説明

モータ制御システムおよびモータ制御方法

【課題】高効率で高信頼なモータ制御システムおよびモータ制御方法を提供する。
【解決手段】複数組の電機子巻線1−A、1−B、1−C、1−Dをもつ交流モータ1と、各電機子巻線組を駆動する複数のインバータ11A、11B、11C、11Dと、各インバータを個別に制御する複数の制御装置を備え、モータトルク指令τcに対応してトルク指令が最も小さい範囲では、インバータ11Aを動作させ、電機子巻線1−Aに電流を流し、トルク指令がその上の範囲では、インバータ11Aと11Bを動作させ、電機子巻線1−Aと1−Bに電流を流し、トルク指令がさらにその上の範囲では、インバータ11Aと11Bと11Cを動作させ、電機子巻線1−Aと1−Bと1−Cに電流を流し、さらにトルク指令が最も大きい範囲では、すべてのインバータを動作させ、すべての電機子巻線に電流を流し、トルク指令に応じてインバータおよび/または各電機子巻線組の駆動数を順次変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大容量モータのモータ制御システムおよびモータ制御方法に係り、特に複数組の電機子巻線をもつモータの各巻線がそれぞれのインバータで駆動されるモータ制御システムおよびモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス機械や工作機械で大容量サーボモータが必要とされてきている。これらのモータは1台のモータに複数組の電機子巻線を設け、これを複数のインバータで駆動される。図25は1つの交流モータ1に4組の電機子巻線1−A、1−B、1−C、1−Dを設けた場合の従来例で、各巻線のそれぞれを4つのインバータ11A、11B、11C、11Dで駆動し、これらを制御装置2で制御している。4つのインバータで4組の電機子巻線に電流を流すので、1台のインバータでは制御困難な大容量駆動、あるいは安価な汎用的なインバータを用いて大容量駆動が実現できる。上記のような技術文献としては、特許文献1(特開2008−43046号公報)、特許文献2(特開平8−289587号公報)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−43046号公報
【特許文献2】特開平8−289587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、複数のインバータを用いているが、1台のインバータで駆動するのと等価な特性が得られるように制御するために、各巻線には同一の電流を流して(特許文献2に記載)、各巻線間の電流不平衡をなくすことに力点がおかれている。従って、各インバータはトルクの大小に関係なく均等に駆動され、各巻線には駆動電流が均等に流されている。
【0005】
プレス機械や工作機械の運転は、被加工物を機械に搬入、機械から搬出するための待機運転と、実際に加工する加工運転に分けられる。加工運転は被加工物を加工するための大トルクをする運転であり、待機運転は一定速の運転であれば、小トルクである。また、待機運転から加工運転に遷移するときに、速度を変える場合にはやや大きなトルクが必要な遷移運転もある。また、待機運転の時間的な割合も大きなことも多い。このように、プレス機械や工作機械は様々なトルクを必要とされる運転を行なう。上記従来技術は、常に全インバータが均等に駆動され、全巻線にはトルクに応じた電流が均等に流れるので、トルクが必要ではない待機運転時もインバータが駆動され、省エネの点で改善の余地がある。
【0006】
一方、複数の電機子巻線組を複数のインバータで駆動するとき、各電機子巻線電流を自由に制御したり、各インバータ自体を制御的に動作させたり停止することができる自由度がある。これを利用すれば、複数電機子巻線組のモータを複数インバータで駆動することによって、高効率あるいは、高信頼の駆動が考えられるが、特許文献1や2には、低損失駆動による省エネ運転や高信頼駆動については考慮されていない。
【0007】
本発明は、前記課題に対してなされたもので、その目的とするところは、高効率で高信頼な大容量モータ駆動に適したモータの制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、複数組の電機子巻線をもつモータと、上記各組の電機子巻線を個別に駆動する複数のインバータと、モータ駆動指令を受けて、上記各インバータを個別に動作制御する複数の制御装置を備えたモータ制御システムにおいて、
トルク指令または位置指令のモータ駆動指令を受けて、この駆動指令の大きさに応じた複数の動作ステージに判別してステージ信号を出力する動作切替制御部と、
上記動作切替制御部からのステージ信号を受けて、上記駆動指令の各インバータが分担するトルクの割合のゲインを決めて対応する上記制御装置に出力するゲイン切替部を設け、
上記各制御装置は、上記ゲイン切替部で決められたゲインに基いて対応するインバータを駆動制御または停止制御することにより、上記駆動指令の大きさに応じた必要数のインバータを駆動制御することを特徴とする。
【0009】
従って、待機運転などにおいては必要最少のインバータの運転で済み、低損失の省エネ駆動で高効率運転が行える。
【0010】
また、上記モータ制御システムにおいて、上記動作切替制御部は、各動作ステージの切換点がモータの損失が少なくなる所定の大きさに設定されていることを特徴とする。従って、損失を最小にして運転できるので、さらに高効率な駆動が行なえる。
【0011】
また、上記モータ制御システムにおいて、上記ゲイン切替部は、上記動作ステージに応じて、駆動インバータが交代するように対応の制御装置にゲインを出力することを特徴とする。従って、インバータまたは電気子巻線が発生する損失を均一化するように切替えられるので、インバータまたは電気子巻線が偏って運転されることなく、高信頼の駆動が行なえる。
【0012】
また、上記モータ制御システムにおいて、上記ゲイン切替部と上記制御装置との間に、対応する電機子巻線の最大トルクを超えないようにゲインを制限するリミッタを介在させたことを特徴とする。従って、電機子巻線を保護することで、動作信頼性が高まる。
【0013】
また、上記モータ制御システムにおいて、上記ゲイン切替部は、インバータがモータの周方向に対称位置にある電機子巻線に同時に電流を流すように対応の制御装置にゲインを出力することを特徴とする。電機子巻線の駆動組数を切り替えても、常にバランスのよいモータ駆動が行える。
【0014】
また、上記モータ制御システムにおいて、上記インバータと電機子巻線の間にスイッチを設け、上記動作切替制御部からのステージ信号により駆動するインバータに接続されたスイッチを閉とし、非駆動のインバータに接続されたスイッチを開とすることを特徴とする。インバータをPWM制御部で制御する場合は、動作するPWM制御部では当該のスイッチを閉とし、停止するPWM制御部では当該のスイッチを開とする。従って、モータ電気子巻線からインバータへの電流の流れ込みを確実に防止でき、損失低下を図ることができる。
【0015】
また、上記モータ制御システムにおいて、上記ゲイン切替部は動作するインバータを切替るに際し、ゲインの大きさを徐々に変化させて対応の制御装置に出力することを特徴とする。電機子巻線の駆動組数を切り替えるとき、モータのトルク変動のない駆動が行える。
【0016】
また、本発明は、上記ゲイン切替部の前記ゲインの値は、全トルク指令領域に亘ってトルク指令とモータ発生全トルクの比がほぼ同じようになるように設定することを特徴とする。トルク指令に対する実発生トルクの線形性を保つことができる。
【0017】
また、前記インバータを制御するPWM制御部をもち、前記トルク指令に応じてインバータ駆動数を変えるとき、各PWM制御部の動作、停止を制御することを特徴とする。インバータの動作、不動作を確実にかつ簡易に実施することができる。
【0018】
また、駆動割合が時間的に長いインバータはその定格を増大させることを特徴とする。長時間駆動による損失発生が大きな部位の冷却が確実に行えるので、高信頼な駆動が行える。
【0019】
また、前記トルク指令に応じたインバータ駆動数の切替時にインバータから電機子巻線への出力接続を切替え、各電機子巻線には常時電流を流し、該トルク指令に応じてインバータ駆動数だけを変更することを特徴とする。電機子巻線の銅損失の大きなモータに対して、全体の損失を小さくして、高効率な駆動が行える。
【0020】
また、前記トルク指令に応じた駆動数の切替では、駆動停止させたインバータを他のインバータで代替させることを特徴とする。万一、インバータが故障したときにも確実に運転を継続でき、高効率で高信頼な駆動が行える。
【0021】
また、複数モータで駆動する装置にも適用し、複数モータ全体で上記記載の制御を実行することを特徴とする。さらなる大容量駆動に対しても、高効率で高信頼な駆動が行える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、大容量モータの運転において、低損失駆動による省エネを図ると共に運転の高信頼性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1の制御ブロック図である・
