説明

モデルデータの修正方法

【課題】モデルデータを測定データに適合するように簡便かつ効率的に修正する。
【解決手段】基準となるモデルデータに基づいて製作された金型を修正し(S6)、修正された金型を測定器によって測定することにより金型3次元測定データを得る(S7)。コンピュータにより、金型3次元測定データにおけるノイズ箇所を特定して除去する(S9)。金型3次元測定データとモデルデータとを近接配置し、モデルデータで示されるモデル面16を、金型3次元測定データで示される計測データ面10に投影させるための積層変形を行う(S12)。この工程は、モデル面16のうち、金型が修正された箇所に相当する範囲だけに限定して行う(S11)。ノイズが除去された箇所はモデルデータで補完する(S13)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準となるモデルデータに基づいて作成された金型や実モデルを修正し、さらに測定器によって測定することにより3次元測定データを得た後、コンピュータにより、3次元測定データで示される第1面に対して、モデルデータで示される第2面に近接配置させて対比するモデルデータの修正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス成型用の金型を製作する際には、成形品の形状データからCAD等を用いて金型の設計を行い、金型データを作製している。得られた金型データに基づいて金型を加工するNCプログラムを作成し、NC工作機械を用いて第1段階としての金型を加工している。この段階の金型は、必ずしも所望の製品を形成することができるとは限らず、実際に試用して得られた成形品に基づいて検証を行い、金型を修正することが一般的に行われている。
【0003】
自動車のような複雑形状のプレス金型成形では、試作品や成形シミュレーションからは分からない上型と下型のかみ合いのクリアランスが発生したり、試作品にしわや亀裂などが発生することがある。そのため、金型を修正した後に再度試作を行うという繰り返しのプロセスを行う必要がある。
【0004】
最終的に得られた金型、つまり一番型は1つだけであるが、自動車の片側のドア金型を作製した後、他方のドアが同形状である場合や、複数の生産現場で同一製品を製造する場合には一番型と同じ(又は対称な)1つ以上の二番型を設けるとよい。
【0005】
2番型を作製するための時間を短縮するために、修正後の金型の形状を3次元測定し、得られた3次元測定データを金型モデルデータに反映させることが考えられる。本出願人は、このように3次元計測データを金型モデルデータに反映させる手段を特許文献1において提案している。すなわち、金型3次元測定データで示される面を金型モデルデータで示される面に近接配置させて、その間で複数対の対応点の距離の絶対値を算出し、該距離の絶対値に基づいて金型モデルデータを修正する。この方法によれば、滑らかな面のCADデータが得られるとともに、面相互間の対応点がねじれ関係になることを防止できて好適である。
【0006】
特許文献1記載の方法では、金型3次元測定データで示される第2面における複数のポリゴンの基準点と、それに対応する金型モデルデータで示される第1面における対応点とを規定している。
【0007】
一方、車両の外観デザイン時においても、いずれかの段階でモデルデータを用意しておき、該モデルデータに基づいて作成したクレーモデルをデザイナーが何度か修正することがある。このような場合にも、修正されたクレーモデルをモデルデータに反映させたいという要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−176441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
修正して得られた一番型には、その修正によって表れた巣や、部品取り付け用のねじ穴や、所定の理由で発生した傷や段差等のノイズが存在する場合がある。このようなノイズは三次元加工を行う形状面データに反映すべきではない。引用文献1のように一番型を3次元測定器で計測した場合には、このようなノイズも含めて計測してしまうため、後工程においてコンピュータのオペレータがメッシュデータからノイズの箇所を特定し、所定の補正処理をする必要がある。
【0010】
