説明

ライニング材

【課題】 強化繊維を含有させて引張力や圧縮力に対する高い強度と、十分な拡径性とを兼ね備えたライニング材を提供する。
【解決手段】 一実施形態としてのライニング材1は、液状の熱硬化性樹脂を主剤とする母材樹脂を含浸させる樹脂含浸層3と、不透過性材料からなる被覆層2とを備える。樹脂含浸層3には、強化繊維材料からなる複数枚のシート状の補強材321が含まれ、補強材321は、幅寸法が既設管4の内周長よりも短く、少なくとも幅方向の端部が、隣り合う補強材321に重ねられてオーバーラップ部Wを形成している。オーバーラップ部Wは熱可塑性樹脂を含む接合手段により接合されており、加熱及び拡径されることによってオーバーラップ部Wの接合が解除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管の内面に施して更生するためのライニング材に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された下水道管、上水道管、農水管などの既設管が老朽化した場合、その管路を掘削することなく、管路の内面にライニングを施して管路を補修するという既設管の更生工法が種々提案されている。
【0003】
その更生工法の一つとして、管状のライニング材の内側に流体圧を作用させ、もしくは流体圧により加圧ホースを反転挿入することによって、ライニング材を管路の内周面に押圧し、硬化させて一体化することでライニング層を形成する方法がある。また、ライニング材そのものを反転させながら管路内に挿入し、流体圧により管路の内周面に押圧し、硬化させて一体化する方法もある。このようなライニング材による更生工法は、地中を掘削せずとも、埋設されている管路の補修作業を行うことができる。
【0004】
この種の更生工法に用いられるライニング材として、例えば、特許文献1には、外表面が樹脂フィルム材で被覆された管状樹脂吸収基材に、液状の熱硬化性樹脂を含浸させた管状ライニング材を用いることが記載されている。管状ライニング材は、管路の内周面に押圧された状態で含浸樹脂を硬化させ、管路の内周面に固定される。
【0005】
前記工法では、管状ライニング材が平坦状に折り畳まれ、密閉容器内に積み重ねられた状態で配備されている。そして、密閉容器に接続された反転ノズルの開口端外周に、前記管状ライニング材を取り付け、密閉容器内に水圧を作用させて、管状ライニング材を管路内に反転挿入する構成とされている。これにより、拡径されたライニング材は、管路内で樹脂吸収基材が管路の内周面に密着し、管路をライニングするものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−165158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなライニング材による更生工法において、更生した管路の強度を上げるには、ライニング材における樹脂吸収基材の肉厚を厚くする方法が考えられる。しかし、単に樹脂吸収基材の肉厚を厚くすると、液状の母材樹脂が均一に含浸しにくく、未含浸部分(ボイド)ができてしまい、品質が安定しにくいという問題点があった。また、未含浸部分を発生させないように時間をかけて含浸させようとすると、液状の母材樹脂のポットライフが短いために含浸中や反転作業中に増粘してしまい、未含浸部分を生じたり、反転に対応できなくなったりするという不都合があった。
【0008】
また、更生管路の強度を上げるために、ライニング材をガラス繊維等の強化繊維材料で補強する方法も考えられる。しかし、ライニング材は、管路に挿入して施工されることから、管路の内径よりも若干小径に形成されており、管路へ挿入後に拡径されて、内周面に圧着される。このとき、ライニング材が強化繊維材料で補強されていると、強化繊維は伸縮性をほとんど有しないので、ライニング材の拡径性を阻害してしまうという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記のような従来の問題点にかんがみてなされたものであり、強化繊維を含有することで引張力や圧縮力に対する高い強度を確保するとともに、既設管へのライニング作業時には既設管の内周面に密着させるのに十分な拡径性を有して、施工性の良好なライニング材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、既設管の内径より小さい外径の筒状に形成され、既設管内に挿入及び拡径されて、既設管の内周面をライニングする複層構造のライニング材を前提とする。このライニング材に対し、液状の熱硬化性樹脂を主剤とする母材樹脂を含浸する樹脂含浸層と、不透過性材料からなる被覆層とを備えさせている。前記樹脂含浸層には、強化繊維材料からなるシート状の補強材を含み、前記補強材は、単数又は複数枚で既設管の内周長よりも長い総幅寸法を有し、幅方向の端部同士を重ね合わせてオーバーラップ部を有する略筒状にして配設されている。そして、前記オーバーラップ部は接合手段により接合し、加熱又は拡径することによって該オーバーラップ部の接合が解除されるように構成している。