【図2】本発明の実施例1の制御要素の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例1の動作説明図である。
【図4】本発明の実施例1の制御方法を説明する表である。
【図5】本発明の実施例2〜6、7、9、12,13に利用する制御ブロック図である。
【図6】本発明の実施例2の動作説明図である。
【図7】本発明の実施例2の制御方法を説明する表である。
【図8】本発明の実施例2の特性図である。
【図9】本発明の実施例3の動作説明図である。
【図10】本発明の実施例3の制御方法を説明する表である。
【図11】本発明の実施例4の制御方法を説明する表である。
【図12】本発明の実施例5の制御方法を説明する表である。
【図13】本発明の実施例6の制御要素の動作を示すフローチャートである。
【図14】本発明の実施例8に利用する制御ブロック図である。
【図15】本発明の実施例8の制御方法を説明する表である。
【図16】本発明の実施例9に利用する制御ブロック図である。
【図17】本発明の実施例9の動作説明図である。
【図18】本発明の実施例9の制御方法を説明する表である。
【図19】本発明の実施例10の制御方法を説明する表である。
【図20】本発明の実施例11に利用する制御ブロック図である。
【図21】本発明の実施例12の動作説明図である。
【図22】本発明の実施例13の制御方法を説明する表である。
【図23】本発明の実施例14に利用する制御ブロック図である。
【図24】本発明の実施例14の制御方法を説明する表である。
【図25】従来例を示す装置構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図25を用いて説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は本発明の実施例1に利用する制御ブロック図である。1は交流モータで、4組の電機子巻線1−A、1−B、1−C、1−Dがステータの全周に均等にずらして設けられている。交流モータ1には、図示しない回転子に永久磁石が装着された永久磁石同期モータが適用される。それぞれの電機子巻線は、対応するインバータ11A、11B、11C、11Dで駆動される。交流モータ1の発生トルクのトータルは、指令部21からモータトルク指令(モータ駆動指令)τcを受け、トルク指令τcの大きさに比例したトルクになるように、複数の制御装置により各インバータが個別に駆動制御される。前記トルク指令τcを出す指令部21は、例えば、図示しない周知の回転位置指令部、位置制御部、速度制御部の演算から得られる。以下、図1に示される複数の制御装置の構成と動作について述べる。
【0026】
トルク指令τcは、ゲイン切替部23a、23b、23c、23dに入力される。ゲイン切替部は、それぞれ各インバータ11A、11B、11C、11Dの出力電流を制御するゲインを決める。このゲインは、トルク指令τcに対する各巻線が発生するモータトルクの割合である。ここでは、トルク指令τcを100%とし、モータ1から発生する全トルクを100%としたとき、トルク指令τcを各巻線が負担(分担)するトルク割合がゲインの値である。ゲイン切替部23は、動作切替制御部22で決められた動作ステージI〜IVに対応してゲインを決めるが、その制御は後述する。
【0027】
ゲイン切替部23aから出力されるゲインは、電機子巻線1−Aの発生トルクを指令する信号で、リミッタ部51aに入力される。リミッタ部51aは、電機子巻線1−Aの発生トルクがその巻線の最大トルクを越えないようにトルク指令を制限する。電機子巻線1−Aへのトルク指令が+100%以上、または、−100%以下のとき、それぞれ出力は+100%、−100%に制限され、電機子巻線1−Aへのトルク指令が+100%〜−100%のとき、ゲイン切替部23aの値がリミッタ部51aの出力となる。リミッタ部51aの出力は電機子巻線1−Aが負担(分担)する実トルク指令τcaである。リミッタ部51aからの実トルク指令τcaは、d/q軸電流指令部24aに入力され、トルク指令に適する交流モータ1の電機子巻線1−Aのd軸電流、q軸電流を指令する信号が出力される。
【0028】
d/q軸電流指令部24aの動作は、例えば、d軸電流指令を零とし、q軸電流指令を実トルク指令τcaに比例させる方式がある。あるいは、実トルク指令τcaと、その時のモータ回転速度をパラメータとして、モータが高効率運転するようにd/q軸電流指令を出す方式などいくつかの方式がある。詳述は省略するが、ここでは、d軸電流指令を零とし、q軸電流指令を実トルク指令に比例させる方式として以下説明する。他のd/q軸電流指令方式でも各実施例に適用できる。
【0029】
d/q軸電流指令部24aからのd/q軸電流指令Idca/Iqcaはd/q軸電流制御部25aに入力される。一方、インバータ11Aからのu、v相の出力交流電流iua/ivaは電流検出器28aで、フィードバック信号iufa/ivfaとして検出される。電流検出器28aで検出された信号は、座標変換部29aでd/q軸上のd/q軸電流検出信号Idfa/Iqfaに変換される。d/q軸電流制御部25aは、d/q軸電流指令部24aからの指令信号と座標変換部29aからのフィードバック信号によって動作し、d/q軸の電圧を指令する信号を出力する。この信号は座標変換部26aを介して静止座標系の電圧指令信号Vuca、Vvca、Vwcaに変換され、PWM制御部27aに入力される。PWM制御部27aではPWM制御信号が生成され、このPWM制御信号によりインバータ11AがPWM制御される。こうして、電機子巻線1−Aの電流はトルク指令τcaに応じて電流制御される。
【0030】
これら図1に示したd/q軸電流指令部24a、d/q軸電流制御部25a、座標変換部26a、PWM制御部27a、電流検出器28a,座標変換部29aにより構成される制御装置(ベクトル制御部)201aによって、インバータ11Aを制御して電機子巻線1−Aの交流電流を制御する。この方式は交流モータのベクトル制御として周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0031】
ゲイン切替部23bの出力は、電機子巻線1−Bの発生トルクを指令する信号で、リミッタ部51bに入力される。リミッタ部51bの出力は電機子巻線1−Bが負担する実トルク指令τcbである。リミッタ部51bの出力からPWM制御部27bへの制御構成は、上述の巻線1−Aを制御する構成と同じであり、図1では破線のベクトル制御部201bで示す。
【0032】
ゲイン切替部23cの出力は電機子巻線1−Cの発生トルクを指令する信号で、リミッタ部51cに入力される。リミッタ部51cの出力は電機子巻線1−Cが負担する実トルク指令τccである。リミッタ部51cの出力からPWM制御部27cへの制御構成は、上述の巻線1−Aを制御する構成と同じであり、図1では破線のベクトル制御部201cで示す。
【0033】
ゲイン切替部23dの出力は電機子巻線1−Dの発生トルクを指令する信号で、リミッタ部51dに入力される。リミッタ部51dの出力は電機子巻線1−Dが負担する実トルク指令τcdである。リミッタ部51dの出力からPWM制御部27dへの制御構成は、上述の巻線1−Aを制御する構成と同じであり、図1では破線のベクトル制御部201dで示す。
【0034】
なお、図1の例では交流モータ1の電流制御はインバータ11で実施したが、交流電源から直接に可変電圧、可変周波数を得る変換器、いわゆるマトリックスコンバ−タを利用してもよい。本発明では、上記マトリックスコンバ−タを含めてインバータと称する。
【0035】
次に本実施例(本発明)の特徴である各電機子巻線の通電状態を決める動作切替制御部22について述べる。指令部21からのトルク指令τcが動作切替制御部22に入力され、動作切替制御部22の指令により、各電機子巻線1−A、1−B、1−C、1−Dの動作状態を決める。図2は動作切替制御部22の動作を示すフローチャートである。すなわち、動作切替制御部22で、トルク指令τcの大きさに応じて動作ステージがI、II、III、IVのどこにあるかを判別する。
【0036】
図2に従い、動作切替制御部22の制御内容を詳しく述べる。ここでは、トルク指令τcの最大値を100%とする。動作切替制御部22がスタートすると(S1001)、まず、トルク指令τcを読み込み(S1002)、トルク指令τcの絶対値が25%以内かを判別する(S1003)。25%以内(S1003でYes)ならば、ステージIとして(S1007)、ステージI信号(動作指令信号)が出力される。
【0037】
25%以内でない(S1003でNo)ならば、トルク指令τcの絶対値が50%以内かを判別する(S1004)。50%以内(S1004でYes)ならば、ステージIIとして(S1008)、ステージII信号が出力される。
【0038】
50%以内でない(S1004でNo)ならば、τcの絶対値が75%以内かを判別する(S1005)。75%以内(S1005でYes)ならば、ステージIIIとして(S1009)、ステージIII信号が出力される。
