説明

ユーザ体感品質推定システムおよび方法

【課題】パケットのジッタを十分考慮してユーザ体感品質を高い精度で推定する。
【解決手段】損失パケット検出部13で、パケット情報記憶部12のパケット情報に基づいてパケット網2で損失した損失パケットを検出して損失パケット数を計数し、廃棄パケット推定部15で、当該パケット情報を網品質管理閾値記憶部14の許容受信パケット数で検証することにより受信端末3で廃棄された廃棄パケット数を推定し、パケット損失率算出部16で、損失パケット数と廃棄パケット数との合計を、映像配信装置1から受信端末3へ送信された総送信パケット数で除算することにより、パケット損失率を算出し、ユーザ体感品質推定部18で、ユーザ体感品質推定モデルを参照して、パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信品質管理技術に関し、特にパケット網や受信端末で計測できるパケット転送状況に基づいて映像通信サービスに対するユーザ体感品質を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
映像系IPサービスは、近年、IPTVサービスとして世界各国で本格的なサービス提供が始まり、市場が拡大しつつある。一方、パケット網の品質が保証されないため、映像通信サービスを実現するアプリケーションの品質管理技術が注目され、品質測定器市場も拡大しつつある。
このような品質管理技術においては、パケット網の品質に留まらず、ユーザ体感品質(QoE:Quality of Experience)を管理することが重要視されつつある(例えば、非特許文献1など参照)。
【0003】
ユーザ体感品質を管理するため、従来より、網や端末から取得できる様々な指標を利用してユーザ体感品質を推定する技術が検討されている。
この技術のうち、映像通信サービスに対するユーザ体感品質推定技術としては、映像信号を利用するアプローチが提案されている(例えば、特許文献1など参照)。しかし、このようなアプローチでは、映像信号そのものを利用しているため、網で得られる情報を利用して、ユーザ体感品質を推定できない。
【0004】
一方、パケット転送状況など、網上で取得できる情報を利用するアプローチも提案されている(例えば、特許文献2など参照)。また、発明者らは、主に音声(VoIP)サービスを対象として、パケット網で取得できる情報を利用して、ユーザ体感品質を推定する技術、さらにはこれを利用した網管理技術を提供している(例えば、特許文献3など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4257333号公報
【特許文献2】特開2007-060475号公報
【特許文献3】特許第3579334号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ITU-T Recommendation P.10/G.100, "Definition of Quality of Experience(QoE)," Jan., 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来技術では、受信端末で再生される映像に関するユーザ体感品質を推定する際、パケット網に生ずる映像通信用パケットに関する揺らぎ、すなわちジッタによるユーザ体感品質への影響を十分考慮しておらず、高い精度でユーザ体感品質を推定できないという問題点があった。
【0008】
すなわち、前述した従来技術では、主にパケット損失とジッタを利用している。しかし、パケット網でのジッタの影響については、映像通信用パケットが予定より遅れて受信端末に到着するバッファアンダーフロー現象によるユーザ体感品質への影響しか考慮しておらず、パケットが予定時刻より早く受信端末に到着するバッファオーバーラン現象によるユーザ体感品質への影響については考慮されていない。実際には、パケットが早く端末に到着する影響によって映像品質が劣化する端末やアプリケーションも広く利用されている。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、パケットのジッタを十分考慮してユーザ体感品質を高い精度で推定できるユーザ品質推定技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明にかかるユーザ体感品質推定システムは、パケット網を介して送信端末と受信端末との間で行われる映像通信について、受信端末で受信再生した映像に対してユーザが実感するユーザ体感品質を推定するユーザ体感品質推定システムであって、パケット網から受信端末へ転送した当該映像通信用の各パケットについて計測したパケット転送時刻を示すパケット情報を記憶するパケット情報記憶部と、単位時間当たりに受信端末で受信可能なパケット数を示す許容受信パケット数を網品質管理閾値として記憶する網品質管理閾値記憶部と、映像通信のパケット転送状況を示すパケット損失率と、その際に当該映像通信で得られるユーザ体感品質値との関係を示すユーザ体感品質推定モデルを記憶する推定モデル記憶部と、パケット情報に基づいてパケット網で損失した損失パケットを検出して損失パケット数を計数する損失パケット検出部と、パケット情報を許容受信パケット数で検証することにより受信端末で廃棄された廃棄パケット数を推定する廃棄パケット推定部と、損失パケット数と廃棄パケット数との合計を、パケット情報から算出した送信端末から受信端末へ送信された総送信パケット数で除算することにより、パケット損失率を算出するパケット損失率算出部と、ユーザ体感品質推定モデルを参照して、パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定するユーザ体感品質推定部とを備えている。
【0011】
この際、網品質管理閾値を算出する網品質管理閾値算出装置をさらに備え、網品質管理閾値算出装置に、パケット網でのジッタ量が異なる複数の通信条件の下で行われた映像通信ごとに、当該パケット網から受信端末へ転送した各映像通信用パケットについて計測したパケット転送時刻を示す条件別パケット情報を記憶するパケット情報記憶部と、通信条件ごとに、受信端末で再生した映像の品質評価結果を記憶する品質評価結果記憶部と、条件別パケット情報のうち受信端末での映像品質が劣化していない定常映像通信時における定常パケット情報に基づいて、予め設定されている定常単位時間当たりに受信する定常受信パケット数を算出する定常値算出部と、定常単位時間と定常受信パケット数とに基づいて、予め定めた検証範囲内から仮定単位時間と仮定許容受信パケット数との組を仮定閾値として複数生成する仮定閾値生成部と、仮定閾値ごとに、当該仮定単位時間および仮定許容受信パケット数に基づいて、各条件別パケット情報に含まれるパケット転送状況を検証することにより、当該通信条件下での映像品質劣化の有無を推定評価し、当該推定評価を当該通信条件における品質評価結果と比較することにより、当該仮定閾値に関する評価正解率を算出する評価正解率算出部と、各仮定閾値の評価正解率のうち、最も正解率の高い仮定閾値に関する仮定単位時間と仮定許容受信パケット数を、当該網に関する網品質管理閾値として決定する網品質管理閾値決定部とを備えてもよい。
【0012】
また、ユーザ体感品質推定モデルを作成するユーザ体感品質推定モデル作成装置をさらに備え、ユーザ体感品質推定モデル作成装置に、パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた試験映像通信ごとに、これら試験映像通信から得たパケット情報からパケット損出率を算出するパケット損失率算出部と、試験映像通信ごとに受信端末で再生した映像の品質評価結果を取得する品質評価結果取得部と、試験映像通信ごとに得られたパケット損失率と品質評価結果との対応関係に基づいて、ユーザ体感品質推定モデルを導出する推定モデル作成部とを備えてもよい。
【0013】
また、本発明にかかるユーザ体感品質推定方法は、パケット網を介して送信端末と受信端末との間で行われる映像通信について、受信端末で受信再生した映像に対してユーザが実感するユーザ体感品質を推定するユーザ体感品質推定システムで用いられるユーザ体感品質推定方法であって、パケット情報記憶部が、パケット網から受信端末へ転送した当該映像通信用の各パケットについて計測したパケット転送時刻を示すパケット情報を記憶するパケット情報記憶ステップと、網品質管理閾値記憶部が、単位時間当たりに受信端末で受信可能なパケット数を示す許容受信パケット数を網品質管理閾値として記憶する網品質管理閾値記憶ステップと、推定モデル記憶部が、映像通信のパケット転送状況を示すパケット損失率と、その際に当該映像通信で得られるユーザ体感品質値との関係を示すユーザ体感品質推定モデルを記憶する推定モデル記憶ステップと、損失パケット検出部が、パケット情報に基づいてパケット網で損失した損失パケットを検出して損失パケット数を計数する損失パケット検出ステップと、廃棄パケット推定部が、パケット情報を許容受信パケット数で検証することにより受信端末で廃棄された廃棄パケット数を推定する廃棄パケット推定ステップと、パケット損失率算出部が、損失パケット数と廃棄パケット数との合計を、パケット情報から算出した送信端末から受信端末へ送信された総送信パケット数で除算することにより、パケット損失率を算出するパケット損失率算出ステップと、ユーザ体感品質推定部が、ユーザ体感品質推定モデルを参照して、パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定するユーザ体感品質推定ステップとを備えている。
