説明

モールド用光学ガラス

【課題】耐失透性を悪化させることなく、低いガラス転移温度(Tg)および屈伏点(At)を達成し、溶融時の揮発を低減させたモールド用光学ガラスを提供する。
【解決手段】重量%で、
SiO 0〜7.0B 14.0〜21.5GeO 0〜5.0La 7.0〜35.0Gd 10.5〜40.0Y 0〜8.0LaF 5.0〜40.0GdF 0〜12.0YF 0〜8.0Ta 0〜8.0CaO 0〜3.0SrO 0〜3.0BaO 0〜3.0ZnO 1.0〜25.0ZnF 0〜8.0ZrO 0〜6.0TiO 0〜4.0WO 0〜3.0Nb 0〜5.0を含有し、アルカリ金属酸化物を含有しない組成であり、ガラス転移温度(Tg)が590℃以下かつ屈伏点(At)が630℃以下の、高屈折率・低分散性のガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアッベ数(νd)をx軸とし、屈折率(nd)をy軸とする直交座標系におけるA点(52.0,1.80000)、B点(44.0,1.80000)、C点(47.0,1.74000)、D点(55.0,1.74000)をA点、B点、C点、D点、A点の順序で結んだ直線である境界線で囲まれる範囲内のアッベ数(νd)と屈折率(nd)を有するモールド用光学ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のデジタル機器の急速な普及、発展において、非球面レンズを用いた光学設計は欠かせない存在になっている。非球面レンズはガラスを再加熱し金型で加圧成形してレンズを得る技術(ガラスモールド成形)を用いて作製されているが、ここで問題となるのが金型の寿命である。金型の寿命は低コスト、大量生産のためには非常に重要となる。金型の長寿命化に重要なのは加熱する温度(成形温度)であり、できるだけ低い温度で成形できるガラス、つまりガラス転移温度(Tg)および屈伏点(At)ができるだけ低いガラスの開発が要求されている。
【0003】
また、さらなる光学機器の発展のために、光学恒数に関する要望も高まってきている。特にアッベ数(νd)が50.0付近でできるだけ屈折率(nd)の高いモールド用光学ガラスの要求が高い。
【0004】
以下、ガラス転移温度(Tg)および屈伏点(At)が比較的低く、要求される光学恒数を満たす従来例のガラスを説明する。
特許文献1には、屈伏温度(At)が560℃以下であり、屈折率(nd)が1.795以上、アッベ数(νd)が39.5以上の範囲の光学恒数を有し、必須成分として、B、GeO、La、Gd、LiO、Ta、LaFを含有する光学ガラスが提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、ガラス転移温度(Tg)が530〜680℃の範囲で、アッベ数(νd)をx軸とし、屈折率(nd)をy軸とする、x−y直交座標におけるA点(1.75、50.0)、B点(1.80、46.0)、C点(1.80、50.0)およびD点(1.75、56.0)をA点、B点、C点、D点、A点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内の光学恒数を有し、必須成分としてSiO、B、La、Gd、LiO、Fを含有する光学ガラスが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−118033号公報
【特許文献2】特開2005−170782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した従来例のガラスでは、以下に説明するような問題点が存在する。
すなわち、特許文献1および2に記載された光学ガラスはいずれもLiOおよびFを必須成分にしてガラス転移温度(Tg)を低下させているが、LiOを含有しているため耐失透性が悪いという問題がある。
また、特許文献2に記載の光学ガラスは、希土類酸化物(Y、La、Gd、Yb)の合計含有量が実施例にある通り、すべて50.0重量%以上と非常に多い。そのため、LiOを含有させながらガラス化させるために、ガラス形成酸化物(SiO、B、GeO)の合計含有量が25.0重量%以上含有させるか、あるいは、それ以下の場合は希土類酸化物と相性の良いBを21.5重量%以上含有させている。これらは両方とも溶融時の揮発を増やす原因となる。溶融時の揮発は、ガラス品質(脈理、屈折率分布、屈折率変動)の悪化につながり、得率を低下させるという問題がある。