説明

ライトガイドおよび光照射装置

【課題】
光ファイバ束の端部に融着部を有するライトガイドにおいて、ライトガイド端末部における、光ファイバ束に入射する光を、光ファイバ素線の中心軸と平行に取り込むことが可能なライトガイドを提供する。
【解決手段】
複数の光ファイバ素線からなり少なくとも光入射側の端部が熱融着された光ファイバ束を含み、光ファイバ束の中心軸より外側に位置する各光ファイバ素線の中心軸が、前記熱融着された光ファイバ束端部において、光ファイバ束の中心軸に対して傾きを有し、光ファイバ束の光入射端面の形状が、凹面形状であることを特徴とするライトガイドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を伝達し被照射物を照射するライトガイドおよび該ライトガイドを含む光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ発振器等の発光体から放射された光を、被照射物の任意の位置に伝達するための手段としてライトガイドが用いられている。
【0003】
こうしたライトガイドは、通常、光ファイバ素線を単体で用いる場合と、複数の光ファイバ素線を束ね光ファイバ束として用いる場合とがあり、必要とする光の量や発光体の特性に応じて使い分けられている。
【0004】
これらのうち光ファイバ束を用いる場合は、その端部を集束し固化する必要があり、一般的には有機系または無機系接着剤、あるいは低融点ガラスによってそれぞれの光ファイバ素線を固着する方法が用いられている。
【0005】
しかしながら、レーザ加工機や高出力のランプを用いた装置においては、発光体から放射された強力な光を入射するため、その端部の耐熱性を高める必要があり、高周波加熱あるいは酸水素バーナー等の加熱手段等により、外部から熱を加え光ファイバ素線自体を溶融し、互いに融着する方法が知られている。
【0006】
ここで、上記のように、光ファイバ束の端部を外部より熱を加えて融着する方法としては、特許文献1に示される方法が挙げられる。
【0007】
【特許文献1】特開昭57−97503号公報
【0008】
この特許文献1は、多数本からなる石英系光ファイバ素線の端部を集束して、この集束した端部をガラス管内に挿入した後、ガラス管の外周から熱を加えて、ガラス管、各光ファイバ素線を融着すると共に、これらガラス管と各光ファイバ素線相互の間隙を減少または消去する方法を示している。
【0009】
したがって、上記方法で製造されたライトガイドは、熱に弱い接着剤を用いずとも各光ファイバ素線がしっかり固着されたライトガイド端末部が形成できるようになり、大光量伝送を目的とした大型光源等からの熱に対しても、当該端末部の十分な耐熱性が確保できる。
【0010】
また、当該端末部における光ファイバ素線間の間隙を減少又は消去するようにしているので、その端面におけるコア占有率が高まり、光源に対する光入射効率を高めることもできる。
【0011】
しかしながら、上記した方法により形成された融着部は、光ファイバ素線自体が概六角形に変形することにより光ファイバ素線間の間隙が減少または消去されるため、融着された部分の光ファイバ束の径は、融着されていない部分の光ファイバ束の径と比較して、光ファイバ素線間の減少または消去された間隙の割合だけ小さくなる。
【0012】
この結果、ライトガイド端末部において、光ファイバ束の外周部に近い位置に配置した光ファイバ素線は、融着されていない部分(光ファイバ束の末端から遠い側)から融着された部分(光ファイバ束の末端側)にかけて、その中心軸が光ファイバ束の中心軸の方向に傾くこととなり、この傾きは光ファイバ素線が光ファイバ束の中心軸から遠ざかるほど大きく、反対に、光ファイバ束の中心軸へ近づくほど小さくなり、概ね光ファイバ束の中心軸上では、光ファイバ素線の中心軸と光ファイバ束の中心軸は平行となる。
【0013】
図2に示すように、ライトガイド端末の融着部を、ライトガイド端末部における光ファイバ束の中心軸と垂直に交わる平面Aで切断し研磨した場合には、図4に示すように、光ファイバ素線の中心軸14は、それぞれの光ファイバ素線の端面32に対して垂直ではなくなるため、このような端面32に垂直に入射する光50は、端面32に入射後、光ファイバ素線の中心軸14に沿って進むことができずに、光ファイバ素線10を構成するクラッド12の内面で全反射を繰り返し、光ファイバ素線の出射端面36に到達する。