【0039】
75%以内でない(S1005でNo)ならば、ステージIVとして(S1006)、ステージIV信号が出力される。
【0040】
以上のようにして、トルク指令τcに対する動作ステージI〜IVを決め、対応のステージ信号を出力して終了する(S1010)。
【0041】
上記S1001〜S1010の一連の動作は所定周期で繰返して実行され、トルク指令τcに変化が有れば、その変化に対応して最新のステージを検出して、ステージ信号を更新する。
【0042】
ゲイン切替部23は、上記ようにして決められた動作ステージI〜IVに対応したステージ信号を受信することにより、ステージに対応したゲインを決め、PWM制御部27の動作状態を決める。図4はトルク指令τcの大きさに応じた動作切替制御部22からのステージ信号の受信に基く、ゲイン切替部23とPWM制御部27の動作を表わす。トルク指令τcの最大値を100%とし、動作切替制御部22で判別した動作ステージI、II、III、IVに対応した各ゲイン切替部23a、23b、23c、23dのゲインの値(トルク指令の演算式)と、各PWM制御部27a、27b、27c、27dでPWM制御の実施(動作)か否(停止)かを示す。
【0043】
図4のように設定したときの動作説明は後述するが、ゲイン切替部23でゲイン値が0以外の値のとき、PWM制御は実施(動作)され、ゲイン値が0のとき、PWM制御は実施しない(停止)。インバータのスイッチング動作はPWM制御信号により実施されるので、PWM制御を行うときはインバータは動作し、PWM制御を行わないときはインバータ11の動作も停止する。PWM制御を実施するかどうかによって、インバータ11の動作、停止を決める。こうすることによりインバータ11の動作、不動作を確実にかつ簡易に実施することができるので、動作信頼性が高まる。あるいは、PWM制御部27を介さずにインバータ11の動作、不動作を直接に指令もよい。
【0044】
以上のように、トルク指令τcの大きさに応じて動作ステージがIからIVに切替わり、ステージ番号がIからIVに大きくなるにつれて動作するインバータ数や電流を流す電機子巻線数が増加する。
【0045】
この制御を実施した場合の、各インバータの動作/停止と各電機子巻線への電流の流れ方の例を図3に示し、トルク指令(0〜100%)に対して、各電機子巻線電流(大きさ)がその巻線組の最大電流を100%としたとき、どのよう流れるかを示す。
【0046】
ゲイン切替部23の演算を図1、図3、図4の例で示す。電機子巻線1−Aを例にとると、トルク指令τc(%)、ゲイン切替部23aのゲインKa(%)、トルク指令τca(%)、q軸電流指令Iqca(%)、電機子電流の大きさをIa(%)とする。各電機子巻線の実トルク指令に比例させてその巻線の電流を流すので、リミッタ51aが動作しない範囲では、
τca=Ka×τc/25 式1
Ia=Iqca=τca 式2
である。他の巻線も同様の関係である。
【0047】
図3から分かるように、トルク指令τcが0〜25%のとき、動作切替制御部22はステージIと判定する。ステージIでは、図4のようにゲイン切替部23aのゲイン値は100%で、他のゲイン切替部はゲイン値がゼロとなる。PWM制御部27aだけが動作するようにステージI信号が出力され、インバータ11Aだけが動作し、他のインバータは動作停止する。したがって、電機子巻線1−Aだけに、トルク指令τcの0〜25%の変化に比例した0〜100%の電流が流れる。
【0048】
次に、トルク指令が25〜50%のとき、動作切替制御部22はステージIIと判定してステージII信号を出力する。ステージII信号に基き、ゲイン切替部23aのゲイン値は100%、ゲイン切替部23bのゲイン値は、演算式(上式とはやや違い)τcb=(τc−25)×100/25(%)となり、ゲイン切替部23c、23dのゲイン値はゼロとなる。これに伴い、PWM制御部27a、27bが動作してインバータ11A、11Bが動作し、他のインバータは動作停止する。電機子巻線1−Aの電流は、リミッタ部51aの動作により100%に維持され、電機子巻線1−Bにはトルク指令τcの25〜50%の変化に比例して0%から100%の電流が流れる。電機子巻線1−C、1−Dには電流は流れない。
【0049】
さらに、トルク指令が50〜75%のとき、動作切替制御部22はステージIIIと判定してステージIII信号を出力する。ステージIII信号に基き、ゲイン切替部23a、23bのゲイン値は100%、ゲイン切替部23cのゲイン値は、演算式τcc=(τc−50)×100/25(%)となり、23dのゲイン値はゼロである。また、PWM制御部27a、27b、27cが動作するので、インバータ11A、11B、11Cが動作し、残りのインバータ11Dは動作停止する。電機子巻線1−A、1−Bの電流はリミッタ部51a、51bの動作で100%に維持され、電機子巻線1−Cにはトルク指令に比例して0%〜100%の電流が流れる。電機子巻線1−Dには電流は流れない。
【0050】
さらに進んで、トルク指令が75〜100%のとき、動作切替制御部22はステージIVと判定してステージIV信号を出力する。ステージIV信号に基き、ゲイン切替部23a、23b、23cのゲイン値は100%で、ゲイン切替部23dのゲイン値は演算式τcd=(τc−75)×100/25(%)である。これに伴い、PWM制御部27a、27b、27c、27d全部が動作し、インバータ11A、11B、11C、11Dが動作する。電機子巻線1−A、1−B、1−Cの電流はリミッタ部51a、51b、51cの働きで100%に維持され、電機子巻線1−Dにはトルク指令に比例して0〜100%の電流が流れる。
【0051】
上記のように動作させたとき、トルク指令τcが小さい範囲では動作休止するインバータがあるので、このインバータの動作損失および電力消費が発生しない。また、電流の流れない電機子巻線があるので、この巻線の銅損および電力消費は発生せず、電機子電流に起因する鉄損も発生しない。サーボモータは負荷状態や運転状態に応じてトルク指令が様々に変化するので、運転全体としては損失および電力消費が低減できる。また、本実施例によれば、図3、図4から分かるように、トルク指令τcが線形に増加または減少する場合、一旦動作したインバータは動作を継続し、一旦停止したインバータは停止を継続するので、インバータのON・OFF回数を少なくすることができ、雑音の発生抑制とインバータを円滑に動作させることができる。
【0052】
本実施例の制御によれば、図3から分かるように各巻線電流の総和は、どの動作ステージでも常にトルク指令τcに比例して、トルク指令とモータで発生する全トルクの比は常に一定であり、しかもトルク指令の変化に対して連続して追従して変化している。したがって、トルク特性の変化をなくした、制御性のよいサーボシステムとなっている。
【0053】
なお、本実施例の動作は、電機子電流がトルク指令に比例する場合、すなわち、d/q軸電流指令部24で、Idを零とし、Iqはトルク指令に比例させる場合である。一方、前述のように高効率制御などでd軸電流制御を積極的に実施したとき、すなわち、d/q軸電流指令部24によりトルク指令に対して最適なd/q軸電流を流した場合は、電流値は図3とは異なるものの、このときも基本的な動作は上記説明と同じである。また、動作切替制御部22でのステージ切替において、トルク指令の変動によって、ステージ切替が頻繁に起きるのを防止するため、トルク指令からの判定部にヒステリシスを設けたり、フィルターを設けたりして、ステージ切替を行うこともできる。
【0054】
以上の説明から分かるように、複数巻線モータの構成を活かして本実施例のように制御することにより、損失が小さく、高効率で省エネルギーの駆動装置が実現できる。
【0055】
なお、ここでは交流モータ1は永久磁石同期モータとして説明したが、巻線型の同期モータ、誘導モータ、リラクタンスモータなど他の交流モータに適用できる。さらに、複数巻線をもつ他の構造のモータにも適用でき、モータは回転型でなく、直線型でもよいのは言うまでもない。
【0056】
さらに、本実施例では動作切替制御部22でのステージ切替はトルク指令τcに対応させたが、位置指令で運転するシステムで位置指令と所要トルクとが対応する場合、位置指令に応じて動作切替制御を行うこともできる。例えば、サーボプレス機械は、スライドのモーションを指令してプレス作業を実施する。スライド位置に対する所要トルクはシミュレーションや試打時に確認できるから、位置指令に応じて動作切替制御を行うことができる。スライドモーションは記憶させておくことができ、そのプレス作業に必要なモーションを呼び出して使うことができるから、スライドモーションとともに動作切替を記憶させておくこともできる。
【実施例2】
【0057】
図5は本発明の実施例2に利用する制御ブロック図である。図5において図1と同一番号は同一物を表し、図1と比べてリミッタ部51が省略されているだけで、他は同じである。動作切替制御部22でステージI〜IVを判定するが、これに対するゲイン切替部23の動作が実施例1とは異なる。基本的構成と動作は先の実施例1と同じなので、特徴点を以下に説明する。