溶融時の揮発をなるべく少なくして得率の良い光学ガラスを作製することは、低コスト化や環境影響を考えれば非常に重要である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上述した従来例の問題点を解消し、耐失透性を悪化させることなく、アッベ数(νd)が50.0付近で高い屈折率(nd)を有し、低いガラス転移温度(Tg)および屈伏点(At)を達成し、溶融時の揮発を極力低減させる工夫がなされているモールド用光学ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、B-Ln-ZnO-F系ガラス(Ln:希土類元素)において、LiOなどのアルカリ酸化物を使用せず、ZnOとFを一定量以上導入することでガラス転移温度(Tg)を低下させることにより、ガラス形成酸化物の合計含有量を抑え、かつ、Bの含有量も抑えることができ、その結果この組成系特有の激しい揮発を極力抑え、脈理や屈折率変動等による品質悪化を大きく低減することがでることを知見した。また、耐失透性を悪化させずに一定量以上の希土類元素を含有させることができるため、要求される高屈折率低分散性を実現できることとなった。
【0010】
すなわち、本発明のモールド用光学ガラスは、重量%で、
SiO 0〜7.0 好ましくは 0〜5.0
14.0〜21.5 好ましくは 16.0〜21.0
GeO 0〜5.0 好ましくは 0〜4.0
La 7.0〜35.0 好ましくは 8.0〜32.0
Gd 10.5〜40.0 好ましくは 11.0〜38.0
0〜8.0 好ましくは 0〜6.0
LaF 5.0〜40.0 好ましくは 6.5〜37.0
GdF 0〜12.0 好ましくは 0〜9.0
YF 0〜8.0 好ましくは 0〜6.5
Ta 0〜8.0 好ましくは 0〜6.0
CaO 0〜3.0 好ましくは 0〜2.0
SrO 0〜3.0 好ましくは 0〜1.5
BaO 0〜3.0 好ましくは 0〜2.0
ZnO 1.0〜25.0 好ましくは 2.0〜22.0
ZnF 0〜8.0 好ましくは 0〜6.0
ZrO 0〜6.0 好ましくは 0〜4.5
TiO 0〜4.0 好ましくは 0〜3.0
WO 0〜3.0 好ましくは 0〜2.0
Nb 0〜5.0 好ましくは 0〜4.0
を含有し、アルカリ金属酸化物を含有しない組成のモールド用光学ガラスであって、
ガラス転移温度(Tg)が590℃以下かつ屈伏点(At)が630℃以下であり、
図1に示すように、アッベ数(νd)をx軸とし、屈折率(nd)をy軸とする直交座標系におけるA点(52.0,1.80000)、B点(44.0,1.80000)、C点(47.0,1.74000)、D点(55.0,1.74000)をA点、B点、C点、D点、A点の順序で結んだ直線である境界線で囲まれる範囲内の光学恒数を有することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のモールド用光学ガラスは、ZnOを11.0重量%以上含有する、あるいはF原子を5.5重量%以上含有することが好適である。
【0012】
また、本発明のモールド用光学ガラスは、Zn原子とF原子との合計含有量が10.0重量%以上であることが好適である。
【0013】
また、本発明のモールド用光学ガラスは、SiO、GeOの少なくともいずれか一方とBとの合計含有量が25.0重量%以下であることが好適である。
【0014】
また、本発明のモールド用光学ガラスは、La原子とGd原子とY原子との合計含有量が43.0重量%以上であることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、モールド用光学ガラスが、
重量%で、
SiO 0〜7.0
14.0〜21.5
GeO 0〜5.0
La 7.0〜35.0
Gd 10.5〜40.0
0〜8.0
LaF 5.0〜40.0
GdF 0〜12.0
YF 0〜8.0
Ta 0〜8.0
CaO 0〜3.0
SrO 0〜3.0
BaO 0〜3.0
ZnO 1.0〜25.0
ZnF 0〜8.0
ZrO 0〜6.0
TiO 0〜4.0
WO 0〜3.0
Nb 0〜5.0
を含有し、アルカリ金属酸化物を含有しない組成のモールド用光学ガラスであって、
ガラス転移温度(Tg)が590℃以下かつ屈伏点(At)が630℃以下であり、
図1に示すように、アッベ数(νd)をx軸とし、屈折率(nd)をy軸とする直交座標系におけるA点(52.0,1.80000)、B点(44.0,1.80000)、C点(47.0,1.74000)、D点(55.0,1.74000)をA点、B点、C点、D点、A点の順序で結んだ直線である境界線で囲まれる範囲内の光学恒数を有することにより、耐失透性を悪化させることなく、低いガラス転移温度(Tg)および屈伏点(At)を達成し、溶融時の揮発を低減させたモールド用光学ガラスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
初めに、本発明におけるモールド用光学ガラスの組成のうち、必須成分B、La、Gd、LaFおよびZnOについて説明する。
【0017】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、Bを重量%で
14.0〜21.5
含有する。
