説明

メンブレンスイッチ

【課題】完全な防水性を有し、かつスイッチ押下時及び気温変化時において、スイッチ内部の圧力変化を抑制することができる、メンブレンスイッチを提供する。
【解決手段】接点が形成された2枚の接点シート12,14と、シート面の接点に対向する位置に接点用の開口が形成されたスペーサ16と、を有し、スペーサの開口と2枚の接点シートを内壁として接点室53,55が形成されるメンブレンスイッチであって、2枚の接点シートと、スペーサに設けられた接点用とは異なる開口を内壁として、接点室に連通するガス室61,63,65,67が形成され、接点シートには、ガス室の圧力変化に応じて変形可能な変形部40,42,44,46が成型されており、接点室内の圧力変化に応じて変形部が撓み変形することにより、ガス室の容積が変化することを特徴としている。スイッチ押下時及び気温変化時におけるスイッチ内部の圧力変化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンブレンスイッチに関し、詳細には防塵性や防水性を有するメンブレンスイッチの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
埃や水などが浸入するような使用環境の悪い条件下で、電子機器のスイッチ操作を確実なものとするために、従来からメンブレンスイッチが用いられてきた。メンブレンスイッチは、シートスイッチとも呼ばれ、図7に示すように、導電性インクで回路(図示せず)及び接点102,104が印刷された上部接点シート106と下部接点シート108を有し、これらのシートを接点102,104の周囲に開口を形成したスペーサ110を挿んで、接点102,104が向かい合うよう張り合わせることで、スイッチ構造を形成している。このようなメンブレンスイッチ100は、接点シート106,108、スペーサ110及び接着シール材112で囲まれた部位114(以下、接点室114と記す)にスイッチの接点102,104を有していることから、高い防水性や防塵性を実現している。
【0003】
ここで、接点室114が外気から完全に密閉されたスイッチ構造とした場合、スイッチを押下するにつれて、接点室内部は気体の圧縮により圧力が上昇し、スイッチ操作時の感触を悪化させてしまうという問題があった。
【0004】
そこで、従来例(特許文献1)のメンブレンスイッチ200においては、図8に示すように、スイッチ内部の接点室202と外気を接続する通気孔204が設けられている。この通気孔204を経て接点室202と外気との通気を可能にすることで、スイッチ操作時(押下時)に接点室202で圧縮された空気を外部に逃がし、スイッチの操作感触を良好なものにしている。
【0005】
しかし、このような外気とスイッチ200の内部とを接続する通気孔204を設けると、外気中の水分がスイッチ内部の接点室202に浸入し、接点室202にある接点206や回路が腐食してしまうことがあった。
【0006】
したがって、メンブレンスイッチには、より高い防水性(防湿性)と、スイッチ操作時の圧力変化の抑制とを、両立させることが求められており、以下に示すようなスイッチ構造が提案されてきた。
【0007】
例えば、従来例(特許文献2)には、図9に示すように、シートに設けられた通気孔302(貫通孔)を、水分を透過させず、気体のみを透過させるシール材304で閉塞することで、完全な防水構造を実現したメンブレンスイッチ300が開示されている。気体を透過させるシール材304がスイッチ内部にある接点室306の圧力と外気圧を平衡させて、スイッチ押下時や気温変化時における、接点室306の圧力変化を抑制している。
【0008】
また、別の従来例(特許文献3)には、図10(a),(b)に示すように、スイッチ内部が外気から完全に密閉され、かつスイッチ内部に、スイッチの接点室402に連通する空気溜り404を設けたメンブレンスイッチ400が開示されている。スイッチ押下時に接点室402で圧縮された空気が、空気溜り404,405に流入することで、接点室402内部の圧力変化を抑制し、スイッチの良好な操作感触を実現している。
【0009】
【特許文献1】特開平6−168647号公報
【特許文献2】特開平10−154436号公報
【特許文献3】特開平5−234459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前述の従来例(特許文献2)に記載の技術においては、水分を透過させず気体のみを透過させる特殊なシール材304を用いる必要があり、スイッチのコストが高くなるという問題があった。
【0011】
