説明

モータ制御装置及びモータ制御方法

【課題】機構部品と組み合わせて使用される電動モータの制御処理にて、従来切り分けが困難であったセンサ等の故障と異物による障害とを区別する。
【解決手段】CPU51は、機構部品が持つたわみと停止後のシステムの挙動に着目し、モータ停止後のセンサ信号値の変化を見ることにより、「故障」と「障害」を識別する。CPU51には、角度センサ48からの角度検出信号の有無を判定する角度センサ信号認識部61と、角度検出信号が得られない場合、モータ本体31の動作を停止させるモータ動作規制部62を備えている。また、CPU51には、角度検出信号を受信し、モータ停止後における角度検出信号の変化の有無を判定する信号変化検出部63と、モータ停止後の角度検出信号の有無により「障害」と「故障」を区別する障害・故障判定部64が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ワイパ装置など、機構部品と組み合わせて使用される電動モータの制御技術に関し、特に、出力軸の固着やセンサ類の不調などの故障と、雪等の異物による障害とを区別可能なモータ制御装置・制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用のワイパシステムや、スライドドアシステム、パワーウインドシステムなどでは、モータの回転出力をリンク等の機構部品によって所望の動作に変換し、ワイパアームやドア、窓ガラスなどを作動させている。このようなシステムでは、モータ出力軸の回転角度を角度センサによって検出し、この検出値に基づいてワイパアーム等の位置を把握してモータの動作を制御している。
【0003】
一方、これらのシステムでは、異物等によってワイパアーム等の動作に何らかの障害が発生し、モータ出力中に角度センサの信号値に変化がない場合、モータ回転速度が0になったと判断し、モータロックと判定する。その場合、例えば、ワイパシステムでは、モータロックと判定された時点で一旦モータ出力を止め、その後一定時間が経過した時点で改めて出力を再開する。そして、モータロックが所定回数連続して検出された場合、「障害物検出」と判定し、モータへの通電を中止し、払拭動作を停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開 WO2007/52503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前述のシステムでは、角度センサが故障し、センサからの信号に変化がない場合もモータ回転速度が0と判断される。このため、センサ故障の場合も「障害物検出」となってしまい、異物による障害とセンサ故障の区別が付かない場合が存在する。角度センサが故障している場合、モータ出力軸の回転角度が把握できず、例えば、ワイパシステムでは、ワイパアームの位置を制御装置側にて認識することができない。従って、ワイパアームが動いているにもかかわらず、センサ信号によってワイパアームの位置を把握できず、ワイパブレードがピラー等に干渉してしまうおそれがある、という問題があった。
【0006】
本発明の目的は、機構部品と組み合わせて使用される電動モータの制御処理にて、従来切り分けが困難であったセンサ等の故障と異物による障害とを区別することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のモータ制御装置は、正逆回転する出力軸を有するモータと、前記出力軸の回転角度を検出し、角度検出信号を出力する角度センサと、前記出力軸に接続された機構部品を介して前記モータによって駆動される被動部材と、を有するシステムにおける前記モータの制御装置であって、前記角度検出信号を受信し、前記角度センサからの信号の有無を判定する角度センサ信号認識部と、前記角度検出信号が得られない場合、前記モータを停止させるモータ動作規制部と、前記角度検出信号を受信し、前記モータ動作規制部によって前記モータを停止させた後の前記角度検出信号の変化の有無を判定する信号変化検出部と、前記モータ停止後の前記角度検出信号の有無により、前記モータに生じた異常を障害と故障に識別する障害・故障判定部と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明にあっては、角度検出信号が得られない場合、モータ出力を停止し、その後の角度検出信号の変化を見ることにより、「故障」と「障害」を識別することができる。これにより、従来、識別不能であった「故障」と「障害」を確実に切り分けることができ、その後の処理を適切に取ることが可能となる。
【0009】
