説明

モップ用基布

【課題】油性および水性汚れの拭取性、ダストトラップ性にも優れたモップ用の基布を提供することにある。更には、リネン業者による強アルカリ性の中での繰り返し工業洗濯という、繊維材料にとっては非常に過酷な条件下であっても、強度や性能の低下を抑制することができるモップ用基布を提供する。
【解決手段】ポリアミド系合成繊維からなるマルチフィラメント糸をパイル糸及びグランド糸として用いるパイル織編物からなるモップ用基布であって、パイル糸は、単繊維繊度が0.3〜1.2dtexのポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸から構成され、その比率が80質量%以上であり、グランド糸は、単繊維繊度1.5〜3.5dtexのポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸から構成されることを特徴とするモップ用基布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は床面や壁面、その他家庭用品を清掃する清掃用具に使用されるモップ用基布に関するものであり、更にはリネンサプライヤーによる繰り返し洗濯、再生処理を施されるレンタルモップ用途に好適な基布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から家庭や職場の清掃用具として、清掃用モップが多用されていた。近年では、レンタルモップなどの普及により、その需要は益々増加する傾向にある。モップに使用される基布としては、従来から綿繊維を用いたパイル織編物が広く使用されていた。綿繊維を使用したパイル織編物は安価であり使用後の洗浄性も良いという利点がある。しかしながら、吸水性が高いために乾燥時間が長く、また洗浄回数が多くなるにつれて損耗し、塵埃の発生要因になるという問題を抱えていた。更には、多数回の洗浄により親水性の水酸基を消失して収縮し、弾力性が低下するという問題がある。そのため、塵埃捕集性が悪くなるという欠点を抱えている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1では、紡績糸製造工程で生じた落ち綿など未利用綿、補強用化学繊維、および熱融着し易いバインダー繊維を混紡してモップ糸を構成している。未利用綿の転用という点で、地球環境に優しいエコロジー素材である。しかしながら、上記のような未利用綿は特に繊維強度に乏しく塵埃の発生要因となる(自己発塵)という問題がある。そのため、繰り返し洗濯処理を施されるモップ用途としては、耐久性や塵埃捕集性の観点からも好ましい材料とは言えない。
【0004】
上記の問題点を鑑み、最近ではポリエステルやポリアミドなどの汎用合成繊維を用いたパイル織編物からなるモップが、多数上市、提案されてきている。使用される合成繊維は長繊維束(マルチフィラメント)、短繊維(ステープルファイバー)の形態であり、長繊維束は適当本数を必要繊度分、合糸してパイル糸となし、短繊維は紡績工程を経て適度な撚りをかけて必要番手の紡績糸条を得る。化学繊維からなる紡績糸をパイル糸として用いたモップ用基布も多数提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
化学繊維からなる紡績糸を用いることにより、上記の綿繊維を使用した際の欠点は、かなりの程度まで解消され、塵埃捕集性能も良好となる。しかしながら、短繊維自体が有端繊維であるため、繰り返し洗濯により短繊維が脱落しやすくなる。その結果、この脱落物による自己発塵、損耗・脱落による嵩高性低下などの不具合を生じやすく、レンタルモップ用途としては耐久性や性能の面で問題があった。
【0006】
また、長繊維束を用いた例では、芯鞘型、多層張合型、もしくは海島型に代表される複数のポリマーを用いた複合溶融紡糸方法によって繊維を製造し、一方を溶出もしくは膨潤、収縮させて細分化させて、超極細繊維を製造する方法も従来から多く提案されている(例えば、特許文献3、4を参照)。
【0007】
しかしながら、繊維の極細化には、ベンジルアルコールなどの溶媒成分、蟻酸などの酸成分、水酸化ナトリウムなどのアルカリ成分などを多く用いる必要がある。そのため、処理廃液の地球環境に及ぼす影響や製品に残留することによる人体への健康に及ぼす影響を考慮すると、時代の要求に沿わなくなってきているのが現状である。
【0008】
また、単繊維繊度が小さいナイロンマルチフィラメント捲縮加工糸を撚糸したものをモップコードとする提案もある(例えば、特許文献5を参照)。