【0014】
この際、網品質管理閾値算出装置が、網品質管理閾値を算出する網品質管理閾値算出ステップをさらに備え、網品質管理閾値算出ステップに、パケット情報記憶部が、パケット網でのジッタ量が異なる複数の通信条件の下で行われた映像通信ごとに、当該パケット網から受信端末へ転送した各映像通信用パケットについて計測したパケット転送時刻を示す条件別パケット情報を記憶するパケット情報記憶ステップと、品質評価結果記憶部が、通信条件ごとに、受信端末で再生した映像の品質評価結果を記憶する品質評価結果記憶ステップと、定常値算出部が、条件別パケット情報のうち受信端末での映像品質が劣化していない定常映像通信時における定常パケット情報に基づいて、予め設定されている定常単位時間当たりに受信する定常受信パケット数を算出する定常値算出ステップと、仮定閾値生成部が、定常単位時間と定常受信パケット数とに基づいて、予め定めた検証範囲内から仮定単位時間と仮定許容受信パケット数との組を仮定閾値として複数生成する仮定閾値生成ステップと、評価正解率算出部が、仮定閾値ごとに、当該仮定単位時間および仮定許容受信パケット数に基づいて、各条件別パケット情報に含まれるパケット転送状況を検証することにより、当該通信条件下での映像品質劣化の有無を推定評価し、当該推定評価を当該通信条件における品質評価結果と比較することにより、当該仮定閾値に関する評価正解率を算出する評価正解率算出ステップと、網品質管理閾値決定部が、各仮定閾値の評価正解率のうち、最も正解率の高い仮定閾値に関する仮定単位時間と仮定許容受信パケット数を、当該網に関する網品質管理閾値として決定する網品質管理閾値決定ステップとを備えてもよい。
【0015】
また、ユーザ体感品質推定モデル作成装置が、ユーザ体感品質推定モデルを作成するユーザ体感品質推定モデル作成ステップをさらに備え、ユーザ体感品質推定モデル作成ステップに、パケット損失率算出部が、パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた試験映像通信ごとに、これら試験映像通信から得たパケット情報からパケット損出率を算出するパケット損失率算出ステップと、品質評価結果取得部が、試験映像通信ごとに受信端末で再生した映像の品質評価結果を取得する品質評価結果取得ステップと、推定モデル作成部が、試験映像通信ごとに得られたパケット損失率と品質評価結果との対応関係に基づいて、ユーザ体感品質推定モデルを導出する推定モデル作成ステップとを備えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、パケット網でのジッタに起因して受信端末で発生するバッファオーバーラン現象を、廃棄パケット数として捉えることができ、ユーザ体感品質の推定に考慮することが可能となる。したがって、高い精度でユーザ体感品質を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムの構成を示すブロック図である。
【図2】パケット情報の構成例である。
【図3】網品質管理閾値の構成例である。
【図4】ユーザ体感品質推定モデルを示す特性図である。
【図5】第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムのユーザ体感品質推定処理を示すフローチャートである。
【図6】受信端末での廃棄パケットを示す説明図である。
【図7】図6からパケット損失率がゼロの測定例を抽出した説明図である。
【図8】パケット損失およびパケット廃棄とユーザ体感品質との対応関係を示す説明図である。
【図9】第2の実施の形態にかかる網品質管理閾値装置の構成を示すブロック図である。
【図10】条件別パケット情報の構成例である。
【図11】端末情報の構成例である。
【図12】品質評価結果の構成例である。
【図13】第2の実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置での情報取得処理を示すフローチャートである。
【図14】定常値の構成例である。
【図15】第2の実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置での網品質管理閾値決定処理を示すフローチャートである。
【図16】仮定閾値の構成例である。
【図17】第2の実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置での評価正解率算出処理を示すフローチャートである。
【図18】評価正解率の算出結果例である。
【図19】評価正解率の算出結果を示すグラフである。
【図20】第3の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置の構成を示すブロック図である。
【図21】品質評価結果の構成例である。
【図22】第3の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置のユーザ体感品質推定モデル作成処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムについて説明する。図1は、第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムの構成を示すブロック図である。
【0019】
このユーザ体感品質推定システム10は、全体として、一般的なサーバ装置やワークステーションなどの情報処理通信端末からなり、予め作成したユーザ体感品質推定モデルを参照して、対象となる映像通信から得たパケット情報に基づいて、当該映像通信の受信映像を受信端末3で再生した際にユーザが実際に体感するユーザ体感品質を推定する機能を有している。
【0020】
映像配信装置1は、全体として、一般的なサーバ装置やワークステーションなどの情報処理通信端末からなり、映像通信における送信端末として動作することにより、映像データをパケットで配信する機能を有している。
受信端末3は、テレビ受像器をデータ通信網に接続して各種通信サービスの利用を可能とするSTB(Set-Top-Box)などの通信端末からなり、インターネットなどからなるパケット網2を介して接続された映像配信装置1と映像通信を行うことによりパケットで映像データを受信し、テレビ受像器などからなる映像表示装置4で再生出力する機能を有している。
【0021】
分岐器5は、タップ(Tap)やハブ(Hub)などの通信機器からなり、パケット網2と受信端末3との間の通信経路上に設置されて、パケット網2から受信端末3へ転送される映像通信用パケットをキャプチャする機能を有している。
【0022】
網品質管理閾値算出装置20は、予め試験的に行った映像通信で得られたパケット情報とそのときの受信端末3での映像品質評価とに基づいて、当該試験に用いたパケット網2に対する網品質管理閾値を算出する機能を有している。
ユーザ体感品質推定モデル作成装置40は、予め試験的に行った映像通信で得られたパケット情報とそのときの受信端末3での映像品質評価とに基づいて、任意の映像通信から計測したパケット損失率に応じたユーザ体感品質値を推定するためのユーザ体感品質推定モデルを作成する機能を有している。
【0023】
本実施の形態では、対象となる映像通信から得たパケット情報に基づいて、送信端末から送信された映像通信用パケットのうちパケット網2で損失した損失パケットの数を計数するとともに、網品質管理閾値で指定された単位時間当たりに受信端末3で受信可能な許容受信パケット数に基づいて、受信端末3でのバッファオーバーラン現象による廃棄した廃棄パケット数を推定し、これら損失パケット数と廃棄パケット数とから当該映像通信でのパケット損失率を算出し、このパケット損失率から予め作成したユーザ体感品質推定モデルを参照して、受信端末3でのユーザ体感品質を推定する。
【0024】
次に、図1を参照して、本実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システム10の構成について詳細に説明する。
このユーザ体感品質推定システム10には、主な機能部として、パケット情報取得部11、パケット情報記憶部12、損失パケット検出部13、網品質管理閾値記憶部14、廃棄パケット推定部15、パケット損失率算出部16、推定モデル記憶部17、ユーザ体感品質推定部18、および画面表示部19が設けられている。
【0025】
パケット情報取得部11は、映像通信サービスが提供されているインサービス環境下で、映像配信装置1と受信端末3との間で行われる品質推定対象の映像通信について、分岐器5でキャプチャされた当該映像通信に関する映像通信用パケットに関するパケット情報を取得する機能と、取得したパケット情報をパケット情報記憶部12へ保存する機能とを有している。
図2は、パケット情報の構成例である。このパケット情報には、少なくともパケットの送信順を示すパケット番号(シーケンス番号)と分岐器5を通過してパケット網2から受信端末3へ転送された各映像通信用パケットの転送時刻とが含まれている。
【0026】
パケット情報のパケット転送時刻については、計測を開始した最初の映像通信用パケットからの相対的な時刻情報で記述されているが、絶対的な時刻情報であってもよい。
また、このパケット転送時刻については、分岐器5でキャプチャされてパケット情報取得部11で受信した各映像通信用パケットの受信時刻を用いてもよく、分岐器5で計測した各映像通信用パケットの転送時刻をパケット情報取得部11が分岐器5から取得してもよい。あるいは、受信端末3で計測した各映像通信用パケットの転送時刻をパケット情報取得部11が受信端末3から取得してもよい。
