説明

モルタル吹き付け用ネットの評価方法及びその評価方法で評価されたモルタル吹き付け用ネット

【課題】コンクリート表面に不陸があっても、その表面に張り付けることが容易なモルタル吹き付け用ネットを選定するための評価方法を提供する。
【解決手段】試験片5を固定するための固定部3と、荷重を変化させて試験片5を押し付けることが可能な荷重部4とを500mmの間隔で配置した。そして、固定部3と荷重部4との中間部に擬似不陸としての長尺凸状体2を配置して、その上に試験片5を載置した。更に、固定部3により試験片5を固定すると共に、荷重部4により異なる荷重を試験片5に作用させて、試験片5の下部と基盤1との間の間隔L1を測定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表面にモルタルを吹き付けて覆工工事をするためのモルタル吹き付け用ネットの評価方法及び、その評価方法によって評価されて、コンクリート表面に張り付けることが容易なモルタル吹き付け用ネットに関する。
【背景技術】
【0002】
法面やトンネルの内壁を形成するコンクリート構造物の不陸の表面にモルタルを吹き付けることにより、コンクリート層を形成して、表面仕上げすることが一般に行われている。モルタルとコンクリート表面との間には接着力が発生するので、コンクリート表面が斜面であったり、天井面であったりしても、吹き付けられたモルタルは、固化する前で当ても容易には剥がれ落ちない。しかし、コンクリート表面の洗浄が不十分な場合等、コンクリート表面とモルタルとの間に異物が介在することになり、接着力が不足することがある。このため、コンクリート表面にネット状体を張り付けて、その網目を通したモルタルの吹き付けにより、モルタルの上記接着力不足を補ったり、ネット状体の補強によりモルタルの剥落を防止したりしている。
【0003】
特許文献1に開示されている「コンクリートの剥離落下防止方法」では、海砂が使用されるコンクリート構造物において、海砂の塩分により錆が発生しやすい鉄筋に替えて合成繊維製網が使用されている。この合成繊維製網を構成する撚糸は、1本当たり100kg以上の荷重に耐えるものであることが要件とされている。
【0004】
特許文献2に開示されている「トンネル内壁施工方法」では、ポリアミドやポリフェニレンサルファイド等によるネットがコンクリート躯体の表面に張られている。そして、そのネットが埋没するように、繊維補強材が混和されたモルタルが吹き付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−295194号公報
【特許文献2】特開2003−155899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に開示されている方法は、モルタル層を補強するためのネットが用いられるものである。このため、いずれの公報においても、補強に係る種々説明は成されているが、コンクリート表面に対するネットの張り付けに関しては、コンクリート表面からネットを浮かして張ることが開示されているに止まる。
【0007】
社団法人日本トンネル技術協会等の各種資料に示されるように、打設されたコンクリートの表面は必ずしも滑らかではなく、不陸に係る凹凸の限度が、深さと凹部の長さとの比において、1:6以下であればよいとされている。また、モルタル吹き付け用ネットは、コンクリート釘等により平方メートル当たり4ヶ所で固定されるようになっている。従って、ピッチ500mmで打ち込まれた2ヶ所の釘の間には、400mm前後の長さの凹部が形成されていることもあるとすれば、その凹部の深さが最大70mm程度であることが想定される。このことは、見方を変えれば、凹部にコンクリート釘が打ち込まれる場合、その2ヶ所の釘の間には、70mmの高さの凸部が形成されている場合が想定されることになる。実際の施工現場においては、このような凸部を跨ぐようにネットが張られることが少なくない。
【0008】
ところが、補強を目的としたモルタル吹き付けのためのネット状体は、通常用いられている鋼製のネット状体はもとより、特許文献1、2のネットであっても、比較的大きな剛性を有している。従って、前記凸部を跨いで張られるネット状体の両側をコンクリート釘で固定する場合、一方の側を釘で固定した後、他方の側に釘を打ち込むためには、前記凸部に沿わせるようにネット状体を変形させて、他方の側を強い力で押し付ける必要がある。しかし、押し付け力が足りない場合が多く、そのような場合は、既に固定したネット状体の一部を剥がして、はつり等により凸部の高さを低くしなければならず、施工における作業効率を低下させるものとなっている。
