説明

モルモットキマーゼ

【課題】本発明の目的は、ヒトキマーゼに対して高い相同性を有する、単一のキマーゼアイソフォームのみを有する動物種を見出すことである。
【解決手段】本発明により、モルモットキマーゼの配列が提供された。モルモットはキマーゼアイソフォームを1種類しか発現しないため、キマーゼを調節する化合物の同定法のモデルとして特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルモットキマーゼ、モルモットキマーゼをコードするヌクレオチド配列、ならびに、モルモットキマーゼに基づいてキマーゼの活性および末梢動脈閉塞性疾患(PAOD)を阻害しかつ喘息を妨げる化合物を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キマーゼはキモトリプシン様セリンプロテアーゼであり、ラットを除いて、肥満細胞の分泌顆粒中に存在する。免疫学においては、肥満細胞はとりわけアレルギー性および線維性の反応における役割で知られている。肥満細胞が活性化されると、キマーゼは、脱顆粒を介してヒスタミンおよび他の多くのメディエーターと共に細胞外間隙に放出される。放出された後、キマーゼは、一連の重要な炎症促進効果を発揮する。キマーゼは、例えば幹細胞因子、ビッグエンドセリン、TGFβ、またはアポリポタンパク質などの、種々の生理学的および病理学的に重要なタンパク質を分離させ、かつタンパク質分解によりコラゲナーゼを活性化させることもできる。これらの効果に加えて、ヒトキマーゼの重要な仕事の一つは、アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIを生成することであると考えられている。この理由から、キマーゼが、心不全、高血圧、アレルギー、皮膚炎、関節リウマチ、喘息、および慢性炎症の症例において重要な役割を果たすとも推定されている。
【0003】
ヒトなどの種はキマーゼ遺伝子を1種類しか有さないが、数種類のキマーゼ遺伝子を有する種もいる。生物中にキマーゼが1種類しか含まれない場合、キマーゼは相互に非常に類似していると考えられる。数種類のキマーゼが存在する場合には、キマーゼの仕事が分割され、それに適応化していると考えられる。したがって、ヒトはキマーゼを1種類しか有さないため、1種類のみのキマーゼを有する動物モデルが臨床試験に最も適している。特にマウスおよびラットなどの齧歯動物に関しては、本発明者らは多数のキマーゼ遺伝子を見出しており、ハムスターにおいてさえ、本発明者らは2種類のキマーゼ遺伝子を見出している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ヒトキマーゼに対して高い相同性を有する、単一のキマーゼアイソフォームのみを有する動物種を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、モルモットキマーゼをクローニングし提供することにより、これを達成する。このために、モルモットの臓器試料、特に心臓からゲノムDNAおよび全RNAを単離した。標的化様式にてキマーゼまたはキマーゼ様配列を複製するためには、これらの配列に対して特異性を有するプライマーを開発する必要があった。本明細書において作製されたプライマーを、表5に列挙する。これらのプライマーを用いて、ゲノムDNAから開始されるPCR増幅を実施した。PCRの結果について記載するために、プラスミド挿入物の配列を決定した。次いで、データベース検索によってこれらを現在公知のすべてのDNA配列と比較し、相同性を調べた。また、DNA配列を、得られるタンパク質のアミノ酸配列へ変換することも可能であった。
【0006】
本発明(1)は、配列番号:1の配列を含む核酸配列である。
本発明(2)は、核酸配列が配列番号:1の配列である、本発明(1)の核酸配列である。
本発明(3)は、配列番号:2の配列を含むポリペプチド配列である。
本発明(4)は、配列番号:2の配列である、本発明(3)のポリペプチド配列である。
本発明(5)は、本発明(3)または(4)のポリペプチド配列をコードする核酸配列を含む、核酸配列である。
本発明(6)は、本発明(1)、(2)、または(5)のいずれか一発明の核酸配列を含む、発現ベクターである。
本発明(7)は、本発明(6)の発現ベクターを含む宿主細胞である。
本発明(8)は、少なくとも一方の対立遺伝子が、変異キマーゼ遺伝子の相同組換えにより機能的に妨害されており、この機能妨害によってモルモット細胞における機能的キマーゼ遺伝子の発現が阻害される、変異キマーゼ遺伝子を含む体細胞および生殖細胞を有するモルモットである。
本発明(9)は、a) 化合物を、本発明(3)または(4)の単離されたポリペプチドと接触させる段階;および
b) モルモットキマーゼの活性を決定する段階
を含む、キマーゼの活性を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、モルモットキマーゼの活性を阻害または促進する化合物が、モルモットキマーゼの活性を調節する化合物である、方法である。
本発明(10)は、a) 化合物を、本発明(7)の宿主細胞と接触させる段階;および
b) 宿主細胞中で発現されるモルモットキマーゼの活性を決定する段階
を含む、キマーゼの活性を調節する化合物を同定する方法であって、モルモットキマーゼの活性を阻害または促進する化合物が、モルモットキマーゼの活性を調節する化合物である、方法である。
本発明(11)は、a) 化合物をモルモットに投与する段階;および
b) モルモットキマーゼの活性を決定する段階
を含む、キマーゼの活性を調節する化合物を同定する方法であって、モルモットキマーゼの活性を阻害または促進する化合物が、モルモットキマーゼの活性を調節する化合物である、方法である。
本発明(12)は、a) 化合物をモルモットに投与する段階;
b) PAODを引き起こす段階;および
c) PAODの程度を決定する段階
を含む、PAODを抑制する化合物を同定する方法であって、PAODを抑制する化合物が、段階b)によって引き起こされるPAODの程度の低下をもたらす化合物である、方法である。
本発明(13)は、PAODが、ラウリン酸の投与によって、バルーンカテーテルによる血管傷害を通して、または高脂肪食の摂取によって引き起こされる、本発明(12)の方法である。
本発明(14)は、a) モルモットキマーゼを阻害する化合物をモルモットに投与する段階;
b) 喘息を引き起こす段階;および
c) 喘息の程度を決定する段階
