説明

ライニング材

【課題】 熱可塑性樹脂をマトリックスとする繊維強化複合材料からなるライニング材として、管状体の内面又は外面形状に対する追従性に優れ、取り扱いが容易で作業性もよく、十分な強度発現を期待することのできるライニング材を提供する。
【解決手段】 ライニング材1は、複数層の複合ライナー11を備えて構成されている。複合ライナー11は、一方向に引き揃えられた多数本の強化繊維フィラメント31と、熱可塑性樹脂フィルム32とが加熱及び加圧されて一体化したシート状基材3を、略筒状に成形してなる筒状体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料からなるライニング材に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道管等の地中埋設管を開削せずに更生する方法として、未硬化のFRP筒状体を管路内に挿入する方法や、熱可塑性樹脂製の管状のライニング材を既設管渠内に挿入して既設管内面に貼り付けることにより、この既設管内面をライニングする方法などがあり、実用化されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているように、既設管の内径よりも小径であって、形状記憶温度において管状に形状回復するライニング材を既設管内に挿入し、ライニング材を加熱して形状回復させた後、加圧して膨張拡径させ、既設管の内周面に密着させてライニングする更生方法がある。
【0004】
また、最近では、特許文献2や特許文献3に記載されているように、強化繊維で補強された熱可塑性複合材料からなるライニング材をダクト内に挿入し、そのライニング材を加熱するとともに加圧し、既設管に接触させてライニングする方法も提案されている。
【0005】
具体的に、この特許文献2や特許文献3に開示されているライニング材は、加熱される前段階では、熱可塑性プラスチック材料からなる熱可塑性フィラメントと、ガラス繊維からなる強化繊維フィラメントとの複合材料によって略筒型に形成されている。そして、このライニング材を使用した既設管の更生方法としては、ダクト内に前記ライニング材を挿入した後、加熱手段によってライニング材を加熱することで、前記熱可塑性フィラメントを溶融させる。これにより、溶融したプラスチック材料の中に強化繊維フィラメントが分散されることになる。その後、ライニング材の内側に圧力を加えて拡径させると共にプラスチック材料を冷却固化させることで、強化繊維フィラメントで補強された強固な複合ライニング層が成形され、この複合ライニング層によって既設管が更生されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−230412号公報
【特許文献2】特許第4076188号公報
【特許文献3】特表2004−508989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前記特許文献2や特許文献3に開示されているような、繊維で補強された熱可塑性複合材料からなるライニング材を使用したライニング方法にあっては、以下に述べるような課題があり、実用化を図るためには未だ改良の余地があった。
【0008】
先ず、熱可塑性フィラメントを構成しているプラスチック材料の溶融に比較的長い時間を要することが挙げられる。例えば、老朽化した既設管の亀裂等の損傷箇所から地中水が既設管内部に浸入している場合、その部分では浸入水によってライニング材が冷やされてしまい、プラスチック材料の溶融を迅速に行えなくなる。その結果、熱可塑性フィラメント全体を溶融させるのに比較的長い時間を要することになり、施工時間の長期化に繋がってしまう。
【0009】
また、上述したようにライニング材の一部分においてプラスチック材料の溶融が迅速に行えない状況になると、加熱の不均一化に伴って熱可塑性フィラメントに溶け残りが発生することがある。このような溶け残りが発生すると、その部分では、プラスチック材料の中に強化繊維フィラメントを分散させた構成が得られなくなり、ライニング材の強度の不均一化を招いてしまうことになり好ましくない。
【0010】
前記溶け残りの発生を回避するべく、加熱温度を高く設定したり、加熱時間を長く設定したりすることが考えられる。しかしながら、これでは、施工時間の長期化を免れ得ず、また、部分的に加熱が過剰になるおそれもある。加熱過剰箇所では、プラスチック材料の一部分が流動してライニング材に偏肉が発生する可能性があり、このような偏肉が発生した場合にもライニング材の強度の不均一化を招いてしまうことになる。
【0011】