【0058】
図7は、トルク指令τcに応じた動作切替制御部22のステージI〜IVの判定に対するゲイン切替部23の値と、PWM制御部27の動作を表わす。また、図6はこのときのトルク指令に対する各組の電機子巻線の電流を示す。指令部21からのトルク指令τcの最大値を100%とし、各組の電機子巻線電流がその巻線組の最大電流を100%としたとき、どの大きさの電流が流れるかを示している。なお、電機子巻線1−Aの場合、ゲイン切替部23のゲインKa(%)と、実トルク指令τca(%)、q軸電流指令Iaca、電機子電流の大きさIa(%)の関係は、実施例1の式1、式2と同じであり、他の巻線も同様の関係にある。
【0059】
まず、図6から分かるように、トルク指令τcが0〜25%のとき、動作切替制御部22は、ステージIと判定してステージI信号を出力する。図7のようにゲイン切替部23aはステージI信号を受けてゲイン値100%(トルク指令τcを100%負担)と決定し、他はゲイン切替部23b〜23dはゲイン値ゼロ%とし、制御装置内ではPWM制御部27aのみが動作し他のPWM制御部は停止するように信号を出す。従って、インバータ11Aだけが動作し、他のインバータは動作停止するようにステージI信号が出される。電機子巻線1−Aだけに、トルク指令τcの0〜25%の変化に比例した0〜100%の電流が流れる。
【0060】
次に、トルク指令τcが25〜50%のとき、動作切替制御部22はステージIIと判定してステージII信号を出力する。図7のようにゲイン切替部23a、23bはゲイン値を50%とし、他の動作切替制御部はゲイン値ゼロとし、PWM制御部27a、27bのみを動作させる。従って、インバータ11A、11Bのみが動作し、他のインバータは動作停止する。図6に示すように、電機子巻線1−Aの電流は、トルク指令τcが25を越えるとき一旦50%に低下し、その後両電機子巻線1−A、1−Bには、トルク指令τcの25〜50%の変化に比例した同一の電流が50〜100%の割合で流れる。
【0061】
さらに、トルク指令τcが50〜75%のとき、動作切替制御部22はステージIIIと判定してステージIII信号を出力する。ゲイン切替部23a、23b、23cは、のゲイン値を33.3%とし、ゲイン切替部23dはゲイン値をゼロとし、PWM制御部27a、27b、27cが動作する。インバータ11A、11B、11Cが動作し、残りのインバータ11Dは動作停止する。図6に示すように、電機子巻線1−A、1−Bの電流は、トルク指令τcが50を越えるとき一旦66.7%に低下し、1−Aの電流は切替後は一旦66.7%に低下し、その後電機子巻線1−A、1−B、1−Cには、トルク指令τcの50〜75%の変化に比例した同一の電流が66.7〜100%の割合で流れる。
【0062】
さらに進んで、トルク指令τcが75〜100%のとき、動作切替制御部22はステージIVと判定してステージIV信号を出力する。ゲイン切替部23a、23b、23c、23dはゲイン値を25%とし、PWM制御部27a、27b、27c、27dの全部を動作させる。この結果、インバータ11A、11B、11C、11Dが均等に動作して従来技術と変わりがない。電機子巻線1−A、1−B、1−Cの電流は、トルク指令τcが75を越えるとき一旦75%に低下し、切替後は、トルク指令τcの75〜100%の変化に比例した同一の電流が75〜100%の割合で流れる。
【0063】
本実施例は上記のように動作させたとき、実施例1と違い、ステージが進むと通電中の電気子巻線の電流値を一旦、低下させるので、銅損が小さくでき、さらに高効率化を図ることができる。また、複数の電機子巻線に電流を流すとき同一の電流値となって、各電機子巻線に同一磁束を発生させることができるので、円周方向に均一な回転磁束が得られる。
【0064】
図8は図5の主回路構成全体、すなわち、インバータ11A、11B、11C、11D、および、交流モータ1の鉄損や電機子巻線の銅損を含む交流モータ1の損失の合計損失の例を示す。全部のインバータを駆動し、各巻線組に同一の電流を流す従来方式と比較している。図示のように、本実施例(本発明方式)ではトルク指令τcが小さい範囲では、動作休止するインバータがあるので、このインバータのスイッチング損失が発生せず、また、電流を流さない電機子巻線があるので、この巻線部の電機子電流に起因する銅損と鉄損が発生しない。このため、トルク指令τcの小さい範囲(0〜75%)では従来方式より損失が小さく、電力も小さくなる。75%以上の領域では動作状態は従来と同じなので、損失は変わらない。サーボモータでは負荷状態や運転状態に応じてトルク指令が様々に変化するが、プレス機械や工作機械は待機運転を含めてトルク指令0〜75%の運転の割合が大きいので、運転全体にわたっては、大幅な損失低減を図ることが+できる。
【0065】
また、ゲイン切替部23のゲイン値の総和は、どの動作ステージでも常に100%であるので、各電機子巻線から発生するトルクの総和はトルク指令τcに比例しており、トルクが変わってもトルク指令τcとモータ発生の全トルクの比は常に一定ある。従って、サーボモータとしてのトルク特性変化をなくすことができ、安定した運転が行なえる。
【0066】
なお、図5ではリミッタ部51を省略したが、リミッタ部51を省略せず、図1のままでも本実施例は実現できる。
【0067】
実施例1と2の動作を言い換えると、モータトルク指令τcに対応してトルク指令が最も小さい範囲では、インバータ11Aを動作させ、電機子巻線1−Aに電流を流し、トルク指令がその上の範囲では、インバータ11Aと11Bを動作させ、電機子巻線1−Aと1−Bに電流を流し、トルク指令がさらにその上の範囲では、インバータ11Aと11Bと11Cを動作させ、電機子巻線1−Aと1−Bと1−Cに電流を流し、さらにトルク指令が最も大きい範囲では、すべてのインバータを動作させ、すべての電機子巻線に電流を流し、トルク指令に応じてインバータおよび/または各電機子巻線組の駆動数を順次変更する。
【実施例3】
【0068】
本実施例3は、交流モータ1が連続定格と短時間定格をもつときに適用できる。ここでは、連続定格はトルク指令τcの50%まで、短時間定格は50〜100%とし、トルク指令が50%以下のときは連続的に電流を流すことができ、50%を越えるときは短時間のみ電流を流すことができるものとする。本実施例3は実施例2と同構成の図5によって制御を行うが、動作ステージを切替る切換点でのトルク指令値が異なる。
【0069】
図10は動作切替制御部22でのステージ切替を上記観点から変えた例で、図10のようにトルク指令が、12.5%、25%、37.5%の切換点で動作ステージを切替える。各ステージのゲイン切替部のゲイン値や、PWM制御部の動作は実施例2と同じである。このゲイン値で動作させたとき、トルク指令に対する各電機子巻線電流を図9に示す。
【0070】
まず、図9から分かるように、トルク指令が0〜12.5%のとき、動作切替制御部22はステージIと判定する。図10のようにゲイン切替部23aはゲイン値を100%とし、他のゲイン切替部のゲイン値をゼロとし、PWM制御部27aだけが動作するようにステージI信号を出す。インバータ11Aだけが動作し、他のインバータは動作停止し、電機子巻線1−Aだけにトルク指令τcに比例して、0〜50%の電流が流れる。
【0071】
次に、トルク指令τcが12.5〜25%のとき、動作切替制御部22はステージIIと判定する。図10のようにゲイン切替部23a、23bのゲイン値は50%で、他はゼロであり、PWM制御部27a、27bを動作させる。インバータ11A、11Bが動作し、他のインバータは動作停止する。電機子巻線1−Aの電流は、図9に示すようにステージ切替時は一旦25%に低下するが次第に上昇して、1−A、1−Bにはトルク指令に比例する同一の電流が25〜50%の割合で流れる。
【0072】
さらに、トルク指令τcが25〜37.5%のとき、動作切替制御部22はステージIIIと判定する。ゲイン切替部23a、23b、23cのゲイン値は33.3%で、23dはゼロであり、PWM制御部27a、27b、27cが動作する。インバータ11A、11B、11Cが動作し、残りのインバータ11Dは動作停止する。電機子巻線1−A、1−Bの電流は図9に示すようにステージ切替時は一旦33.3%に低下するが次第に上昇して、1−A、1−B、1−Cにはトルク指令に比例する同一の電流が33.3〜50%流れる。
【0073】
さらに進んで、トルク指令τcが37.5〜100%のとき、動作切替制御部22はステージIVと判定する。ゲイン切替部23a、23b、23c、23dのゲイン値は25%で、従来方式と変わりがない。PWM制御部27a、27b、27c、27d全部が動作させる。この結果、インバータ11A、11B、11C、11Dが動作する。電機子巻線1−A、1−B、1−Cの電流は切替後は一旦37.5%に低下して、1−A、1−B、1−C、1−Dにはトルク指令に比例する同一の電流が37.5〜100%流れる。
【0074】