【0011】
この特定事項により、樹脂含浸層に含まれる強化繊維材料はシート状の補強材を略通常にして構成されるので、ライニング材を既設管内で拡径させる際、シート状の補強材の幅方向の端部が相互にずれて拡径に追従させることができる。加えて、かかるシート状の補強材はオーバーラップ部を形成するように配置されており、そのオーバーラップ部が接合手段により接合されているので、ライニング材の製造から搬入作業時、既設管内への挿入作業時、加熱拡径時に到るまで、その配置形態をほぼ維持することが可能とされる。これにより、ライニング材の加熱及び拡径時には、補強材を含む樹脂含浸層が十分に拡径され、拡径後には、補強材を樹脂含浸層に均等に配置することができる。また、シート状の補強材が接合されていることにより、各補強材が縒れたり折り畳まれたりするのを防ぎ、均一な厚みを確保することができるので、ライニング材に高い耐圧性能及び強度を備えさせることが可能となる。
【0012】
前記ライニング材のより具体的な構成として次のものが挙げられる。つまり、前記接合手段には、熱可塑性樹脂材料を主成分とするホットメルト接着剤を用いることである。前記ホットメルト接着剤としては、ウェブ状のホットメルトテープが好ましい。
【0013】
また、前記接合手段には、縫合糸を用いることもできる。前記縫合糸としては、熱可塑性樹脂繊維からなる糸が好ましい。
【0014】
さらにまた、前記接合手段には、熱可塑性樹脂からなる係合素子を備えた面ファスナを用いることもできる。
【0015】
これらの構成に係る接合手段は、いずれも、特定の外力や非加熱状態の運搬時や管路内への挿入・引込み時においては、複数枚の補強材を相互に固定するとともに、ライニング材の加熱時や加圧時には、加熱作用によってその固定を解除するものとなる。
【0016】
ここで、母材樹脂を含浸させた樹脂含浸層が既設管内で加熱されると、補強材に伝わった熱がオーバーラップ部に加熱作用し、接合手段を軟化させ又は破壊して、その接合を解除させる。また、熱硬化性樹脂の硬化反応時の発熱によっても、母材樹脂の温度が上昇して、接合手段を軟化させ又は破壊して、接合を解除させる。その結果、シート状の補強材がオーバーラップ部で相互にずれることを許容し、樹脂含浸層の拡径に追従することが可能となる。これにより、ライニング層は十分に拡径することが可能となり、既設管の内周面に密着するものとなる。
【0017】
また、前記ライニング材において、前記樹脂含浸層には、複数枚のシート状の補強材を含み、前記オーバーラップ部を周方向に均等に配置する構成とすることが好ましい。さらに、前記オーバーラップ部を、対向配置することが好ましい。
【0018】
このような構成であることにより、ライニング作業工程においてライニング材を十分に拡径もしくは膨張させることができ、硬化後におけるライニング材の強度を全体として均一に確保することができる。
【発明の効果】
【0019】
上述のような本発明のライニング材によれば、引張力や圧縮力に対する高い強度を確保するための強化繊維を含有する構成でありながら、ライニング施工に必要な拡径性を損なわず、既設管に密着させて内周面形状に追従させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明に係るライニング材の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、既設管内に反転挿入された状態のライニング材を示す断面図である。
【図3】図3は、既設管を被覆した状態のライニング材を示す断面図である。
【図4】図4は、本発明に係るライニング材の反転工程を示す説明図である。
【図5】図5は、本発明に係るライニング材の加熱拡径工程を示す説明図である。
【図6】図6は、実施形態1に係るライニング材を示す断面図である。
【図7】図7は、既設管内に反転挿入された状態の実施形態1に係るライニング材を示す断面図である。
【図8】図8は、既設管を被覆した状態の実施形態1に係るライニング材を示す断面図である。
【図9】図9は、実施形態1に係るライニング材の更生過程ごとの様子を示す部分断面図である。
【図10】図10は、実施形態2に係るライニング材の更生過程ごとの様子を示す部分断面図である。