また、別の従来例(特許文献3)に記載の技術においては、接点室402に連通する空気溜り404は、容積を変化させることができないため、スイッチ押下時における接点室402の圧力上昇を抑制するには、比較的大きな容積を有する空気溜り404をスイッチ内部に設ける必要があった。更に、気温変化時における気体の体積変化によるスイッチ内部の圧力変化を抑制することができなかった。低温時においては、接点室402の圧力低下により上部及び下部接点シート406,408が撓み、誤導通を起こす可能性があり、一方、高温時においては、接点室402を含むスイッチ内部に高い圧力がかかり続けるため、接点シート406,408とスペーサ410を接着するシール材に剥れが生じる恐れがあった。
【0012】
そこで、本発明は、従来例のような特殊なシール材を用いることなく、完全防水構造を有し、かつスイッチ押下時及び気温変化時においてスイッチ内部の圧力変化を抑制可能なメンブレンスイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明のメンブレンスイッチは、それぞれのシート面に、互いに対向して接点が形成された2枚の接点シートと、2枚の接点シートの間に設けられ、シート面の接点に対向する位置に接点用の開口が形成されたスペーサと、を有し、スペーサの開口と2枚の接点シートを内壁として接点室が形成されるメンブレンスイッチであって、2枚の接点シートと、スペーサに設けられた接点用とは異なる開口を内壁として、接点室に連通するガス室が形成され、2枚の接点シートの少なくとも一方には、ガス室の圧力変化に応じて変形可能な変形部が成型され、接点室内の圧力変化に応じて接点シートの変形部が撓み変形することにより、ガス室の容積が変化することを特徴とする。
【0014】
ここで、接点シートの変形部は、ドーム形状に成型され、接点室内の圧力変化に応じてドーム形状が反転して撓み変形することにより、ガス室の容積を変化させることが好ましい。
【0015】
また、接点シートの変形部は、同心円状に凹凸を形成するよう蛇腹形状に成型され、接点室内の圧力変化に応じて蛇腹形状が撓み変形することにより、ガス室の容積を変化させることも好適である。
【0016】
また、本発明のメンブレンスイッチの別の態様では、それぞれのシート面に、互いに対向して接点が形成された2枚の接点シートと、2枚の接点シートの間に設けられ、シート面の接点に対向する位置に接点用の開口が形成されたスペーサと、を有し、スペーサの開口と2枚の接点シートを内壁として接点室が形成されるメンブレンスイッチであって、接点シートには、接点室に連通する通気孔が設けられ、この通気孔を外気から密閉可能に、接点シートに取り付けられた遮蔽カバーを備え、通気孔を含む接点シートと遮蔽カバーを内壁とするガス室が形成され、遮蔽カバーには、ガス室の圧力変化に応じて変形可能な変形部が成型され、接点室内の圧力変化に応じて、遮蔽カバーの変形部が撓み変形することにより、ガス室の容積が変化することを特徴とする。
【0017】
ここで、遮蔽カバーの変形部は、ドーム形状に成型され、接点室内の圧力変化に応じてドーム形状が反転して撓み変形することにより、ガス室の容積が変化させることが好ましい。
【0018】
また、遮蔽カバーの変形部は、同心円状に凹凸を形成するよう蛇腹形状に成型され、蛇腹形状が撓み変形することにより、ガス室の容積が変化させることも好適である。
【発明の効果】
【0019】
上記の構成により、メンブレンスイッチは、完全な防水性を有し、かつスイッチ押下時及び気温変化時において、スイッチ内部の圧力変化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に好適な第1〜第3の実施形態について図面を参照し説明する。
【0021】
〔第1実施形態〕
第1実施形態のメンブレンスイッチの構成について説明する。図1は、第1実施形態のメンブレンスイッチ10の縦断面図であり、図2は、メンブレンスイッチ10の内部形状の概略を示す上面図である。なお、図1は、図2のA−A線による断面図を示している。第1実施形態のメンブレンスイッチの構成について、図1、図2を用いて説明する。
【0022】
まず、図1に示すように、メンブレンスイッチ10は、接点22,24が設けられた上部接点シート12と、接点26,28が設けられた下部接点シート14が、スペーサ16を挿んで、それぞれのシートの接点が向かい合うように配置されて構成されている。
【0023】
上部接点シート12は、ポリエステルフィルムであり、ドーム形状の接点部32,34が一体に成型されている。この接点部32,34の裏面(スペーサ16側)には、導電性インクにより接点22,24及び回路(図示せず)が印刷され、接点部32,34の表面には、スイッチの名称等を記した意匠面36,38が形成されている。
【0024】
同様に、下部接点シート14は、ポリエステルフィルムで成型され、上部接点シート12の接点22,24に対向する位置に、それぞれ接点26,28が印刷されている。更に、下部接点シート14には、ドーム形状の変形部40,42,44,46が一体に成型されている。
