説明

モップ用基布

【課題】油性および水性汚れの拭取性、ダストトラップ性に優れ、リネン業者による繰り返し洗濯のような非常に過酷な条件下であっても、強度や性能の低下を抑制することができるモップ用の基布を提供する。
【解決手段】エチレンテレフタレートを主な繰返し単位とするポリエステルを用いたポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸をパイル糸およびグランド糸に用いるパイル織編物からなるモップ用基布であって、パイル糸は、単繊維繊度が0.1〜0.6dtexで、かつ極限粘度数〔η〕が0.58〜0.65dl/gのポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸から構成され、その比率が80質量%以上であり、グランド糸は、単繊維繊度1.5〜5.0dtexのポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸から構成されることを特徴とするモップ用基布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は床面や壁面、その他家庭用品を清掃する清掃用具に使用されるモップ用基布に関するものであり、更にはリネンサプライヤーによる繰り返し洗濯、再生処理を施されるレンタルモップ用途に好適な基布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から家庭や職場の清掃用具として、清掃用モップが多用されていた。近年では、レンタルモップ等々の普及により、その需要は益々増加する傾向にある。モップに使用される基布としては、従来から綿繊維を用いたパイル織編物が広く使用されていた。綿繊維を使用したパイル織編物は安価であり使用後の洗浄性も良いという利点がある。しかしながら、吸水性が高いために乾燥時間が長く、また洗浄回数が多くなるにつれて損耗し、塵埃の発生要因になるという問題を抱えていた。更には、多数回の洗浄により親水性の水酸基を消失して収縮し、弾力性が低下するという問題がある。そのため、塵埃捕集性が悪くなるという欠点を抱えている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1では、紡績糸製造工程で生じた落ち綿など未利用綿、補強用化学繊維、および熱融着し易いバインダー繊維を混紡してモップ糸を構成している。未利用綿の転用という点で、地球環境に優しいエコロジー素材ではある。しかしながら、上記のような未利用綿は特に繊維強度に乏しく塵埃の発生要因となる(自己発塵)という問題がある。そのため、繰り返し洗濯処理を施されるモップ用途としては、耐久性や塵埃捕集性の観点からも好ましい材料とは言えない。
【0004】
上記の問題点を鑑み、最近ではポリエステルやポリアミド等々の汎用合成繊維を用いたパイル織編物からなるモップが、多数上市、提案されてきている。使用される合成繊維は長繊維束(マルチフィラメント)、短繊維(ステープルファイバー)の形態であり、長繊維束は適当本数を必要繊度分、合糸としてパイル糸となし、短繊維は紡績工程を経て適度な撚りをかけて必要番手の紡績糸条を得る。化学繊維紡績糸をパイル糸として用いたモップ用基布も多数提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
化学繊維紡績糸を用いることにより、上記の綿繊維使いの欠点は、かなりの程度まで解消され、塵埃捕集性能も良好なものとなる。しかしながら、短繊維自体が有端繊維であるため、繰り返し洗濯により短繊維が脱落しやすくなる。その結果、この脱落物による自己発塵、損耗・脱落による嵩高性低下などの不具合を生じやすく、レンタルモップ用途としては耐久性や性能の面で問題があった。
【0006】
また、長繊維束を用いた例では、単繊維繊度が小さいナイロンマルチフィラメント捲縮加工糸を撚糸したものをモップコードとする提案がある。(例えば特許文献3)
当該方法によれば、繊維の脱落や損耗も少なく、繰り返し洗濯においても汚染が少なく強度低下の少ないモップとすることが可能である。しかしながら、ナイロンマルチフィラメントの直接溶融紡糸法を用いて製造される、工業生産が可能な単繊維繊度は、ポリエステルに比べて繊度がかなり太く、ようやく単糸当り0.8dtexに到達しているのが実情である。そのため、汚れの拭取性や塵埃捕集性、価格面や取扱性等々の諸性能を総合的に考慮すると、ポリエステルマルチフィラメント捲縮加工糸が総合的に優位である。
【0007】
また、上記の直接溶融紡糸法を用いずに、芯鞘型、多層張合型、もしくは海島型に代表される複数のポリマーを用いた複合溶融紡糸方法によって繊維を製造し、一方を溶出もしくは膨潤、収縮させて細分化させて、超極細繊維を製造する方法も従来から多く提案されている。(例えば、特許文献4、5を参照)
しかしながら、繊維の極細化には、ベンジルアルコールなどの溶媒成分、蟻酸などの酸成分、水酸化ナトリウムなどのアルカリ成分等々を多用する必要があり、処理廃液の地球環境に及ぼす影響や製品に残留することによる人体への健康に及ぼす影響を考慮すると、時代の要求に沿わなくなってきているのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開2004−113478号公報
【特許文献2】特開2005−270630号公報
【特許文献3】特開平6−189823号公報
【特許文献4】特開平8−336492号公報
