説明

ユニバーサル移動電話システム・ネットワークのオーバレイ・マイクロ・セル構造

無線電話通信システムは、第1の無線リンクを介して移動通信装置(16)との間で音声およびデータの両方を通信する少なくとも1つのマクロ・セル(14)と、第2の無線通信リンク(33)を介して移動通信装置との間でデータを通信する少なくとも1つのマイクロ・セル(30〜30)とを含む。各マイクロ・セルは、無線リンク(50)を介してマクロ・セルを通して、マイクロ・セルを管理する制御要素(22)にシグナリング情報を通信する。UMTSシステムにおいて無線リンク(50)を使用して各マイクロ・セルと制御要素との間でシグナリング情報を通信することにより、有線バック・ホール・リンクが不要となり、これによりアクセス・コストが低減される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的安いコストで改善されたアクセスを提供する無線電話ネットワークに関する。
【背景技術】
【0002】
無線電話技術は、時とともに進歩し続けている。最近では、欧州電気通信標準化機構(ETSI)が、「ユニバーサル移動通信サービス」またはUMTSと呼ばれる移動電話サービスの新しい規格を発表した。これは、2Mbsという速い速度で、音声、テキスト、映像およびマルチメディア情報の広帯域パケット伝送を提供するものである。この提案されたUMTS規格では、通常は「ノードB」とそれぞれ呼ばれる1つまたは複数の無線アクセス・ノードを含む無線ネットワークについての記述がある。1つまたは複数の無線ネットワーク制御装置(RNC)がUMTSネットワーク内に存在し、無線アクセス・ノードを管理する。各RNCは、認可、認証およびアカウンティング(AAA)の機能を提供するUMTSコア・ネットワークに、通常は非同期転送モード(ATM)リンクの形式で広帯域接続している。
【0003】
無線LAN技術分野の進歩の結果、サービス・エリア、喫茶店、図書館などの公共施設に公的にアクセス可能な無線LAN(例えば「ホット・スポット」など)が出現した。現在では、無線LANにより、移動端末ユーザが企業イントラネットなどのプライベート・データ・ネットワークまたはインターネットなどの公衆データ・ネットワークにアクセスすることが可能となっている。無線LANを実施し運用するのにかかるコストが比較的安いこと、ならびに高い帯域幅が利用できること(通常は10メガビット/秒を越える)により、無線LANは、移動端末ユーザが外部エンティティとパケット交換を行うための理想的なアクセス機構となっている。
【0004】
無線LANが提供する利点を前提として、様々な標準化団体は、UMTSネットワークと無線LANネットワークとを疎結合して相補的なサービスを提供する提案を考慮中である。疎結合とは、2つのネットワークにネットワーク・レイヤおよび/またはそれ以下のレイヤにおけるシステムのつながりがないことを意味する。一般に、かなりコストのかかる提案であるUMTSネットワークと無線LANとの間の密結合がなければ、UMTSネットワークのオペレータは無線LANに対する加入者のアクセスを有効に制御することはできない。従って、無線LANアクセスにより生じる収益は、そのまま無線LANのオペレータのものとなる。
【0005】
無線LAN技術に対抗するために、UMTSネットワークのオペレータは、マイクロ・セルという解決策を提供することもできる。すなわち、無線アクセス・ノードの数を増やして、より広範なアクセスを可能にすることもできる。しかし、アクセス・ノードの数を増やすと、設備費用および展開費用が大幅に増大する。
【0006】
従って、比較的安いコストでUMTSネットワークの容量を高める技術が必要とされている。
【発明の開示】
【0007】
(発明の概要)
簡潔には、第1の無線リンクを介して移動通信装置との間で音声およびデータの両方を交換することができる少なくとも1つのマクロ・セルと、第2の無線通信リンクを介して移動通信装置との間で比較的高い帯域幅でデータを通信することができる少なくとも1つのマイクロ・セルとを有する無線ネットワークにおいて情報を通信する方法が提供される。通常は、マイクロ・セルは、マクロ・セルよりも有効領域が小さく、且つユーザあたりの容量が大きい。マイクロ・セルにおいて第2の無線リンクを介して移動端末からのアクセス要求が受信されたのに応答して、マイクロ・セルは、第3の無線チャネルを介してマクロ・セルにシグナリング情報を通信し、これは無線ネットワーク内の制御要素に伝送される。無線ネットワークは、シグナリング情報に応答してマイクロ・セルを制御する。