説明

モータを可変速駆動装置にホット接続する方法

【課題】過大電流を起こさないで、追加のモータをホット接続すること。
【解決手段】第1のモータM1を可変速駆動装置Dから切断するステップと、少なくとも1つの第1のモータM1の状態推定器を、少なくとも1つの第1のモータM1の予め確立された負荷モデルに基づいて初期設定するステップであって、前記状態推定器が、少なくとも1つの第1のモータM1の推定状態の、時間にわたる進展を計算することが可能であり、推定状態が、少なくとも1つの第1のモータM1の少なくとも速度を含むステップと、追加のモータM2を可変速駆動装置Dに接続するステップと、少なくとも1つの第1のモータM1の推定状態に達する指令を用いて、追加のモータM2を始動するステップと、追加のモータの状態が、少なくとも1つの第1のモータM1の推定状態に達したときに、前記少なくとも1つの第1のモータM1を再接続するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、追加のモータを、既に負荷状態にあり、且つ、少なくとも1つの他のモータに接続された可変速駆動装置に接続する方法に関する。本発明による方法は、少なくとも1つの第1のモータに電力供給する前記可変速駆動装置の短絡、または当技術分野の用語によればバイパス(bypass)のない、追加のモータのホット接続(hot connecting)を提供する。
【背景技術】
【0002】
既知の対応では、単一の可変速駆動装置で、いくつかのモータ、少なくとも非同期モータを並列に管理することができる。
【0003】
特許出願EP1426620は、かかるシステムの例を記載している。追加のモータを、既に負荷状態にある第1のモータと並列に、全く同一の可変速駆動装置にホット接続することを可能とするために、文献EP1426620は、特に、第1のモータを可変速駆動装置から切断すること、およびその第1のモータを電力供給網に接続することを含む方法を開示している。その後、追加のモータが、可変速駆動装置に接続される。この方法は、従来技術を代表するものであり、いくつかの欠点を示す。
【0004】
第1に、この既知の文献によれば、第1のモータが全負荷状態にあり、より多くのパワーが必要とされる場合に、追加のモータを接続する必要が生じる。この場合、第1の段階の間、第1のモータは、可変速駆動装置から切断され、その第1のモータが全出力で動作し続けるように、電力供給網に接続される。第2の段階の間、追加のモータが、可変速駆動装置に接続される。この方法では、第1のモータの可変速駆動装置からの制御が損なわれることになる。さらに、第1の段階の間、第1のモータを電力供給網に接続することによって、電流スパイクが発生する。
【0005】
従来技術から知られる変形形態は、全てのモータを可変速駆動装置の出力に接続させることにある。この場合、モータは恒久的に制御可能なままとなる。この種の方式の現況技術では、前記モータを停止する段階を経て、モータの追加または取外しを提供する。特定のシーケンスなしに、追加のモータを可変速駆動装置に直接ホット接続すると、重大となり得ると共に前記追加のモータの損傷を引き起こしかねない電流スパイクを引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1426620号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、本質的に、システムのいかなる停止も必要とせず、既に負荷状態にある1つのモータまたは複数のモータ用の可変速駆動装置のいかなるバイパスも伴わず、且つ、特に、追加のモータを損傷し得るいかなる重大な電流スパイクも引き起こさない、追加のモータを可変速駆動装置にホット接続する解決策を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的で、本発明の主題は、負荷状態にあり、前記可変速駆動装置によって制御される少なくとも1つの第1のモータと並列に、追加のモータを、可変速駆動装置に接続する方法であり、本発明によるこの方法は、有利には、
− 少なくとも1つの第1のモータを可変速駆動装置から切断するステップと、
− 少なくとも1つの第1のモータの状態推定器(state estimator)を、前記少なくとも1つの第1のモータの予め確立された負荷モデルに基づいて実行する(実装する)(implementing)ステップであって、前記状態推定器が、少なくとも1つの第1のモータの推定状態(estimated state)の、時間にわたる進展(evolution over time)を計算することが可能であり、前記推定状態が、前記少なくとも1つの第1のモータの少なくとも速度を含む、ステップと、
− 追加のモータを可変速駆動装置に接続するステップと、
− 少なくとも1つの第1のモータの推定状態に達する指令を用いて、追加のモータを始動するステップと、
− 追加のモータの状態が、少なくとも1つの第1のモータの推定状態に達したときに、前記少なくとも1つの第1のモータを再接続するステップと、
を含む。
【0009】
有利には、本発明による方法は、少なくとも1つの第1のモータを再接続するステップの前に、追加のモータを切断するステップをさらに含み、その後、少なくとも1つの第1のモータを再接続するステップとほぼ同時に、追加のモータを再接続するステップをさらに含むことができる。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの第1のモータの状態推定器は、前記少なくとも1つの第1のモータの推定状態の、時間にわたる進展を計算することが可能であり、前記推定状態は、前記少なくとも1つの第1のモータの速度に加えて、前記少なくとも1つの第1のモータの電束を含む。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの第1のモータの状態推定器は、前記少なくとも1つの第1のモータの推定状態の、時間にわたる進展を計算することが可能であり、前記推定状態は、前記少なくとも1つの第1のモータの速度に加えて、前記少なくとも1つの第1のモータの回転子の角度を含む。
【0012】
本発明によれば、前記少なくとも1つの第1のモータは、並列に接続された複数のモータからなることができる。
【0013】
他の特徴および利点が、添付の図面に関して行われる以下の詳細な説明にて明白となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】少なくとも2つのモータを並列に制御する可変速駆動装置を備えるシステムの基本的な図である。
【図2】本発明による方法の時間的シーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照すると、供給網(supply network)Pによって電力供給される可変速駆動装置Dが、2つのモータM1、M2に、2つのそれぞれの接触器S1、S2によって並列に接続されている。本発明による方法は、追加のモータM2を始動する指示が与えられたときに、可変速駆動装置Dに接続された第1のモータM1が負荷状態にある場合に行われる。本発明は、第1のモータM1と追加のモータM2とが、前記追加のモータM2に対し危険となり得る何らかの電流スパイクを生じる追加のモータM2のホット接続なしに、可変速駆動装置Dに接続される状況に達することを可能とするシーケンスを提案する。
【0016】
図2は、本発明による方法の時間的シーケンスを示す。
【0017】
先に述べられたように、本発明による方法は、少なくとも1つの第1のモータM1が、負荷状態にあり、時点t1から始動され、且つ、可変速駆動装置Dによって制御され、そして、前記少なくとも1つの第1のモータM1と並列に追加のモータM2を始動する指示が時点t2で与えられる状況において実施される。
【0018】
第1のモータM1または追加のモータM2などのモータの全ての状態(complete state)は、以下の式によって与えられる。前記モータの機械的状態(速度、角度)、および電気的状態(電束、電流)に関して、以下の式が満たされる。
【数1】

