説明

モータ制御装置及びモータ制御方法

【課題】装置の大型化や開閉動作の一時停止を招くことなく、効果的な発熱対策を講じることができるモータ制御装置及びモータ制御方法を提供する。
【解決手段】一定の周期でON期間とOFF期間を繰り返すパルス状駆動電圧でモータ(6)駆動用のスイッチング素子(5a〜5d)を制御するモータ制御装置(1)は、前記スイッチング素子の温度を検出する検出手段(7)、前記検出手段の検出結果に基づいて前記スイッチング素子が高温状態にあるか否かを判定する判定手段(3)、前記判定手段の判定結果が否定のときに前記パルス状駆動電圧の繰り返し周波数を第1の周波数に設定する一方、前記判定手段の判定結果が肯定のときに前記パルス状駆動電圧の繰り返し周波数を第1の周波数よりも低い第2の周波数に設定する設定手段(3)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及びモータ制御方法に関し、たとえば、自動車等車両のパワーウィンドウやスライドドア又はルーフウィンドウなどの、いわゆる開閉体を開閉駆動するための電動モータに適用して好適な制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等車両(以下、車両という)の開閉体の開閉動作は、電動モータ(本明細書では単にモータという)の動力を利用して行われているが、このモータの回転方向や回転速度を制御するためのスイッチ要素として、バイポーラトランジスタやパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect
Transistor)等の電子パワーデバイスが使用されている。
【0003】
図5は、モータ駆動用のスイッチ素子部とそのスイッチモード表を示す図である。この図において、4つのスイッチング素子Tr1〜Tr4は、いずれも電子パワーデバイスとしてのパワーMOSFETである。それぞれ直列に接続されたTr1とTr2及びTr3とTr4を、バッテリ電圧Vbとグランド電位GNDの間に並列に接続し、Tr1とTr2の接続ノード及びTr3とTr4の接続ノードをモータMに接続している。この構成は、アルファベットの“H”の字に似ていることから、Hブリッジとも呼ばれている。
【0004】
このような構成において、(a)に示すようにTr1とTr4をONにすると共に、Tr2とTr3をOFFにするとモータMが一方向に回転する。このときの回転方向を「正転」とすれば、上記とは逆のスイッチ動作、すなわち、(b)に示すようにTr1とTr4をOFFにすると共に、Tr2とTr3をONにすればモータMが「逆転」する。
【0005】
また、(c)に示すようにTr1〜Tr4の全てをOFFにすればモータMが自由に回転するフリーモードになり、あるいは、(d)に示すようにTr1とTr3をOFF、Tr2とTr4をONにすればモータMに強制制動がかかったブレーキモードになる。
【0006】
このような構成のスイッチング素子部を車両の開閉体駆動に用いる場合、開閉体の「開動作」と「閉動作」に応じて、(a)の正転モードや(b)の逆転モードを適宜に使用し、また、必要であれば、適宜に(c)のフリーモードや(d)のブレーキモードを使用すればよい。
【0007】
モータの回転数を制御する場合、モータに供給する電力エネルギーを何らかの方法でコントロールする必要がある。それには大きく分けて二つの方法がある。一つは抵抗制御法と呼ばれる方法である。この方法では、電源とモータの間にアナログ的な電圧制御手段を設け、これによってモータに供給する電力エネルギーをリニアに制御する。電圧制御法又はリニア制御法と呼ばれることもある。この方法の欠点は、電圧制御手段を構成するトランジスタやFET等の電子パワーデバイスが活性領域で動作するため、当該デバイスの内部損失が大きく、省エネ性に劣る点にある。
【0008】
そこで、今日では、PWM(Pilse Width Modulation)制御と呼ばれる(又はパルス駆動法と呼ばれることもある。)第2の方法を用いることが主流になっている。この方法では、電子パワーデバイスが飽和領域で動作するため、デバイス内部の損失がきわめて少なく、しかも、モータに供給する駆動電圧を所定の周期でパルス状に断続(ON期間とOFF期間)させることにより、その平均電圧でモータの回転数をコントロールするためモータの消費電力も大幅に低減できるからである。
【0009】