【0009】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、コンクリート表面に不陸があっても、その表面に張り付けることが容易なモルタル吹き付け用ネットを選定するための評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために請求項1に記載のモルタル吹き付け用ネットの評価方法の発明は、コンクリート表面にモルタルを吹き付けて覆工工事をするためのモルタル吹き付け用ネットの評価方法であって、基盤上に高さ70mm、幅35mm及び長さ1000mmの角柱状の長尺凸状体を配置し、その長尺凸状体の上に前記ネットを配置し、前記ネットをその全幅に亘って固定する固定部と、前記ネット上に荷重を作用させるための1辺が200mmである正方形の荷重面を有する荷重部とを500mmの間隔で配置すると共に、前記長尺凸状体が前記固定部と荷重部との中間に位置するようにし、前記荷重部の荷重を変化させると共に、その荷重を受けた前記ネットの下部と前記基盤との間の間隔を測定することを特徴とするものである。
【0011】
上記構成によれば、コンクリート表面の不陸の限度として長尺凸状体を用いた。そして、ネットを、長尺凸状体に沿わせて変形させるために必要な片手の押し付け力を、正方形の荷重面からネットに作用させるようにした。また、荷重を受けた時のネットの下部と基盤との間の間隔を測定するようにした。
【0012】
そして、前記間隔が大きなことは、ネットを固定するためのコンクリート釘の打ち込みに困難を伴うことを意味する。このため、作業者による押し付け力を上限とする荷重の範囲において、測定された前記間隔が所定値以下であることにより、コンクリート表面に張り付けることが容易なモルタル吹き付け用ネットを評価することができる。ただし、荷重が小さすぎる時、即ち、片手作業が容易ではあっても、ネットが柔らか過ぎる時には、自重によってネットが垂れ下がるので、作業性に問題がある。このため、荷重には下限値が設けられている。
【0013】
請求項2に記載のモルタル吹き付け用ネットの発明は、請求項1に記載のモルタル吹き付け用ネットの評価方法により評価されたモルタル吹き付け用ネットであって、前記荷重部の荷重の範囲が40kg以下及び5kg以上、且つ、前記ネットの下部と前記基盤との間の間隔が0〜5mmであることを特徴とするものである。
【0014】
上記構成によれば、70mmの高さの不陸があっても、片手の押し付け力により、ネット下部とコンクリート表面との間の間隔を、コンクリート釘の打ち込みに支障をきたさない範囲にすることが可能なモルタル吹き付け用ネットを得ることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のモルタル吹き付け用ネットにおいて、前記ネットが、ポリエチレン製又はポリプロピレン製であることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のモルタル吹き付け用ネットにおいて、前記ネットが、押出成形によって形成された不編ネットであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コンクリート表面に不陸があっても、その表面に張り付けることが容易なモルタル吹き付け用ネットを選定するための評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態の評価方法に用いられる評価装置を示す、(a)は平面図、(b)は正面図。
【図2】評価試験に用いた被試験体を示す一覧表。
【図3】評価試験結果を示す一覧表。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜図3を用いて説明する。
図1に示すように、本実施形態の評価法のための試験装置では、基盤1上に、擬似不陸としての角柱状の長尺凸状体2を配置した。この長尺凸状体2は、前記したように、モルタル吹き付け用ネットが用いられる不陸の限度に対応すべく、高さが70mmに設定されている。この長尺凸状体2の幅は35mmであり、長さは1000mmである。そして、その長尺凸状体2の上に、ネット状体である試験片5を載置すると共に、試験片5の幅方向と長尺凸状体2の長手方向とが平行となるようにした。
【0019】
