもよい酸性核を形成する原子群を表す。酸性核は、ケトメチレン又は活性メチレンを含む電子受容性の環式単位であり、例えばジェイムス(James)編「ザ・セオリー・オブ・ザ・フォトグラフィック・プロセス」(The Theoryof the Photographic Process)第4版、マクミラン出版社、1977年、198〜200頁に定義されている。酸性核として具体的には、米国特許第3、567、719号、第3、575、869号、第3、804、634号、第3、837、862号、第4、002、480号、第4、925、777号、特開平3ー167546号、米国特許第5,994,051号、米国特許5,747,236号などに記載されているものが挙げられる。一般式(I)における前記酸性核としてはこの定義に当てはまる核であればいずれでもよい。
前記酸性核としては、5員又は6員のヘテロ環又は2以上の5員又は6員のヘテロ環が縮合した環が好ましい。
【0023】
前記酸性核の例として具体的には、2−ピラゾロン−5−オン、ピラゾリジン−3,5−ジオン、イミダゾリン−5−オン、ヒダントイン、2又は4−チオヒダントイン、2−イミノオキサゾリジン−4−オン、2−オキサゾリン−5−オン、2−チオオキサゾリン−2,4−ジオン、イソローダニン、ローダニン、インダン−1,3−ジオン、チオフェン−3−オン、チオフェン−3−オン−1,1−ジオキシド、インドリン−2−オン、インドリン−3−オン、2−オキソインダゾリウム、5,7−ジオキソ−6,7−ジヒドロチアゾロ〔3,2−a〕ピリミジン、3,4−ジヒドロイソキノリン−4−オン、1,3−ジオキサン−4,6−ジオン、バルビツール酸、2−チオバルビツール酸、クマリンー2,4−ジオン、インダゾリン−2−オン、ピリド[1,2−a]ピリミジン−1,3−ジオン、ピラゾロ〔1,5−b〕キナゾロン、ピラゾロピリドン、及び3−ジシアノメチリデニル−3−フェニルプロピオニトリルなどが挙げられる。これらのうち、より好ましくは、ピラゾリジン−3,5−ジオン、ローダニン、インダン−1,3−ジオン、チオフェン−3−オン、チオフェン−3−オン−1,1−ジオキシド、1,3−ジオキサン−4,6−ジオン、バルビツール酸、2−チオバルビツール酸などが挙げられる。
【0024】
また、前記酸性核は置換されていてもよい。前述の置換基のうち、前記酸性核の置換基として好ましくは、スルホン酸基、アルキル基、スルホン酸基置換アルキル基、アリール基、スルホン酸基置換アリール基等が挙げられる。この場合、アルキル基としては炭素数1−6の直鎖アルキル基が好ましい。アリール基としてはフェニル基が好ましい。スルホン酸基置換基において、置換するスルホン酸基の数は1個又は2個が好ましく、1個がより好ましい。また、スルホン酸基置換アルキル基において、スルホン酸基は末端の炭素に置換していることが好ましい。
【0025】
一般式(I)中、R1は水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基を表す。置換基としてはスルホン酸基が好ましい。アルキル基としては炭素原子数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素原子数1〜6のアルキル基がより好ましい。置換又は無置換のアルキル基としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチル、ベンジル、3−スルホプロピル、4−スルホブチル、カルボキシメチル、5−カルボキシペンチル等が挙げられる。アルケニル基としては炭素原子数1〜20のアルケニル基が好ましく、炭素原子数1〜6のアルケニル基がより好ましい。置換又は無置換のアルケニル基としては、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、1,3−ブタジエニル等が挙げられる。シクロアルキル基としては炭素原子数3〜20のシクロアルキル基が好ましく、炭素原子数3〜6のシクロアルキル基がより好ましい。置換又は無置換のシクロアルキル基としては、例えばシクロペンチル、シクロヘキシル等が挙げられる。アリール基としては炭素原子数6〜20のアリール基が好ましく、炭素原子数6〜10のアリール基がより好ましい。置換又は無置換のアリール基としては、例えばフェニル、2−クロロフェニル、4−メトキシフェニル、3−メチルフェニル、1−ナフチル、2−ニトロフェニル等が挙げられる。ヘテロ環基としては、炭素原子数1〜20のヘテロ環基が好ましく、炭素原子数1〜10のヘテロ環基がより好ましい。置換又は無置換のヘテロ環基としては、ピリジル、チエニル、フリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ等が挙げられる。
