説明

モルタルまたはコンクリート組成物

【課題】強度発現が良好で、乾燥収縮を著しく低減し、中性化を抑制する効果を有するモルタルまたはコンクリート組成物を提供する。
【解決手段】セメント、骨材、急硬材、および一般式(1)で表されるA成分が10〜90質量%と一般式(2)で表されるB成分が10〜90質量%の割合からなる乾燥収縮低減剤を含有することを特徴とするモルタルまたはコンクリート組成物。
一般式(1) HO{(AO)a(C24O)b}−H
ただし、AOは炭素数3および/または4のオキシアルキレン基を表し、a、bはそれぞれ、1≦a、1≦bであり、また、2≦(a+b)≦30、0.4≦a/bである。ランダム付加物でもブロック付加物でも良い。
一般式(2)R´O(A´O)n´−H
ただし、R´は炭素数で2〜8のアルキル基を表し、A´Oは炭素数2および/または3のオキシアルキレン基を表し、n´は1〜10を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木、建築分野において使用されるモルタルまたはコンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
土木、建築工事で使用されるモルタルまたはコンクリートに発生するひび割れには、硬化しつつある段階で表面の温度低下や風等が原因で発生するひび割れ、セメントの水和による自己収縮で発生するひび割れ、断面の大きな箇所で補修した場合に著しい水和熱が発生して生じるひび割れ、硬化後徐々に乾燥し水分が逸散することで発生する乾燥収縮によるひび割れ等がある。
モルタルまたはコンクリートの乾燥収縮によるひび割れ防止対策として、従来から乾燥収縮低減剤が使用されている。例えば、炭素数1〜4の低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物(特許文献1)、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドのブロックまたはランダム化合物(特許文献2)、フェノールまたはアルキルフェノールのアルキルオキサイド付加物(特許文献3)、ビスフェノールのアルキルオキサイド付加物(特許文献4)、鎖状炭化水素にエチレンオキサイドとプロピレンオキサイド付加物(特許文献5)等が知られている。
【特許文献1】特公昭56−51148号公報
【特許文献2】特公平1−53214号公報
【特許文献3】特公昭62−10947号公報
【特許文献4】特公平5−40714号公報
【特許文献5】特開2001−163653号公報
【0003】
しかしながら、従来の乾燥収縮低減剤は充分な性能ではなく、低温性状における強度発現が遅れるという問題もあった。また、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合により構成されたポリオキシアルキレン基を有する化合物とオキシエチレンを有する化合物とを組み合わせた乾燥収縮低減剤は、硬化体の強度低下を起こさず、効率的に乾燥収縮を抑制することが知られているが(特許文献6)、中性化抑制や低温性状における強度発現に関する記載はない。
【特許文献6】特開2003−171155号公報
【0004】
また、乾燥収縮低減剤を補修用途の材料に配合し乾燥収縮を抑制する技術として、例えば、ある特定のポリオキシアルキレン誘導体をポリマーセメントモルタルに配合した吹付け材料(特許文献7)や、ある特定のポリオキシアルキレン誘導体を配合したモルタルにアルミン酸塩や炭酸塩、硫酸アルミニウムを急結剤として混合する吹付け材料等が知られている(特許文献8、9)。これらは、低温性状についての記載がない。
【特許文献7】特開2004−203699号公報
【特許文献8】特開2005−082432号公報
【特許文献9】特開2005−104826号公報
【0005】
また、ある特定のポリオキシアルキレン誘導体を使用した場合の低温性状を改善する目的でケイ酸塩や有機カルボン酸金属塩等の凝結促進剤を配合する技術も知られている(特許文献10、11)。
【特許文献10】特開2005−089227号公報
【特許文献11】特開2005−089228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特定の乾燥収縮低減剤などを使用することによって、強度発現性が良好で、乾燥収縮を著しく低減し、中性化を抑制する効果を有するモルタルまたはコンクリート組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の構成を取る。
(1)セメント、骨材、急硬材、および一般式(1)で表されるA成分が10〜90質量%と一般式(2)で表されるB成分が10〜90質量%の割合からなる乾燥収縮低減剤を含有することを特徴とするモルタルまたはコンクリート組成物。
一般式(1) HO{(AO)a(C24O)b}−H
ただし、AOは炭素数3および/または4のオキシアルキレン基を表し、a、bはそれぞれ、1≦a、1≦bであり、また、2≦(a+b)≦30、0.4≦a/bである。ランダム付加物でもブロック付加物でも良い。
一般式(2)R´O(A´O)n´−H
ただし、R´は炭素数で2〜8のアルキル基を表し、A´Oは炭素数2および/または3のオキシアルキレン基を表し、n´は1〜10を表す。
(2)乾燥収縮低減剤が液体である(1)のモルタルまたはコンクリート組成物。
(3)セメント、骨材、急硬材、および乾燥収縮低減剤を混合した(1)または(2)のモルタルまたはコンクリート組成物。
(4)ポリマーディスパージョンを含有する(1)〜(3)のいずれかのモルタルまたはコンクリート組成物。