図6は、PWM制御法におけるモータの駆動波形を示す図である。この図には、三つの駆動波形が代表的に示されている。これらの駆動波形のhighレベル部分(ハッチング部分)はモータへの電圧供給のON期間であり、lowレベル部分は同電圧供給のOFF期間である。いずれの駆動波形も1周期長Tは同じであり、ON期間の長さtONとOFF期間の長さtOFFの割合(デューティ比=tON/T)を変えることにより、モータの回転数が変化する。ちなみに、図示の三つの駆動波形は、デューティ比が最小のもの(上段)と、デューティ比が最大のもの(下段)及びデューティ比が中間のもの(中段)を示したものである。
【0010】
このように、PWM制御は、電圧を変化させずにデューティ比の制御のみでモータの回転速度をコントロールできることから、抵抗制御法に比べて、きわめて効率が良く、今日一般的に用いられている方法である。
【0011】
ここで、電子パワーデバイスの技術課題として、当該デバイスの「発熱問題」、すなわち、電子パワーデバイスの自己発熱によってデバイス自体の耐久性が損なわれたり、または、過大な発熱によって電子パワーデバイスが破壊したりするという問題がある。抵抗制御法に比べてPWM制御法のデバイス発熱は少ないものの、発熱ゼロにはならず、とりわけ、車両の開閉体駆動用モータであって、特に、質量の大きなウィンドウガラスやスライドドアを開閉するモータに適用する電子パワーデバイスにおいては、無視することができない程度の熱が発生することがある。
【0012】
かかる発熱対策としては、たとえば、冷却用のファンやブロワーを設けることが考えられるが、ファンやブロワーの存在は騒音の発生源にもなるし、また、コストアップや装置の大型化を招くので現実的でない。
【0013】
そこで、第1の従来技術として、電子パワーデバイスで発生した熱をヒートシンクで逃がすことが行われている(たとえば、特許文献1参照)。また、第2の従来技術として、温度センサを用いて電子パワーデバイスの温度を監視し、異常な熱を検出したときにモータの動作を停止することが行われている(たとえば、特許文献2参照)。
【0014】
【特許文献1】特開2005−328018号公報
【特許文献2】特開平6−327279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、第1の従来技術は、ヒートシンクを実装するためのスペースが必要で装置の大型化を招くという問題点があり、また、第2の従来技術は、高発熱時にモータを停止させる仕組みのため、車両の開閉体に適用した場合には、開閉操作の途中で開閉体が停止し違和感を生じさせるという問題点がある。
【0016】
そこで本発明は、装置の大型化や開閉動作の一時停止を招くことなく、効果的な発熱対策を講じることができるモータ制御装置及びモータ制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係るモータ制御装置は、一定の周期でON期間とOFF期間を繰り返すパルス状駆動電圧でモータ駆動用のスイッチング素子を制御するモータ制御装置において、前記スイッチング素子の温度を検出する検出手段と、前記検出手段の検出結果に基づいて前記スイッチング素子が高温状態にあるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段の判定結果が否定のときに前記パルス状駆動電圧の繰り返し周波数を第1の周波数に設定する一方、前記判定手段の判定結果が肯定のときに前記パルス状駆動電圧の繰り返し周波数を第1の周波数よりも低い第2の周波数に設定する設定手段とを備えたことを特徴とする。
または、本発明に係るモータ制御方法は、一定の周期でON期間とOFF期間を繰り返すパルス状駆動電圧でモータ駆動用のスイッチング素子を制御するモータ制御方法において、前記スイッチング素子の温度を検出する検出ステップと、前記検出ステップの検出結果に基づいて前記スイッチング素子が高温状態にあるか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップの判定結果が否定のときに前記パルス状駆動電圧の繰り返し周波数を第1の周波数に設定する一方、前記判定ステップの判定結果が肯定のときに前記パルス状駆動電圧の繰り返し周波数を第1の周波数よりも低い第2の周波数に設定する設定ステップとを含むことを特徴とする。
ここで、前記第1の周波数は、前記モータの仕様上定められる特定周波数又は特定範囲の周波数であり、また、前記第2の周波数は、該第1の周波数よりも低く、且つ、前記モータの回転を継続し得る周波数であることが望ましい。