は本発明におけるモールド用光学ガラスの綱目を形成する主成分であり、耐失透性の向上に有効である。しかし、14.0重量%未満の含有量では耐失透性が悪くなり、21.5重量%を超えて含有させると揮発による品質悪化やガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)の高温化の問題が生じてくる。なお、Bのより好ましい範囲は16.0〜21.0重量%である。
【0018】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、Laを重量%で
La 7.0〜35.0
含有する。
Laは高屈折率低分散化のために非常に有効な成分である。しかし、7.0重量%未満ではその効果を発揮できず、35.0重量%を超えると耐失透性が悪くなる。なお、Laのより好ましい範囲は8.0〜32.0重量%である。
【0019】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、Gdを重量%で
Gd 10.5〜40.0
含有する。
Gdは、Laと同様に、高屈折率低分散化に有効な成分である。またLaと併用することによって、耐失透性を保ちつつ希土類成分の含有量を増やすことができ、より高屈折率低分散化が可能となる。しかし、10.5重量%未満では所望の屈折率を得ることは難しく、40.0重量%を超えて含有させると耐失透性が悪くなる。なお、Gdのより好ましい範囲は11.0〜38.0重量%である。
【0020】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、LaFを重量%で
LaF 5.0〜40.0
含有する。
LaFは希土類成分の供給源であり、またFの供給源でもある。Fを含有させるとガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)が低くなり、屈折率も低くなることが知られているが、同じくガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)を下げる成分であるアルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KOなど)を含有させた場合と比べて、希土類成分を多く含有しているガラスの耐失透性を保つ効果は飛躍的に高い。結果として、耐失透性を高めるがガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)を大きく上げてしまい溶融時の揮発の原因となるガラス形成酸化物(SiO、B、GeO)の含有量を少なく抑えながらも、希土類成分の含有量を増やすことができるためガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)が低く、耐失透性が良い高屈折率低分散ガラスを得率良く作製することができる。
5.0重量%未満しか含有させないと、このような効果を得られず、また、40.0重量%を超えて含有させると耐失透性に悪影響がでる。なお、LaFのより好ましい範囲は6.5〜37.0重量%である。
【0021】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、ZnOを重量%で
ZnO 1.0〜25.0
含有する。
ZnOは比較的屈折率を高めつつもガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)を低く抑えることができる成分である。1.0重量%未満しか含有させないと、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)を低く抑える効果が低く、25.0重量%を超えて含有させると所望する屈折率が得られなくなる。なお、ZnOのより好ましい範囲は2.0〜22.0重量%である。
【0022】
次に、本発明におけるモールド用光学ガラスの組成のうち、任意成分SiO、GeO、Y、GdF、YF、Ta、CaO、SrO、BaO、ZnF、ZrO、TiO、WOおよびNbについて説明する。
【0023】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、SiOを重量%で
SiO 0〜7.0
含有する。
SiOは本発明におけるモールド用光学ガラスの綱目を形成する成分であり、少量導入することにより耐失透性を上げる効果がある、しかし、7.0重量%を超えて含有させると所望のガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)が得られなくなる。また溶融温度が高くなって溶融時の揮発に問題が生じる。なお、SiOのより好ましい範囲は0〜5.0重量%である。
【0024】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、GeOを重量%で
GeO 0〜5.0
含有する。
