説明

モリブデン人工器官

人工器官は、モリブデンと、チタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、クロム、及びこれらの組み合わせからなる一群から選択される少なくとも1つの金属とを含む部材を備える。部材は、(a)少なくとも50重量%のモリブデンを含む、モリブデンに富む基部領域、(b)チタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、クロム、及びその組み合わせからなる一群から選択される少なくとも1つの金属からなる表面領域、及び(c)モリブデンの濃度が部材のモリブデンに富む基部領域から表面領域へ厚み方向に減少する相互拡散領域を含む微小構造体を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工器官に関する。より詳細には本発明はステントに関する。
【背景技術】
【0002】
体内には、動脈や他の血管や体内管などの様々な通路がある。これらの通路は、閉塞したり脆弱になることがある。例えば、通路が、腫瘍により閉塞したり、血小板により狭窄したり、動脈瘤により脆弱になることがある。このようなことが生じた場合、通路は、医療用の人工器官を使用して広げたり、補強したり、或いは人工器官に置換したりできる。人工器官は、通常、体内管に配置される管状部材である。人工器官の例として、ステント、カバー付きのステント、及びステントグラフトが挙げられる。
【0003】
人工器官は、目的の部位に運ばれる時に、圧縮又は縮小された形状とされ、カテーテルに支えられて体内に搬送される。目的の部位に到達すると、人工器官は、例えば、体内管の壁に接するように拡張される。
【0004】
拡張機構は、人工器官を径方向に拡張させる。例えば、拡張機構は、バルーンを備えて、バルーン拡張型の人工器官を搬送するカテーテルを有する。バルーンにより拡張可能な人工器官は通常316Lタイプのステンレス鋼やL605タイプの合金により形成される。バルーンが膨張することにより、拡張された人工器官が、所定の位置において体内管の壁に接するように変形されて固定される。その後、バルーンは収縮されて、カテーテルは抜去される。
【0005】
人工器官は、体内へ進められると、その進行が監視されることができ、例えば、追跡されて目的部位へ適切に搬送される。目的部位へ搬送されると、該人工器官は監視されて、適切に配置されているか及び/又は適切に機能しているかどうかが判断されることができる。医療器具の監視方法は、X線蛍光透視法、コンピュータ断層撮影法(CT)、及び磁気共鳴映像法(MRI)を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、モリブデンを含む人工器官を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様において人工器官はモリブデンと、チタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、クロム、及びその組み合わせからなる一群から選択される少なくとも1つの金属とを含む部材を有する。部材は、(a)少なくとも50重量%のモリブデンを含む、モリブデンに富む基部領域、(b)チタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、クロム、及びその組み合わせからなる一群から選択される少なくとも1つの金属からなる表面領域、及び(c)モリブデンの濃度が部材のモリブデンに富む基部領域から表面領域へ厚み方向に減少する相互拡散領域を含む微小構造体を有する。
【0008】
実施例において、モリブデンの基部領域は、10重量%以下の要素、即ち、チタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、ジルコニウム、ハフニウム、イリジウム、及びクロムのいずれかを含む。実施例においてモリブデンに富む基部領域は少なくとも95重量%のモリブデンを含む。例えば、モリブデンに富む基部領域は、1.25重量%のチタン、0.3重量%のジルコニウム、0.15重量%の炭素、及びモリブデンのバランスを含む。モリブデンに富む基部領域は0.25重量%乃至1.0重量%のチタン、0.04重量%乃至2.0重量%のジルコニウム、0.01重量%乃至0.04重量%の炭素、及びモリブデンのバランスを含む。実施例において、モリブデンに富む基部領域は、ケイ酸カリウムのドープ塗料を塗布された99.95%の純粋なモリブデンを含む。
【0009】
実施例において、表面領域は基本的にモリブデンを含まない。別例において、表面領域は50重量%以下のモリブデンを含む。実施例において、表面領域はチタンを含む。例えば、表面領域はチタン−モリブデン合金を含むか、或いは基本的にチタンからなる。
【0010】
実施例において、相互拡散領域は10ナノメートル乃至10マイクロメートルの厚みを有する。実施例において、相互拡散領域は少なくとも1マイクロメートルの厚みを有する。実施例において、相互拡散領域はイリジウムを含む。例えば、相互拡散領域は、モリブデンに富む基部領域や表面領域と比較してより高濃度のイリジウムを含む。
【0011】