当該方法によれば、繊維の脱落や損耗も少なく、強アルカリ性下の繰り返し洗濯においても汚染が少なく、かつ強度低下の少ないモップとすることが可能である。しかしながら、モップコードが長い有端繊維の集合体であるため、モップコード同士が縺れて絡み易いという問題がある。そのため、取扱性や拭取性の点では不十分であった。
【0009】
【特許文献1】特開2004−113478号公報
【特許文献2】特開2005−270630号公報
【特許文献3】特開平8−336492号公報
【特許文献4】特開2001−25453号公報
【特許文献5】特開平6−189823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点を解決することにあり、油性および水性汚れの拭取性、ダストトラップ性にも優れたモップ用の基布を提供することにある。更には、リネン業者による強アルカリ性の中での繰り返し工業洗濯という、繊維材料にとっては非常に過酷な条件下であっても、強度や性能の低下を抑制することができるモップ用基布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の構成を以下の構成を要旨とする。
モップ用基布に関する第1の発明は、ポリアミド系合成繊維からなるマルチフィラメント糸をパイル糸及びグランド糸として用いるパイル織編物からなるモップ用基布であって、パイル糸は、単繊維繊度が0.3〜1.2dtexのポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸から構成され、その比率が80質量%以上であり、グランド糸は、単繊維繊度1.5〜3.5dtexのポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸から構成されることを特徴とする。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、パイル糸として用いるポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸が、基布表面において実質的に無撚であり、捲縮復元率(CR)が10%以上30%以下であり、沸水収縮率(SHW)が10%以下であることを特徴とする。
【0013】
第3の発明は、第1または第2の発明において、水湿潤時の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比が1.60以下であり、JIS L1907に準拠して測定されたJIS L−1907による吸水率が80%以上180%以下であることを特徴とする。
【0014】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明において、パイル糸として用いるポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸が、ナイロン6のマルチフィラメント糸の仮撚捲縮加工糸であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により得られるモップ用基布は、油性および水性汚れの拭取性やダストトラップ性が良好であり、自己発塵による施拭面への汚染も少なく、しかもリネン業者による強アルカリ性下の繰り返し工業洗濯によっても強度や性能の低下を抑制できる、という利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のモップ用基布を構成するポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸は、分子鎖にアミド結合を有する樹脂を公知・定法の溶融紡糸方法によってマルチフィラメント糸条となした後、引き続き公知・定法の仮撚加工方法を用い、嵩高捲縮加工して得られる糸条をパイル糸及びグランド糸に配して製織編されるものである。
【0017】
ポリアミド系合成繊維を構成する樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,10などのホモポリマー、コポリマー、ブレンドポリマーが例示される。これらの中でも、ε−カプロラクタムの開環重合によって得られるナイロン6、あるいはヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を重縮合して得られるナイロン6,6が好ましい。
【0018】
より具体的には、本発明で用いるポリアミドマルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸は、公知の直接溶融紡糸法によって得られた、ポリアミドマルチフィラメント糸をパッケージに巻き取った後、仮撚捲縮加工工程を経て嵩高性が付与される。仮撚加工に供する機種としては、ピン直撚仮撚式、ベルト摩擦仮撚式、多軸外接型摩擦仮撚式(フリクションディスク式)など公知の何れの方法によっても構わない。なかでも、生産性などを考慮すると、多軸外接型摩擦仮撚式(フリクションディスク式)がより好ましい。