(5)スラグ、シリカフューム、およびフライアッシュの中から選ばれる少なくとも1種の無機粉末を含有する(1)〜(4)のいずれかのモルタルまたはコンクリート組成物。
(6)繊維を含有する(1)〜(5)のいずれかのモルタルまたはコンクリート組成物。
(7)凝結遅延剤を添加した(1)〜(6)のいずれかのモルタルまたはコンクリート組成物。
(8)消泡剤を含有する(1)〜(7)のいずれかのモルタルまたはコンクリート組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強度発現性が良好で、乾燥収縮が著しく低減し、中性化を抑制する効果を有するモルタルまたはコンクリート組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明で使用するセメントとは、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱のポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、またはシリカを混合した各種混合セメント、エコセメント、白色セメント、超速硬セメント、石灰石微粉末等を混合したフィラーセメント等が挙げられる。
【0011】
本発明で使用する骨材とは、通常のモルタルまたはコンクリートに使用できるものであれば特に限定されるものではなく、川砂、川砂利、陸砂、陸砂利、砕砂、砕石、海砂等の天然骨材や、フライアッシュバルーン、黒曜石を原料として焼成して製造した骨材、セラミックバルーン、シラスバルーン、廃ガラスを原料とし焼成して製造した軽量骨材や、比重3.0g/cm以上の重量骨材を使用することもできる。重量骨材としては、例えば、電気炉酸化期スラグ系骨材や、フェロニッケルスラグ、フェロクロムスラグ、銅スラグ、亜鉛スラグおよび鉛スラグなどを総称する非鉄精錬スラグ骨材等が挙げられる。
【0012】
本発明で使用する急硬材とは、特に限定されるものではないが、例えば、カルシウムアルミネート単独や、カルシウムアルミネートとセッコウを含有するものであり、さらに、これらに1種または2種以上の凝結促進剤を含有するものである。モルタルやコンクリートに急硬性を付与する目的で使用する。急硬材は、長期強度発現性を考慮するとカルシウムアルミネートとセッコウを併用したものが好ましい。
カルシウムアルミネートとは、CaO原料やAl原料を混合したものをキルンで焼成したり、電気炉等で溶融したり等の熱処理をして得られるものであり、通常、CaOとして63〜21質量%、Alとして37〜79質量%の範囲内の組成にある。さらに、熱処理して得られたものを粉砕し使用される。また、ナトリウム、カリウム、およびリチウム等のアルカリ金属塩が一部固溶したカルシウムアルミネート、SiOを含有するアルミノケイ酸カルシウム、SO成分を含むカルシウムサルホアルミネートも使用できる。また、カルシウムアルミネートは性能に影響しない範囲で不純物を含んでも良い。
カルシウムアルミネートの粒度は、ブレーン値で3000cm/g以上が好ましく、3000cm/g未満だと水和活性が低下する場合がある。
カルシウムアルミネートの結晶化度については、特に限定されるものではなく、結晶質、非晶質いずれも使用できるが、急硬性という点で非晶質が好ましい。
【0013】
カルシウムアルミネートの使用量は、セメント100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく,3〜15質量部がより好ましい。1質量部未満では,急硬性を付与することが難しく、20質量部を超えると長期強度発現性に影響する場合がある。
セッコウとは、強度発現性を向上させるために使用する。セッコウとしては、無水セッコウ、半水セッコウ、およびニ水セッコウ等が挙げられ、これらの1種または2種以上を併用することができる。これらの中では、強度発現性の点で無水セッコウの使用が好ましい。
セッコウの使用量は、カルシウムアルミネート100質量部に対して、30〜300質量部が好ましく50〜200質量部がより好ましい。30質量部未満では、強度発現を改善できない場合があり、300質量部を超えると初期強度発現性に影響する場合がある。
【0014】
凝結促進剤とは、凝結時間を早めたり、初期強度を増進させたりする働きを有するものである。例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属等のアルミン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩等の無機塩や、アミン類、シュウ酸類、オキシカルボン酸等のリチウム、カルシウム、マグネシウム塩等の有機物あるいは有機金属塩が挙げられる。これらを1種又は2種以上併用することも可能である。
具体的には、アルミン酸塩として、リチウム、ナトリウム、カリウム塩等が挙げられる。硫酸塩として、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、鉄塩等や、明礬類等が挙げられる。硝酸塩として、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム塩等が挙げられる。亜硝酸塩として、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム塩等が挙げられる。炭酸塩として、リチウム、ナトリウム、カリウム塩等が挙げられる。重炭酸塩として、リチウム、ナトリウム、カリウム塩等が挙げられる。ケイ酸塩として、ナトリウム、リチウム、カリウム塩等が挙げられる。リン酸塩として、リチウム塩等が挙げられる。アミン類とは、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等が挙げられる。シュウ酸類としては、シュウ酸、シュウ酸のカルシウム、ナトリウム、リチウム、カリウム、アルミニウム塩等が挙げられる。これらの中では、アルミン酸塩、硫酸塩、炭酸塩の使用が初期強度増進効果が大きいため好ましい。