を含む、喘息に有効な化合物を同定する方法であって、喘息を阻害する化合物が、段階b)によって引き起こされる喘息の程度の低下をもたらす化合物である、方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、モルモットキマーゼが提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
11試料の配列決定により、およびキマーゼと非常に類似した、既知のセリンプロテアーゼのDNA配列が得られた。しかしながら、1つの試料に関しては、モルモットのキマーゼ様部分配列が初めて見出され、これを図4に示す。ここで下線を引いた塩基は、プライマーによりコードされる部分に相当する。他のDNA配列との相同性に関する検索によって、本配列が、例えばマウスのグランザイム(gep_mmmmcp5a)またはキマーゼI(gep_mmctala1)などの既知のDNA分子と非常に類似しているが、完全に一致しているわけではないことが示された。このような配列比較を図5に示す。
【0009】
結果をもたらしたバッチは、プライマーGP_CHY_12_FおよびGP_CHY_17_R、ならびにプライマーGP_CHY_15_FおよびGP_CHY_17_Rを含んでいた。したがって、これまでに開発された全プライマーのうち、プライマーGP_CHY_17_Rが、モルモットのキマーゼ様配列に対して最も高い特異性を有すると考えられる。
【0010】
特異的プライマー(表6)を用いて、鋳型としてのモルモットcDNAからモルモットキマーゼのさらなる断片が増幅されるので、次の段階では、ゲノムDNAから単離された配列に基づき、コードされる配列を決定した。モルモットキマーゼのさらなるcDNA配列を決定するため、この部分配列から開始して、さらなるプライマーを選択した(表7)。種々の反応において、さらなる配列を決定することができた。これを図1に示す(配列番号:1)。図1における核酸配列の翻訳により、シグナルペプチドを含まない、図2における成熟キマーゼのポリペプチド配列(配列番号:2)が得られる。
【0011】
合計で437回の配列決定を行った。この過程において、モルモットキマーゼが7回、グランザイムが7回見出されたが、別のキマーゼは見出されなかった。
【0012】
したがって本発明は、配列番号:1の配列を含む核酸配列に関する。好ましくは、核酸配列は配列番号:1の配列である。本発明はさらに、配列番号:2の配列を含むポリペプチド配列に関し、ここで、ポリペプチド配列は好ましくは配列番号:2の配列である。本発明はさらに、上記のポリペプチド配列をコードする核酸配列を含む核酸配列に関する。さらに本発明は、上記の核酸配列を含む発現ベクターに関する。加えて、本発明は、上記の発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0013】
モルモットキマーゼポリペプチド配列を既知配列と比較した(表1および表2)。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
本明細書において比較された動物種のうち、モルモットは、ヒトキマーゼに対して最も高い同一性および相同性(77.9%および86.3%)を有する。ヒト、マウス、およびモルモットのキマーゼは相互に非常に類似しているため、これらのキマーゼはすべてαキマーゼである。モルモットキマーゼがキマーゼの以下の重要な特徴をすべて含んでいることが、図3により示される:
・ジスルフィド架橋の位置が同一である;
・活性三角架(triangle)の位置も同じく同一である;
・両配列ともポケット1の入り口にグリシンを有する;
・糖が一致する。
【0017】
モルモットが最も適切な動物モデルであるため、本発明は、変異キマーゼ遺伝子を含む体細胞および生殖細胞を有するモルモットに関し、ここで、少なくとも一方の対立遺伝子が、変異キマーゼ遺伝子の相同組換えにより機能的に妨害されており、この機能妨害によってモルモット細胞における機能的キマーゼ遺伝子の発現が阻害される。
【0018】
したがって本発明はまた、キマーゼ活性の調節因子およびPAODの阻害因子を同定するための以下の方法にも関する。
【0019】
a) 化合物を、本発明(3)または(4)の単離されたモルモットキマーゼポリペプチドと接触させる段階;およびb) モルモットキマーゼの活性を決定する段階を含む、キマーゼの活性を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、モルモットキマーゼの活性を阻害または促進する化合物が、モルモットキマーゼ活性を調節する化合物である方法が開示される。
【0020】
また、a) 化合物を、本発明(3)または(4)の単離されたポリペプチドと接触させる段階;およびb) モルモットキマーゼの活性を決定する段階を含む、キマーゼの活性を調節する化合物を同定する方法であって、モルモットキマーゼの活性を阻害または促進する化合物が、モルモットキマーゼ活性を調節する化合物である方法も開示される。
【0021】
さらに、a) 化合物を、本発明(7)の宿主細胞と接触させる段階;およびb) 宿主細胞中で発現されるモルモットキマーゼの活性を決定する段階を含む、キマーゼ活性を調節する化合物を同定する方法であって、モルモットキマーゼの活性を阻害または促進する化合物が、モルモットキマーゼ活性を調節する化合物である方法も開示される。
【0022】
本発明はまた、a) 化合物をモルモットに投与する段階;およびb) モルモットキマーゼの活性を決定する段階を含む、キマーゼ活性を調節する化合物を同定する方法であって、モルモットキマーゼの活性を阻害または促進する化合物が、モルモットキマーゼ活性を調節する化合物である方法も開示する。
【0023】
最後に、本発明は、a) モルモットキマーゼを阻害する化合物をモルモットに投与する段階;b) PAODを引き起こす段階;およびc) PAODの程度を決定する段階を含む、PAODを抑制する化合物を同定する方法であって、PAODを抑制する化合物が、段階b)によって引き起こされるPAODの程度の低下をもたらす化合物である方法に関する。好ましくは、PAODは、ラウリン酸の投与によって、バルーンカテーテルによる血管傷害を通して、または高脂肪食の摂取によって引き起こされる。特に好ましくは、PAODは、ラウリン酸の投与により引き起こされる。PAODを引き起こすための特に好ましい別の手段とは、バルーンカテーテルによるモルモット血管への傷害であり、ここで好ましくは、血管は頸動脈である。
【0024】
PAODの程度は、常法によって決定される。例えば、モルモット頸動脈における、バルーンカテーテルによる傷害後の新生内膜形成の決定により、PAODの程度が決定される。また、ラウリン酸モデルにおいてトレッドミル上を走るモルモットの疲労を決定することも可能である(Kawamura et al., 1985, Arzneimittelforschung 35/7A: 1154-1156)。