また、長尺凸状体2を挟んで、且つ長尺凸状体2が中間位置となるように、固定部3と荷重部4とを試験片5上に配置した。固定部3と荷重部4との間隔L2は500mmである。この500mmの長さは、モルタル吹き付け用ネットについて前記したように、コンクリート釘等により1平方メートル当たり4ヶ所で固定されることが好ましいとされる知見により決定されている。
【0020】
固定部3は、本実施形態においては、200kgの錘W0を収容した筐体である。この固定部3と長尺凸状体2とは、それぞれの長手方向が平行となるように配置されている。また、固定部3の長さは、試験片5の全幅と同一又は全幅以上の長さになっている。なお、錘W0を収容した筐体に替えて、帯板等の押え部材と基盤1との間に試験片5を挟持するようにして、試験片5を固定してもよい。
【0021】
荷重部4は、荷重面としての底面が、一辺の長さL3=200mmの正方形で形成された筐体であり、重さの異なる錘W1を収容できるようになっている。この底面は、作業者が手の平を開いた時の大きさと略等しい大きさに形成されている。また、この荷重部4は、図示しない案内装置により、上下方向にのみ移動できるようになっている。更に、荷重部4の荷重を受けた試験片5が、長尺凸状体2に沿うように変形できないために、その下部が基盤1から浮き上がる場合は、その浮き上がり量、即ち、試験片5の下部と基盤1との間隔L1を測定できるようになっている。
【0022】
次に、本実施形態の試験装置を用いて試験片5を評価した評価方法とその結果について説明する。
試験片5は、図2に示すように番号1〜8の8種類のネット状体が用いられた。材質を示す記号は次の通りである。PE=ポリエチレン、PP=ポリプロピレン、S=鋼材。材質がPE又はPPの試験片5は、押出成形によりネット状に形成された成形ネットであり、言い換えれば、編まれていない不編のネットである。材質がSの番号5、8はエキスパンドメタルである。また、試験片5の網の目は略長方形であり、その大きさを目合いで示している。
【0023】
これらの試験片5について、荷重部4の錘W1を変化させて、長尺凸状体2側の荷重部4の角部における試験片5の下部と基盤1との間の間隔L1を浮き上がり量として測定した。図3に示すように、番号1、4、6については、異なる重さの錘W1により、それぞれ2回の試験を行った。
【0024】
試験結果については、不陸のコンクリート表面に対してモルタル吹き付け用ネットを片手で押し付けた時、ネットのコンクリート表面からの浮き上がりが所定値以下であるか否かを評価した。なお、作業者が片手で押し付けることができる押え荷重は、施工現場の知見として、40kg以下であることが認識されている。また、本実施形態におけるモルタル吹き付け用ネットは、固化したモルタルを補強するためというよりも、固化する前のモルタルがコンクリート表面からずり落ちないようにするために用いられる。従って、押え荷重が小さければ作業が容易となるので、浮き上がり量が所定値以下であれば、押え荷重は小さければ小さい方が良いことになる。しかし、浮き上がり量が所定値以下であっても、押え荷重が5kg未満であるようなネットは、自重による垂れ下がりが起きて、ネットを張る作業に支障をきたすことになる。また、前記ネットは、モルタルのずれを防止できないことにもなるため、採用し難いことも経験値として認識されている。従って、浮き上がり量の評価を、押え荷重が40kg以下及び5kg以上の範囲にある場合について行った。
【0025】
また、ネットの浮き上がりはないことが好ましいが、間隔L1(浮き上がり量)が5mm以下であれば、コンクリート釘の打ち込みを容易に行うことができる。即ち、コンクリート釘は一般的に長さが30数mmのものが用いられ、また、ネットを固定しやすくするためのワッシャ又はプレートが用いられる。更に、ネットの厚さもプラスされると、ネットの下面から突出するコンクリート釘の長さは少なからず短くなる。従って、片手でネットを押し付けながらコンクリート釘を打ち込む作業においては、ネットの浮き上がり量が大きい場合、作業に支障をきたすことが施工現場の認識である。
【0026】
図3には、上記のような方法で試験をして評価した結果が示されている。番号1〜5については、荷重の範囲及び浮き上がり量に関する良好な評価結果が得られている。また、番号6、8については、40kg以下の押し付け力では浮き上がり量が大きいため、モルタル吹き付け用ネットとしては不適であることが評価された。逆に、番号7については、浮き上がり量がゼロではあるが、押え荷重1.3kgが示すように、柔らか過ぎるため、不適であることが評価された。
【0027】