実施例において、部材は表面領域を覆う、酸化物、炭化物、窒化物、或いはこれらの組み合わせを更に含む。例えば、酸化物、炭化物、及び窒化物は酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化クロム、酸化イリジウム、酸窒化チタン、TiO、Nb、Ta、及びこれらの組み合わせからなる一群から選択される。実施例において、部材は表面領域を覆う、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、イリジウム、或いはこれらの組み合わせのコーティングを含む。実施例において、部材は表面領域を覆う薬物溶出ポリマコーティングを含む。
【0012】
実施例において、部材は44msi乃至50msi(約303.38GPa乃至約344.75GPa)の係数、少なくとも50ksi(約344.75MPa)の0.2%オフセット降伏強度、及び/又は少なくとも約15%の破断点延びを有する。実施例において、モリブデンに富む基部領域は少なくとも9.5g/cc(約9.5g/cm)の濃度を有する。実施例において、人工器官はステントである。例えば、人工器官はバルーン拡張型ステントである。
【0013】
別の態様において、人工器官はモリブデン及びチタンを含む部材を有する。部材は(a)少なくとも50重量%のモリブデンを含む、モリブデンに富む基部領域、及び(b)チタンを含む表面領域を備える微小構造体を有する。
【0014】
実施例において、表面領域は基本的にチタンからなる。別例において、表面領域はチタン−モリブデン合金を含む。
実施例において、部材はイリジウムからなる中間領域を更に含む。実施例において、部材は表面領域を覆う、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、イリジウム、或いはこれらの組み合わせのコーティングを更に含む。
【0015】
実施例において、人工器官はステントである。例えば、人工器官はバルーン拡張型ステントである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例において拡張したステントを示す斜視図。
【図2】ステントのバンド又は連結部を示す断面図。
【図3A】モリブデンに富む基部領域及び表面領域間の相互拡散領域を有する部材の製造工程を示す図。
【図3B】モリブデンに富む基部領域及び表面領域間の相互拡散領域を有する部材の製造工程を示す図。
【図3C】モリブデンに富む基部領域及び表面領域間の相互拡散領域を有する部材の製造工程を示す図。
【図4】実施例においてステントの製造方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の他の特徴、課題、効果は、実施例に関する記載および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
各図面において類似する符号は、類似する要素を示すものである。
【0018】
図1はバルーン拡張型ステント20が複数のバンド22、及び隣接するバンド間に延び、隣接するバンドを連結する複数の連結部24によって形成される管状部材の形状をを示す。使用時においてバンド22は初期の小径からより大きな径に拡張され、ステント20を血管壁に接触させ、これにより血管の開存性を保持する。連結部24はステント20に対して可撓性及び追従性を付与し、これによりステントは血管の形状に適合する。
【0019】
バルーン拡張型ステント20のバンド22及び連結部24は、モリブデンと、以下の金属、即ちチタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、クロムのうち少なくとも1つを単体又は相互に組み合わせて含む。モリブデンは機械的特徴及び物理的特徴の効果的な組み合わせを有し、係数及び降伏強度の優れたバランスを含む。モリブデンの係数は316Lステンレス鋼の係数及びL605合金の係数より高いが、モリブデンの降伏強度は316Lステンレス鋼の降伏強度及びL605合金の降伏強度の間にある。上記特性のバランスは、同じステント構造体において使用された場合に316Lステンレス鋼及びL605合金と比較して、より堅固に搬送システムに固定され拡張した径を保持(血管壁と同格関係)できるようにより低い径反動力をなす。モリブデンは強磁性体要素である鉄及びコバルトと比較してより低い磁化率を有するため、モリブデンステントはMRIにより適してもいる。モリブデンは、316Lステンレス鋼及びL605合金と比較して、より高い物質量吸収係数、及びより高い密度を有するため、より高い放射線不透過性も有する。モリブデンはEagle Alloys社、Goodfellow社、及びMinitubes 社からチューブ状の形態にて販売されている。以下の表1に販売されている純粋なモリブデンの、316Lステンレス鋼及びL605合金に対する材料特性の比較を示す。
【0020】
【表1】