本願出願人はこのような課題を考慮して、特願2008−283409号においてのノイズ箇所を特定する方法を提案している。この方法は、計測されたメッシュデータから所定の基準ノードと、該基準ノードに対してメッシュ要素の一辺を介して隣接する全ての隣接ノードを特定する工程と、全ての隣接ノードについて平均面を求める工程と、平均面と基準ノードとの離間距離を求める工程と、離間距離が所定閾値よりも小さいときに基準ノードを正常ノードとし、離間距離が所定閾値以上であるときに基準ノードをノイズノードとする工程とを有する。このように、平均面と基準ノードとの離間距離が所定閾値以上であるときにその基準ノードをノイズノードとして特定すると、コンピュータにより、自動的に簡便且つ確実にノイズ部分を特定することができる。
【0011】
一方、特許文献1記載の方法では、金型3次元測定データで示される面における基準点と、金型モデルデータの面における対応点とを規定するために金型3次元測定データの面の基準点に対して法線を設定している。金型3次元測定データは現物の一番型を計測して得られたものであることから微小な加工痕や計測器による計測誤差等の影響によりやや粗い面となっている。従って、基準点からそのまま法線を設定するのではなく、一旦、所定のスムージング処理(リラクゼーションスムージング処理等)を行った後に法線を設定することが望ましい。ところが、このようなスムージング処理は煩雑であり処理時間がかかる。
【0012】
また、車両のボディは面積が広いことから、全面に対してデータの修正を行うとコンピュータの負荷が大きく、時間がかかる。
【0013】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、人手によって修正された現物の金型や実モデルを測定して得られた測定データに基づいて、修正前の現物に対応して当初得られていたモデルデータを測定データに適合するように簡便かつ効率的に修正することのできるモデルデータの修正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るモデルデータの修正方法は、基準となるモデルデータに基づいて製作された金型を修正し、修正された金型を測定器によって測定することにより金型3次元測定データを得た後、コンピュータにより、前記金型3次元測定データと前記モデルデータとを近接配置し、前記モデルデータで示される第1面を、前記金型3次元測定データで示される第2面に投影させる投影工程を有し、前記投影工程は、前記第1面において設定された複数の基準点を基点として、法線又はその周辺部を含んで求められる平均法線をそれぞれ求める第1工程と、前記法線又は前記平均法線と前記第2面との交点をそれぞれ求める第2工程と、複数の前記基準点をそれぞれ前記法線又は前記平均法線に沿って、前記交点までの所定割合位置まで移動させて移動修正面を得る第3工程とを有し、前記投影工程は、前記第1面のうち、金型が修正された箇所に相当する範囲だけに限定して行われることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、基準となるモデルデータに基づいて製作された実モデルを修正し、修正された実モデルを測定器によって測定することにより実モデル3次元測定データを得た後、コンピュータにより、前記実モデル測定データと前記モデルデータとを近接配置し、前記モデルデータで示される第1面を、前記実モデル計測データで示される第2面に投影させる投影工程を有し、前記投影工程は、前記第1面において設定された複数の基準点を基点として、法線又はその周辺部を含んで求められる平均法線をそれぞれ求める第1工程と、前記法線又は前記平均法線と前記第2面との交点をそれぞれ求める第2工程と、複数の前記基準点をそれぞれ前記法線又は前記平均法線に沿って、前記交点までの所定割合位置まで移動させて移動修正面を得る第3工程とを有し、前記投影工程は、前記第1面のうち、金型が修正された箇所に相当する範囲だけに限定して行われることを特徴とする。
【0016】
このように、第1面において設定された複数の基準点から法線又は平均法線を設け、基準点を法線に沿って移動する投影工程によれば、金型3次元計測データ面及びモデルデータのいずれとも特別なスムージング処理が不要である。従って、モデルデータを測定データに適合するように簡便かつ効率的に修正することができる。ここで、所定割合とは100%を含む意味である。また、投影工程は、金型が修正された箇所に限定して行われることから、処理の高速化が図られる。
【0017】
金型が修正された箇所に相当する範囲は、前記実モデル測定データと前記モデルデータとを近接配置した後、前記第1面と前記第2面との距離に基づいて規定されていてもよい。
【0018】
金型が修正された箇所に相当する範囲とするための前記第1面と前記第2面との距離の閾値は、0.05mm〜0.2mmであるとよい。
【0019】
コンピュータにより、金型3次元測定データにおけるノイズ箇所を特定して除去するノイズ特定工程を有し、前記ノイズ特定工程によって除去された箇所については、それに相当する箇所の前記第1面を複写してもよい。