【0025】
スペーサ16は、ポリカーボネートで成型されており、図2に示すように、上部接点シート12の接点部32,34に対向する位置には、それぞれ開口52,54が形成され、下部接点シート14の変形部40,42,44,46に対向する位置には、それぞれ開口60,62,64,66が形成されている。これらの開口52,54,60,62,64,66は、スペーサ16の表裏を貫通している。
【0026】
そして、図1に示すように、上部接点シート12は、上部接着シート18によりスペーサ16と接着される。一方、下部接点シート14は、下部接着シート20により、スペーサ16と接着されている。
【0027】
このように2枚の接点シート12,14をスペーサ16に貼り合せることにより、接点室53,55と、ガス室61,63,65,67が形成される。接点室53は、スペーサの開口52と、上部接点シート12の接点部32、及び下部接点シート14を内壁として形成される。同様に、接点室55は、スペーサの開口54と、上部接点シート12の接点部38、及び下部接点シート14を内壁として形成される。一方、ガス室61,63,65,67は、それぞれスペーサの開口60,62,64,66と上部接点シート12、及び下部接点シート14の変形部40,42,44,46を内壁として形成される。これら接点室53,55、及びガス室61,63,65,67は、2枚の接点シート12,14と、スペーサ16及び接着シート18,20により、外気から完全に密封されており、完全な防水性を有している。
【0028】
上部接着シート18は、スペーサの開口52,54,60,62,64,66に対向する部位が切除され、更に、これらの開口のうち隣り合う開口が互いに連通するように、開口を最短距離で接続する部位について溝形状に切除される。そして、上部接着シート18と、上部接点シート12とスペーサ16を貼り合わせることにより、図2に示すように、上部接点シート12と、上部接着シート18、及びスペーサ16で囲まれた通気溝70,72,74,76,78が形成される。これらの通気溝70,72,74,76,78は、気体が流通可能で形成されており、接点室53,55、及びガス室61,63,65,67は、互いに連通している。
【0029】
なお、第1実施形態のメンブレンスイッチ10は、初期状態、すなわち常温かつスイッチを押下していない状態において、下部接点シートの変形部40は、図1に実線で示すように、スイッチ外側(スペーサ16を有しない側)に凸形状となるドーム形状を有し、その他の変形部42,44,46は、スイッチ外側に凹形状となるドーム形状を有する状態に設定されている。
【0030】
このように設定されているのは、気温が低下した状態(気温低下時)、気温が上昇した状態(気温上昇時)、スイッチを押下した状態(スイッチ押下時)、及びこれらが重なった状態における、スイッチ内部(ガス室60,62,64,66、接点室53,55、及び通気溝70,72,76,74,78)にある気体の膨張又は収縮に対応するためである。
【0031】
気温低下時においては、変形部40のドーム形状がスイッチ外側に凹形状となるよう変形することで、スイッチ内部の気体の収縮に対応する。一方、気温上昇時においては、変形部42,44,46のうち一つのドーム形状が、スイッチ外側に凸形状となるよう変形することで、スイッチ内部の気体の膨張に対応する。気温変化によるスイッチ内部の気体の膨張又は収縮が、1つのドーム形状の反転による、ガス室の容積変化で吸収できるように設定されている。
【0032】
スイッチ押下時においては、気温上昇時に比べてスイッチ内部の気体の膨張率が高いため、変形部42,44,46のうち2つのドーム形状が、スイッチ外側に凸形状となるよう変形することで、気体の膨張に対応する。これは、スイッチを押下した時の接点室の体積減少分が、2つのガス室の体積増大分に相当するよう設定されているためである。
【0033】
気温変化時は、接点操作時に比べ、スイッチ内部の気体のまた、気温上昇時で、スイッチを押下した場合においては、変形部42,44,46のすべてのドーム形状が、スイッチ外側に凸形状となるよう変形することで、高温による気体の膨張とスイッチ押下による気体の膨張の双方に対応する。
【0034】
以上の理由から、第1実施形態においては、下部接点シート20にドーム形状の変形部が4つ設けられている。初期状態において、4つの変形部のうち1つはスイッチ外側に凸形状に、残り3つはスイッチ外側に凹形状となるよう設定されている。
【0035】
次に、第1実施形態のメンブレンスイッチの動作について、図1、図2を用いて説明する。メンブレンスイッチがさらされる気温変化時における変形部40,42,44,46の動作と、これに加えてスイッチを押下した時(スイッチON時)における、変形部40,42,44,46の動作について、以下に詳細を説明する。
【0036】