図2はステントのバンド22又は連結部24を示す断面図である。部材はモリブデンに富む基部領域32、相互拡散領域34、及び表面領域36を含む微小構造体を有する。モリブデンに富む基部領域32は少なくとも50重量%のモリブデンを含む。表面領域36は、以下の金属、即ちチタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、クロムのうち少なくとも1つを単体又は相互に組み合わせて含む。相互拡散領域34は、部材のモリブデンに富む基部領域から表面領域へ厚み方向に濃度が減少するモリブデンを含む。モリブデンに富む基部領域32少なくとも50重量%濃度のモリブデンの他、チタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、ジルコニウム、ハフニウム、イリジウム、及び/又はクロム等のその他の金属も含み得る。実施例において、モリブデンに富む基部領域32は上記要素が10重量%以下に制限される。モリブデンに富む基部領域は少なくとも9.5g/cc(約9.5g/cm)の濃度を有する。
【0021】
実施例においてモリブデンに富む基部領域は少なくとも95重量%のモリブデン濃度を有する。例えばモリブデンに富む基部領域はMo TZM、Mo TZCや、Mo HCT合金を含む。Mo TZC合金は1.25重量%のチタン、0.3重量%のジルコニウム、0.15重量%の炭素、及び基本的なモリブデンのバランスを含む。Mo TZM合金は0.25重量%乃至1.0重量%のチタン、0.04重量%乃至2.0重量%のジルコニウム、0.01重量%乃至0.04重量%の炭素、及び必須のモリブデンのバランスを含む。Elmet Technologies社から販売されているMo HCTはケイ酸カリウムのドープ塗料を塗布された99.95%の純粋なモリブデンを含む。Mo HCTは最大限150ppm(約150mg/kg)のカリウム、最大限300ppm(約300mg/kg)のケイ素、及び最大限200ppm(約200mg/kg)の酸素を有する。HCTはHigh reCrystallization Temperature(高い再結晶温度)を略して示す。Mo HCTの特徴は純粋なMoと基本的に同じであるが、Mo HCTを使用する利点は、純粋なMoと比較してより高温にて拡散熱処理が可能であり、これにより、より短時間の工程にて相互拡散ができることにある。Mo TZC及びMo TZMの材料特性は以下の表2に示す。
【0022】
【表2】

表面領域36は、以下の金属、即ちチタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、クロムのうち少なくとも1つを単体又は相互に組み合わせて含む。表面領域はステントの耐食性及び/又は生体に対する適合性を向上させる。実施例において、表面領域は基本的にモリブデンを含まない。別例において、表面領域は50重量%以下のモリブデンを含む。実施例において、表面領域はチタンを含む。例えば、表面領域は、基本的に純粋なチタンを含むか、チタン−モリブデン合金を含む。
【0023】
微小構造体は部材のモリブデンに富む基部領域から表面領域へ厚み方向にモリブデンの濃度が減少する相互拡散領域を更に含む。実施例において、相互拡散領域は少なくとも1マイクロメートルの厚みを有する。実施例において、相互拡散領域は10ナノメートル乃至10マイクロメートルの厚みを有する。相互拡散領域は、濃度勾配がモリブデンに富む基部領域32に隣接するより高いモリブデン濃度の領域から表面領域36に隣接するより低いモリブデン濃度の領域に遷移する、表面領域36の構成要素及びモリブデンに富む基部領域32の構成要素の混合物を含む。
【0024】
図3A乃至3Cは、モリブデンに富む基部領域32と、表面領域36と、これらの間に設けられる相互拡散領域34とを有する部材の製造方法を示す。例えば、図3Aに示すように、少なくとも50重量%のモリブデンを有する、モリブデンに富む基材32が設けられる。基材32はアルゴン−水素プラズマを使用する酸化物除去工程によりプラズマ蒸着コーティングチャンバにて清潔にされる。
【0025】
図3Bに示すように、第2の金属38の層が基材32に蒸着される。第2の材料38はチタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブや、クロムを含む。第2の材料38は公知のプラズマ蒸着設備を使用して蒸着される。第2の材料38は約20マイクロメートル以下の厚み(例えば20ナノメートル乃至1マイクロメートルの厚み)の蒸着物を形成する。第2の材料38の層はイオン注入法、スパッタコーティング法、化学蒸着法や、電気メッキ法のその他の利用可能な方法によって蒸着されてもよい。
【0026】
図3Cに示すように、相互拡散領域は表面合金化拡散処理を適用することにより形成される。例えば、熱処理が約10−5トル(約0.001333Pa)より大きい高圧下にて行われる。熱処理はモリブデン管再結晶温度プラスマイナス100℃の範囲から選択される温度にて30分間乃至240分間にわたって行われる。この熱暴露において、モリブデン及び第2の金属は相互拡散し、モリブデンに富む基材32及び第2の材料38の構成要素である合金を形成する。これにより得られる表面領域36は完全に第2の材料38により形成されるか、モリブデンに富む基材32から拡散されるモリブデンを含んでもよい。ステントの表面は0乃至50%のモリブデンを含むが、これは相互拡散の量を制御することにより調整可能である。例えば、チタン中のモリブデンの拡散率は1000℃にて5.582平方マイクロメートル/秒と計算され、1200℃にて294.5平方マイクロメートル/秒と計算される。拡散処理により、加工硬化されたモリブデンに富む基材を、低い強度及び高い柔軟性を有する状態に転換することもできる。
【0027】