または、前記第1の周波数は、前記モータの仕様上定められる特定周波数又は特定範囲の周波数であり、また、前記第2の周波数は、該第1の周波数よりも低く、且つ、前記モータの回転を継続し得る周波数であって、しかも、前記モータの回転むらに伴う異音や共振音が体感されない程度の周波数であることが望ましい。
または、前記スイッチング素子は、バイポーラトランジスタやパワーMOSFET等の電子パワーデバイスであることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
一般的に、一定の周期でON期間とOFF期間を繰り返すパルス状駆動電圧でモータ駆動用のスイッチング素子を制御するモータ制御装置、すなわち、PWM制御法やパルス制御法を採用するモータ制御装置においては、電圧制御型のものに比べて、スイッチング素子の内部損失が少なく、省電力性に優れている。これは、電圧制御型のスイッチング素子が活性領域で動作するのに対して、パルス駆動のスイッチング素子が飽和領域で動作するからである。
しかしながら、飽和領域で動作するスイッチング素子であっても、そのスイッチング過渡期(ON→OFF、OFF→ON)に着目すると、瞬間的にせよ活性領域で動作することには変わりなく、かかる過渡期における内部損失の増大、したがって、発熱の問題を無視できない。
そこで、本件発明者等は、パルス状駆動電圧の繰り返し周波数(一般的にPWM制御周波数ともいう)は、通常、モータの仕様上から定まる特定の周波数または特定範囲の周波数に固定的に設定されているという常識にとらわれることなく、この周波数を低くすれば、スイッチングの過渡回数を少なくして、かかる過渡期における内部損失の増大を回避し、以て、発熱の問題を解消できることに着想し、上記の特徴的構成を想到したものである。
すなわち、スイッチング素子が高温状態にあるか否かを判定し、高温状態にない場合には、パルス状駆動電圧の繰り返し周波数を第1の周波数(モータの仕様上から定まる特定の周波数または特定範囲の周波数に)に設定する一方、高温状態にある場合には、第1の周波数よりも低い第2の周波数に設定することにより、スイッチングの過渡回数を少なくして、かかる過渡期における内部損失の増大を回避し、以て、発熱の問題を解消するように構成したものである。
このように構成すれば、冒頭の従来技術のようなファンやブロアーまたはヒートシンクといった機械的な冷却手段が不要になり、装置の大型化やコストアップを回避できる。
また、第2の周波数の選択にあたっては、モータの回転を継続できる周波数を選択することにより、高温状態時においても、モータの回転を停止することがなく、操作上の違和感を招かない。
さらに、第2の周波数の選択にあたっては、モータの回転を継続できることに加えて、モータの回転むらに伴う異音の発生が許容し得るレベルとなる周波数とすることにより、商品価値を高め、実用上好ましいものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)は、実施形態におけるモータ制御装置の構成図である。この図において、モータ制御装置1は、たとえば、車両のパワーウィンドウの開閉駆動を行うためのものであり、このモータ制御装置1は、ウィンドウ開閉スイッチ2、周辺制御部3、モータ制御部4、Hブリッジ部5、モータ6、温度センサ7及びバッテリ8を含んで構成されている。
【0020】
なお、ウィンドウ開閉スイッチ2は、車両の各ドア(運転席ドアや助手席ドア又は後席ドア等)ごとに設けられていると共に、たとえば、運転席ドアに設けられているウィンドウ開閉スイッチについては、自席ウィンドウの通常開閉操作用、ワンタッチ開閉操作用及び他席(助手席や後席)ウィンドウの遠隔開閉操作用などの複数のウィンドウ開閉スイッチが設けられているのが一般的であるが、ここでは、説明の簡素化のために、自席ウィンドウの通常開閉操作用の一つのウィンドウ開閉スイッチ2だけを図示することにする。
【0021】
また、バッテリ8は、車両電装品の共通電源であり、厳密にはモータ制御装置1の構成要素に含まれないが、ここでは説明の便宜上、モータ制御装置1の構成要素に含まれているものとする。
【0022】
周辺制御装置3は、たとえば、マイコン等によって構成されており、後述の制御プログラムをきわめて短い間隔で定期的に実行することにより、その実行周期毎に、ウィンドウ開閉スイッチ2の操作状態を検出し、その検出結果に応じてモータ6の回転方向や回転速度の制御量を演算し、その演算結果をモータ制御部4に出力するものである。また、この周辺制御装置3は、当該実行周期毎に、温度センサ7からの温度検出結果に基づき、電子パワーデバイス(スイッチ素子5a〜5d)の高温状態を判定し、高温状態を判定したときに後述の高温対策処理を実行する。