まず、気温が常温であり、かつスイッチを押下した場合の動作について説明する。接点部32の意匠面36を押下すると、上部接点シートの接点部32は、そのドーム形状が撓み変形し、接点部32は破線で示す位置に反転する。この位置において、接点22も破線で示す位置に移動し、この移動した接点が、下部接点シート14に設けられた接点26と接触することで、回路が導通する。
【0037】
この時、接点部32が破線で示す位置に撓み変形するにつれて、接点室53の容積が減少し、接点室53内の気体が圧縮される。接点室53の内部で圧縮された空気は、接点室とガス室を接続する通気溝76、及び隣り合うガス室を接続する通気溝70,72,74,78を経て、ガス室60,62,64,66及び接点室55に流入する。この空気の流入により、スイッチ内部(ガス室60,62,64,66、接点室53,55、及び通気溝70,72,76,74,78)の圧力が上昇する。このスイッチ内部の圧力が所定の圧力に達したとき、スイッチ外側に凹形状を有している変形部42,44,46のうち2つが、スイッチ外側に凸形状を有するように撓み変形し、変形部のドーム形状が反転する。例えば、2つの変形部42及び44が撓み変形し、それぞれ破線で示す位置に反転する。
【0038】
このように変形部42及び44が変形することで、これら変形部を内壁とするガス室63、65の容積が増大する。このガス室63、65の容積が増大する分だけ、スイッチの内部圧力は低下する。
【0039】
以上のように、スイッチを押下することでスイッチ内部の圧力が一時的に上昇するが、所定の圧力に達すると変形部が撓み変形し、そのドーム形状をスイッチ外側に凸形状となるよう反転させることで、ガス室の容積を増大させる。
【0040】
これにより、スイッチ内部の圧力上昇を、所定の圧力以下に抑制することができる。スイッチ押下時におけるスイッチ内部の圧力上昇が抑制されるため、スイッチの操作感触を良好なものにすることができる。
【0041】
したがって、従来のように、気体のみを透過させる特殊なシール材や、接点室と連通する比較的大きな容積を有する空気溜りをメンブレンスイッチに設ける必要がなく、低コストで、コンパクトなメンブレンスイッチを実現することができる。
【0042】
次に、気温が上昇する場合の動作について説明する。気温上昇時においては、常温時に比べ、スイッチ内部にある気体が膨張し、スイッチ内部の圧力は上昇する。
【0043】
このスイッチの内部圧力が所定の圧力以上となったとき、常温時においてスイッチ外側に凹形状である変形部42,44,46のうち1つが撓み変形し、そのドーム形状を反転させる。例えば、変形部42がスイッチ外側に凸形状を有するよう、破線で示す位置にドーム形状が反転する。
【0044】
このように1つの変形部42が変形することで、変形部42を内壁とするガス室63の容積が増大する。このガス室63の容積が増大する分だけ、スイッチの内部圧力は低下する。
【0045】
以上のように、気温が上昇に応じてスイッチ内部の圧力は一時的に上昇するが、所定の圧力以上となったときドーム形状の変形部が撓み変形し、スイッチ外側に凸形状となるようドーム形状を反転させ、ガス室の容積を増大させる。これにより、スイッチ内部の圧力上昇を、所定の圧力以下に抑制することができる。
【0046】
したがって、気温の上昇によって膨張した気体の高い圧力が、スイッチ内部に常に作用することを防止することができる。高い圧力がスイッチ内部に常に作用することで、接点シート及びスペーサと、接着シートの間に剥れが生じ、スイッチ内部と外気が通じて水分が浸入してしまうことを防止する。
【0047】
次に、このような気温上昇時(高温時)において、スイッチを押下した場合について説明する。気温上昇時において、スイッチ外側に凹形状である、残り2つの変形部44,46が撓み変形し、そのドーム形状を反転させる。これら2つの変形部を内壁とするガス室65,67の容積が増大することにより、気温上昇時においても、スイッチ押下時におけるスイッチ内部の圧力上昇を抑制することができる。
【0048】
したがって、気温の上昇によるスイッチ内部の圧力上昇と、スイッチ押下による圧力上昇が同時に起こる場合においても、スイッチの操作感触を良好なものにすることができる。
【0049】
次に、気温が低下する場合の動作について説明する。気温低下時においては、常温時に比べ、スイッチ内部、すなわちガス室60,62,64,66、接点室53,55、及び通気溝70,72,76,74,78にある気体が収縮し、スイッチ内部の圧力は低下する。
【0050】
このスイッチの内部の圧力が所定の圧力以下となったとき、常温時においてスイッチ外側に凸形状である変形部40が撓み変形し、スイッチ外側に凹形状となるよう、破線で示す位置にドーム形状が反転する。
【0051】