無線チャネルを介してマイクロ・セルからマクロ・セルにシグナリング情報を通信することにより、このシグナリング情報を通信するための有線バック・ホール(back haul)回路が不要となり、従ってより低コストでマイクロ・セルの展開を行うことができるようになるので有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明の原理の好ましい実施形態による、無線通信システム10を示す概略ブロック図である。システム10は無線ネットワーク12を含み、この無線ネットワーク12は、周知のユニバーサル移動電話システム(UMTS)規格に記述されたアーキテクチャに対応するアーキテクチャを有することが好ましい。従って、ネットワーク12は、「UMTSネットワーク」と記してある。UMTSネットワーク12内には、少なくとも1つ、好ましくは複数のマクロ・セルが存在し、各マクロ・セルは、場合により「ノードB」とも呼ばれることがある無線アクセス・ノード14を含む。各無線アクセス・ノード14は、無線リンク17を介して音声トラフィックおよびデータ・トラフィックの両方を移動通信装置16と交換することができる無線トランシーバ(図示せず)を含む。移動通信装置16としては、無線電話機、無線携帯情報端末(PDA)または無線モデムを備えたパーソナル・コンピュータなどを含むことができる。
【0009】
UMTSネットワーク12内では、各無線アクセス・ノード14は、RNC18として例示する無線ネットワーク制御装置(RNC)の制御下で動作する。各RNC18は、少なくとも1つ、好ましくは複数の無線アクセス・ノード14を管理して、各ノードが、通信している各移動通信装置が要求する適当な無線資源を確実に提供するようにしている。移動通信交換局(MSC)20は、各RNC18を公衆交換電話網(PSTN)21に接続して、移動通信装置16が、PSTNを利用する1人または複数の電話加入者と音声トラフィックを交換することを可能にする。
【0010】
各RNC18は、サービング汎用パケット無線サービス・ノード(SGSN)22として示す、関連する制御要素とインタフェースをとる。図1では単一のSGSN22しか示していないが、無線電話ネットワーク12は、それぞれが1つまたは複数のRNC18と関連付けられた複数のSGSNを含むこともできる。各SGSN22は、関連するRNC18が管理する対応するアクセス無線ノード14を介してアクセスを求めている各移動通信装置16を識別し、認証する。認可および認証を行うだけでなく、各SGSN22は、ネットワーク12と通信している間に移動通信装置16に与えられるサービスに対するアカウンティングも行う。
【0011】
UMTSネットワーク12内では、ゲートウェイGPRSサポート・ノード(GGSN)24が、SGSN22とIPネットワーク26との間のインタフェースをとる。IPネットワーク26は、広域ネットワーク(WAN)として示してあり、プライベート・データ・ネットワークでも、インターネットなどの公衆データ・ネットワークでもよいし、あるいはそれら組み合せてもよい。SGSN22とWAN26の間のインタフェースとして、GGSN24は、WAN26へのアクセスを求めている装置16などの各移動通信装置に対してIPアドレスを割り当てる。このようにして、移動通信装置16は、サーバ28などWAN26内の1つまたは複数のサーバに記憶された情報にアクセスすることが可能になる。
【0012】
実際には、無線リンク17が提供する帯域幅に制限がある。従って、大きなファイル、特にテキスト、音声、映像またはそれらの組合せを含むファイルを移動通信装置16と無線アクセス・ノード14の間で交換することは、実際的ではない。従って、UMTSサービスの加入者は、UMTSネットワークを介さずに、無線LAN(図示せず)を介した広帯域アクセスを行おうとすることが多い。このような加入者の乗り換えにより、UMTSネットワークのオペレータの収益は減少することになる。
【0013】
UMTSネットワーク12の帯域幅制限は、マイクロ・セル30および30として例示する、少なくとも1つ、好ましくは複数のマイクロ・セルを追加することによって克服される。各マイクロ・セルは、無線LANで見られるタイプのアクセス・ポイント(図示せず)に類似した構造を有する無線アクセス・ノード32(すなわち「ノードB」)を含む。このような構造を有するので、各マイクロ・セルを構成する無線アクセス・ノード32は、移動通信装置16とのデータ・パケット交換に高帯域幅(すなわち広帯域)無線チャネル33を提供することができる。
【0014】
ローカル・エリア・ネットワーク36の一部を構成するイーサネット(登録商標)スイッチ34は、IPルータ38と各マイクロ・セル30および30との間の接続を行う。IPルータ38は、イーサネット(登録商標)スイッチ34とWAN26の間でIPパケットのルーティングを行う。WAN26内の第1のIPトンネル40は、UMTSネットワーク12のGGSN24とIPルータ38との間でパケットを搬送する。このようにして、装置16などの移動通信装置は、マイクロ・セル30などのマイクロ・セルにアクセスできるようになると、LAN36を介してWAN26までの高速データ接続を確立し、WAN内のサーバ28がリンク42を介して情報をダウンロードできるようにすることができる。