【0027】
損失パケット検出部13は、パケット情報記憶部12から読み出したパケット情報のパケット番号(シーケンス番号)を確認し、先頭パケットと最後尾パケットとのパケット番号差から総送信パケット数を算出する機能と、同じくパケット番号を確認し、パケット情報として記録されていない不連続部分(飛び番号)を、パケット網2で損失した損失パケットとして検出し、これら損失パケットの数を計数する機能とを有している。
【0028】
廃棄パケット推定部15は、パケット情報記憶部12から読み出したパケット情報に含まれるパケット転送状況を、網品質管理閾値記憶部14に網品質管理閾値として設定されている単位時間と許容受信パケット数とに基づき検証することにより、受信端末3での廃棄パケット数を推定する機能を有している。
図3は、網品質管理閾値の構成例である。網品質管理閾値は、単位時間と許容受信パケット数とから構成されている。この網品質管理閾値の算出方法については、後述の第2の実施の形態で説明する。
【0029】
許容受信パケット数は、単位時間当たりに受信端末3で受信可能なパケット数を示す網品質管理閾値である。パケット網2で発生するジッタの影響により、この許容受信パケット数を越える映像通信用パケットが受信端末3に到着した場合、受信端末3でバッファオーバーラン現象が発生し、受信パケットが廃棄されることを示している。
廃棄パケット推定部15は、パケット情報記憶部12から読み出したパケット情報に含まれる各パケットの転送時刻情報に基づき、単位時間ごとに転送パケット数を計数し、許容受信パケット数を越えたパケット数を廃棄パケット数として計数する。
【0030】
パケット損失率算出部16は、損失パケット検出部13で得られた損失パケット数と、廃棄パケット推定部15で得られた廃棄パケット数との合計を、損失パケット検出部13で得られた総送信パケット数で除算することにより、パケット損失率を算出する機能を有している。
【0031】
ユーザ体感品質推定部18は、推定モデル記憶部17のユーザ体感品質推定モデルを参照して、パケット損失率算出部16で算出されたパケット損失率に対応するユーザ体感品質を求めることにより、品質推定対象となる映像品質のユーザ体感品質値を推定する機能と、推定したユーザ体感品質値を画面表示部19で画面表示する機能とを有している。
【0032】
図4は、ユーザ体感品質推定モデルを示す特性図であり、横軸がパケット損失率(%)を示し、縦軸がユーザ体感品質の推定値(ITU−T勧告P800で規定されているMOS:Mean Opinion Score)を示している。
一般に、映像通信におけるユーザ体感品質値は、パケット損失率の増加に応じて指数関数的に単調減少する特性を有している。このユーザ体感品質推定モデルの作成方法については、後述の第3の実施の形態で説明する。
【0033】
ユーザ体感品質推定システム10には、通常の情報処理装置に設けられている一般的な構成として、画面表示部19のほか、演算処理部、記憶部、データ通信インターフェース部、データ入出力インターフェース部、操作入力部などの機能部が設けられており、前述した各機能部がこれらを利用して処理動作を行う。
【0034】
前述したユーザ体感品質推定システム10の各機能部のうち、パケット情報取得部11、損失パケット検出部13、廃棄パケット推定部15、パケット損失率算出部16、およびユーザ体感品質推定部18については、演算処理部で実現すればよい。
この演算処理部は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、記憶部に予め格納されているプログラムを読み出して実行することにより、各種機能部を実現する。
【0035】
また、ユーザ体感品質推定システム10の各機能部のうち、パケット情報記憶部12、網品質管理閾値記憶部14、および推定モデル記憶部17については、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置で実現すればよい。これら記憶部は、それぞれ別個の記憶装置で実現してもよく、いずれか複数あるいはすべての記憶部を1つの記憶装置で実現してもよい。
【0036】
[第1の実施の形態の動作]
次に、図5を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムの動作について説明する。図5は、第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムのユーザ体感品質推定処理を示すフローチャートである。
【0037】
図5のユーザ体感品質推定処理において、ユーザ体感品質推定システム10は、まず、パケット情報取得部11により、映像通信サービスが提供されているインサービス環境下で、映像配信装置1と受信端末3との間で行われた、品質推定対象の映像通信に関するパケット情報を取得し、パケット情報記憶部12へ保存する(ステップ100)。
【0038】
次に、ユーザ体感品質推定システム10は、損失パケット検出部13により、パケット情報記憶部12から読み出したパケット情報から、総送信パケット数と損失パケット数とを算出する(ステップ101)。
また、ユーザ体感品質推定システム10は、廃棄パケット推定部15により、網品質管理閾値記憶部14に網品質管理閾値として設定されている単位時間と許容受信パケット数とに基づいて、パケット情報記憶部12から読み出したパケット情報から、受信端末3における損失パケット数を算出する(ステップ102)。
【0039】
この後、ユーザ体感品質推定システム10は、パケット損失率算出部16により、損失パケット検出部13で得られた損失パケット数と、廃棄パケット推定部15で得られた廃棄パケット数との合計を、損失パケット検出部13で得られた総送信パケット数で除算することにより、パケット損失率を算出する(ステップ103)。
【0040】
次に、ユーザ体感品質推定システム10は、ユーザ体感品質推定部18により、推定モデル記憶部17のユーザ体感品質推定モデルを参照して、パケット損失率算出部16で算出されたパケット損失率に対応するユーザ体感品質を求めることにより、品質推定対象となる映像品質のユーザ体感品質値を推定し(ステップ104)、推定したユーザ体感品質値を画面表示部で画面表示して(ステップ105)、一連のユーザ体感品質推定処理を終了する。
【0041】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態では、損失パケット検出部13で、パケット情報記憶部12のパケット情報に基づいてパケット網2で損失した損失パケットを検出して損失パケット数を計数し、廃棄パケット推定部15で、当該パケット情報を網品質管理閾値記憶部14の許容受信パケット数で検証することにより受信端末3で廃棄された廃棄パケット数を推定し、パケット損失率算出部16で、損失パケット数と廃棄パケット数との合計を、映像配信装置1から受信端末3へ送信された総送信パケット数で除算することにより、パケット損失率を算出し、ユーザ体感品質推定部18で、ユーザ体感品質推定モデルを参照して、パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定している。
【0042】
このため、パケット網2でのジッタに起因して受信端末3で発生するバッファオーバーラン現象を、廃棄パケット数として捉えることができ、ユーザ体感品質の推定に考慮することが可能となる。したがって、高い精度でユーザ体感品質を推定することができる。
【0043】
図6は、受信端末での廃棄パケットを示す説明図であり、横軸がパケット損失率(%)を示し、縦軸がユーザ体感品質の推定値(MOS)を示している。図4に示されているように、一般的には、映像通信におけるユーザ体感品質値は、パケット損失率の増加に応じて指数関数的に単調減少する特性を有しているため、パケット損失率がゼロである場合には、良好なユーザ体感品質が得られる。
【0044】
これに対して、図6の測定例では、パケット損失率がゼロであるにもかかわらず、ユーザ体感品質値が大幅にばらついている。これは、パケット網2でのジッタに起因して受信端末3でバッファオーバーラン現象が発生し、受信端末3内でパケットが廃棄されているからである。
【0045】
図7は、図6からパケット損失率がゼロの測定例を抽出した説明図であり、横軸が推定パケット廃棄率(%)を示し、縦軸がユーザ体感品質の推定値(MOS)を示している。この推定パケット廃棄率は、前述した廃棄パケット推定部15で推定した廃棄パケット数を総送信パケット数で除算して求めたものである。この図7から、廃棄パケット率の増加に応じて、ユーザ体感品質値が単調減少しており、廃棄パケット数を考慮することにより、ユーザ体感品質の低下を捉えられることがわかる。
【0046】
図8は、パケット損失およびパケット廃棄とユーザ体感品質との対応関係を示す説明図であり、横軸がパケット損失率(%)を示し、縦軸がユーザ体感品質の推定値(MOS)を示している。
図8にプロットされている各測定例のうち、パケット損失率条件は、受信端末3でのパケット廃棄がなくパケット網2でのパケット損失のみが発生したケースを示し、推定パケット廃棄率条件は、パケット網2でのパケット損失がなく受信端末3でのパケット廃棄のみが発生したケースを示している。いずれの条件についても、前述したパケット損失率算出部16での計算方法でパケット損失率を算出している。
【0047】