前記モータ制御装置において、前記障害・故障判定部により、前記モータ停止後に前記角度検出信号が受信された場合は、当該システムが、前記被動部材の動作が異物によって妨げられている障害状態にあると判定し、前記モータ停止後に前記角度検出信号が受信されない場合は、当該システムが、前記出力軸の固着又は前記角度センサの不調による故障状態にあると判定するようにしても良い。また、前記システムとして、前記機構部品を介して前記出力軸の回転が伝達されるワイパアームを有するワイパシステムを採用し、前記被動部材として、前記ワイパアームに連結され、ガラス面上を払拭するワイパブレードを設けても良い。
【0010】
本発明のモータ制御方法は、正逆回転する出力軸を有するモータと、前記出力軸の回転角度を検出し、角度検出信号を出力する角度センサと、前記出力軸に接続された機構部品を介して前記モータによって駆動される被動部材と、を有するシステムにおける前記モータの制御方法であって、前記角度検出信号の有無を判定し、前記角度検出信号が得られない場合、前記モータを停止させ、前記モータを停止させた後、前記角度検出信号の変化の有無を判定し、前記モータ停止後の前記角度検出信号の有無により、前記モータに生じた異常を障害と故障に識別することを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、角度検出信号が得られない場合、モータ出力を停止し、その後の角度検出信号の変化を見ることにより、「故障」と「障害」を識別することができる。これにより、従来、識別不能であった「故障」と「障害」を確実に切り分けることができ、その後の処理を適切に取ることが可能となる。
【0012】
前記モータ制御方法において、前記モータ停止後に前記角度検出信号が受信された場合は、当該システムが、前記被動部材の動作が異物によって妨げられている障害状態にあると判定し、前記モータ停止後に前記角度検出信号が受信されない場合は、当該システムが、前記出力軸の固着又は前記角度センサの不調による故障状態にあると判定するようにしても良い。また、前記システムとして、前記機構部品を介して前記出力軸の回転が伝達されるワイパアームを有するワイパシステムを採用し、前記被動部材として、前記ワイパアームに連結され、ガラス面上を払拭するワイパブレードを設けても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明のモータ制御装置によれば、正逆回転する出力軸を有するモータと、出力軸の回転角度を検出し、角度検出信号を出力する角度センサと、出力軸に接続された機構部品を介してモータによって駆動される被動部材と、を有するシステムにて、角度検出信号の有無を判定する角度センサ信号認識部と、角度検出信号が得られない場合モータを停止させるモータ動作規制部と、モータを停止後の角度検出信号の変化の有無を判定する信号変化検出部と、モータ停止後の角度検出信号の有無によりモータに生じた異常を障害と故障に識別する障害・故障判定部と、を設けたので、モータに生じる「故障」と「障害」を識別することができる。これにより、従来、識別不能であった「故障」と「障害」を確実に切り分けることができ、その後の処理を適切に取ることが可能となる。
【0014】
本発明のモータ制御方法によれば、正逆回転する出力軸を有するモータと、出力軸の回転角度を検出し、角度検出信号を出力する角度センサと、出力軸に接続された機構部品を介してモータによって駆動される被動部材と、を有するシステムにて、角度検出信号の有無を判定し、角度検出信号が得られない場合、モータを停止させ、モータ停止後、角度検出信号の変化の有無を判定し、モータ停止後の角度検出信号の有無により、モータに生じた異常を障害と故障に識別するようにしたので、モータに生じる「故障」と「障害」を識別することができる。これにより、従来、識別不能であった「故障」と「障害」を確実に切り分けることができ、その後の処理を適切に取ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例である制御処理が適用されるワイパモータを備えたワイパシステムを示す説明図である。
【図2】DR側のワイパモータの構成を示す断面図である。
【図3】本発明におけるモータ制御系の構成を示す説明図である。
【図4】CPUにおける障害・故障判定系の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の一実施例である制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施例である制御処理が適用されるワイパモータを備えたワイパシステムを示す説明図である。図1のワイパシステム11は、自動車のウインドガラス(フロントガラス)12に付着した雨水等を拭き取って運転者の視界を確保するために設けられている。