【0015】
凝結促進剤の使用量は、急硬材(カルシウムアルミネート単独、または、カルシウムアルミネートとセッコウ)100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましい。0.1質量部未満では、初期強度を充分増進させることが難しく、20質量部を超えると凝結時間が早くなりすぎる場合がある。
【0016】
本発明で使用する乾燥収縮低減剤とは、一般式(1)で表されるA成分と一般式(2)で表されるB成分を組み合わせたことに特徴がある。
A成分は、一般式(1) HO{(AO)a(C24O)b}−Hで表されるものである。一般式(1)に示されるAOは、炭素数3および/または4のオキシアルキレン基を表す。炭素数3はオキシプロピレン基、炭素数4はオキシブチレン基を表す。AOは炭素数が5以上であるとセメントと混和する場合、混合による均一化が期待できず、乾燥収縮低減効果が小さくなるので炭素数4以下が好ましい。AOがオキシプロピレン基とオキシブチレン基との共重合の場合は、ランダム付加でもブロック付加でもよい。a、bは、それぞれ、1≦a、1≦bを示し、また、2≦(a+b)≦30、0.4≦a/bを示す。好ましくは12≦(a+b)≦30である。また、1≦a/b≦10がより好ましく、さらに好ましくは1≦a/b≦5である。a、bがこの範囲を外れるとセメントと混和する場合、空気連行性が大きくなり、強度低下を生じ、乾燥収縮低減効果も小さくなる場合がある。(AO)と(CO)との組み合わせは、ランダム付加物でもブロック付加物でも良い。
B成分は、一般式(2) R´O(A´O)n´−Hで表されるものである。一般式(2)で示されるRは、炭素数2〜8のアルキル基を表し、例えば、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基を表し、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基が好ましく、n−ブチル基がより好ましい。A´Oは炭素数2および/または3のオキシアルキレン基を表す。炭素数2はオキシエチレン基、炭素数3はオキシプロピレン基を表す。nは1〜10を表し、A´Oが2種以上のオキシアルキレン基の場合は、オキシエチレン基、オキシプロピレン基の重合形態は特に限定されず、ランダム共重合、ブロック共重合、ランダム共重合/ブロック共重合であって良い。nが10を超えると、乾燥収縮低減効果が小さくなるので10以下が好ましく、1〜5がさらに好ましい。
【0017】
本発明の乾燥収縮低減剤のA成分とB成分との配合割合は、A成分が10〜90質量%、B成分が10〜90質量%が好ましい。A成分が10質量%よりも少ない場合や90質量部より多い場合は、充分な複合効果が得られず乾燥収縮低減効果が小さくなる。また、A成分が10質量部より少ないと強度発現が改善できない場合がある。
【0018】
本発明の乾燥収縮低減剤の使用量は、セメント100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。0.1質量部未満では効果は少なく、10質量部を超えると強度発現に影響する場合がある。
【0019】
本発明の乾燥収縮低減剤は、固体状および液状であってもよいが、液状である方がセメントや砂と混合した場合の均一性が優れる。
【0020】
本発明の乾燥収縮低減剤の混合方法は、特に限定するものではないが、コンクリートで使用する場合は、生コン工場のバッチャープラントや施工現場でコンクリートを製造するときに混合してもよい。また、モルタルで使用する場合は、コンクリートと同様な混合が可能であり、予めドライコンクリート、ドライモルタルにプレミックスしても良い。
【0021】
本発明で使用するポリマーディスパージョンとは、例えば、JIS A 6203で規定されているセメント混和用のポリマーであり、中性化、塩害、凍害等の耐久性を向上させ、モルタルの付着強度、曲げ強度、引張強度等の強度特性を改善する目的で使用する。例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、および天然ゴム等のゴムラテックス、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体、およびスチレン・アクリル酸エステル共重合体やアクリロニトリル・アクリル酸エステルに代表されるアクリル酸エステル系共重合体、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂に代表される液状ポリマーなどが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用できる。
【0022】
本発明のポリマーディスパージョンの使用量は、セメント100質量部に対して、
固形分換算で1〜20質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましい。1質量部未満では耐久性の向上効果が小さく、20質量部を超えると強度発現性に影響する場合がある。
【0023】
本発明で使用する無機粉末とは、スラグ、シリカフューム、フライアッシュの中から選ばれる少なくとも1種であり、ダレ防止や材料分離抵抗性を改善する目的で使用する。これらの中で、少量でダレ防止効果が発揮できるシリカフュームの使用が好ましい。
