説明

ライオセル系炭素繊維及び炭素織物の製造方法

【課題】安定化工程の効果を一層高めることができるライオセル系炭素繊維および炭素織物の製造方法を提供する。
【解決手段】ライオセル繊維またはライオセル織物をシリコーン系高分子を含む溶液、および難燃性塩を含む水溶液に浸漬処理する前処理工程、安定化工程、炭化工程および黒鉛化工程を含んでなる炭素繊維および炭素織物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライオセル系炭素繊維及び炭素織物の製造方法に関するものであって、より詳細には、ライオセル繊維またはライオセル織物を、シリコーン系高分子を含む溶液に浸漬処理する工程、および難燃性塩を含む水溶液に浸漬処理する工程を含む前処理工程、安定化工程および炭化工程及び黒鉛化工程を含んでなる炭素繊維および炭素織物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、炭素繊維は、前駆体(precursor)の種類に従って、レイヨン(rayon)系、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile, PAN)系、また、ピッチ(pitch)系炭素繊維に分類される。
【0003】
今まで、レイヨン系炭素繊維は、高純度ビスコ−スレイヨン繊維で製造されたが、製造工程において、公害物質、即ち、溶剤として二硫化炭素(CS2)を用いて、 政府の規制を受けるばかりでなく、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維に比べて経済性がないので市場規模も漸次減少している趨勢である。
【0004】
ライオセル繊維は、1978年Akzo-Nobel社が、環境公害及び人体に有害な成分がない新たな工程を開発して製造されたものであって、セルロースが主成分である天然パルプと、パルプを溶解させる溶剤であるN-メチルモルホリン-N-オキシド(N-methylmorpholine-N-oxide:NMMO)を主原料として製造された乾湿式紡糸繊維である。ライオセル繊維の原料は、木材パルプから抽出されたセルロースであって、100%生分解性高分子であり、再生が可能であるので、環境親和的な特徴を有する。また、既存のレイヨン繊維が有する大きな問題点である公害物質を排出しない新たな工法が適用される。
【0005】
ライオセル繊維もやはりセルロース系繊維であり、化学的性質は互いに似ているが、機械的特性及び物理的性質は優れており、結晶化度や結晶配向度等微細構造特性は非常に異なる。このような長所を有するにもかかわらず、1990年初になって紡績糸形態に生産され、2000年初にフイラメント(filament)糸として小規模で商業化された。2007年に韓国の(株)暁星および(株)コーロングでライオセルフイラメント糸を大量生産できる体制を備えている。
【0006】
一般的に、炭素繊維の製造のためには、三つの工程段階, 即ち安定化工程(stabilization)、炭化工程(carbonization)および黒鉛化工程(graphitization)を経る。上記工程等は繊維状態または織物状態から行われ、炭素繊維の使用目的に従って最終炭化温度や黒鉛化温度が決定される。炭化温度および黒鉛化温度は炭素繊維の熱伝導度、絶縁性または弾性率に大きな影響を及ぼす。
【0007】
さらに、安定化工程および炭化工程中に適用される熱処理温度、昇温速度、昇温段階、繊維表面の化学処理および雰囲気ガス等の種々な工程因子に従って炭素繊維の内部構造と物性は大きく異なり得る。 安定化工程はPAN系またはピッチ系等すべての炭素繊維に対して、共通的に行う熱処理段階であって、特にレイヨン系炭素繊維では、最も重要な核心工程である。一般的に安定化工程中で重大な化学的、物理的変化が急激に発生するが、以後炭化工程に必要な高い熱処理温度を耐え得る安定された化学構造を付与することにその目的がある。かかる安定化工程の効果をさらに高めるために、化学的前処理工程が必須であり、炭素繊維の製造において前処理工程と関連された技術の開発が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、安定化工程の効果を一層高めることができる前処理工程を含む、ライオセル系炭素繊維および炭素織物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のライオセル系炭素繊維および炭素織物の製造方法は、ライオセル繊維またはライオセル織物をシリコーン系高分子を含む溶液、および難燃性塩を含む水溶液に浸漬処理する前処理工程、安定化工程、炭化工程および黒鉛化工程を経てなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明の前処理工程を、安定化工程前に行うことにより、安定化工程の効果を一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるライオセル系炭素織物製造工程の一例を図示した順序図である。