また、強化繊維フィラメントと熱可塑性フィラメントとの複合材料では、ライニング材の製造工程及び賦形工程の中で、繊維束同士の摩擦等によって繊維が切れやすく、ライニング材の強度低下や不均一化を招いたり、製造工程内でのライントラブルを発生させたりするおそれがある。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱可塑性樹脂をマトリックスとする繊維強化複合材料からなるライニング材に対し、熱可塑性樹脂の含浸性が良好で、力学的特性に優れて高い強度を安定的に発現させることができるとともに、取り扱い性及び作業性がよく施工時間の短縮化を図ることのできるライニング材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、管状体の内面又は外面をライニングするライニング材を前提とする。このライニング材に対し、一方向に引き揃えられた多数本の強化繊維フィラメントと、熱可塑性樹脂フィルムとが加熱及び加圧されて一体化したシート状基材を略筒状に成形してなる筒状体を具備させる構成としている。
【0014】
この特定事項により、熱可塑性樹脂材料を強化繊維フィラメント間に含浸させてライニング層を形成するプロセスの一部を、ライニング施工前の段階で予め行っておくことができる。これにより、ライニング施工現場での加熱及び加圧作業に要する時間を短縮することができ、ライニング材の加熱温度を過剰に高く設定する必要がなくなり、かつ、十分な強度を安定的に発現させることが可能となる。その結果、管状体に対して均質なライニング層を迅速かつ経済的に形成することが可能となる。加えて、ライニング材は、熱可塑性樹脂をマトリックスとする繊維強化複合材料からなるので、柔軟性が高く形態安定性にも優れている。そのため、ライニング材は、取り扱いが容易であり、管状体の曲面への形状追従性も極めて高い。したがって、管状体のライニングを作業性よく行うことが可能となり、管状体の内面又は外面に十分に密着したライニング層を形成することができる。
【0015】
ライニング材のより具体的な構成として次のものが挙げられる。先ず、前記筒状体を、前記シート状基材を繊維配向方向に沿って一定幅に裁断したテープ材又は該テープ材の集束体を組糸とする組物からなる構成とすることである。
【0016】
この場合、前記筒状体は、強化繊維フィラメントを含んで強度を有する組糸を交差させるとともに、前記組糸を長手方向に対し角度を与えて略筒状に組むことで形成される。これにより、前記筒状体は、ライニング材として拡径性、縮径性、及び曲がり追従性のいずれにも優れ、管状体の内面形状又は外面形状に追従する高い柔軟性を備えたものとなる。加えて、前記筒状体は、強化繊維フィラメントが切れ目なく連続的に略筒状の組物を構成するので、高い強度を有するものとなる。かかる組物としては、丸打組物、平打組物、又は角打組物のいずれの形態であってもよいが、より好ましくは、中空円筒形状に形成される丸打組物とすることである。
【0017】
また、前記ライニング材において、前記筒状体を、前記シート状基材を繊維配向方向に沿って一定幅に裁断したテープ材又は該テープ材の集束体が製編された編物により略筒状に形成する構成であってもよい。
【0018】
これにより、前記筒状体は、強化繊維フィラメントを含んで製編されて高い強度を有する。また、前記筒状体は、編目の交差部等においてテープ材又は該テープ材の集束体が挙動し、編地による変形性とすべり性によって構造が自由に変形しやすく、外力により容易に変形することが可能となる。このため、前記筒状体は、ライニング材として、異方性が小さく、高い強度を発現し得るものとなるとともに、管状体の内面形状又は外面形状に好適な追従性と柔軟性とを備えたものとなる。かかる筒状体は、製編された一定幅の編地の端辺同士を接合して略筒状に形成されても、あるいは、編機により初めから略筒状に製編することにより形成されてもよい。
【0019】
また、前記ライニング材において、前記筒状体を、前記シート状基材を繊維配向方向に沿って一定幅に裁断したテープ材又は該テープ材の集束体が製織された織物の端辺同士を接合して略筒状に形成する構成であってもよい。
【0020】
これにより、前記筒状体は、強化繊維フィラメントを含んで製織されて高い強度を有する。また、前記筒状体は、織目の交差部等においてテープ材又は該テープ材の集束体が挙動し、外力により容易に変形し得るものとなる。このため、管状体の内面形状又は外面形状に追従する高い柔軟性を備えたものとなる。また、前記筒状体は、ライニング材として、伸び抵抗が少なく、異方性が小さく、かつ高い強度を有するものとなる。
【0021】
また、前記ライニング材において、前記筒状体を、前記シート状基材からなるシート材の端辺同士を接合して略筒状に形成する構成であってもよい。
【0022】
これにより、多様な管径の管状体に対応する筒状体を容易に形成することができ、ライニング材として自由曲面に対する追従性が高められ、管状体の内面又は外面にシワ無く沿わせることが可能となる。
【0023】
また、前記ライニング材において、前記シート状基材は、該シート状基材に対する強化繊維フィラメントの体積比率が10〜60vol%とされることが好ましい。
【0024】