【0023】
モータ制御部4は、周辺制御部3からの回転方向指示に基づいて、Hブリッジ部5のスイッチ素子5a〜5dのON/OFFの組み合わせを選択すると共に、周辺制御部3からの回転速度指示に基づいて、PWM制御のデューティ比を設定し、そのデューティ比でパルス変調した駆動電圧をHブリッジ部5に加えてモータ6の回転速度を制御する。
【0024】
Hブリッジ部5のスイッチ素子5a〜5dは、それぞれパワーMOSFET等を用いた電子パワーデバイスである。これらの電子パワーデバイスは、モータ制御部4からの信号に応答して導通(ON)、非道通(OFF)のいずれかの状態を取り得るスイッチング要素であることから、ここでは、トランジスタ記号(パワーMOSFET記号)ではなく、便宜的にスイッチ記号で表している。
【0025】
Hブリッジ部5は、二つのスイッチ素子(スイッチ素子5aとスイッチ素子5b)を直列に接続し、残りの二つのスイッチ素子(スイッチ素子5cとスイッチ素子5d)を直列に接続し、それらを並列につないでバッテリ8と接地電位GNDの間に接続すると共に、スイッチ素子5aとスイッチ素子5bの間のノードaとスイッチ素子5cとスイッチ素子5dの間のノードbにモータ6を接続している。
【0026】
なお、実際の回路構成においては、モータ6で発生した逆起電圧をモータ6のOFF期間中の回転エネルギーとして再利用するためのフライホイールダイオードや電源(バッテリ8)への逆起電圧の逆流を阻止するための逆流阻止ダイオード等を必要とするが、ここでは図面の輻輳化を避けるために省略している。
【0027】
このような構成において、モータ6の正逆転制御は、Hブリッジ部5のスイッチ素子5a〜5dのON/OFFの組み合わせを選択することによって行われる。
【0028】
図1(b)及び図1(c)は、モータ6の正逆転制御の状態図である。この図において、今、(b)に示すように、左上のスイッチ素子5aと右下のスイッチ素子5dをONにすると共に、左下のスイッチ素子5bと右上のスイッチ素子5cをOFFにすると、バッテリ8からの電圧は、左上のスイッチ素子5a→ノードa→モータ6→ノードb→右下のスイッチ素子5d→GNDの経路で供給される。一方、(c)に示すように、左上のスイッチ素子5aと右下のスイッチ素子5dをOFFにすると共に、左下のスイッチ素子5bと右上のスイッチ素子5cをONにすると、バッテリ8からの電圧は、右上のスイッチ素子5c→ノードb→モータ6→ノードa→左下のスイッチ素子5b→GNDの経路で供給される。
【0029】
両経路を見比べると、モータ6に流れ込む電流の向きが異なっており、たとえば、(b)を正転、(c)を逆転とし、正転時にウィンドウアップ(開)、逆転時にウィンドウダウン(閉)とすれば、周辺制御部3でウィンドウ開閉スイッチ2の操作(開操作/閉操作)を判定し、モータ制御部4でその判定結果に従って、(b)の状態又は(c)の状態を選択することにより、ウィンドウの開閉操作を行うことができる。
【0030】
図2は、モータ制御装置1の動作フローチャートを示す図である。このフローチャートは、車両のイグニッションスイッチ(不図示)がONになっている間、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0031】
このフローチャートの実行を開始すると、まず、ウィンドウ開閉スイッチ2の操作状態を判定し(ステップS1)、非操作状態であればフローチャートを終了し、操作状態であれば本実施形態特有の処理である「高温対策処理」を実行する(ステップS2)。
【0032】
この高温対策処理では、まず、温度センサ7の出力(電子パワーデバイスの温度;以下「デバイス温度」という)を読み込み(ステップS2a)、次いで、デバイス温度と所定の判定基準値とを比較して、その時のデバイス温度が判定基準値を上回る程度の高温状態であるか否かを判定する(ステップS2b)。そして、高温状態でない場合にはPWM制御周波数に「第1の周波数」をセットし(ステップS2c)、高温状態である場合にはPWM制御周波数に「第2の周波数」をセットする(ステップS2d)。
【0033】