【0024】
本発明の無機粉末の使用量は、セメント100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。1質量部未満ではダレ防止効果は少なく、20質量部を超えると適度なモルタルの流動性が得られない場合がある。
【0025】
本発明で使用する繊維とは、モルタルまたはコンクリートの硬化する前のひび割れ防止効果、曲げじん性を付与する目的で使用する。繊維の種類としては、特に限定するものではなく、無機繊維、高分子繊維のいずれも使用できる。無機繊維としては、フライアッシュ、スラグ、玄武岩等を原料とし溶融吹き飛ばしたロックウールや溶融紡糸した繊維状のものや、ガラス繊維、鋼繊維等が挙げられる。高分子繊維としては、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維等が挙げられる。
【0026】
本発明の繊維の使用量は、セメントと骨材の合計100質量部に対して、0.02〜2質量部が好ましく、0.05〜1質量部がより好ましい。0.02質量部未満では、ひび割れ抑制効果が小さく、2質量部を超えると適度なモルタルやコンクリートの流動性を確保しづらくなる。
【0027】
本発明で使用する凝結遅延剤とは、凝結時間をコントロールするものである。凝結遅延剤の種類としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、これらのアルカリ金属塩等のオキシカルボン酸類や、蔗糖、ブドウ糖、果糖等の糖類、トリポリリン酸塩等のリン酸塩類等が挙げられる。また、これら凝結遅延剤とアルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、アルミン酸塩、水酸化物、ケイ酸塩や、消石灰と組み合わせて使用してもよい。
【0028】
凝結遅延剤の使用量は、セメントと急硬材(カルシウムアルミネート単独、または、カルシウムアルミネートとセッコウ)の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましい。0.1質量部未満では、凝結時間をコントロールすることが難しい場合があり、5質量部を超えると強度発現性を阻害する場合がある。
【0029】
本発明で使用する消泡剤とは、適度な空気連行性を調整する目的で使用する。消泡剤の種類としては、高級脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物、グリコールのエチレンオキサイド付加物等のポリエーテル系消泡剤、ジメチルシリコーン等のシリコーン系消泡剤、トリブチルホスフェート等のトリアルキルホスフェート系消泡剤等がある。
【0030】
本発明の消泡剤の使用量は、セメント100質量部に対して、0.001〜0.5質量部が好ましく、0.003〜0.1質量部がより好ましい。0.001未満では消泡効果は少なく、0.5質量部を超えても消泡効果が頭打ちとなり不経済となる場合がある。
【0031】
本発明のモルタルまたはコンクリートは、その性能に悪影響を与えない範囲で各種混和剤を添加することができる。例えば、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、防錆剤、防凍剤、凝結調整剤、粘土鉱物、増粘剤、抗菌剤、膨張材等が挙げられる。
【0032】
本発明のモルタルまたはコンクリートを用いた施工方法は、特に限定されるものではない。コンクリートの場合は通常行われている打設方法で適用できる。モルタルの場合は、例えば、左官工法、吹付け工法、グラウト工法いずれの工法で使用できる。例えば、欠損した箇所あるいは劣化部を除去した後の断面修復、不陸箇所等を平滑にする表面被覆材として使用可能である。それぞれの工法や要求性能に適合するモルタルまたはコンクリートの性状は、水量や各種混和剤等を使用して調整すればよい。
【0033】
以下、実施例で説明する。
【実施例1】
【0034】
セメント100質量部に対して、骨材(砂)200質量部、表1に示すA成分として(イ)50質量部とB成分として(ロ)50質量部の混合物からなる乾燥収縮低減剤2質量部、さらに、セメント100質量部に対して、急硬材(カルシウムアルミネート)を表2に示すように加えドライモルタルを調製した。そのドライモルタル100質量部に対して、水を45質量部加えモルタルミキサーで練混ぜた。得られたモルタルについて圧縮強度比、乾燥収縮低減比、中性化深さを測定した。なお、比較例(実験No.1-1〜実験No.1-10)では乾燥収縮低減剤をモルタルに加えなかった。結果を表2に示す。
【0035】
(使用材料)
セメント:電気化学工業社製、普通ポルトランドセメント
カルシウムアルミネートA:電気炉溶融急冷粉砕物(非晶質)、CaO60質量%,Al40質量%、ブレーン比表面積5600cm/g
カルシウムアルミネートB:電気炉溶融徐冷粉砕物(結晶質)、CaO60質量%、Al40質量%、ブレーン比表面積5900cm/g
カルシウムアルミネートC:電気炉溶融急冷粉砕物(非晶質)、CaO39質量%、Al61質量%、ブレーン比表面積5500cm/g
カルシウムアルミネートD:電気炉溶融急冷粉砕物(非晶質)、CaO23質量%、Al77質量%、ブレーン比表面積5700cm/g
カルシウムアルミネートE:電気炉溶融急冷粉砕物(非晶質)、CaO41質量%、Al52質量%、SiO7質量%、ブレーン比表面積6000cm/g
骨材:新潟県青海産石灰砂、最大骨材粒径1.5mm
水:水道水
乾燥収縮低減剤:表1に示す(イ)50質量部と表1に示す(ロ)50質量部の混合物
【0036】
【表1】