これにより、円滑な含浸性のもとでシート状基材が構成され、ライニング材としての力学的特性を高めることができる。
【0025】
また、前記ライニング材において、複数の前記筒状体を内外に積層して複数層の略筒状とする構成であってもよい。
【0026】
これにより、ライニング材としての強度がさらに高められ、前記筒状体の特性を層ごとに異ならせて多様なライニング形態に対応させることも可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、管状体の内面又は外面をライニングするライニング材に対し、熱可塑性樹脂フィルムと強化繊維フィラメントとを一体化したシート状基材を略筒状に成形して形成した筒状体を具備させていることから、ライニング施工時の熱可塑性樹脂の含浸性が極めて良好となり、力学的特性に優れたライニング材とすることができる。また、本発明に係るライニング材は、従来の熱可塑性樹脂フィラメントと強化繊維フィラメントとの複合材料からなるものとは異なり、前記シート状基材を略筒状に成形する構成であるので、製織、製編、又は製組等により略筒状に成形する過程で、繊維束同士の摩擦などによって繊維が切れるという不都合を生じることがない。これにより、高い強度を安定的に発現させ、比較的短時間で完全な含浸状態のライニング層を形成することができ、施工時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態1に係るライニング材を示す断面図である。
【図2】前記ライニング材を構成するシート材の一例を示す部分断面図である。
【図3】前記ライニング材を構成するシート材の他の例を示す部分断面図である。
【図4】前記ライニング材の他の構成例を示す断面図である。
【図5】前記ライニング材のさらに他の構成例を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態2に係るライニング材におけるテープ材の一例を示す断面図である。
【図7】前記ライニング材における集束体の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態2に係るライニング材を示す斜視図である。
【図9】前記ライニング材の他の構成例を示す斜視図である。
【図10】前記ライニング材のさらに他の構成例を示す断面図である。
【図11】本発明の実施形態3に係るライニング材を構成するシート材の一例を示す説明図である。
【図12】本発明の実施形態4に係るライニング材を構成するシート材の一例を示す説明図である。
【図13】管状体のライニング施工方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係るライニング材について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
実施形態に係るライニング材1は、熱可塑性樹脂をマトリックスとする繊維強化複合材料からなる。ライニング材1は、一方向に引き揃えられた多数本の強化繊維フィラメントと、熱可塑性樹脂フィルムとが加熱及び加圧されて一体化したシート状基材3を略筒状に成形してなる筒状体を具備している。
【0031】
かかるライニング材1には、熱可塑性樹脂と強化繊維フィラメントとの組合せ、シート状基材3の構造、及びシート状基材3を用いて略筒状に成形する手法等により多様な形態が含まれる。以下では、そのうちのいくつかを例に挙げ、実施形態1〜4として説明する。
【0032】
(実施形態1)
図1〜図3は、本発明の実施形態1に係るライニング材1を示し、図1は管状体5の内部に配置したライニング材1を示す断面図、図2及び図3はライニング材1を構成するシート状基材3の例を示す部分断面図である。
【0033】
ライニング材1は、管状体5の内面又は外面をライニング被覆するものであり、図1に示すように、筒状体の複合ライナー11が内外に積層されて構成されている。
【0034】
複合ライナー11は、熱可塑性樹脂をマトリックスとする繊維強化複合材料からなるシート状基材3により略筒状に形成されている。すなわち、複合ライナー11は、シート状基材3からなるシート材2を円筒状とし、その端辺同士を重ね合わせて接合することにより形成されている。
【0035】
図2及び図3は、シート状基材3の例をそれぞれ示す部分断面図である。シート状基材3は、一方向に引き揃えられた多数本の強化繊維フィラメント31と、熱可塑性樹脂フィルム32とが一体化された幅広のシート状の基材である。
【0036】
図2に示す例では、シート状基材3は、熱可塑性樹脂フィルム32の両面に多数本の強化繊維フィラメント31が配置されて一体化されている。また、図3に示す例では、シート状基材3は、2枚の熱可塑性樹脂フィルム32に、多数本の強化繊維フィラメント31がサンドイッチ状に挟みこまれて一体化されている。シート状基材3は、このほか、熱可塑性樹脂フィルム32の片面のみに多数本の強化繊維フィラメント31が配置された形態であっても、熱可塑性樹脂フィルム32と多数本の強化繊維フィラメント31とが交互に積層された形態であってもよい。いずれも、一方向に引き揃えた多数本の強化繊維フィラメント31と、熱可塑性樹脂フィルム32とを加熱しつつ加圧することにより、熱可塑性樹脂フィルム32を溶融させ、強化繊維フィラメント31に溶融樹脂を含浸させて一体化されている。