従って、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、500mmピッチでコンクリート釘を打ち込むことを前提に、試験片5を固定するための固定部3と、荷重を変化させて試験片5を押し付けることが可能な荷重部4とを500mmの間隔で配置した。そして、固定部3と荷重部4との中間部に擬似不陸としての長尺凸状体2を配置して、その上に試験片5を載置した。更に、固定部3により試験片5を固定すると共に、荷重部4により異なる荷重を試験片5に作用させて、試験片5の下部と基盤1との間の間隔L1を測定するようにした。そして、荷重が40kg以下及び5kg以上の範囲において、間隔L1が0〜5mmであるか否かを評価した。このため、不陸のコンクリート表面に張り付けることが容易なモルタル吹き付け用ネットの評価方法を提供することができる。
【0028】
(2)上記実施形態では、前記評価方法によりモルタル吹き付け用ネットを評価した。そして、荷重が40kg以下及び5kg以上の範囲において、試験片5の下部と基盤1との間の間隔L1が0〜5mmであるものを選定することができた。このため、不陸のコンクリート表面にコンクリート釘を用いて張り付けるに際し、片手で押し付けることが可能な、且つ、作業に支障となる浮き上がりの防止が可能なモルタル吹き付け用ネットを提供することができる。
【0029】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 合成樹脂製の試験片5として材質をPE又はPPとしたが、荷重の範囲及び浮き上がり量の範囲に当てはまる限りにおいて、他の公知の合成樹脂、例えば、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド等によるネットとすること。
・ PE製又はPP製の試験片5を不編ネットとしたが、合成樹脂製の撚糸を編んで形成したネットとすること。更に、このネットに樹脂加工を施してネットとしての剛性を高めるようにすること。
【0030】
さらに、上記実施形態より把握できる技術的思想について、それらの効果と共に以下に記載する。
前記ネットが鋼製エキスパンドメタルであることを特徴とする請求項2に記載のモルタル吹き付け用ネット。このように構成した場合、汎用のエキスパンドメタルを使用できると共に、エキスパンドメタルであっても容易に覆工工事を行うことができる。
【符号の説明】
【0031】
L1,L2…間隔、L3…長さ、1…基盤、2…長尺凸状体、3…固定部、4…荷重部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート表面にモルタルを吹き付けて覆工工事をするためのモルタル吹き付け用ネットの評価方法であって、基盤上に高さ70mm、幅35mm及び長さ1000mmの角柱状の長尺凸状体を配置し、その長尺凸状体の上に前記ネットを配置し、前記ネットをその全幅に亘って固定する固定部と、前記ネット上に荷重を作用させるための1辺が200mmである正方形の荷重面を有する荷重部とを500mmの間隔で配置すると共に、前記長尺凸状体が前記固定部と荷重部との中間に位置するようにし、前記荷重部の荷重を変化させると共に、その荷重を受けた前記ネットの下部と前記基盤との間の間隔を測定することを特徴とするモルタル吹き付け用ネットの評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載のモルタル吹き付け用ネットの評価方法により評価されたモルタル吹き付け用ネットであって、前記荷重部の荷重の範囲が40kg以下及び5kg以上、且つ、前記ネットの下部と前記基盤との間の間隔が0〜5mmであることを特徴とするモルタル吹き付け用ネット。
【請求項3】
前記ネットが、ポリエチレン製又はポリプロピレン製であることを特徴とする請求項2に記載のモルタル吹き付け用ネット。
【請求項4】
前記ネットが、押出成形によって形成された不編ネットであることを特徴とする請求項3に記載のモルタル吹き付け用ネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−41740(P2012−41740A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184079(P2010−184079)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000207562)大日本プラスチックス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】