【0037】
(試験方法)
圧縮強度比:得られたモルタルを4×4×16cmの型枠に詰め、温度20℃、湿度60%の部屋で気中養生した。その時の測定材齢は、1日と28日。また、温度5℃、湿度60%の部屋で気中養生した。その時の測定材齢は、1日と28日。圧縮強度の測定はJIS R 5201に準拠した。圧縮強度比は、各材齢において本発明の乾燥収縮低減剤を含むモルタルの圧縮強度測定値/乾燥収縮低減剤無添加のモルタルの圧縮強度測定値の比を%で表した。
乾燥収縮低減比:JIS A 1129−3のモルタルおよびコンクリートの長さ変化試験方法、ダイヤルゲージ法に準拠し、温度20℃、湿度60%で材齢2日を基点とし材齢30日後の長さ変化を測定した。乾燥収縮低減比は、材齢30日後の本発明の乾燥収縮低減剤を含むモルタルの長さ変化測定値/乾燥収縮低減剤無添加のモルタルの長さ変化測定値の比を%で表した。
中性化深さ:JIS A 1171に準拠して測定した。
【0038】
【表2】

【0039】
表2から、本発明のモルタル組成物は、常温、低温において圧縮強度発現性は良好で、乾燥収縮を著しく低減していることが分かる。また、優れた中性化抑制効果を有していることが分かる。
【実施例2】
【0040】
カルシウムアルミネート100質量部に対してセッコウを100質量部配合して表3に示すように急硬材を調製した(セッコウを配合した量だけ、セメント100質量部に対する急硬材としての使用量は増加する)こと以外は実施例1と同様に行った。なお、比較例(実験No.2-1〜実験No.2-10)では乾燥収縮低減剤をモルタルに加えなかった。結果を表3に示す。
【0041】
(使用材料)
セッコウ:無水セッコウ、試薬1級、市販品
【0042】
【表3】