以上のように動作させれば、トルク指令τcに対応して、インバータの運転を停止させ、また、電流を流さない電機子巻線を設けるとともに、トルク指令0〜50%の間はどの巻線電流も50%電流を越えずに動作させることができ、短時間定格の50%を越える指令に対しては、全電機子巻線を動作させる。短時間定格を考慮したモータ損失の少ない高効率な省エネ運転を行うことができる。
【実施例4】
【0075】
実施例4は実施例3の変形で、動作ステージの切替点を変えた例であり、切替のポイントを損失最小点に選ぶ。すなわち、損失を最小にするために、鉄損や銅損、スイッチング損失などの損失の構成割合によって、損失が最小になるように動作ステージを切替えるトルク指令値τcを選ぶ。
【0076】
図11は動作切替制御部22でのステージ切替を上記観点から変えた一例で、表ではトルク指令τcの20%、40%、60%の切替点で動作ステージを切替えている。各ステージのゲイン切替部のゲイン値やPWM制御部の動作は実施例2と同じである。
【0077】
上記した図11のトルク指令τcに対する動作ステージの切替えは一例であり、損失が最小になるように自在に選択してよい。例えば、システムの運転パターンが決まり、所要トルクの時間的な分布がわかるときは、運転パターンに応じて損失が最小になる切換点でステージを切替えることができる。サーボプレス機械では、スライドのモーションを指令してプレス作業を実施するので、スライド位置に対する所要トルクはシミュレーションや試打時に確認でき、所要トルクの位置的な分布、時間的な分布が事前に分かる。運転全体を通して損失が最小になるように動作ステージの切替点を選択する。
【0078】
また、上記のように運転による損失分布の割合がトルク指令以外の他の条件(例えば位置指令、時間指令)によって決まるときは、それを指標としてステージ切替をすることができる。さらに、上記した位置・時間以外としては例えば、モータの回転速度によって損失分布の割合変化が主要因になる場合、速度に応じて動作ステージを変更することもできる。さらにまた、トルク指令と回転速度の両者を指標として動作ステージを切替えた方が損失が小さくなるときは、両者の値に応じて切替えることもできる。
【0079】
このように、加工機械の特性に応じて制御を行えば、損失を一層小さくできるので、高効率な駆動が実現できる。
【実施例5】
【0080】
上記実施例1〜実施例4では、トータルの損失は従来より低減できるが、特定のインバータや特定の電機子巻線に損失が集中することが課題となる場合がある。本実施例5は、これを解決するもので、実施例2と同構成の図5によって制御を行い、各インバータや各電機子巻線で発生する損失が互いに均一化するように制御を行う。
【0081】
実施例1〜実施例4ではトルク指令τcの小さなステージIでは、インバータ11Aを動作させ、電機子巻線1−Aに電流を流す。トルク指令が増加してステージIIでは、ステージIの動作インバータと電機子巻線1−Aに加え、インバータ11Bを動作させて電機子巻線1−Bに電流を流す。そしてステージIIIでは、ステージIとIIに加えて動作するインバータ11Cと電機子巻線1−Cを追加する。さらに、ステージIVでも、さらに動作するインバータ11Dと電機子巻線1−Dを追加する。
【0082】
このように、どのステージでもインバータ11Aと電機子巻線1−Aが動作し続け、ステージII〜IVではインバータ11Bと電機子巻線1−Bが動作し続ける。この結果、インバータ11Aや電機子巻線1−Aは常時電流が流れる動作をするため、損失量が大きく熱的に苦しくなる。これに次ぐのがインバータ11Bや電機子巻線1−Bである。
【0083】
本実施例5は、同じインバータ、電機子巻線を常に動作させるのではなく、ステージに応じて動作するインバータを切替えて交代させ、これに応じて電流を流す電機子巻線も切替えて交代させる。特定のインバータと特定の電機子巻線に損失が集中するのを回避する。図12はこの制御指令の一例で、実施例1の制御方式を変更している。
【0084】
図12から分かるように、ステージIとIVは図7の実施例2と同じであるが、ステージIIでは、ゲイン切替部23b、23cを50%、他をゼロ、また、PWM制御部27b、27cを動作とし、他は停止とする。ステージIIIではゲイン切替部23b、23c、23dを33.3%、23aをゼロ、また、PWM制御部27b、27c、27dを動作とし、27aは停止とする。このようにすると、インバータ11Aおよび電機子巻線1−Aは常に動作することはなくなる。このため、各インバータや電機子巻線の動作期間が均一化され、どの部分からも同様な損失が発生するようにできる。
【0085】
図12の動作は一例であり、負荷あるいは負荷パターンによってどの動作ステージの期間が長いかは異なるので、各インバータと電機子巻線の動作期間と損失が均一化するように駆動するインバータを選択すればよい。すなわち、各ステージI〜IVに対応するトルク指令の切替点は、各インバータと電機子巻線の損失が均一化するように負荷や負荷パターンに応じて設定する。
【0086】
本実施例5によれば、各部の発生損失が均一化できるので、システムとしての信頼性を向上できる、さらに、連続定格も増加できる。
【実施例6】
【0087】
実施例6は先の実施例5で述べた課題を解決する他の例である。本実施例はステージI〜IVに対して動作させるインバータを固定的に対応するのではなく、あるタイミングでは、ステージIはインバータ11Aと電機子巻線1−Aを図7のように動作させる(モード1)が、別のタイミングではこれとは異なり、ステージIはインバータ11Cと電機子巻線1−Cを動作させる(モード2)。また、別のタイミングでは、ステージIはインバータ11Bと電機子巻線1−Bを動作させる(モード3)。さらに別のタイミングでは、ステージIはインバータ11Dと電機子巻線1−Dを動作させる(モード4)、というように動作ステージに対応して動作させるインバータを固定させずに、次々に変更(交代)する。他のステージも同様である。
【0088】
図13は、動作切替制御部22が実施例1の動作に加えて実行する動作フローチャートの例である。上記のモード繰り返しサイクルをTとするとき、現在の時刻tとの関係で上記どのモードをとるか決める。
【0089】
現在時刻tを読み込み(S2002)、繰り返しサイクルのどこにいるか判定する(S2003)。時刻tが(n−1)T≦t<(nT/4)のとき(nは自然数)、モード1のトルク指令に対応するステージによってS2004の枠内に記載のように巻線に電流を流す。時刻tが(nT/4)≦t<(nT/2)のとき、モード2でトルク指令に対応するステージによってS2005の枠内に記載のように巻線に電流を流す。時刻tが(nT/2)≦t<(3nT/4)のとき、モード3でトルク指令に対応するステージによってS2006の枠内に記載のように巻線に電流を流す。時刻tが(3nT/4)≦t<(nT)のとき、モード4でトルク指令に対応するステージによってS2007の枠内に記載のように巻線に電流を流す。
このようにして、時刻に応じてモードを定め、そのときの動作ステージに対応して駆動することにより駆動するインバータ、電機子巻線を次々と変更する。このような制御を実施すれば、各インバータと各電機子巻線からは同じように損失が出るので特定のインバータと特定の電機子巻線の温度上昇が大きくなるのを防止することができる。
【0090】
モードの切替実行は、図13では繰り返しサイクルTを定めたが、Tをランダムに変更してもよい。また、時間的に切替るだけでなく、繰り返す運転パターンの適当な点で切替えたり、インバータ部や巻線部の温度を計測あるいはそれと等価な値を計測して、温度の低いインバータと電機子巻線を動作期間が長いステージIの動作インバータ、動作巻線として指令しても良い。
【0091】
このようにしても、各部の発生損失が均一化できるので、システムとしての信頼性を向上でき、さらに、連続定格を増加できる。
【実施例7】
【0092】
実施例7は、実施例5で述べた課題を解決する別の例である。実施例1〜4ではトルク指令τcの小さなとき、特定の電機子巻線1−Aに常時電流を流すべくインバータ11Aが常時動作するため、損失量が大きく熱的に苦しくなる。
【0093】
これを回避する実施例5や6と違う方法が実施例7である。電流を流す期間が長いインバータ11Aから期間が短い11D側に向けて定格値を変更する。すなわち、電流最大値は変えず、定格がインバータ11A>11B>11C>11Dとなるようにインバータを構成する。具体的には、主パワー素子を冷却するフィンの冷却能力を変更して対応させ、また、電機子巻線部もその部分の冷却能力を向上させる。
【0094】
以上の構成により、特定の熱が大きいところの問題を回避できるので、信頼性が向上できる。なお、上記説明は動作期間の長いインバータから順にインバータごとに4段階に定格を変えるように構成したが、定格大、定格小のように定格を2つ持つように構成してもよく、3つでもよい。
【実施例8】
【0095】