このように変形部40が変形することで、これらの変形部を内壁とするガス室61の容積が減少する。このガス室61の容積が減少する分だけ、スイッチの内部圧力は上昇する。
【0052】
以上のように、気温の低下に応じてスイッチ内部の圧力は一時的に低下するが、所定の圧力以下となったとき変形部が撓み変形し、スイッチ外側に凹形状となるようドーム形状を反転させ、ガス室の容積を減少させる。これにより、スイッチ内部の圧力低下を、所定の圧力以上に抑制することができる。
【0053】
したがって、接点室の圧力低下により、上部接点シートの接点部がスイッチ内側に撓み変形し、これら接点部に設けられた接点と、下部接点シートに設けられた対向する接点とが、誤導通してしまうことを防止することができる。
【0054】
以上の第1実施形態において、変形部は下部接点シートに設けられたが、この変形部は上部接点シートに設けられても良い。メンブレンスイッチの設置場所に、変形部のドーム形状がスイッチ外側に反転可能な空間があり、かつ意匠上問題の無いような接点シートに設けられれば良い。例えば、上部接点シート及び下部接点シートの双方に変形部が設けられ、1つのガス室の内壁を構成するような構成としても良い。
【0055】
また、第1実施形態において、ガス室は4箇所設けられたが、これに限定されるものではない。例えば、より容積の小さいガス室を、より多数設けることで、スイッチ内部の圧力変化により多段にスイッチ内部の容積を変化させる構成としても良い。
【0056】
〔第2実施形態〕
第2実施形態のメンブレンスイッチの構成について説明する。図3は、第2実施形態のメンブレンスイッチ80の縦断面図であり、図4は、メンブレンスイッチ80の内部形状の概略を示す上面図である。なお、図3は、図4のB−B線による断面図を示している。
【0057】
第2実施形態のメンブレンスイッチ80には、下部接点シートに1つの変形部が一体に成型されている。この変形部は、同心円状に凹凸を形成するよう蛇腹形状に成型されており、スイッチ内部の圧力変化に応じて連続的に撓み変形することができる。この点で、変形部がドーム形状に成型されている第1実施形態とは異なる。以下に、第2実施形態のメンブレンスイッチの構成について、図3、図4を用いて詳細を説明する。なお、第1実施形態のメンブレンスイッチと共通の構成には、同一の符号が付されている。
【0058】
第2実施形態のメンブレンスイッチ80の下部接点シート14には、同心円状に凹凸を形成し(図4)、かつ断面は9つの湾曲が連続した形状を有する(図3)、蛇腹形状の変形部82が一体に成型されている。スペーサ16には、図4に示すように、上部接点シート12の接点部32,34に対向する位置に、それぞれ開口52,54が形成され、下部接点シート14の変形部82に対向する位置に、開口84が形成されている。これらの開口52,54,84は、スペーサ16の表裏を貫通している。
【0059】
そして、図3に示すように、2枚の接点シート12,14をスペーサ16に貼り合せることにより、接点室53,55と、ガス室86が形成される。ガス室86は、スペーサの開口84と上部接点シート12、及び下部接点シート14の変形部82を内壁として形成される。これら接点室53,55、及びガス室61,63,65,67は、外気から完全に密封されており、完全な防水性を有している。
【0060】
上部接着シート18は、スペーサの開口52,54,84に対向する部位が切除され、更に、開口52と開口54を接続する部位と、開口52と開口84を接続する部位について溝形状に切除される。そして、上部接着シート18と、上部接点シート12とスペーサ16を貼り合わせることにより、上部接点シート12と、上部接着シート18、及びスペーサ16で囲まれた通気溝76,78が形成される。これらの通気溝76,78は、気体が流通可能に形成されており、接点室53,55、及びガス室86は、互いに連通している。
【0061】
なお、第2実施形態のメンブレンスイッチ80は、初期状態、すなわち常温かつスイッチを押下していない状態において、下部接点シートの変形部82は、図3に実線で示すように、下部接点シート14の平坦な面に対称となるよう蛇腹形状(凹凸形状)を有する状態に設定されている。
【0062】
下部接点シートの変形部82は、スイッチ内部(ガス室86、接点室53,55、及び通気溝76,78)にある気体の膨張や収縮による、ガス室86の圧力変化に応じて、連続的に撓み変形可能に構成されている。すなわち、ガス室86の圧力が上昇すると、蛇腹形状の変形部82がスイッチ外側(スペーサ16を有しない側)に撓み変形し、ガス室86の容積を増加させる。一方、ガス室86の圧力が低下すると、蛇腹形状の変形部82がスイッチ内側(スペーサ16を有する側)に撓み変形し、ガス室86の容積を減少させる。
【0063】
次に、第2実施形態のメンブレンスイッチの動作について、図3、図4を用いて説明する。メンブレンスイッチがさらされる気温変化時における変形部82の動作と、これに加えてスイッチを押下した時(スイッチON時)における、変形部82の動作について、以下に詳細を説明する。
