説明

ユニフォーム用織物及び衣料

【課題】縫製部を挟んで十分な導電性能を有するだけでなく、高温洗濯を想定した湿熱処理の後もこの導電性能を維持でき、電子部品や薬品等を製造する際に着用するユニフォーム衣料に好適である織物を提供すること。
【解決手段】導電性繊維を鞘部に配したダブルカバリング糸条を経緯糸に含む織物であって、縫製部を挟んだ状態での表面漏洩抵抗値が、121℃下25時間での湿熱処理の前後で共に1×10Ω以下であるユニフォーム用織物。本発明では、特にダブルカバリング糸条のトータル繊度がそれ以外の糸条のトータル繊度より1.1〜5.0倍大きいことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユニフォーム衣料に好適な織物に関するものである。詳しくは、電子デバイス、電子部品、電子材料又は薬品等を製造する際に着用するユニフォーム衣料に好ましく使用できる織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等の疎水性ポリマーからなる繊維は、機械特性、耐薬品性、耐候性等の多くの長所を有しており、衣料のみならず産業資材用途にも広く用いられている。しかしこれらの繊維では、摩擦等により静電気が多く発生し、空気中の粉塵を吸引して美観を損ねたり、スパークによる電子機器への障害や、引火性物質への引火爆発等の問題を引き起こす場合があり、これを解決すべく導電性能を付与するための多くの研究がなされてきた。
【0003】
特許文献1には、導電性カーボンブラックや金属粉等の導電性粒子を含有する導電性成分を非導電性ポリマーで包み込んだ芯鞘型の複合繊維が記載されている。このような芯鞘型の複合繊維であれば、導電性粒子は繊維の内部のみに存在するので、操業時のトラブルは生じにくく、操業性のよい製造が可能である。しかしながら、導電性粒子が繊維内部のみに存在するため、織物へ十分な導電性能を与え難い。
【0004】
また、特許文献2には、導電性粒子を含有する導電性成分を鞘部に配した芯鞘型の導電性繊維が記載されている。このような導電性繊維を使用すれば、織物へ十分な導電性能を与えうるが、反面、円滑な操業に支障をきたすことがある。
【0005】
通常、導電性繊維は導電性カーボンブラックを含有するため、伸縮性に乏しいものとなりやすい。また、導電性能を有する織物は、導電性繊維のみで構成されるのではなく、他の繊維が併用されていることが多い。このため、このような織物をユニフォーム衣料に適用した場合、織物全体の伸縮具合にもよるが、伸縮性に乏しい導電性繊維の一部が織物表面に飛び出し、摩擦や摩耗によって導電性繊維が切断されるという問題がある。そして同時に、導電性繊維が伸縮性に乏しいことに起因し、織物全体の伸びが阻害され、結果、織物の強伸度特性が損なわれやすくなる。
【0006】
特許文献3には、弾性繊維を芯糸としその周囲に合成繊維フィラメントを二重に巻付けてなるダブルカバリング弾性糸が開示されている。この糸では、カバリング用下巻糸として導電性無機粉末を含有する導電糸が用いられ、カバリング用上巻糸として捲縮加工糸が用いられている。
【0007】
ところが、このカバリング弾性糸は、静電気の除去を目的とするものであって、ストッキング用途等に使用されるものである。このため、ユニフォーム衣料に適用するには導電性能が不十分である。また、布帛表面への飛び出しを十分に防止できない点でも問題が残る。
【0008】
そこで、特許文献4では、合成繊維長繊維糸条を芯糸としてその周囲に導電性複合紡糸糸をダブルカバリングしてなる糸を経緯糸の一方に、同じく導電性複合紡糸糸をシングルカバリングしてなる糸を経緯糸のもう一方に配した織物が開示されている。
【0009】
しかし、この織物では、導電性複合紡糸糸とそれ以外の構成繊維との繊度差や、導電性複合紡糸糸の構成比率によっては、縫製部を挟み表面漏洩抵抗値を測定した場合、安定した抵抗値を得ることが難しいという問題がある。特にユニフォーム衣料に適用した場合、縫製部を挟んだ状態と、縫製部を挟まない状態との表面漏洩抵抗値の乖離が大きくなるといったことが問題点として残る。
【0010】
さらに、特許文献5では、この問題を解決するため、織物を縫製する際、縫製部に導電性繊維からなる導電性トリコット編地を用いることで、縫製後の導電性能を保持するといった提案がされている。この提案によれば、縫製部を挟んで良好な表面漏洩抵抗値が得られる。しかし、これは縫製直後に限られ、洗濯を繰り返した場合、上記トリコット編地の収縮により、縫製部の表面漏洩抵抗値は不安定なものになってしまう。また、かかる提案では導電性トリコット編地を使用するため、コストが掛かるという問題があり、縫製に手間が掛かる等の問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平09−143821号公報
【特許文献2】WO2002/075030号公報
【特許文献3】特開平11−279881号公報
【特許文献4】特許第3880743号公報
【特許文献5】特開2008−1996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記各特許文献に記載された織物は、いずれも電子部品や薬品等を製造する際に着用するユニフォーム衣料に適用されるものである。これらのユニフォーム衣料に対しては、一般のユニフォーム衣料と異なり、高温下での洗濯に耐えうるだけの耐湿熱性が求められる。しかし、各特許文献には、導電性能の向上については検討されているものの、いずれも高温洗濯を想定しない場合の導電性能であり、これでは当該織物の用途を考慮した上での適切な導電性能を検討しているとはいい難い。
【0013】
本発明は、上記のような問題点を解決するもので、縫製部を挟んで十分な導電性能を有するだけでなく、高温洗濯を想定した湿熱処理の後もこの導電性能を維持でき、電子部品や薬品等を製造する際に着用するユニフォーム衣料に好適である織物を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は下記1〜4を要旨とするものである。
【0015】
1.導電性繊維を鞘部に配したダブルカバリング糸条を経緯糸に含む織物であって、縫製部を挟んだ状態での表面漏洩抵抗値が、121℃下25時間での湿熱処理の前後で共に1×10Ω以下であることを特徴とするユニフォーム用織物。
2.導電性繊維を鞘部に配したダブルカバリング糸条とそれ以外の糸条とを経緯糸に含む織物であって、ダブルカバリング糸条のトータル繊度Aとそれ以外の糸条のトータル繊度Bとの比(A/B)が1.1〜5.0であり、さらに、縫製部を挟んだ状態での表面漏洩抵抗値が、121℃下25時間での湿熱処理の前後で共に1×10Ω以下であることを特徴とするユニフォーム用織物。