【特許文献5】特開2001−25453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点を解決することにあり、油性および水性汚れの拭取性、ダストトラップ性にも優れたモップ用の基布を提供することにある。更には、リネン業者による繰り返し工業洗濯という、繊維材料にとっては非常に過酷な条件下であっても、強度や性能の低下を抑制することができるモップ用基布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成を以下の構成を要旨とする。
まず、モップ用基布に関する第1の発明は、エチレンテレフタレートを主な繰返し単位とするポリエステルを用いたポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸をパイル糸およびグランド糸に用いるパイル織編物からなるモップ用基布であって、パイル糸は、単繊維繊度が0.1〜0.6dtexで、かつ極限粘度数〔η〕が0.58〜0.65dl/gのポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸から構成され、その比率が80質量%以上であり、グランド糸は、単繊維繊度1.5〜5.0dtexのポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸から構成されることを特徴とする。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、パイル糸が基布表面において有端であり、基布1平方cm当りの該パイル糸の総本数が40,000本以上120,000本以下、該パイル長が3mm以上10mm以下であることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明において、パイル糸に用いるポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸が、実質的に無撚であることを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明において、水湿潤時の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比が1.25以下であることを特徴とする。
【0014】
第5の発明は、第1〜4のいずれかの発明において、パイル糸として用いる、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸の捲縮伸長率(CC)が25%以上、沸水収縮率(SHW)が6.0%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により得られるモップ用基布は、油性および水性汚れの拭取性やダストトラップ性が良好であり、自己発塵による施拭面への汚染も少なく、しかもリネン業者による繰り返し工業洗濯によっても強度や性能の低下を抑制できる、という利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のモップ用基布を構成するポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸は、エチレンテレフタレートを主な繰り返し単位とするポリエステルマルチフィラメント糸を公知・定法の仮撚加工方法を用いて、嵩高捲縮加工して得られる糸条をパイル糸およびグランド糸に配して製織編されるものである。
【0017】
より具体的には、公知の溶融紡糸法によって得られた、ポリエステルマルチフィラメント糸をパッケージに巻き取った後、仮撚捲縮加工工程を経て嵩高性を与える。仮撚加工に供する機種としては、ピン直撚仮撚式、ベルト摩擦仮撚式、多軸外接型摩擦仮撚式(フリクションディスク式)など公知の何れの方法によっても構わない。なかでも、生産性等々を考慮すると、多軸外接型摩擦仮撚式(フリクションディスク式)がより好ましい。仮撚捲縮加工では、仮撚施撚域での一段熱処理のみによる1ヒーター仮撚加工糸と、仮撚施撚域で熱処理を施した後に、過供給下で更に二段目の熱処理を施す2ヒーター仮撚加工糸がある。何れの方法でもよいが、織編物の寸法安定性や斜行などの外観品位低下を防止する点から、後者の2ヒーター仮撚加工糸が好適である。
【0018】
使用する原料ポリマーは、エチレンテレフタレートをその主な構成単位(繰り返し単位)とするポリエステルである。エチレンテレフタレートは、ポリエステルに対し、80モル%以上が好ましく、さらに好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%の比率で構成される。
【0019】
本発明において、拭取性やダストトラップ性を向上させるためには、パイル糸の単繊維繊度が0.1dtex以上0.6dtex以下であり、好ましくは0.2dtex以上0.6dtex以下である。単繊維繊度が0.1dtex未満の場合、直接溶融紡糸法を用いて、ポリエステルを工業的に生産することは技術的にも非常に困難であり、現実的ではない。一方、単繊維繊度が0.6dtexを超える場合、汚れの拭取性の点で効果が不十分となる。単繊維の断面形状は、中空断面、中実断面、扁平断面、多葉断面、丸断面、その他の異型断面など公知の断面形状を採用することができる。これらの断面形状のなかでも、強度などの消費耐久性を考慮すると、丸中実断面が特に好適である。
【0020】
本発明において、モップ用基布に用いるパイル糸は、単繊維繊度が0.1dtex以上0.6dtex以下のポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸を、その構成比としてパイル総質量の80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%とする。該構成比が80質量%未満では、ダストトラップ性に劣り、拭き取った汚れを施拭面に再付着させる場合や、塵埃を施拭面に脱落させてしまう危険がある。