【0017】
ワイパシステム11には、被動部材として、ウインドガラス12に弾圧的に接触する運転席側(DR側)のワイパブレード13aと、助手席側(AS側)のワイパブレード13bが設けられている。ワイパブレード13aはワイパアーム14aに、ワイパブレード13bはワイパアーム14bにそれぞれ取り付けられている。ワイパアーム14a,14bは、車体の左右両側部に配置されたワイパ軸15a,15bに取り付けられており、ワイパ軸15a,15bの回転に伴い、所定の角度範囲で揺動する。ワイパシステム11は対向払拭型の装置となっており、ワイパブレード13a,13bは、ウインドガラス12の左右両側の上反転位置と、中央部の下反転位置との間の払拭範囲で揺動(往復動)する。
【0018】
DR側のワイパアーム14aを揺動させるため、車体にはワイパモータ21aが取り付けられている。ワイパモータ21aは、出力軸22aが所定の範囲で正逆回転し、出力軸22aは、伝達機構を介してワイパ軸15aと接続されている。伝達機構は、出力軸22aに固定されたクランクアーム23a、クランクアーム23aに接続された連結ロッド24a、連結ロッド24aに接続されワイパ軸15aに固定された駆動レバー25aなどの機構部品から構成されている。ワイパモータ21aが作動し出力軸22aが回転すると、その回転運動が伝達機構を介してワイパ軸15aに伝わり、ワイパアーム14aとワイパブレード13aが揺動する。
【0019】
AS側もDR側と同様の構成となっており、車体には、ワイパアーム14bを揺動駆動するためのワイパモータ21bが取り付けられている。ワイパモータ21bもまた、出力軸22bが所定の範囲で正逆回転し、ワイパモータ21bの出力軸22bは、DR側と同様に、伝達機構を介してワイパ軸15bと接続されている。伝達機構は、出力軸22bに固定されたクランクアーム23b、クランクアーム23bに接続された連結ロッド24b、連結ロッド24bに接続されワイパ軸15bに固定された駆動レバー25bなどの機構部品から構成されている。ワイパモータ21bが作動し出力軸22bが回転すると、その回転運動が伝達機構を介してワイパ軸15bに伝わり、ワイパアーム14bとワイパブレード13bが揺動する。
【0020】
次に、各ワイパモータ21a,21bの構造について説明する。図2は、DR側のワイパモータ21aの構成を示す断面図である。なお、DR側のワイパモータ21aとAS側のワイパモータ21bは基本的に同様の構造となっているため、以下では主にDR側のワイパモータ21aについて説明する。
【0021】
図2に示すように、ワイパモータ21aは減速機構付き電動モータとなっており、モータ本体31と減速機32とを有している。モータ本体31は、いわゆるブラシ付き直流モータとなっている。モータ本体31は、有底筒状に形成されたモータヨーク33を有している。モータヨーク33の内部には、アマチュア軸34aを備えたアマチュア34が回転自在に収容されている。アマチュア軸34aには、コミュテータ35が固定されている。コミュテータ35には、ブラシホルダ36に保持された一対のブラシ37(図中では一方のみを示す)が摺接している。ブラシ37を介してアマチュア34に駆動電流が供給されると、その駆動電流の向きに応じて、アマチュア軸34aが正転または逆転方向に回転する。
【0022】
減速機32は、ギヤケース38を有している。ギヤケース38は、バスタブ状に形成された金属製のケース本体38aと、ケース本体38aを閉塞する樹脂製のカバー38bとを備えている。ケース本体38aは、モータ本体31のモータヨーク33に固定されている。ギヤケース38の内部には、減速機構41が収容されている。アマチュア軸34aの回転は、この減速機構41によって所定の回転数にまで減速され、出力軸22aから出力される。
【0023】
減速機構41は、ウォームギヤ機構となっている。減速機構41のウォーム41aは、ケース本体38aの内部に突出するアマチュア軸34aの外周面に、アマチュア軸34aと一体に形成されている。ウォーム41aに噛み合うウォームホイル41bは、ケース本体38aの内部に突出する出力軸22aの基端部に固定されている。ケース本体38aにはボス部38cが設けられており、出力軸22aは、このボス部38cに回転自在に支持されている。出力軸22aの先端部は、ギヤケース38の外部に突出し、前述のクランクアーム23aに連結されている。
【0024】