3.導電性繊維が、ポリエステル系樹脂からなる非導電性成分と、導電性粒子を含有するポリエステル系樹脂からなる導電性成分とで構成され、導電性成分の少なくとも一部が繊維表面に露出している形状を呈している導電性繊維であって、導電性繊維中にアンチモン化合物及びリン化合物が下記式(1)、(2)を同時に満足する量含有されていることを特徴とする上記1又は2記載のユニフォーム用織物。
(1)0.5×10−4≦〔Sb〕≦3.0×10−4
(2)0.1×10−4≦〔P〕≦20.0×10−4
なお、〔Sb〕はアンチモン化合物の含有量、〔P〕はリン化合物の含有量を表し、単位は「モル/酸成分モル」である。
4.上記1〜3いずれかに記載のユニフォーム用織物を用いた衣料であって、当該織物が3枚以上重なって縫製部を形成していることを特徴とする衣料。
【発明の効果】
【0016】
本発明のユニフォーム用織物では、導電性繊維を鞘部に配したダブルカバリング糸条が用いられる。このため、縫製部を挟んで良好な導電性能を維持できる。また、織物を構成する糸条の間に特定の繊度差を設けると、織物の導電性能をさらに高めることができる。
【0017】
また、本発明のユニフォーム用織物は、湿熱処理後もそのような優れた導電性能を維持できる。したがって、電子デバイス、電子部品、電子材料又は薬品等を製造する際に着用する衣料に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明における導電性繊維を繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面形状を示す一実施態様である。
【図2】本発明における導電性繊維を繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面形状を示す他の実施態様である。
【図3】本発明における導電性繊維を繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面形状を示す他の実施態様である。
【図4】導電性繊維を鞘部に配したダブルカバリング糸の一実施態様を示す模式図である。
【図5】本発明に好ましく採用される縫製部の概略模式図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明のユニフォーム用織物では、導電性繊維を鞘部に配したダブルカバリング糸条が用いられる。
【0021】
ダブルカバリング糸条を構成する導電性繊維としては、導電性成分のみの単一成分からなる繊維でも使用可能であるが、好ましくは非導電性成分と導電性成分とからなる複合形態の繊維を使用する。この場合、前者は、繊維形成ポリマーから構成されるのが一般的であり、繊維形成ポリマーとして、例えばポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂などの合成樹脂が挙げられ、特にポリエステル系樹脂が好適である。一方、後者についても繊維形成ポリマーが使用されるが、これだけでは導電性能が発揮されないので、例えば後述の導電性粒子などを含有させるなどして用いるのが一般的である。
【0022】
導電性繊維の形状としては、一般にフィラメント(長繊維)が好ましく、実際の使用では、複数本のフィラメントを束となした、所謂フィラメント糸の形で使用するのが好ましい。
【0023】
上記複合繊維における両成分の配合態様としては、導電性能を良好に保つことができるのであればどのような態様でも採用可能であるが、好ましくは、繊維の長手方向に対し垂直に切断した横断面において、導電性成分の一部が繊維表面に露出しているような態様を採用する。特に、導電性成分が繊維中心部付近を連通し、かつ繊維表面に導電性成分が複数個所露出している態様が好ましい。これにより、繊維表面に導電性接点が存在し、かつそれらの接点間が中心部を介して導通することにより電気の流れが多方向で可能となるので、導電性能に優れた繊維となすことができる。ただし、導電性成分の露出箇所が増えると、繊維表面に占める導電性成分の露出面積が増え、その結果、湿熱処理後にクラックや欠落が生じやすくなる傾向にある。
【0024】
具体的に、本発明に採用できる複合繊維の断面形状を図示すると、例えば図1〜3のようなものがあげられる。
【0025】
図1は、導電性成分が繊維表面の全体を覆っているもの、つまり、鞘部が導電性成分、芯部が非導電性成分である複合形態を示す例である。ただし、この態様は、前記のように繰り返し湿熱処理した場合に、導電性繊維にクラックの発生や脱落が生じやすく、本発明に採用こそできるものの、あまり好ましいとはいえない。
【0026】
一方、図2、3は、導電性成分の一部が繊維表面に露出している形状を示す一例である。
【0027】
図2(a)は、導電性成分の数が1個で繊維表面に露出している箇所が1箇所であるもの、(b)は導電性成分の数が2個で繊維表面に露出している箇所が2箇所、(c)は導電性成分の数が3個で繊維表面に露出している箇所が3箇所、(d)は導電性成分の数が4個で繊維表面に露出している箇所が4箇所であるものの例である。
【0028】
図2(a)〜(d)は、略三角形状の導電性成分が非導電性成分中に存在し、かつ導電性成分の一部(略三角形状の一辺)が繊維表面に露出している例を示すものであるが、導電性成分の形状としては、略三角形状に限定されるものではなく、四角形や半円形状のものでもよい。
【0029】
図3も、同じく、導電性成分の一部が繊維表面に露出している形状を示す一例である。図2、3を比較すると、両者は、繊維表面に複数の導電性成分が露出する点で共通するが、図3は、導電性成分が繊維中心部付近を連通している点で図2と異なり、上記したように、図3は、図2より好ましい態様といえるものである。
【0030】
図3(a)は、導電性成分部分が繊維の中心部付近を通って一直線状に配置されているものであり、繊維表面に露出している部分が2箇所のものである。(b)は、導電性成分部分が繊維の中心部付近を通って十字形状に配置されており、繊維表面に露出している部分が4箇所のものである。(c)は、導電性成分部分が繊維の中心部付近を通って三方に分かれた形状に配置されており、繊維表面に露出している部分が3箇所のものである。
【0031】