【0014】
この結果、ライトガイドの出射端部から出射する光は、光ファイバ束の中心軸に対して傾きを有する光を含むこととなり、ライトガイドの入射端に入射する光の入射角度を維持することができないという問題を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような事情のもとで、光ファイバ束の端部に融着部を有するライトガイドにおいて、光ファイバ束に入射する光を、光ファイバ素線の中心軸に平行に取り込むことが可能なライトガイドおよび該ライトガイドを含む光照射装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成する、本発明は、
(1)複数の光ファイバ素線からなり少なくとも光入射側の端部が熱融着された光ファイバ束を含み、
光ファイバ束の中心軸より外側に位置する各光ファイバ素線の中心軸が、前記熱融着された光ファイバ束端部において、光ファイバ束の中心軸に対して傾きを有し、
光ファイバ束の光入射端面の形状が、凹面形状であることを特徴とするライトガイド、
(2)前記凹面形状が球面形状である上記(1)に記載のライトガイド、
(3)前記光ファイバ素線の少なくとも一部は、光ファイバ素線の光入射面と該光入射面に入射する光に直交する面とが形成する角度θ2が、
θ2=cot−1(cotθ1−(n2/(n1sinθ1)))
〔但し、θ1は、光ファイバ素線の光入射面に入射する光と、光ファイバ素線の中心軸とが形成する角度であり、n1は、光ファイバ素線を構成するコアの屈折率であり、n2は、光ファイバ素線外部の空間の屈折率である。〕
を満たすように光入射面を加工されたものである上記(1)または(2)に記載のライトガイド、
(4)光ファイバ素線が、石英、多成分ガラスまたはプラスチックからなるものである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のライトガイド、および
(5)光を放射する発光体と、該発光体からの放射光を被照射物に照射するためのライトガイドとを含む光照射装置であって、前記ライトガイドが上記(1)〜(4)のいずれかに記載のライトガイドであることを特徴とする光照射装置
からなるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光ファイバ束の端部を融着により固化したライトガイドであって、光ファイバ束に入射する光を、光ファイバ素線の中心軸に平行に取り込むことが可能なライトガイドおよび該ライトガイドを含む光照射装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係るライトガイドおよび光照射装置の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一の要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、本明細書において数値を挙げて説明したものと必ずしも一致していない。
【0019】
本発明のライトガイドは、
複数の光ファイバ素線からなり少なくとも光入射側の端部が熱融着された光ファイバ束を含み、
光ファイバ束の中心軸より外側に位置する各光ファイバ素線の中心軸が、前記熱融着された光ファイバ束端部において、光ファイバ束の中心軸に対して傾きを有し、
光ファイバ束の光入射端面の形状が、凹面形状であることを特徴とする。
図1(a)は、本発明のライトガイドの第1の実施態様における、ライトガイドの端末部構造を示す断面図である。
【0020】
ライトガイド1は、多数の光ファイバ素線10からなる光ファイバ束2およびスリーブ20により構成されており、光入射側の端末部を熱融着した後、融着部分を所定の位置で切断し、更に切断面に対して後述する凹面形状の加工を施したライトガイド端末部30を有している。
【0021】
なお、光ファイバ素線10は、図1(b)に示すように高純度石英からなる外径190μmのコア11、石英にフッ素ドープを施した外径200μmのクラッド層12、及び紫外線硬化樹脂からなる外径220μmの被覆層13とにより構成されており、一方、スリーブ20には、光ファイバ素線10に用いられた石英と熱膨張係数、軟化温度が略等しい外径12mm、内径10mm、全長35mmの石英管を用いている。
【0022】
次に、図1のライトガイドにおける光入射端面の形成方法を説明する。