【0015】
各マイクロ・セルを構成する無線アクセス・ノード32は、移動通信装置16との無線パケット通信を促進するのに必要な様々なプロトコルを保持するプロトコル・スタック44を含む。例示した実施形態では、プロトコル・スタック44は、関連するイーサネット(登録商標)インタフェース(etherItf)47を有するアップリンク・インタフェース(UU−UEside)46を含む。アップリンク・インタフェース46の他に、プロトコル・スタック44は、ダウンリンク・インタフェース(UU−NBside)48も含む。
【0016】
無線アクセス・ノード14と無線アクセス・ノード32との間のデータ通信のシームレスな移行を容易にするためには、一般に、移動通信装置16がマイクロ・セルにアクセスした直後に、無線アクセス・ノード32とSGSN22との間でシグナリング情報の交換を行わなければならない。シグナリング情報を交換することにより、SGSN22は、無線アクセス・ノード32を制御することが可能になり、特に、無線アクセス・ノードへのアクセスを求めている移動通信装置16の認可および認証を制御することが可能になる。マイクロ・セル(無線アクセス・ノード)32およびマクロ・セル(無線アクセス・ノード)14の制御に関しては、SGSN22は、コードおよび電力設定を割り当てて、移動通信装置16がマクロ・セルおよびマイクロ・セルと同時に通信できるようにする。従来は、有線ATMバック・ホール・リンク(図示せず)によって、各無線アクセス・ノード32とSGSN2との間のシグナリング経路を形成していた。このようなバック・ホール・リンクは、有効ではあるが、展開および維持に費用がかかり、最終的に運用コスト面で無線LANのアクセス・ポイント(図示せず)に比べてマイクロ・セル30および30の方が劣る結果となる。
【0017】
本発明の原理によれば、無線アクセス・ノード32とSGSN2との間のシグナリング情報の交換は、無線アクセス・ノード32と14との間に延びるUMTS無線トンネル(チャネル)50を介して行われる。UMTS無線チャネル50は、無線アクセス・ノード32がSGSN2とシグナリング情報を交換することを可能にする仮想接続を提供し、これにより有線リンクが不要となり、それに伴うコスト面の不利も解消される。個々のマイクロ・セルごとにシグナリング情報を搬送するための別個の無線チャネルを利用するのではなく、1つのUMTS無線トンネルで、マイクロ・セルと無線アクセス・ノード14の間を通る全てのUMTSシグナリング・メッセージをカプセル化することができる。実際には、各無線アクセス・ノード32は、比較的低速でシグナリング情報を伝送し、無線アクセス・ノード14における干渉はほとんど生じない。
【0018】
各移動装置16ならびに各無線アクセス・ノード14における干渉を低減する、または実質的に解消するために、移動通信装置16または無線アクセス・ノード14および32の一方など、同一のソースでは、音声/データ・シグナリングに対して異なるチャネルを使用し、異なるチャネル化コードを使用するが、スクランブル・コードは同じものを使用する。異なるソースでは、異なるスクランブル・コードを使用する。通常は、装置16などの各移動通信装置は、アップリンクの音声およびデータに対して異なる無線チャネル(すなわちCDMAの異なる直交チャネル化コード)を使用することにより、無線アクセス・ノード14および32で干渉が起きる可能性を実質的に解消している。装置16などの各移動通信装置は、ダウンリンク・モードの間に、異なるスクランブル・コードを用いて無線アクセス・ノード14および32から信号を受信するので、装置16における信号パワーが互いに接近している場合には、2つの信号の間の干渉は小さい。
【0019】
マイクロ・セル30および30を備えた通信システム10は、無線トンネル50を用いてマイクロ・セルとRNC18の間のシグナリング情報の通信を行うことにより、またマクロ・セル(無線アクセス・ノード)14とマイクロ・セルの間で音声トラフィックとデータ・トラフィックを分離することにより、低コスト・アクセスを可能にする。
【0020】