繊維表面に露出する導電性成分の個数としては、図2、3の場合、共に2〜20箇所程度が好ましく、中でも3〜8箇所が好ましい。導電性成分の繊維表面に露出している箇所が1箇所であると、繊維表面に露出している部分が湿熱処理後、着用等による負荷を受けた時にクラックが生じたり、破損、欠落すると、導電性能が不十分となり、当初の導電性能を維持できなくなる傾向がある。一方、導電性成分の繊維表面に露出している箇所が20箇所を超える場合、繊維表面への露出部分が多くなり、湿熱処理後のクラックや欠落が生じやすくなる傾向にある。
【0032】
そして、繊維表面における導電性成分の露出面積の割合としては、同じく図2、3の場合、共に円周の3/4以下、中でも1/2以下とすることが好ましく、より好ましくは1/3〜1/10である。
【0033】
また、非導電性成分と導電性成分との複合比率としては、繊維内において、非導電性成分が60〜90質量%、導電性成分が40〜10質量%とすることが好ましく、より好ましくは非導電性成分が70〜85質量%、導電性成分が30〜15質量%である。導電性成分の複合比率が10質量%未満では、導電性性能が十分発揮できない場合があり、一方、導電性成分の複合比率が40質量%を超えると、強伸度特性等の糸質性能が劣ったり、操業時のトラブルや湿熱処理後のクラックが生じやすくなるので、いずれも好ましくない。
【0034】
また、本発明では、導電性繊維の導電性能を電気抵抗値により評価する。電気抵抗値は、AATCC76法に準じて以下のように測定する。すなわち、導電性繊維(フィラメント数は問わない)を長さ方向に15cm程度にカットして、10サンプルを採取する。このサンプルの両端の表面にケラチンクリームを塗布し、この表面部分を金属端子に接続し、試料測定長10cmにて、50Vの直流電流を印加して電流値を測定し、下記式で電気抵抗値を算出する。算出した10個のサンプルの電気抵抗値の相加平均値とする。
【0035】
電気抵抗値=E/(I×L)
ただし、E:電圧(V) I:測定電流(A) L:測定長(cm)
【0036】
本発明における導電性繊維は、導電性能として、電気抵抗値1×10〜1×10Ω/cmを満足することが好ましく、1×10〜1×10Ω/cmを満足することがより好ましい。電気抵抗値が1×10Ω/cmを超えると、使用する用途によっては、導電性能が不十分となり、好ましくない。一方、電気抵抗値を1×10Ω/cm未満にしようとすると、導電性粒子をポリマー中に多量に含有させることになり、結果、繊維物性に悪影響を及ぼすばかりか、紡糸、延伸に支障をきたすことがあり、好ましくない。
【0037】
本発明の織物は、製薬工場、IT関連事業所、病院等で使用される手術着や白衣、食品工場のユニフォーム衣料等に好適である。これらの衣料に対しては、通常、滅菌を目的する高圧蒸気を使用した湿熱処理が定期的に(繰り返し)施される。したがって、導電性繊維自身にも相応の耐湿熱性を具備させることが好ましいといえ、後述のように、導電性繊維自身に所望の耐湿熱性を具備させることは、例えば繊維中にアンチモン化合物及びリン化合物を特定量含有させることにより可能である。この点、導電性繊維の繊維形成ポリマーにポリエステル系樹脂が好ましく適用できることを既に述べたが、かかる化合物を繊維中に含有させると、ポリエステルポリマーのカルボキシル末端基濃度を低いものとなすことができ、これにより、湿熱処理を繰り返しても良好な耐湿熱性を維持できる。
【0038】
導電性繊維自身における耐湿熱性の指標としては、上記ユニフォーム衣料に対する一般的な湿熱処理条件に基づき決定される。この場合の湿熱処理条件は、通常、温度121〜135℃下で5〜15分程度であるが、本発明では、最も一般的な湿熱処理条件たる温度121℃、処理時間15分を採用し、この処理が100回繰り返されることを想定して、採用すべき指標を決定する。すなわち、本発明では、121℃下25時間での湿熱処理の前後を比較することで、耐湿熱性を評価するものとする。耐湿熱性の具体的な評価項目としては、主要な物性を評価項目に含めるという観点から、導電性能低下率及び強度保持率を採用する。
【0039】
ここで、導電性繊維の湿熱処理(121℃で25時間処理)後の導電性能低下率は以下のようにして算出する。
【0040】
導電性能低下率=(Y/X)
X:導電性繊維の湿熱処理前の電気抵抗値(Ω/cm)
Y:導電性繊維の湿熱処理後の電気抵抗値(Ω/cm)
【0041】
導電性繊維の導電性能低下率としては、20以下が好ましく、10以下であることがより好ましい。通常、導電性能低下率が100を超えると、滅菌処理等の湿熱処理により電気抵抗値が大きく低下する繊維となり、処理前には導電性能を有していたとしても、処理後には導電性能を有していないものとなり、耐久性に劣り、各用途において十分に導電性能が発揮できないものとなる。この点、20以下とすることにより、織物において導電性能の低下が少なく、耐久性に優れたものとなる。
【0042】
一方、導電性繊維の強度保持率は、繊維の引張強度に基づき算出される。すなわち、処理前の繊維について、JIS L1013記載の引張強さ及び伸び率の標準時試験に従い、定速伸張形の試験機を用いて、つかみ間隔20cmで強度を測定する。次に、湿熱処理を121℃、25時間行った後、再度同様の方法で繊維の強度を求める。そして、以下の式に基づき算出する。
【0043】
強度保持率(%)=(S/M)×100
S:導電性繊維の湿熱処理後の引張強度(cN/dtex)
M:導電性繊維の湿熱処理前の引張強度(cN/dtex)
【0044】
導電性繊維の強度保持率としては70%以上が好ましく、75%以上であることがより好ましい。常法で得られた繊維では、強度保持率は50%以下になってしまう。この場合、滅菌処理を繰り返すうちに、強度の低下が大きくなり、着用による負荷でダメージを受けて、繊維が切断したり、品位が悪くなると同時に導電性能も低下する。この点、強度保持率が70%以上であると、湿熱処理後の織物において、強度低下を抑制する点で有利である。
【0045】
本発明に用いる導電性繊維においては、このように所定の耐湿熱性を具備していることが好ましいが、これを実現する一手段として、導電性繊維中にアンチモン化合物及びリン化合物を、下記式(1)〜(2)を同時に満足する量含有させる手段が挙げられる。
【0046】
(1)0.5×10−4≦〔Sb〕≦3.0×10−4
(2)0.1×10−4≦〔P〕≦20.0×10−4
なお、〔Sb〕はアンチモン化合物の含有量、〔P〕はリン化合物の含有量を表し、単位は「モル/酸成分モル」である。
【0047】
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、塩化アンチモン、酢酸アンチモン等が挙げられ、中でも重縮合触媒活性、得られるポリエステル繊維の物性及びコストの点から、三酸化アンチモンを用いることが好ましい。
【0048】