【図11】図11は、比較例としてのライニング材を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るライニング材の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1は、ライニング材の一例を示す断面図、図2は、既設管内に反転挿入された状態のライニング材を示す断面図、図3は、ライニング材が被覆された状態の既設管を示す断面図である。また、図4は、図1のライニング材の反転工程を示す説明図であり、図5は、本発明に係るライニング材の加熱拡径工程を示す説明図である。
【0023】
実施形態に係るライニング材の説明に先立って、まず、ライニング材の概略構成及び当該ライニング材を使用して行う既設管の更生工法について説明する。
【0024】
(ライニング材)
ライニング材1は、補修対象の既設管4の内周面にライニング層を形成するものであり、あらかじめ既設管4の内径より小さい外径の筒状に形成されている。ライニング材1は被覆層2と樹脂含浸層3とを備えた複層構造からなる。
【0025】
例示の形態では、ライニング材1は、最も外側に被覆層2を有する。被覆層2は、加圧流体の不透過性を有する合成樹脂フィルム材により筒状に形成されている。具体的には、被覆層2は、ポリエチレンフィルム、ポリウレタンフィルム、又は軟質塩化ビニル樹脂フィルム等によって形成されている。中でも、被覆層2には、0.2〜2.0mm程度の厚さを有するポリエチレンフィルム材が好適である。このほか、被覆層2には、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、もしくはポリ塩化ビニル等の樹脂フィルム材、又はエラストマーや合成ゴム系材料からなるシート材を用いて形成することも可能である。
【0026】
ライニング材1の被覆層2の内側には、樹脂含浸層3が単層又は複層にわたって設けられる。図1では、樹脂含浸層3として、二層に重ねた樹脂不織布31、31と、これら樹脂不織布31の間に介装された強化繊維層32とを備えている。樹脂不織布31は、液状の熱硬化性樹脂を主剤とする母材樹脂を含浸する基材であり、可撓性を有し樹脂含浸性に優れた材料からなる。
【0027】
樹脂不織布31には、ポリエステル製の不織布のほか、高性能ポリエチレン(HPPE)やポリプロピレンなどの高強度で高弾性材料からなる不織布を用いることができる。また、樹脂不織布31は、可撓性を有し多孔質の材料であれば、連続フィラメント又はステープルファイバーを含むフェルト、マット、スパンボンド、又はウェブなどから形成されてもよい。例えば、樹脂不織布31をチョップドストランドマットにより形成する場合、ガラス繊維等のストランドを一定長さに切断し、マット状に分散させた後、熱可塑性樹脂等の粘接着剤を均一に付与して熱溶融し、ストランド同士を接着させてマットとしたものを用いることが好ましい。
【0028】
樹脂含浸層3に介装されている強化繊維層32は、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維等の強化繊維材料からなる。中でも、得られる繊維強化樹脂成形品の強度や価格などを考慮すると、ガラス繊維が好適である。また、強化繊維層32に用いる強化繊維材料は、母材樹脂との接着性を高めるため、シランカップリング剤で前処理してあることが好ましい。
【0029】
例示の形態では、強化繊維層32は、2枚のシート状の補強材321、321を、筒状をなすように配設して形成されている。補強材321としては、2枚の幅寸法の合計が既設管4の内周長よりも長い寸法となるシート材が用いられている。つまり、強化繊維層32を複数枚の補強材321により構成する場合、複数枚の補強材321の総幅寸法は、既設管4の内径よりも長くなるように設定されていることが好ましい。
【0030】
そして、図1に示すように、各補強材321は幅方向の端部が、隣り合う他の補強材321に一定幅だけ重ね合わされ、ライニング材1の周方向に互いにオーバーラップするように配設されている。これにより、強化繊維層32の2箇所に、オーバーラップ部Wが形成されている。
【0031】
2箇所のオーバーラップ部Wは、ライニング材1の周方向に互いに対向する位置に形成されることが好ましい。また、オーバーラップ部Wが、3箇所以上に設けられる場合には、周方向に均等に配置されることが好ましい。オーバーラップ部Wを、ライニング材1において均等に配置することにより、ライニング材1としてほぼ均一な厚みを確保することができる。
【0032】
ライニング材1において、オーバーラップ部Wは、熱可塑性樹脂を含む接合手段により接合されている。かかるオーバーラップ部Wの接合形態については、後述の実施形態1及び2において説明する。
【0033】