【0020】
前記移動修正面を第1面として更新し、前記第1工程から前記第3工程を複数回繰り返して実行してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るモデルデータの修正方法によれば、修正前の現物に対応して当初得られていたモデルデータを測定データに適合するように簡便かつ効率的に修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施の形態に係るモデルデータの修正方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】モデル面と、ノイズ部が除去された計測データ面を示す模式図である。
【図3】モデル面に対して法線を設定する様子を示す模式図である。
【図4】積層変形の手順を示すフローチャート(その1)である。
【図5】積層変形の手順を示すフローチャート(その2)である。
【図6】所定の分割点から2ノード以内の点を抽出する様子を示す模式図である。
【図7】重み付け関数を示す図である。
【図8】第1層面から法線を設定する様子を示す模式図である。
【図9】積層変形による複数回の移動修正面を模式的に二次元的に示す図である。
【図10】積層変形による複数回の移動修正面を模式的に三次元的に示す図である。
【図11】面相互間で法線にねじれが発生する例の模式図である。
【図12】適正化処理の様子を示す模式図である。
【図13】計測データからノイズを除去する判定方法の概念を二次元面上で示す説明図である。
【図14】計測データの一部において、基準ノード、隣接ノード及び平均面を示す斜視図である。
【図15】補完処理の様子を示す模式図である。
【図16】変形例に係るモデルデータの修正方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るモデルデータの修正方法について実施の形態を挙げ、添付の図1〜図16を参照しながら説明する。
【0024】
先ず、図1のステップS1において、得ようとする成形品の設計を行い、成形品モデルのデータを作製する。
【0025】
ステップS2において、成形品モデルのデータに基づいて、CADにより金型モデルデータのデータを作製する。
【0026】
ステップS3において、金型モデルデータのデータに基づいて、NC加工機用のNCデータを作製する。
【0027】
ステップS4において、得られたNCデータを用い、NC加工機により金型を成形する。
【0028】
ステップS5において、成形された金型を用いてプレス加工を行い、試作品としての成形品を得る。
【0029】
ステップS6において、試作品及び金型プレス面等を観察、検討し、手作業により金型の修正を行う。この際、試作品については皺や割れ、寸法誤差の有無等を観察、検討し、金型については、プレス表面の状態等を勘案し、総合的に判断して金型の修正を行う。これらのステップS5及びS6は複数回繰り返して行ってもよい。
【0030】
ステップS7において、修正された金型を計測器(3次元デジタイザ等)で形状を3次元的に測定し、点群から構成される3次元測定データを得る。この計測器は接触式でも非接触式でもよい。
【0031】
ステップS8において、3次元測定データの点群をコンピュータを用いた所定の手段によって、多数のポリゴンに設定する。これらのポリゴンは、測定された金型の表面形状を示すことになる。ポリゴンは主として三角形の平面で表される。
【0032】
ステップS9において、金型3次元測定データにおけるノイズ箇所を特定して除去するノイズ特定工程を行う。この処理については後述する。
【0033】
このノイズ特定工程により、図2に示すように、計測データ面(第2面)10からは、ノイズ部12、14が除去される。除去された箇所はデータが存在しないことになる。
【0034】
また、コンピュータにより、ポリゴン化された3次元測定データと、金型モデルデータとを対比し、図3に示すように、金型3次元測定データに基づくポリゴンで示される計測データ面(第2面)10を金型モデルデータで示されるモデル面(第1面)16に十分に近接配置させる。この近接配置させる処理では、例えば、計測データ面とモデル面との距離の平均がほぼ最小となるように全面にわたって十分に接近させるとよい。計測データ面とモデル面とは一部交差していてもよい。この近接配置をすることにより、金型における修正のない箇所(図2における範囲W0以外の箇所)は、面同士が実質的に面接触することになる。
【0035】
図3に示すように、計測データ面10は多数の測定点18を頂点とするポリゴン22の集合体である。計測データ面10は現物の一番型を計測して得られたものであることから微小な加工痕や計測器による計測誤差等の影響によりやや粗い面となっている。