【0021】
また、単繊維繊度が0.1dtex以上0.6dtex以下のポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸は、糸としての極限粘度数〔η〕が0.58dl/g以上0.65dl/g以下であることが望ましい。ポリエステルのペレットを用いて、公知・定法の溶融紡糸法を用いて極細繊維を製造する際に、配管内で熱加水分解が促進され、通常は原料のレジンペレットの極限粘度数〔η〕よりも低下する。糸としての極限粘度数〔η〕が0.58dl/g未満の場合、リネンサプライヤーによる繰り返し洗濯、再生処理による強度の低下が著しく、単糸の切断により短繊維が脱落する場合や、破れや解れが生じやすくなる場合がある。また、該極限粘度数〔η〕が0.65dl/gよりも著しく高い高粘度の状態では、公知・定法の溶融紡糸法を用いると溶融粘度自体が高くなるため、紡糸時の生産性を著しく悪化させる。
【0022】
また、グランド糸に用いるポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸の単繊維繊度は、1.5dtex以上5.0dtex以下であり、好ましくは3.0dtex以上5.0dtex以下である。本発明のモップ用基布は、パイル糸とグランド糸から構成され、モップ用基布自体の強伸度物性は、グランド糸の単繊維繊度によって大きく影響される。グランド糸の単繊維繊度が1.5dtex未満の場合、リネンサプライヤーによる繰り返し洗濯、再生処理による強度の低下により、引裂強度や破裂強度などの性能が悪化し、モップ用基布として使用することを考慮すると適当ではない。また、グランド糸の単繊維繊度が5.0dtexを極端に超得る場合には、パイル糸の把持性が低下し、パイル糸が抜けて脱落したり、風合い自体が粗硬になったりするので、曲面などの清拭には不具合が生じる。
【0023】
本発明のモップ用基布は、パイル糸が基布表面において有端、いわゆるカットパイルであることが好ましい。なぜなら、有端でないループパイルの構成では、パイル糸自体が一体化しているため、施拭面において単繊維が開き難くなる。そのため、汚れの掻取性に劣り、充分な拭取効果が得られなくなる。
【0024】
パイル糸の密度は、該基布1平方m当りの総本数として、40,000本以上200,000本以下が好ましく、さらに好ましくは50,000本以上180,000本以下である。基布1平方m当りのパイル糸の総本数を40,000本以上とすることにより、パイル密度が大きくなり、充分な拭取効果が得られる。一方、基布1平方m当りのパイル糸の総本数を200,000本以下とすることにより、拭取性を維持しながら、質量やコストの増加を抑えることができるので、モップ用基布として好適である。
【0025】
また、パイル糸のパイル長は、3mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは5mm以上10mm以下である。パイル長を3mm以上とすることにより、充分なダストトラップ性が得られる。一方、パイル長を10mm以下とすることにより、単繊維の切断による毛羽の脱落を抑制することができる。また、アスペクト比も適正な範囲であるため、曲がりにくく、充分なダストトラップ性が得られる。
【0026】
また、本発明のモップ用基布に使用するパイル糸とグランド糸は、共にポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸であるが、パイル糸は実質的に無撚であることが好ましい。一方、グランド糸は、パイル抜け防止効果や基布自体の強度面を考慮し、必要に応じて実撚を挿入しておくことも好ましい実施形態である。該パイル糸は、基布表面において有端であるが、実撚が挿入されていると単繊維が開き難くなり、充分な汚れ拭取性が得られない場合がある。
【0027】
また、本発明のモップ用基布は、水湿潤時(試料の自重に対して100質量%の水分を含んだ状態)の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比が1.25以下であることが好ましく、更に好ましくは1.20以下である。摩擦力とは、二つの物体が接触している際にその接触面の方向に働く力であり、接触面の材料や表面粗さ、潤滑の有無等々で異なる。静摩擦力とは、静止している物体を動かそうとする際に働く摩擦力であり、静摩擦力を荷重で割った値が静摩擦係数となる。
【0028】
モップを湿潤させる溶液が、各種界面活性剤やワックス剤のような表面潤滑効果を有する溶液である場合、湿潤時と乾燥時のモップ用基布の静摩擦係数の比は小さくなる。しかしながら、水で湿潤させた状態においては、静摩擦係数が乾燥時対比で非常に大きくなり、モップを用いた水拭き清掃時の労働負荷を増大させていた。
【0029】
本発明では、この点に着眼し、特に水湿潤時の静摩擦係数を如何にして軽減し得るか検討を重ねた。その結果、パイル糸の素材は、綿やレーヨンのような高吸水性繊維よりもポリエステルなどの疎水性繊維の方がより好ましいこと、更には疎水性繊維の糸形態としてもフラットヤーンよりは三次元の微細捲縮を有する仮撚加工糸や各種嵩高加工糸の方が、乾燥時及び湿潤時の静摩擦係数の絶対値自体が低くなることを見出した。
【0030】
これらの理由は明確ではないが、前者は素材自体が吸水するために、水による潤滑効果を利用し難いこと、後者はフラットヤーン対比で微細捲縮を有する仮撚加工糸や各種嵩高加工糸の方が単位面積当りの絶対含水量が大きくなるために、水による潤滑効果を利用し易いことなどが考えられる。
【0031】