【0019】
本発明において、拭取性やダストトラップ性を向上させるためには、パイル糸の単繊維繊度が0.3dtex以上1.2dtex以下であることが重要であり、好ましくは0.5dtex以上1.0dtex以下である。単繊維繊度が0.3dtex未満の場合、直接溶融紡糸法を用いて、ポリアミド、特にナイロン6を工業的に生産することは技術的にも非常に困難であり、製品の分留りや品位を考慮しても現実的ではない。一方、単繊維繊度が1.2dtexを超える場合、汚れの拭取性の点で効果が不十分となる。単繊維の断面形状は、中空断面、中実断面、扁平断面、多葉断面、丸断面、その他の異型断面など公知の断面形状を採用することができる。これらの断面形状のなかでも、強度などの消費耐久性を考慮すると、丸中実断面が特に好適である。
【0020】
本発明において、モップ用基布に用いるパイル糸は、単繊維繊度が0.3dtex以上1.2dtex以下のポリアミドマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸を、その構成比としてパイル糸の総質量の80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%とする。該構成比が80質量%未満では、ダストトラップ性に劣り、拭き取った汚れを施拭面に再付着させる場合や、塵埃を施拭面に脱落させてしまう危険がある。
【0021】
また、グランド糸に用いるポリアミドマルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸の単繊維繊度は、1.5dtex以上3.5dtex以下であり、好ましくは2.0dtex以上3.5dtex以下である。本発明のモップ用基布は、パイル糸とグランド糸から構成され、モップ用基布自体の強伸度物性は、グランド糸の単繊維繊度によって大きく影響される。グランド糸の単繊維繊度が1.5dtex未満の場合、リネンサプライヤーによる強アルカリ下の繰り返し洗濯、再生処理による強度の低下により、引裂強度や破裂強度などの性能が悪化し、モップ用基布として使用することを考慮すると適当ではない。また、グランド糸の単繊維繊度が3.5dtexを極端に超える場合には、パイル糸の把持性が低下し、パイル糸が抜けて脱落したり、風合い自体が粗硬になったりするので、曲面などの清拭には不具合が生じる。
【0022】
本発明のモップ用基布は、カットパイル、ループパイル何れの形態であってもよい。カットパイルは、パイルの先が切断されて有端になっているものであり、ループパイルはパイルの先が切断されずに連続してループになっているものである。カットパイルの方がパイルの毛先が開くため、拭取性が良好である。しかしながら、拭き取った塵埃が絡み易く、毛羽玉を生じさせ易い傾向がある。一方、ループパイルは、毛先が開いていないため、拭取性はカットパイルよりも劣るが、毛羽玉を生じさせ難いといった特長を有する。目的用途に応じて、カットパイルまたはループパイルを適宜選択すればよい。
【0023】
また、パイル糸として用いるポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸は、基布表面において実質的に無撚であることが望ましい。本発明でいう無撚とは、撚糸操作によって積極的に実撚が挿入されていないことを意味し、糸条解舒時の解舒撚りは含まれない。無撚とすることによって、三次元微細捲縮を有する単糸が相互に作用し取り込んだ塵埃を捕獲し、拭取面への脱落を防止する(ダストトラップ性)。実撚が挿入されていると、単繊維が開きにくくなり、ダストトラップ性や拭取性が、無撚の場合に比べ劣る。
【0024】
また、パイル糸のパイル長は、3mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは5mm以上10mm以下である。パイル長を3mm以上とすることにより、充分なダストトラップ性が得られる。一方、パイル長を10mm以下とすることにより、単繊維の切断による毛羽の脱落を抑制することができる。また、アスペクト比も適正な範囲であるため、曲がりにくく、充分なダストトラップ性が得られる。
【0025】
パイル糸として用いるポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸は、その捲縮復元率(CR)が10%以上30%以下の範囲であることが好ましい。該捲縮復元率(CR)は、仮撚捲縮加工の諸条件、具体的には仮撚施撚域における熱処理温度(emperature)、熱処理時間(ime)、施撚張力/解撚張力(ension)、施撚回数(wist)のいわゆる仮撚の4Tの組合せにより適宜調整・設定される。