樹脂含浸層3は、既設管4の更生工程において、図2に示すように反転されて既設管4に挿入され、未硬化の状態の母材樹脂が含浸され。その後、ライニング材1は、図3に示すように、既設管4内で硬化してライニング層を形成するものとなる。母材樹脂は、熱硬化性樹脂が主剤とされており、中でも、比較的粘度が低く、硬化後の物性に優れ、低コストであるエポキシ系樹脂を主剤とするエポキシ系樹脂混合物が好ましい。また、母材樹脂の主剤としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いてもよい。
【0034】
なお、エポキシ系主剤としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、又はビスフェノールF型エポキシ樹脂などを好適に用いることができる。この種のエポキシ系主剤は非常に高粘度であり、通常、10℃以下の低温条件下において、20000mPa・s以上の粘度を有する。そのため、エポキシ系主剤の低粘度化を、希釈剤を添加したり、低粘度の硬化剤を選択的に添加したりすることによって行うことが好ましい。希釈剤としては、エポキシ系主剤の粘度を低下し得るものであれば特に限定されるものではなく、反応性希釈剤であっても非反応性希釈剤であってもよい。また、両者を併用して用いてもよい。
【0035】
反応性希釈剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、プロピルフェノール、p−第三ブチルフェノール、p−第三アミルフェノール、ヘキシルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、オクタデシルフェノール及びテルペンフェノール等のモノグリシジルエーテルなどの、末端にグリシジルエーテル基を持つもの等を挙げることができる。また、非反応性希釈剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート及びベンジルアルコール等を挙げることができる。さらに、これらの希釈剤から選ばれた少なくとも一種以上を単独或いは併用して用いることができる。
【0036】
低粘度の硬化剤としては、特に限定されるものではないが、エポキシ系主剤の粘度を低下させ、適度な硬化速度を確保でき、さらに硬化後に溶出しないものが好ましい。このような性質を具備する硬化剤としては、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、及び脂環族ポリアミシ等のアミン系硬化剤を挙げることができる。中でも、非常に低粘度で、硬化後の物性に優れ、しかも安価な脂肪族ポリアミンが好適に用いられる。この脂肪族ポリアミンの具体例としては、ポリオキシプロピレンジアミン、トリメチロールプロパンポリ(オキシプロピレン)トリアミン、メタキシレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及びこれらの変性品等を挙げることができる。また、これらの硬化剤から選ばれた少なくとも一種以上を単独或いは併用して用いることもできる。
【0037】
なお、樹脂含浸層3は、単層構造とすることもでき、単層構造の樹脂含浸層3は、樹脂不織布やガラス繊維などの繊維体を筒状に形成することにより得られる。また、図1のライニング材1では、樹脂含浸層3として、筒状に形成した樹脂不織布31、31の間に、強化繊維材料からなる強化繊維層32を設けた例を示したが、樹脂含浸層3は、このほかにも多様な形態とすることが可能である。例えば、図1に示すライニング材1の樹脂含浸層3には、シート状の補強材321を2枚配設する例を示したが、本発明はこれに限定されず、3枚以上の複数枚の補強材321を配設しても、また1枚のシート状の補強材321を筒状にして配設してもよい。さらに、ライニング材1は、外層に樹脂含浸層3を設けるとともに内層に被覆層2を設けた構成であってもよい。
【0038】
(既設管の更生工法)
次に、上述のごとく構成される複層構造のライニング材1を用いた既設管4の更生工法について、図4及び図5を参照しつつ説明する。
【0039】
既設管4の更生作業に先立ち、既設管4に下水等の流体がある場合には、既設管4内からいったん除去する水抜き作業を行うことが好ましい。図4に示すように、既設管4の管路には、適当な間隔でマンホールM1、M2が設けられており、更生対象範囲の上流側及び下流側のマンホールM1、M2に堰き止め部材5を設ける。堰き止めた下水等の流体は、さらに上流の図示しないマンホールから地上を迂回させ、更生対象範囲の下流側管路へ排出する。また、既設管4内に存在する堆積物や木片等の異物を除去し、高圧水洗浄を行うことが好ましい。
【0040】