【0025】
本発明は、a) モルモットキマーゼを阻害する化合物をモルモットに投与する段階;b) 喘息を引き起こす段階;およびc) 喘息の程度を決定する段階を含む、喘息に有効な化合物を同定する方法であって、喘息を阻害する化合物が、段階b)によって引き起こされる喘息の程度の低下をもたらす化合物である方法に関する。本方法において、喘息の誘発および喘息の程度の決定には常法が用いられる。
【0026】
本発明はまた、特に以下の実施例に関して、上記の配列、方法、およびモルモットに関する。
【実施例】
【0027】
実施例1:モルモット心臓からの細胞の分解およびRNAの取得
モルモットにおけるキマーゼの存在および活性を実証するため、全RNAを単離した。モルモットの心臓を臓器試料として使用した。
【0028】
実施例1.1:RNAを取得するための細胞分解
細胞の分解は、いわゆるLysing Matrix D Columnを用いて実施した。このために、モルモットの心臓5×10 mgおよび5×30 mgをそれぞれセラミックボールと共にチューブに入れ、RLT緩衝液(RNeasyキット)およびβ-メルカプトエタノール(RLT緩衝液1 ml当たり10μlのβ-メルカプトエタノール)の混合液300μlを重層した。続いて、チューブをFastPrepホモジナイザーで2×20秒間振盪し、これによって、剪断力による細胞の分解を達成した。遠心分離によって粗い細胞砕片を沈殿させ、上清を清潔なチューブに移した。
【0029】
次に、蒸留水590μlおよび1 mg/mlプロテインキナーゼK 10μlを各チューブに添加し、溶液を転倒混合し、55℃で10分間インキュベートしてタンパク質を分解した。室温で10,000 rpmにて3分間遠心分離することで、粗い細胞砕片を沈殿させ、上清900μlを清潔なチューブに移した。
【0030】
実施例1.2:RNAの単離
このタンパク質混合物および他の細胞成分からの全RNAの単離は、説明書に従ってRNeasy Mini Kitを用いて実施した(Manual RNeasy Kit、「Isolation of Total RNA from Heart, Muscle and Skin Tissue」の手順を参照のこと)。
1. RNAを変性させるため、バッチ当たり450μlの100% EtOHをそれぞれ添加し、溶液を転倒混合する。
2. 本混合液700μlをそれぞれカラムに添加し、10,000 rpmおよび4℃で30秒間遠心分離することにより、収集容器を備えたRNeasyカラムのシリカ膜にRNAを結合させ、スルーフロー(through-flow)を捨てる。
3. RW1緩衝液350μlをそれぞれカラムに添加し、10,000 rpmおよび4℃で30秒間遠心分離して、カラムを洗浄し、スルーフローを捨てる。
4. カラムを新しい収集容器に移し、RPE緩衝液500μlをそれぞれカラムに添加し、10,000 rpmおよび4℃で30秒間遠心分離して、カラムを洗浄する。
5. さらなるRPE緩衝液500μlをカラムに添加し、シリカ膜を乾燥させるために10,000 rpmおよび4℃で2分間遠心分離する。
6. カラムを清潔な1.5mlチューブに移す。
7. カラム当たり30μlのRNase非含有水を添加し、次いで13,000 rpmおよび4℃で30秒間遠心分離してRNAを溶出させる。
【0031】
次に、得られた種々のRNA溶液の濃度を、260 nmの波長において測光法により決定した。
【0032】
実施例1.3:モルモットRNAからのcDNAの生成
cDNAの生成は、説明書に従ってTranscriptor First Strand cDNA Synthesis Kitを用いて、以下に記載する通りに実施した。本明細書では、2種類の別々のプライマーを用いるために、2つの別々のバッチを調製した。
1. 以下を一緒にピペットで混合する。
RNA 30.1 8μl
オリゴ(dT)プライマー 1μlまたはアダプタープライマー 2μl(Invitrogen)
H2O(合計13μlになるまで加える)
2. RNAにプライマーを付加するために、バッチを65℃で10分間インキュベートする。
3. バッチを氷上で2分間冷却する。
4. バッチ当たり、以下を添加する。
5×反応緩衝液 4μl
RNase阻害剤 0.5μl
dNTP 2μl
逆転写酵素 0.5μl
5. 逆転写酵素反応を進行させるために、バッチを50℃で1時間インキュベートする。
6. 85℃で5分間インキュベートし、逆転写酵素を失活させる。
7. バッチを氷上で2分間冷却する。
【0033】
低分子断片および未使用のRT-PCR成分を除去するため、微量遠心分離用の説明書に従ってQIAquick PCR Purification Kitを用いて、別々のバッチを以下のように精製した。
1. RT-PCRバッチ当たり250μlのPB緩衝液を添加し、溶液を混合する。
2. 収集容器を備えたQIAquickカラムにそれぞれ1つのバッチを添加し、13,000 rpmおよび4℃で1分間遠心分離して、DNAをカラムのシリカ膜に結合させ、スルーフローを捨てる。
3. カラムを洗浄するため、それぞれにPE緩衝液750μlを添加し、13,000 rpmおよび4℃で1分間遠心分離し、スルーフローを捨てる。
4. シリカ膜を乾燥させるため、13,000 rpmおよび4℃で1分間、カラムを遠心分離する。
5. カラムを清潔な1.5μlチューブに移す。
6. カラム当たり30μlのEB緩衝液を添加し、室温で1分間インキュベートし、続いて、13,000 rpmおよび4℃で1分間遠心分離することによりcDNAを溶出させる。
【0034】
実施例2:モルモット心臓からの細胞の分解およびゲノムDNAの取得
ゲノムDNAを使用することにより、モルモットにおけるキマーゼを実証できる可能性も存在した。探索中の遺伝子が実際に発現していると明確に予想できないため、本方法を用いた。
【0035】
実施例2.1:細胞の分解
ゲノムDNAを得るには、RNAの場合と同様に細胞の分解が必要であった。上記のLysing Matrix Dカラムの使用により、これを再度実施した。このため、モルモットの心臓2×100それぞれを小さなセラミックボールと共にチューブに入れ、消化緩衝液1.2μlを重層した。本緩衝液の組成を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
続いて、チューブをFastPrepホモジナイザーで2×20秒間振盪し、これによって剪断力による細胞の分解を達成した。
【0038】