水湿潤時の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比を、1.25以下、好ましくは1.20以下、更に好ましくは1.18以下に小さくすることによって、乾燥時対比で負荷上昇が少なくなり、家庭労働の負荷を著しく増大させることがない。水湿潤時の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比の極限値は1.00である。水湿潤時の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比を1.00とするためには、界面活性剤やワックス剤、その他滑剤や助剤等々を併用することが好ましい。
【0032】
本発明のモップ基布の油性および水性汚れの拭取性、ダストトラップ性、拭取作業時の摩擦特性(特に、水湿潤時)を向上させるためには、パイル糸として使用するポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸の捲縮伸長率(CC)を25%以上とすることが好ましく、より好ましくは30%以上とし、沸水収縮率(SHW)は6.0%以下とすることが好ましく、より好ましくは5.0%以下とする。
【0033】
該捲縮伸長率(CC)が25%未満の場合には、ダストトラップ性に乏しく、拭き取った汚れや塵埃が脱落し易くなる。さらに、嵩高性に乏しく、スクラッチ(小傷)を生じさせ易くなる。捲縮伸長率(CC)を25%以上とすることにより、拭取性、ダストトラップ性が良好になり、加えて三次元微細捲縮により水分保持性が向上し、水湿潤時の摩擦力の低下にも有効である。該捲縮伸長率(CC)の上限値は、特に限定はないが、60%が実用上の好ましい範囲である。
【0034】
捲縮伸長率(CC)は、仮撚捲縮加工時の熱処理温度(emperature)、熱処理時間(ime)、仮撚施撚回数(wist)、仮撚施撚域張力(ension)等の条件(仮撚の4Tと一般に言われる)によって適宜設定・調整される。仮撚捲縮加工は、仮撚施撚域における第1ヒーターと仮撚固定域における第2ヒーターにより熱処理され、それぞれ上記4Tの組合せにより条件設定する。
【0035】
仮撚施撚域、即ち第1ヒーターにおける熱処理温度は、供給されるマルチフィラメント糸条の実測温度でTm−90℃以上Tm−50℃以下の範囲(ここでTmとは糸条の融点(℃)を指す)とすることが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートからなる通常の延伸糸の場合、165℃以上205℃以下の範囲である。
【0036】
また、仮撚固定域、即ち第2ヒーターにおける熱処理温度は、第1ヒーター処理温度に対し、−20℃〜+30℃の範囲で設定する。
【0037】
第1ヒーター並びに第2ヒーターの熱処理時間は、ヒーター長(ヒーター加熱部位への接触長)と加工速度(糸条走行速度)によって設定される。第1ヒーター、第2ヒーターの加熱方法(接触加熱もしくは非接触加熱)、熱付与方式(熱媒若しくは電熱加熱)等々設備仕様によっても異なるが、第1ヒーター、第2ヒーターとも、0.1〜1.0秒間の範囲で設定する。
【0038】
仮撚施撚回数は、仮撚施撚装置(スピンドルユニット)の仕様により、ピン仮撚、フリクションディスク仮撚、ベルト仮撚の3種に大別され、下記(1)式で定義される。
施撚回数(回/m)=K/√(供給するマルチフィラメント糸条の繊度;dtex)
・・・(1)
上記(1)式において、仮撚施撚時の撚係数Kは、25,000〜35,000の範囲が好ましく、さらに好ましくは27,000〜33,000の範囲である。
【0039】
仮撚施撚域の張力は、一般にT1、T2で示される。T1は仮撚施撚装置(スピンドルユニット)上流の施撚域の糸条張力であり、T2は仮撚施撚装置(スピンドルユニット)下流の解撚域の糸条張力である。仮撚施撚域の張力は、仮撚施撚装置の仕様や、延伸同時仮撚又は完成糸仮撚のいずれかの方法を使用するかによっても適正な範囲が異なる。T1、T2とも過度な張力を付加すると、単糸の糸切れや断糸を誘発する。一方、張力が低すぎる場合には、未解撚(タイトスポット)の発生や施撚領域の撚伝播不均一による断糸を引き起こすので注意が必要である。
【0040】
本発明のモップ用基布は、上記の仮撚の4Tの条件を適宜組合せて調整し、さらに供給する原糸の物性によって適宜選定された条件により仮撚捲縮加工を施し、捲縮伸長率(CC)及び沸水収縮率(SHW)を適正化することによって、製造することができる。
【0041】
沸水収縮率は、仮撚供給原糸の種類や、仮撚施撚域並びに仮撚固定域の熱処理温度、熱処理時間、及び張力等の複数の条件を組合せて適正化することにより調整される。個々の条件は、それぞれ前記の範囲で適宜調整する。
【0042】
また、沸水収縮率(SHW)が6.0%を超える場合、染色加工工程によるパイル糸の収縮が大きいため、パイル長の管理が困難となるだけでなく、パイル糸自体が収縮して短くなるため、適度な嵩高性を保持することが困難になる。沸水収縮率(SHW)を6.0%以下とすることによって、染色加工及びそれ以降の工程通過性、品位、品質が良好になる。なお、該沸水収縮率(SHW)の下限値は、特に限定はないが、2.5%が実用上の好ましい範囲である。
【0043】
また、パイル糸およびグランド糸に使用するポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸には、必要に応じて、二酸化チタンや硫酸バリウムなどの艶消剤や酸化防止剤、平滑剤、顔料等々の添加剤を含有させてもよい。使用するポリエステルポリマーの重合方法は、定法の芳香族ジカルボン酸成分(例えば、PTAまたはDMT)とグリコール成分(例えば、EG)を出発原料に用いて、エステル化反応またはエステル交換反応を経て、重縮合反応により重縮合させる方法を用いる。エチレングリコール、テレフタル酸などの粗原料は、石油由来の精製物以外に、廃PETボトルリサイクルによる再生精製物(原料まで戻すケミカルリサイクルによるエステル解重合物、マテリアルリサイクルによる再溶融・濾過原料など)を用いてもよい。