図2に示すように、スリーブ20に、端部付近の被覆層13を溶剤により溶解除去した約2000本の光ファイバ素線10を、先端が5mmほど突き出る状態で挿入した後、スリーブ20の先端から約10mmの範囲を酸水素バーナーで加熱することにより、各光ファイバ素線10が軟化して相互に融着すると同時にスリーブ20とも融着一体化して、スリーブ20の外周面になだらかな段部21を有するライトガイド端末部30を形成する。
【0023】
ここで、融着部31は、先端(図2の右側)に近い領域ほど各光ファイバ素線10相互の融着が密に行われているため、堅牢性が高くなるが、このような領域では、光ファイバ素線10のコア11とクラッド12の境界が軟化により不明瞭となる可能性があり、光を入射した際に、入射した光がコア11およびクラッド12の界面において乱反射し、ライトガイドとしての光の伝達効率が低下してしまう虞がある。
【0024】
このため、融着により形成されたライトガイド端末部30は、上記のコア11とクラッド12の境界が不明瞭となる部分を切断削除する必要があり、この切断位置は、スリーブ20内部の光ファイバ素線10が相互に融着した範囲で最も段部21に近い位置で行われる。
【0025】
図2に示すライトガイド1ではこの位置を、融着部31のスリーブ20を含む外径が約11mmとなるAの位置とし、この位置で切断している。
【0026】
この結果、図3に示すように、光ファイバ素線10の中心軸14は、ライトガイド端末部30において、光ファイバ束2の中心軸33の方向に傾斜角θ1を有した状態で切断され、この傾斜角θ1はライトガイド端末部30において、光ファイバ束2の外周付近に配置された光ファイバ素線10ほど大きく、逆に光ファイバ束2の中心軸33へ近づくほど小さくなり、中心軸33付近の光ファイバ素線の中心軸14は、ライトガイド端末部30における光ファイバ束2の中心軸33とほぼ平行になる。
【0027】
図4に示すように、切断面32に垂直に光50を入射した場合、入射後の光51は、光ファイバ素線10の中心軸14と入射光50との傾きであるθ1と等しいθ1a傾いた角度で全反射を繰り返しながら伝播し、出射端面36において、屈折により光ファイバ素線の中心軸14との角度を更に拡大して、θ3の角度で出射する。
【0028】
後述するように、本実施態様において、ライトガイド1は、ライトガイド端末部30の切断面32に所定の凹面加工を施すことにより、光ファイバ素線10の入射端面に、上述した傾斜角θ1による影響を補償する傾斜角θ2を設け、光ファイバ素線10に入射する光が、光ファイバ素線の中心軸14に平行に取り込めるようにしたものであり、この傾斜角θ2は、中心軸14の傾斜角θ1より求めることができるものである。
【0029】
ここで、傾斜角θ1を求める方法と、求められた傾斜角θ1から傾斜角θ2を導き出す方法とを説明する。
【0030】
図5は傾斜角θ1を測定するための、装置構成を示している。
この測定装置は、被測定用のライトガイド101にビーム径を整形したレーザ光140を入射し、出射する光141の出射角度θ3(図4のθ3に対応する)を測定することにより、光入射端面における傾斜角θ1を求めるものである。
【0031】
なお、ライトガイド101は、入射端面101aを上述の手順に従って融着した後、図2のAの位置で切断し平面研磨を行ったものであり入射端面での光ファイバ束の外径は9mmとなっている。
また光出射端面101bは、熱融着に代わって有機系の接着剤により固着し、光入射端面101aと同様に平面研磨を施してある。
【0032】
この入射端面101aに、He−Cdレーザ発振器110からの放射光を、スリット120によりビーム径0.5mmに整形したレーザ光140を入射する。
【0033】
レーザ光140の光入射端面101aへの入射位置は、入射端面101aを光ファイバ束の半径方向に延びるX1軸に沿って1mmづつ移動したものであり、それぞれの入射位置における光出射端面101bより出射した光の強度分布は、光出射端面101bより150mm離れた位置へ光強度計130を設置し、この光強度計130をライトガイド101の中心軸に直行するX2軸に沿って移動させることにより、測定したものである。
【0034】
図6に示すように、測定した光強度分布は二つのピークを有する形状となるため、このピーク間の距離Dから、図5の光出射端面101bより出射した光の傾き角度θ3を、式1により計算することができる。