ここで、第1の周波数とは、モータ6の種類や型番等から仕様上定められている特定周波数(又は特定範囲の周波数)のことをいい、モータの設計者であれば、一般常識的に設計対象のモータに適合するPWM制御周波数として、当然採用すべきと考えられている最適周波数(推奨周波数ともいう)のことをいう。第1の周波数の具体的な値は、モータの種類や型番等に依存するため一概にはいえないが、ここでは、便宜値として10KHzと仮定する。
【0034】
一方、第2の周波数とは、要するに、第1の周波数よりも“低い”周波数のことである。“低い”の臨界条件の第一は、モータの回転を継続できる周波数でなければならないことである。つまり、低すぎる周波数は開閉体の開閉動作を継続できないので不適当である。“低い”の臨界条件の第二は、モータの回転むらが体感的に許容し得る程度に抑えることができる周波数でなければならないことである。大きすぎる回転むらは、開閉動作のぎくしゃく感につながり、あるいは、異音や共振音等の不快な音の発生原因になるからである。
【0035】
なお、第一の臨界条件は、冒頭で説明した第2の従来技術(高発熱時にモータを停止させる仕組みのもの)との差別化を図るために必須である。高発熱時にもモータの回転を継続させる必要があるからである。これに対して、第二の臨界条件は、本件発明の技術思想上は必ずしも必須ではない。開閉体の開閉動作のガタツキや異音等が発生したとしても、すくなくとも、電子パワーデバイスの発熱問題を解消することができ、発明の課題を達成できるからである。第二の臨界条件の必要理由は、もっぱら商品価値の向上にある。当然ながら、本件発明を適用したモータ制御装置及びモータ制御方法を商品として市場に投入する際は、開閉体の開閉動作のガタツキや異音等の存在は、その商品の価値を著しく損なうからである。
【0036】
このように、第2の周波数の選定にあたっては、ウィンドウの開閉操作が可能な周波数であって、且つ、ウインドウの開閉操作にガタつきが生じない(より好ましくは、モータ6のうなり音や共振音がほとんど聞こえない程度の周波数)とすることが望ましく、したがって、実際上は、上記の第一の臨界条件と第二の臨界条件を満たすことが望ましく、そのためには、第2の周波数の実際の値を、実験等を通して試行錯誤的に選択すればよいが、たとえば、便宜的に例示すれば、2.5KHzなどとすることができる。
【0037】
このような高温対策処理を実行すると、次いで、ウインドウ開閉スイッチ2の操作方向(開操作=UP、閉操作=DOWN)を判定する(ステップS3)。そして、開操作の場合には、ウィンドウの現在位置が上限位置(全閉位置)にあるか否かを判定し(ステップS4)、上限位置にあればフローチャートを終了し、上限位置になければ、上記の高温対策処理でセットしたPWM制御周波数(第1の周波数又は第2の周波数)を用いて所定のデューティ比でモータ6を駆動してウィンドウを閉操作する(ステップS5)。または、閉操作の場合には、ウィンドウの現在位置が下限位置(全開位置)にあるか否かを判定し(ステップS6)、下限位置にあればフローチャートを終了し、下限位置になければ、上記の高温対策処理でセットしたPWM制御周波数(第1の周波数又は第2の周波数)を用いて所定のデューティ比でモータ6を駆動してウィンドウを開操作する(ステップS7)。
【0038】
図3は、モータ6のPWM制御波形図である。この図において、上段の波形はPWM制御周波数を「第1の周波数」にしたときのもの、下段の波形はPWM制御周波数を「第2の周波数」にしたときのものである。ここで、T(1)は第1の周波数(たとえば、10KHz)の1周期長、T(2)は第2の周波数(たとえば、2.5KHz)の1周期長である。いずれの波形もハッチング部分(ハイレベルの部分)がON期間、非ハッチング部分(ローレベルの部分)がOFF期間であり、両期間の比率がデューティ比となる。すなわち、PWM制御周波数を「第1の周波数」にしたときのデューティ比はtON(1)/T(1)となり、PWM制御周波数を「第2の周波数」にしたときのデューティ比はtON(2)/T(2)となる。
【0039】
なお、T(1)とT(2)の長さの比率は、第1の周波数=10KHz、第2の周波数=2.5KHzであるから、正しくは「1:4」になるところ、図示の都合上、「1:2」としてある。
【0040】
さて、PWM制御周波数を第1の周波数にしたときと第2の周波数にしたときの双方における電子パワーデバイス(スイッチング素子5a〜5d)の単位時間(たとえば、1秒)当たりのスイッチング回数に着目すると、第1の周波数は10KHzであるから、1秒間に10,000回スイッチングし、一方、第2の周波数は2.5KHzであるから、1秒間に2,500回スイッチングする。つまり、PWM制御周波数を第1の周波数にしたときに比べて、第2の周波数にしたときのスイッチング回数は1/4へと大幅減少することになる。