【0026】
捲縮復元率(CR)が10%未満の場合、仮撚による捲縮クリンプのヘタリが生じやすく、繰返し使用によりダストトラップ性が低下しやすくなる。また、単糸繊維が大きい場合、捲縮復元率(CR)を30%以上とすることは可能である。しかしながら、本発明のパイル糸は、単糸繊度が小さいため、捲縮復元率(CR)を30%以上とすることは困難である。さらに、捲縮クリンプを過度に細かくすれば、ダストトラップ性は向上するが、洗浄時の脱着が困難となり、性能的にも好ましいとは言いがたい。
【0027】
また、パイル糸として用いるポリアミド系合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮加工糸は、その沸水収縮率(SHW)が10%以下、好ましくは8%以下である。沸水収縮率(SHW)が10%を超える場合、染色加工工程によるパイル糸の収縮が大きいため、パイル長の管理が困難となるだけでなく、パイル糸自体が収縮して短くなるため、適度な嵩高性を保持することが困難になる。沸水収縮率(SHW)を10%以下とすることによって染色加工及びそれ以降の工程通過性、品位、品質が良好になる。なお、該沸水収縮率(SHW)の下限値は、特に限定はないが、2.5%が実用上の好ましい範囲である。
【0028】
本発明のモップ用基布に使用するパイル糸とグランド糸は、ともにポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸であるが、パイル糸は実質的に無撚であることが好ましい。一方、グランド糸は、パイル抜け防止効果や基布自体の強度面を考慮し、必要に応じて実撚を挿入しておくことも好ましい実施形態である。該パイル糸は、基布表面において有端であるが、実撚が挿入されていると単繊維が開き難くなり、充分な汚れ拭取性が得られない場合がある。
【0029】
本発明のモップ用基布は、水湿潤時(試料の自重に対して100質量%の水分を含んだ状態)の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比は1.60以下であることが好ましく、更に好ましくは1.50以下である。摩擦力とは、二つの物体が接触している際にその接触面の方向に働く力であり、接触面の材料や表面粗さ、潤滑の有無などで異なる。静摩擦力とは、静止している物体を動かそうとする際に働く摩擦力であり、静摩擦力を荷重で割った値が静摩擦係数となる。
【0030】
モップを湿潤させる溶液が、各種界面活性剤やワックス剤のような表面潤滑効果を有する溶液である場合、湿潤時と乾燥時のモップ用基布の静摩擦係数の比は小さくなる。しかしながら、水で湿潤させた状態においては、静摩擦係数が乾燥時対比で非常に大きくなり、モップを用いた水拭き清掃時の労働負荷を増大させていた。
【0031】
本発明では、この点に着眼し、特に水湿潤時の静摩擦係数を如何にして軽減し得るか検討を重ねた。その結果、パイル糸の素材は、綿やレーヨンのような高吸水性繊維よりもポリエステルなどの疎水性繊維の方がより好ましいこと、更には疎水性繊維の糸形態としてもフラットヤーンよりは三次元の微細捲縮を有する仮撚加工糸や各種嵩高加工糸の方が、乾燥時及び湿潤時の静摩擦係数の絶対値自体が低くなることを見出した。
【0032】
これらの理由は明確ではないが、前者は素材自体が吸水するために、水による潤滑効果を利用し難いこと、後者はフラットヤーン対比で微細捲縮を有する仮撚加工糸や各種嵩高加工糸の方が単位面積当りの絶対含水量が大きくなるために、水による潤滑効果を利用し易いことなどが考えられる。
【0033】
水湿潤時の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比を、好ましくは1.60以下、さらに好ましくは1.50以下、特に好ましくは1.45以下に小さくすることによって、乾燥時対比で負荷上昇が少なくなり、家庭労働の負荷を著しく増大させることがない。水湿潤時の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比の極限値は1.00である。水湿潤時の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比を1.00とするためには、界面活性剤やワックス剤、その他滑剤や助剤などを併用することが好ましい。
【0034】