ライニング材1は可撓性を有する筒状体であることから、既設管4を更生するに際し、平坦状に折り畳んだコンパクトな状態で施工現場に搬入することができる。ライニング材1には、樹脂含浸層3に対して母材樹脂を含浸させる。具体的には、図1に示したライニング材1の被覆層2の内部を減圧するとともに樹脂含浸層3内を脱気しつつ、被覆層2の内部に未硬化の母材樹脂を注入する。これにより、母材樹脂を樹脂含浸層3に含浸させることができる。樹脂不織布31及び補強材321の繊維間の隙間は、脱気経路として作用するとともに、未硬化の母材樹脂の流路としても作用する。
【0041】
次いで、ライニング材1を反転させつつ既設管4内へ挿入する。図4に示すように、地上に設置した反転挿入機6にライニング材1を取り付け、圧縮空気や加熱水などの流体圧をライニング材1の外周側(被覆層2側)から作用させる。ライニング材1は、マンホールM1を通り、反転しながら既設管4内に進行する(反転工法)。これにより、ライニング材1は被覆層2が内側となるように裏返りつつ、順次、既設管4内へ挿入されていく(図2参照)。なお、ライニング材1のオーバーラップ部Wは、図2に示したように、管路断面に対し左右の内側部に配置されることが好ましい。これにより、ライニング材1の上部側と下部側とに補強材321が均等に配設され、既設管4に作用する垂直荷重に十分な耐力を発揮させることが可能となる。
【0042】
次いで、反転したライニング材1は、既設管4内で、蒸気等の流体圧の作用により拡径し、樹脂含浸層3が既設管4の内壁に密着する(図3参照)。ライニング材1は、樹脂含浸層3に含浸している母材樹脂が硬化することで、既設管4と一体化し、ライニング層を形成する。このライニング層は、被覆層2で覆われた状態となり、既設管4内に平滑な内周面を形成する。ライニング材1は、強化繊維層32がオーバーラップ部Wを有することにより、ライニング材1の外径を既設管4の内径よりも小径にて形成して、既設管4内への挿入作業を容易にするとともに、既設管4の内部で拡径することが可能となる。
【0043】
既設管4を更生するライニング材1としては、図1に例示した、外層に被覆層2を有し、内層に樹脂含浸層3を有する層構成のものに限定されない。例えば、ライニング材1は、初めから被覆層2が内層として形成され、この被覆層2の外側に樹脂含浸層3を備えた層構成であってもよい。つまり、この場合、ライニング材1は、図1とは内周側と外周側とが逆順の積層形態を有する。このようなライニング材1であれば、反転されることなく既設管4に挿入された後、拡径され、既設管4の内壁にライニング層を形成する手順が採用される(形成工法)。
【0044】
具体的には、母材樹脂を満たした容器内にライニング材1を浸漬することによって母材樹脂を樹脂含浸層3に含浸させる。次いで、ライニング材1の両端部に閉塞部材71が取り付けられ、マンホールM1、M2を利用して既設管4内に引き込んで配置される。図5に示すように、ライニング材1の内部には、地上のボイラーユニット7から導入される蒸気等の圧流圧が作用し、既設管4内で拡径する。ライニング材1は、拡径された樹脂含浸層3が既設管4の内壁に押圧されて密着する。また、ライニング材1は、樹脂含浸層3に含浸されている母材樹脂が加熱により硬化する。これにより、図3に示したように、ライニング材1は既設管4と一体化し、ライニング層を形成する。既設管4は被覆層2で覆われた状態となり、既設管4内に平滑な内周面を形成する。
【0045】
ライニング材1は、上記反転工法又は形成工法のいずれの工法で施工された場合も、ライニング層の内周面(すなわち、更生された既設管4の内表面)が被覆層2で覆われた状態となり、表面平滑性に優れ、耐水性及び耐薬品性の高い保護層となる。
【0046】
<実施形態1>
次に、実施形態1に係るライニング材について説明する。図6は、実施形態1に係るライニング材を示す断面図であり、図7は、既設管内に反転挿入された状態のライニング材を示す断面図であり、図8は、ライニング材が被覆された状態の既設管を示す断面図である。また、図9(a)〜図9(d)は、実施形態1に係るライニング材の一部を示し、既設管の更生過程でのライニング材の状態を段階的に示した部分断面図である。
【0047】
なお、図9及び後述する図10、11においては、簡単のため樹脂含浸層3に含浸する母材樹脂を省略し、ライニング材1の断面構造を模式的に図示している。
【0048】
この実施形態1においては、外層に被覆層2、内層に樹脂含浸層3が設けられたライニング材1について説明し、あわせてライニング材1を反転工法により既設管4内に施工する例について説明する。
【0049】