【0044】
本発明のモップ用基布に使用するポリエステルマルチフィラメント糸は、環境負荷の低減の点から、特にパイル糸の極細化に際して化学処理を用いずに、例えば、以下に示す3つの直接溶融紡糸法のいずれかを用いて、極細のマルチフィラメントを製造することが好ましい。
【0045】
(1)未延伸糸(Un Drawn Yarn、以下UDYと称する)もしくは部分配向未延伸糸(Partially Oriented Yarn、以下POYと称する)の状態で一旦巻き取り、次いでオフラインで延伸機に仕掛けて所定の延伸倍率に延伸して延伸糸(Full Oriented Yarn、以下FDYと称する)としてパッケージに巻き取り、更にオフラインで仮撚加工を行う方法
【0046】
(2)スピンドロー(Spin Draw、紡糸直接延伸)方式によりオンラインで一気に延伸糸(FDY)としてパッケージに巻きとった後、オフラインで仮撚加工を行う方法
(3)部分配向延伸糸(POY)の状態でパッケージに巻き取った後、オフラインで延伸と仮撚加工を同時に行う方法
【0047】
得られた糸条の物性や生産コストを考慮すると、(2)のスピンドロー方式にて延伸糸(FDY)を得た後、オフラインで仮撚加工を施す方法が最も好ましい。
【0048】
本発明のモップ用基布は、織物もしくは経編、丸編、横編などの編物、の何れの形態であってもよい。例えば、織物の場合、パイル糸とグランド糸を別々の経糸ビームに巻いて製織することのできる二重ビームパイル織機を採用する。また、緯入機構は、レピア、エアージェット、フライシャトル、プロジェクタイルなどが好適である。また、丸編の場合は、シール・フライス機やシンカー・パイル丸編機が好適である。また、経編の場合は、ダブルラッセル機などが好適である。グランド糸に対してパイル糸は、概ね垂直方向に表面に突出していることが望ましく、用途に応じて両面パイル組織、片面パイル組織の何れかを選択すればよい。
【0049】
染色加工も、公知・公用の方法で実施することができる。ポリエステル染色は、分散染料による浴温120〜135℃の高圧染色が、各種堅牢度や寸法安定性を考慮すると有効である。また、高圧ビーム染色機、高圧ウインス染色機、高圧ジッガー染色機、高圧液流染色機、高圧気流染色機等々の公知機種が使用可能である。また、色目に応じて、特に濃色の場合は、水酸化ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムなどのアルカリ剤を用いてアルカリ性溶液とし、次いで二酸化チオ尿素やハイドロサルファイトナトリウムなどによる還元洗浄を施し、未吸尽の染料を系外に排除することが好ましい。この場合、形態的に抱水率が高くなるため、浴中処理直後には遠心脱水装置で充分に水切りをした後に乾燥処理することが望ましい。また、必要に応じて、帯電防止剤、紫外線吸収剤、吸水加工剤、抗菌防臭加工剤、難燃加工剤、防汚(ソイルリリース)加工剤、柔軟仕上剤等々の機能薬剤を、吸尽法、パッドドライ法、パッドスチーム法、パッドドライキュア法、パッドスチームキュア法等の公知法の何れか、もしくは複数を併用して実施することができる。
【0050】
レンタル用途を目的としたモップ用基布の場合は、パイル糸およびグランド糸の寸法安定性や各種染色堅牢度が要求性能として挙げられる。そのため、染色工程における各種熱処理温度が非常に重要である。染色温度としては、120〜135℃の範囲が好ましい。また、脱水乾燥後、乾熱150〜200℃程度の雰囲気温度で、1〜3分程度の熱処理を施すことが望ましい。当該熱処理により、布目矯正並びにタテ方向およびヨコ方向の密度の調整、管理を行い、寸法安定性のよい生地として仕上げることが望ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。
なお、特許請求の範囲、明細書、要約書に記載した特性値は、下記の評価方法を用いた。また、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0052】
(1)極限粘度数〔η〕
ポリエステルをフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの混合溶媒(=60/40;質量比)を使用して溶解し、ウベローデ粘度計を用いて4点希釈法により求めた。評価温度は30℃である。単位はdl/gである。
【0053】
(2)洗濯・乾燥処理条件
1997年度版JIS L0844 C−16法を準用し、処理浴温度95℃の条件下で120分間の処理を行った後、延伸脱水を施し、雰囲気温度80℃のベーキングマシンに静置して乾燥した。
【0054】
(3)洗濯・乾燥処理による染色堅牢度評価
上記記載の洗濯・乾燥処理条件で洗濯・乾燥処理し、変退色および汚染〔添付白布としてセルローストリアセテート、綿、ナイロン6、ポリエステル、アクリル、ビスコースレーヨンの6種を採用)について評価した。
【0055】
(4)洗濯・乾燥処理による寸法変化率
布目に沿うように、予めタテ方向およびヨコ方向に20cm四方の桝目をマジックインキで記す。次いで、上記記載の洗濯・乾燥処理条件で洗濯・乾燥処理した後、上記桝目のタテおよびヨコの寸法(夫々L1(cm)、L2(cm))を1mm単位まで定規で測定し、以下の式(1)および式(2)を用いて寸法変化率を算出する。評価回数5回の平均値を用いて、その測定値とする。
タテ方向の寸法変化率(%)=((L1−20)/20)×100 …(1)