モータ本体31の動作を制御するため、ワイパモータ21aには、制御基板42が設けられている。制御基板42は、カバー38bの内側に固定された状態でギヤケース38の内部に収容されている。制御基板42は、配線が施された基板42aを備えており、基板42a上には、複数の電気部品42b(図中には一つのみ示す)が搭載されている。電気部品42bとしては、モータ制御装置であるCPU51やROM52,RAM53等の制御系の素子と、FET54等のパワー系の素子等が搭載されている。
【0025】
図3は、本発明におけるモータ制御系の構成を示す説明図である。図3に示すように、CPU51は、イグニッションスイッチ43を介してバッテリ44と接続されており、ワイパスイッチ55によってワイパアーム14a,14bの動作形態(OFF,INT,LO,HI)を切り替えられるようになっている。また、アマチュア軸34aの回転を検出するため、制御基板42には一対の回転センサ46a,46bが設けられており、これに対応して、アマチュア軸34aには第1のセンサマグネット45が固定されている。さらに、出力軸22aの回転角度を検出するため、制御基板42には角度センサ48が設けられており、これに対応して、出力軸22aの基端部には第2のセンサマグネット47が固定されている。CPU51は、回転センサ46a,46bから入力されるパルス信号と、角度センサ48から入力される角度検出信号に基づいて、モータ本体31の動作を制御する。
【0026】
第1のセンサマグネット45は、多極着磁マグネットとなっており、環状(リング状)に形成されている。第1のセンサマグネット45の外周には、N極とS極とが周方向に交互に並ぶように10極の磁極が着磁されている。第1のセンサマグネット45は、アマチュア軸34aに嵌合固定され、アマチュア軸34aと共に回転する。回転センサ46a,46bには、ホール素子センサ(ホールIC)が使用されている。回転センサ46a,46bは、それぞれ互いに所定の間隔を空けて制御基板42上に固定され、第1のセンサマグネット45の外周面に対向している。アマチュア軸34aが回転すると、回転センサ46a,46bからは、アマチュア軸34aの回転速度に応じた周期のパルス信号が出力される。回転センサ46a,46bは、出力されるパルス信号の位相が互いに90度ずれるように所定の間隔を空けて配置されており、位相のずれ方向は、アマチュア軸34aの回転方向に応じて反転する。
【0027】
回転センサ46a,46bは、CPU51に配線を介して接続されており、回転センサ46a,46bが出力するパルス信号は、CPU51に入力される。回転センサ46a,46bからパルス信号が入力されると、CPU51は、各パルス信号の出現順に基づいてアマチュア軸34aの回転方向を認識すると共に、各パルス信号の周期に基づいてアマチュア軸34aの回転速度を認識する。そして、これらの認識情報に基づいて、モータ本体31の動作を制御する。
【0028】
一方、第2のセンサマグネット47は円錐台状に形成されており、その外周には、周方向に並ぶ一対の磁極が着磁されている。第2のセンサマグネット47は、出力軸22aと同軸となるように、当該出力軸22aの基端部に、制御基板42に対向して固定されている。出力軸22aが回転すると、第2のセンサマグネット47は出力軸22aと共に回転する。角度センサ48は、第2のセンサマグネット47の軸方向端面に対向するように制御基板42上に固定されている。角度センサ48は、磁気抵抗素子センサ(MRセンサ)となっており、出力軸22aが回転すると、角度センサ48からは出力軸22aの基準位置Ps1からの回転角度a1に応じた角度検出信号が出力される。
【0029】
本実施例では、ワイパアーム14aの下反転位置に対応する位置が基準位置Ps1とされている。基準位置Ps1から、ワイパアーム14aの上反転位置に対応する位置まで出力軸22aが回転すると、その回転角度a1に比例した角度検出信号が角度センサ48から出力される。つまり、角度センサ48は、ワイパアーム14aの上下反転位置間にて、出力軸22aの回転角度a1に比例した角度検出信号を出力する。
【0030】
角度センサ48もまたCPU51に配線を介して接続されており、CPU51には角度センサ48からの角度検出信号が入力される。CPU51は、角度センサ48から角度検出信号が入力されると、この角度検出信号に基づいて、出力軸22aの回転角度a1、つまり、ワイパアーム14aの絶対位置を認識する。CPU51は、この認識情報に基づいて、モータ本体31の動作を制御する。
【0031】