θ3=tan−1(D/2)/L・・・式1

(但し、Dは測定した光強度分布図における二つのピーク間の距離、Lは出射端面より光強度計130が設置されている面までの距離)
【0035】
次に、上で求めた角度θ3より、図4に示す、光ファイバ素線内を伝播する光51の角度θ1a及び傾斜角θ1を求める。
ここで、図4の出射端面36における出射前の光51と出射後の光52の関係はスネルの法則より、

n1sinθ1a=n2sinθ3

(但し、n1はコアの屈折率、n2は光ファイバ素線10外部の空間の屈折率)
が成り立つため、光ファイバ素線内を伝播する光51の角度θ1aは、

θ1a=sin−1((n2/n1)×sinθ3)

となる。
また、光ファイバ素線10の中心軸14の傾斜角θ1は、図4より上記の光ファイバ素線内を伝播する光51の角度θ1aと等しい角度であるから、

θ1=θ1a=sin−1((n2/n1)×sinθ3)・・・式2

となる。
【0036】
例として、図6に示す測定結果を基に具体的にθ1を求めると、以下のとおりとなる。図6は、レーザ光140の入射位置を入射端面101aの中心よりX1軸に沿って4mm離れた位置とした場合の出射光の光強度分布を示すものである。
図6においては、横軸がX2軸に沿った距離を示しており、縦軸が光強度の相対値を示している。
【0037】
図6より、二つのピークは、35mmの距離を隔てて位置しており、このピーク間距離D=35mmと、出射端面から光強度計130までの距離L=150mmを式1に代入することにより、出射光の傾きθ3が約6.65°であることを求めることができる。
【0038】
ここで、光ファイバ素線10を構成するコアの屈折率n1は約1.5であるから、式2より、光ファイバ素線の中心軸14の傾斜角θ1は4.43°であることが分かる。
【0039】
以上、融着により傾斜した光ファイバ素線の傾斜角θ1を求める方法を説明したが、次に、図7を用いて、この傾きθ1による出射角θ3への影響を補償するための光入射面15の傾斜角θ2を求める方法を説明する。
【0040】
図7は、その中心軸14が光入射面15に入射する光(光ファイバ束の中心軸と平行に入射する光)50に対して傾斜角θ1を有し、光入射面15と該光入射面15に入射する光50に直交する面61に対して傾斜角θ2を有する光ファイバ素線10と、入射後の光51の伝播状態を示すものである。
【0041】
破線16は光入射面15と直交する直線であり、この交点に入射前の光50が破線16に対して入射角θ5の角度で入射する。入射後の光51が光入射面15で屈折し、光ファイバ素線の中心軸14に沿って伝播しているとすると、入射前の光50と入射後の光51の関係は、スネルの法則により式3を満たすこととなる。

n1sinθ4=n2sinθ5・・・・・式3

【0042】
ここで、n1はコアの屈折率、n2は光ファイバ素線10外部の空間の屈折率である。また、θ4は、入射後の光51の屈折角であり、入射前の光50の入射角θ5から傾きθ1を指し引いた値と等しくなることから、式3は、

n1sin(θ5−θ1)=n2sinθ5・・式4

のように、入射角θ5とθ1の関係式に置き換えることができる。
また、入射前の光50に直交する面61に対する光入射面15の傾きである傾斜角θ2は、入射前の光50の入射角θ5と等しいため、θ5をθ2に置き換え、式5で現すことができる。