本発明のモップ用基布は、吸水率が80%以上180%以下、好ましくは100%以上150%以下の範囲である。吸水率はJIS L−1907に記載の方法に準じて評価する。吸水率が80%未満では、モップを用いた水拭きの際の液切れが早過ぎ、度々水をモップに補給してやる必要がある。また180%を超過する範囲では、水を含んだ際のモップ重量が大きくなり過ぎる。そのため、モップを用いた水拭き清掃時の労働負荷が大きくなるだけでなく、水分が多く施拭面に残留してしまい、好ましい範囲とは言えない。
【0035】
パイル糸およびグランド糸に使用するポリアミド系合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮加工糸には、必要に応じて、二酸化チタンや硫酸バリウムなどの艶消剤や酸化防止剤、平滑剤、顔料などの添加剤を含有させてもよい。
【0036】
本発明のモップ用基布に使用するポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮糸は、環境負荷の低減の点から、特にパイル糸の極細化に際して化学処理を用いずに、例えば、以下に示す3つの直接溶融紡糸法のいずれかを用いて、極細のマルチフィラメントを製造することが好ましい。
【0037】
(1)未延伸糸(Un Drawn Yarn、以下UDYと称する)もしくは部分配向未延伸糸(Partially Oriented Yarn、以下POYと称する)の状態で一旦巻き取り、次いでオフラインで延伸機に仕掛けて所定の延伸倍率に延伸して延伸糸(Full Oriented Yarn、以下FDYと称する)としてパッケージに巻き取り、更にオフラインで仮撚加工を行う方法
【0038】
(2)スピンドロー(Spin Draw、紡糸直接延伸)方式によりオンラインで一気に延伸糸(FDY)としてパッケージに巻きとった後、オフラインで仮撚加工を行う方法
(3)部分配向延伸糸(POY)の状態でパッケージに巻き取った後、オフラインで延伸と仮撚加工を同時に行う方法
【0039】
得られた糸条の物性や生産コストを考慮すると(2)のスピンドロー方式にて延伸糸(FDY)を得た後、オフラインで仮撚加工を施す方法若しくは(3)の部分配向延伸糸(POY)を得た後、オフラインで延伸仮撚加工を施す方法が好ましく採用される。
【0040】
本発明のモップ用基布は、織物もしくは経編、丸編、緯編などの編物、の何れの形態であってもよい。例えば、織物の場合、パイル糸とグランド糸を別々の経糸ビームに巻いて製織することのできる二重ビームパイル織機を採用する。また、緯入機構は、レピア、エアージェット、フライシャトル、プロジェクタイルなどが好適である。また、丸編の場合は、シール・フライス機やシンカー・パイル丸編機が好適である。また、経編の場合は、ダブルラッセル機などが好適である。グランド糸に対してパイル糸は、概ね垂直方向に表面に突出していることが望ましく、用途に応じて両面パイル組織、片面パイル組織のいずれかを選択すればよい。
【0041】
染色加工も、公知・公用の方法で実施することができる。ポリアミド特にナイロン6の染色は、酸性染料による浴温90〜100℃程度の常圧染色が、各種堅牢度や寸法安定性を考慮すると有効である。染色機としては、ビーム染色機、ウインス染色機、ジッガー染色機、液流染色機、気流染色機などの公知機種が使用可能である。また、必要に応じて、帯電防止剤、紫外線吸収剤、吸水加工剤、抗菌防臭加工剤、難燃加工剤、防汚(ソイルリリース)加工剤、柔軟仕上剤などの機能性薬剤を、吸尽法、パッドドライ法、パッドスチーム法、パッドドライキュア法、パッドスチームキュア法等の公知法のいずれか、もしくは複数を併用して実施することができる。
【0042】
レンタル用途を目的としたモップ用基布の場合は、パイル糸およびグランド糸の寸法安定性や各種染色堅牢度が要求性能として挙げられる。そのため、染色工程における各種熱処理温度が非常に重要である。染色温度としては、90〜100℃の範囲が好ましい。また、脱水乾燥後、乾熱120〜160℃程度の雰囲気温度で、1〜2分程度の熱処理を施すことが望ましい。当該熱処理により、布目矯正並びにタテ方向およびヨコ方向の密度の調整、管理を行い、寸法安定性のよい生地として仕上げることが望ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。
なお、特許請求の範囲、明細書、要約書に記載した特性値は、下記の評価方法を用いた。また、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0044】
(1)洗濯・乾燥処理条件
1997年度版JIS L0844 C−16法を準用し、処理浴温度95℃の条件下で120分間の処理を行った後、延伸脱水を施し、雰囲気温度80℃のベーキングマシンに静置して乾燥した。