図2に示すような表面が拡散処理され合金化されたステント材料の引張特性は、44msi乃至50msi(約303.38GPa乃至約344.75GPa)のヤング係数、50ksi乃至80ksi(約344.75MPa乃至約551.6MPa)の0.2%オフセット降伏強度、65ksi乃至95ksi(約448.175MPa乃至約655.025MPa)の最大降伏強度、及び/又は15%より大きい破断点延びである。
【0028】
実施例において、表面領域36は基本的に純粋なチタンからなる。別例において、表面領域36はチタン−モリブデン合金からなる。チタン−モリブデン合金は約50重量%以下のモリブデンを含み、実施例において、40重量%以下のモリブデンを含む。実施例において、チタンを含む表面領域36は、付加的な合金要素としてレニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、及び/又はクロムを更に含んでもよい。
【0029】
実施例において、表面領域36は、酸化物、窒化物、炭化物、或いはこれらの組み合わせに更に加工される。実施例において、ジルコニウム、ハフニウム、イリジウムや、クロムが表面領域36に更に適用され、酸化物に加工される。表面領域36がチタンを含み、空気雰囲気が窒素の部分的な圧力により補足された場合に、酸化チタンに代えて酸窒化チタンが表面領域36に形成される。酸窒化チタンは、予め回復させる反応(a pro-healing response)を有し、再狭窄の発生を最小限にする。実施例において、表面はTiO、Nb、及び/又はTaを含む。別例による方法は、酸化層を形成するために熱処理法に代えて電気化学陽極酸化法を使用する。
【0030】
実施例において、ステントはイリジウム、及び/又は酸化イリジウムを含む。例えば、イリジウムはモリブデンベースの金属に適用され、酸化イリジウムに加工される。イリジウムは相互拡散領域34に位置される中間の合金化要素として設けられてもよい。実施例において、ステントは、濃度勾配がモリブデンベースの金属からイリジウム又はその合金に遷移する、或いは濃度勾配がイリジウム又はその合金からチタン又はその合金に遷移する、モリブデンベースの金属を含む。中間のイリジウムやイリジウム合金は、ひびがモリブデンベースの金属に至ることを防止すべく約5マイクロメートル乃至10マイクロメートルの厚みを有する。
【0031】
実施例において、薬物溶出ポリマコーティングが更に表面領域36に適用される。例えば薬物溶出ポリマコーティングは米国特許第5674242号明細書、2001年7月2日に出願された米国特許出願第09/895415号明細書、及び2002年8月30日に出願された米国特許出願第10/232265号明細書に開示されているものを含む。治療の薬剤、薬物や、調剤活性化合物は、例えば抗血栓薬、酸化防止剤、抗炎症薬、麻酔薬、抗凝固剤、及び抗生物質を含む。
【0032】
図4はステント20の製造方法40の例を示す。図示のように、方法40はモリブデンやモリブデン合金を含むチューブを形成する工程(工程42)を含む。チューブは続いてバンド22及び連結部24を形成すべく切断され(工程44)、半製品のステントを形成する。半製品のステントの切断により影響を受けた領域は、取り払われる(工程46)。半製品のステントは第2の材料を適用し、熱処理されることにより完成し(工程48)、モリブデンに富む基部領域32、表面領域36、及び相互拡散領域34を有するステント20を形成する。
【0033】
例えば、ステントはモリブデンやモリブデン合金からなる中空の棒から形成される。中空の棒は、0.8インチ乃至1.2インチ(約2.032cm乃至約3.048cm)の外径、0.4インチ乃至0.6インチ(約1.016cm乃至約1.524cm)の内径、及び6インチ乃至9インチ(約15.24cm乃至約22.86cm)の長さを有する。中空の棒は公知の方法により密封され、熱間押し出しされ、壁の厚みを約0.05インチ(約0.127cm)に減少させる。チューブは、固定されたマンドレルや遊動プラグ管を介して応力解放工程が実施され、寸法が(所望の完成品のステントの寸法に応じて)0.060インチ乃至約0.080インチ(約0.1524cm乃至約0.2032cm)の外径及び0.050インチ乃至0.070インチ(約0.127cm乃至約0.1778cm)の内径の完成品の状態に低減される。ステントのチューブはレーザ加工により壁からステントのバンド22及び連結部24を切断する。電気化学エッチング及び研磨が、材料のレーザにより影響を付与された層を取り払うことに使用可能であり、これによりステント基材32の完成品の寸法を形成し、円滑な表面形状を形成する。ステント基材32は、図3A乃至3Cに関して上述したように、蒸着及び拡散処理を施され、図2に示すようなモリブデンに富む基部領域32、表面領域36、及び相互拡散領域34を有するバンド22及び連結部24のうち少なくともいずれか一方を有するステントを形成する。完成したモリブデンを含むステントは、バルーンカテーテル上にてひだを形成されパッケージ化され滅菌される。
【0034】