従って、上記は、低コストで改善されたアクセスを提供する通信システムについて述べたものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の原理の好ましい実施形態による無線通信ネットワークを示す概略ブロック図である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無線リンクを介して移動通信装置との間で音声およびデータの両方を通信する少なくとも1つのマクロ・セルと、前記マクロ・セルより有効領域が小さく、且つユーザあたりの容量が大きい、第2の無線通信リンクを介して前記移動通信装置との間でデータを通信する少なくとも1つのマイクロ・セルとを有するネットワークにおいて無線通信を行う方法であって、
前記移動通信装置による1つのマイクロ・セルに対するアクセスに応答して、1つのマイクロ・セルと1つのマクロ・セルとの間で第3の無線チャネルを介してシグナリング情報を通信するステップと、
前記シグナリング情報に応じて前記マイクロ・セルの動作を制御するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記マイクロ・セルを制御するステップが、前記移動通信装置による前記マイクロ・セルへのアクセスを管理するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第3の無線チャネルを介してシグナリング情報を通信するステップが、各移動通信装置からのシグナリング情報を別個に通信するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第3の無線チャネルを介してシグナリング情報を通信するステップが、複数の移動通信装置からのシグナリング情報を共通のパケットにカプセル化するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記移動通信装置にコードおよび電力設定を割り当てて、前記移動通信挿置がマクロ・セルおよびマイクロ・セルと同時に通信できるようにするステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第1の無線リンクを介して移動通信装置との間で音声およびデータの両方を通信する少なくとも1つのマクロ・セルと、
前記マクロ・セルより有効領域が小さく、且つユーザあたりの容量が大きい、第2の無線通信リンクを介して前記移動通信装置との間でデータを通信する少なくとも1つのマイクロ・セルと、
少なくとも前記マクロ・セルの動作を制御する制御要素と、
前記移動通信装置による1つのマイクロ・セルに対するアクセスに応答して、1つのマイクロ・セルと1つのマクロ・セルとの間でシグナリング情報を通信し、前記制御装置がマクロ・セルの動作も制御できるようにする第3の無線チャネルとを含む、無線通信システム。
【請求項7】
前記制御要素が、サービング汎用パケット無線サービス・ノード(SGSN)を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記制御要素が、移動通信装置によるマイクロ・セルへのアクセスを管理する、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
各マイクロ・セルが、各移動通信装置からのシグナリング情報を前記第3の無線チャネルを介して通信する、請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
複数のマイクロ・セルそれぞれのシグナリング情報が共通のパケットにカプセル化されて、第3の無線通信チャネルを介して通信される、請求項6に記載のシステム。
【請求項11】
前記制御要素が、前記移動通信装置にコードおよび電力設定を割り当てて、前記移動通信装置がマクロ・セルおよびマイクロ・セルと同時に通信できるようにする、請求項6に記載のシステム。
【請求項12】
前記制御要素が、
ゲートウェイ汎用パケット無線サービス・サービング・ノード(GGSN)と、
GGSNをインターネット・プロトコル・ゲートウェイに接続するためのインターネット・プロトコル・トンネルとをさらに含む、請求項7に記載のシステム。

【公表番号】特表2007−521673(P2007−521673A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507633(P2005−507633)
【出願日】平成15年7月11日(2003.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/021746
【国際公開番号】WO2005/015924
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(501263810)トムソン ライセンシング (2,848)
【氏名又は名称原語表記】Thomson Licensing 
【住所又は居所原語表記】46 Quai A. Le Gallo, F−92100 Boulogne−Billancourt, France
【Fターム(参考)】