アンチモン化合物の特徴としては、十分な重縮合活性を示すが、重縮合反応後期で熱分解促進する作用がある。しかるに、多量に添加すると、ポリエステル中のカルボキシル末端基量が増加し、耐湿熱性能が低下した繊維となる傾向にある。
【0049】
アンチモン化合物の添加量としては、十分な重縮合反応速度が発揮される範囲で少なくすることが好ましく、導電性繊維中のアンチモン化合物の含有量としては、(1)式を満足することが好ましい。
【0050】
繊維中のアンチモン化合物の含有量としては、(1)式で定める範囲のうち、中でも、0.8×10−4≦〔Sb〕≦2.5×10−4が好ましい。(1)式で定める値より少ない場合、十分な重縮合活性を示さず、重縮合反応時間が長くなるため熱分解反応が進行し、カルボキシル末端基濃度が高くなり、結果、耐湿熱性が乏しくなる傾向にあり好ましくない。一方、繊維中のアンチモン化合物の含有量が(1)式で定める値より多い場合は、繊維の色調を悪化させるばかりではなく、さらに、熱分解反応も促進されるため、カルボキシル末端基濃度が高くなり、同じく耐湿熱性が乏しくなる傾向にあり好ましくない。
【0051】
また、本発明における導電性繊維は、アンチモン化合物に加えて、リン化合物も含有していることが好ましい。繊維中のリン化合物の含有量としては、(2)式を満足する量とすることが好ましく、中でも0.5×10−4≦〔P〕≦10.0×10−4とすることがより好ましい。リン化合物としては、リン酸又はそのエステルから誘導されたリン酸又はそのエステル(モノ−、ジ−及びトリ−エステル)が好ましく、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル及びリン酸トリス−2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0052】
リン化合物は、アンチモン化合物による繊維の色調悪化を抑制するばかりでなく、熱分解を抑制する効果がある。繊維中のリン化合物の含有量が(2)式で定める値より少ない場合は、これらの効果が不十分となり、式(1)を満足していたとしても、繊維の色調を十分に良好にし、耐湿熱特性を向上させることが困難となる場合があり好ましくない。一方、繊維中のリン化合物の含有量が(2)式で定める値より多い場合、例えば、導電性繊維がポリエステル系樹脂から構成されているとき、重縮合反応時にポリエステル系内が酸性となり、その結果、副反応物たるエーテル結合が生成し、これが耐湿熱性や強度を低減させる要因となることがあり好ましくない。
【0053】
導電性繊維においては、アンチモン化合物、リン化合物の含有量を適切な量(式(1)、(2)で示す量)に調整することにより、耐湿熱性能が向上した繊維を得ることができるのである。
【0054】
さらに、本発明では、上記効果をさらに促進する観点から、アンチモン化合物とリン化合物との含有量が、式(3)も同時に満足することが好ましい。
【0055】
(3)〔P〕/〔Sb〕≧0.2
【0056】
上記したように、リン化合物は、アンチモン化合物による繊維の色調悪化、熱分解作用を抑制する効果を奏するものであるため、アンチモン化合物との割合を示す式(3)を満足することが好ましい。
【0057】
本発明における導電性繊維がポリエステル系樹脂から構成されている場合、通常、カルボキシル末端基濃度の低い耐湿熱性に優れた繊維を得るためには、ポリエステルの重縮合反応において、溶融重合と固相重合を行う。このとき、上記のように重縮合反応時にアンチモン化合物及びリン化合物を添加することによって、溶融重合のみでカルボキシル末端基濃度が低い耐湿熱性に優れたポリエステルを得ることができるのである。
【0058】
以上、導電性繊維に対し所定の耐湿熱性を具備させる手段として、アンチモン化合物及びリン化合物を重縮合反応時に添加する方法について述べたが、本発明では、これ以外にも、紡糸時に末端封鎖剤を添加する方法、溶融重合時の重合条件(触媒量、温度等)を調整変更する方法等を採用してもよい。無論、これらの方法でも、ポリエステルポリマーのカルボキシル末端基濃度を低いものとなすことができ、ひいては所望の耐湿熱性を具現できる。
【0059】
末端封鎖剤の具体例としては、N,N−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドなどのカルボジイミド化合物、フェニルグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物などが挙げられる。
【0060】
そうすると、本発明における導電性繊維では、例えば、導電性成分と非導電性成分のいずれか一方にアンチモン化合物及びリン化合物を含有させることにより、カルボキシル末端基濃度を低くしたポリエステルとし、他方の成分を上記のような末端封鎖剤を添加したり、重合条件を調整することによりカルボキシル末端基濃度を低くしたポリエステルとなすこともできるのである。
【0061】
ここで、導電性繊維のカルボキシル末端基濃度としては、25geq/t以下とすることが好ましく、中でも20geq/t以下、さらには18geq/t以下であることが好ましい。カルボキシル末端基濃度が25geq/tを超えて高くなると、耐湿熱性に劣るものとなり、導電性能低下率や強度保持率を満足しないものとなりやすい。
【0062】
導電性繊維のカルボキシル末端基濃度は、導電性繊維0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解し、この溶液にクロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求める。
【0063】
また、導電性繊維中には、アンチモン化合物やリン化合物以外の化合物が含有されていてもよい。この場合、例えば、重縮合触媒として用いられる、チタン化合物やコバルト化合物等が挙げられる。
【0064】
チタン化合物としては、テトラn−ブチルチタネート、テトラn−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラエチルチタネート等が用いられるが、重縮合触媒活性、得られる繊維の物性の点から、テトラn−ブチルチタネートが好ましい。
【0065】
また、コバルト化合物としては、酢酸コバルト、塩化コバルト、安息香酸コバルト等が挙げられるが、得られる繊維の物性の点から、酢酸コバルトが好ましい。
【0066】
なお、導電性繊維中のアンチモン化合物、リン化合物の含有量は、導電性繊維をアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平面を有する成型体に形成し、蛍光X線測定装置(理学電機工業株式会社製3270型)に供して、定量分析することにより測定できる。