図8に示すように、推定パケット廃棄率条件についても、パケット損失率条件と同様に、ユーザ体感品質値はパケット損失率の増加に応じて単調減少する傾向を示していることがわかる。したがって、このことは、パケット損失率条件の各測定例から導出したユーザ体感品質推定モデルで、推定パケット廃棄率条件の各測定例を表現可能であることを示唆している。
本実施の形態では、このような観点から、損失パケット数と廃棄パケット数とを同列に扱って、両者から求めたパケット損失率をパケット損失率条件の各測定例から導出したユーザ体感品質推定モデルに適用して、ユーザ体感品質値を推定している。
【0048】
映像通信サービスに関するユーザ体感品質推定モデルを作成するには、映像のユーザ体感品質を実際に評価する必要がある。しかしながら、この評価試験は、規定されたオピニオン評価法に準じて被験者が実際に受信映像を視聴して評価する必要があることから、多くの作業時間と作業負担を必要とする。
このため、通信条件を代えて評価試験数を増やすことは、その評価に要する時間や作業量を増大することになる。また、評価試験において、実際のパケット網と同様のトラヒックパターンで、様々なジッタの通信条件を制御することは非常に難しい。
【0049】
本実施の形態によれば、ジッタに関する通信条件を評価試験から除外することができる。したがって、少ない作業時間と作業負担で作成可能なユーザ体感品質推定モデルで、高い精度でユーザ体感品質値を推定できる。
【0050】
また、対象となる映像通信のパケット情報に基づいて、廃棄パケット数を考慮した損失パケット数を算出しているため、通信サービス提供者が容易に取得できるパケット情報に基づいて、ジッタの影響を考慮した、個々の映像通信に関する映像品質を推定することができる。したがって、受信端末に対する特別な機能の追加などのユーザ負担を必要とすることなく、通信サービス提供者側の設備だけで、質の高い映像通信サービスを提供することが可能となる。
【0051】
[第2の実施の形態]
次に、図9を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置について説明する。図9は、第2の実施の形態にかかる網品質管理閾値装置の構成を示すブロック図である。
この網品質管理閾値算出装置20は、全体として、一般的なサーバ装置やワークステーションなどの情報処理通信端末からなり、予め試験的に行った映像通信で得られたパケット情報とそのときの受信端末3での映像品質評価とに基づいて、当該試験に用いたパケット網2に対する網品質管理閾値を算出する機能を有している。
【0052】
網品質制御装置6は、入力されたパケットに対して任意のジッタ量を与えて出力する試験装置からなり、パケット網2と受信端末3との間の通信経上に設置されて、パケット網2から受信端末3へ転送される映像通信用パケットに、指定された通信条件に応じたジッタ量を与える機能を有している。なお、図9における映像配信装置1、パケット網2、受信端末3、映像表示装置4、分岐器5については、前述した図1と同じまたは同様の構成を有しており、ここでの詳細な説明は省略する。
【0053】
本実施の形態では、網品質管理閾値として、受信端末3での1フレーム分のフレーム再生所要時間である単位時間と、当該単位時間における受信端末3での許容受信パケット数との組を用い、実際の映像通信で転送される映像通信用パケットが、許容受信パケット数以内で転送されているか否かを検証することにより、当該映像通信について品質劣化が発生しているか否を判定する。
これにより、パケットが予定時刻より早く受信端末3に到着するようなバッファオーバーラン現象によるユーザ体感品質への影響を考慮した網品質管理閾値を算出することができる。
【0054】
網品質管理閾値の算出方法としては、パケット網2でのジッタ量が異なる複数の通信条件の下で予め試験的に映像通信を実施し、これら映像送信ごとに、当該パケット網から受信端末へ転送した各映像通信用パケットについて計測したパケット転送時刻を示す条件別パケット情報を用意しておくとともに、これら通信条件における受信端末3で再生した映像の品質評価結果を用意しておく。
【0055】
そして、網品質管理閾値算出装置20において、受信端末3での1フレーム分のフレーム再生所要時間である単位時間と、当該単位時間における許容受信パケット数との組からなる網品質管理閾値を複数仮定して、これら仮定網品質管理閾値ごとに、各条件別パケット情報を検証することにより当該通信条件下での映像通信における品質劣化有無を評価し、これら仮定網品質管理閾値のうち各通信条件下での映像通信に関する受信端末3での実際の品質評価結果と最も近い評価が得られる仮定網品質管理閾値を、網品質管理閾値として決定する。
【0056】
[第2の実施の形態の構成]
次に、図9を参照して、本実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置の構成について詳細に説明する。
図9に示すように、網品質管理閾値算出装置20には、主な機能部として、パケット情報取得部21、パケット情報記憶部22、端末情報取得部23、定常値算出部24、定常値記憶部25、品質評価結果取得部26、品質評価結果記憶部27、仮定閾値生成部30、評価正解率算出部31、および網品質管理閾値決定部32が設けられている。
【0057】
パケット情報取得部21は、網品質制御装置6で発生させた、ジッタ量が異なる複数の通信条件下で、映像配信装置1と受信端末3との間で試験的に行われる映像通信について、分岐器5でキャプチャされた当該映像通信に関する映像通信用パケットに関する条件別パケット情報を取得する機能と、取得した条件別パケット情報をパケット情報記憶部22へ保存する機能とを有している。
【0058】
図10は、条件別パケット情報の構成例である。この条件別パケット情報には、少なくとも分岐器5を通過してパケット網2から受信端末3へ転送された各映像通信用パケットについて、当該パケットのパケット番号(シーケンス番号)と転送時刻とが含まれている。
この際、網品質制御装置6によってジッタ量を変動させて、映像品質が劣化し始めるジッタ量を予め検出しておき、その前後のジッタ量をいくつか選択して、通信条件とすればよい。図10の例では、映像品質が劣化し始めるジッタ量が90msで、その前後の60msから120msまでを1ms刻みで通信条件としている。
【0059】
条件別パケット情報のパケット転送時刻については、計測を開始した最初の映像通信用パケットからの相対的な時刻情報で記述されているが、絶対的な時刻情報であってもよい。
また、このパケット転送時刻については、分岐器5でキャプチャされてパケット情報取得部21で受信した各映像通信用パケットの受信時刻を用いてもよく、分岐器5で計測した各映像通信用パケットの転送時刻をパケット情報取得部21が分岐器5から取得してもよい。
【0060】
条件別パケット情報として用いるパケット転送時刻については、受信端末3におけるパケット受信時刻を用いることにより、最も精度の高い網品質管理閾値を算出することができる。しかし、分岐器5から受信端末3までの通信経路で発生するジッタについては、パケット網2で発生するジッタと比較して無視できる程度であるため、分岐器5を設置する地点については、網品質制御装置6と受信端末3との間の通信経路上であれば、例えばパケット網2と受信端末3のアクセス回線との接続点に網品質制御装置6と隣接して設置しても、算出される網品質管理閾値に対する影響は無視できる程度である。
【0061】
網管理運用時に、網品質管理閾値を用いて、映像通信サービスが提供されているインサービス環境下でパケット網2を管理する場合、前出した試験的な映像通信と同様に分岐器5を設けて、実際の映像通信のパケットからパケット情報を取得する必要がある。したがって、分岐器5については、通信サービス提供者が管理しやすいパケット網2のエッジノードに設けるのが望ましく、条件別パケット情報を計測する際にも同様の位置に設けることにより、試験時と網管理運用時との誤差を抑制できる。
【0062】
また、分岐器5から網品質管理閾値算出装置20までの通信経路で発生するジッタについても同様であり、パケット転送時刻については、分岐器5で計測してもパケット情報取得部21で計測しても算出される網品質管理閾値に対する影響は無視できる程度である。
【0063】
端末情報取得部23は、受信端末3での映像通信に用いる各種端末情報を取得する機能を有している。
図11は、端末情報の構成例である。端末情報取得部23で取得する端末情報としては、図11に示すように、受信端末3で1秒当たりに再生するフレーム数を示す映像フレーム表示レートがある。
この映像フレーム表示レートについては、受信端末3で映像再生時に計測した値を利用してもよく、受信端末3の仕様として設定されている値を利用してもよい。
【0064】
端末情報を取得する方法としては、端末情報取得部23と受信端末3との間でのデータ通信や、端末情報が記録されている記録媒体から、端末情報取得部23が端末情報を取得するようにしてもよく、網品質管理閾値算出装置20に設けられているキーボードでオペレータが操作入力した端末情報を端末情報取得部23が取得してもよい。
【0065】
定常値算出部24は、端末情報取得部23で取得した映像フレーム表示レートから、受信端末3で1フレーム分の映像を再生するのに要するフレーム再生所要時間を定常単位時間として算出する機能と、パケット情報記憶部22に保存されている条件別パケット情報のうち、受信端末での映像品質が劣化していない定常映像通信時における定常パケット情報に基づいて、定常単位時間当たりに受信端末3で受信する定常受信パケット数を算出する機能と、これら定常単位時間と定常受信パケット数とを定常値として定常値記憶部25へ保存する機能とを有している。