【0043】
表3から、本発明のモルタル組成物は、常温、低温において圧縮強度発現性は良好で、乾燥収縮を著しく低減していることが分かる。また、優れた中性化抑制効果を有していることが分かる。
【実施例3】
【0044】
実施例2の実験No.2-13において、カルシウムアルミネートC100質量部に対してセッコウの使用量を表4に示すように変えて急硬材を調製したこと以外は実施例2と同様に行った。なお、比較例(実験No.3-1〜実験No.3-5)では乾燥収縮低減剤をモルタルに加えなかった。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
表4から、本発明のモルタル組成物は、常温、低温において圧縮強度発現性は良好で、乾燥収縮を著しく低減していることが分かる。また、優れた中性化抑制効果を有していることが分かる。
【実施例4】
【0047】
実施例1の実験No.1-3、No.1-13と、実施例2の実験No.2-3、No.2-13のモルタル組成物において、急硬材(カルシウムアルミネート単独、または、カルシウムアルミネートとセッコウ)100質量部に対して、表5、表6に示すように凝結促進剤の種類と使用量を変えたこと以外は実施例1、2と同様に行った。結果を表5、表6に示す。なお、表5、表6には材齢1日の圧縮強度値も示した。
【0048】
(使用材料)
凝結促進剤A:アルミン酸ナトリウム、試薬1級品
凝結促進剤B:硫酸ナトリウム、試薬1級品
凝結促進剤C:炭酸ナトリウム、試薬1級品
【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
表5、6から、本発明の急硬材以外の凝結促進剤を使用すると、モルタル組成物の圧縮強度発現が向上することが分かる。
【実施例5】
【0052】
実施例2の実験No.2-13において、乾燥収縮低減剤のA成分とB成分の種類(表1、表7)と配合割合を表8に示すように変えたこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表8に示す。
【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
表8から、本発明のモルタル組成物は、常温、低温において圧縮強度発現性は良好で、乾燥収縮を著しく低減していることが分かる。また、優れた中性化抑制効果を有していることが分かる。
【実施例6】
【0056】
実施例2の実験No.2-13において、セメント100質量部に対して、乾燥収縮低減剤の使用量を表9に示すように変えたこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表9に示す。
【0057】
【表9】

【0058】
表9から、本発明のモルタル組成物は、常温、低温において圧縮強度発現性は良好で、乾燥収縮を著しく低減していることが分かる。また、優れた中性化抑制効果を有していることが分かる。
【実施例7】
【0059】
実施例2の実験No.2-13において、さらに、セメント100質量部に対して、ポリマーディスパージョンの使用量(固形分換算)を表10に示すように変えたこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表10に示す。
【0060】
(使用材料)
ポリマーディスパージョン:エロテックス社製、再乳化型粉末スチレン−アクリル系樹脂
【0061】
【表10】

【0062】
表10から、本発明のモルタル組成物は、ポリマーディスパージョンを添加することにより、さらに乾燥収縮を低減し、より優れた中性化抑制効果を有していることが分かる。
【実施例8】
【0063】
実施例2の実験No.2-13において、さらに、セメント100質量部に対して、無機粉末の使用量を表11に示すように変え、ダレ抵抗性を測定したこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表11に示す。
【0064】
(使用材料)
無機粉末:シリカフューム、市販品
【0065】
(試験方法)
ダレ抵抗性:縦30cm×横30cm×厚み6cmのコンクリート製平版を垂直に立てその表面を湿らせ、厚み2cmでモルタルを塗り付けて24時間後の付着状態を観察した。異常なければ○とし、はらんだり、ずれ落ちたりすれば×とした。試験は温度20℃、湿度60%の室内で行った。
【0066】
【表11】