【0041】
PWM制御における電子パワーデバイス(スイッチング素子5a〜5d)は、冒頭で説明したとおり飽和領域で動作するため、デバイス内部の損失は抵抗制御法に比べてきわめて少ない。しかしながら、PWM制御における電子パワーデバイス(スイッチング素子5a〜5d)であっても、そのスイッチング動作の過渡期(ON→OFF又はOFF→ON)では瞬間的とはいえ活性領域で動作するので、当該過渡期における内部損失は抵抗制御法とそれほど変わらない。
【0042】
本件発明は、かかる点に着目して案出されたものである。すなわち、電子パワーデバイスのスイッチング過渡期の電力消費がデバイス発熱の主要因であり、デバイスの発熱を抑えるためには、電子パワーデバイスのスイッチング回数を少なくすることが効果的であることに想到したものである。
【0043】
上記のフローチャートにおいて、PWM制御周波数=第1の周波数は、モータ6が高温状態にないときにセットされ、一方、PWM制御周波数=第2の周波数は、モータ6が高温状態にあるときにセットされる。したがって、本実施形態によれば、モータ6が高温状態にあるときに、「電子パワーデバイス(スイッチング素子5a〜5d)の単位時間(たとえば、1秒)当たりのスイッチング回数が大幅減少する」という作用が得られる。
【0044】
かかる作用により、電子パワーデバイスの高温状態時には、電子パワーデバイスのスイッチング回数を削減して、スイッチング過渡期の電力消費を抑制し、当該デバイスの発熱抑制を図ることができ、デバイス自体の耐久性向上及び破壊防止を図ることができるという格別の効果が得られるのである。
【0045】
しかも、本実施形態では、PWM制御周波数を切り換えるという至極単純な方法でそれを実現しているので、冒頭の従来技術のように、冷却用のファンやブロアー又はヒートシンクを必要とせず、それゆえ、装置の大型化を招かない上、開閉体の開閉動作をストップせずに継続し続けることができ、操作上の違和感も生じないという特有の効果も得られるのである。
【0046】
図4は、実施形態の実験結果のグラフを示す図である。この図において、縦軸はデバイス温度、横軸は時間である。時間0から時間8付近にかけてモータ6を駆動し、その後、停止させる試験を、PWM制御周波数=第1の周波数(10KHz)と、PWM制御周波数=第2の周波数(2.5KHz)の双方で行った。グラフ中の点線はPWM制御周波数=第1の周波数(10KHz)のときの温度測定結果であり、グラフ中の一点鎖線はPWM制御周波数=第2の周波数(2.5KHz)のときの温度測定結果である。
【0047】
PWM制御周波数=第1の周波数(10KHz)のときの温度上昇分7.8度に対して、PWM制御周波数=第2の周波数(2.5KHz)のときの温度上昇分は2.4度であり、ほぼ1/3程度に低減していることが認められる。これは、電子パワーデバイスのスイッチング回数を10,000回から2,500回へと少なくしているからであり、それに伴って、電子パワーデバイスのスイッチングの過渡期回数が減り、それ故、活性領域の動作回数削減→トータルの内部損失削減→発生熱量抑制が図られているからである。
【0048】
以上のとおり、本実施形態によれば、(ア)ファンやブロアー又はヒートシンクといった物理的な冷却手段を必要とすることなく、したがって、装置の大型化やコストアップ又は騒音の問題を招くことなく、電子パワーデバイスの発熱問題を解消することができる。(イ)しかも、PWM制御周波数を変更するといった至極簡単な方法で、その効果を発揮することができるから、大幅な改修を要することなく、既存の装置に容易に適用することができる。(ウ)加えて、高温状態用の第2の周波数は、モータの回転を継続できる周波数であるため、車両のウィンドウ等の開閉体の開閉動作がストップせず、操作上の違和感も招かない。
【0049】
なお、以上の説明では、車両のウィンドウ開閉用のモータ制御装置及びモータ制御方法への適用例を示しているが、これに限定されないことはもちろんである。パルス制御法を採用するモータ制御装置及びモータ制御方法であって、且つ、電子パワーデバイスの発熱問題を抑制するという技術課題を持つあらゆる分野のモータ制御装置及びモータ制御方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施形態におけるモータ制御装置の構成図及びモータ6の正逆転制御の状態図である。
