説明

モールド変流器

【課題】導体及び鉄心全体を固体絶縁物で被覆することで、径方向及び軸方向の縮小化を図ったモールド変流器を提供する。
【解決手段】絶縁性ガス4を密閉した接地タンク内に配置される導体1と、導体1の同心円状に巻装された鉄心3と、鉄心3に巻装される巻線7を有する変流器において、導体1と鉄心3及び巻線7の全体を被覆し、且つ導体1の両端部が外部に突出するように固体絶縁物2で一体にモールドすると共に、導体1、固体絶縁物2及び絶縁性ガス4よりなる三重点10Bから鉄心3に至るまでの固体絶縁物2を凸状に形成する。また、導体1であって、固体絶縁物2に覆われ、且つ少なくとも鉄心3と対向する部分の径D2を、導体1であって絶縁性ガス4中に配置される部分の径D1よりも小さく形成すると共に、径D1とD2の境界部1Aを曲面状に形成し、更に鉄心3の前記導体と対向する側の角部3bを段状に形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁開閉装置内に装着するモールド変流器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモールド変流器(特許文献1)の構成を図4に示す。6は主回路導体であり、この主回路導体6を円周方向に囲むように変流器本体9が配置されている。変流器本体9にはシールド電極8が設けられている。さらに、主回路導体6とシールド電極8の間を絶縁物14で固定した構成となっている。ここで、高圧側となる主回路導体6と低圧側となるシールド電極8の間の絶縁を確保するため、絶縁物14は軸方向に十分な絶縁距離をとった大きさに形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−232170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1のような変流器においては、絶縁性ガスと主回路導体6と固体絶縁物14の接点部よりなる三重点及び、絶縁性ガスと電界シールド8と固体絶縁物14の接点部よりなる三重点ができ、三重点が2箇所において発生していた。このため、2箇所の三重点が絶縁上の弱点となるので、絶縁物14を軸方向又は径方向に大きく形成する必要があり、機器の縮小化の妨げとなっていた。
【0005】
また、絶縁性の低いガス、例えば乾燥空気を用いた開閉装置内に装着する場合、絶縁物上の沿面距離を長くするためには、更に絶縁物を軸方向又は径方向に大きくする必要があり、変流器全体が大型化してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかるモールド変流器は、絶縁性ガスを密閉した接地タンク内に配置される導体と、前記導体の同心円状に巻装された鉄心と、前記鉄心に巻装される巻線を有し、前記導体と前記鉄心と前記巻線間に固体絶縁物が介在するモールド変流器において、前記固体絶縁物は、少なくとも前記導体と前記鉄心と前記巻線の全体を被覆し、且つ前記導体の両端部が外部に突出するように形成すると共に、前記導体と前記固体絶縁物と前記絶縁性ガスよりなる三重点から前記鉄心に至るまでの沿面を凸状に形成したことを特徴とする。
【0007】
前記導体は、少なくとも前記鉄心と対向する部分の第一の径と、前記導体の両端部の第二の径を有し、前記第一の径は前記第二の径よりも小さく形成し、更に前記第一の径と第二の径の境界部は曲面状に形成したことを特徴とする。
【0008】
更に好ましくは、前記鉄心の前記導体と対向する側の角部を段状に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
鉄心全体を固体絶縁物で被覆したことで、従来存在した2箇所の三重点のうち、絶縁性ガスと固体絶縁物と鉄心より成る三重点の電界を考慮する必要がなくなる。このため、1箇所のみとなった三重点、即ち導体と固体絶縁物と絶縁性ガスからなる三重点から鉄心までの絶縁距離を縮小することが出来る。更に、導体と固体絶縁物と絶縁性ガスよりなる三重点から鉄心に至るまでの固体絶縁物の沿面を凸状に形成し、沿面距離を十分に確保したので、絶縁性を保った上で変流器の軸方向及び径方向の寸法縮小が可能となる。
【0010】
また、絶縁性ガス中よりも絶縁性能の高い固体絶縁物中において、導体と鉄心間の絶縁を確保しつつ、鉄心と対向する部分の導体の導体径を導体の両端部の径より小さく形成して鉄心を導体側に近づけて配置したので、変流器の径方向寸法の縮小を図ることができる。また、導体径を異ならせることで発生する導体の境界部を曲面状に形成すると共に固体絶縁物内部に配置することで、絶縁性能が確保でき、寸法拡大を防止できる。
【0011】
更には、導体と対向する側の鉄心の角部を段状に形成し、鉄心角部の被覆箇所の曲率半径を大きくすることで、導体と鉄心間の電界が緩和され、径方向の寸法拡大を防ぐことができる。このような構成により、変流器の径方向及び軸方向の縮小化が図れるので、絶縁性の低いガス、例えば乾燥空気を絶縁媒体として用いた場合であっても、変流器全体の大型化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る変流器の側断面図