ヨコ方向の寸法変化率(%)=((L2−20)/20)×100 …(2)
【0056】
(5)洗濯・乾燥処理による引張強さ保持率および伸び率保持率
上記記載の洗濯・乾燥処理条件で洗濯・乾燥処理を施した試料(処理後のもの)および未処理の試料をそれぞれ準備する。織物の場合は1999年度版JIS L1096 B法(グラブ法)、ニットの場合は1999年度版JIS L1018 グラブ法記載の方法にしたがって評価する。それぞれ評価回数5回の平均値を用いて、未処理試料のタテ方向およびヨコ方向の引張強さ(それぞれ、S1、S2とする)、処理後試料のタテ方向およびヨコ方向の引張強さ(それぞれ、S3、S4とする)、未処理試料のタテ方向およびヨコ方向の伸び率(それぞれs1、s2とする)、処理後試料のタテ方向およびヨコ方向の伸び率(それぞれ、s3、s4)を算出し、以下の式(3)〜(6)を用いて各方向の引張強さおよび伸び率の保持率を算出する。
タテ方向の引張強さ保持率(%)=(S3/S1)×100 …(3)
ヨコ方向の引張強さ保持率(%)=(S4/S2)×100 …(4)
タテ方向の伸び率保持率(%) =(s3/s1)×100 …(5)
ヨコ方向の伸び率保持率(%) =(s4/s2)×100 …(6)
【0057】
(6)水性汚れ拭取性
市販の水性インクで着色した蒸留水1.5gを、表面が平滑なJIS規格A4サイズのアクリル板の中央部5cm×5cm四方(25cm)にス、キージを用いて均一塗布した。モップ用基布試料に質量2000gf、直径75mmの円柱型分銅を乗せて該アクリル板の一短辺から他短辺へ、つまりA4タテ方向に1回往復運動させて拭取操作を実施した。拭取操作後のアクリル板を5名の有識者で目視判定し、汚れが極めて多量に残存するものを1級、殆ど除去されているものを5級として5段階で評価し、5名の判定の平均値を汚れ拭取性の評価結果とした。
【0058】
(7)油性汚れ拭取性
流動パラフィン(和光純薬工業社製 試薬一級)2.0gを、表面が平滑なJIS規格A4サイズのアクリル板の中央部5cm×5cm四方(25cm)に、スキージを用いて均一塗布した。モップ用基布試料に質量2000gf、直径75mmの円柱型分銅を乗せて該アクリル板の一短辺から他短辺へ、つまりA4タテ方向に1回往復運動させて拭取操作を実施した。拭取操作後のアクリル板を5名の有識者で目視判定し、汚れが極めて多量に残存するものを1級、殆ど除去されているものを5級として5段階で評価し、5名の判定の平均値を汚れ拭取性の評価結果とした。
【0059】
(8)高温洗濯・乾燥前後の取扱性・強度
モップ用基布のハンドリング面の評価として、柔軟性や強度・伸度などの力学的特性、取扱性について、「取扱性・強度面において非常に良好」(5級)〜「取扱性・強度面において著しく不良」(1級)の5段階評価を20名の有識者において実施し、平均値を特性値とした。
【0060】
(9)高温洗濯・乾燥前後の施拭面への塵埃脱落)
モップ用基布の消費性能面の評価として、該モップ用基布からの塵埃脱落について評価した。「塵埃脱落が殆ど認められない」(5級)〜「塵埃脱落が極めて著しい」(1級)の5段階評価を20名の有識者において実施し、平均値を特性値とした。
【0061】
(10)静摩擦係数試験方法
本発明に記載の静摩擦係数試験方法は、JIS P8147(1994年版)の水平板法を準用する。この水平板法は、水平架台に試料を置き、もう一方の試料を下面に固定した金属ブロックのおもりを載せ、定速でおもりを滑らせたときに、おもりにかかる摩擦力をロードセルで測定する方法である。
本発明では、上記の水平板法を準用し、試料の静摩擦係数を下記の手順で測定した。
水平板面に冷間圧延ステンレス鋼板(SUS304L:JIS G4305により規定されたもの)を貼り付ける。次いで、水平板に貼り付けた当該ステンレス鋼板に試料を置き、もう一方の試料(タテ75mm×ヨコ50mm)を下面に貼り付けたおもり(1kgf)を載せる。次いで、20℃、65%RHに制御された室内において、定速でおもりを滑らせた際に、おもりにかかる摩擦力をロードセルで測定し、チャートから静摩擦係数を求める。
なお、おもりの移行速度は75mm/分であり、乾燥状態及び湿潤状態(試料の自重に対して水分率100質量%になるよう調製)の試料を用いて、それぞれ静摩擦係数を求める。測定は5回繰り返し、それらの平均値を試料の静摩擦係数とした。
【0062】
(11)捲縮伸長率(CC)
張力調整装置を具備するラップリール(検尺器 枠周1.125m)を用いて、0.1
cN/dtexの荷重を掛けて、かせ(9.000m)を8捲作成する。これをフックに掛けて、9、8±2℃の沸水中に無荷重下で5分間浸漬する。次いで、この試料を沸水中より取り出し、湿潤状態のままで「3.14×表示繊度(dtex)」の荷重(g)を掛け、1分後の長さL1を測定する。次に、荷重を取り除き、無荷重下、フックに掛けた状態で60±2℃のベーキングマシンで30分間乾燥させ、20℃×65%RHの標準状態の雰囲気下で60分放置する。その後、「0.0314×表示繊度(dtex)」の初荷重(g)を掛けて、1分後の長さL2を測定し、下記式(2)によって捲縮伸長率(CC)を求める。測定は5回繰り返し、それらの平均値を試料の捲縮伸長率(CC)とした。
捲縮伸長率(CC)=((L1−L2)/L1)×100(%) ・・・(2)
【0063】
(12)沸水収縮率(SHW)
張力調整装置を具備するラップリール(検尺器 枠周1.125m)を用いて、0.1
cN/dtexの初荷重を掛けて、かせ(22.500m)を20捲作成する。これをフックに掛けて、初荷重の40倍の重さの荷重を掛け、1分後の長さL3を測定する。次に、荷重を除去し、収縮が妨げられない状態で、98±2℃の沸水中に30分間浸漬する。次いで、この試料を沸水中より取り出し、吸取紙で水分を除去し、水平状態で風乾する。乾燥後、再度、初荷重の40倍の重さの荷重を掛けて、1分後の長さL4を測定する。次いで、下記式(3)によって沸水収縮率(SHW)を求める。測定は5回繰り返し、それらの平均値を試料の沸水収縮率(SHW)とした。