【0037】
シート状基材3は、多数本の強化繊維フィラメント31に熱可塑性樹脂フィルム32の熱可塑性樹脂材料を完全に含浸させたものである必要はない。すなわち、図2に示すように、シート状基材3の断面において、少なくとも強化繊維フィラメント31の一部が熱可塑性樹脂フィルム32に接触又は埋没しており、熱可塑性樹脂フィルム32に完全に含浸していない部分が存在する状態、つまり半含浸状態(セミプレグ状態)であってもよい。シート状基材3は、強化繊維フィラメント31と熱可塑性樹脂フィルム32との一体化の度合いによって、全含浸状態又は半含浸状態のシート状の基材とすることができる。
【0038】
熱可塑性樹脂フィルム32を構成する熱可塑性樹脂材料と、強化材である強化繊維フィラメント31との組合せは、多種多様である。熱可塑性樹脂材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド(PA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、又は、ポリブチレンテレフタレート(PBTP)等が挙げられる。また、強化繊維フィラメント31としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維等が挙げられる。
【0039】
このように、シート状基材3は、強化繊維フィラメント31に熱可塑性樹脂材料が実質的に含浸又は被覆されてなる繊維強化樹脂連続体である。シート状基材3の成形は、例えば、多数の強化繊維フィラメント31束と熱可塑性フィルム32とをそれぞれ送りロール装置から繰り出す。このとき、強化繊維フィラメント31束は、強化繊維フィラメント31の繊維束を開繊させた状態で、複数束を引き揃えながら、送りロール装置等から繰り出される。また、熱可塑性樹脂フィルム32の片面又は両面に対し、引き揃えられた多数の強化繊維フィラメント31束を当接させつつ送り、加熱プレス装置へ搬送する。その際、強化繊維フィラメント31の繊維束と熱可塑性樹脂フィルム32との積層形態によって、上述のとおり多様な形態からなるシート状基材3を形成することができる。
【0040】
そして、加熱プレス装置の2本のローラにより、これらの強化繊維フィラメント31束及び熱可塑性樹脂フィルム32を挟み込み、熱可塑性樹脂フィルム32を構成する熱可塑性樹脂材料の溶融温度以上の温度で加熱しつつ、圧力を加える。2本のローラ間には、任意のクリアランスが設けられ、シート状基材3の厚みを規定している。熱可塑性樹脂フィルム32は溶融し、溶融した熱可塑性樹脂材料を多数本の強化繊維フィラメント31の相互間に含浸又は半含浸させた後、冷却する。これにより、強化繊維フィラメント31と熱可塑性樹脂フィルム32とが一体化し、シート状基材3が得られる。
【0041】
シート状基材3は、前記の加熱条件及び加圧条件を変えることによって、強化繊維フィラメント31間への熱可塑性樹脂材料の含浸を完全でない状態、つまり半含浸状態とすることができる。強化繊維フィラメント31間に熱可塑性樹脂を完全に含浸するには、加熱及び加圧する時間が長くかかる。しかし、半含浸状態とするのであれば加熱及び加圧する時間を短縮することができ、シート状基材3の成形にかかる時間を短縮化することができるので、効率よく生産することができる。また、半含浸状態であると、シート状基材3の内部で強化繊維フィラメント31が挙動しやすく、柔軟性を有して、加工性も高めることができる。さらに、シート状基材3は、半含浸状態であっても、最終的には、複合ライナー11としてライニング施工時に再加熱及び再加圧されて完全な含浸状態に導かれる。よって、十分な強度を確保できるとともに、ライニング施工時の加熱及び加圧時間を短縮することも可能となる。
【0042】
より具体的な構成として、シート状基材3は、図2に示すように、断面において熱可塑性樹脂フィルム32を構成する熱可塑性樹脂材料に、強化繊維フィラメント31が部分的に埋設された状態で形成されている。このような半含浸状態は、強化繊維フィラメント31全体の表面積の合計をSt(mm2)とし、熱可塑性樹脂材料と接している部分の強化繊維フィラメント31の表面積の合計をSa(mm2)としたとき、次式で求める表面積率Sf(%)により表すことができる。
【0043】
Sf=Sa/St×100 (%)
ここで、表面積率Sfを50%以上に制御することにより、半含浸状態のシート状基材3が得られ、複合ライナー11に好適なものとなる。これに対し、表面積率Sfが50%に満たないと未含浸部分の割合が高く、シート状基材3として前記の効果が得られないこととなる。