なお、DR側のワイパモータ21aの制御基板42と、AS側のワイパモータ21bの制御基板42は、互いに通信線49a,49bによって接続されている。ワイパモータ21aの角度センサ48が出力した角度検出信号は、ワイパモータ21bのCPU51にも入力される。また、ワイパモータ21bの角度センサ48が出力した角度検出信号は、ワイパモータ21aのCPU51にも入力される。DR側とAS側のCPU51は、それぞれ相手方の角度検出信号を取得して両ワイパアーム14a,14bの位置を認識し、両者が干渉しないようにモータ本体31を作動させる。
【0032】
ここで、従来のシステムでは、前述のように、角度センサが故障し、センサからの信号に変化がない場合もモータ回転速度が0と判断される。このため、センサ故障と異物による障害は、その原因や対処方法が全く異なるにもかかわらず、両者の切り分けができていなかった。そこで、本発明による制御処理では、機構部品が持つたわみと停止後のシステムの挙動に着目し、「故障」と「障害」の切り分けを図っている。
【0033】
一般に、ワイパアームなどの制御対象とセンサ位置(モータ)の間に機構部品が介在するシステムでは、機構部品にたわみ成分が存在する。このため、障害物によりモータロックした場合は、モータ出力を停止させると、その後、機構部品のたわみによる反力を受けてモータが逆転する。従って、「障害」の場合には、モータ停止直後に、機構部品の反動によって出力軸22aが若干逆転し、その動きにより角度センサ48からの信号が変化する。これに対し、出力軸22aの固着や角度センサ48の故障の場合は、出力停止の際に出力軸22aがまったく変動しないか、変動した旨の信号が出力されない。つまり、角度センサ48からの信号が変化しない。
【0034】
従って、モータ出力中に角度センサの信号値に変化がなく、モータロックと判定した後、モータへの出力を停止しているにもかかわらず、角度センサ48の信号値に変化がない場合は、「障害」ではなく「故障」と判定することができる。図4は、このような制御処理を行うCPU51における障害・故障判定系の構成を示すブロック図である。図4に示すように、CPU51には、モータ速度やブレード位置等に基づいてワイパモータ21aをフィードバック制御するモータ駆動指令部60に加えて、角度センサ48の出力信号(角度検出信号)を受信し、その有無を判定する角度センサ信号認識部61と、角度検出信号が得られない場合、モータ本体31の動作を停止させるモータ動作規制部62を備えている。また、CPU51には、角度検出信号を受信し、モータ停止後における角度検出信号の変化の有無を判定する信号変化検出部63と、モータ停止後の角度検出信号の有無により「障害」と「故障」を区別する障害・故障判定部64が設けられている。
【0035】
このような装置構成と処理系を備えたワイパシステム11では、次のようにしてワイパモータ21a,21bが駆動制御される。図5は、そのフローチャートである。まず、イグニッションスイッチ43がオンされると、制御基板42上のCPU51等に電源が供給される。このときCPU51は、ワイパアーム14aが下反転位置にあるときには、角度センサ48からの角度検出信号に基づいて、ワイパアーム14aが下反転位置つまり基準位置Ps1にあると認識する。この状態でワイパスイッチ55がオンされると、CPU51は、ワイパアーム14aを上反転位置に向けて移動させるようにモータ本体31を作動させる(ステップS1)。モータ本体31が作動すると、CPU51は、回転センサ46a,46bからのパルス信号に基づいてアマチュア軸34aの回転速度を認識し、認識した回転速度を目標速度マップに参照して、PWM制御にてモータ本体31の速度制御を行う。
【0036】
ワイパアーム14aが上反転位置にまで達すると、CPU51は、角度センサ48からの角度検出信号に基づいてワイパアーム14aが上反転位置に達したことを認識する。上反転位置への到達を認識したCPU51は、モータ本体31の作動方向を反転させ、ワイパアーム14aを上反転位置から下反転位置に向けて移動させる。そして、ワイパアーム14aが下反転位置に達すると、CPU51は、角度センサ48からの角度検出信号によりワイパアーム14aが下反転位置に達したことを認識し、モータ本体31の動作方向を再度反転させる。以下、同様の行程を繰り返すことにより、ワイパアーム14aが所定の角度範囲で揺動払拭動作を行う。
【0037】
一方、モータ出力中は、角度センサ信号認識部61によって、角度センサ48からの角度検出信号の値(以下、センサ信号値と言う)が変化しているか否かが常時監視されている(ステップS2)。ステップS2では、センサ信号値が規定時間Aの間に変化しているか否かが判定され、変化がある場合には「障害」や「故障」はないと判断されルーチンを抜ける。これに対し、センサ信号値が規定時間Aを超えて変化しない場合は、モータ回転速度=0と判断されステップS3に進む。このように、モータ出力中であるにも関わらず、モータ回転速度=0となっている状況は、「障害」や「故障」のような何らかの異常がシステムに生じていると考えられ、ステップS3では、モータ動作規制部62によってモータ出力を停止し、モータ本体31を停止させる。