図6に示したように、ライニング材1は樹脂含浸層3に強化繊維層32が介装されている。強化繊維層32は、1枚のシート状の補強材321が、幅方向の端部同士を重ね合わせて略筒状にされて配設されている。周方向に重ねられた両端部は、オーバーラップ部Wを形成している。1枚の補強材321の幅寸法は、既設管4の内周長よりも長く設定されている。これにより、ライニング材1の拡径後も、強化繊維層32は補強材321同士の重なりが保持され、補強材321を周方向に途切れることなく配置することができる。
【0050】
ライニング材1は、反転されながら既設管4内に挿入される(反転工法)。これにより、図7に示すように、ライニング材1は被覆層2が内側となるように裏返りつつ、順次、既設管4内へ挿入されていく。反転したライニング材1は、既設管4内で、蒸気等の流体圧の作用により拡径され、図8に示すように、樹脂含浸層3が既設管4の内壁に密着するものとなる。
【0051】
ここで、既設管4の更生過程の各段階におけるライニング材1の状態を説明すると、ライニング材1は、図9(a)に示すように、反転前には、外周側から順に、被覆層2と樹脂含浸層3とが積層され、樹脂含浸層3は、樹脂不織布31、強化繊維層32、及び樹脂不織布31が順に積層されて構成されている。
【0052】
例えば、被覆層2には、厚さ約0.7mmのポリエチレン製フィルム材を用いることができる。樹脂不織布31には、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維からなる厚さ約1mmの不織布を用いることができる。強化繊維層32の補強材321には、Eガラス組成からなる1500g/mの目付を有するガラスクロス等を用いることができる。
【0053】
なお、樹脂含浸層3は、外周側と内周側とで異なる種類及び厚みの樹脂不織布31を積層した構成であってもよく、例えば前記不織布のほか、厚さ約3mmのポリエステル樹脂不織布等も用いることができる。
【0054】
強化繊維層32のオーバーラップ部Wは、熱可塑性樹脂を含む接合手段33により接合されている。これにより、強化繊維層32が全体として筒状をなすように形成されている。
【0055】
実施形態1に係るライニング材1は、オーバーラップ部Wが接合手段により接合されている。例示の形態では、接合手段33として熱可塑性樹脂材料を主成分とするホットメルト接着剤を用いて、オーバーラップ部Wが接合されている。ホットメルト接着剤の一例としては、柔軟性、接着性、及び熱安定性等のいずれにも優れたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を主成分とする接着剤が好ましい。このほか、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、オレフィン系、合成ゴム系等のホットメルト接着剤も好適に用いることができる。
【0056】
接合手段33が、ホットメルト接着剤であることにより、接合時にはオーバーラップ部Wに気泡を生じるおそれがなく、ホットメルト接着剤の再熱加工性によって加熱拡径時にひび割れやボイド等を生じるおそれもない。
【0057】
図9(a)に示す形態では、補強材321の端部のオーバーラップ部Wの幅全体に、ホットメルト接着剤が面状に塗布されて接合されている。ホットメルト接着剤は、例えばホットメルトガンもしくはスプレー装置等により容易に塗布することができる。
【0058】
また、オーバーラップ部Wには、シート状のホットメルト接着剤を用いてもよい。ホットメルト接着剤には、前記の塗布タイプ(反応性ホットメルト)と、ウェブタイプ(ホットメルトウェブ)とが知られている。ホットメルトウェブは、例えばナイロン系あるいはポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂材からなる多数の繊維状のホットメルト接着剤であり、網状に構成されるため、通気性を有して軽量である。したがって、母材樹脂を樹脂含浸層3に含浸させるとき、未硬化の母材樹脂の流動を妨げることがなく、ライニング材1に好適に用いることができる。
【0059】
オーバーラップ部Wの接合は、オーバーラップ部Wに熱風を供給し、加熱しながら、ローラ等を用いて圧接することにより行う。また、ホットメルトテープ材をオーバーラップ部Wに挟み、アイロン等の加熱手段をあてがい、又は熱風を供給して加熱し、オーバーラップ部Wを接着してもよい。
【0060】
接合手段33により接合されたオーバーラップ部Wは、図9(b)に示すように、既設管へのライニング材1の施工時に、内周側と外周側とが反転されても、その接合状態を安定的に保持する。また、このとき、オーバーラップ部Wは、熱可塑性樹脂を含むホットメルト接着剤(接合手段33)により接合されているので、ライニング材1が加熱流体により加圧され、加圧流体により拡径されたとき、その接合が解除され得る状態であって、いわば仮止めされた状態にある。