【0044】
また、シート状基材3は、強化繊維フィラメント31の含有量を強化繊維体積率Vf(vol%;強化繊維含有率)により制御することが好ましい。つまり、シート状基材3の構成材料全体に占める強化繊維フィラメント31の体積分率である強化繊維体積率Vfを、10〜60vol%の範囲内に制御することが好ましい。これにより、得られるシート状基材3において高い力学的特性を発現させることが可能となる。
【0045】
より好ましくは、強化繊維体積率Vfを40〜60vol%の範囲内に制御することである。強化繊維体積率Vfが60vol%を超えると、シート状基材3の成形時に強化繊維フィラメント31が熱可塑性樹脂材料の流れを阻害するおそれがあり、樹脂含浸性が悪くなり、円滑な生産が困難になる。なお、シート状基材3における強化繊維体積率Vfは、ライニング対象となる管状体5の要求強度等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0046】
また、シート状基材3は、多様な曲面のライニングに対応し得る形状追従性を備えさせるため、厚さが1mm以下で形成されることが好ましく、0.2mm以下で形成されることがより好ましい。
【0047】
本実施形態では、前記構成に係るシート状基材3が、管状体5の内径に合わせて裁断されて一定の幅及び長さを有するシート材2となされ、ライニング材1の複合ライナー11を構成している。図1に示す形態では、ライニング材1は、シート状基材3そのものからなるシート材2を、略筒状(円筒状)として接合形成した複合ライナー11を、内外二重に配置した2層構造で構成されている。複合ライナー11の接合部11aは、シート材2の端辺同士を重ね合わせてシングルラップ又はオフセットラップとし、相互に熱融着させることにより接合されている。このような複合ライナー11の接合部11aは、熱可塑性樹脂材料からなる縫合糸により縫合して接合されてもよい。
【0048】
ここで、シート状基材3からなるシート材2における、熱可塑性樹脂フィルム32を構成する熱可塑性樹脂材料と、強化材である強化繊維フィラメント31との組合せ、シート材2のシート形状、及び積層構成等に係る実施例を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1において、最下欄の積層構成は、シート状基材3を成形する際の強化繊維フィラメント31の繊維束と、熱可塑性樹脂フィルム32との積層形態を示す。図2に示すように、熱可塑性樹脂フィルム32の両面に多数本の強化繊維フィラメント31が配置された形態の場合は、「繊維/フィルム/繊維」、図3に示すように、2枚の熱可塑性樹脂フィルム32に、多数本の強化繊維フィラメント31が挟みこまれた形態の場合は、「フィルム/繊維/フィルム」としてそれぞれ示している。
【0051】
また、ライニング材1は、前記のように複合ライナー11を内外二重に配置する構成に限られない。図4及び図5は、ライニング材1の他の構成例を示す断面図である。
【0052】
図4に示すライニング材1は、単層からなる複合ライナー11で構成されている。単層構造のライニング材1は、比較的管径の小さいストレート管の管状体5のライニングに適している。
【0053】
図5に示すように、ライニング材1は、3層の複合ライナー11により構成されてもよい。また、ライニング材1は、複合ライナー11をさらに積層させて4層以上の多層構造とされてもよい。このような3層以上の多層構造とする場合、各層ごとに、複合ライナー11を構成するシート材2において、熱可塑性樹脂材料の種類を変えたり、強化繊維フィラメント31の表面積率Sfや強化繊維体積率Vfを異ならせたりすることで、多様な特性を持たせたライニング材1を形成することが可能となる。これにより、ライニング材1を要求されるライニング特性に対応させることが可能となる。複合ライナー11を積層する場合、各層間で接合部11aが重なり合うことのないように、周方向に均等に配置させることが好ましい。
【0054】
例えば、図5に示す3層構造のライニング材1では、最外層を構成するシート材2(シート状基材3)の強化繊維体積率Vfを他の層より高めて強度を上げ、最内層を構成するシート材2(シート状基材3)の熱可塑性樹脂材料の材料特性を耐熱性、耐油性、又は耐薬品性等の高いものとする。これにより、ライニング材1を、外圧が作用する外面側が高強度となり、流体の影響を受ける内面側がその流体に対する耐性を備えたものとすることができる。耐熱性を向上させるのに好適な熱可塑性樹脂材料としては、例えば、PC、PA、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PTFE、PVDF等が挙げられる。耐油性を向上させるのに好適な熱可塑性樹脂材料としては、例えば、PA、PTFE、PVDF等が挙げられる。また、耐薬品性を向上させるのに好適な熱可塑性樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、PP、PVC、PTFE、PVDF等が挙げられる。