【0026】
1としては、置換又は無置換のアルキル基が最も好ましく、この中でスルホン酸基置換の炭素数1−6の直鎖アルキル基が好ましい。置換するスルホン酸基の数は1個又は2個が好ましく、1個がより好ましい。また、スルホン酸基置換の炭素数1−6の直鎖アルキル基において、スルホン酸基は末端の炭素に置換していることが好ましい。
【0027】
一般式(I)中、M1 〜M4 はそれぞれ独立に置換又は無置換のメチン基を表す。前述の置換基のうち、前記メチン基の置換基として好ましくは、炭素原子数1〜20のアルキル基(例えば、メチル、エチル、i-プロピル)などが挙げられる。また、M1及びM2は結合して環を形成してもよく、M3及びM4、M3及びM3、又はM4及びM4は結合して環を形成してもよい。形成される環としてはベンゼン環、シクロヘキサン環、又はシクロペンタン環等が挙げられる。M1 〜M4 はそれぞれ独立に、より好ましくは無置換メチン基、エチル基置換メチン基、メチル基置換メチン基であり、さらに好ましくは無置換メチン基である。
【0028】
一般式(I)中、m は0又は1を表し、好ましくは0である。
一般式(I)中、n は0〜4の整数を表し、好ましくは2〜4の整数を表す。nが2以上の時、複数のM3、M4 は同じでも異なってもよい。
【0029】
CIは電荷を中和するイオンを表し、yは電荷の中和に必要な数を表す。
CIは一般式(I)の化合物と非毒性の塩を形成するものである限りはいかなるものでもよい。CIの例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオンのようなアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のようなアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、トリブチルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等のような有機アンモニウムイオン;リジンイオン、アルギニンイオン等のようなアミノ酸イオンが挙げられる。特に好ましいのは生体内での毒性が低いナトリウムイオンである。
【0030】
メロシアニン色素としては、スルホン酸基を有する化合物が好ましい。メロシアニン色素を生体内で蛍光造影剤として使用する場合、水溶性が高いことが好ましいが、スルホン酸基は水溶性を向上させるからである。好ましくは2個以上のスルホン酸基を有するメロシアニン色素を用いることにより、より優れた水溶性の造影剤を得ることができる。合成の容易性の観点からはスルホン酸基の数は6個以下、好ましくは4個以下であるメロシアニン色素が好ましい。
【0031】
メロシアニン色素として一般式(I)で表される化合物を用いる場合、スルホン酸基はR1、Z1、及びZ2のいずれか1つ以上の一部として存在していることが好ましい。具体的にはスルホン酸基は、R1が示す置換アルキル基等の置換基として存在することが好ましく、代わりに、又は加えて、Z1、及び/又はZ2が形成する環の置換基又は置換基の一部として存在することが好ましい。
さらに、一般式(I)示される化合物は下記一般式(II)で示される化合物であることが好ましい。
【0032】
【化4】

一般式(II)中、R1、n、Z2、CI、yは一般式(I)における定義と同様である。
【0033】
Xは−O−、−S−、−NR5−、又は−CR67−を表し、R5〜R7はそれぞれ独立に水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基のいずれかを表す。Xは好ましくは−O−、−S−、−CR67−である。
【0034】