【0067】
次に、導電性繊維を構成する成分について説明する。
【0068】
本発明における導電性繊維は、導電性成分のみの均一成分から構成されていてもよいが、好ましくは非導電性成分と導電性成分とからなる複合形態を採用し、両成分の繊維形成ポリマーとしてポリエステル系樹脂を採用すると共に、導電性成分となる部分には、好ましくは導電性粒子などを含有させるのが一般的である。
【0069】
この場合、繊維形成ポリマーとして好ましく採用されるポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等を用いることができ、これらを単独あるいはブレンドや共重合したものも用いることができる。
【0070】
中でも、共重合成分として、イソフタル酸(IPA)、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)のうち少なくとも一成分を共重合したPETが好ましい。また、その共重合量は5〜20モル%とすることが好ましく、中でも5〜10モル%とすることが好ましい。
【0071】
非導電性成分として、上記共重合成分を共重合したPETを適用することにより、導電性成分との相溶性が向上するばかりでなく、重縮合反応時の反応温度を下げることができ、さらには、紡糸時の温度も下げることができる。したがって、重縮合反応時、紡糸時のポリマーの熱分解反応を抑制することができるので、耐湿熱性に優れた導電性繊維を得ることができる。
【0072】
共重合量が5モル%未満では、通常のPETと比較して融点があまり下がらないので、重縮合反応温度、紡糸温度を低下させ難く、耐湿熱性の向上効果が不十分となりやすいので好ましくない。一方、共重合量が20モル%を超えると、繊維中の非晶領域が多くなるため、操業性が悪くなるばかりでなく、加水分解反応を受けやすい構造となるため、耐湿熱性が低下しやすく、好ましくない。
【0073】
他方、導電性成分についても、非導電性成分と同じく繊維形成ポリマーとしてポリエステル系樹脂が好適である。前記のようにポリエステル系樹脂としては、PET、PBT等があげられ、これらを単独で使用するのはもちろん、ブレンドや共重合したものも使用可能である。
【0074】
この場合、特にポリエステル系樹脂として、PBTを用いることが好ましい。これは、PBTは非常に結晶性の高い樹脂であることから、導電性粒子の配列欠陥を少なくさせるものであり、導電性粒子の性能を最大限発揮させることができるからである。さらに、PBTに特定の共重合成分を含有させることにより、導電性粒子の含有量を増加させることができ、導電性能のさらなる向上を図ることができる。
【0075】
PBTの場合でも共重合成分としては、IPA、CHDM、CHDA等が好ましく、これらを単独又は混合して使用すればよい。これにより、導電性成分と導電性粒子との相溶性(表面濡れ性)を向上させ、導電性粒子の混入量を増加させることができ、優れた導電性能を発揮させることができる。さらにはポリマーの柔軟性が向上し、紡糸延伸工程を円滑に行うこともでき、長さ方向に均一な導電性能を有するものとすることができる。
【0076】
そしてさらに、共重合成分として上記CHDM、CHDA、IPAの一種もしくは複数種を併用する場合、共重合量としてはいずれの場合も5〜40モル%が好ましく、10〜30モル%がより好ましい。共重合量が5モル%未満では、上記したような導電性粒子との相溶性(表面濡れ性)の向上効果、ポリマーの柔軟性の向上効果、耐久性の向上効果が不十分となることがあり、好ましくない。一方、40モル%を超えると、ポリマー自体が完全に非晶性になるため、導電性粒子のポリマー中への分散が困難となりやすく、好ましくない。
【0077】
また、導電性成分の固有粘度(IV)としては、0.5〜0.8とすることが好ましい。IVが0.5未満であると、ポリマーの流動性は上がり、ポリマー中への導電性粒子の分散性は向上するが、その後の造粒性が悪化し、ペレット化することが困難となりやすく、好ましくない。一方、0.8を超えるとポリマーの流動性・結晶性が悪化して、導電性能が劣るものとなりやすく、好ましくない。
【0078】
そして、導電性成分に含有される導電性粒子としては、例えば、導電性カーボンブラックや金属粉末(銀、ニッケル、銅、鉄、錫あるいはこれらの合金等)、硫化銅、沃化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウム等の金属化合物があげられる。また、酸化錫に酸化アンチモンを少量添加したり、酸化亜鉛に酸化アルミニウムを少量添加して導電性粒子としたものもあげられる。
【0079】
さらには、酸化チタンの表面に酸化錫をコーティングし、酸化アンチモンを混合焼成し、導電性粒子としたものも用いることができる。中でも好ましいものは、導電性繊維の性能向上として汎用的に使用され、他の金属粒子と比較し、ポリマー流動性を阻害しにくい導電性カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)である。
【0080】
導電性粒子の粒径としては、特に限定されるものではないが、平均粒径が1μm以下のものとすることが好ましい。1μmを超えると、導電性粒子のポリマー中への分散性が悪くなりやすく、導電性能や強伸度特性の低下した繊維となりやすい。
【0081】
導電性成分における導電性粒子の含有量については、導電性粒子の種類、導電性能、粒子径、粒子の連鎖形成能及び用いるポリマーの特質によって適宣選択すればよいが、導電性成分中の5〜40質量%とすることが好ましく、さらに好ましくは10〜30質量%である。含有量が5質量%未満では、導電性能が不十分になる場合があり、また、40質量%を超えると、導電性粒子のポリマー中への分散が難しくなるので好ましくない。
【0082】
また、導電性繊維として上記した複合形態の繊維を採用する場合、両成分の剥離を防止するという点から導電性成分との相溶性を考慮することが好ましく、この点から両成分は同一の合成樹脂から形成されているのが好ましい。
【0083】
そして、本発明における導電性繊維には、前述のようにアンチモン化合物及びリン化合物が特定量含有されているのが好ましいのであるから、当然ながら導電性成分及び非導電性成分に同じく当該化合物が含有されているのが好ましい。ただ、当該化合物は必須成分ではないので、導電性成分及び非導電性成分の一方のみに当該化合物が含まれる態様を何ら排除するものでない。例えば、非導電性成分に対し当該化合物を特定量含有させると、繰り返し湿熱処理しても導電性成分にクラックが生じにくくなり、導電性粒子の欠落や脱落も生じにくくなり、従来の繊維にはない耐湿熱性能を有する導電性繊維とすることができる。また、図1に示すように導電性成分が鞘部となる芯鞘形状のものや、図2、3に示すような導電性成分の繊維表面への露出が一部のものでも、露出の割合が多いものでは、繊維表面の導電性成分が湿熱処理によりダメージを受けやすいので、両成分共にアンチモン化合物及びリン化合物を特定量含有するポリエステルとすることが好ましい。