【図2】図1のA−A方向から見た断面図
【図3】図1の要部拡大図
【図4】従来の変流器の側断面図
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
以下、本発明を適用した実施例につき適宜図面を用いて説明する。図1、図2に示すように、本実施例の変流器は導体1と、固体絶縁物2と、鉄心3と、巻線7により概略構成されている。導体1と、鉄心3と、鉄心3に巻装される巻線7は、エポキシ樹脂等から成る固体絶縁物2によって全体を被覆され、一体にモールド形成されている。
【0014】
変流器のモールド方法としては、まず固体絶縁物2と同様の部材からなる架台を作成する。ここでは、固体絶縁物2として熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂を使用する。架台には、例えば円筒状の部材を用いることができる。この円筒状部材に鉄心3及び巻線7を固定し位置決めを行う。次に、後述する本実施例の固体絶縁物2のモールド形状を成した注形用の型の中に、位置決めした鉄心3及び巻線7を配置する。その後、固体絶縁物2を型に流し込み、加熱処理を行うことで、注入した固体絶縁物2と、固体絶縁物2から成る円筒部材が一体化される。こうすることで、導体1と鉄心3と巻線7の全体を固体絶縁物2によって被覆し、一体にモールドすることができる。
【0015】
本発明における変流器は、絶縁性ガス4が密封された接地タンク(図示せず)内に配置されている。なお絶縁性ガス4には、例えば乾燥空気、SFガス等を用いることが出来る。しかしながら、SFガスについては絶縁性は高いものの地球温暖化係数が高く環境負荷が大きいという問題がある。このため本実施例においては、絶縁性はSFガスの1/3程度と低くなるが、環境負荷を大幅に小さくできる乾燥空気を採用している。
【0016】
導体1は図1に示すように、場所によって径が異なって形成されている。導体1であって絶縁性ガス4雰囲気中に配置される部分、即ち導体1の両端部付近においては、径D1を形成している。
【0017】
ここで、導体1は固体絶縁物2によってモールドされた後に、接地タンク内へと配置される。導体1は接地タンク内の他の導体(図示せず)とは別体で作られ、接地タンク内に導体1を収納した後に他の導体と接続される。このため、導体1の両端部付近には導体1及び他の導体を接続するボルト等をはめ込むための一定の寸法を確保した径D1が必要となる。
【0018】
更に、導体1の両端部は絶縁性ガス4と接することとなるため、固体絶縁物2でモールドされた箇所に比べて電界が厳しくなる。導体径を小さくしすぎると円筒状である導体1周辺の電界が高くなり、導体1と接地タンク間における絶縁が保てなくなるという問題も生じる。このように導体1の両端部付近の径D1は作業性上、絶縁性能上の要求から一定の径寸法を確保する必要がある。
【0019】
一方、導体1であって、固体絶縁物2で被覆された箇所においては、上述の導体1の両端部のような作業上の要求がない。また、絶縁性能についても絶縁性ガス4と接する箇所のように接地タンク間との絶縁を考慮する必要がない。更には、図3において後述するように、固体絶縁物2は三重点10Bと鉄心3との絶縁距離が十分に確保できるように凸形状となっている。
【0020】
これらの要因により、導体1を固体絶縁物2で被覆した箇所においては、導体径をD1よりも小さいD2に形成し、鉄心3を導体1方向に近づけて配置することが可能となる。即ち、導体径を小さくすることで導体1と鉄心3間の絶縁距離を確保しつつ、且つ三重点10Bと鉄心3間の絶縁距離についても固体絶縁物2の沿面距離により確保された状態で鉄心3を導体1方向に近づけて配置することが可能となる。
【0021】
なお、本実施例では、導体1の少なくとも鉄心3と対向する部分において径D2を形成している。こうすることで、導体1が鉄心3で囲まれた部分の変流器の径D3の寸法を縮小することができる。
【0022】
また、径D1から径D2に至る境界部1Aは滑らかな曲面状に形成されている。こうすることで、2つの異なる径の境界部分で電界集中が発生することを防ぎ、固体絶縁物2内での電界緩和を図っている。
【0023】
次に、固体絶縁物2の形状につき説明する。図1、図2に示すように、固体絶縁物2は、導体1と鉄心3と巻線7の全体を被覆するように形成されている。鉄心3及び巻線
7についても全体を被覆したため、従来絶縁上の弱点となっていた2箇所の三重点のうち、絶縁性ガスと固体絶縁物と鉄心より成る三重点の電界については考慮しなくてよい構成となっている。また、前述のように導体1は接地タンク内の他の導体と接続を行うため、導体1の両端部が固体絶縁物2から外部に突出するように形成されている。
【0024】
図3において、導体1と固体絶縁物2と絶縁性ガス4より成る三重点10Bから、鉄心3の被覆材5までの軸方向寸法をhとする。この軸方向寸法hは三重点10Bと鉄心3間の絶縁が十分確保できる長さとする。
【0025】