【0055】
仮に、ライニング材1の全体にわたって高強度としたり耐薬品性の高い熱可塑性樹脂材料を用いたりすると、その材料コストが非常に嵩むこととなる。しかし、前記のように複層ライナー11の層ごとに特性を変えて対応することで、材料コストを抑えつつもライニング対象の管状体5に合わせた最適なライニング材1を提供することが可能となる。なお、ライニング材1を用いて管状体5の内面又は外面をライニングする施工方法については後述する。
【0056】
以上のような構成を有するライニング材1では、熱可塑性樹脂材料を強化繊維フィラメント31間に含浸させ、複合材料成形体であるライニング層を管状体5に対して形成するプロセスの一部を、ライニング施工前の段階、つまりシート状基材3の成形過程で予め行っておくことが可能となる。これにより、ライニング施工現場での加熱及び加圧作業に要する時間を短縮化することができ、ライニング材1の加熱温度を過剰に高く設定する必要がなくなり、十分な強度を安定的に発現させることが可能となる。その結果、均質なライニング層を管状体5に対して迅速かつ経済的に形成することができる。
【0057】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係るライニング材1について、図6〜図10を参照しつつ説明する。
【0058】
前記実施形態1では、筒状体である複合ライナー11としてシート状基材3をそのまま用いたシート材2を、略筒状に接合形成する構成であった。本実施形態では、それに代えて、シート状基材3を変形して用い、組物として形成した筒状体により複合ライナー11が構成される。
【0059】
なお、本実施形態を含む以下の各形態において、シート状基材3の構成は、前記実施形態1に記載したとおりである。そこで、以下の説明では、略筒状に成形してなる複合ライナー11(筒状体)の特徴構成について詳述し、その他の構成については、実施形態1と共通の符号を用いて重複する説明を省略する。
【0060】
図6は、実施形態2に係るライニング材1におけるテープ材4の例を示す断面図であり、図7は、前記テープ材4の集束体40の例を模式的に示す説明図である。
【0061】
この形態では、シート状基材3を、含有する強化繊維フィラメント31の繊維配向方向に沿って一定幅に裁断し、長尺帯状に成形したテープ材4として用いている。複合ライナー11は、テープ材4又はテープ材4の集合体40を組糸とする組物によって構成されている。
【0062】
シート状基材3は、その成形過程において加熱及び加圧された後、一定幅に裁断成形されて細幅のテープ材4に変形される。テープ材4は、幅広のシート形態であるシート状基材3を搬送しつつ、このシート状基材3に対し、所定間隔で並べた複数枚のカッター刃等を押し当てて複数本のスリットを入れ、繊維配向方向に沿って裁断することにより、一定幅を有するように成形されている。
【0063】
テープ材4は、単体で略筒状の組物に成形されてもよいが、図7に示すように、複数本のテープ材4を集束させた偏平状の集束体(繊維束)40として、組物又は後述する織物若しくは編物に成形されることが好ましい。
【0064】
例えば、テープ材4は、幅が10mmで、厚さが0.12mmの長尺帯状に形成されている。このテープ材4を15本束ねて集束体40とする。実施形態2に係るライニング材1は、かかる集束体40を組糸とする組物の複合ライナー11により形成されている。
【0065】
図8及び図9は、実施形態2に係るライニング材1の例をそれぞれ示す斜視図である。ライニング材1を構成する複合ライナー11は、集束体40からなる組糸41を多数本、互いに交差させつつ長手方向に対して角度を与えて組んだ丸打組物により構成されている。この場合、例えば集束体40からなる組糸41を64本用いて、64本打の丸打組物としている。丸打組物は、複数本の組糸41をマンドレル上に左巻きと右巻きに互いに交差させて形成する。このため、丸打組物は、中空円筒形状に形成され、そのまま複合ライナー11として用いることができる。
【0066】
図示する複合ライナー11では、丸打組物の組角度を60°としている。組角度とは、マンドレルの中心軸に対して組糸41がなす角度のことであり、90°に近いほど組糸41の密度が大きくなるが、複合ライナー11としては組角度を10°〜80°の範囲として組物を形成することが好ましい。
【0067】
また、図9に示す複合ライナー11では、組糸41の相互間に、強化繊維からなる中央糸42を軸方向に組み込み、軸方向の補強が図られている。中央糸42の強化繊維としては、ガラス繊維、カーボン繊維、又はアラミド繊維等を用いることができる。また、中央糸42として、組糸41に含まれる熱可塑性樹脂材料の融点以上のガラス転移点を有し、破断点伸びの大きい有機繊維を用いてもよい。組糸41の相互間に中央糸42を組み込むことで、中央糸42の周辺では組糸41の動きが拘束され、必要以上に拡張したり収縮したりするのを防ぐこともできる。