沸水収縮率(SHW)=((L3−L4)/L3)×100(%) ・・・(3)
【0064】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(エチレンテレフタレート:100モル%)のセミダルレジン(二酸化チタン含有量:0.2質量%)を用いて、定法の溶融紡糸方法にしたがって、ポリエステルマルチフィラメント[250dtex、48フィラメント]の部分配向未延伸糸(POY)およびポリエステルマルチフィラメント[155dtex、432フィラメント]の延伸糸(FDY)を得た。
【0065】
前者のPOYを、多軸外接型摩擦延伸仮撚機(帝人製機社製、HTS−15V型)を用いて、定法に従い延伸仮撚を実施し、仮撚捲縮加工糸A(2ヒーター仮撚糸)[167dtex、48フィラメント]を得た。また、後者のFDYは、ピン直撚型延伸仮撚機(三菱重工業社製、LS−6型)を用いて定法に従い仮撚を施し、仮撚捲縮加工糸B(2ヒーター仮撚糸)[155dtex、432フィラメント]を得た。該仮撚捲縮加工糸A、Bの極限粘度数〔η〕は、夫々0.618dl/g、0.605dl/gであり、仮撚捲縮加工糸Bの捲縮伸長率(CC)は32.2%であり、沸水収縮率(SHW)は4.5%であった。
【0066】
仮撚捲縮加工糸Aをグランド糸、仮撚捲縮加工糸Bをパイル糸として、シンカー・パイル用丸編機(16ゲージ)を使用して製編した。次いで、高圧液流染色機を用いて、浴温120℃で精練・リラックス処理を行い、さらに排液脱水を行った。引き続き、浴温130℃で分散染料を用いて染色加工を施した。染色加工後に染色機より生地(丸編)を取り出し、遠心脱水機で脱水した。その後、乾熱雰囲気温度190℃のヒートセッターを通過させて、布目矯正させつつ、規格巾、規格密度に調整してセットした。さらに、毛割・シャーリング工程を経て生地を巻上げ、モップ用基布を得た。
【0067】
得られた生地の特性値を表1にまとめた。得られた生地(丸編)は、パイル密度、パイル長もモップ用基布として良好なものに仕上がった。さらに、寸法安定性に優れ、堅牢度的にも問題のないものに仕上がった。
【0068】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレート(エチレンテレフタレート:100モル%)のセミダルレジン(二酸化チタン含有量:0.2質量%)を用いて、定法の溶融紡糸方法にしたがって、ポリエステルマルチフィラメント[320dtex、100フィラメント]の部分配向未延伸糸(POY)およびポリエステルマルチフィラメント[167dtex、288フィラメント]の延伸糸(FDY)を得た。
【0069】
ベルト摩擦式延伸仮撚機(村田機械社製、マッハ33H型)を用いて、定法にしたがって前者のPOYに延伸仮撚を行い、仮撚捲縮加工糸A(2ヒーター仮撚糸)[220dtex、100フィラメント]を得た。また、後者のFDYは、ピン直撚型延伸仮撚機(三菱重工業社製、LS−6型)を用いて、定法にしたがって仮撚を施し、仮撚捲縮加工糸B(2ヒーター仮撚糸)[167dtex、288フィラメント]を得た。該仮撚捲縮加工糸A、Bの極限粘度数〔η〕は、それぞれ0.620dl/g、0.611dl/gであり仮撚捲縮加工糸Bの捲縮伸長率(CC)は37.4%、沸水収縮率(SHW)は3.8%であった。
【0070】
仮撚捲縮加工糸Aをグランド糸、仮撚捲縮加工糸Bをパイル糸として、レピア式二重パイル織機を使用して製織した。次いで、高圧ジッカー染色機を用いて、浴温120℃で精練・リラックス処理を行い、さらに排液脱水を行った。引き続き、浴温130℃で分散染料を用いて染色加工を施した。染色加工後に染色機より生地(織物)を取り出し、遠心脱水機で脱水した。その後、乾熱雰囲気温度190℃のヒートセッターを通過させて、布目矯正させつつ、規格巾、規格密度に調整してセットした。さらに、毛割・シャーリング工程を経て生地を巻上げ、モップ用基布を得た。
得られた生地の特性値を表1にまとめた。得られた生地(織物)は、パイル密度、パイル長もモップ用基布として良好なものに仕上がった。さらに、寸法安定性に優れ、堅牢度的にも問題のないものに仕上がった。
【0071】
(実施例3)
パイル糸として、実施例1で得られたポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸(2ヒーター仮撚糸)[155dtex、432フィラメント]を90質量%、同様の方法で得られたポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸(2ヒーター仮撚糸;極限粘度数〔η〕=0.618dl/g)[167dtex、192フィラメント](捲縮伸長率(CC)=38.5%、沸水収縮率(SHW)=4.2%)を10質量%の混率で使用した以外は、実施例1と同様の方法でモップ用基布を得た。
得られた生地の特性値を表1にまとめた。得られた生地(丸編)は、パイル密度、パイル長もモップ用基布として良好なものに仕上がった。さらに、寸法安定性に優れ、堅牢度的にも問題のないものに仕上がった。
【0072】
(比較例1)
パイル糸として、極限粘度数〔η〕が0.542dl/gであるポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸(2ヒーター仮撚糸)[155dtex、432フィラメント]に100%変更した以外は、実施例1と同様の方法でモップ用基布を得た。因みに該パイル糸に用いた仮撚捲縮加工糸の捲縮伸長率(CC)は23.8%であり、沸水収縮率(SHW)は5.2%であった。