n1sin(θ2−θ1)=n2sinθ2・・式5

この結果、傾斜角θ2は、

θ2=cot−1(cotθ1−(n2/(n1sinθ1)))・・式6

により求めることができる。
【0043】
先に求めたθ1=4.43°と、n1=1.5、n2=1.0を式6に代入することにより、θ2=13.16°を得ることができ、光ファイバ束の光入射端面の中心より4mm離れた位置における、光ファイバ素線の入射面の傾きを13.16°にすることにより、該位置において光ファイバ素線に入射した光を、光ファイバ素線の中心軸に沿って取り込めることがわかる。
なお、θ2をより簡便に求めるために、上記式6を導出するにあたり、適宜公知の近似式等を用いて式6を簡略化し、これを用いてもよい。
【0044】
図8(a)には、図5におけるレーザ光140の入射位置を、入射端面101aの中心からX1軸に沿って、それぞれ1mm、2mm、3mm、4mmとしたときの、θ1とθ2を示す。
図8には、入射端面101aの中心軸から1mmづつ離れた点におけるθ1とθ2を示したが、入射端面101aの中心からX1軸に沿って測定箇所を増やし、各測定点において求められたθ2に従って、光ファイバ素線の光入射面を加工することがより好ましい。
【0045】
本実施態様において、ライトガイド1は、上述の融着されたライトガイド端末部30の切断面32に、その中心軸33を中心として同心円状に傾斜角θ2を設けたものであり、その形状は、図8(b)に示すように、中心軸33から外周部に近づくに従って傾きが大きくなる非球面34となる。図8(b)に示すライトガイドにおいては、入射端面101aの中心軸から1mmづつ離れた点以外にも、入射端面101aの中心からX1軸に沿って複数の位置でθ2を測定し、各測定点において得られたθ2に従って、光ファイバ素線の光入射面を加工している。
【0046】
このような非球面34の凹面加工を行う装置としては、加工自由度の高い数値制御による超精密加工機等を用いて行うが、加工面の鏡面度を高めるためにELID研削法を用いることもできる。
【0047】
以上、本実施態様のライトガイド1の融着部31に施した加工形状について説明を行ったが、次に、上記ライトガイドの光入射端面全面にレーザ光を入射した際の、出射端面より出射される光の強度分布について、図9、図10を用いて説明する。
【0048】
図9に示す装置は、ライトガイドの光入射端面に均一なレーザ光が入射されるように、図5の装置のスリット120に代わってビームエキスパンダ150を設けたものであり、ライトガイド1の光入射端面32、34全面にレーザ光を入射し、ライトガイド1の光出射端面36より150mm離れた位置の光強度分布を、光強度計120を用いて測定した。
【0049】
図10は、上記装置により測定したライトガイド1からの出射光の強度分布を示すものであり、実線は、光入射端面に非球面加工を施したライトガイドにレーザ光を入射した際の出射光の強度分布を示し、破線は、入射端面に非球面加工を施していない従来のライトガイドにレーザ光を入射した際の出射光の強度分布を示している。
【0050】
実線で表した、光入射端面に非球面加工を施したライトガイドの光強度分布と、破線で示した、光入射端面に非球面加工を施していないライトガイドの光強度分布を比較すると、光入射端面に非球面加工を施したライトガイドは、出射光が拡散せずに比較的狭い範囲を照射していることが分かる。また、照射されている中心部分の光強度も非球面加工を施していないライトガイドと比較して約4倍高いことが分かる。
【0051】
以上説明した通り、本実施態様のライトガイドによれば、融着されたライトガイド端末部の切断面に、光ファイバ素線の中心軸の傾きによる影響を補償するための傾斜角θ2を、光ファイバ束の中心軸を中心として同心円状に設けることにより、ライトガイド端末部における光ファイバ束の中心軸と平行に入射する光を、各光ファイバ素線の中心軸に平行に取り込むことが可能となるため、光ファイバ束の出射端面での光の拡散を抑えることが可能となる。
なお、本実施態様においては、光ファイバ素線の光入射面への入射光を、光ファイバ束の中心軸と平行に入射する光を用いて説明したが、本発明のライトガイドにおける入射光は、必ずしも光ファイバ束の中心軸と平行に入射する光に限られるものではなく、光ファイバ束の中心軸に対して傾きを持った光や、光ファイバ素線の光入射面に集光される多くの角度成分を含む光である場合においても、同様の効果を得ることができる。なお、光ファイバ素線の光入射面に集光される多くの角度成分を含む光を利用する場合は、その中心となる光、あるいは、最も強度の強い光の入射角度を用いて、θ2を求めることが好ましい。