【0084】
そして、両成分中には、効果を損なわない範囲であれば目的に応じて、ワックス類、ポリアルキレンオキシド類、各種界面活性剤、有機電解質等の分散剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、着色剤、顔料、流動性改善剤、その他の添加剤を加えることもできる。
【0085】
次に、本発明のユニフォーム織物に用いるダブルカバリング糸条について説明する。
ダブルカバリング糸条とは、芯部となる糸(芯糸)の周りに鞘部を構成する糸(鞘糸)が異なる撚方向で2重に巻き付いたような形態をなす糸条をいい、本発明では、鞘部に導電性繊維を配することで、導電性繊維単独で織物を得る場合に比べ、優れた導電効果を得ることができる。
【0086】
これは、織物をユニフォーム衣料に適用した際、導電性繊維が単独で使用されていると、織物の伸縮具合にもよるが、導電性繊維が一般に伸縮性に乏しいことに起因して、導電性繊維が織物表面に飛び出してしまうからである。この他、導電性繊維は一般の繊維に比べ強伸度特性においても劣る場合が多いので、導電性繊維が織物表面に飛び出すと、簡単に切断され、目的とする導電性能が得られなくなる。したがって、導電性繊維を用いるときは、他の繊維に固定して用いるのが好ましく、この点から、本発明ではダブルカバリング糸条を採用するのである。
【0087】
図4は、本発明で使用できるダブルカバリング糸条の一例を示す概略模式図である。ダブルカバリング糸条では、この図のように芯糸1の周りに鞘糸2が2本交差するように巻き付いており、本発明では鞘糸として導電性繊維を用いる。このようなダブルカバリング糸条を採用することで、糸条表面に鞘糸たる導電性繊維を多く露出させることができるので、結果として織物において安定した表面漏洩抵抗値が得られるのである。
【0088】
カバリングにおける撚糸回数としては、200〜1000T/Mが好ましい。200T/M未満であると、カバリング糸条とした際の導電性繊維の露出割合が低くなる場合があり好ましくない。一方、1000T/Mを超えると、導電性能は十分に発揮されるが、製造コストが高くつくので好ましくない。
【0089】
本発明の織物は、このようなダブルカバリング糸条を経糸と緯糸との両方に含むものである。したがって、本発明では、当該ダブルカバリング糸条のみで織物を構成する態様を包含するものである。しかし、ダブルカバリング糸条だけの使用は、織物強度、製造コストなどの点であまり好ましいとはいえない。そこで、本発明では、好ましくはダブルカバリング糸条と共にこれ以外の糸条も経緯糸に含ませる。
【0090】
この場合、織物内におけるダブルカバリング糸条の配置態様としては、任意の態様が採用できる。ただし、織物内の特定箇所にダブルカバリング糸条が偏って配置されると、織物の導電性能にも偏りが生じやすいので、ダブルカバリング糸条は、織物内において等間隔に配置されているのが好ましい。具体的には、ダブルカバリング糸条を10mm以下、より好ましくは5mm以下の間隔で配置するのが好ましい。
【0091】
また、ダブルカバリング糸条は、織物の導電性能を高める観点から、他の糸条より太くするのが好ましい。具体的には、ダブルカバリング糸条のトータル繊度Aとそれ以外の糸条のトータル繊度Bとの比(A/B)を、好ましくは1.1〜5.0とする。繊度比が1.1未満になると、織物表面に露出する導電性繊維が少なくなり、安定した導電性能が得られ難くなるため、好ましくない。一方、繊度比が5.0を超えると、衣料となしたとき、僅かな擦れ、摩耗を受けただけで導電性繊維が切れることがあり、安定した導電性能を維持し難いため、好ましくない。
【0092】
ここで、織物表面に露出する導電性繊維の面積比率としては、織物全表面積に対し1〜30%であることが好ましい。導電性繊維の面積比率が1%未満であると、安定した導電性能が得られず、一方、30%を超えると、安定した導電性能は得られるが、コストが高くなるうえ得られた織物はピリング、スナッキング等の性能が劣る傾向にあるため、いずれも好ましくない。
【0093】
ダブルカバリング糸条以外の糸条としては、基本的にどのような糸条でも使用できる。具体的には、綿、ウール等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、エステル、ナイロン等の合成繊維等があげられ、目的にあわせて適宜選定することができる。ただ、本発明の織物は、クリーンルーム等で着用するユニフォーム衣料等に適用されることが多いため、発塵性の観点から、好ましくは合成繊維糸条を採用する。
【0094】
この場合、合成繊維糸条を形成するポリマーとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオキシエトキシベンゾエート、ポリエチレンナフタレート、シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、及びこれらのポリエステルに付加的部分としてさらにイソフタル酸、スルホイソフタル酸成分、プロピレングリコール、ブチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールのようなジオール成分を共重合したポリエステルの他、ナイロン−6、ナイロン−6.6、芳香族ナイロン等のポリアミド、ポリプロピレン、アクリル、あるいはポリカポロラクトン、ポリブチレンサクシネートなどの化合物であって、土壌中や水中に長時間放置すると、微生物などの作用によって炭酸ガスと水に分解される脂肪族ポリエステル化合物等があげられる。本発明では、これらのうち、寸法安定性の観点からポリエステルが好ましく採用される。
【0095】
また、糸条の形態としては、原糸、仮撚加工糸、インターレース混繊糸等任意のものが採用できる。また、糸条はフィラメントで構成されていることが好ましく、フィラメントの断面形状としては、また、丸断面、三角断面、四角断面、五角断面、扁平断面、くさび型断面、C型断面、H型断面、I型断面、W型断面等があげられる。
【0096】
本発明の織物は、以上のような糸条を用いて構成されるものであり、織組織としては、特に限定されるものではなく、平織、綾織、朱子織、絡み織等が採用できる。