【0064】
まず、気温が常温であり、かつスイッチ押下時の動作について説明する。接点部32の意匠面36を押下すると、第1実施形態と同様に、接点室53の容積が減少し、接点室53内の気体が圧縮され、スイッチ内部の圧力が上昇する。接点室53の内部で圧縮された空気は、接点室とガス室を接続する通気溝76を経て、ガス室86に流入する。この空気の流入により、ガス室86の圧力が上昇する。
【0065】
このガス室86の圧力上昇に応じて、同心円状に凹凸を形成するよう蛇腹形状を有している変形部82が、スイッチ外側(スペーサ16を有しない側)に連続的に撓み変形し、図3に一点鎖線で示す位置に移動する。変形部82が撓み変形することで、この変形部82を内壁とするガス室86の容積が増大する。このガス室86の容積が増大する分だけ、スイッチ内部の圧力上昇は抑制される。
【0066】
気温上昇時の動作についても、スイッチ押下時と同様である。変形部82は、気温の上昇に応じて、図3に実線で示す位置よりもスイッチ外側に撓み変形し、この変形部を内壁とするガス室86の容積を増大させる。このガス室86の容積が増大する分だけ、スイッチの内部の圧力上昇は抑制される。
【0067】
気温上昇時において、さらにスイッチを押下した場合は、変形部82が、図3に一点鎖線で示す位置から、さらにスイッチ外側に撓み変形することで、スイッチ内部の圧力上昇を抑制することができる。
【0068】
気温低下時においては、常温時に比べ、スイッチ内部の気体は収縮し、スイッチ内部の圧力は低下する。このスイッチ内部の圧力低下に応じて、同心円状に凹凸を形成するよう蛇腹形状を有している変形部82が、スイッチ内側(スペーサ16を有する側)に連続的に撓み変形し、図3に二点鎖線で示す位置に移動する。変形部82が撓み変形することで、この変形部82を内壁とするガス室86の容積が減少する。このガス室86の容積が減少する分だけ、スイッチ内部の圧力低下は抑制される。
【0069】
以上のように、第2実施形態のメンブレンスイッチは、気温の変化及びスイッチ押下によるスイッチ内部の圧力変化に応じて、随時、変形部82を撓み変形させる。接点室と連通する変形部を1箇所設けるだけで、スイッチ内部の圧力上昇及び圧力低下を抑制することができる。
【0070】
以上の第2実施形態において、変形部82は下部接点シートに設けられたが、この変形部は上部接点シート12に設けられても良い。メンブレンスイッチの設置場所に、同心円状に凹凸を有する蛇腹形状が撓み変形可能な空間があり、かつ意匠上問題の無いような接点シートに設けられれば良い。
【0071】
また、変形部82の蛇腹形状は、図3に示すように9つの湾曲が連続した形状で成型されたが、これに限定されるものではない。例えば、より曲率半径の小さな湾曲を、より多数有する蛇腹形状であっても良い。
【0072】
〔第3実施形態〕
第3実施形態のメンブレンスイッチの構成について説明する。図5は、第3実施形態のメンブレンスイッチ90の縦断面図であり、図6は、メンブレンスイッチ90の内部形状の概略を示す上面図である。なお、図5は、図6のC−C線による断面図を示している。第3実施形態のメンブレンスイッチ90は、接点シートに設けられ接点室に連通する通気孔を、外気から密閉可能に、接点シートに取り付けられた遮蔽カバーを備えている。この遮蔽カバーと接点シートを内壁とするガス室が形成され、ガス室の圧力変化に応じて、遮蔽カバーの変形部が変形し、ガス室の容積を変化させる。この点で、第1及び第2実施形態と異なる。以下に、第3実施形態のメンブレンスイッチの構成について、図5、図6を用いて詳細を説明する。なお、第1及び第2実施形態のメンブレンスイッチと共通の構成には、同一の符号が付されている。
【0073】
第3実施形態のメンブレンスイッチ90の下部接点シート14には、第1及び第2実施形態とは異なり、変形部は成型されず、接点室に連通する通気孔91が形成されている。
【0074】
また、下部接着シート20は、スペーサの開口52,54に対向する部位が切除され、更に、開口52と開口54を接続する部位と、開口52と通気孔91を接続する部位について溝形状に切除される。そして、下部接着シート20と、下部接点シート14とスペーサ16を貼り合わせることにより、下部接点シート14と、上部接着シート20、及びスペーサ16で囲まれた通気溝77,79が形成される。これらの通気溝77,79は、気体が流通可能に形成されており、接点室53,55、及び通気孔91は、互いに連通している。
【0075】