【図2】本発明によるライオセル系炭素繊維および炭素織物製造工程における安定化工程のサイクルの一例を示す図面である。
【図3】本発明によるライオセル系炭素繊維および炭素織物製造工程における炭化工程のサイクルの一例を示す図面である。
【図4】本発明によるライオセル系炭素繊維および炭素織物製造工程における黒鉛化工程のサイクルの一例を示す図面である。
【図5】本発明によって製造されたライオセル系炭素織物の形状写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、前処理工程は、ライオセル繊維またはライオセル織物をシリコーン系高分子溶液および難燃性塩水溶液に浸漬処理することである。上記シリコーン系高分子の例としては、ポリシロキサン(Polysiloxane: PS)、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane:PDMS)、室温硬化型シリコーン(Room Temperature Vulcanizing Silicone:RTV)、ポリメチルフエニルシロキサン(Polymethly Phenyl Siloxane:PMPS)、ポリシラザン(Polysilazane) 等を挙げることができる。上記難燃性塩の例としては、燐酸アンモニウム(ammonium phosphate: (NH4)3PO4)、燐酸ナトリウム(sodium phosphate: Na3PO4)、塩化アンモニウム(ammonium chloride:NH4Cl)等を挙げることができる。
【0013】
前記シリコーン系高分子溶液において、溶媒としては極性溶媒が使用されるが、前記極性溶媒の例としては、アセトン(Acetone)、パークロロエチレン(Perchloroethylene)、テトラヒドロフラン(Tetrahydrofurane:THF)、メチルエチルケトン(Methyl ethyl ketone:MEK)、エチルアルコール(Ethyl alcohol)、メチルアルコール(Methyl alcohol))等を挙げることができる。
【0014】
本発明の前処理工程で使用されるシリコーン系高分子溶液中のシリコーン系高分子の濃度範囲は、1〜15重量%であることが好ましい。上記シリコーン系高分子の濃度が1重量%未満である場合には、濃度が低過ぎて安定化効果が顕れないので好ましくなく、15重量%を超える場合には、不均一性ばかりでなく、脆性が大きくなって好ましくない。また、難燃性塩水溶液中の難燃性塩の濃度範囲は3〜20重量%であることが好ましい。上記難燃性塩の濃度が3重量%未満の場合には、濃度が低く難燃効果が顕れないので好ましくなく、20重量%を超える場合には、過飽和状態が顕れるようになり好ましくない。
【0015】
さらに、上記浸漬処理は常温(約25℃)〜80℃の温度でシリコーン系高分子溶液と難燃性塩水溶液にそれぞれ1時間以内の時間、好ましくは10分〜1時間、順次、浸漬処理することにより行われることが好ましい。上記温度が常温未満の場合には、安定化効果が低いので好ましくない。また、80℃を超える場合には、繊維の柔軟性が劣り好ましくなく、1時間を超える場合には、セルロースが水溶液で膨潤され、又は、強度が劣る可能性があるので好ましくない。上記浸漬処理の際に、シリコーン系高分子溶液と難燃性塩水溶液に浸漬処理する順序には特別に制限がないが、シリコーン系高分子溶液に先ず浸漬させた後、難燃性塩水溶液に浸漬させることが好ましい。
【0016】
本発明において、安定化工程は2段階で行われ、第1段階は100〜250℃の温度範囲で10〜30時間、第2段階は300〜500℃の温度範囲で10〜100時間、それぞれ熱処理することにより行われることが好ましい。安定化工程において、第1段階で100℃未満の温度で熱処理される場合には、繊維が十分乾燥されないため好ましくなく、250℃を超える温度で熱処理される場合には、繊維の熱分解が起こる恐れがあるので好ましくない。また、10時間未満の熱処理の場合には、繊維が柔軟性を失うことがあり得るため好ましくなく、30時間を越える時間の熱処理の場合には、安定化効率が劣るので好ましくない。また、安定化工程において、第2段階で300℃未満の温度で熱処理される場合には、安定化効果が十分でないので好ましくなく、500℃を超える温度で熱処理される場合には、安定化効果よりは炭化効果が著しいので好ましくない。また、10時間未満の熱処理の場合には、繊維が柔軟性を失うことがあり得るので好ましくなく、100時間を越える時間の熱処理の場合には、安定化効果および効率が劣るので好ましくない。