ステント20は、所望の形状及び寸法(例えば、冠状動脈ステント、大動脈ステント、末梢血管用ステント、胃腸用ステント、泌尿器用ステント、及び神経用ステント)からなってもよい。適用例に応じてステント20は例えば1mm乃至46mmの径を有してもよい。実施例において、冠状動脈用ステントは2mm乃至6mmの拡張状態の径を有してもよい。実施例において、末梢血管用ステントは5mm乃至24mmの拡張状態の径を有してもよい。実施例において、胃腸用ステント及び泌尿器用ステントのうち少なくともいずれか一方は6mm乃至30mmの拡張状態の径を有してもよい。実施例において、神経用ステントは約1mm乃至約12mmの拡張状態の径を有してもよい。腹部大動脈瘤(AAA)用のステント及び胸部大動脈瘤(TAA)用のステントは約20mm乃至約46mmの径を有してもよい。
【0035】
例えば、モリブデンを含む地金からなるバルーン拡張型冠動脈ステントは0.0030インチ(約0.0762mm)の壁の厚みを有する。上記バルーン拡張型ステントは、バルーンを3.2mmの径に膨張させるときに、6%以下の反動径を有する。ステントは、最初のバルーンの膨張した3.2mmの径からV字状圧盤圧縮試験器内にて長円形の2.75mmの径に圧縮するために、ステントの長さ部分のミリメートル当たり0.20ニュートン乃至0.40ニュートンの圧力を要する。
【0036】
使用時において、ステント20は、例えばカテーテル搬送システムを使用して搬送及び拡張するなどして使用されてもよい。カテーテルシステムは、例えば、ワング(Wang)に付与された米国特許第5195969号明細書や、ハムリン(Hamlin)に付与された同特許第5270086号明細書において記載されている。ステント及びステントの搬送は、米国ミネソタ州メープルグローブに所在するボストン サイエンティフィック サイムド社から販売されているSentinol(登録商標)システムにより例示される。
【0037】
実施例において、ステントは、モリブデンに富む基部領域32、表面領域36、及び相互拡散領域34を含むワイヤを形成し、ワイヤを管状部材に編み込み、且つ/又は織り込んで形成される。
【0038】
ステント20は、カバー付きステントやステントグラフトの一部であってもよい。例えば、ステント20は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、拡張されたPTFE、ポリエチレン、ウレタン又はポリプロピレンから形成される、生体適合性を備えた無孔性又は半有孔性ポリマーマトリックスを有してもよく、同ポリマーマトリックスに装着されてもよい。
【0039】
本明細書に開示されたモリブデンを含む部材はその他の人工器官を形成することに使用されてもよい。例えばモリブデンを含む部材はガイドワイヤやハイポチューブを形成することに使用可能である。モリブデン部材は創縫合のために使用される金属のステープル及びワイヤの形成にも使用可能である。
【0040】
本明細書において参照された全ての公報、出願及び特許は、本願においても開示されたものとする。
他の実施形態も特許請求の範囲内に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンと、チタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、クロム、及びその組み合わせからなる一群から選択される少なくとも1つの金属とを含む部材を備える人工器官であって、
該部材は、
(a)少なくとも50重量%のモリブデンを含む、モリブデンに富む基部領域と、
(b)チタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、クロム、及びその組み合わせからなる一群から選択される少なくとも1つの金属からなる表面領域と、
(c)該部材のモリブデンに富む基部領域から表面領域へ厚み方向にモリブデンの濃度が減少する相互拡散領域を含む微小構造体を有することを特徴とする人工器官。
【請求項2】
前記モリブデンに富む基部領域は、10重量%以下の、チタン、レニウム、イットリウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、タンタラム、ジルコニウム、ハフニウム、イリジウム、及びクロムのいずれかの要素を含むことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項3】
前記部材は44msi乃至50msi(約303.38GPa乃至約344.75GPa)の係数を有することを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項4】
前記部材は少なくとも50ksi(約344.75MPa)の0.2%オフセット降伏強度を有することを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項5】
前記部材は少なくとも約15%の破断点延びを有することを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項6】
前記モリブデンに富む基部領域は少なくとも9.5g/cc(約9.5g/cm)の濃度を有することを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項7】
前記モリブデンに富む基部領域は少なくとも95重量%のモリブデンからなることを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項8】