【0036】
モデル面16も多数のポリゴン22から構成されている。図3及びこれに相当する以降の図では、面状の計測データ面10及びモデル面16を模式的に線状に示す。
【0037】
ステップS10において、計測データ面とモデル面との距離d0(図2参照)を全面について求める。
【0038】
ステップS11において、計測データ面とモデル面との距離d0を判断し、修正をすべき範囲、つまり、金型が修正された箇所に相当する範囲W0を特定する。この修正すべき範囲W0の特定は、コンピュータにより自動的に行われる。以降の積層変形処理は、この範囲W0だけに限定して行われる。これにより、対象が車両のような広い面積のワークであっても、処理の高速化を図ることができる。
【0039】
距離d0の閾値は、範囲W0を可及的に狭く制限するとともに、最終的に得られるデータの精度維持の観点から、0.01〜0.5mm、好ましくは0.05mm〜0.2mm、例えば0.1mmにするとよい。範囲W0は、周辺部との接続代として、所定ピッチだけ広く設定するとよい。
【0040】
ステップS12において、積層変形処理を行う。
【0041】
次に、ステップS13において、前記のノイズ特定工程によって除去された箇所(図2のノイズ部12、14)についての補完処理を行う。ステップS12の積層変形処理及びステップS13の補完処理については後述する。
【0042】
ステップS14において、得られた金型3次元測定データの各測定点から金型モデルまでの距離の絶対値、つまり差分のデータに基づいて、金型モデルを変形し金型修正モデルを作製する。この処理は差分のデータに基づいて金型モデルデータを変形することから、元データの隣接情報や曲線を引き継いだモデルデータが作られるため、仮に測定点に欠落した箇所が存在しても、周りの形状に相応したモデルデータの復元、修復を容易に行うことができる。
【0043】
このようにして得られた金型修正モデルは、少なくとも一度実際に試作を行って得られた試作品に基づいて、ステップS6で修正を行った金型の形状の情報が相当に反映されているものであることから、リピート型を作製する際に修正に要する工数が大幅に抑制されることになる。すなわち、金型修正モデルに基づいてNCデータが作製され、該NCデータによりNC工作機で作製されたリピート型は、ステップS6で行った修正が反映されているものであることから、ほとんど修正をすることがなく、高精度の成形品を成形することができる。
【0044】
次に、前記のステップS12における積層変形処理について説明する。なお、この処理は、当初の計測データ面10に対して3層の中間段階の面が積層し変形しながら設定されることから積層変形処理と呼んでいる。
【0045】
先ず、図4のステップS101において、モデル面16における積層変形の基準点を設定する。ここでは、図3に示すようにポリゴン22の頂点24を基準点とする。
【0046】
ステップS102において、モデル面16の各頂点24から、計測データ面10に対する法線ベクトルの線26をそれぞれ設定する。つまり、法線ベクトルの線26と周囲の各モデル面16とのなす角度δが等しくなるように該法線ベクトルの線26を設定する。
【0047】
頂点24は3以上のポリゴン22の頂点であることから、法線ベクトルの線26は隣接する各ポリゴン22に対する角度が可及的に等しくなるように設定すればよい。
【0048】
また、さらに精度を上げるためには、周辺の所定の領域の加重平均によってベクトルの線26を求めてもよい。
【0049】
すなわち、図6に示すように、基準となる点28aに対して1ボールノードの点28b及び2ボールノードの点28cを抽出する。1ボールノードは、点28aに対して1本の線で結ばれる点であり、図6では黒丸で示される。2ボールノードは、2本以内の線で結ばれる点であり、図6では白丸で示される。図6に示す例では、1ボールノードの点28bは8点であり、2ボールノードの点28cは11点である。従って、2ボールノード以内の点は19点である。
【0050】
2ボールノード以内の各点について番号j(j=1〜19)を付与して対応する点ベクトル34を点njとして識別可能にするとともに、各点njの点28aからの直線距離djを求める。
【0051】
次の(1)式に基づいて、2ボールノード以内の点のベクトルnjを距離djに応じて重み付けし、加重平均することにより点代表ベクトルn’jを求める。
【0052】
【数1】

【0053】