【0061】
つまり、既設管4の更生工程において、ライニング材1が加熱されると、ライニング材1に付与された熱、及び母材樹脂の硬化反応による発熱により、接合手段33が軟化し、もしくは破壊される。これにより、筒状の強化繊維層32は、個別のシート状の補強材321に分離する。さらに、ライニング材1が拡径されることによって、強化繊維層32も径方向に押圧され、図9(c)に示すように、シート状の補強材321が互いに周方向にずれることとなる。その結果、ライニング材1は十分に拡径され、加熱後には、図9(d)に示すように、管路の内周面に沿った形状に硬化することが可能となる。
【0062】
これに対し、比較例として示す図11(a)〜図11(d)では、ライニング材10として強化繊維層の補強材132同士を接合せずに形成した場合を示している。図11(a)に示すように、ライニング材10の反転前は、隣り合う補強材132の端部は、一定幅でオーバーラップしている。これに対し、図11(b)に示すように、ライニング材10を反転させると、接合されていない補強材132の端部が相互にずれてしまい、縒れたり折り畳まれたりする不具合を生じる。このような不具合は、ライニング材10の反転前においても、例えば樹脂含浸層131の製造時や、ライニング材10の保管及び搬入作業時にも生じ得る。
【0063】
その後、図11(c)に示すライニング材10の加熱・拡径時には、補強材132が周方向にずれてライニング材10の拡径を許容する。しかし、図11(d)に示すように、ライニング材10の加熱後にも補強材132が縒れた状態のまま維持されてしまうこととなる。このような状態のまま母材樹脂の硬化反応が進むと、被覆層12の内部で補強材132の配置形態に不均一な部分を生じ、硬化後には応力集中の要因となることから、安定した強度性能を確保することが困難になる。
【0064】
したがって、本実施形態に係るライニング材1が、接合手段33によってオーバーラップ部Wが接合されていることで、このような不具合を回避することができ、ライニング材1における拡径後の強化繊維の配置を均等にすることができ、高い耐圧性能と適切な強度確保が可能となる。
【0065】
なお、このようなオーバーラップ部Wの接合手段33には、ホットメルト接着剤に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂からなる係合素子を備えた面ファスナも好適に用いることもできる。つまり、接合手段33を面ファスナとする場合にも、熱可塑性樹脂からなる係合素子が、ライニング材1の加熱時に軟化又は破壊されて接合を解除するものとなり、補強材321をライニング材1の拡径に追従させることができる。
【0066】
<実施形態2>
次に、実施形態2に係るライニング材について説明する。図10(a)〜図10(d)は、実施形態2に係るライニング材を示し、既設管の更生過程でのライニング材の状態を段階的に示した部分断面図である。
【0067】
この実施形態に係るライニング材は、前記実施形態1に係るライニング材1の構成と接合手段の形態が異なっており、ライニング材の基本構成については共通である。そこで、この実施形態2の説明では主に接合手段について説明し、前記実施形態1と共通する部分については共通符号を用いて重複する説明を省略する。
【0068】
実施形態2に係るライニング材1は、接合手段33がオーバーラップ部Wに線状に設けられている。図10(a)に例示するように、接合手段33は複数枚のシート状の補強材321の各端部(幅方向の辺縁部)に沿って線状に設けられている。これにより、強化繊維層32を構成する補強材321が、オーバーラップ部Wにおいて相互に接合され、全体として筒状をなす形状とされている。
【0069】
接合手段33としては、前記実施形態1と同様の熱可塑性樹脂材料を主成分とするホットメルト接着剤を用いることができる。この場合、補強材321の端部に対し、ホットメルトガンを用いてホットメルト接着剤が線状に吐出される。かかる接合手段33は、補強材321同士を線状に接合しうる手段であれば、ホットメルト接着剤に限定されるものではなく、例えば、熱可塑性樹脂繊維からなる縫合糸を用いて、補強材321同士を縫合することにより相互に接合することもできる。
【0070】
接合手段33により接合されたオーバーラップ部Wは、図10(b)に示すように、ライニング材1が反転されても接合状態が安定的に維持される。
【0071】