【0019】
ここで、
【数2】

また、
ω:回転子回転速度
θ:回転子角度
ω:固定子回転速度
:固定子電流
:印加電圧
φ:回転子磁束
モータ・パラメータは、以下の通りである。
:固定子抵抗
:漏れインダクタンス
req:等価回転子抵抗
【数3】

ここで、
:回転子抵抗
:相互インダクタンス
:回転子インダクタンス
:回転子時定数
【数4】

J:回転子のイナーシャ(慣性)
:極対数
【0020】
この例では、本発明による方法は、連続したステップの組を含み、そのシーケンスが図2に示されている。
【0021】
第1のステップは、前記少なくとも1つの第1のモータM1を、時点t2で、追加のモータM2を始動する指示が与えられる瞬間に切断することにある。したがって、図2の図表によって示されるように、少なくとも1つの第1のモータM1の速度は低減し、少なくとも1つの第1のモータM1の電束は極めて急速に低減し、少なくとも1つの第1のモータM1の電流は消失する。
【0022】
第1のモータM1に存在する電流が消失することによって、式(1)、(2)、および(3)は、以下の通りになる。
【数5】

ここで、
【数6】

【0023】
既知の方法によって既に確立されている推定器が、前記少なくとも1つの第1のモータM1の推定状態の時間にわたる進展(経時的な変化)を計算する。この推定状態は、少なくとも1つの第1のモータM1の少なくとも速度を含む少なくとも1つの機械的成分を示す。この機械的成分は、考慮される用途の負荷トルク・モデルに基づいて推定される。例えば、ファンの負荷トルクは、kのような形を示し、ここでwは、前記ファンのモータの速度である。機械的状態はまた、段階の変更の間、いかなる電流スパイクも生じずに、提案されたシーケンスを最適に動作させるための少なくとも1つの第1のモータM1の回転子の角度を含むことができる。
【0024】
推定器によって計算される推定状態はまた、少なくとも1つの第1のモータM1の電束および/または少なくとも1つの第1のモータM1の電流強度を含む電気的成分も示すことができる。
【0025】
追加のモータM2を始動する指示が与えられる時点t2とほぼ同じ時点で、すなわち同時に、または直前もしくは直後に、追加のモータM2は、最初にゼロ速度指令(zero speed directive)を用いて、その後、少なくとも1つの第1のモータM1の推定状態に向ける包括的指令(全体的な指令)(global directive)を用いて、可変速駆動装置Dに接続される。少なくとも1つの第1のモータM1の推定状態に向けることは、追加のモータM2を、ある時点で、適切な指令を介して、同じ時点における少なくとも1つの第1のモータM1の速度に等しい速度に最小限で達することにある。
【0026】
最適な動作のために、第1のモータM1の推定状態に向けることは、追加のモータM2が、第1のモータM1の推定速度、推定角度および推定電束に達することにある。したがって、接触器が閉じている間は、過電流は生成されず、且つ、第1のモータM1及び追加のモータM2の状態(電流、電束、速度、角度)が、どの瞬間においても、制御されている。
【0027】
第1のモータM1の再接続と、追加のモータM2の再接続とをほぼ同時に行うと、式(1)、(2)、および(3)は、以下のように記載され得る。
【数7】