【0038】
ステップS3にてモータ本体31を停止させた後、ステップS4に進み、信号変化検出部63によって、センサ信号値が規定時間Bの間に変化したか否かが判定される。なお、規定時間Bは、前記規定時間Aと同じ値でも良い。前述のように、機構部品が介在するシステムでは、障害物によりモータがロックした場合は、出力停止後にたわみによる反力を受けてモータが逆転する。従って、「障害」の場合には、ステップS4にて、規定時間Bの間にセンサ信号値の変化が検出される。一方、出力軸22aの固着や角度センサ48の故障の場合は、出力停止後にセンサ信号値は変化しない。そこで、センサ信号値に変化があった場合は、障害・故障判定部64は、センサ故障ではなく「障害」と判断し、ステップS5に進んでモータロックカウンタが所定数(例えば3)に達しているかどうかが判断される。
【0039】
モータロックカウンタが所定数に達していない場合はステップS6に進み、モータロックカウンタを1つインクリメントしてステップS1に戻り、モータを再作動させる。異物等によりワイパアームの動作が妨げられている場合、モータを再作動させて障害が除去されれば、ステップS2にて信号変化が捉えられ、障害は解決したとしてルーチンを抜ける。これに対して、モータを再作動させても障害が除去されない場合は、S3→S4→S5と進み、さらにモータロックカウンタを1つインクリメントする。そして、障害により、モータロックが5回連続した場合、すなわち、モータロックカウンタが3となった場合は、ステップS5からステップS7に進み、当該ワイパシステムが「障害」状態にあると判断し、障害検知処理(例えば、障害発生警告や該当エラーコードの設定等)が実行される。
【0040】
一方、ステップS4にて、センサ信号値が規定時間Bの間に変化しなかった場合は、出力軸22aの固着によってシステムが全く作動していないか、角度センサ48が故障してセンサ信号が全く変化しないかの何れかである。そこで、この場合は、障害・故障判定部64は、当該ワイパシステムが「故障」状態にあると判断し、ステップS8に進んで故障処理(例えば、センサ故障警告やモータ故障警告、該当エラーコードの設定等)が実行される。
【0041】
このように、本発明の制御処理によれば、機構部品が持つたわみと停止後のシステムの挙動に着目し、センサ信号値が変化せずモータ回転速度=0と判断された場合、モータ出力を停止し、その後のセンサ信号値の変化を見ることにより、「故障」と「障害」を識別することができる。これにより、従来、識別不能であった「故障」と「障害」を確実に切り分けることができ、その後の処理(該当エラーコードの設定や、障害排除、部品交換等)を適切に取ることが可能となる。
【0042】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、前述の実施例では、本発明をワイパシステムに適用した例を示したが、本発明は、スライドドアシステムやパワーウインドシステムにも適用可能であり、さらに、機構部品と組み合わせて使用される電動モータの制御全般に応用することが可能である。なお、障害物の検出に際しては、ウインドガラス12を監視するカメラを設けたり、ワイパブレード13a,13bに圧力センサを埋め込み障害物を検出したりすることも可能である。
【0043】
また、前述の実施例では、運転席側と助手席側それぞれにモータを配した対向払拭型のワイパシステムに本発明を適用した例について説明したが、1個のモータを駆動源とし、リンク機構によって運転席側と助手席側のワイパアームを連動させる平行払拭型のリバーシングワイパシステムなどにも本発明は適用可能である。
【0044】
さらに、本実施例では、ワイパアームの絶対位置検出に、磁界の変化を電気抵抗の変化として検出する非接触式の磁気センサ(MRセンサ)を用いているが、基準位置にて信号を出力するセンサ(ホールICなど)と回転センサ46a,46bの組み合わせによってワイパアームの位置検出を行っても良い。この場合、前述のステップS2やS4では、角度センサ48からの角度検出信号に代えて、回転センサ46a,46bからのパルス信号を角度検出信号として使用し、その入力や変化の有無を判断する。そして、前記ステップS4では、回転センサ46a,46bからのパルス信号が入力されない場合、センサ信号値に変化なしと判断して「故障」と判定する。
【符号の説明】
【0045】