ここで、パラメータmは、2ボールノード以内の点の総数であり、図6の例ではm=19である。また、距離diを引数とする関数fは、図7に表される重み付け関数である。関数fは、距離diの絶対値が閾値dMax以下であるときは、関数gによって規定され、絶対値が閾値dMaxを超えるときには0となる。関数gは、略正規分布を示す0≦g≦1の範囲の関数であり、|dj|=dMaxのときにはg=0、dj=0のときにはg=1と規定されている。図7で、距離diのプラスの範囲とマイナスの範囲は、対象となる面の表側と裏側を区別して表すものである。
【0054】
このような(1)式によって得られる点代表ベクトルn’は、3ボールノード以上の点や、距離djが大きすぎる点に対応したベクトルは除去され、2ボールノード以内であっても、距離djに応じて重み付けされて平均される。従って、近距離のベクトルほど影響が大きくなり、周辺の形状を適切に示した点代表ベクトルn’が得られる。
【0055】
次に、ステップS103において、線26と計測データ面10との各交点である第1回交点38を求め、頂点24から第1回交点38までの距離を求める。
【0056】
ステップS104において、頂点24と第1回交点38との間を、例えば4等分し、頂点24から最も近い第1回分割点40を求める。換言すれば、第1回分割点40は、測定点18と第1回交点38との間を1:3の割合で分割して得られる分割点である。この分割回数は1回以上であればよい(すなわち、分割点の分割割合を100%にしてもよい。)。
【0057】
ステップS105において、当初の測定点18に基づくポリゴンの接続関係を維持しながら、図8に示すように、対応する各第1回分割点40に対してもポリゴンを設定し第1層面(移動修正面)42を形成する。すなわち、複数の頂点24をそれぞれ線26に沿って、第1回交点38までの所定割合位置である第回1分割点40まで移動させて移動修正面を得る。
【0058】
ステップS101〜S105においては、計測データ面10及びモデル面16とも、スムージング処理は特に必要なく、当初のポリゴン面のまま適用が可能であり高速処理が可能である。
【0059】
ステップS106において、図8に示すように、各第1回分割点40から計測データ面10に対して加重平均法線である線44をそれぞれ設定する。これは、前記のステップS101と同様の処理であり、移動修正面として得られた第1層面42を当初のモデル面16として更新することと等価である。
【0060】
ステップS107において、線44とモデル面16との交点である第2回交点46を求め、第1回分割点40から第2回交点46までの距離を求める。これは、前記のステップS102と同様の処理である。
【0061】
ステップS108において、第1回分割点40と第2回交点46との間を3等分し、第1回分割点40から最も近い第2回分割点48を求める。換言すれば、第2回分割点48は、第1回分割点40と第2回交点46との間を1:2の割合で分割して得られる分割点である。
【0062】
ステップS109において、当初の測定点18に基づくポリゴンの接続関係を維持しながら、得られた第2回分割点48に対してポリゴンを設定し第2層面49を形成する。
【0063】
この後、図5に示すように、同様にして、第2回分割点48からポリゴンの法線ベクトルを設定し(ステップS110)、第3回交点を求め(ステップS111)、第2回分割点48と第3回交点との間を2等分し、第3分割点を求め(ステップS112)、第3回分割点に対してポリゴンを設定し第3層面56(図10参照)を形成する(ステップS113)。
【0064】
さらに、第3回分割点からポリゴンの法線ベクトルを設定し(ステップS114)、法線ベクトルと計測データ面10との交点である対応点50(図9参照)を求め(ステップS115)、対応点50に対してポリゴンを設定し上層面58を設定する(ステップS116)。
【0065】
ここまでの処理を図9及び図10にまとめて示す。当初のモデル面16が4段階を経て計測データ面10に投影されていることが理解されよう。このような積層変換処理では、当初の法線である線26に沿って一度に投影を行うのではなく、所定割合毎に移動修正面を設けて段階的な投影を行っている。従って、計測データ面10及びモデル面16において曲率の大きい箇所において複数の線26が交差してしまうような場合であっても、当初のモデル面16における複数のポリゴン22同士の位置関係がそのまま維持されて計測データ面10に投影される。
【0066】
仮に、積層変形処理を行わない場合、図11に示すように、計測データ面10又はモデル面16の曲率半径が小さい部分では、測定点18から計測データ面10に対して面直線52を設定しても、得られる対応点54と測定点18との関係にねじれが生じることがあり、金型修正モデルを精度良く設定することができない。これに対して、本実施の形態では積層変形処理により、係る不都合がなく、計測データ面10における複数の測定点18の相互の位置関係が略維持されながら計測データ面10に対応点50が設定されることになり、適切な対応関係が得られる。