GeOは、SiO同様に、本発明におけるモールド用光学ガラスの綱目を形成する成分である。しかし、5.0重量%を超えて含有させるとガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)、溶融温度の高温化を招き好ましくない。なお、GeOのより好ましい範囲は0〜4.0重量%である。
【0025】
SiOとGeOの少なくともいずれか一方とBとの合計含有量が25.0重量%以下とすれば、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)の低温化、ガラスの耐失透性の向上、溶融時の揮発の抑制について効果を発揮することができる。
【0026】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、Yを重量%で
0〜8.0
含有する。
は、LaやGdと同様に、高屈折率低分散化に有効な成分である。少量含有させると耐失透性の向上に効果があるが、8.0重量%を超えて含有させるとガラス溶融時の溶け残りの原因となる。なお、Yのより好ましい範囲は0〜6.0重量%である。
【0027】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、GdF、YFをそれぞれ重量%で
GdF 0〜12.0
YF 0〜8.0
含有する。
GdF、YFは少量であればLaFと置き換えて含有させることができる。それぞれ12.0重量%、8.0重量%を超えて含有させると、耐失透性が悪くなる。なお、GdFのより好ましい範囲は0〜9.0重量%、YFのより好ましい範囲は0〜6.5重量%である。
【0028】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、希土類原子成分のLa原子とGd原子とY原子との合計含有量が43.0重量%以上、さらに好ましくは44.0重量%以上である。
この合計含有量が43.0重量%未満の場合、所望する高屈折率低分散性が得られない。
【0029】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、Taを重量%で
Ta 0〜8.0
含有する。
Taは化学的耐久性を向上させるとともに、耐失透性を保ちつつ高屈折率低分散化できる成分である。しかし、8.0重量%を超えて含有させると所望するガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)が得られなくなる。なお、Taのより好ましい範囲は0〜6.0重量%である。
【0030】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、CaO、SrO、BaOをそれぞれ重量%で
CaO 0〜3.0
SrO 0〜3.0
BaO 0〜3.0
含有する。
CaO、SrO、BaOは、溶融性や屈折率調整に有効な成分である。それぞれ3.0重量%を超えて含有させると所望する屈折率が得られにくくなる。なお、CaOのより好ましい範囲は0〜2.0重量%、SrOのより好ましい範囲は0〜1.5重量%、BaOのより好ましい範囲は0〜2.0重量%である。
【0031】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、ZnFを重量%で
ZnF 0〜8.0
含有する。
ZnFは、ZnとFの供給源となる。8.0重量%を超えて含有させると所望する屈折率が得られなくなる。なお、ZnFのより好ましい範囲は0〜6.0重量%である。
【0032】
ZnOを11.0重量%以上含有する、あるいはF原子を5.5重量%以上含有することが好ましい。
すなわち、F原子含有量が5.5重量%未満の場合にはZnOを11.0重量%以上含有させることが好ましく、逆にZnO含有量が11.0重量%未満の場合にはF原子を5.5重量%以上含有させることが好ましい。これにより、所望のガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)が得られるためである。
【0033】
また、Zn原子とF原子との合計含有量が10.0重量%以上であることが好ましい。これにより、所望のガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)が得られるためである。
【0034】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、ZrOを重量%で
ZrO 0〜6.0
含有する。
ZrOは、Taと同様に、化学的耐久性を向上させるとともに、耐失透性を保ちつつ高屈折率低分散化できる成分である。しかし、6.0重量%を超えて含有させると溶融時の溶け残りが生じるようになる。なお、ZrOのより好ましい範囲は0〜4.5重量%である。
【0035】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、TiOを重量%で
TiO 0〜4.0
含有する。