11 ワイパシステム
12 ウインドガラス
13a,13b ワイパブレード(被動部材)
14a,14b ワイパアーム
15a,15b ワイパ軸
21a,21b ワイパモータ
22a,22b 出力軸
23a,23b クランクアーム
24a,24b 連結ロッド
25a,25b 駆動レバー
31 モータ本体
32 減速機
33 モータヨーク
34 アマチュア
34a アマチュア軸
35 コミュテータ
36 ブラシホルダ
37 ブラシ
38 ギヤケース
38a ケース本体
38b カバー
38c ボス部
41 減速機構
41a ウォーム
41b ウォームホイル
42 制御基板
42a 基板
42b 電気部品
43 イグニッションスイッチ
44 バッテリ
45 第1のセンサマグネット
46a,46b 回転センサ
47 第2のセンサマグネット
48 角度センサ
49a,49b 通信線
51 CPU
52 ROM
53 RAM
54 FET
55 ワイパスイッチ
60 モータ駆動指令部
61 角度センサ信号認識部
62 モータ動作規制部
63 信号変化検出部
64 障害・故障判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正逆回転する出力軸を有するモータと、
前記出力軸の回転角度を検出し、角度検出信号を出力する角度センサと、
前記出力軸に接続された機構部品を介して前記モータによって駆動される被動部材と、を有するシステムにおける前記モータの制御装置であって、
前記角度検出信号を受信し、前記角度センサからの信号の有無を判定する角度センサ信号認識部と、
前記角度検出信号が得られない場合、前記モータを停止させるモータ動作規制部と、
前記角度検出信号を受信し、前記モータ動作規制部によって前記モータを停止させた後の前記角度検出信号の変化の有無を判定する信号変化検出部と、
前記モータ停止後の前記角度検出信号の有無により、前記モータに生じた異常を障害と故障に識別する障害・故障判定部と、を有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のモータ制御装置において、前記障害・故障判定部は、
前記モータ停止後に前記角度検出信号が受信された場合は、当該システムが、前記被動部材の動作が異物によって妨げられている障害状態にあると判定し、
前記モータ停止後に前記角度検出信号が受信されない場合は、当該システムが、前記出力軸の固着又は前記角度センサの不調による故障状態にあると判定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のモータ制御装置において、
前記システムは、前記機構部品を介して前記出力軸の回転が伝達されるワイパアームを有するワイパシステムであり、
前記被動部材は、前記ワイパアームに連結され、ガラス面上を払拭するワイパブレードであることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
正逆回転する出力軸を有するモータと、
前記出力軸の回転角度を検出し、角度検出信号を出力する角度センサと、
前記出力軸に接続された機構部品を介して前記モータによって駆動される被動部材と、を有するシステムにおける前記モータの制御方法であって、
前記角度検出信号の有無を判定し、前記角度検出信号が得られない場合、前記モータを停止させ、
前記モータを停止させた後、前記角度検出信号の変化の有無を判定し、
前記モータ停止後の前記角度検出信号の有無により、前記モータに生じた異常を障害と故障に識別することを特徴とするモータ制御方法。
【請求項5】
請求項1記載のモータ制御方法において、
前記モータ停止後に前記角度検出信号が受信された場合は、当該システムが、前記被動部材の動作が異物によって妨げられている障害状態にあると判定し、
前記モータ停止後に前記角度検出信号が受信されない場合は、当該システムが、前記出力軸の固着又は前記角度センサの不調による故障状態にあると判定することを特徴とするモータ制御方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載のモータ制御方法において、
前記システムは、前記機構部品を介して前記出力軸の回転が伝達されるワイパアームを有するワイパシステムであり、
前記被動部材は、前記ワイパアームに連結され、ガラス面上を払拭するワイパブレードであることを特徴とするモータ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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