また、本発明のライトガイドは、光ファイバ素線の光入射面と該光入射面に入射する光に直交する面とが形成する角度θ2を必ずしも式6に一致させる必要はなく、後述する本発明の第2の実施態様に示すライトガイドのように、角度θ2を式6で求めた値に近似した角度とすることによっても、同様の効果を得ることができる。
【0052】
図11は、本発明のライトガイドの第2の実施態様における、ライトガイドの端末部構造を示す断面図である。
【0053】
本実施態様におけるライトガイドの光入射端面形状は、光ファイバ束融着後の切断面を、図11に点線で示す非球面34に近似した、半径30mmの球面形状35に加工したものであり、ライトガイドを構成する光ファイバ素線10およびスリーブ20は第1の実施態様に示したものと同一のものを用いた。
【0054】
ライトガイドの光入射端面をこのような形状に加工することにより、光ファイバ素線に取り込まれた光の、各光ファイバ素線の中心軸14に対する平行度は、非球面形状に加工したライトガイドと比較して若干低下し、光ファイバ束の光入射端面にレーザ光を入射した際の出射光の強度分布に関しても、図10の一点鎖線で示すようにピーク値が20%程度低下するが、図10に破線で示される光入射端面に球面加工を施していない従来のライトガイドのピークと比較すると、非球面加工を施したライトガイドと同様に、出射光が拡散せず、高い光強度が得られることが分かる。
【0055】
また、加工形状を球面とすることにより、従来の球面形状を有する研磨皿による研磨方法を用いても加工が可能であるため、加工コストを抑えることができる。
【0056】
なお、第1の実施態様および第2の実施態様で示したライトガイドにおいては、何れも石英から成る光ファイバ素線を用いたが、本発明のライトガイドは、多成分ガラスあるいはプラスチックからなる光ファイバ素線を用いたものにも適用することができる。
また、第1の実施態様および第2の実施態様では、光を放射する発光体としてレーザ発振器を用いて説明したが、これに限定されるものではなく、本発明のライトガイドは、発光体としてショートアークランプあるいはハロゲンランプ等を用いることもできる。
【0057】
次に、本発明の光照射装置について説明する。
本発明の光照射装置は、光を放射する発光体と、該発光体からの放射光を被照射物に照射するためのライトガイドとを含むものであって、上記ライトガイドが本発明のライトガイドであることを特徴とする。
図12は、本発明の光照射装置の実施態様を示す図である。
本実施態様において、光照射装置はレーザ光を発振するレーザ発振器210と、レーザ光を集光するレンズ220と、集光された光を伝送するライトガイド230と、ライトガイド230より出射した光を被照射物Wに集光するための集光レンズ241と、この集光レンズ241を含む加工ヘッド部240により構成されている。
【0058】
レーザ発振器210としてはフラッシュランプを励起光源とする紫外光を放射するQスイッチYAGレーザが使用される。
【0059】
この光照射装置では、ライトガイド230の光入射端面230aにレーザ光が集光されるため、第1の実施態様におけるライトガイドと同様に、石英製光ファイバ素線からなる光ファイバ束の、光入射端部を融着したライトガイドが用いられており、ライトガイド230の光入射端面230aは図8に示すように非球面形状に加工されている。
【0060】
このように入射端面が非球面形状に加工されているライトガイドを用いた場合には、ライトガイドから出射する光250は、入射端面に非球面加工が施されていないライトガイドと比較して、より小さな出射角度となるため、集光レンズ241もこの角度φに応じた小口径のもの用いることができ、加工ヘッド部240の大きさも、よりコンパクトなものとすることができる。
【0061】