【0067】
表11から、本発明のモルタル組成物は、無機粉末を添加することにより、ダレ抵抗性が優れることが分かる。
【実施例9】
【0068】
実施例2の実験No.2-13において、さらに、セメントと骨材(砂)の合計100質量部に対して、繊維の使用量を表12に示すように変え、実施例8と同様にダレ抵抗性を測定し、さらに、モルタルの硬化前のひび割れ抵抗性を測定したこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表12に示す。
【0069】
(使用材料)
繊維:クラレ社製、ビニロン繊維、繊維長6mm、繊維径26μm
硬化前のひび割れ抵抗性:横30cm×縦30cm×厚さ6cmのコンクリート平板に厚み1cmとなるように打設した。打設完了した試験体は、湿度60%、温度5℃の部屋において、送風機で風速1〜3mの風をあてた状態で1日後のひび割れ状況を確認した。ひび割れ発生が無ければ○とし、微細ひび割れまたは2本以内の場合は△、3本以上の場合は×とした。
【0070】
【表12】

【0071】
表12から、本発明のモルタル組成物は、繊維を添加することにより、ダレ抵抗性、ひび割れ抵抗性が優れることが分かる。
【実施例10】
【0072】
実施例2の実験No.2-13において、さらに、セメントとカルシウムアルミネートCとセッコウの合計100質量部に対して、凝結遅延剤の使用量を表13に示すように変え、モルタルの可使時間を測定したこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表13に示す。
【0073】
(使用材料)
凝結遅延剤:クエン酸100質量部に対して炭酸カリウム100質量部を混合した混合物
【0074】
(試験方法)
可使時間:練り混ぜてからコテ塗り作業ができなくなるまでの時間。温度20℃、湿度80%の部屋で測定。
【0075】
【表13】

【0076】
表13から、本発明のモルタル組成物は、凝結遅延剤を添加することにより、可使時間が調整できることが分かる。
【実施例11】
【0077】
実施例2の実験No.2-13において、さらに、セメント100質量部に対して、消泡剤の使用量を表14に示すように変え、モルタルの単位容積質量を測定したこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表14に示す。
【0078】
(使用材料)
消泡剤:ポリエーテル系消泡剤、市販品
【0079】
(試験方法)
単位容積質量:JIS A 1171に準拠した。
【0080】
【表14】

【0081】
表14から、本発明のモルタル組成物は、消泡剤を添加することにより、単位容積質量が増え、さらに乾燥収縮を低減し、より優れた中性化抑制効果を有していることが分かる。
【実施例12】
【0082】
実施例2の実験No.2-13において、さらに、セメント100質量部に対して、実施例7のポリマーディスパージョン、実施例8の無機粉末、実施例11の消泡剤を、セメントとカルシウムアルミネートとセッコウの合計100質量部に対して、実施例10の凝結遅延剤を、セメントと骨材の合計100質量部に対して、実施例9の繊維を、表15に示すように加えたこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表15に示す。
【0083】
【表15】