実施例8は、実施例5で述べた課題を解決するさらに別の例である。実施例7ではインバータの熱的な定格だけを変えるように対応したが、最大変換容量を増加させ、定格を変更してもよい。図14は実施例8に利用する常時電流を流すインバータの変換容量を増加させた制御構成ブロック図である。図14において、図5と同一番号のものは同一部品を示す。図示の例は、図5に示すインバータ11Aと11Bを、少なくともこれらより2倍の変換容量(電流容量が2倍)を持つ大きなインバータ112Aに変更し、巻線1−Aと1−Bの両者に供給する。
【0096】
図15は動作切替制御部22での制御例を示す。トルク指令τcが0〜50%のとき、ステージIになる(ステージ番号の意味は先の実施例とは異なる)。ゲイン切替部23aのゲイン値は100%で、他はゼロであり、PWM制御部27aだけが動作しているので、インバータ112Aだけが動作し、他のインバータは動作停止する。電機子巻線1−Aと1−Bだけにトルク指令τcに比例して、0から100%の電流が流れる。
【0097】
次に、トルク指令τcが50〜75%のとき、ステージIIになる。ゲイン切替部23aの値は66.7%、23cの値は33.3%で、他はゼロであり、PWM制御部27a、27cが動作しているので、インバータ112A、11Cが動作し、他のインバータは動作停止する。インバータ112Aにはインバータ11Cの2倍の電流が流れ、電機子巻線1−A、1−B、1−Cには同一でトルク指令に比例する電流が66.7〜100%の割合で流れる。
【0098】
さらに、トルク指令τcが75〜100%のとき、ステージIIIになる。ゲイン切替部23aの値は50%で、23c、23dは25%であり、PWM制御部27a、27c、27dが動作して、全インバータ112A、11C、11Dが動作する。インバータ112Aにはインバータ12C、12Dの2倍の電流が流れ、電機子巻線1−A、1−B、1−C、1−Dには同一でトルク指令τcに比例する電流が75〜100%流れる。
【0099】
以上の例の構成によっても、熱的に苦しい箇所の問題を回避でき、省エネで信頼性が向上できる。
【実施例9】
【0100】
実施例9は実施例5で述べた課題を別の観点から解決する例である。実施例2の場合、0〜25%のステージIでは、同じトルク指令に対して巻線1−Aには、従来方式の4倍の電機子電流が流れる。一方、巻線1−B、1−C,1−Dには流れないが、モータの銅損は電流値の2乗に比例するため、モータ全体では、銅損が4倍に増加する。
【0101】
25〜50%のステージIIでは、巻線1−Aと1−Bには、同じトルク指令に対して従来の2倍の電流が流れるので、銅損が2倍に増加する。同様に、50〜75%のステージIIIでは、巻線1−A、1−B、1−Cに同トルク指令に対して1.3倍の電流が流れる。このため、モータ全体での銅損は約1.3倍に増加する。
【0102】
損失全体の中で銅損の割合が大きな装置の場合、銅損以外の損失が低下しても、実施例2のように駆動したのでは、装置全体として低損失化できない可能性がある。本実施例はそのような場合に適用する実施例である。
【0103】
図16は本実施例9に利用する制御ブロック図で、図5と同一番号のものは同一部品を示す。インバータ11Aと11Bの各出力線同士を接続するスイッチ31、インバータ11Bと11Cの各出力線同士を接続するスイッチ32、インバータ11Cと11Dの各出力線同士を接続するスイッチ33を設ける。動作切替制御部22からのステージ信号により、スイッチ31、32、33と、ゲイン切替部23a、23b、23c、23d、および、PWM制御部27a、27b、27c、27dを図18に示すように制御する。
【0104】
図18はトルク指令に対する動作切替制御部22からの制御指令を示す表である。トルク指令τcの最大値との割合に応じて、各ゲイン切替部23a、23b、23c、23dのゲイン値の指令、各PWM制御部27a、27b、27c、27dでPWM制御を実施するかどうか、スイッチ31、32、33の開閉状態の指令を示す。この制御を実施した場合の動作を図17に示す。図17はトルク指令(%)に対して、各電機子巻線電流がその巻線組の最大電流を100%としたときどのよう流れるかを示している。また、併せてインバータ11A、11B、11C、11Dの運転状態を示している。
【0105】
図17から分かるように、トルク指令τcが0〜25%のステージIのとき、ゲイン切替部23aの値は100%で、他のゲイン切替部はゼロであり、PWM制御部27aだけが動作しており、スイッチ31、32、33は閉状態である。インバータ11Aだけが動作し、全部の巻線に電流を供給する。インバータ11Aにはトルク指令に比例して0〜100%の電流が流れ、各電機子巻線にはこの電流が分流するので、トルク指令τcに比例して、0から25%の電流が流れる。
【0106】
次に、トルク指令τcが25〜50%のステージIIのとき、ゲイン切替部23a、23cの値は50%で、他のゲイン切替部はゼロであり、PWM制御部27a、27cが動作しており、スイッチ31、33のみが閉状態である。インバータ11A、11Cが動作し、インバータ11Aは電機子巻線1−Aと1−Bに、インバータ11Cは電機子巻線1−Cと1−Dに電流を供給する。インバータ11Aと11Cは50〜100%の割合で流れ、各電機子巻線にはトルク指令に比例して、25から50%の電流が流れる。
【0107】
さらに、トルク指令τcが50〜75%のステージIIIに増加したとき、ゲイン切替部23a、23b、23cの値は33.3%で、23dはゼロであり、PWM制御部27a、27b、27cが動作しており、スイッチ33だけが閉である。インバータ11A、11B、11Cが動作し、インバータ11Aは電機子巻線1−Aに、インバータ11Bは電機子巻線1−Bに電流を供給する。また、インバータ11Cは電機子巻線1−Cと1−Dに電流を供給する。インバータ11A、11B、11Cにはトルク指令τcに比例して66.7〜100%の電流が流れる。この結果、電機子巻線1−Aと1−Bにはトルク指令に比例して66.7〜100%の電流が流れ、電機子巻線1−Cと1−Dにはトルク指令に比例して33.3〜50%の電流が流れる。
【0108】
さらに進んで、トルク指令τcが75〜100%のステージIVに増加したとき、ゲイン切替部23a、23b、23c、23dの値はどれも25%で、PWM制御部27a、27b、27c、27dが動作しており、スイッチ31、32、33は全部開である。インバータ11A、11B、11C、11Dが動作し、インバータ11Aは電機子巻線1−Aに、インバータ11Bは電機子巻線1−Bに、インバータ11Cは電機子巻線1−Cに、インバータ11Dは電機子巻線1−Dにそれぞれ電流を供給する。インバータ11A、11B、11C、11Dにはトルク指令τcに比例して75〜100%の電流が流れ、電機子巻線1−A、1−B、1−C、1−Dにも75〜100%の電流が流れる。
【0109】
以上のように、インバータは動作ステージにより動作、停止して、対応の各電機子巻線にはほぼトルク指令に比例した電流を流す。インバータのスイッチング損失の低減も図りながら、モータの銅損低減を図ることができる。
【0110】
図17のスイッチ31、32、33は機械的スイッチだけでなく、高速制御可能な電子スイッチでも実現できる。また、電機子巻線の各相間を結ぶスイッチの接続は一例であり、他の接続やそれに応じた制御もある。さらに、ステージIIIにおける各電機子巻線の電流分担は同一ではないので、低損失化の観点から、ステージIIIを省略し、ステージIVをトルク指令50〜100%の間で動作させることもできる。
【0111】
以上の構成により、各電機子巻線組の電流はトルク指令に比例する電流値を基本として常時流し、インバータは順次起動させる。銅損割合の大きな装置に有効で、高効率な駆動ができる。
【実施例10】
【0112】
本実施例10は、交流モータ1の各電機子巻線がステータ全周で対称となる位置の巻線同士を、同時に励磁するようにした例である。これまでの実施例では、トルク指令に応じて各巻線に順次電流が流れるので、電流が流れる巻線と流れない巻線で、ロータ(図示せず)とステータ(図示せず)間の磁気吸引力が違うことがある。各巻線組自身が単独でステータ全周にわたって分布して均一に巻回されている場合は、これまでの実施例の方法でも問題がないが、各巻線がステータ全周のある特定箇所に巻回されている場合は、通流する巻線と通流しない巻線での間でロータとステータ間の磁気吸引力が周方向で違いが生じてアンバランスとなり、問題になる場合がある。本実施例はこのような場合に適用され、実施例2の図5と同構成によって制御を行い、巻線1−Aと1−Cがステータ全周の対称位置(モータの周方向に対称位置)に巻回され、巻線1−Bと1−Dが対称位置(モータの周方向に対称位置)に巻回されているとする。
【0113】
図19は上記の場合の動作切替制御部22によるゲイン切替23a、23b、23c、23dとPWM制御部27a、27b、27c、27dの制御方法を説明する表である。トルク指令τcが0〜50%のときステージIとし、ゲイン切替部23a、23cのゲイン値は50%で、他はゼロとなり、PWM制御部27a、27cを動作させる。インバータ11A、11Cが動作し、他のインバータは動作停止する。電機子巻線1−A、1−Cにはトルク指令τcに比例する同一の電流が0〜100%の割合で流れる。