なお、本実施態様で示した光照射装置は光を放射する発光体としてレーザ発振器を用いたが、これに限定されるものではなく、本発明の光照射装置は、発光体としてショートアークランプあるいはハロゲンランプ等を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のライトガイドは、光ファイバ束の端部を融着したものであって、ライトガイド端末部において、光ファイバ束に入射する光を、光ファイバ素線の中心軸と平行に取り込むことが可能であるため、該ライトガイドを含む光照射装置に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のライトガイドの第1の実施態様における、ライトガイドの端末部構造を示す断面図(a)および光ファイバ素線の断面図(b)である。
【図2】光ファイバ束端末の融着部において、光入射端面を形成するために、切断、研磨する位置Aを示す図である。
【図3】位置Aで切断した後のライトガイド端末を示す図である。
【図4】光入射面加工前の光ファイバ素線における入射光と出射光を示す図である。
【図5】傾斜角θ1を測定するための測定装置を示す図である。
【図6】出射光の光強度分布を示す図である。
【図7】傾斜角θ2の算出方法を説明するための光ファイバ素線の断面を示す図である。
【図8】光ファイバ束の中心軸から所定距離離れた位置における各θ1とθ2を示す図(a)および得られた各θ2を満足するように光ファイバ束の光入射端面を加工し非球面状にしたことを示す図(b)である。
【図9】ライトガイドにレーザ光を入射した際の出射光の強度分布を測定するための装置を示す図である。
【図10】ライトガイドにレーザ光を入射した際の出射光の強度分布を示す図である。
【図11】本発明のライトガイドの端末部構造を説明するための図である。
【図12】本発明の光照射装置の実施態様を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 ライトガイド
2 光ファイバ束
10 光ファイバ素線
11 コア
12 クラッド層
13 被覆層
14 光ファイバ素線の中心軸
15 光入射面
16 光入射面と直交する直線
20 スリーブ
21 段部
30 ライトガイド端末部
31 融着部
32 端面
33 光ファイバ束の中心軸
34 非球面
35 球面
36 出射端面
101 ライトガイド
101a 光入射端面
101b 光出射端面
110 レーザ発振器
130 光強度計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバ素線からなり少なくとも光入射側の端部が熱融着された光ファイバ束を含み、
光ファイバ束の中心軸より外側に位置する各光ファイバ素線の中心軸が、前記熱融着された光ファイバ束端部において、光ファイバ束の中心軸に対して傾きを有し、
光ファイバ束の光入射端面の形状が、凹面形状であることを特徴とするライトガイド。
【請求項2】
前記凹面形状が球面形状である請求項1に記載のライトガイド。
【請求項3】
前記光ファイバ素線の少なくとも一部は、光ファイバ素線の光入射面と該光入射面に入射する光に直交する面とが形成する角度θ2が、
θ2=cot−1(cotθ1−(n2/(n1sinθ1)))
〔但し、θ1は、光ファイバ素線の光入射面に入射する光と、光ファイバ素線の中心軸とが形成する角度であり、n1は、光ファイバ素線を構成するコアの屈折率であり、n2は、光ファイバ素線外部の空間の屈折率である。〕
を満たすように光入射面を加工されたものである請求項1または2に記載のライトガイド。
【請求項4】
光ファイバ素線が、石英、多成分ガラスまたはプラスチックからなるものである請求項1〜3のいずれかに記載のライトガイド。
【請求項5】
光を放射する発光体と、該発光体からの放射光を被照射物に照射するためのライトガイドとを含む光照射装置であって、前記ライトガイドが請求項1〜4のいずれかに記載のライトガイドであることを特徴とする光照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−108396(P2007−108396A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298885(P2005−298885)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(592032430)HOYA CANDEO OPTRONICS株式会社 (44)
【Fターム(参考)】