【0067】
次いで、ステップS117において、図12に示すように、最終的に形成された上層面58を所定の精度条件に合うように適正化する(例えば、規定値MTに応じてトレランスtrを小さくする)。この適正化処理は、精度条件に合わない箇所について適度に滑らかな擬似曲面59を設定し、該擬似曲面59に基づいて適切なピッチを再計算した上でメッシュを再構成する適正化処理を行うとよい。さらに得られたメッシュによる面は測定データに再投影するとよい。このように適正化されて精度保障されたデータは、金型加工のCAMデータとして利用することができる。
【0068】
なお、図3、図8及び図9におていは、計測データ面10はモデル面16を基準として一方にのみ設けられているが、計測データ面10はモデル面16の反対側に設けられていてもよく、又は一部交差していてもよい。上記の積層変形処理では、3層の中間段階の面が設けられる例を示したが、2層又は4層以上であってもよい。途中段階で求める分割点の基準となる分割比は、任意に設定可能であり、例えば常に中点(1:1)となる箇所を分割点として設定してもよい。
【0069】
次に、前記のステップS9におけるノイズ特定工程について説明する。このノイズ特定工程は、基本的には、メッシュデータから所定の基準ノードと、該基準ノードに対してメッシュ要素の一辺を介して隣接する全ての隣接ノードを特定する工程と、全ての隣接ノードについて平均面を求める工程と、平均面と基準ノードとの離間距離を求める工程と、離間距離が所定閾値よりも小さいときに基準ノードを正常ノードとし、離間距離が所定閾値以上であるときに基準ノードをノイズノードとする工程とを有する。
【0070】
メッシュデータの判定方法について基本的な概念について二次元平面上で説明する。
【0071】
図13に示すように、計測データ面10における複数のノード114が同一面上で表されるとしたとき、所定のノード114を基準ノード114aとして、該基準ノード114aに隣接する2つのノード114を隣接ノード114bとして選択する。基準ノード114a及び2つの隣接ノード114bに接する半径rの円116と、2つの隣接ノード114bを接続する基準線118を規定する。
【0072】
金型を加工する際には、工作機械の工具はポリゴン112の面に沿って加工をするのではなく、ノード114同士を滑らかに結んだ曲線に沿って加工をすることから、円116は工具の移動経路と略等しいことになる。
【0073】
左側の隣接ノード114b(以下、隣接ノード114cと呼んで区別する。)に着目し、円116の中心点Oを基準として該隣接ノード114cと基準ノード114aとのなす角をθとする。隣接ノード114cと基準ノード114aとの中点120と中心点Oとを通る直線122を規定し、該直線122上で円116と中点120との距離を形状トレランスtとする。形状トレランスtは、工具の移動経路とポリゴン112との距離を示していることからできるだけ小さいことが望ましいが、工作機械の加工精度よりも過度に小さくすることは合理的ではない。したがって、形状トレランスtは、工作機械の加工精度に基づいて適度に小さい値に設定される。
【0074】
隣接ノード114c、中点120及び中心点Oで形成される直角三角形で、隣接ノード114c〜中点120をx、中点120〜中心点Oをyとする。基準線118において、基準ノード114aから下ろした垂線124との交点と隣接ノード114cとの間をzとする。基準ノード114a、隣接ノード114c及び中心点Oによって形成される二等辺三角形の二等角をそれぞれαとする。垂線124の長さMT(以下閾値MTと呼ぶ)は以下の計算によって求まる。
【0075】
x=r×sin(θ/2)
z=r×sinθ
t=x×tan(θ/4)
MT=t×4×cos2(θ/4)0<cos(θ/4)≦1
これから、
0<MT≦t×4
となり、閾値MTは形状トレランスtの4倍以内として規定することができる。
【0076】
ところで、計測データ面10は、本来、一番型を計測して得られたものであることから、理論的には形状トレランスtは過度に大きくなることはないのであるが、実際には大きくなる箇所がある。これは、対象となった基準ノード114aが金型に存在した巣、傷、段差及び穴等に起因するノイズであると判断可能である。
【0077】