更に、三重点10Bから鉄心3に至る、固体絶縁物2の沿面上の長さをL1とする。本実施例においては、1箇所のみ三重点10Bが発生するものの、固体絶縁物2を凸状に形成してL1の距離を長くとることで、三重点10Bから鉄心3間の絶縁沿面距離を保ちながら、軸方向寸法hを縮小することができる。
【0026】
次に鉄心3周辺部の構造を図3を用いて説明する、鉄心3は複数の珪素鋼板3aが積層されて構成されており、導体1の同軸円状に巻装されている。鉄心3の外周には、巻線7が巻装されている。更に、巻線7の外周には導電性の被覆材5が設けられている。
【0027】
図示を省略しているが、巻線7の周囲にはクッション材が設けられており、巻線7と鉄心3の接触による損傷防止や、巻線7による凹凸部の発生を防止し、電界集中を抑える役割を果たしている。
【0028】
巻線7には、同じく図示を省略した信号線が接続されている。導体1に電流が流れると導体1の電磁力によって巻線7に誘起された電流が、この信号線によって2次回路へと伝達される。
【0029】
また、本実施例においては、電界の厳しくなる鉄心3の導体1と対向する側の角部3bを段状に形成している。こうすることで、鉄心角部3bを被覆する箇所の被覆材5の曲率半径を大きくすることができ、導体1と鉄心3間の電界緩和を図ることができる。
【0030】
以上述べたように本実施例に係るモールド変流器においては、鉄心3全体を固体絶縁物2で被覆したことで、従来存在した2箇所の三重点のうち、絶縁性ガスと固体絶縁物と鉄心より成る三重点の電界を考慮する必要がなくなる。このため、1箇所のみとなった三重点、即ち導体1と固体絶縁物2と絶縁性ガス4からなる三重点10Bから鉄心3までの絶縁距離を縮小することが出来る。更に、導体1と固体絶縁物2と絶縁性ガス4よりなる三重点10Bから鉄心3に至るまでの固体絶縁物2の沿面を凸状に形成し、沿面距離を十分に確保したので、絶縁性を保った上で変流器の軸方向及び径方向の寸法縮小が可能となる。
【0031】
また、絶縁性ガス4中よりも絶縁性能の高い固体絶縁物2中において、導体1と鉄心3間並びに三重点10Bと鉄心3間の絶縁を確保しつつ、鉄心3と対向する部分の導体1の導体径D2を導体1の両端部の径D1より小さく形成して鉄心3を導体1側に近づけて配置したので、変流器の径方向寸法の縮小を図ることができる。また、導体径を異ならせることで発生する導体1の境界部1Aを曲面状に形成すると共に固体絶縁物2内部に配置することで、絶縁性能が確保でき、寸法拡大を防止できる。
【0032】
更には、導体1と対向する側の鉄心3の角部3bを段状に形成し、鉄心角部3bを被覆する箇所の被覆材5の曲率半径を大きくすることで導体1と鉄心3間の電界が緩和され、径方向の寸法拡大を防ぐことが出来る。このような構成により、変流器の径方向及び軸方向の縮小化が図れるので、絶縁性の低いガス、例えば乾燥空気を絶縁媒体として用いた場合であっても、変流器全体の大型化を抑制することが可能となる。
【0033】
なお、本実施例では、接地タンク内の絶縁媒体として乾燥空気等の絶縁性の低いガスを用いることを想定しているが、SF等の絶縁性の高いガスを用いた場合には、変流器の更なる小型化を図ることができることは自明である。
【符号の説明】
【0034】
1 導体
1A 境界部
2 固体絶縁物
3 鉄心
4 絶縁性ガス
5 被覆材
7 巻線
10B 三重点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性ガスを密閉した接地タンク内に配置される導体と、前記導体の同心円状に巻装された鉄心と、前記鉄心に巻装される巻線を有し、
前記導体と前記鉄心と前記巻線間に固体絶縁物が介在するモールド変流器において、
前記固体絶縁物は、少なくとも前記導体と前記鉄心と前記巻線の全体を被覆し、且つ前記導体の両端部が外部に突出するように形成すると共に、
前記導体と前記固体絶縁物と前記絶縁性ガスよりなる三重点から前記鉄心に至るまでの沿面を凸状に形成したことを特徴とするモールド変流器。
【請求項2】
前記導体は、少なくとも前記鉄心と対向する部分の第一の径と、前記導体の両端部の第二の径を有し、
前記第一の径は前記第二の径よりも小さく形成し、
更に前記第一の径と第二の径の境界部は曲面状に形成したことを特徴とする請求項1に記載のモールド変流器。
【請求項3】
前記鉄心の前記導体と対向する側の角部を段状に形成したことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のモールド変流器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−99129(P2013−99129A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240202(P2011−240202)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(512217570)明電T&D株式会社 (6)
【Fターム(参考)】