【0066】
品質評価結果取得部26は、パケット情報取得部21で取得した条件別パケット情報を得た際の試験的な映像通信について、その通信条件ごとに、受信端末3で再生した映像の品質評価結果を取得する機能と、取得した品質評価結果を品質評価結果記憶部27へ保存する機能とを有している。
図12は、品質評価結果の構成例である。品質評価結果については、映像品質の劣化の有無を検知した情報であってもよく、5段階評価等で定量化された評価値(例えば、ITU−T勧告P800で規定されているMOS:Mean Opinion Score)であってもよい。
【0067】
仮定閾値生成部30は、定常値記憶部25から読み出した定常単位時間および定常受信パケット数に基づいて、予め定めた検証範囲内から仮定単位時間と仮定許容受信パケット数との組を仮定閾値として複数生成する機能を有している。
【0068】
評価正解率算出部31は、仮定閾値生成部30で生成した仮定閾値ごとに、当該仮定単位時間および仮定許容受信パケット数に基づいて、パケット情報記憶部22から読み出した各条件別パケット情報に含まれるパケット転送状況を検証することにより、当該通信条件下での映像品質劣化の有無を推定評価する機能と、これら推定評価を品質評価結果記憶部27から読み出した当該通信条件における品質評価結果と比較することにより、当該仮定閾値に関する評価正解率を算出する機能とを有している。
【0069】
この際、評価正解率算出部31は、これら仮定閾値ごとに得られた映像品質の劣化有無を、品質評価結果記憶部27から読み出した当該通信条件での品質評価結果と比較し、両方の評価とも劣化ありまたは劣化なしを示す場合、すなわち両者の評価が一致している場合、当該仮定閾値による推定評価を正解と判定する。また、両方の評価のうち一方が劣化ありで他方が劣化なしを示す場合、すなわち両者の評価が不一致の場合、当該仮定閾値による推定評価を正解と判定する。
この後、評価正解率算出部31は、正解数を条件別パケット情報の数で除算することにより、仮定閾値数ごとの正解率を算出する。
【0070】
網品質管理閾値決定部32は、評価正解率算出部31で得られた仮定閾値数ごとの正解率を比較し、最も正解率の高い仮定閾値数の仮定単位時間と仮定許容受信パケット数を、網品質管理閾値を示す単位時間および許容受信パケット数として決定する機能と、これら単位時間および許容受信パケット数を、図1に示したユーザ体感品質推定システム10の網品質管理閾値記憶部14へ保存する機能とを有している。
【0071】
網品質管理閾値算出装置20には、通常の情報処理装置に設けられている一般的な構成として、演算処理部、記憶部、データ通信インターフェース部、データ入出力インターフェース部、操作入力部などの機能部が設けられており、前述した各機能部がこれらを利用して処理動作を行う。
【0072】
前述した網品質管理閾値算出装置20の各機能部のうち、パケット情報取得部21、端末情報取得部23、定常値算出部24、品質評価結果取得部26、仮定閾値生成部30、評価正解率算出部31、網品質管理閾値決定部32については、演算処理部で実現すればよい。
この演算処理部は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、記憶部に予め格納されているプログラムを読み出して実行することにより、各種機能部を実現する。
【0073】
また、網品質管理閾値算出装置20の各機能部のうち、パケット情報記憶部22、定常値記憶部25、品質評価結果記憶部27については、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置で実現すればよい。これら記憶部は、それぞれ別個の記憶装置で実現してもよく、いずれか複数あるいはすべての記憶部を1つの記憶装置で実現してもよい。
【0074】
[第2の実施の形態の動作]
次に、本実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置20の動作について説明する。
網品質管理閾値算出装置20における主な処理動作として、情報取得処理、網品質管理閾値決定処理、および評価正解率算出処理がある。
【0075】
[情報取得処理]
まず、図13を参照して、本実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置20での情報取得処理について説明する。図13は、第2の実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置での情報取得処理を示すフローチャートである。
【0076】
この情報取得処理は、ジッタ量が異なる複数の通信条件下で、映像配信装置1と受信端末3との間で試験的に映像通信を行う際に実行される。この際、網品質制御装置6によってジッタ量を変動させて、映像品質が劣化し始めるジッタ量を予め検出しておき、その前後のジッタ量をいくつか選択して、通信条件とすればよい。
【0077】
図13の情報取得処理において、網品質管理閾値算出装置20は、まず、パケット情報取得部21により、ジッタ量が異なる複数の通信条件下で、映像配信装置1と受信端末3との間で試験的に行われる映像通信について、分岐器5でキャプチャされた当該映像通信に関する映像通信用パケットに関する条件別パケット情報を取得し、取得した条件別パケット情報をパケット情報記憶部22へ保存する(ステップ200)。
【0078】
次に、網品質管理閾値算出装置20は、品質評価結果取得部26により、パケット情報取得部21で取得した条件別パケット情報を得た際の試験的な映像通信について、その通信条件ごとに、受信端末3で再生した映像の品質評価結果を取得し、取得した品質評価結果を品質評価結果記憶部27へ保存する(ステップ201)。
【0079】
また、網品質管理閾値算出装置20は、端末情報取得部23により、受信端末3での映像通信に用いる各種端末情報を取得する(ステップ202)。
続いて、網品質管理閾値算出装置20は、定常値算出部24により、受信端末3での映像品質が劣化していない定常映像通信時における定常単位時間と定常受信パケット数とを定常値として算出し、定常値記憶部25へ保存する(ステップ203)。
【0080】
この際、定常値算出部24は、端末情報取得部23で取得した映像フレーム表示レートから、受信端末3で1フレーム分の映像を再生するのに要するフレーム再生所要時間を定常単位時間として算出する。また、パケット情報記憶部22に保存されている条件別パケット情報のうち、受信端末3での映像品質が劣化していない定常映像通信時における定常パケット情報に基づいて、定常単位時間当たりに受信端末3で受信する定常受信パケット数を算出する。
【0081】
図14は、定常値の構成例である。定常値のうち定常単位時間については、端末情報取得部23で取得した映像フレーム表示レートの逆数で算出できる。定常受信パケット数については、定常パケット情報に含まれる各パケットのうち、最初のパケットの転送時刻から定常単位時間長の時間区間を順に設け、これら時間区間ごとに、転送時刻が当該時間区間に含まれるパケットの数を計数し、各時間区間におけるパケット数を平均することにより、定常受信パケット数を算出すればよい。
これにより、網品質管理閾値算出装置20は、一連の情報取得処理を終了する
【0082】
[網品質管理閾値決定処理]
次に、図15を参照して、本実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置20での網品質管理閾値決定処理について説明する。図15は、第2の実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置での網品質管理閾値決定処理を示すフローチャートである。
【0083】
図15の網品質管理閾値決定処理において、網品質管理閾値算出装置20は、まず、仮定閾値生成部30により、定常値記憶部25から読み出した定常単位時間および定常受信パケット数に基づいて、予め定めた検証範囲内から仮定単位時間と仮定許容受信パケット数との組を仮定閾値として複数生成する(ステップ210)。
【0084】
図16は、仮定閾値の構成例である。ここでは、仮定単位時間として、その検証範囲を定常単位時間の9倍までとして、定常単位時間×n(nは1〜9の整数)で求められる9種類の値を用いている。また仮定許容受信パケット数については、その検証範囲を定常受信パケット数の80%増しから5%刻みで100%増しまでとし、定常単位時間×(n+x)(xは80%,85%,90%,95%,100%のいずれか)で求められる5種類の値を用いている。これにより、仮定閾値の45(=9×5)通りとなる。
【0085】
次に、網品質管理閾値算出装置20は、評価正解率算出部31により、仮定閾値生成部30で生成した仮定閾値ごとに、後述するステップ212,113を繰り返し実行する仮定閾値ループを開始する(ステップ211)。
この仮定閾値ループにおいて、評価正解率算出部31は、まず、仮定閾値ループの先頭で選択された仮定閾値を仮定閾値生成部30から取得し(ステップ212)、この仮定閾値に基づいて評価正解率を算出するため、後述する評価正解列処理を実行する(ステップ213)。
【0086】
このようにして、仮定閾値生成部30で生成したすべての仮定閾値について、評価正解率算出部31により評価正解率を算出した後、網品質管理閾値算出装置20は、網品質管理閾値決定部32により、これら仮定閾値数の正解率を比較する(ステップ214)。