このような概念に基づいて、計測データ面10のノイズ部分の特定をする際には、計測データ面10は面のデータがなくノード114のデータの集合であることから、形状トレランスtを直接的に求めて判断することが困難であり、垂線124の閾値MTによって任意に規定した形状トレランスを基準とする閾値でノイズ判断をすることが望ましい。また、閾値MTによる判断では、基準ノード114aの周りに存在する複数のポリゴン112をまとめて判定することができる。なお、図13は、形状トレランスtと閾値MTとの関係を説明するための図であり、閾値MTは固定値であるが、垂線124の長さdは変動する。
【0078】
このような方法を3次元的に適用するには、図14に示すように、基準ノード114aの回りには複数(3以上)の隣接ノード114bが存在することから、得られた全ての隣接ノード114bに基づいて、最小二乗法により平均面130を求めればよい。最小二乗法によれば、平均面130が適切に求められ、しかもこの後の処理が簡便となる。平均面130は図13における基準線118に相当する。平均面130を求める最小二乗法では基準ノード114aは含めなくてよい。基準ノード114aは、平均面130の上側に存在する場合と、下側に存在する場合、及び平均面130上に存在する場合がある。なお、平均面130は、基本的には平面であるが、設計条件によっては曲面近似させてもよい。
【0079】
このようなノイズ特定工程は、特願2008−283409号に記載されているものと同様である。ノイズ特定工程はこれ以外の方法によって実現してもよい。
【0080】
図15に示すように、ステップS13の補完処理について説明する。ノイズを除去した除去箇所60には、計測データ面10としてのデータが存在していないことから、モデル面16におけるそれに相当する充当箇所62を特定し、該充当箇所62を除去箇所60に移動複写する。この際の移動は、除去箇所60と充当箇所62の周囲部分が適合するように行えばよく、並行移動だけでなく適度に回転移動させてもよい。条件によっては、移動を伴なわずにそのままの場所で複写してもよい。
【0081】
このように、除去箇所60については、それに相当する充当箇所62のモデル面16を複写することにより、簡便に補完ができる。
【0082】
上述したように、本実施の形態に係るモデルデータの修正方法によれば、投影工程(ステップS101〜S116)において、計測データ面10及びモデル面16のいずれとも特別なスムージング処理が不要である。従って、モデル106面を計測データ面10に適合するように簡便かつ効率的に修正することができる。本発明者が試行した結果によれば、特許文献1記載の手順によってスムージングを行いながら面を修正する方法と比較して、本実施の形態に係るモデルデータの修正方法によれば、所定の大きさの金型に適用した場合、処理時間が約1/6に短縮されてしかも精度は従来通りに維持された。
【0083】
このようにして修正されたデータは、FEM解析用にも利用可能である。
【0084】
次に、本発明を、車両の外観デザインの段階に適用する方法について説明する。すなわち、外観デザイン時においては、そのいずれかの段階でモデルデータを用意しておき、該モデルデータに基づいて作成したクレーモデルをデザイナーが何度か修正することがある。このような場合にも、修正されたクレーモデルをモデルデータに反映させることができる。
【0085】
図16のステップS201において、デザイナーはコンピュータを用いて仮想空間上で車両の外観デザインを行う。何度かのレビューを経て第1段階目のデザインが決定する。この外観デザインはモデルデータとして記録される。近時のコンピュータは処理能力が高く、3次元的なデザインを容易且つ高速に行うことができる。
【0086】
このようにして得られたクレーモデルは、相当に洗練されたデザインとなっている。しかしながら、コンピュータ上のデザインではモニタ又は印刷物を通して見るだけであり、3次元的な検討も欠かせないことから、以下の処理を行う。
【0087】
ステップS202において、モデルデータに基づいてクレーモデル(実モデル)を製作する。
【0088】
ステップS203において、クレーモデルを観察し、外観デザインの3次元的な検討を行って所定の修正を行う。この修正はデザイナー又は所定の作業者が手作業により行う。これらのステップS202及びS203は複数回繰り返して行ってもよい。クレーモデルは、当初は小さいモデルとし、その後に実物大のモデルを作成してもよい。
【0089】
ステップS204において、修正されたクレーモデルを計測器で形状を3次元的に測定し、点群から構成される3次元測定データを得る。これは前記のステップS7の処理と実質的に同じであり、対象が金型ではなくて実モデルであることが異なる。
【0090】