3、R4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルキルチオ基、又はシアノ基を表す。R3、R4は好ましくは水素原子又はアルキル基を表し、もっとも好ましくは水素原子、メチル基、エチル基を表す。
【0035】
3は、Z3が結合する2つの炭素原子とともに置換又は無置換の芳香環を形成する原子団を表す。形成される芳香環は、ベンゼン環を有する環が好ましく、炭素数4〜10の芳香環が好ましい。形成される芳香環の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ベンゾフラン環、キノリン環、インドール環、ベンゾチオフェン環が挙げられる。これらの環のXを含む5員環との縮合位置は特に限定されないが、ベンゼン環でXを含む5員環に縮合することが好ましい。
該芳香環の置換基として、好ましくはスルホン酸基、スルホン酸基置換アルキル基(より好ましくはスルホン酸基置換の炭素数1−6の直鎖アルキル基)、より好ましくはスルホン酸基が挙げられる。
【0036】
が2以上の時、複数のR3、R4 は同じであっても異なっていてもよく、n が2以上の時、複数のR3、R4は同じであっても異なっていてもよい。
以下に一般式(I)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
一般式(I)で表される化合物は、ジャーナル オブ アメリカン ケミカルソサエティー 1951年73号5326頁(J.Am.Chem.Soc,73,5326(1951))及び米国特許第2,177,402号に記載されている方法によって容易に合成することができる。
【0040】
本発明の蛍光造影剤はメロシアニン色素、好ましくは式[I]又は式[II] で表されるメロシアニン色素を含む限りは特に限定されない。メロシアニン色素は単独で又は2種以上を組み合わせて当該蛍光造影剤に含まれていればよい。本発明の蛍光造影剤に含まれるメロシアニン色素は、50,000以上のモル吸光係数を有することが好ましい。
【0041】
本発明の蛍光造影剤は400-1300 nmに吸収及び蛍光を示し、好ましくは 700-1300 nm、特に好ましくは約700-900 nmの近赤外光領域に吸収及び蛍光を示す。
本発明の蛍光造影剤は近赤外蛍光造影剤として好ましく用いることができる。
【0042】
本発明の蛍光造影剤は、上記化合物を、注射用蒸留水、生理食塩水、リンゲル液等のような溶媒中に懸濁若しくは溶解した状態で含むものであってもよい。本発明の蛍光造影剤には、必要に応じて薬理上許容しうる添加物を加えてもよい。該添加物としては、担体、賦形剤、薬理上許容しうる電解質、バッファー、洗剤のような物質及び浸透圧を調整し安定性及び溶解性を改善するための物質(例えば、シクロデキストリン、リポソーム等)が挙げられ、関連分野で一般に使用される多様な添加物が使用できる。本発明の蛍光造影剤は医薬用の場合は好ましくは滅菌処理を経て製造される。
本発明の蛍光造影剤は、注射、噴射又は塗布、血管内(静脈、動脈)、経口、腹膜内、経皮、皮下、膀胱内又は気管支内投与によって生体に投与することができる。好ましくは、本発明の蛍光造影剤は血管内に水剤、乳剤又は懸濁剤の形態で投与される。
【0043】
本発明の蛍光造影剤の用量は、その用量によって最終的に診断すべき部位の検出が可能である限りは特に限定されず、使用されるメロシアニン色素の種類、年齢、体重及び投与対象の標的器官などによって適当に調整される。典型的には、用量は当該化合物の量として0.1-100 mg/kg体重、好ましくは0.5-20 mg/kg体重である。
本発明の蛍光造影剤はヒト以外の多様な動物に適宜使用することができる。投与の形態、経路及び用量は対象動物の体重及び状態によって適当に決定される。
【0044】
本発明の蛍光造影剤は腫瘍組織中に顕著に蓄積される。この特性を利用することにより、本発明の蛍光造影剤を用いて腫瘍組織を特異的にイメージングすることができる。さらに、本発明の蛍光造影剤は血管内に長くとどまることができ、血管造影剤としても良好に機能することが期待される。
【0045】