実施例2.2:フェノール抽出およびエタノール沈殿によるDNAの単離
タンパク質およびDNAの分離は、説明書に従ってPhase Lock Gelを用いて、以下のようにフェノール抽出によって実施した。
1. ゲルを13,000 rpmで20〜30秒間遠心分離し、容器(2.0 ml)中に落とす。
2. 分解した細胞を、容器当たり100〜750μl添加する。
3. 同量の有機溶媒を、この場合はフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)を添加する。
4. ときどき反転させながら(ボルテックス使用不可!)、10分間混合する。
5. 相分離のため、13,000 rpmで5分間遠心分離する。
6. 上清を分取し、さらに処理を続ける。
【0039】
続いて、以下に詳述するように、エタノール沈澱によりDNAを精製および濃縮した。
1. フェノール抽出後の上層を新しいカップに移し、1/10量の3M 酢酸ナトリウム(NaAc)(pH5.0)および2.5倍量の100% EtOHを添加する。
2. 滅菌した白金耳を用いて変性DNA分子を取り出し、新しいカップに移す。
3. 10mM Tris-HCl(pH7.5)1.5ml中でDNAを再生させ、ETOH NaAcの添加を繰り返す。
4. 11,200 rpmおよび4℃で15分間遠心分離する。
5. 上清を除去し、75% EtOH 1.5ml中でペレットを再懸濁する。
6. 塩を除去するため、懸濁液を10分間反転する。
7. 11,200 rpmおよび4℃で10分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットを10〜15分間風乾する。
8. ペレットを10mM Tris-HCl(pH7.5)1.5mlに溶解させる。
【0040】
実施例3:ゲノムDNA中のキマーゼコード配列の探索
それぞれの遺伝子が不活性であるキマーゼ配列を同定するためには、PCRを用いてゲノムDNA鋳型からこれらの配列を増幅することが必要である。この部分の実験では、モルモットキマーゼに対して特異性を有する様々な縮重プライマーを開発し、この目的に使用した。
【0041】
実施例3.1:モルモットキマーゼ用プライマーの開発
キマーゼは、すべての動物モデルにおいて顕著な相同性を示すと考えられた。したがって、既知であるハムスターキマーゼ1の配列から始めて、できるだけ共通性の高いその他の既知DNA配列に関するデータベース検索を開始した。例えばマウスまたはラットの多くのセリンプロテアーゼおよびキマーゼを含む、本検索における陽性配列を次に相互に比較し、個々の配列間での変化が最も大きな領域から、キマーゼまたはキマーゼ様配列と結合すると予測され得るプライマーを開発した。より多くの配列を選択するために、個々のプライマー内ではある程度の変化が許容された。配列の個々の位置においていくつかの異なる塩基を許容することにより、これらの変化が生じた。このようなプライマーは縮重型と称される。変化は、表4に示す一般的に適用される文字コードで表され、これらのプライマーの作製は委託会社により行われた。
【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
実施例3.2:作製されたプライマーを用いたPCR
縮重プライマーの使用により、キマーゼまたはキマーゼ様配列を増幅する試みがなされた。この目的のために、各Fプライマーを各Rプライマーと組み合わせた。
【0045】
PCRのバッチを、以下のように構成した。
鋳型(ゲノムDNA) 1μl
第一プライマー(GP_CHY_12_F〜16_F) 1μl
第二プライマー(GP_CHY_17_F〜21_R) 1μl
HotStarTaq Master Mix 20μl
H2O 17μl
【0046】
PCRは、以下のプログラムに従って行った。

【0047】
PCR産物は、1%アガロース/EtBrゲルを用いて解析した。
【0048】
実施例4:得られたPCR産物の増幅
得られたPCR産物に関して、さらなる研究に利用可能な十分な材料を得るために、形質転換、および細菌培養液の培養によりPCR産物を増幅した。
【0049】
実施例4.1:PCRバッチの精製
低分子断片および、後の形質転換に対するその他の干渉物質を除去するため、選択したPCRバッチを、説明書に従ってQIAquick PCR Purification Kitを用いて、上記の通りに精製した。
【0050】
実施例4.2:TOPO TA Cloning Kitを用いた形質転換
PCRバッチ中にはいくつかの産物または低分子干渉断片が存在することが多いので、ほとんどの場合、直接配列決定を行うことは不可能である。この理由から、分離および増幅のために、PCR産物を細菌ベクター中に組み込み、次いでプラスミドをコンピテント細胞に導入した。これは、以下に記載するようにTOPO TA Cloning Kitを用いて実施した。
1. PCRバッチ4μl、生理食塩水1μl、およびTOPOベクター1μlを混合する。バッチを室温で5分間インキュベートする。
2. この混合液2.5μlを、氷上で融解したコンピテントTOP 10 F'細胞のチューブに添加する。
3. プラスミドを細胞に取り込ませるため、細胞を氷上で5分間インキュベートする。
4. 細胞によるDNA取り込みを停止させるために42℃で30秒間熱ショックをかけ、氷上で2分間急冷する。
5. 細菌チューブ当たり300μlのLB培地を添加し、振盪器上で37℃で1時間インキュベートする。
6. 細菌をプレーティングすることでバッチ当たり2枚のLB/ampプレートに接種し、37℃で一晩インキュベートする。
【0051】
実施例4.3:培養物中のPCR産物の増幅およびプラスミドの単離
特定のプラスミドのみを増幅する培養物を得るため、2.7.2項で得られたプレートから滅菌ピペットチップを用いてバッチ当たり8個の独立コロニーを単離し、それぞれLB/amp培地1.5 mlに接種した。これらを振盪器上で37℃で一晩培養した。
【0052】
培養が完了したら、培養物当たり1 mlを分取し、清潔な1.5 mlチューブ、または(試料数に応じて)96ウェルプレートに移した。次いで細胞を4℃および3,000 rpmで15分間遠心分離し、上清を除去した。続いて、以下に記載するように、QIAvac 6S装置を使用し、説明書に従ってQIAprep 8 Turbo Miniprep Kitを用いてプラスミド単離を行った。
1. ボルテックスにより、細菌ペレットをP1緩衝液250μlに再懸濁する。
2. 細菌を溶解させるためにチューブ当たり250μlのP2緩衝液を添加し、4分間注意深く反転させながら混合する。