【0097】
また、本発明の織物は、既述のように優れた導電性能を発揮するものであり、湿熱処理後もそのような性能を維持できるものである。具体的には、縫製部を挟んだ状態での表面漏洩抵抗値が、121℃下25時間での湿熱処理の前後で共に1×10Ω以下である必要がある。表面漏洩抵抗値は、JIS L 1094「参考 表面漏えい抵抗測定法・クリンギング測定法」に準じて測定するものである。
【0098】
表面漏洩抵抗値が小さくなると、織物の帯電を抑制することできるから、その織物は、半導体や各種IT関連機器や精密部品を製造するクリーンルーム内で使用する衣料に一層適したものとなる。本発明の場合、表面漏洩抵抗値が1×10Ωを超えると、織物の導電性能が不十分となる。表面漏洩抵抗値の下限としては、特に限定されるものでないが、1×10Ω未満にしようとすると、導電性繊維に多量の導電性粒子を含有させなければならず、前記したように繊維特性に悪影響を及ぼすばかりか、紡糸、延伸に支障をきたすことがあり、好ましくない。かかる点から、結局のところ表面漏洩抵抗値としては、湿熱処理の前後で1×10〜1×10Ωが好ましいことになる。
【0099】
さらに、本発明の織物はユニフォーム衣料に適用されるものであるから、洗濯を繰り返した後でも導電性能を維持する必要がある。しかるに、JIS L0217 103法に基づく洗濯を100回行った後の織物についても、湿熱処理の前後で表面漏洩抵抗値1×10Ω以下を満足することが好ましい。
【0100】
次に、織物の縫製方法について説明をする。
【0101】
縫製としては、基本的に、織物を2枚用意し、端部を縫い合わせる手段が採用できる。しかしながら、本発明の織物は、ユニフォーム衣料に適用されるところ、縫製後及び洗濯後も安定して導電性能を維持できることが好ましい。このため、縫製部において導電性繊維を積極的に接触させることが好ましく、この点から織物を3枚以上重ね合わせて縫製することが好ましい。この場合、特に織物を折りたたんだ状態で縫製すると、より多く導電性繊維を接触させることができる。加えて、この縫製手段は、縫製部のシワを効率よく取り除く点でも有利である。
【0102】
具体的には、図5に示すような構造が好ましい。つまり、2枚の織物を折りたたむと共に交互に重ね合わせて縫製することが好ましい。この他、図示していないが、一方の織物だけを折りたたんで縫製する態様、2枚の織物を折りたたみそのまま重ね合わせて縫製する態様なども採用可能である。
【0103】
縫製にはミシンを用いのが一般的であり、縫製部のミシンステッチについては、特段限定されるものでないが、1本ではなく2本とすることが、導電性繊維同士を密に接触させる観点から好ましい。
【0104】
ミシンの運針数としては、6針/3cm以上30/3cm以下が好ましく、12針/3cm以上20針/3cm以下がより好ましい。運針数が6針/3cm未満になると、縫製部の強力が低下する傾向にあり、ユニフォームに要求される強度を維持できないことがあり、好ましくない。一方、30針/3cmを超えると、縫製時にミシン糸が切れやすくなるので好ましくない。
【0105】
また、縫製時の縫い方法としては、特に限定されないが、例えば、本縫い、環状縫い、インターロック縫い等が、縫製強力の観点から好ましく採用される。
【実施例】
【0106】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、導電性複合繊維の電気抵抗値、導電性能低下率及び強度保持率は、目的とする織物が、通常、染色加工して得られる点を考慮し、しかるべき熱水処理の後、測定するものとした。すなわち、導電性複合繊維を用いて筒編地を作製し、界面活性剤(日華化学製「サンモールFL(商品名)」)を1g/l使用して80℃で30分間精練処理した後、130℃で30分間熱水処理した。この後、高圧蒸気滅菌器(平山製作所製「HV−50(商品名)」)を用いて、121℃で25時間連続して該筒編地を湿熱処理した。そして、筒編地を作製する前の導電性複合繊維の電気抵抗値を湿熱処理前の電気抵抗値とし、湿熱処理後の筒編地を解編して取り出した導電性複合繊維の電気抵抗値を湿熱処理後の電気抵抗値とした。
【0107】
(実施例1)
導電性成分として、極限粘度(フェノールと四塩化エタンとの等質量混合液を溶媒とし、温度20℃で測定した)0.75、カルボキシル末端基濃度が25geq/tのPBT(実質的にブチレンテレフタレート繰り返し単位が100モル%)に、導電性粒子として、平均粒径0.2μmのカーボンブラック(導電性成分中の27質量%となる量)を溶融混練したものを用い、常法によりチップ化して導電性成分とした。
【0108】
一方、非導電成分に適用すべきポリマーを以下の手段で得た。すなわち、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体(BHET)の存在するエステル化反応缶に、モル比1/1.6のテレフタル酸とエチレングリコールとのスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.05kg/cm、滞留時間8時間の条件でエステル化反応を行い、エステル化反応率が95%のBHETを連続的に得た。このBHET50kgを重合槽に移送し、265℃に加熱し、触媒として、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対し三酸化アンチモンを1.0×10−4モルと、リン化合物としてリン酸トリエチルを、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対し0.5×10−4モル添加した。
【0109】
その後、徐々に減圧し、265℃で最終的に0.1tollの減圧下で3.5時間重縮合反応(溶融重合のみ)を行い、極限粘度(フェノールと四塩化エタンとの等質量混合液を溶媒とし、温度20℃で測定した)0.64、カルボキシル末端基濃度が9.0geq/tのPETを得、常法によりチップ化した。これを非導電性成分とした。
【0110】
その後、単糸の横断面形状が図2(c)となるように設計された紡糸口金を用いて、導電性成分と非導電性成分のチップを供給し、通常の複合紡糸装置より紡糸温度295℃、導電性成分の複合比率20質量%となるように紡糸し、冷却、オイリングしながら3000m/分の速度で巻き取り、43dtex/2fの未延伸糸を得た。そして、この未延伸糸を90℃の熱ローラを介して1.53倍に延伸し、さらに、190℃のヒートプレートで熱処理を行った後に巻き取り、図2(c)の断面形状を呈する28dtex/2fの導電性繊維を得た。