【図2】モータ制御装置1の動作フローチャートを示す図である。
【図3】モータ6のPWM制御波形図である。
【図4】実施形態の実験結果のグラフを示す図である。
【図5】モータ駆動用のスイッチ素子部とそのスイッチモード表を示す図である。
【図6】PWM制御法におけるモータの駆動波形を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 モータ制御装置
3 周辺制御部(判定手段、設定手段)
5a〜5d スイッチング素子(電子パワーデバイス)
6 モータ
7 温度センサ(検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の周期でON期間とOFF期間を繰り返すパルス状駆動電圧でモータ駆動用のスイッチング素子を制御するモータ制御装置において、
前記スイッチング素子の温度を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて前記スイッチング素子が高温状態にあるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果が否定のときに前記パルス状駆動電圧の繰り返し周波数を第1の周波数に設定する一方、前記判定手段の判定結果が肯定のときに前記パルス状駆動電圧の繰り返し周波数を第1の周波数よりも低い第2の周波数に設定する設定手段と
を備えたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記第1の周波数は、前記モータの仕様上定められる特定周波数又は特定範囲の周波数であり、また、前記第2の周波数は、該第1の周波数よりも低く、且つ、前記モータの回転を継続し得る周波数であることを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記第1の周波数は、前記モータの仕様上定められる特定周波数又は特定範囲の周波数であり、また、前記第2の周波数は、該第1の周波数よりも低く、且つ、前記モータの回転を継続し得る周波数であって、しかも、前記モータの回転むらに伴う異音や共振音が体感されない程度の周波数であることを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記スイッチング素子は、電子パワーデバイスであることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のモータ制御装置。
【請求項5】
一定の周期でON期間とOFF期間を繰り返すパルス状駆動電圧でモータ駆動用のスイッチング素子を制御するモータ制御方法において、
前記スイッチング素子の温度を検出する検出ステップと、
前記検出ステップの検出結果に基づいて前記スイッチング素子が高温状態にあるか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップの判定結果が否定のときに前記パルス状駆動電圧の繰り返し周波数を第1の周波数に設定する一方、前記判定ステップの判定結果が肯定のときに前記パルス状駆動電圧の繰り返し周波数を第1の周波数よりも低い第2の周波数に設定する設定ステップと
を含むことを特徴とするモータ制御方法。
【請求項6】
前記第1の周波数は、前記モータの仕様上定められる特定周波数又は特定範囲の周波数であり、また、前記第2の周波数は、該第1の周波数よりも低く、且つ、前記モータの回転を継続し得る周波数であることを特徴とする請求項5記載のモータ制御方法。
【請求項7】
前記第1の周波数は、前記モータの仕様上定められる特定周波数又は特定範囲の周波数であり、また、前記第2の周波数は、該第1の周波数よりも低く、且つ、前記モータの回転を継続し得る周波数であって、しかも、前記モータの回転むらに伴う異音や共振音が体感されない程度の周波数であることを特徴とする請求項5記載のモータ制御方法。
【請求項8】
前記スイッチング素子は、電子パワーデバイスであることを特徴とする請求項5乃至7いずれかに記載のモータ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−228748(P2007−228748A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48265(P2006−48265)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】