3. タンパク質を沈殿させるためにN3緩衝液350μlを添加し、4分間注意深く反転させながら混合する。
4. QIAvac 6S装置を設定する。
5. 上清をアッパープレート中のターボフィルターストリップに移し、全試料が下のカラムに落ちるまで真空にする。
6. ターボフィルターストリップを取り外し、試料を含むカラムストリップをアッパープレートに取り付け、ベースプレート中のストリップホルダを収集容器と取り替える。
7. すべての液体がカラムを通過するまで真空にする。
8. カラムを洗浄するためにPB緩衝液1 mlを添加し、液体がカラムを通過するまで真空にする。
9. カラムを洗浄するためにPE緩衝液1 mlを添加し、液体がカラムを通過するまで真空にする。この段階をもう一度繰り返す。
10. カラム膜を乾燥させるために真空を5分間最大にして、次いでアッパープレート全体を取り外し、吸収力の高いペーパータオルでカラムの出口をふく。
11. 収集容器を96ウェルプレートと取り替えるが、96ウェルプレートはマイクロチューブスタンドを下に置くことにより持ち上げる。
12. アッパープレートを装置に取り付け、カラム当たり100μlのEB緩衝液を添加し、室温で1分間インキュベートする。
13. 試料を溶出させるため、真空を5分間最大にする。
【0053】
実施例4.4:単離されたプラスミドの制限酵素消化
細菌ベクターから挿入物を分離するため、およびそれらを確認するため、以下のピペット混合計画に従って制限酵素消化を行った。
プラスミド 10μl
10×EcoRI緩衝液 1.5μl
BSA 0.15μl
EcoRI 1μl
H2O 2.5μl
【0054】
制限酵素消化物を37℃で1時間インキュベートし、次いで1%アガロース/EtBrゲルでこれを確認した。
【0055】
実施例5:増幅されたPCR産物の配列決定
細菌プラスミドを用いて増幅されたPCR産物を、キマーゼ配列に関して検討するために、以下で、その配列を立証した。
【0056】
実施例5.1:選択されたプラスミドの配列決定
制限酵素消化により、本発明者らは同一の挿入物の配列決定を何度も行うことなく、様々な挿入物を有するバッチを同定することができた。配列決定のためには、まず、蛍光標識ddNTPを用いてチェーンターミネーション合成を行うことが必要であった。これらは、反応緩衝液および通常のdNTPと共に、Big Dyeと称される調製済み混合物の形態で入手可能であった。
【0057】
配列決定には以下の量を使用した。
プラスミド溶液 5μl
Big Dye 5μl
プライマーM13-R 1μl
【0058】
プライマーM13-Rはマルチクローニング部位のすぐ外側に結合するため、配列決定のためにプライマーM13-Rを使用した。したがって各挿入物を、その種類とは完全に関係なく配列決定することができた。
【0059】
チェーンターミネーション合成は、以下のプログラムに従って行った。

【0060】
残存する蛍光色素が配列決定を妨げるので、次に、説明書に従ってDye Ex 2.0キットを用いて、残存する蛍光色素をバッチから除去した。
1. ゲル物質を入れたDye Exカラムを30秒間ボルテックスにかける。
2. ふたを1/4回転させて開封する。
3. (ねじるのではなく)折ることによって、カラムの出口を開ける。
4. カラムを収集容器中に配置し、3,000 rpmで3分間遠心分離する。
5. カラムを清潔な1.5 mlチューブに移す。
6. 傾斜したゲル表面にピペットの先端を接触させずに、試料をその中心に供する。
7. カラムを3,000 rpmで3分間遠心分離して、試料を溶出させる。
【0061】
次いで、精製された試料をシーケンサーを用いて自動的に配列決定し、得られた塩基配列を、データベース検索を介してすべての既知DNA分子と比較した。さらに、データベース検索と同様に、得られたDNA配列から、生じるタンパク質の対応するアミノ酸配列を決定した。
【0062】
実施例6:特異的プライマーによるRNAにおけるキマーゼコード配列の探索
実施例6.1:モルモット配列特異的プライマーの作製
モルモットに由来する最初のDNA部分配列を活用して、これに特異的なプライマーを開発した。このために、ハムスターおよびヒトの比較DNA配列と最も明らかに異なるモルモット配列の部分を選択し、30塩基長のプライマーを開発した。その後、これらのプライマーは委託会社によって作製された。
【0063】
【表6】

【0064】
次のPCRに使用したプライマーを、図6に示す。
【0065】
実施例6.2:様々なプライマーを用いたPCR
モルモットRNA中のキマーゼ配列に関して広範囲にわたる検索を再度実施することが課題であった。このために、これまでに開発されたまたは使用された最も多様なプライマーを相互に組み合わせた。中でも、ハムスターキマーゼプライマーを再度使用し、オリゴ(dT)プライマーおよびユニバーサルアダプタープライマー(UAP、Invitrogen)も使用した。オリゴ(dT)プライマーおよびアダプタープライマーを使用して作製されたcDNA溶液を、鋳型として用いた。バッチFおよびJについては、アダプタープライマー鋳型のみを使用し、バッチGおよびKについては、オリゴ(dT)プライマー鋳型のみを使用した。その他のバッチはすべて、両鋳型について作製した。さらに、バッチGおよびKをアニーリング温度45℃に曝露し、それ以外についてはアニーリング温度58℃とした。
【0066】
以下のプライマーの組み合わせを用いてバッチを調製した。
A: HaChym_3_f + GP_CHY_17_R
B: GP_CHY_12_F + HaChym_4_r
C: GP_CHY_15_F + HaChym_4_r
D: GP_CHY_22_F + GP_CHY_17_R
E: GP_CHY_22_F + HaChym_4_r
F: GP_CHY_22_F + UAPプライマー
G: GP_CHY_22_F + オリゴ(dT)プライマー
H: GP_CHY_24_F + GP_CHY_17_R
I: GP_CHY_24_F + HaChym_4_r
J: GP_CHY_24_F + UAPプライマー
K: GP_CHY_24_F + オリゴ(dT)プライマー
L: GP_CHY_24_F + GP_CHY_23_R
M: HaChym_3_f + GP_CHY_23_R
【0067】
バッチは以下のように構成した。
cDNA鋳型1μl
第一プライマー 1μl
第二プライマー 1μl
HotStarTaq Master Mix 20μl
H2O 17μl
【0068】
PCRは、以下のプログラムに従って行った。

【0069】
PCRバッチは、1%アガロース/EtBrゲルを用いて確認した。
【0070】