これ以降のステップS205〜S210は、前記のステップS8〜S12(図1参照)と同じ処理である。従って、ステップS206のノイズ特定工程では、図13及び図14と同様の処理を行い、ステップS210の積層変形では、図4及び図5と同様の処理を行う。
【0091】
このようにして得られたデータは、図1に示す金型作成する際の金型モデルデータとして利用できる。また、何らかの目的によりクレーモデルを再び作成する際に利用することができる。FEM解析用に利用してもよい。
【0092】
上記のモデルデータの修正方法は、車両ボディを対象にしたものに限らず、より小さな製品についても適用可能である。
【0093】
本発明に係るモデルデータの修正方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0094】
10…計測データ面 16…モデル面
18…測定点 22…ポリゴン
24…頂点 38…第1回交点
42…第1層面 49…第2層面
56…第3層面 58…上層面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準となるモデルデータに基づいて製作された金型を修正し、修正された金型を測定器によって測定することにより金型3次元測定データを得た後、
コンピュータにより、前記金型3次元測定データと前記モデルデータとを近接配置し、前記モデルデータで示される第1面を、前記金型3次元測定データで示される第2面に投影させる投影工程を有し、
前記投影工程は、
前記第1面において設定された複数の基準点を基点として、法線又はその周辺部を含んで求められる平均法線をそれぞれ求める第1工程と、
前記法線又は前記平均法線と前記第2面との交点をそれぞれ求める第2工程と、
複数の前記基準点をそれぞれ前記法線又は前記平均法線に沿って、前記交点までの所定割合位置まで移動させて移動修正面を得る第3工程と、
を有し、
前記投影工程は、前記第1面のうち、金型が修正された箇所に相当する範囲だけに限定して行われることを特徴とするモデルデータの修正方法。
【請求項2】
基準となるモデルデータに基づいて製作された実モデルを修正し、修正された実モデルを測定器によって測定することにより実モデル3次元測定データを得た後、
コンピュータにより、前記実モデル測定データと前記モデルデータとを近接配置し、前記モデルデータで示される第1面を、前記実モデル計測データで示される第2面に投影させる投影工程を有し、
前記投影工程は、
前記第1面において設定された複数の基準点を基点として、法線又はその周辺部を含んで求められる平均法線をそれぞれ求める第1工程と、
前記法線又は前記平均法線と前記第2面との交点をそれぞれ求める第2工程と、
複数の前記基準点をそれぞれ前記法線又は前記平均法線に沿って、前記交点までの所定割合位置まで移動させて移動修正面を得る第3工程と、
を有し、
前記投影工程は、前記第1面のうち、金型が修正された箇所に相当する範囲だけに限定して行われることを特徴とするモデルデータの修正方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のモデルデータの修正方法において、
金型が修正された箇所に相当する範囲は、前記実モデル測定データと前記モデルデータとを近接配置した後、前記第1面と前記第2面との距離に基づいて規定されることを特徴とするモデルデータの修正方法。
【請求項4】
請求項3記載のモデルデータの修正方法において、
金型が修正された箇所に相当する範囲とするための前記第1面と前記第2面との距離の閾値は、0.05mm〜0.2mmであることを特徴とするモデルデータの修正方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のモデルデータの修正方法において、
コンピュータにより、金型3次元測定データにおけるノイズ箇所を特定して除去するノイズ特定工程を有し、
前記ノイズ特定工程によって除去された箇所については、それに相当する箇所の前記第1面を複写することを特徴とするモデルデータの修正方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のモデルデータの修正方法において、
前記移動修正面を第1面として更新し、
前記第1工程から前記第3工程を複数回繰り返して実行することを特徴とするモデルデータの修正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−211678(P2010−211678A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59194(P2009−59194)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】