【0114】
さらに、トルク指令τcが50〜100%のときステージIIとし、ゲイン切替部23a、23b、23c、23dのゲイン値は25%で、PWM制御部27a、27b、27c、27d全部が動作し、インバータ11A、11B、11C、11Dが動作する。電機子巻線1−A、1−B、1−C、1−Dにはトルク指令τcに比例する同一の電流が50〜100%流れる。
【0115】
トルク指令に対する休止しているインバータや巻線の割合が小さくなるため、実施例1の方法より損失はやや増加するが、ロータとステータ間の磁気吸引力のアンバランス問題が生じない。
【実施例11】
【0116】
本実施例11は、交流モータ1に電流を流すインバータの動作を停止するとき、停止するインバータと各電機子巻線との接続が確実に切れるようにした例である。図20は実施例2の図5の構成に本実施例の特徴を追加した制御ブロック図である。図において図5と同一番号のものは同一部品を示す。インバータ11B、11C、11Dから電機子巻線1−B、1−C,1−Dへの接続を開閉するスイッチ41b、41c、41dを設ける。
【0117】
本実施例11は、動作切替制御部22からの動作指令信号(ステージ信号)によって、PWM制御部27b、27c、27dの動作が制御される場合を示している。動作切替制御部22からの動作指令信号(ステージ信号)は、上記スイッチ41b、41c、41dの開閉を制御するために送られ、PWM制御部27が動作するとき、それにより駆動する対応インバータ出力側に設けられた上記スイッチも同時に閉制御にされ、PWM制御部が停止するときはそれによって非駆動のインバータに接続された上記スイッチも同時に開制御される。例えば、PWM制御部27bが動作してインバータ11bが動作するとき、スイッチ41bは閉に制御される。また、PWM制御部27bが停止してインバータ11bが停止するとき、スイッチ41bは開に制御される。
【0118】
このようにインバータの動作、停止に応じてスイッチをそれぞれ閉、開制御することにより、モータ電機子側からの回生電流が停止しているインバータへ流れ込むことを確実に防止でき、回生によるロータ回転の抵抗となることを防止でき、損失低下を図ることができる。特に、界磁制御を実施した場合、モータ誘起電圧の最大値がインバータの直流電圧より高くなることがあるので、このときに有効である。
【0119】
なお、図20のスイッチ箇所は実施例2の場合に適用した場合であるが、実施例2以外の実施例に適用するときは、異なる箇所に接続することがあるのは言うまでもない。
【実施例12】
【0120】
本実施例12は、ゲイン切替部の切換制御に特徴を持たせたものである。先の各実施例では、トルク指令τcに応じて各動作ステージでゲイン切替部23a、23b、23c、23dのゲイン値を一斉に切替るが、この一斉のゲイン値切換により各電気子巻線のトルクが一斉に変化してトルク擾乱が起きる可能性がある。本実施例12では、動作切替制御部22によりゲイン切替部のゲイン切替を実施するとき、切替前のゲイン値から切替後のゲイン値に徐々に移行するように構成している。
【0121】
図21は、先の実施例2(図5)の構成において、上記制御を実施した場合の本実施例の動作を示す図であり、トルク指令が25%を越える付近での動作ステージIからIIへの切替時の動作を示す。実施例2と比較して、動作ステージ切替後の制御の仕方が異なる。
【0122】
図21において、(a)はトルク指令21τc、(b)は図7で示すようにトルク指令に対応した動作ステージ、(c)はゲイン切替部23aにおけるゲイン値、(d)はゲイン切替部23bにおけるゲイン値、(e)はゲイン切替部23aの出力である電機子巻線1−Aによるトルク指令τca、(f)はゲイン切替部23bの出力である電機子巻線1−Bによるトルク指令τcb、(g)は交流モータ1の全トルクを示す。(a)から分かるように、この例では、時刻ゼロでトルク指令20%でスタートして時刻taまで一定値、時刻taでトルク指令が徐々に増加し始め、時刻tbで動作の切替点25%になり、時刻tcで30%まで増加し、その後一定値である。時刻ゼロからtbまでは切替はステージI、時刻tb以後はステージIIとなる。
【0123】
ゲイン切替部23aのゲイン値は、(c)から分かるようにステージIのtbまでは100%、ステージIIに切替わったtbから徐々に低下し、tdで50%になる。一方、ゲイン切替部23bのゲイン値は、(d)から分かるようにステージIのtbまでは0%、ステージIIに切替わったtbから徐々に増加し、tdで50%になる。この結果、トルク指令τcとゲイン切替部ゲイン値の積として出力される各巻線のトルク指令は次のようになる。すなわち、切替部23aの出力τcaは(e)のようにtaまでは80%で、taから徐々に増加してtbでは100%になる。ステージ切替後にゲインが低下するので、τcaはtbから図示のように低下し、tdで60%になり、以後は一定値である。また、切替部23bの出力τcbは(f)のようにtbまでは0%で、このときインバータ11Bは動作していない。ステージ切替後がtbからインバータ11Bが動作し、また、τcbは図示のように徐々に増加してtdで60%になり、以後は一定値である。図21の期間では、ゲイン切替部23c、23dのゲイン値はゼロであり、ゲイン切替部23a、23bの各ゲインの和は常に100%となるように設定している。この結果、この動作では(e)+(f)で表わされるモータ発生全トルクは(g)のように(a)のトルク指令に比例した値となる。
【0124】
このように動作ステージ切替時に徐々にゲイン値を変更すると、各巻線でのトルク発生が徐々に変更されるので、切替ステージにおけるトルク擾乱が生じない。図21の例はステージIからIIについて切替るときを説明したが、他のステージの切替でも同様である。また、トルク指令の変化が大きく、例えばステージIからステージIIIのように変更があっても同様である。
【0125】
ゲイン切替部23のゲイン値を徐々に変化させる構成として、動作切替制御部22から徐々に変化する動作指令信号(ステージ信号)を出すように回路構成してもよく、あるいは、ゲイン切替部内部に、ゲイン値を切替える動作指令信号によりゲイン値を徐々に変化させる回路構成を組み込んでもよい。なお、ステージ切替後にゲインを徐々に変更する方法は本実施例のように時間的に行う代わりに、トルク指令値τcに比例させて行っても同様な効果がある。なお、ステージ切替時のゲイン値の切替を徐々に行うので切替後の電流値が100%を越える巻線があるケースもある。これを防止するため、切替えを行うトルク指令値τcの値を適切に変更すれば対応できる。
【0126】
以上のように上記構成によれば、ステージ切替により電機子巻線の駆動組数を切り替えるとき、モータのトルク変動のない駆動が行える。
【実施例13】
【0127】
本実施例13は、トルク指令に対応して各インバータおよび/または各電機子巻線の駆動数を変更するので、あるインバータに万一の異常が出た場合、これを避けて運転を継続するようにしたものである。先の実施例2(図5)において、インバータ11Bに異常が出て、このインバータの利用を避けて運転を継続する場合について説明する。図22はこのときの制御指令例を示す。この場合、図示しない異常検知器によりインバータ11Bに異常が出ていることが検知されているものとする。
【0128】
トルク指令が0〜25%のステージIはゲイン切替部23aのゲイン値は100%で、PWM制御部27aだけを動作させ、インバータ11Aを動作させる。次にトルク指令が25〜50%のステージIIになると、上記異常検知器の検知信号により、インバータ11Bを使用せずに運転を行う。すなわち、ゲイン切替部23a、23cのゲイン値を50%とし、PWM制御部27a、27cを動作させ、インバータ11A、11Cを動作させる。さらに、トルク指令が50〜75%のステージIIIになると、ゲイン切替部23a、23c、23dのゲイン値を33.3%とし、PWM制御部27a、27c、27dを動作させ、インバータ11A、11C、11Dを動作させて駆動を行う。このように、故障しているインバータ11Bを動作させず、他のインバータで代替させて異常が生じていない場合と同じように動作させることができる。
【0129】
さらにトルク指令が増加して、75〜100%になり、ステージIVになったときも、ゲイン切替部のゲイン値、PWM制御部の動作はステージIIIと同じにする。このため、動作している各インバータの出力電流は100%を越え過負荷になる。インバータ11が100%以上の過負荷を許容しないときは、制御系で100%に抑える(図1のリミッタ部51)か、あるいは、許容される時間だけ100%を越える電流を流す。他のインバータに異常が出た場合も同様である。
【0130】
このように本実施例13では、トルク指令が75%を超えるときは運転が制限されるものの、インバータに異常が出た場合、異常検知器に基いて異常インバータの動作をパスさせて、他で代替しながら運転を継続できる。なお、ここでのインバータの異常停止は、インバータ自身の異常だけでなく、その主電源や制御電源の異常などインバータが正常に動作できなくなる他の要因も含めることはいうまでもない。さらに、なお、2台以上のインバータに異常が出た場合も同様な対応ができる。