そして、網品質管理閾値決定部32は、最も正解率の高い仮定閾値数の仮定単位時間と仮定許容受信パケット数を、網品質管理閾値を示す単位時間および許容受信パケット数として決定する(ステップ215)。
【0087】
この後、網品質管理閾値決定部32は、これら単位時間および許容受信パケット数からなる網品質管理閾値を、ユーザ体感品質推定システム10の網品質管理閾値記憶部14へ保存し(ステップ216)、一連の網品質管理閾値決定処理を終了する。
【0088】
[評価正解率算出処理]
次に、本実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置20での評価正解率算出処理について説明する。図17は、第2の実施の形態にかかる網品質管理閾値算出装置での評価正解率算出処理を示すフローチャートである。
【0089】
図17の評価正解率算出処理において、網品質管理閾値算出装置20は、まず、評価正解率算出部31により、通信条件ごとに、後述するステップ221〜128を繰り返し実行する通信条件ループを実行する(ステップ220)。
【0090】
この仮定閾値ループにおいて、評価正解率算出部31は、まず、通信条件ループの先頭で選択された通信条件と対応する条件別パケット情報を、パケット情報記憶部22から読み出し(ステップ221)、当該評価正解率算出処理の起動時に選択されている仮想単位時間ごとにパケット数を計数する(ステップ222)。
【0091】
この際、評価正解率算出部31は、当該条件別パケット情報に記述されている先頭パケットから仮想単位時間ごとに順に時間区間を設定し、これら時間区間ごとに当該時間区間内に転送されたパケット数を計数してもよい。また、当該条件別パケット情報に記述されているパケットごとに、当該パケットの転送時間を開始時間として時間区間をそれぞれ設定してもよい。
【0092】
この後、評価正解率算出部31は、これら時間区間のうち、計数したパケットが、当該評価正解率算出処理の起動時に選択されている仮定許容受信パケット数を越える時間区間が存在するか検証する(ステップ223)。
【0093】
検証の結果、仮定許容受信パケット数を越える時間区間が存在する場合(ステップ223:YES)、評価正解率算出部31は、映像品質の劣化ありと推定評価し(ステップ224)、仮定許容受信パケット数を越える時間区間が存在しない場合(ステップ223:NO)、評価正解率算出部31は、映像品質の劣化なしと推定評価する(ステップ225)。
【0094】
このようにして、映像品質の劣化有無を推定した後、評価正解率算出部31は、ループ処理で選択された通信条件と対応する品質評価結果を、品質評価結果記憶部27から読み出し(ステップ226)、この品質評価結果と推定評価結果とを比較する(ステップ227)。
ここで、両方の評価結果がともに劣化ありまたは劣化なしを示しており、両者の評価結果が一致している場合(ステップ227:YES)、評価正解率算出部31は、当該仮定閾値による推定評価が正解であることから、当該評価正解率算出処理の起動時に選択されている仮想閾値に関する推定評価の正解数を1だけ計数する(ステップ228)。
【0095】
一方、両方の評価のうち一方が劣化ありで他方が劣化なしを示しており、両者の評価結果が不一致の場合(ステップ227:NO)、評価正解率算出部31は、当該仮定閾値による推定評価が不正解であることから、正解数は計数しない。
【0096】
このようにして、推定評価の正解/不正解に応じて正解数の計数処理を行った後、評価正解率算出部31は、ステップ220で選択した通信条件に関するループ処理を終了し、ステップ220へ戻って、次の通信条件に関するループ処理へ移行する。
また、すべての通信条件に関するループ処理が終了した場合、評価正解率算出部31は、一連の評価正解率算出処理を終了する。
【0097】
図18は、評価正解率の算出結果例である。図19は、評価正解率の算出結果を示すグラフである。ここでは、仮定単位時間が33msで仮定許容受信パケット率が85%の場合、評価正解率が100%で最も大きい。したがって、この例では、網品質管理閾値として、単位時間=33ms、仮定許容受信パケット数=94個が選択される。
【0098】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態では、定常値算出部24により、条件別パケット情報のうち受信端末3での映像品質が劣化していない定常映像通信時における定常パケット情報に基づいて、受信端末での1フレーム分のフレーム再生所要時間である定常単位時間当たりに受信する定常受信パケット数を算出し、仮定閾値生成部30により、定常単位時間と定常受信パケット数とに基づいて、予め定めた検証範囲内から仮定単位時間と仮定許容受信パケット数との組を仮定閾値として複数生成しておく。
【0099】
そして、評価正解率算出部31により、仮定閾値ごとに、当該仮定単位時間および仮定許容受信パケット数に基づいて、各条件別パケット情報に含まれるパケット転送状況を検証することにより、当該通信条件下での映像品質劣化の有無を推定評価し、当該推定評価を当該通信条件における品質評価結果と比較することにより、当該仮定閾値に関する評価正解率を算出し、網品質管理閾値決定部32により、各仮定閾値の評価正解率のうち、最も正解率の高い仮定閾値に関する仮定単位時間と仮定許容受信パケット数を、当該網に関する網品質管理閾値として決定している。
【0100】
したがって、網品質管理閾値として、単位時間と許容受信パケット数とが用いられるため、実際の映像通信で転送される映像通信用パケットが、許容受信パケット数以内で転送されているか否かを検証することにより、当該映像通信について品質劣化が発生しているか否を判定していることになる。
これにより、パケットが予定時刻より早く受信端末3に到着するようなバッファオーバーラン現象によるユーザ体感品質への影響を考慮した網品質管理閾値を算出することができる。
【0101】
また、本実施の形態では、定常値算出部24により、コンテンツが異なる複数の映像通信ごとに、受信端末3で定常単位時間当たりに受信するコンテンツ別定常受信パケット数を算出し、これらコンテンツ別定常受信パケット数の平均値を定常受信パケット数として算出してもよく、コンテンツに対する依存性が排除された網品質管理閾値を算出することができる。
【0102】
また、本実施の形態では、定常値算出部24において、受信端末3での1フレーム分のフレーム再生所要時間からなる定常単位時間を用いるようにしたので、各フレームとパケット転送状況を検証する際のパケット区切りとをほぼ同期させることができる。
したがって、評価正解率算出部31において、受信端末3での映像品質評価との同等の条件で、映像品質劣化の有無を推定評価することができ、網品質管理閾値の算出精度を高めることができる。
【0103】
また、本実施の形態では、仮定閾値生成部30により、定常単位時間に対して検証範囲で指定された複数の整数をそれぞれ個別に乗算することにより、各仮定単位時間を生成し、さらには、各仮定単位時間に対応する仮定許容受信パケット数を算出する際、定常受信パケット数に対して当該仮定単位時間の算出に用いた整数を乗算し、この乗算結果に検証範囲で指定された複数の比率をそれぞれ個別に乗算したものを乗算結果にそれぞれ加算することにより、当該仮定単位時間ごとに複数の仮定単位時間をそれぞれ生成するようにしたので、各フレームとパケット転送状況を検証する際のパケット区切りとをほぼ同期させることができる。
したがって、評価正解率算出部31において、受信端末3での映像品質評価との同等の条件で、映像品質劣化の有無を推定評価することができ、網品質管理閾値の算出精度を高めることができる。
【0104】
[第3の実施の形態]
次に、図20を参照して、本発明の第3の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置について説明する。図20は、第3の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置の構成を示すブロック図である。
【0105】
このユーザ体感品質推定モデル作成装置40は、全体として、一般的なサーバ装置やワークステーションなどの情報処理通信端末からなり、予め試験的に行った映像通信で得られたパケット情報とそのときの受信端末3での映像品質評価とに基づいて、任意の映像通信から計測したパケット損失率に応じたユーザ体感品質値を推定するためのユーザ体感品質推定モデルを作成する機能を有している。
なお、図20における映像配信装置1、パケット網2、受信端末3、映像表示装置4、分岐器5、網品質制御装置6については、前述した図1および図9と同じまたは同様の構成を有しており、ここでの詳細な説明は省略する。
【0106】
[第3の実施の形態の構成]
次に、図20を参照して、本実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置40の構成について詳細に説明する。
図20に示すように、ユーザ体感品質推定モデル作成装置40には、主な機能部として、パケット情報取得部41、パケット情報記憶部42、パケット損失率算出部43、品質評価結果取得部44、品質評価結果記憶部45、および推定モデル作成部46が設けられている。
【0107】
パケット情報取得部41は、網品質制御装置6で発生させた、パケット損失数が異なる複数の通信条件下で、映像配信装置1と受信端末3との間で行われた各試験映像通信について、分岐器5でキャプチャされた当該試験映像通信に関する映像通信用パケットに関するパケット情報を取得する機能と、取得したパケット情報を各試験映像通信に固有の試験映像通信IDと関連付けてパケット情報記憶部42へ保存する機能とを有している。