【0111】
なお、複合繊維中におけるアンチモン化合物、リン化合物の含有量は、それぞれ0.8×10−4モル、0.4×10−4モル、複合繊維の各種物性は、カルボキシル末端基濃度16.0geq/t、湿熱処理前後の電気抵抗値は、それぞれ9.1×10Ω/cm、3.5×10Ω/cm、導電性能低下率3.6、湿熱処理前後の引張強度は、それぞれ2.4cN/dtex、2.0cN/dtex、強度保持率83%であった。
【0112】
次に、ユニチカファイバー(株)製、ポリエステル糸条56dtex24fを用意し、この糸の周りに上記導電性繊維をダブルカバリングした。そして、上記ポリエステル糸条56dtex24fと、得られたダブルカバリング糸条とを29:1の配列で整経し、得られた織機ビームをウォータージェットルームに仕掛けた。そして、緯糸として上記2糸を用意し、これらを定交換で打ち込み平織物となした。得られた平織物の生機密度は、経糸100本/2.54cm、80本/2.54cmであり、ポリエステル糸条とダブルカバリング糸条との質量比率は19:1であった。
【0113】
そして、得られた生機を公知の方法で順次精練、プレセット、染色、仕上げセットし、経緯方向に沿って約5mmに1本の間隔でダブルカバリング糸条が配された織物を得た。
【0114】
織物を得た後、縫製部が図6に示すような構造となるよう2枚の織物を縫い合わせ、121℃下25時間で湿熱処理した。そして、湿熱処理前後の織物を用意し、前者(処理前)は縫製部を挟まない状態と挟む状態とにおける表面漏洩抵抗値を、後者(処理後)は縫製部を挟んだ状態で表面漏洩抵抗値を測定した。結果を下記表2に示す。
【0115】
(実施例2)
導電性成分として、極限粘度0.65、カルボキシル末端基濃度24geq/tでイソフタル酸を15モル%共重合した共重合ポリブチレンテレフタレート(共重合PBT)に平均粒径0.2μmのカーボンブラックを導電成分中の30質量%となるように、溶融混練したものを用い、常法によりチップ化して導電性成分とした。
【0116】
一方、非導電成分に適用すべきポリマーを以下の手段で得た。すなわち、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体(BHET)の存在するエステル化反応缶に、モル比1/1.6のテレフタル酸とエチレングリコールとのスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.05kg/cm、滞留時間8時間の条件でエステル化反応を行い、エステル化反応率が95%のBHETを連続的に得た。このBHET50kgを重合槽に移送し、イソフタル酸とエチレングリコールのスラリーをイソフタル酸が8モル%となるように投入した後、265℃に加熱し、触媒として三酸化アンチモンを、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対し1.0×10−4モルと、リン化合物としてリン酸トリエチルを、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対し0.5×10−4モル添加した。その後、徐々に減圧し、265℃で最終的に0.1tollの減圧下で4.0時間重縮合反応(溶融重合のみ)を行い、極限粘度(フェノールと四塩化エタンとの等質量混合液を溶媒とし、温度20℃で測定した)0.64、カルボキシル末端基濃度が11.0geq/tのイソフタル酸8モル%共重合PETを得、常法によりチップ化した。これを非導電性成分とした。
【0117】
なお、複合繊維中におけるアンチモン化合物、リン化合物の含有量は、それぞれ0.8×10−4モル、0.4×10−4モル、複合繊維の各種物性は、カルボキシル末端基濃度17.0geq/t、湿熱処理前後の電気抵抗値は、それぞれ7.1×10Ω/cm、3.7×10Ω/cm、導電性能低下率5.2、湿熱処理前後の引張強度は、それぞれ2.3cN/dtex、1.7cN/dtex、強度保持率74%であった。
【0118】
そして、これ以降は実施例1と同様に行い、織物を得た。
【0119】
【表1】

【0120】
以上から明らかなように、実施例にかかる織物は、湿熱処理の前後において、縫製部を挟んで良好な導電性能を発揮するものであった。特にかかる実施例では、ダブルカバリング糸条と他の糸条とがトータル繊度において特定の比率を満足しているため、導電性能が非常に安定していた。
【符号の説明】
【0121】
1 芯糸
2 鞘糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維を鞘部に配したダブルカバリング糸条を経緯糸に含む織物であって、縫製部を挟んだ状態での表面漏洩抵抗値が、121℃下25時間での湿熱処理の前後で共に1×10Ω以下であることを特徴とするユニフォーム用織物。
【請求項2】
導電性繊維を鞘部に配したダブルカバリング糸条とそれ以外の糸条とを経緯糸に含む織物であって、ダブルカバリング糸条のトータル繊度Aとそれ以外の糸条のトータル繊度Bとの比(A/B)が1.1〜5.0であり、さらに、縫製部を挟んだ状態での表面漏洩抵抗値が、121℃下25時間での湿熱処理の前後で共に1×10Ω以下であることを特徴とするユニフォーム用織物。
【請求項3】
導電性繊維が、ポリエステル系樹脂からなる非導電性成分と、導電性粒子を含有するポリエステル系樹脂からなる導電性成分とで構成され、導電性成分の少なくとも一部が繊維表面に露出している形状を呈している導電性繊維であって、導電性繊維中にアンチモン化合物及びリン化合物が下記式(1)、(2)を同時に満足する量含有されていることを特徴とする請求項1又は2記載のユニフォーム用織物。
(1)0.5×10−4≦〔Sb〕≦3.0×10−4
(2)0.1×10−4≦〔P〕≦20.0×10−4
なお、〔Sb〕はアンチモン化合物の含有量、〔P〕はリン化合物の含有量を表し、単位は「モル/酸成分モル」である。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のユニフォーム用織物を用いた衣料であって、当該織物が3枚以上重なって縫製部を形成していることを特徴とする衣料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−285708(P2010−285708A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139326(P2009−139326)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】