【0045】
(2)洗濯・乾燥処理による寸法変化率
布目に沿うように、予めタテ方向およびヨコ方向に20cm四方の桝目をマジックインキで記す。次いで、上記記載の洗濯・乾燥処理条件で洗濯・乾燥処理した後、上記桝目のタテおよびヨコの寸法(夫々L1(cm)、L2(cm))を1mm単位まで定規で測定し、以下の式(1)および式(2)を用いて寸法変化率を算出する。評価回数5回の平均値を用いて、その測定値とする。
タテ方向の寸法変化率(%)=((L1−20)/20)×100 …(1)
ヨコ方向の寸法変化率(%)=((L2−20)/20)×100 …(2)
【0046】
(3)水性汚れ拭取性
市販の水性インクで着色した蒸留水1.5gを、表面が平滑なJIS規格A4サイズのアクリル板の中央部5cm×5cm四方(25cm)にス、キージを用いて均一塗布した。モップ用基布試料に、質量が19.6N(2000gf)の、直径75mmの円柱型分銅を乗せて、該アクリル板の一短辺から他短辺へ、つまりA4タテ方向に1回往復運動させて拭取操作を実施した。拭取操作後のアクリル板を5名の有識者で目視判定し、汚れが極めて多量に残存するものを1級、殆ど除去されているものを5級として5段階で評価し、5名の判定の平均値を汚れ拭取性の代表値とした。
【0047】
(4)油性汚れ拭取性
流動パラフィン(和光純薬工業社製、試薬一級)2.0gを、表面が平滑なJIS規格A4サイズのアクリル板の中央部5cm×5cm四方(25cm)に、スキージを用いて均一塗布した。モップ用基布試料に質量19.6N(2000gf)の、直径75mmの円柱型分銅を乗せて該アクリル板の一短辺から他短辺へ、つまりA4タテ方向に1回往復運動させて拭取操作を実施した。拭取操作後のアクリル板を5名の有識者で目視判定し、汚れが極めて多量に残存するものを1級、殆ど除去されているものを5級として5段階で評価し、5名の判定の平均値を汚れ拭取性の代表値とした。
【0048】
(5)高温洗濯・乾燥前後の取扱性・強度
モップ用基布のハンドリング面の評価として、柔軟性や強度・伸度などの力学的特性、取扱性について、「取扱性・強度面において非常に良好」(5級)〜「取扱性・強度面において著しく不良」(1級)の5段階評価を20名の有識者において実施し、平均値を代表値とした。
【0049】
(6)高温洗濯・乾燥前後の施拭面への塵埃脱落
モップ用基布の消費性能面の評価として、該モップ用基布からの塵埃脱落について評価した。「塵埃脱落が殆ど認められない」(5級)〜「塵埃脱落が極めて著しい」(1級)の5段階評価を20名の有識者において実施し、それらの平均値を代表値とした。
【0050】
(7)静摩擦係数試験方法
本発明に記載の静摩擦係数試験方法は、JIS P8147(1994年版)の水平板法を準用する。この水平板法は、水平架台に試料を置き、もう一方の試料を下面に固定した金属ブロックのおもりを載せ、定速でおもりを滑らせたときに、おもりにかかる摩擦力をロードセルで測定する方法である。
本発明では、上記の水平板法を準用し、試料の静摩擦係数を下記の手順で測定した。
水平板面に冷間圧延ステンレス鋼板(SUS304L:JIS G4305により規定されたもの)を貼り付ける。次いで、水平板に貼り付けた当該ステンレス鋼板に試料を置き、もう一方の試料(タテ75mm×ヨコ50mm)を下面に貼り付けたおもり(9.8N;1kgf)を載せる。次いで、20℃、65%RHに制御された室内において、定速でおもりを滑らせた際に、おもりにかかる摩擦力をロードセルで測定し、チャートから静摩擦係数を求める。
なお、おもりの移行速度は75mm/分であり、乾燥状態及び湿潤状態(試料の自重に対して水分率100質量%になるよう調製)の試料を用いて、それぞれ静摩擦係数を求める。測定を5回繰り返し、5回の平均値を試料の静摩擦係数の測定値とした。
【0051】
(8)沸水収縮率(SHW)
張力調整装置を具備するラップリール(検尺器;枠周1.125m)を用いて0.1
cN/dtexの初荷重を掛けて、20捲のかせ(22.500m)を作成する。これをフックに掛けて初荷重の40倍の重さの荷重を掛け1分後の長さL1を測定する。次に、荷重を除去し、収縮が妨げられない状態で、98±2℃の沸水中に30分間浸漬する。次いで、この試料を沸水中より取り出し、吸取紙で水分を除去し、水平状態で風乾する。乾燥後、再度、初荷重の40倍の重さの荷重を掛けて、1分後の長さL2を測定する。次いで、下記式(3)によって沸水収縮率(SHW)を評価する。測定を5回繰り返し、5回の平均値を測定値とする。
沸水収縮率(SHW)=((L1−L2)/L1)×100(%) ・・・(3)
【0052】
(9)伸縮復元率(CR)