【0068】
かかる組物からなる筒状体の複合ライナー11は、複数方向に配置された組糸41が互いに動きやすく、その交差角度も変化しやすい。したがって、複合ライナー11は、拡径性、縮径性、及び曲がり追従性のいずれにも優れ、取り扱いがしやすく、管状体5の内面形状又は外面形状に追従し得る高い柔軟性を備えたものとなる。加えて、複合ライナー11の全長にわたって、強化繊維フィラメント31を含む組糸41が交差して組まれており、切れ目なく連続的に強化繊維フィラメント31を配置することができるので、極めて高い強度を備えさせることができる。
【0069】
よって、ライニング材1を組物からなる複合ライナー11にて構成することにより、十分な強度を確保できるとともに、管状体5をライニング被覆する際、管状体5の表面の凹凸や段差等に十分に追従して変形するものとなり、曲がり管路等の自由断面に対する追従性も高められ、管状体5に対してシワ無く沿わせることが可能となる。
【0070】
組物からなる複合ライナー11は、組糸41ごとに、構成するテープ材4すなわちシート状基材3の熱可塑性樹脂フィルム32を構成する熱可塑性樹脂材料の種類を変えたり、強化繊維フィラメント31の表面積率Sf(%)、強化繊維体積率Vf(vol%)を異ならせたりすることにより、多様な特性を持たせることができる。これにより、ライニング材1として、要求されるライニング特性に対応させることができる。
【0071】
また、ライニング材1は、組物からなる複合ライナー11を内外に積層して、複層構造のライニング材とすることもできる。図10は、複層構造のライニング材1の例を示す断面図である。
【0072】
図10に示すライニング材1は、組物からなる複合ライナー11を内外に3層積層させた3層構造とされている。この場合、各層において、複合ライナー11の特性を異ならせることが可能である。例えば、最外層の複合ライナー11は、組糸41を構成するテープ材4(シート状基材3)における強化繊維体積率Vfを、50〜60vol%として他の層よりも高めに設定し、耐圧強度を向上させることができる。また、最内層の複合ライナー11は、組糸41を構成するテープ材4(シート状基材3)における熱可塑性樹脂材料を、耐熱性、耐油性、又は耐薬品性の高い材料とすることで、その特性を備えたものとすることができる。
【0073】
なお、組物からなる複層構造のライニング材1において、最内層又は最外層に、熱可塑性樹脂材料のみからなるテープ材の集束体からなる組物を配置することで、水密性を向上させ、耐水性及び耐水圧性を向上させることも可能である。
【0074】
また、ライニング材1における組物は、前記丸打組物により構成されるだけでなく、組糸が長手方向に対し斜めに配向した平打組物、又は組糸が互いに組構造を有して角柱型をなす角打組物により構成されてもよい。
【0075】
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態3に係るライニング材1について、図11を参照しつつ説明する。図11は、実施形態3に係るライニング材1を構成するシート材2の一例を模式的に示す説明図である。
【0076】
前記実施形態2では、筒状体である複合ライナー11として、シート状基材3からなるテープ材4又はその集束体40を用いて組物とする構成であった。本実施形態では、それに代えて、テープ材4又はその集束体40を製織したシート材2により、複合ライナー11が構成されている。
【0077】
ライニング材1を構成するシート材2は、シート状基材3を繊維配向方向に沿って一定幅に裁断したテープ材4又はその集束体40を製織した織物からなる。すなわち、ライニング材1は、織物からなるシート材2の端辺同士を接合して略筒状に形成された複合ライナー11により構成されている。
【0078】
例示のシート材2は、図7に示したテープ材4の集束体40が製織されることにより形成されている。テープ材4は、例えば、幅が3mmで、厚さが0.12mmの長尺帯状に形成されている。そして、縦方向と横方向とに集束体40を織り込み、二軸織物の平織り組織によってシート材2が形成されている。
【0079】
なお、シート材2は二軸織物とされるだけでなく、集束体40を、交差する三方向に織った三軸織物であってもよい。さらに、シート材2は、平織りに限らず、綾織り、朱子織り等のどのような組織からなる織物であってもよい。
【0080】
このような集束体40を製織して形成されたシート材2は、実施形態1で説明したのと同様に、略筒状とされて、端辺同士を接合することにより複合ライナー11とされる。図1等に示したように、複合ライナー11の接合部11aは、シート材2の端辺同士を重ね合わせて、相互に熱融着させるか、熱可塑性樹脂材料からなる縫合糸等により接合される。また、ライニング材1としては、織物からなる複合ライナー11が、図4に示すように単層構造とされても、また、内外に積層させて図5に示すように複層構造とされてもよい。複合ライナー11を積層してライニング材1を構成する場合、その接合部11aが互いに重なり合うことのないように、周方向に均等に配置されることが好ましい。