更に、下部接点シート14には、通気孔91を覆うように、遮蔽カバー93が取り付けられる。遮蔽カバー93は、同心円状に凹凸を形成する蛇腹形状の変形部92を有しており、ポリエステルで一体に成型されている。この遮蔽カバー93を下部接点シート14に取り付けることにより、遮蔽カバー93と、通気孔91を含む下部接点シート14とを内壁とするガス室96が形成される。ガス室96と、接点室53,55は、通気溝77,79及び通気孔91を介して互いに連通している。
【0076】
なお、第3実施形態のメンブレンスイッチ90は、初期状態(常温かつスイッチを押下していない状態)において、遮蔽カバーの変形部92が、図5に実線で示すように、蛇腹形状(凹凸形状)の湾曲が、下部接点シートの面に対して平行に並ぶ状態に設定されている。
【0077】
遮蔽カバーの変形部92は、スイッチ内部(ガス室96、接点室53,55、及び通気溝77,79)にある気体の膨張や収縮による、ガス室96の圧力変化に応じて、連続的に撓み変形可能に構成されている。すなわち、ガス室96の圧力が上昇すると、蛇腹形状の変形部82がスイッチ外側(スペーサ16を有しない側)に撓み変形し、ガス室96の容積を増加させる。一方、ガス室96の圧力が低下すると、蛇腹形状の変形部92がスイッチ内側(スペーサ16を有する側)に撓み変形し、ガス室96の容積を減少させる。
【0078】
次に、第3実施形態のメンブレンスイッチの動作について、図5、図6を用いて説明する。メンブレンスイッチがさらされる気温変化時における変形部92の動作と、これに加えてスイッチを押下した時(スイッチON時)における、変形部92の動作について、以下に詳細を説明する。
【0079】
まず、気温が常温であり、かつスイッチ押下時の動作について説明する。接点部32の意匠面36を押下すると、第1実施形態と同様に、接点室53の容積が減少し、接点室53内の気体が圧縮され、スイッチ内部の圧力が上昇する。接点室53の内部で圧縮された空気は、接点室とガス室を接続する通気溝77及び通気孔91を経て、ガス室96に流入する。
【0080】
このガス室96の圧力上昇に応じて、同心円状に凹凸を形成するよう蛇腹形状を有している変形部92が、スイッチ外側(スペーサ16を有しない側)に連続的に撓み変形し、図5に一点鎖線で示す位置に移動する。変形部92が撓み変形することで、この変形部92を内壁とするガス室96の容積が増大する。このガス室96の容積が増大する分だけ、スイッチ内部の圧力上昇は抑制される。
【0081】
気温上昇時の動作についても、スイッチ押下時と同様である。変形部92は、気温の上昇に応じて、図3に実線で示す位置よりもスイッチ外側に撓み変形し、この変形部を内壁とするガス室86の容積を増大させる。このガス室86の容積が増大する分だけ、スイッチの内部の圧力上昇は抑制される。
【0082】
気温上昇時において、さらにスイッチを押下した場合は、変形部92が、図5に一点鎖線で示す位置から、さらにスイッチ外側に撓み変形することで、スイッチ内部の圧力上昇を抑制することができる。
【0083】
気温低下時においては、常温時に比べ、スイッチ内部の気体は収縮し、圧力は低下する。このスイッチ内部の圧力低下に応じて、同心円状に凹凸を形成するよう蛇腹形状を有している変形部92が、スイッチ内側(スペーサ16を有する側)に連続的に撓み変形し、図5に二点鎖線で示す位置に移動する。変形部92が撓み変形することで、この遮蔽カバー93の変形部92を内壁とするガス室96の容積が減少する。このガス室96の容積が減少する分だけ、スイッチ内部の圧力低下は抑制される。
【0084】
以上のように、第3実施形態のメンブレンスイッチ90は、第2実施形態と同様にスイッチ内部の圧力変化に応じて、随時、変形部92を撓み変形させる。接点シートに接点室と連通する通気孔を1箇所設け、変形部を有する遮蔽カバーを、接点シートの通気孔を覆うように取り付けるという簡単な構成で、スイッチ内部の圧力上昇及び圧力低下を抑制することができる。
【0085】
この第3実施形態において、遮蔽カバー93の変形部92は、同心円状に凹凸を形成する蛇腹形状としたが、これに限定されるものではない。遮蔽カバーの形状は、第1実施形態の接点シートに成型されたドーム形状としても良い。接点シートに接点室に連通する通気孔を複数設け、更に、各通気孔ごとにドーム形状を有する遮蔽カバーで覆うように構成することで、第1実施形態と同様の効果を奏することもできる。
【0086】
以上の第1、第2及び第3の実施形態について説明した。これらの実施形態において、接点シートや遮蔽カバーの変形部は、ドーム形状又は蛇腹形状に成型されたが、これに限定されるものではない。変形部は、これを内壁として形成されるガス室の圧力変化に応じて変形可能であれば、他の形状でも良い。また、これらの実施形態において、接点シートや、遮蔽カバーは、ポリエステルで成型されるものとしたが、その他の材質でも良い。接点シートや遮蔽カバーに、前述のドーム形状、又は同心円状に凹凸を有する蛇腹形状といった変形部が形成可能で、かつガス室の圧力変化に応じて撓み変形するよう、適切な材質が選択される。例えば、ウレタンやポリエチレンテレフタレート等を使用しても良い。また、接点シートと、スペーサは接着テープにより貼りあわされたが、これに限定されるものではない。通気溝を形成するよう間隔をあけて接着材を塗布して貼りあわせる構成とすることも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】第1実施形態のメンブレンスイッチの縦断面図である。