実施例7:選択されたPCR産物の試験および増幅
試験に利用可能な十分な材料を得るため、形質転換および細菌の培養により増幅するのに有望なPCR産物を選択し、次いで可能性のあるモルモット配列について調べた。このために、バッチFAP、JAP、HdI、HAP、IdI、IAP、LdI、およびLAPを選択した。
【0071】
実施例7.1:TOPO TAクローニングによる増幅およびプラスミドの単離
QIAquick Purification Kitを用いて精製した、得られたPCR産物を、TOPO TAクローニングキットを用いて細菌ベクター中に再度組み込み、さらに形質転換によってコンピテント細胞に導入した。得られたLB/ampプレートを、インキュベーター中で37℃で一晩インキュベートした。
【0072】
実施例7.2:コロニーPCRおよび細菌の培養
2.10.1項で得られたプレートから、滅菌ピペットチップを用いてバッチ当たり6個の独立コロニーを単離した。これらをまずPCRバッチに数回浸した。この過程で細菌が放出されるが、これは続くPCRにおいて、細菌に含まれるプラスミドが鋳型となるように、最初の95℃の段階で死滅して分解された。
【0073】
作製するバッチは以下のように構成した。
プライマーM13-F 1μl
プライマーM13-R 1μl
HotStarTaq Master Mix 5μl
H2O 3μl
【0074】
PCRは、以下のプログラムに従って行った。

【0075】
次に、チップを従来通り使用して、それぞれを48ウェルプレート中のLB/amp培地1.5 mlに接種した。液体培養物の培養を振盪機上で37℃で一晩行った。続いて、QIAprep 8 Turbo Miniprep Kitを用いて、上記のようにプラスミドを単離した。
【0076】
コロニーPCRの確認
培養と併行して行ったコロニーPCRにより、液体培養物中に含まれる挿入物に関して早い段階で言明できるようになること、およびしたがって、さらに処理するべき培養物をあらかじめ選択できることが意図される。コロニーPCRの結果は、1%アガロース/EtBrゲルにより調べた。
【0077】
実施例7.3:選択されたプラスミドの配列決定
QIAprep 8 Turbo Miniprep Kitを用いてプラスミドを単離した。上で列挙したバッチに由来するプラスミドを配列決定するために、予め、蛍光標識ddNTPを用いてチェーンターミネーション合成を行うことが必要であった。
【0078】
バッチは以下のように構成した。
プラスミド溶液 5μl
Bid Dye 5μl
プライマーM13-R 1μl
【0079】
配列決定PCRは、以下のプログラムに従って行った。

【0080】
残存する蛍光色素が配列決定を妨げるので、続いて、Dye Ex 2.0キットを用いて、残存する蛍光色素をバッチから除去した。次に、精製された試料をシーケンサーを用いて自動的に配列決定し、得られた配列を、データベース検索を介してすべての既知DNA分子と比較した。さらに、データベース検索を介するのと同様に、得られたDNA配列から、得られるタンパク質の対応するアミノ酸配列を決定した。
【0081】
このように得られたモルモット配列を、図7に示す。
【0082】
実施例8:モルモットキマーゼの配列の完成
これまでに発見され配列決定されたモルモットキマーゼの推定配列は、ハムスターキマーゼの完全に既知である配列に関して言えば、成熟キマーゼをコードする核酸配列におおよそ対応していた。ここでは、この部分配列から開始して、5'方向のキマーゼの残りの部分を決定することを課題とした。いわゆる5' RACEによりこれを行った。
【0083】
実施例8.1:新規プライマーの開発
新たに決定された配列に基づき、新規の特異的プライマーを選択した(表7)。これらのプライマーは、委託会社によって作製された。
【0084】
【表7】

【0085】
プライマーの位置を図9に示す。
【0086】
実施例8.2:様々なcDNA鋳型の作製
可能な限りの最良の結果を得るため、および鋳型の変性を完全に排除するため、以下のように、2つの異なるキットを使用して4つの異なるcDNA鋳型を作製した。
【0087】
Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit
1. 以下を一緒にピペットで混合する(2回)。
RNA 30/1 2μl(3.1項を参照)
ランダムプライマー 2μl(cDNA 1)またはアダプタープライマー 2μl(cDNA 2)
H2O 9μl
2. プライマーを付加するために、混合液を65℃で10分間インキュベートする。
3. 氷上で2分間冷却する。
4. バッチ当たり以下を添加する。
反応緩衝液 4μl
RNase阻害剤 0.5μl
dNTP 2μl
逆転写酵素 0.5μl
5. 逆転写酵素反応を進行させるために、バッチを50℃で1時間インキュベートする。
6. 85℃で5分間、逆転写酵素を失活させる。
7. バッチを氷上で冷却する。
【0088】
cDNA末端の迅速増幅のための5' RACE Kit
1. cDNAの作製:
・以下を一緒にピペットで混合する(2回)。
20μM GP_CHY_28_R 0.25μl
RNA 30/3および30/4 8μl(3.1項を参照)
H2O 7.25μl
・プライマーを付加するために、70℃で10分間インキュベートする。
・氷上で1分間冷却する。
・バッチ当たり以下を添加する。
10×PCR緩衝液 2.5μl
MgCl2溶液 2.5μl
dNTP 1μl
DTT 2.5μl
・42℃で1分間予熱する。
・バッチ当たり1μlのSS II逆転写酵素を添加する。
・逆転写酵素反応を進行させるために、42℃で50分間インキュベートする。
・70℃で15分間、逆転写酵素を失活させる。
・37℃で1分間インキュベートする。
・バッチ当たり1μlのRNase混合液を添加する。
・RNAを分解するために37℃で30分間インキュベートする。
・氷上でバッチを保存する。
2. バッチのS.N.A.P.精製:
・試料当たり120μlの結合緩衝液を添加する。
・試料をS.N.A.P.カラムに移し、13,000 rpmおよび4℃で20秒間遠心分離する。
・安全のため、スルーフローを氷上で保存する。
・カラム当たり400μlの冷1×洗浄緩衝液を添加し、遠心分離して、スルーフローを捨てる。この手順を3回繰り返す。
・冷70% EtOH 400μlでカラムを2回洗浄し、スルーフローを捨てる。
・膜を乾燥させるために、13,000 rpmおよび4℃で1分間遠心分離する。
・カラムを新しいチューブに移し、65℃に予熱した水50μlをそれぞれに添加する。
・13,000 rpmで20秒間遠心分離し、cDNAを溶出させる(cDNA 3)。