【0017】
本発明において、炭化工程は、900〜1700℃の温度範囲で10〜30時間熱処理することにより行われることが好ましい。炭化工程の温度が900℃未満の場合には、炭化率が80%以下と低いので好ましくなく、1700℃を超える場合には、炭化よりは黒鉛化効果が著しく、強度が劣るので好ましくない。また、炭化工程が10時間未満の熱処理で行われる場合には、十分な炭化工程が行われないので好ましくなく、30時間を越える熱処理の場合には、炭化収率が劣るので好ましくない。
【0018】
本発明において、熱伝導度、絶縁性または耐熱特性等を制御できる黒鉛化工程は2000〜2800℃の黒鉛化温度まで昇温させてから2000〜2800℃の温度での保持時間を0〜10時間にして行うことが好ましい。上記温度が2000℃未満の場合には、黒鉛化度が劣るので好ましくなく、2800℃を超える場合には、経済性対比黒鉛化効果が劣るので好ましくない。2000〜2800℃における保持時間が0時間とは、上記黒鉛化温度まで昇温させてから直ぐ冷却させることを意味し、保持時間が10時間というのは、上記黒鉛化温度で10時間保持させてから冷却させることを意味する。上記黒鉛化温度における保持時間が10時間を越える場合には、最終炭化収率が劣るので好ましくない。
【0019】
以下、添付された図面を参考して、本発明を詳しく説明すれば次のとおりである。
図1は、本発明によるライオセル系炭素繊維および炭素織物の製造工程の一例を図示した順序図であって、先ず、出発物質であるライオセル繊維を織造して平織、綾織または朱子織の織物構造に作る製織工程(1)後、製織された織物をアセトンのような有機溶剤を用いて洗浄する洗浄工程(2)を経ながら不純物を除去し、繊維の残留応力を緩和させる。その後、シリコーン系高分子と難燃性塩を含む化学的前処理剤を順次通過させた後、乾燥させる前処理工程(3)を経た織物は、熱処理段階である安定化工程(4)、炭化工程(5)および黒鉛化工程(6)を経ながら炭素織物に転換される。その後に、炭素織物に残っているタールや不純物等を除去する洗浄工程(7)を経て、本発明によるライオセル系炭素織物を製造する。
【0020】
図2は、本発明によるライオセル系炭素繊維および炭素織物の製造工程における安定化工程のサイクルの一例を示したものであって、上記安定化工程は、2段階で行われ、この工程の間、主に脱水素化反応および環化反応等が起こり、約60〜70重量%の重量減が発生する。安定化工程の第1段階で約100〜250℃まで10〜30℃/時間の昇温速度で昇温させ、第2段階では約300〜500℃まで2〜10℃/時間の低い昇温速度で昇温させて、熱処理を行うことにより安定化織物が製造される。
【0021】
図3は、本発明によるライオセル系炭素繊維および炭素織物の製造工程における炭化工程のサイクルの一例を示したものであって、上記炭化工程は不活性雰囲気で、約900〜1700℃まで30〜100℃/時間の昇温速度で昇温させ、10〜30時間の間熱処理をしてから自然冷却させることにより行われる。
【0022】
図4は、本発明によるライオセル系炭素繊維および炭素織物の製造工程における黒鉛化工程のサイクルの一例を示したものであって、該黒鉛化工程は上記炭化工程で処理された炭素繊維または炭素織物を通常の熱処理炉で不活性雰囲気で、約1000〜1500℃までは100〜200℃/時間の昇温速度で昇温させ、その後2000〜2800℃の温度までは50〜100℃/時間の昇温速度で昇温させた後、2000〜2800℃の温度で保持時間を0〜10時間にして熱処理して行われる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を通じて本発明を一層詳しく説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するだけで、本発明の内容が下記実施例によって限定されるものではない。
【0024】
<実施例>