TiOは、大きく屈折率を上げる効果がある。またB-Lu(Lu:希土類元素)系ガラスに含有させることにより、Bなどのガラス形成酸化物を減らしても耐失透性を比較的良く保つ効果がある。しかし4.0重量%を超えて含有させると高分散化し、所望する屈折率範囲のガラスができなくなる。なお、TiOのより好ましい範囲は0〜3.0重量%である。
【0036】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、WOを重量%で
WO 0〜3.0
含有する。
WOは屈折率を高める効果のある成分である。しかし、3.0重量%を超えて含有させると耐失透性が悪くなる。なお、WOのより好ましい範囲は0〜2.0重量%である。
【0037】
本発明におけるモールド用光学ガラスは、Nbを重量%で
Nb 0〜5.0
含有する。
Nbは、屈折率を大きく高める効果のある成分である。しかし、5.0重量%を超えて含有させると高分散化し、所望する屈折率範囲のガラスができなくなる。なお、Nbのより好ましい範囲は0〜4.0重量%である。
【0038】
本発明のモールド用光学ガラスは、各成分の原料としてそれぞれに相当する酸化物、水酸化物、フッ化物、炭酸塩、硝酸塩などを使用し、所定の割合で秤量し、十分混合したものをガラス調合原料とする。このガラス調合原料を白金製坩堝に投入し、電気炉で1000℃〜1200℃に加熱して溶融しながら適時攪拌し、清澄、均質化してから、適当な温度に予熱した金型に鋳込んだ後、電気炉内で徐冷して、本発明のモールド用光学ガラスを製造する。なお、ガラスの着色改善や脱泡のためにごく少量(0.1重量%以下)のSbなど、工業上周知である脱泡成分を加えても本発明の効果に影響は無い。
【0039】
本発明の目的から外れない限り、上記成分の他に光学恒数の調整、溶融性の改善、耐失透性の向上、およびガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)の低温化などのために、Mg、Al、Ga、In、Ybの酸化物及びフッ化物、またCa、Sr、Baのフッ化物などを含有させることもできる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明のモールド用光学ガラスを具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
表1および2に本発明の光学ガラス(実施例1〜21)の組成(重量%)、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)、原子重量%でのF量、Zn量、F+Zn合計量、および希土類元素合計量(Y+La+Gd)を示した。実施例1〜21のガラスの作製法は前述の通りである。屈折率、アッベ数、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)は公知の方法により測定した。
また、図1に、アッベ数(νd)をx軸、屈折率(nd)をy軸とした直座標系に実施例1〜21の光学恒数をプロットし、本発明の請求する光学恒数範囲を点A、B、C、Dで囲んだものを示した。
【0041】
また、表3に比較例1〜12の光学ガラスの組成(重量%)、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)、原子重量%でのF量、Zn量、F+Zn合計量、および希土類元素合計量(Y+La+Gd)を示した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
すべての実施例の光学ガラスにおいて、表1および2にある通り光学設計上非常に有用である光学恒数を有していて、ガラス転移温度(Tg)が524℃〜582℃、屈伏点(At)が565℃〜624℃の範囲にあるためモールド用光学ガラスとして適しており、さらに溶融中の揮発が非常に少ないため脈理、屈折率変動などの品質が良好である。
また、得られたガラスから所定量のガラス塊を切り出して研磨プリフォームを作製し、モールドで数種類のレンズを得た。これらのレンズは良好な転写性を示し、金型へのガラス付着、揮発物の付着など成形性に問題がある現象は認められなかった。この点でもモールド用光学ガラスとして優れている。
【0046】
一方、比較例1〜12の光学ガラスに関して説明する。
比較例1の光学ガラスはガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)高温化の要因となるガラス形成酸化物の含有量や希土類含有量に対して、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)低温化させるZnO、F、LiOが不足しているため、モールド用光学ガラスとして適さない。またB含有量が多く、溶融時の揮発も問題となる。
比較例2の光学ガラスは比較例1同様、ZnO、F、LiOの不足によるガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)の高温化により、モールド用光学ガラスとして適さない。またB含有量が非常に多く、溶融時の揮発も問題となる。