パケット情報には、前述の図10に示すように、少なくとも分岐器5を通過してパケット網2から受信端末3へ転送された各映像通信用パケットについて、当該パケットのパケット番号(シーケンス番号)と転送時刻が含まれている。
【0108】
パケット損失率算出部43は、パケット情報記憶部42から読み出した各試験映像通信のパケット情報のパケット番号(シーケンス番号)を確認し、先頭パケットと最後尾パケットとのパケット番号差から総送信パケット数を、試験映像通信ごとに算出する機能と、同じくパケット番号を確認し、パケット情報として記録されていない不連続な部分(飛び番号)を、パケット網2で損失した損失パケットとして検出し、これら損失パケットの数を試験映像通信ごとに計数する機能と、このパケット損失数を総送信パケット数で除算することにより、試験映像通信ごとにパケット損失率を算出する機能とを有している。
【0109】
品質評価結果取得部44は、パケット情報取得部41でパケット情報を取得した各試験通信について、受信端末3で再生した映像の品質評価結果を取得する機能と、取得した品質評価結果を品質評価結果記憶部45へ保存する機能とを有している。
図21は、品質評価結果の構成例である。ここでは、各試験映像通信に固有の試験映像通信IDと、当該試験映像通信に対して5段階評価等で定量化された評価値(MOS)とが組として登録されている。
【0110】
推定モデル作成部46は、パケット損失率算出部43で得られた各試験映像通信のパケット損失率と、品質評価結果記憶部45から読み出した各試験映像通信の品質評価結果とを、各試験映像通信に固有の試験映像通信IDで対応させることにより、これらパケット損失率とユーザ体感品質との対応関係をユーザ体感品質推定モデルとして導出する機能と、このユーザ体感品質推定モデルを、図1に示したユーザ体感品質推定システム10の推定モデル記憶部17へ保存する機能とを有している。
【0111】
ユーザ体感品質推定モデル作成装置40には、通常の情報処理装置に設けられている一般的な構成として、演算処理部、記憶部、データ通信インターフェース部、データ入出力インターフェース部、操作入力部などの機能部が設けられており、前述した各機能部がこれらを利用して処理動作を行う。
【0112】
前述したユーザ体感品質推定モデル作成装置40の各機能部のうち、パケット情報取得部41、パケット損失率算出部43、品質評価結果取得部44、および推定モデル作成部46については、演算処理部で実現すればよい。
この演算処理部は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、記憶部に予め格納されているプログラムを読み出して実行することにより、各種機能部を実現する。
【0113】
また、ユーザ体感品質推定モデル作成装置40の各機能部のうち、パケット情報記憶部42、および品質評価結果記憶部45については、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置で実現すればよい。これら記憶部は、それぞれ別個の記憶装置で実現してもよく、いずれか複数あるいはすべての記憶部を1つの記憶装置で実現してもよい。
【0114】
[第3の実施の形態の動作]
次に、図22を参照して、本実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置40の動作について説明する。図22は、第3の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置のユーザ体感品質推定モデル作成処理を示すフローチャートである。
【0115】
図22のユーザ体感品質推定モデル作成処理において、ユーザ体感品質推定モデル作成装置40は、まず、パケット情報取得部41により、パケット損失数が異なる複数の通信条件下で、映像配信装置1と受信端末3との間で試験的に行われる試験映像通信について、分岐器5でキャプチャされた当該試験映像通信に関する映像通信用パケットに関するパケット情報を取得し、取得したパケット情報をパケット情報記憶部42へ保存する(ステップ300)。
【0116】
次に、ユーザ体感品質推定モデル作成装置40は、パケット損失率算出部43により、パケット情報記憶部42から読み出した各試験映像通信のパケット情報ごとに、パケット損失率を算出する(ステップ301)。
また、ユーザ体感品質推定モデル作成装置40は、品質評価結果取得部44により、パケット情報取得部41でパケット情報を取得した各試験通信について、受信端末3で再生した映像の品質評価結果を取得し、この品質評価結果を品質評価結果記憶部45へ保存する(ステップ302)。
【0117】
続いて、ユーザ体感品質推定モデル作成装置40は、推定モデル作成部46により、パケット損失率算出部43で得られた各試験映像通信のパケット損失率と、品質評価結果記憶部45から読み出した各試験映像通信の品質評価結果とを、各試験映像通信に固有の試験映像通信IDで対応させることにより、前述の図4に示したような、これらパケット損失率とユーザ体感品質との対応関係を示す回帰曲線の近似関数式を、ユーザ体感品質推定モデルとして導出する(ステップ303)。
【0118】
この後、ユーザ体感品質推定モデル作成装置40は、推定モデル作成部46により、導出したユーザ体感品質推定モデルを、ユーザ体感品質推定システム10の推定モデル記憶部17へ保存し(ステップ304)、一連のユーザ体感品質推定モデル作成処理を終了する。
【0119】
[第3の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態では、パケット損失率算出部43により、各試験映像通信から得たパケット情報からパケット損出率を算出するとともに、品質評価結果取得部44により、試験映像通信ごとに受信端末3で再生した映像の品質評価結果を取得し、推定モデル作成部46により、これらパケット損失率と品質評価結果とから、パケット損失率とユーザ体感品質との対応関係をユーザ体感品質推定モデルとして導出するようにしたので、パケット網2から計測可能なパケット損失率からユーザ体感品質を推定するためのユーザ体感品質推定モデルを容易に作成することが可能となる。
【0120】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0121】
また、第1の実施の形態では、各機能部を1つの情報処理通信端末で実現してもよいが、各機能部を別個の情報処理通信端末で実現してもよい。例えば、パケット情報取得部11、パケット情報記憶部12、損失パケット検出部13、網品質管理閾値記憶部14、廃棄パケット推定部15を、受信端末3に接続された品質測定装置で実現してもよく、受信端末3で実現してもよい。
【0122】
また、残りの廃棄パケット推定部15、パケット損失率算出部16、推定モデル記憶部17、ユーザ体感品質推定部18、および画面表示部19を、通信サービス提供者が管理するサービス品質管理装置で実現し、品質測定装置や受信端末3からデータ通信で通知された総送信パケット数、損失パケット数、および廃棄パケット数に基づいて、ユーザ体感品質を推定するようにしてもよい。
【0123】
また、第2の実施の形態では、定常値算出部24で定常受信パケット数を算出する場合、条件別パケット情報を計測する対象となる映像通信から、定常受信パケット数を算出する場合を例として説明したが、これに限定されるものではない。
【0124】
例えば、コンテンツが異なる複数の映像通信ごとに、受信端末3で定常単位時間当たりに受信するコンテンツ別定常受信パケット数を算出し、これらコンテンツ別定常受信パケット数の平均値を定常受信パケット数として算出してもよく、コンテンツに対する依存性が排除された網品質管理閾値を算出することができる。
また、提供サービスによっては、当該サービスポリシに基づいて、平均値に代えて、各コンテンツ別定常受信パケット数のうちの最低値を定常受信パケット数として選択してもよい。
【0125】
また、第3の実施の形態では、ユーザ体感品質推定モデルとして、前述の図4に示したような回帰曲線の近似関数式を導出する場合を例として説明したが、これに限定されるものではない。例えば、パケット損失率とユーザ体感品質値との対応関係を示す変換テーブルであってもよい。
【0126】
また、第2の実施の形態では、第1の実施の形態で用いる網品質管理閾値の算出方法について説明したが、この網品質管理閾値の算出方法については、第2の実施の形態に限定されるものではなく、他の方法で網品質管理閾値を算出してもよい。
また、第3の実施の形態では、第1の実施の形態で用いるユーザ体感品質推定モデルの作成方法について説明したが、このユーザ体感品質推定モデルの作成方法については、第3の実施の形態に限定されるものではなく、他の方法でユーザ体感品質推定モデルを作成してもよい。
【符号の説明】
【0127】