繊度300texのライオセル繊維をラピオ織機を使用して綾織織物構造に製織した後、純度99.8%のアセトンに約2時間浸漬させて洗浄した。洗浄された織物を25℃でシリコーン系高分子であるRTVシリコーン5重量%がパークロロエチレンに溶解された溶液に約30分間浸漬した後、難燃性塩である塩化アンモニウム15重量%の水溶液に約30分間浸漬し、次いで80℃の温度で乾燥させた。上記前処理された織物は、熱処理炉で、30℃/時間の昇温速度で200℃まで温度を上げた後、2℃/時間の低い昇温速度で300℃まで温度を上げることにより安定化処理した。その後、50℃/時間の昇温速度で1700℃まで温度を上げた後、10時間炭化処理を行い、その後100℃/時間の昇温速度で2000℃まで温度を上げ、1時間保持して黒鉛化処理を行った。これによって得られた炭素織物および該炭素織物から抜き取った炭素繊維の特性を下記表1に示した。
【0025】
<比較例>
上記実施例において、前処理工程であるシリコーン系高分子溶液および難燃性塩水溶液に浸漬処理する過程を省略したことを除いては、実施例と同一に処理して得られた炭素織物および該炭素織物から抜き取った炭素繊維の特性を下記表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すように、本発明の前処理を行った炭素繊維は、該前処理を行わなかった繊維に比べて、強度、柔軟性共に、顕著に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維または織物を安定化工程、炭化工程および黒鉛化工程に付してライオセル系炭素繊維またはライオセル系炭素織物を製造する方法であって、
該繊維または織物がライオセル繊維またはライオセル織物であり、
該安定化工程前に、該ライオセル繊維またはライオセル織物を、シリコーン系高分子を含む溶液に浸漬処理する工程、及び、該ライオセル繊維またはライオセル織物を、難燃性塩を含む水溶液に浸漬処理する工程、を含む前処理工程をさらに含むことを特徴とするライオセル系炭素繊維またはライオセル系炭素織物の製造方法。
【請求項2】
上記シリコーン系高分子は、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、室温硬化型シリコーン、ポリメチルフエニルシロキサンまたはポリシラザンであることを特徴とする請求項1に記載のライオセル系炭素繊維またはライオセル系炭素織物の製造方法。
【請求項3】
上記シリコーン系高分子溶液の溶媒は、アセトン、パークロロエチレン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、エチルアルコールまたはメチルアルコールであることを特徴とする請求項1又は2に記載のライオセル系炭素繊維またはライオセル系炭素織物の製造方法。
【請求項4】
上記難燃性塩は、燐酸アンモニウム、燐酸ナトリウムまたは塩化アンモニウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のライオセル系炭素繊維またはライオセル系炭素織物の製造方法。
【請求項5】
上記安定化工程は、2段階で行い、第1段階は100〜250℃、第2段階は300〜500℃の温度範囲で熱処理することにより行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のライオセル系炭素繊維またはライオセル系炭素織物の製造方法。
【請求項6】
上記炭化工程は、900〜1700℃の温度範囲で10〜30時間熱処理することにより行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のライオセル系炭素繊維またはライオセル系炭素織物の製造方法。
【請求項7】
上記黒鉛化工程は、2000〜2800℃の黒鉛化温度まで昇温させ、上記黒鉛化温度で保持する時間を0〜10時間にして処理することにより行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のライオセル系炭素繊維またはライオセル系炭素織物の製造方法。
【請求項8】
該ライオセル繊維またはライオセル織物を、シリコーン系高分子を含む溶液に浸漬処理する工程の後に、該ライオセル繊維またはライオセル織物を、難燃性塩を含む水溶液に浸漬処理する工程を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−261144(P2010−261144A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284145(P2009−284145)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(505003148)エージェンシー フォー ディフェンス デベロップメント (2)
【Fターム(参考)】