次いで、ライニング材1が加熱されると、ライニング材1に付与された熱により、また、母材樹脂の硬化反応による発熱により、接合手段33が軟化し、もしくは破壊される。これにより、図10(c)に示すように、強化繊維層32は、個別のシート状の補強材321に分離し、ライニング材1が拡径されることによって、これらの補強材321が互いに周方向にずれることとなる。その結果、ライニング材1は十分に拡径され、加熱後には、図10(d)に示すように、管路の内周面に沿って均一な厚みで硬化することが可能となる。
【0072】
以上のように構成されるライニング材1は、既設管4の内周面の形状に追従しうる弾性、可撓性、及び柔軟性を有するものとなる。さらに、ライニング材1の外径を既設管4の内径よりも小径にて形成することができるので、既設管4内への挿入を容易にする。また、ライニング材1は強化繊維層32を含む構成であり、強度確保が可能であるとともに、既設管4内で拡径させることができる。
【0073】
特に、ライニング材1における強化繊維層32は、複数枚のシート状の補強材321が均等に配設されるとともに、補強材321同士が接合手段で接合されている。これにより、ライニング施工過程で強化繊維層32の補強材321の配置に偏りを生じることがなく、ライニング材1の拡径に追従して全体的に十分に拡径することが可能となる。そのため、既設管4の内周面の凹凸や段差等にライニング材1の形状を追従させることができ、拡径後の強化繊維を均等な配置とすることができて、高い耐圧性能と適切な強度確保が可能となる。
【0074】
なお、オーバーラップ部Wの接合手段33としては、上記の熱可塑性樹脂材料を含むものに限定されず、熱可塑性樹脂材料を含まない接合手段であってもよい。例えば、オーバーラップ部Wを生糸等の一般的な縫合糸により縫製加工して接合したり、面ファスナ、両面テープ、粘着テープ、その他の接合手段により接合したりして、仮止めする構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、老朽化したり補修が必要となったりした既設管の更生に用いるライニング材に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 ライニング材
2 被覆層
3 樹脂含浸層
31 樹脂不織布
32 強化繊維層
321 補強材
33 接合手段
W オーバーラップ部
4 既設管
5 堰き止め部材
6 反転挿入機
7 ボイラーユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管の内径より小さい外径の筒状に形成され、既設管内に挿入及び拡径されて、既設管の内周面をライニングする複層構造のライニング材であって、
液状の熱硬化性樹脂を主剤とする母材樹脂を含浸する樹脂含浸層と、不透過性材料からなる被覆層とを備え、
前記樹脂含浸層には、強化繊維材料からなるシート状の補強材が含まれ、
前記補強材は、単数又は複数枚で既設管の内周長よりも長い総幅寸法を有し、幅方向の端部同士を重ね合わせてオーバーラップ部を有する略筒状にして配設され、
前記オーバーラップ部は接合手段により接合され、加熱又は拡径されることによって該オーバーラップ部の接合が解除されることを特徴とするライニング材。
【請求項2】
請求項1記載のライニング材において、
前記接合手段は、熱可塑性樹脂材料を主成分とするホットメルト接着剤であることを特徴とするライニング材。
【請求項3】
請求項2に記載のライニング材において、
前記ホットメルト接着剤はウェブ状のホットメルトテープであることを特徴とするライニング材。
【請求項4】
請求項1に記載のライニング材において、
前記接合手段は縫合糸であることを特徴とするライニング材。
【請求項5】
請求項4に記載のライニング材において、
前記縫合糸は熱可塑性樹脂繊維からなる糸であることを特徴とするライニング材。
【請求項6】
請求項1に記載のライニング材において、
前記接合手段は、熱可塑性樹脂からなる係合素子を備えた面ファスナであることを特徴とするライニング材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つの請求項に記載のライニング材において、
前記樹脂含浸層は複数枚のシート状の補強材が含まれ、
前記オーバーラップ部が周方向に均等に配置されていることを特徴とするライニング材。
【請求項8】
請求項7に記載のライニング材において、
前記オーバーラップ部が対向配置されていることを特徴とするライニング材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−126129(P2012−126129A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246357(P2011−246357)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】