本発明の蛍光造影剤の使用により腫瘍及び/又は血管の蛍光イメージングが可能である。蛍光イメージングは公知の方法に準じて実施すればよく、励起波長及び検出すべき蛍光波長のようなそれぞれのパラメーターは投与される蛍光造影剤の種類及び投与対象により最適のイメージング及び評価が行えるように適宜決定すればよい。本発明の蛍光造影剤の測定対象への投与から蛍光イメージング測定開始までにかかる時間は使用される蛍光造影剤の種類及び投与対象によって異なる。例えば、腫瘍イメージングを目的として本発明の蛍光造影剤を生体に投与する場合、消失時間は投与後およそ2-120時間と考えられる。消失時間が短すぎると、蛍光が強すぎて標的部位と他の部位を明確に分けることができない場合がある。長すぎると、当該造影剤が身体から排泄されてしまう場合がある。血管造影が求められる場合には、本発明の蛍光造影剤を投与直後又はその約30分以内に検出することが好ましい。
【0046】
本発明の蛍光造影剤を用いた蛍光イメージング法は典型的には以下の工程を含む。
すなわち、本発明の蛍光造影剤を検出標的に投与し、検出標的を励起光源からの励起光に露光する。次いで、蛍光造影剤から当該励起光により発生された蛍光を蛍光検出器で検出する。
励起波長は使用される蛍光造影剤によって異なり、当該化合物が有効に蛍光を放射する範囲でさえあれば制限されない。好ましくは、優れた生物透過能を有する近赤外光が使用される。
【0047】
検出すべき蛍光の波長も使用される造影剤によって異なる。一般的に言えば、300-1000 nm、好ましくは700-900 nmの波長を有する励起光を用い、400-1000 nm、好ましくは750-950 nmの波長領域の近赤外蛍光を検出する。この場合、励起光の光源は、種々のレーザー(例えば、イオンレーザー、色素レーザー及び半導体レーザー)、ハロゲン光源、キセノン光源等のような通常の励起光光源でよい。必要ならば、種々の光学フィルターを使用して最適な励起波長を得ることもできる。同様に、蛍光は種々の光学フィルターを使用して当該近赤外蛍光造影剤からの蛍光のみを捕らえて検出することもできる。
【0048】
検出された蛍光を蛍光情報としてデータ処理し、記録可能な蛍光イメージを生成させるのに用いる。蛍光イメージは標的組織を含む広い領域に照射して、CCDカメラで蛍光を検出し、得られた蛍光情報をイメージ処理することにより生成させる。或いは、光学CT装置を使用したり、内視鏡を使用したり、眼底カメラを使用してもよい。
本発明の蛍光造影剤を用いた蛍光イメージング法によって、全身性の疾患、腫瘍、血管などを生体を傷つけることなく可視化することができる。
【実施例】
【0049】
本発明を実施例によってより詳しく説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び実験例中の化合物番号は構造式により説明される化合物の番号に対応している。
【0050】
実験例1
n-ブタノール/水の分配係数 (log Po/w)を化合物(1)から化合物(7)について測定した。なお、化合物(1)〜(7)はジャーナル オブ アメリカン ケミカルソサエティー 1951年73号5326頁(J.Am.Chem.Soc,73,5326(1951))及び米国特許第2,177,402号の記載を参照して合成した。
対照化合物として、シアニン色素であるNK-1967(日本感光色素研究所(株))及びICG(東京化成工業)を使用した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【化7】

【0053】
実験例2:腫瘍選択性の評価
腫瘍細胞への選択性の評価は腫瘍細胞と正常細胞に色素を取り込ませ、排出させた時に細胞間の排出速度の比を指標とした。腫瘍細胞としてはKB細胞(大日本住友製薬)、正常細胞としてCHL細胞(大日本住友製薬)を用いて評価を行った。12穴のウェルにそれぞれ8.0×103個の細胞をまき、2日間CO2インキュベータ中、37℃で培養した。各色素を生理食塩水に溶解し、濃度が0.5g/mlとなるように培地に添加した。さらに24時間CO2インキュベータ中、37℃で培養することにより、色素を細胞内に取り込ませた。その後、生理食塩水で細胞を3回洗浄し、培地を加えた。培地を添加直後と培地を添加後8時間CO2インキュベータ中、37℃で培養を行った時の細胞内の色素量を定量することにより細胞からの排出速度の比較を行った。細胞内の色素の定量は、培地を抜き取り、3回生理食塩水で洗浄後、0.1%SDS溶液0.5mlを加えて37℃で30分処理することで細胞を溶解し、そこに生理食塩水0.5mlを加えてサンプルとした。該サンプルのHPLC分析を行うことにより、定量を行った。培地を添加直後の細胞内の色素量を100とした時、8時間経過後の細胞内から排出された色素の量を相対的な排出速度とした。腫瘍選択性は、(腫瘍選択性):(正常細胞からの排出速度)/(腫瘍細胞からの排出速度)として色素間の比較を行った。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