張力調整装置を具備するラップリール(検尺器、枠周1.000m)を用い0.1cN/dtexの初荷重を掛けて、10捲のかせ(1000m)を準備する。このかせをガーゼに包み、90±2℃で20分間の温水処理を実施する。次いで、脱水後、20℃×65%RHの標準状態で24時間、水平状態で風乾する。次いで、このかせを20℃の水中で0.1156cN/dtexの荷重を掛けて120秒後に、かせ長L3を測定する。このかせに、荷重を0.1156cN/dtexから0.00227cN/dtexに変更し、同様に荷重を掛けて120秒後に、かせ長L4を測定する。次いで、下記式(4)によって伸縮復元率(CR)を評価する。測定を10回繰り返し、10回の平均値を測定値とする。
伸縮復元率(CR)=((L3−L4)/L3)×100(%) ・・・(4)
【0053】
(10)吸水率
JIS L−1907に記載の方法に準じて、5回の測定値の平均値を吸水率とする。
【0054】
(実施例1)
ポリアミド系ポリマー樹脂ペレット(ナイロン6:100モル%)のセミダルレジン(二酸化チタン含有量:0.2質量%)を用いて、定法の溶融紡糸方法にしたがって、ナイロン6マルチフィラメント[155dtex、48フィラメント]のスピンドロー延伸糸(FDY)およびナイロン6マルチフィラメント[78dtex、96フィラメント]のスピンドロー延伸糸(FDY)を得た。
【0055】
前者のスピンドロー延伸糸(FDY)を、多軸外接型摩擦仮撚機(TMTマシナリー社製、TMC−1型)を用いて、定法に従い仮撚を実施し、仮撚捲縮加工糸A[155dtex、48フィラメント]を得た。また後者のスピンドロー延伸糸(FDY)も多軸外接型摩擦仮撚機(TMTマシナリー社製、TMC−1型)を用いて定法に従い仮撚を施し、仮撚捲縮加工糸B[78dtex、96フィラメント]を得た。該仮撚捲縮加工糸Bの捲縮復元率(CR)は13.5%であり、沸水収縮率(SHW)は7.5%であった。
【0056】
仮撚捲縮加工糸Aをグランド糸、仮撚捲縮加工糸Bを2本引揃え156dtex192フィラメントとした後にパイル糸として用い、シンカー・パイル用丸編機(16ゲージ)を使用して製編した。次いで液流染色機を用いて、浴温90℃で精練・リラックス処理を行い、さらに排液脱水を行った。引き続き、浴温98℃で酸性染料を用いて染色加工を施した。染色加工後に染色機より生地(丸編)を取り出し、遠心脱水機で脱水した。その後、乾熱ヒートセットを実施し、布目矯正させつつ、規格巾、規格密度に調整してセットした。さらに、毛割・シャーリング工程を経て生地を巻上げ、モップ用基布(カットパイル)を得た。
【0057】
得られた生地の特性値を表1にまとめた。得られた生地(丸編)は、パイル密度やパイル長もモップ用基布として良好なものに仕上がった。さらに、寸法安定性に優れ、堅牢度的にも問題のないものに仕上がった。
【0058】
(実施例2)
ポリアミド系ポリマー樹脂ペレット(ナイロン6:100モル%)のセミダルレジン(二酸化チタン含有量:0.2質量%)を用いて、定法の溶融紡糸方法にしたがって、ナイロン6マルチフィラメント[155dtex、96フィラメント]のスピンドロー延伸糸(FDY)およびポリエステルマルチフィラメント[168dtex、288フィラメント]のスピンドロー延伸糸(FDY)を得た。
【0059】
その後、ベルト型摩擦仮撚機(村田機械社製、マッハ33H型)を用いて、定法にしたがって仮撚を行い、仮撚捲縮加工糸A[155dtex、96フィラメント]を得た。また、後者のFDYは、ピン直撚型延伸仮撚機(三菱重工業社製、LS−6型)を用いて、定法にしたがって仮撚を施し、仮撚捲縮加工糸B[167dtex、288フィラメント]を得た。仮撚捲縮加工糸Bの捲縮復元率(CR)は11.5%、沸水収縮率(SHW)は7.6%であった。
【0060】
仮撚捲縮加工糸Aをグランド糸、仮撚捲縮加工糸Bをパイル糸として、レピア式・二重パイル織機を使用して製織した。次いで、ジッカー染色機を用いて、浴温90℃で精練・リラックス処理を行い、さらに排液脱水を行った。引き続き、浴温98℃で酸性染料を用いて染色加工を施した。染色加工後に染色機より生地(織物)を取り出し、遠心脱水機で脱水した。その後、乾熱雰囲気温度120℃のヒートセッターを通過させて、布目矯正させつつ、規格巾、規格密度に調整してセットした。さらにブラシング工程を経て生地を巻上げ、モップ用基布(ループパイル)を得た。
得られた生地の特性値を表1にまとめた。得られた生地(織物)は、パイル密度やパイル長もモップ用基布として良好なものに仕上がった。さらに、寸法安定性に優れ、堅牢度的にも問題のないものに仕上がった。
【0061】
(実施例3)