1…映像配信装置(送信端末)、2…パケット網、3…受信端末、4…映像表示装置、5…分岐器、6…網品質制御装置、10…ユーザ体感品質推定システム、11…パケット情報取得部、12…パケット情報記憶部、13…損失パケット検出部、14…網品質管理閾値記憶部、15…廃棄パケット推定部、16…パケット損失率算出部、17…推定モデル記憶部、18…ユーザ体感品質推定部、19…画面表示部、20…網品質管理閾値算出装置、21…パケット情報取得部、22…パケット情報記憶部、23…端末情報取得部、24…定常値算出部、25…定常値記憶部、26…品質評価結果取得部、27…品質評価結果記憶部、30…仮定閾値生成部、31…評価正解率算出部、32…網品質管理閾値決定部、33…画面表示部、40…ユーザ体感品質推定モデル作成装置、41…パケット情報取得部、42…パケット情報記憶部、43…パケット損失率算出部、44…品質評価結果取得部、45…品質評価結果記憶部、46…推定モデル作成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パケット網を介して送信端末と受信端末との間で行われる映像通信について、前記受信端末で受信再生した映像に対してユーザが実感するユーザ体感品質を推定するユーザ体感品質推定システムであって、
前記パケット網から前記受信端末へ転送した当該映像通信用の各パケットについて計測したパケット転送時刻を示すパケット情報を記憶するパケット情報記憶部と、
単位時間当たりに前記受信端末で受信可能なパケット数を示す許容受信パケット数を網品質管理閾値として記憶する網品質管理閾値記憶部と、
映像通信のパケット転送状況を示すパケット損失率と、その際に当該映像通信で得られるユーザ体感品質値との関係を示すユーザ体感品質推定モデルを記憶する推定モデル記憶部と、
前記パケット情報に基づいて前記パケット網で損失した損失パケットを検出して損失パケット数を計数する損失パケット検出部と、
前記パケット情報を前記許容受信パケット数で検証することにより前記受信端末で廃棄された廃棄パケット数を推定する廃棄パケット推定部と、
前記損失パケット数と前記廃棄パケット数との合計を、前記パケット情報から算出した前記送信端末から前記受信端末へ送信された総送信パケット数で除算することにより、パケット損失率を算出するパケット損失率算出部と、
前記ユーザ体感品質推定モデルを参照して、前記パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定するユーザ体感品質推定部と
を備えることを特徴とするユーザ体感品質推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載のユーザ体感品質推定システムにおいて、
前記網品質管理閾値を算出する網品質管理閾値算出装置をさらに備え、
前記網品質管理閾値算出装置は、
前記パケット網でのジッタ量が異なる複数の通信条件の下で行われた前記映像通信ごとに、当該パケット網から前記受信端末へ転送した各映像通信用パケットについて計測したパケット転送時刻を示す条件別パケット情報を記憶するパケット情報記憶部と、
前記通信条件ごとに、前記受信端末で再生した映像の品質評価結果を記憶する品質評価結果記憶部と、
前記条件別パケット情報のうち前記受信端末での映像品質が劣化していない定常映像通信時における定常パケット情報に基づいて、予め設定されている定常単位時間当たりに受信する定常受信パケット数を算出する定常値算出部と、
前記定常単位時間と前記定常受信パケット数とに基づいて、予め定めた検証範囲内から仮定単位時間と仮定許容受信パケット数との組を仮定閾値として複数生成する仮定閾値生成部と、
前記仮定閾値ごとに、当該仮定単位時間および仮定許容受信パケット数に基づいて、前記各条件別パケット情報に含まれるパケット転送状況を検証することにより、当該通信条件下での映像品質劣化の有無を推定評価し、当該推定評価を当該通信条件における前記品質評価結果と比較することにより、当該仮定閾値に関する評価正解率を算出する評価正解率算出部と、
前記各仮定閾値の評価正解率のうち、最も正解率の高い仮定閾値に関する仮定単位時間と仮定許容受信パケット数を、当該網に関する網品質管理閾値として決定する網品質管理閾値決定部とを備える
ことを特徴とするユーザ体感品質推定システム。
【請求項3】
請求項1に記載のユーザ体感品質推定システムにおいて、
前記ユーザ体感品質推定モデルを作成するユーザ体感品質推定モデル作成装置をさらに備え、
前記ユーザ体感品質推定モデル作成装置は、
前記パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた試験映像通信ごとに、これら試験映像通信から得たパケット情報からパケット損出率を算出するパケット損失率算出部と、
前記試験映像通信ごとに受信端末で再生した映像の品質評価結果を取得する品質評価結果取得部と、
前記試験映像通信ごとに得られた前記パケット損失率と前記品質評価結果との対応関係に基づいて、前記ユーザ体感品質推定モデルを導出する推定モデル作成部とを備える
ことを特徴とするユーザ体感品質推定システム。
【請求項4】
パケット網を介して送信端末と受信端末との間で行われる映像通信について、前記受信端末で受信再生した映像に対してユーザが実感するユーザ体感品質を推定するユーザ体感品質推定システムで用いられるユーザ体感品質推定方法であって、
パケット情報記憶部が、前記パケット網から前記受信端末へ転送した当該映像通信用の各パケットについて計測したパケット転送時刻を示すパケット情報を記憶するパケット情報記憶ステップと、
網品質管理閾値記憶部が、単位時間当たりに前記受信端末で受信可能なパケット数を示す許容受信パケット数を網品質管理閾値として記憶する網品質管理閾値記憶ステップと、
推定モデル記憶部が、映像通信のパケット転送状況を示すパケット損失率と、その際に当該映像通信で得られるユーザ体感品質値との関係を示すユーザ体感品質推定モデルを記憶する推定モデル記憶ステップと、
損失パケット検出部が、前記パケット情報に基づいて前記パケット網で損失した損失パケットを検出して損失パケット数を計数する損失パケット検出ステップと、
廃棄パケット推定部が、前記パケット情報を前記許容受信パケット数で検証することにより前記受信端末で廃棄された廃棄パケット数を推定する廃棄パケット推定ステップと、
パケット損失率算出部が、前記損失パケット数と前記廃棄パケット数との合計を、前記パケット情報から算出した前記送信端末から前記受信端末へ送信された総送信パケット数で除算することにより、パケット損失率を算出するパケット損失率算出ステップと、
ユーザ体感品質推定部が、前記ユーザ体感品質推定モデルを参照して、前記パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定するユーザ体感品質推定ステップと
を備えることを特徴とするユーザ体感品質推定方法。
【請求項5】
請求項4に記載のユーザ体感品質推定方法において、
網品質管理閾値算出装置が、前記網品質管理閾値を算出する網品質管理閾値算出ステップをさらに備え、
網品質管理閾値算出ステップは、
パケット情報記憶部が、前記パケット網でのジッタ量が異なる複数の通信条件の下で行われた前記映像通信ごとに、当該パケット網から前記受信端末へ転送した各映像通信用パケットについて計測したパケット転送時刻を示す条件別パケット情報を記憶するパケット情報記憶ステップと、
品質評価結果記憶部が、前記通信条件ごとに、前記受信端末で再生した映像の品質評価結果を記憶する品質評価結果記憶ステップと、
定常値算出部が、前記条件別パケット情報のうち前記受信端末での映像品質が劣化していない定常映像通信時における定常パケット情報に基づいて、予め設定されている定常単位時間当たりに受信する定常受信パケット数を算出する定常値算出ステップと、
仮定閾値生成部が、前記定常単位時間と前記定常受信パケット数とに基づいて、予め定めた検証範囲内から仮定単位時間と仮定許容受信パケット数との組を仮定閾値として複数生成する仮定閾値生成ステップと、
評価正解率算出部が、前記仮定閾値ごとに、当該仮定単位時間および仮定許容受信パケット数に基づいて、前記各条件別パケット情報に含まれるパケット転送状況を検証することにより、当該通信条件下での映像品質劣化の有無を推定評価し、当該推定評価を当該通信条件における前記品質評価結果と比較することにより、当該仮定閾値に関する評価正解率を算出する評価正解率算出ステップと、
網品質管理閾値決定部が、前記各仮定閾値の評価正解率のうち、最も正解率の高い仮定閾値に関する仮定単位時間と仮定許容受信パケット数を、当該網に関する網品質管理閾値として決定する網品質管理閾値決定ステップとを備える
ことを特徴とするユーザ体感品質推定方法。
【請求項6】
請求項4に記載のユーザ体感品質推定方法において、
ユーザ体感品質推定モデル作成装置が、前記ユーザ体感品質推定モデルを作成するユーザ体感品質推定モデル作成ステップをさらに備え、
前記ユーザ体感品質推定モデル作成ステップは、
パケット損失率算出部が、前記パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた試験映像通信ごとに、これら試験映像通信から得たパケット情報からパケット損出率を算出するパケット損失率算出ステップと、
品質評価結果取得部が、前記試験映像通信ごとに受信端末で再生した映像の品質評価結果を取得する品質評価結果取得ステップと、
推定モデル作成部が、前記試験映像通信ごとに得られた前記パケット損失率と前記品質評価結果との対応関係に基づいて、前記ユーザ体感品質推定モデルを導出する推定モデル作成ステップとを備える
ことを特徴とするユーザ体感品質推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−9919(P2011−9919A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149658(P2009−149658)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】