【図2】第1実施形態のスイッチ内部形状の概略を示す上面図である。
【図3】第2実施形態のメンブレンスイッチの縦断面図である。
【図4】第2実施形態のスイッチ内部形状の概略を示す上面図である。
【図5】第3実施形態のメンブレンスイッチの縦断面図である。
【図6】第3実施形態のスイッチ内部形状の概略を示す上面図である。
【図7】従来のメンブレンスイッチの縦断面図である。
【図8】従来例(特許文献1)のメンブレンスイッチの縦断面図である。
【図9】従来例(特許文献2)のメンブレンスイッチの縦断面図である。
【図10】従来例(特許文献3)のメンブレンスイッチの斜視図であり、(a)は接点シートとスペーサを分解した図であり、(b)はスイッチを押下した状態を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0088】
10 メンブレンスイッチ、12 上部接点シート、14 下部接点シート、16 スペーサ、18,20 接着シート、22 接点、32 接点部、40 変形部、52 開口、53 接点室、61 ガス室、76 通気溝、80 メンブレンスイッチ、82 変形部、86 ガス室、90 メンブレンスイッチ、91 通気孔、92 変形部、93 遮蔽カバー、96 ガス室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれのシート面に、互いに対向して接点が形成された2枚の接点シートと、
2枚の接点シートの間に設けられ、シート面の接点に対向する位置に接点用の開口が形成されたスペーサと、を有し、
スペーサの開口と2枚の接点シートを内壁として接点室が形成されるメンブレンスイッチであって、
2枚の接点シートと、スペーサに設けられた接点用とは異なる開口を内壁として、接点室に連通するガス室が形成され、
2枚の接点シートの少なくとも一方には、ガス室の圧力変化に応じて変形可能な変形部が成型され、
接点室内の圧力変化に応じて接点シートの変形部が撓み変形することにより、ガス室の容積が変化することを特徴とするメンブレンスイッチ。
【請求項2】
請求項1に記載のメンブレンスイッチであって、
接点シートの変形部は、ドーム形状に成型され、
接点室内の圧力変化に応じてドーム形状が反転して撓み変形することにより、ガス室の容積が変化することを特徴とするメンブレンスイッチ。
【請求項3】
請求項1に記載のメンブレンスイッチであって、
接点シートの変形部は、同心円状に凹凸を形成するよう蛇腹形状に成型され、
接点室内の圧力変化に応じて蛇腹形状が撓み変形することにより、ガス室の容積が変化することを特徴とするメンブレンスイッチ。
【請求項4】
それぞれのシート面に、互いに対向して接点が形成された2枚の接点シートと、
2枚の接点シートの間に設けられ、シート面の接点に対向する位置に接点用の開口が形成されたスペーサと、を有し、
スペーサの開口と2枚の接点シートを内壁として接点室が形成されるメンブレンスイッチであって、
接点シートには、接点室に連通する通気孔が設けられ、
この通気孔を外気から密閉可能に、接点シートに取り付けられた遮蔽カバーを備え、
通気孔を含む接点シートと遮蔽カバーを内壁とするガス室が形成され、
遮蔽カバーには、ガス室の圧力変化に応じて変形可能な変形部が成型され、
接点室内の圧力変化に応じて、遮蔽カバーの変形部が撓み変形することにより、ガス室の容積が変化することを特徴とするメンブレンスイッチ。
【請求項5】
請求項4に記載のメンブレンスイッチであって、
遮蔽カバーの変形部は、ドーム形状に成型され、
接点室内の圧力変化に応じてドーム形状が反転して撓み変形することにより、ガス室の容積が変化することを特徴とするメンブレンスイッチ。
【請求項6】
請求項4に記載のメンブレンスイッチであって、
遮蔽カバーの変形部は、同心円状に凹凸を形成するよう蛇腹形状に成型され、
蛇腹形状が撓み変形することにより、ガス室の容積が変化することを特徴とするメンブレンスイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−139997(P2006−139997A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327780(P2004−327780)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】