【0131】
以上のように本実施例13によれば、高効率を維持し、高信頼な駆動が行える。
【実施例14】
【0132】
本実施例14では、負荷がさらに大容量となり、交流モータ1を1台で駆動するのではなく、複数台を用いて駆動する場合の実施例である。
【0133】
図23は装置の構成図で、図24はステージ毎の動作図を示し、図5と同じ番号は同一部品を示す。同一のトルク指令21τcで2つの交流モータ1と交流モータ101を利用して負荷を駆動する。交流モータ101は、交流モータ1と同様に4組の電機子巻線1−E、1−F、1−G、1−Hで構成され、その各巻線はインバータ11E、11F、11G、11Hで駆動される。それぞれのインバータを駆動するゲイン切替部23e、23f、23g、23h、ベクトル制御部(制御装置)201e、201f、201g、201h、およびPWM制御部27e、27f、27g、27hもそれぞれのインバータごとに設けられる。これら交流モータ1と101を制御するゲイン切替部23やPWM制御部11は動作切替制御部91からの指令により動作する。動作切替制御部91の動作は、動作切替えるステージ数は増えるが、図2と同様の考え方で実行する。
【0134】
電機子巻線1−Aを例にとると、ゲイン切替部23aの演算は、トルク指令τc(%)、ゲイン切替部23aのゲインKa(%)、トルク指令τca(%)、q軸電流指令Iqca(%)、電流Ia(%)とする。合計8組の4電機子巻線は、その実トルク指令に比例させて電流を流すので、リミッタ51aが動作しない範囲では、
τca=Ka×τc/12.5
Ia=Iqca=τca
である。他の巻線も同様の関係がある。
【0135】
トルク指令τcに対して、図21のように8ステージに分けて制御が行われる。まず、トルク指令τcが0〜12.5%はステージIで、ゲイン切替部23aだけが100%で、他のゲイン切替部はゼロ、PWM制御部27aだけが動作、他のPWM制御部は停止と指令される。このため、インバータ11Aだけが動作し、他のインバータは動作しない。
【0136】
次に、トルク指令τcが12.5〜25%はステージIIで、ゲイン切替部23a、23eだけが50%で、他のゲイン切替部はゼロ、PWM制御部27a、27eだけが動作、他のPWM制御部は停止と指令される。このため、インバータ11A、11Eだけが動作し、他のインバータは動作しない。
【0137】
さらに、トルク指令τcが25〜37.5%はステージIIIで、ゲイン切替部23a、23e、23fは33.3%で、他のゲイン切替部はゼロ、PWM制御部27a、27e、27fが動作、他のPWM制御部は停止と指令される。このため、インバータ11A、11E、11Fだけが動作し、他のインバータは動作しない。
【0138】
同様に、図24に示すように各ステージに対応して、動作切替制御部91からゲイン値が指令され、各PWM制御部に動作指令が出される。このように、PWM制御部が動作し、インバータが駆動されて各電機子巻線に電流を流す。
【0139】
以上のようにして、複数台モータの場合もトルク指令に応じて順次インバータを駆動して運転を行えば、高効率な駆動ができる。なお、どのステージでも、各ゲイン値の和は常に100%であり、複数モータとしてもトルク指令と全モータから発生するトルクの比は一定であり、サーボモータとしてのトルク特性変化をなくすことができる。
【0140】
以上の実施例ではいずれも、モータ電機子巻線が4組のモータを例にとって説明したが、これ以外の組数のモータでも本発明が適用できるのは言うまでもない。また、正転、逆転、電動、回生の4象限の運転に適用できる。さらに、動作ステージ数と電機子巻線組の数は全モータが同じでなくてもよい。さらにまた、実施例同士で組み合せが可能なものは組み合わせて実施してよい。
【符号の説明】
【0141】
1、101…交流モータ、1−A、1−B、1−C、1−D…電機子巻線、1−E、1−F、1−G、1−H…電機子巻線、11A、11B、11C、11D、112A…インバータ、11E、11F、11G、11H…インバータ、21…トルク指令部、22、91…動作切替制御部、23…ゲイン切替部、24…d/q軸電流指令部、25…d/q軸電流制御部、26、29…座標変換部、27…PWM制御部、28…電流検出器、201(24、25、26、29)…制御装置(ベクトル制御部)、31、32、33、41…スイッチ、51…リミッタ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数組の電機子巻線をもつモータと、
上記各組の電機子巻線を個別に駆動する複数のインバータと、
モータ駆動指令を受けて、上記各インバータを個別に動作制御する複数の制御装置を備えたモータ制御システムにおいて、
トルク指令または位置指令のモータ駆動指令を受けて、このモータ駆動指令の大きさに応じた複数の動作ステージに判別してステージ信号を出力する動作切替制御部と、
上記動作切替制御部からのステージ信号を受けて、上記モータ駆動指令の各インバータが分担するトルクの割合のゲインを決めて対応する上記制御装置に出力するゲイン切替部を設け、
上記各制御装置は、上記ゲイン切替部で決められたゲインに基いて対応するインバータを駆動制御または停止制御することにより、上記駆動指令の大きさに応じた必要数のインバータを駆動制御することを特徴とするモータ制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御システムにおいて、上記動作切替制御部は、各動作ステージの切換点がモータの損失が少なくなるモータ駆動指令の所定の大きさに設定されていることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ制御システムにおいて、上記ゲイン切替部は、上記動作ステージに応じて、駆動インバータが交代するように対応の制御装置にゲインを出力することを特徴とするモータ制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載のモータ制御システムにおいて、上記ゲイン切替部と上記制御装置との間に、対応する電機子巻線の最大トルクを超えないようにゲインを制限するリミッタを介在させたことを特徴とするモータ制御システム。
【請求項5】
請求項1に記載のモータ制御システムにおいて、上記ゲイン切替部は、インバータがモータの周方向に対称位置にある電機子巻線に同時に電流を流すように対応の制御装置にゲインを出力することを特徴とするモータ制御システム。
【請求項6】
請求項1に記載のモータ制御システムにおいて、上記インバータと電機子巻線の間にスイッチを設け、上記動作切替制御部からのステージ信号に基づいて駆動されるインバータに接続されたスイッチを閉とし、非駆動のインバータに接続されたスイッチを開とすることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項7】
請求項1に記載のモータ制御システムにおいて、上記ゲイン切替部は動作するインバータを切替るに際し、ゲインを徐々に変化させて対応の制御装置に出力することを特徴とするモータ制御システム。
【請求項8】
複数組の電機子巻線をもつモータと、上記各組の電機子巻線を個別に駆動する複数のインバータを備え、モータ駆動指令を受けて、制御装置により対応する上記インバータを個別に動作制御するモータ制御方法において、
トルク指令または位置指令のモータ駆動指令を受けて、この駆動指令の大きさに応じた複数の動作ステージに判別し、
上記で判別された動作ステージに基づいて、上記駆動指令を各インバータが分担するトルクの割合のゲインを決め、
上記ゲインに基いて対応するインバータを駆動制御または停止制御することにより、上記駆動指令の大きさに応じて所定数のインバータを動作制御することを特徴とするモータ制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載のモータ制御方法において、各動作ステージの切換点がモータの損失が少なくなる所定の大きさに設定されていることを特徴とするモータ制御方法。
【請求項10】
請求項8に記載のモータ制御方法において、上記動作ステージに応じて動作インバータの切替え動作に際し、徐々に変化するゲインに基づいてインバータを動作制御することを特徴とするモータ制御方法。
【請求項11】
請求項8に記載のモータ制御方法において、上記ゲインが対応する電機子巻線の最大トルクを超えないトルクに制限された状態でインバータを動作制御することを特徴とするモータ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−155801(P2011−155801A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16889(P2010−16889)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】