3.dC尾部付加による、cDNA 3の一部に対するポリシトシン尾部の付加:
・以下を一緒にピペットで混合する。
DEPC処理水 6.5μl
5×尾部付加緩衝液 5μl
2 mM dCTP 2.5μl
精製cDNA 10μl
・94℃で2分間インキュベートする。
・氷上で1分間冷却する。
・バッチ当たり1μlのTdT(名称)を添加する。
・dC尾部付加を進行させるため。37℃で10分間インキュベートする。
・65℃で10分間、TdTを失活させる。
・バッチを氷上で冷却する(cDNA 4)。
【0089】
実施例8.3:新たに得られたcDNA断片を増幅するためのPCR
得られたcDNAの量は、その後のさらなる研究のためには少なすぎたので、以下に記載するPCRによりcDNAを増幅した。
【0090】
PCRのため、以下を一緒に氷上でピペットで混合する。
H2O 34.4μl
Expand High Fidelity PCR緩衝液 + MgCl2 5μl
dNTP 1μl
第一プライマー 2μl
第二プライマー 2μl
cDNA 5μl
Taqポリメラーゼ(3.5 U/μl) 0.6μl
【0091】
以下のプライマーの組み合わせを使用した。
cDNA 1: GP_CHY_17_R + 27_F
cDNA 2: GP_CHY_17_R + 27_FおよびUAP + GP_CHY_27_F
cDNA 3: GP_CHY_24_F + 29_R
cDNA 4: GP_CHY_24_F + 29_RおよびUAP + GP_CHY_29_R
【0092】
(UAPを使用する)cDNA 2を用いたバッチについては3' RACEを行い、これに対してcDNA 4を用いたバッチについては5' RACEを行った。
【0093】
PCRは、以下のプログラムに従って行った。

【0094】
次に、試料は、1%アガロース/EtBrゲルを用いて確認した。
【0095】
実施例8.4:ネステッド増幅
このcDNA取得において、単なるPCRは、目に見える量を生成するにはほとんど不十分であったため、ここで「ネステッド(nested)増幅」と称するさらなるPCRを行った。
【0096】
このために、以下を一緒にピペットで混合した。
H2O 36.4μl
Expand High Fidelity PCR緩衝液 + MgCl2 5μl
dNTP 1μl
第一プライマー 1μl
第二プライマー 1μl
PCR 1由来のcDNA(1:100希釈) 5μl
Taqポリメラーゼ(3.5 U/μl) 0.6μl
【0097】
以下のプライマーの組み合わせを使用した。
cDNA 1: GP_CHY_17_R + 26_F(1)およびGP_CHY_17_R + 25_F(2)
cDNA 2-17: GP_CHY_17_R + 26_F(3)およびGP_CHY_17_R + 25_F(4)
cDNA 2-UAP: UAP + GP_CHY_26_F(5)およびUAP + GP_CHY_25_F(6)
cDNA 3: GP_CHY_24_F + 30_R(7)
cDNA 4-24: GP_CHY_24_F + 30_R(8)
cDNA 4-UAP: GP_CHY_24_F + 30_R(9)およびUAP + 30_R(10)
【0098】
続いて、増幅産物は、1%アガロース/EtBrゲルを用いて確認した。
【0099】
次に、ネステッド増幅の産物を上記のようにクローニングし、増幅して、配列決定した。
【0100】
実施例9:組換えモルモットキマーゼの発現
組換えモルモットキマーゼを、例えばピキア・バストリス(Pichia pastoris)などの適切な発現系にクローニングされた配列(配列番号:1)を使用して発現させ、精製した(Nakabuko et al., 2000, Yeast 16(4), 315-23;Takai et al., 1997, Clin. Chim. Acta 265, 13-20;Schechter et al., 1993, J. Biol. Chem. 268, 23626-23633)。
【0101】
実施例9.1:モルモットキマーゼの発現および精製
組換えモルモットキマーゼを、6×Hisタグおよびエンテロキナーゼ切断部位を有する26アミノ酸ポリペプチドとのN末端融合タンパク質として、BL21(DE3)細胞内で発現させた。タンパク質は不溶性の封入体を形成して発現されたため、これを再生する必要があった。単離および精製された封入体を、変性条件下でグルタチオンにより修飾し、次いで6 MグアニジンHCl、20 mM EDTA(pH4.5)中に溶解させた。大量の再折り畳み緩衝液(50 mM Tris/Hcl(pH8.0)、750 mMアルギニン、1 mM EDTA、2 mMシステイン)でタンパク質溶液を1:100希釈することによって、再折り畳みを行った。チオレートアニオン形成およびしたがってジスルフィド交換を促進するため、アルカリ性のpHを選択した。調製物を4℃で2日間保存した。再折り畳み溶液のイオン強度が高いため、最初のクロマトグラフィーの前に、調製物全体を限外ろ過により濃縮して透析する必要があった。透析緩衝液には、50 mM Tris/HCl、300 mM NaCl、および1 mM β-メルカプトエタノールを含めた。同一の緩衝液およびカラムからタンパク質を溶出させるためのイミダゾール勾配を用いたNi-NTAによるクロマトグラフィーによって、不活性のままである未加工のキマーゼが得られた。次いで、エンテロキナーゼを用いてN末端6×Hisタグを切断することにより、酵素を活性化させた。これによって、正確なN末端を有する成熟モルモットキマーゼが形成された。しかし、活性化に加えて、タンパク質の部分的自己消化もまた認められた。キマーゼがpH5.5で不活性であると記載されているので、わずかに酸性であるpH5.5(活性キマーゼが保存されている肥満細胞中のpHに相当する)において、活性化酵素を2回、Superdex 75を用いるクロマトグラフィーに供した。一回目は、50 mM Tris/Hcl(pH8.0)、300 mM NaCl、1 mM TCEP、10%グリセロール中で、二回目は、50 mM MES、300 mM NaCl、1 mM TCEP、10%グリセロール中で、これを行った。最終的には、SDS-PAGEにより示されるように、純度>98%のタンパク質が得られた。精製されたタンパク質は、分析用超遠心分離によって検出されたように、単量体であり、かつ、蛍光アッセイ法において高い活性を示した。
【0102】
実施例10:キマーゼ活性アッセイ法