ここで、
【数8】

【0028】
誘導モータの枠組みの範囲内では、切断中、電束の振幅はかなり急速に降下するので、少なくとも1つの第1のモータM1の残留電束が小さくなることを保証するために、追加のモータM2の接続が、少なくとも1つの第1のモータM1の第1の切断後、十分に長い時間をおいて行われるという条件では、単に速度を同期させるだけで既に電流スパイクをかなり低減させることが可能となる。永久磁石同期モータの枠組みの範囲内では、電束の振幅は固定されており、追加のモータM2の角度および速度を、少なくとも1つの第1のモータM1の角度および速度と同期させる必要があり、電束は制御されないが、同一とみなされる。
【0029】
追加のモータM2の状態が、少なくとも1つの第1のモータM1の推定状態に達する時点t3’から直ちに、前記少なくとも1つの第1のモータM1は、可変速駆動装置Dに再接続される。
【0030】
好ましい実施形態によれば、前記少なくとも1つの第1のモータM1を可変速駆動装置Dに再接続する前に、追加のモータM2は、少なくとも1つの第1のモータM1と追加のモータM2とが時点t3’で可変速駆動装置Dに同時に再接続される前の時点t3で、可変速駆動装置Dから一時的に切断される。このように、再接続の瞬間では、少なくとも1つの第1のモータM1と追加のモータM2とは、追加のモータM2の電流強度が切断によってゼロまで低減されているので、それらのモータを流れる電流の同じ強度を示す。したがって、モータM1とM2の2つの全ての状態(速度、角度、電束、電流)は、完全に等しい。
【0031】
少なくとも1つの第1のモータM1と追加のモータM2とがどちらも可変速駆動装置Dに接続される時点t3’から考えると、両モータとも、前記可変速駆動装置Dによって同時に制御される。
【0032】
要約すると、本発明は、追加のモータを、可変速駆動装置に、既に負荷状態にある少なくとも1つの第1のモータと並列にホット接続する方法を示す。
【0033】
本発明による方法を実施するには、前記少なくとも1つの第1のモータは、等価なモータであるとみなされる複数のモータの組でよいことに留意すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
追加のモータ(M2)を可変速駆動装置(D)に、負荷状態にあり前記可変速駆動装置(D)によって制御される少なくとも1つの第1のモータ(M1)と並列に接続する方法であって、
前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)を前記可変速駆動装置(D)から切断するステップと、
前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の状態推定器を、前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の予め確立された負荷モデルに基づいて実行するステップであって、前記状態推定器は、前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の推定状態の時間にわたる進展を計算することが可能であり、前記推定状態は、前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の少なくとも速度を含む、ステップと、
前記追加のモータ(M2)を前記可変速駆動装置(D)に接続するステップと、
前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の前記推定状態に達する指令を用いて、前記追加のモータ(M2)を始動するステップと、
前記追加のモータ(M2)の状態が、前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の前記推定状態に達したときに、前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)を再接続するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)を再接続する前記ステップの前に、前記追加のモータ(M2)を切断するステップをさらに含み、その後、前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)を再接続する前記ステップとほぼ同時に、前記追加のモータ(M2)を再接続するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の前記状態推定器が、前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の前記推定状態の時間にわたる進展を計算することが可能であり、前記推定状態が、それの速度に加えて、前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の電束を含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の前記状態推定器が、前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の前記推定状態の時間にわたる進展を計算することが可能であり、前記推定状態が、それの速度に加えて、前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)の回転子の角度を含むことを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第1のモータ(M1)が、並列に接続された複数のモータからなることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−21908(P2013−21908A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−150441(P2012−150441)
【出願日】平成24年7月4日(2012.7.4)
【出願人】(502363191)シュネーデル、トウシバ、インベーター、ヨーロッパ、ソシエテ、パル、アクション、セプリフエ (42)
【氏名又は名称原語表記】SCHNEIDER TOSHIBA INVERTER EUROPE SAS
【Fターム(参考)】