【0084】
表15から、本発明のモルタル組成物は、ポリマーディスパージョン、無機粉末、繊維、凝結遅延剤、消泡剤を添加することにより、常温、低温において圧縮強度発現性に優れ、さらに乾燥収縮を低減し、より優れた中性化抑制効果を有していることが分かる。
【実施例13】
【0085】
セメント341kg/m、砂818kg/m、砂利979kg/m、水165kg/m、リグニンスルホン酸塩系減水剤3.4kg/mのコンクリート中のセメント100質量部に対して、実施例1の配合割合の乾燥収縮低減剤2質量部、さらに、カルシウムアルミネートC100質量部に対して、セッコウを表16に示すように100質量部加え、セメントと急硬材(カルシウムアルミネートCとセッコウの合計)100質量部に対して、実施例10の凝結遅延剤を2質量部加えコンクリートを調製した。得られたコンクリートについて圧縮強度比、乾燥収縮低減比、中性化深さを測定した。なお、比較例(実験No.13-1〜実験No.13-6)では乾燥収縮低減剤をコンクリートに加えなかった。結果を表16に示す。
【0086】
(使用材料)
セメント:電気化学工業社製、普通ポルトランドセメント
砂:新潟県姫川産川砂、最大骨材粒径5mm
砂利:新潟県姫川産砕石、最大骨材粒径25mm
リグニンスルホン酸塩系減水剤:市販品
水:水道水
【0087】
(試験方法)
圧縮強度比:得られたコンクリートをφ10×20cmの型枠に詰め、温度20℃、湿度60%の部屋で気中養生した。その時の測定材齢は、1日と28日。また、温度5℃、湿度60%の部屋で気中養生した。その時の測定材齢は、1日と28日。圧縮強度の測定はJIS A 1108に準拠した。圧縮強度比は、各材齢において本発明の乾燥収縮低減剤を含むコンクリートの圧縮強度測定値/乾燥収縮低減剤無添加のコンクリートの圧縮強度測定値の比を%で表した。
乾燥収縮低減比:JIS A 1129−3のモルタルおよびコンクリートの長さ変化試験方法、ダイヤルゲージ法に準拠し、温度20℃、湿度60%で材齢2日を基点とし材齢30日後の長さ変化を測定した。乾燥収縮低減比は、材齢30日後の本発明の乾燥収縮低減剤を含むコンクリートの長さ変化測定値/乾燥収縮低減剤無添加のコンクリートの長さ変化測定値の比を%で表した。
中性化抑制効果:中性化深さをJIS A 1171に準拠して測定した。
【0088】
【表16】

【0089】
表16から、本発明のコンクリート組成物は、常温、低温において圧縮強度発現性は良好で、乾燥収縮を著しく低減していることが分かる。また、中性化抑制効果を有していることが分かる。
【実施例14】
【0090】
実施例13の実験No.13-9において、さらに、セメント100質量部に対して、実施例7のポリマーディスパージョン、実施例8の無機粉末、実施例11の消泡剤を、セメントと骨材の合計100質量部に対して、実施例9の繊維を、表17に示すように加えたこと以外は実施例13と同様に行った。結果を表17に示す。
【0091】
【表17】

【0092】
表17から、本発明のコンクリート組成物は、ポリマーディスパージョン、無機粉末、繊維、消泡剤を添加することにより、常温、低温において圧縮強度発現性に優れ、さらに乾燥収縮を低減し、より優れた中性化抑制効果を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、強度発現性が良好で、乾燥収縮が著しく低減し、中性化を抑制する効果を有するモルタルまたはコンクリート組成物が得られるので、土木、建築分野、特に補修工事等に幅広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、骨材、急硬材、および一般式(1)で表されるA成分が10〜90質量%と一般式(2)で表されるB成分が10〜90質量%の割合からなる乾燥収縮低減剤を含有することを特徴とするモルタルまたはコンクリート組成物。
一般式(1) HO{(AO)a(C24O)b}−H
ただし、AOは炭素数3および/または4のオキシアルキレン基を表し、a、bはそれぞれ、1≦a、1≦bであり、また、2≦(a+b)≦30、0.4≦a/bである。ランダム付加物でもブロック付加物でも良い。
一般式(2) R´O(A´O)n´−H
ただし、R´は炭素数で2〜8のアルキル基を表し、A´Oは炭素数2および/または3のオキシアルキレン基を表し、n´は1〜10を表す。
【請求項2】
乾燥収縮低減剤が液体であることを特徴とする請求項1記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
【請求項3】
セメント、骨材、急硬材、および乾燥収縮低減剤を混合した請求項1または2記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
【請求項4】
ポリマーディスパージョンを含有する請求項1〜3のいずれか1項記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
【請求項5】
スラグ、シリカフューム、およびフライアッシュの中から選ばれる少なくとも1種の無機粉末を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
【請求項6】
繊維を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
【請求項7】
凝結遅延剤を添加したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の低収縮モルタルまたはコンクリート組成物。
【請求項8】
消泡剤を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のモルタルまたはコンクリート組成物。

【公開番号】特開2008−31007(P2008−31007A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207436(P2006−207436)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】