以上の結果より、一般式(I)で表されるメロシアニン色素は、比較色素に比して腫瘍選択性に優れており、蛍光造影剤として腫瘍の診断に有効に用いることが出来ることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メロシアニン色素を有効成分として含む蛍光造影剤。
【請求項2】
前記メロシアニン色素が下記一般式(I)で示される化合物である請求項1に記載の蛍光造影剤。
【化1】

(一般式(I)中、Z1はZ1が結合する窒素原子及び炭素原子ならびに−(M1−M2m−とともに置換基を有していてもよい含窒素複素環を形成する原子群を表し、Z2はZ2が結合するカルボニル基と該カルボニル基と結合する炭素原子とともに置換基を有していてもよい酸性核を形成する原子群を表し、R1は、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、又は置換又は無置換のヘテロ環基を表し、M1〜M4はそれぞれ独立に置換又は無置換のメチン基を表し、M1及びM2は結合して環を形成してもよく、M3及びM4、M3及びM3、又はM4及びM4は結合して環を形成してもよく、m は0又は1を表し、nは0〜4の整数を表し、nが2以上の時、複数のM3、M4 はそれぞれ同じでも異なってもよく、CIは電荷を中和するイオンを表し、yは電荷の中和に必要なCIの数を表す。)
【請求項3】
前記メロシアニン色素が下記一般式(II)で示される化合物である請求項1又は2に記載の蛍光造影剤。
【化2】

(一般式(II)中、R1は、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、又は置換又は無置換のヘテロ環基を表し、nは0〜4の整数を表し、Z2はZ2が結合するカルボニル基と該カルボニル基と結合する炭素原子とともに置換基を有していてもよい酸性核を形成する原子群を表し、Xは−O−、−S−、−NR5−、又は−CR67−を表し、R5〜R7はそれぞれ独立に水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、又は置換又は無置換のヘテロ環基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基、ハロゲン原子、ニトロ基、アルコキシ基、置換又は無置換のアリールオキシ基、置換又は無置換のアシルアミノ基、置換又は無置換のカルバモイル基、ヒドロキシ基、置換又は無置換のアルキルチオ基、又はシアノ基を表し、Z3はZ3が結合する2つの炭素原子とともに置換基を有していてもよい芳香環を形成する原子団を表し、nが2以上の時、複数のR3、R4はそれぞれ同じでも異なってもよく、CIは電荷を中和するイオンを表し、yは電荷の中和に必要なCIの数を表す。)
【請求項4】
CIがナトリウムイオンである請求項2又は3に記載の蛍光造影剤。
【請求項5】
前記メロシアニン色素が分子中に2個以上のスルホン酸基を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の蛍光造影剤。
【請求項6】
近赤外光領域に吸収及び蛍光を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光造影剤。
【請求項7】
腫瘍イメージングに用いられる請求項1〜6のいずれか一項に記載の蛍光造影剤。

【公開番号】特開2009−67690(P2009−67690A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234998(P2007−234998)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】