比較例3および比較例4の光学ガラスは、LiOを含有させながら希土類成分を多く含有させているので、耐失透性を保つためにB含有量が多い。そのため溶融時の揮発に問題がある。
比較例5の光学ガラスは、LiOを比較的多く含有させているため、耐失透性に問題がある。
比較例6の光学ガラスは、Bが多めであるため溶融時の揮発に問題が残る。また、希土類成分を多く含有していながら、さらにLiOを含有しており、そのうえガラス形成酸化物(SiO+B)合計量が少ないため、耐失透性に問題がある。
比較例7の光学ガラスは、耐失透性を高めるため、LiO含有量を少なくし、ガラス形成酸化物(SiO、B、GeO)を多く含有させている。そのためガラス転移温度(Tg)が高くなってしまい、モールド用光学ガラスとして適さない。
比較例8および比較例9の光学ガラスは、Bの含有量が多いため耐失透性は良好であるが、その反面溶融時の揮発が問題となる。
比較例10の光学ガラスは、Gd含有量が少ないため耐失透性が十分でなく、またガラス化させるためにBを非常に多くに含有させなければならなくなり、溶融時の揮発も問題である。
比較例11および比較例12の光学ガラスは、LiOの含有量が多いため耐失透性に問題がある。そのため希土類成分を多く含有させることができない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上の理由から、従来光学ガラスと比較し本発明の光学ガラスは、B-La-Gd-LaF-ZnO-F系で、かつ、LiOなどのアルカリ金属酸化物を一切含有させないガラスであって、所定量以上の希土類元素を含有させることにより、図1の点A、B、C、Dで囲んだ範囲のような光学設計上非常に有用な高屈折率低分散の光学恒数を持たせることができ、またZnO、F、ガラス形成酸化物合計量を所定の割合とすることによりガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)を低く抑えることができ、さらに溶融時の揮発も少なく抑えることができる。すなわち、モールド用光学ガラスとして産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のモールド用光学ガラスが有する光学恒数の範囲を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
SiO 0〜7.0
14.0〜21.5
GeO 0〜5.0
La 7.0〜35.0
Gd 10.5〜40.0
0〜8.0
LaF 5.0〜40.0
GdF 0〜12.0
YF 0〜8.0
Ta 0〜8.0
CaO 0〜3.0
SrO 0〜3.0
BaO 0〜3.0
ZnO 1.0〜25.0
ZnF 0〜8.0
ZrO 0〜6.0
TiO 0〜4.0
WO 0〜3.0
Nb 0〜5.0
を含有し、アルカリ金属酸化物を含有しない組成のモールド用光学ガラスであって、
ガラス転移温度(Tg)が590℃以下かつ屈伏点(At)が630℃以下であり、
図1に示すように、アッベ数(νd)をx軸とし、屈折率(nd)をy軸とする直交座標系におけるA点(52.0,1.80000)、B点(44.0,1.80000)、C点(47.0,1.74000)、D点(55.0,1.74000)をA点、B点、C点、D点、A点の順序で結んだ直線である境界線で囲まれる範囲内の光学恒数を有することを特徴とするモールド用光学ガラス。
【請求項2】
ZnOを11.0重量%以上含有する、あるいはF原子を5.5重量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載のモールド用光学ガラス。
【請求項3】
Zn原子とF原子との合計含有量が10.0重量%以上であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のモールド用光学ガラス。
【請求項4】
SiO、GeOの少なくともいずれか一方とBとの合計含有量が25.0重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3に記載のモールド用光学ガラス。
【請求項5】
La原子とGd原子とY原子との合計含有量が43.0重量%以上であることを特徴とする請求項1〜4に記載のモールド用光学ガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2009−1439(P2009−1439A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161642(P2007−161642)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(391009936)株式会社住田光学ガラス (59)
【Fターム(参考)】