得られた生地の特性値を表2にまとめた。得られた生地(丸編)は、パイル密度、パイル長もモップ用基布として好適なものであった。しかしながら、洗濯・乾燥処理後は熱加水分解が促進され、パイル糸が脆化し単糸切断により施拭面に毛羽が脱落し、モップ用基布、特にリネンサプライ用途としての耐久性に支障を来すものとなった。
【0073】
(比較例2)
グランド糸を極限粘度数〔η〕が0.620dl/gであるポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸(2ヒーター仮撚糸)[167dtex、144フィラメント]に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモップ用基布を得た。
得られた生地の特性値を表2にまとめた。得られた生地(丸編)は、パイル密度、パイル長は良好なものの、洗濯・乾燥処理後は引裂強度など強度低下が著しく、リネンサプライ用途としての耐久性に支障を来すものとなった。
【0074】
(比較例3)
グランド糸を極限粘度数〔η〕が0.620dl/gであるポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸(2ヒーター仮撚糸)[167dtex、24フィラメント]に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモップ用基布を得た。
得られた生地の特性値を表2にまとめた。得られた生地(丸編)は、パイル密度、パイル長は良好なものの、グランド糸を構成する単繊維本数が少ないため、パイル把持力が小さくパイル抜けし易いものとなり、リネンサプライ用途として支障を来すものとなった。
【0075】
(比較例4)
パイル糸を極限粘度数〔η〕が0.612dl/gであるポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸(2ヒーター仮撚糸)[167dtex、216フィラメント]に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモップ用基布を得た。因みに該パイル糸に用いた仮撚捲縮加工糸の捲縮伸長率(CC)は35.5%であり、沸水収縮率(SHW)は4.2%であった。
得られた生地の特性値を表2にまとめた。得られた生地(丸編)は、パイル糸を構成する単繊維繊度が小さく、基布1平方m当りのパイル糸総本数も小さく留まるため、汚れの拭取性が充分ではなく、モップ用基布として好適なものにはならなかった。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係るモップ用基布は、床面や壁面、その他家庭用品を清掃する清掃用具として使用されるだけでなく、リネンサプライヤーによる繰り返し洗濯、再生処理を施されるレンタルモップ用途にも好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施態様の一例を示す基布の断面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレートを主な繰返し単位とするポリエステルを用いたポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸をパイル糸およびグランド糸に用いるパイル織編物からなるモップ用基布であって、
パイル糸は、単繊維繊度が0.1〜0.6dtexで、かつ極限粘度数〔η〕が0.58〜0.65dl/gのポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸から構成され、その比率が80質量%以上であり、グランド糸は、単繊維繊度1.5〜5.0dtexのポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸から構成されることを特徴とするモップ用基布。
【請求項2】
パイル糸が基布表面において有端であり、基布1平方cm当りの該パイル糸の総本数が40,000本以上120,000本以下、該パイル長が3mm以上10mm以下であることを特徴とする請求項1記載のモップ用基布。
【請求項3】
パイル糸に用いるポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸が、実質的に無撚であることを特徴とする請求項1または2記載のモップ用基布。
【請求項4】
水湿潤時の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比が1.25以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のモップ用基布。
【請求項5】
パイル糸として用いる、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸の捲縮伸長率(CC)が25%以上、沸水収縮率(SHW)が6.0%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のモップ用基布。

【図1】
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【公開番号】特開2009−112781(P2009−112781A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85599(P2008−85599)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】