パイル糸として、実施例1で得られたポリアミド系合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮加工糸[78dtex、96フィラメント]を90質量%、同様の方法で得られたポリアミド系合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮加工糸[167dtex、192フィラメント](捲縮復元率(CR)=23.5%、沸水収縮率(SHW)=6.8%)を10質量%の混率で使用した以外は、実施例1と同様の方法でモップ用基布を得た。
得られた生地の特性値を表1にまとめた。得られた生地(丸編)は、パイル密度やパイル長もモップ用基布として良好なものに仕上がった。さらに寸法安定性に優れ、堅牢度的にも問題のないものに仕上がった。
【0062】
(比較例1)
パイル糸用として、ポリアミド系合成繊維マルチフィラメント[78dtex、288フィラメント]の直接溶融紡糸を試みたが、溶融ポリマー吐出不良など紡糸操業性が極端に悪く、商用生産レベルには到達せず、検討を断念した。
【0063】
(比較例2)
グランド糸をポリアミド系合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮加工糸[155dtex、136フィラメント]に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモップ用基布を得た。得られた生地の特性値を表2にまとめた。
得られた生地(丸編)は、パイル密度やパイル長は良好なものの、洗濯・乾燥処理後は引裂強度など強度低下が著しく、リネンサプライ用途として耐久性に劣っていた。
【0064】
(比較例3)
グランド糸をポリアミド系合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮加工糸[155dtex、24フィラメント]に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモップ用基布を得た。得られた生地の特性値を表2にまとめた。
得られた生地(丸編)は、パイル密度やパイル長は良好なものの、グランド糸を構成する単繊維本数が少ないため、パイル把持力が小さくパイル抜けし易いものとなり、リネンサプライ用途としては不適切であった。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係るモップ用基布は、床面や壁面、その他家庭用品を清掃する清掃用具として使用されるだけでなく、リネンサプライヤーによる繰り返し洗濯、再生処理を施されるレンタルモップ用途にも好適なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系合成繊維からなるマルチフィラメント糸をパイル糸及びグランド糸として用いるパイル織編物からなるモップ用基布であって、
パイル糸は、単繊維繊度が0.3〜1.2dtexのポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸から構成され、その比率が80質量%以上であり、
グランド糸は、単繊維繊度1.5〜3.5dtexのポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸から構成されることを特徴とするモップ用基布。
【請求項2】
パイル糸として用いるポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸が、基布表面において実質的に無撚であり、捲縮復元率(CR)が10%以上30%以下であり、沸水収縮率(SHW)が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のモップ用基布。
【請求項3】
水湿潤時の静摩擦係数と乾燥時の静摩擦係数の比が1.60以下であり、JIS L−1907による吸水率が80%以上180%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のモップ用基布。
【請求項4】
パイル糸として用いるポリアミド系合成繊維マルチフィラメントの仮撚捲縮加工糸が、ナイロン6のマルチフィラメント糸の仮撚捲縮加工糸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のモップ用基布。

【公開番号】特開2009−240541(P2009−240541A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91006(P2008−91006)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】