前記モリブデンに富む基部領域は、1.25重量%のチタン、0.3重量%のジルコニウム、0.15重量%の炭素、及びモリブデンのバランスからなることを特徴とする請求項7に記載の人工器官。
【請求項9】
前記モリブデンに富む基部領域は、0.25重量%乃至1.0重量%のチタン、0.04重量%乃至2.0重量%のジルコニウム、0.01重量%乃至0.04重量%の炭素、及びモリブデンのバランスからなることを特徴とする請求項7に記載の人工器官。
【請求項10】
前記モリブデンに富む基部領域は、ケイ酸カリウムのドープ塗料を塗布された少なくとも99.95%の純粋なモリブデンからなることを特徴とする請求項7に記載の人工器官。
【請求項11】
前記表面領域は基本的にモリブデンを含まないことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項12】
前記表面領域は50重量%以下のモリブデンからなることを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項13】
前記表面領域はチタンからなることを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項14】
前記表面領域はチタン−モリブデン合金からなることを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項15】
前記表面領域は基本的にチタンからなることを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項16】
前記相互拡散領域は10ナノメートル乃至10マイクロメートルの厚みを有することを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項17】
前記相互拡散領域は少なくとも1マイクロメートルの厚みを有することを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項18】
前記第相互拡散領域イリジウムを含む請求項1に記載の人工器官。
【請求項19】
前記相互拡散領域は、モリブデンに富む基部領域か表面領域のいずれか一方と比較して、より高濃度のイリジウムを含むことを特徴とする請求項18に記載の人工器官。
【請求項20】
前記表面領域を覆う、酸化物、炭化物、窒化物、或いはこれらの組み合わせを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項21】
前記酸化物、炭化物、及び窒化物は、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化クロム、酸化イリジウム、酸窒化チタン、TiO、Nb、Ta、及びこれらの組み合わせからなる一群から選択されることを特徴とする請求項20に記載の人工器官。
【請求項22】
前記表面領域を覆う、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、イリジウム、或いはこれらの組み合わせのコーティングを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項23】
前記表面領域を覆う薬物溶出ポリマコーティングを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項24】
前記人工器官はステントであることを特徴とする請求項1に記載の人工器官。
【請求項25】
前記人工器官はバルーン拡張型ステントであることを特徴とする請求項23に記載の人工器官。
【請求項26】
モリブデン及びチタンを含む部材からなる人工器官であって、該部材は、
(a)少なくとも50重量%のモリブデンを含む、モリブデンに富む基部領域と、
(b)チタンからなる表面領域を含む微小構造体を有することを特徴とする人工器官。
【請求項27】
前記表面領域は基本的にチタンからなることを特徴とする請求項26に記載の人工器官。
【請求項28】
前記表面領域はチタン−モリブデン合金からなることを特徴とする請求項26に記載の人工器官。
【請求項29】
イリジウムからなる中間領域を更に含むことを特徴とする請求項26に記載の人工器官。
【請求項30】
前記表面領域を覆う、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、イリジウム、或いはこれらの組み合わせのコーティングを更に含むことを特徴とする請求項26に記載の人工器官。
【請求項31】
前記人工器官はステントであることを特徴とする請求項26に記載の人工器官。
【請求項32】
前記人工器官はバルーン拡張型ステントであることを特徴とする請求項31に記載の人工器官。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−532222(P2010−532222A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515017(P2010−515017)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/067921
【国際公開番号】WO2009/006076
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】