モルモットキマーゼの活性を常法により測定する(Muramatsu et al., 2000, J. Biol. Chem. 275, page 5546;Uehara et al., 1999, Hypertension 35, page 57;Takai et al., 1997, Clin. Chim. Acta 265, p. 15)。
【0103】
実施例10.1:キマーゼ阻害についてのアッセイ法
キマーゼに対して、キモトリプシン様化合物の標準基質である4アミノ酸ペプチドAAPFを含む基質を選択した(スクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-[7-アミノ-4-メチルクマリン];原稿BA20040074として2004年5月26日に即時公表されたLockhart BE, et al., 「Recombinant human mast-cell chymase: an improved procedure for expression in Pichia pastoris and purification of the highly active enzyme.」 Bitechnol Appl Biochem.)。このペプチドは、Bachem(Bubendorf、Switzerland)により純度95%で合成された。ヒト皮膚肥満細胞から精製されたキマーゼを、Calbiochem(Merck Biosciences、San Diego、California、USA)から入手した。アッセイ緩衝液は、0.15 M NaCl、0.05 M Tris-HCl、0.05% CHAPS、0.1 mg/mlヘパリン(ヘパリンナトリウム、Sigma、ブタ腸粘膜)、0.02 mM AAPF基質、1 nM キマーゼ(pH7.4)とした。アッセイ法は、96ウェルプレート(Packard Optiplate)にて、0.05 ml量を用いて室温で実施した。キマーゼ活性は、基質から放出された遊離7-アミノ-4-メチルクマリンによる340/440 nm(励起/発光)における蛍光増加の初速度によって示した。阻害化合物による活性の阻害を、AAPF基質を含まないアッセイ緩衝液中でキマーゼと共に室温で30分間プレインキュベーションした後に読み取った。次いで、表示した濃度のAAPF基質を添加することにより、アッセイ法を開始した。
【0104】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】モルモットキマーゼの核酸配列(配列番号:1)を示す図である。
【図2】成熟モルモットキマーゼのアミノ酸配列(配列番号:2)を示す図である。
【図3】ヒトキマーゼとモルモットキマーゼとの比較を示す図である。
【図4】ゲノムDNAから単離された最初のモルモットキマーゼ配列を示す図である。
【図5】マウスキマーゼとクローニングされたモルモット配列との配列比較を示す図である。
【図6】モルモットキマーゼcDNAを増幅およびクローニングするためのプライマーの位置を示す図である。
【図7】cDNAに由来するモルモット配列を示す図である。
【図8】モルモットキマーゼとハムスターキマーゼ1および2との比較を示す図である。
【図9】モルモットキマーゼのさらなる配列をクローニングするためのプライマーの位置を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1の配列を含む核酸配列。
【請求項2】
核酸配列が配列番号:1の配列である、請求項1記載の核酸配列。
【請求項3】
配列番号:2の配列を含むポリペプチド配列。
【請求項4】
配列番号:2の配列である、請求項3記載のポリペプチド配列。
【請求項5】
請求項3または4記載のポリペプチド配列をコードする核酸配列を含む、核酸配列。
【請求項6】
請求項1、2、または5のいずれか一項記載の核酸配列を含む、発現ベクター。
【請求項7】
請求項6記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項8】
少なくとも一方の対立遺伝子が、変異キマーゼ遺伝子の相同組換えにより機能的に妨害されており、この機能妨害によってモルモット細胞における機能的キマーゼ遺伝子の発現が阻害される、変異キマーゼ遺伝子を含む体細胞および生殖細胞を有するモルモット。
【請求項9】
a) 化合物を、請求項3または4記載の単離されたポリペプチドと接触させる段階;および
b) モルモットキマーゼの活性を決定する段階
を含む、キマーゼの活性を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、モルモットキマーゼの活性を阻害または促進する化合物が、モルモットキマーゼの活性を調節する化合物である、方法。
【請求項10】
a) 化合物を、請求項7記載の宿主細胞と接触させる段階;および
b) 宿主細胞中で発現されるモルモットキマーゼの活性を決定する段階
を含む、キマーゼの活性を調節する化合物を同定する方法であって、モルモットキマーゼの活性を阻害または促進する化合物が、モルモットキマーゼの活性を調節する化合物である、方法。
【請求項11】
a) 化合物をモルモットに投与する段階;および
b) モルモットキマーゼの活性を決定する段階
を含む、キマーゼの活性を調節する化合物を同定する方法であって、モルモットキマーゼの活性を阻害または促進する化合物が、モルモットキマーゼの活性を調節する化合物である、方法。
【請求項12】
a) 化合物をモルモットに投与する段階;
b) PAODを引き起こす段階;および
c) PAODの程度を決定する段階
を含む、PAODを抑制する化合物を同定する方法であって、PAODを抑制する化合物が、段階b)によって引き起こされるPAODの程度の低下をもたらす化合物である、方法。
【請求項13】
PAODが、ラウリン酸の投与によって、バルーンカテーテルによる血管傷害を通して、または高脂肪食の摂取によって引き起こされる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
a) モルモットキマーゼを阻害する化合物をモルモットに投与する段階;
b) 喘息を引き起こす段階;および
c) 喘息の程度を決定する段階
を含む、喘息に有効な化合物を同定する方法であって、喘息を阻害する化合物が、段階b)によって引き起こされる喘息の程度の低下をもたらす化合物である、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−20570(P2007−20570A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190158(P2006−190158)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】