【0081】
本実施形態では、ライニング材1の複合ライナー11を構成するシート材2が、テープ材4又はその集束体40からなる織物であるので、配合された強化繊維フィラメント31の異方性が小さく、高い強度を有するものとなる。また、織物からなる複合ライナー11は、伸び抵抗が少なくかつ柔軟性が高いため、自由曲面に対する追従性も高められ、管状体5に対してシワ無く沿わせることが可能となる。
【0082】
(実施形態4)
次に、本発明の実施形態4に係るライニング材1について説明する。
【0083】
前記実施形態3では、複合ライナー11として、シート状基材3からなるテープ材4又はその集束体40を用いて織物とする構成であった。本実施形態では、それに代えて、テープ材4又はその集束体40を製編した筒状体により複合ライナー11が構成されている。
【0084】
この場合も、ライニング材1は、図6及び図7に示した、シート状基材3を繊維配向方向に沿って一定幅に裁断したテープ材4又はその集束体40により構成されている。また、テープ材4又はその集束体40の編物からなるシート材2を、図1、図4、又は図5に示したように、その端辺同士を接合することによって、略筒状の複合ライナー11が構成される。
【0085】
かかる複合ライナー11を構成する編物としては多様な編地構造が可能である。例えば、シート材2として、テープ材4の集束体40を、たて方向及びよこ方向に配向させ、これらの二軸方向以外の方向にも集束体40を配向させて積層し、たて編組織で接結させた図12に示すような多軸積層体(multiaxial fabric)とすることが好ましい。
【0086】
このような多軸積層体からなるシート材2は、集束体40に含まれる強化繊維フィラメント31の繊維配置の自由度が高い。そのため、軸方向に対して、〔+60°/−60°〕の繊維配向としたり、〔+45°/−45°〕の繊維配向としたりして、複数層に積層させた多様な繊維配置形態により形成することができる。軸方向に対して斜めの繊維配向を有することにより、筒状体の複合ライナー11としたときに、軸方向の伸縮性を備えさせることができる。
【0087】
集束体40を製編して得られたシート材2は、実施形態1で説明したのと同様に、略筒状とされて、端辺同士を接合することにより複合ライナー11とされる。この場合も、複合ライナー11の接合部11aは、シート材2の端辺同士を重ね合わせて熱融着させるか、熱可塑性樹脂材料からなる縫合糸等により接合される。
【0088】
ライニング材1は、編物からなる複合ライナー11が、図4に示すように単層構造とされても、また、内外に積層して図1又は図5に示すように複層構造とされてもよい。複合ライナー11を積層してライニング材1を構成する場合、その接合部11aが互いに重なり合うことのないように、周方向に均等に配置されることが好ましい。
【0089】
本実施形態では、ライニング材1の複合ライナー11を構成するシート材2が、テープ材4又は集束体40からなる編物であるので、配合された強化繊維フィラメントの異方性が小さく、高い強度を有する。また、編物からなる複合ライナー11であることにより、柔軟性及び自由曲面に対する追従性が高く、管状体5に対してシワ無く沿わせることが可能となる。なお、複合ライナー11としては、テープ材4又は集束体40を略筒状に製編した編物からなるものであってもよい。
【0090】
以上のような各種の構成を有するライニング材1は、いずれも、熱可塑性樹脂材料を強化繊維フィラメント31間に含浸させ、複合材料成形体であるライニング層を管状体5に対して形成するというプロセスの一部を、ライニング施工前の段階、つまりシート状基材3の成形段階で予め行っている。これにより、ライニング施工現場での加熱及び加圧作業に要する時間を短縮化することができ、ライニング材1の加熱温度を過剰に高く設定する必要がなくなり、十分な強度を安定的に発現させることが可能となる。その結果、均質なライニング層を管状体5に対して迅速かつ経済的に形成することができる。
【0091】
また、ライニング材1は、従来の熱可塑性樹脂フィラメントと強化繊維フィラメントとの複合材料からなるものとは異なり、シート状基材3を略筒状に成形する構成である。したがって、上述した製織、製編、又は製組等の略筒状に成形する過程を経ても、シート材2同士、テープ材4同士、又は集束体40同士の摩擦などによって強化繊維フィラメントが切れるという不都合を生じることがなく、所期の強度を具備させることができる。
【0092】
なお、テープ材4又は集束体40からなるシート材2は、前記織物等のほか、繊維束を一方向若しくは角度を変えて積層してステッチされた、一軸、二軸、又は多軸ステッチシート材等のどのような形態であってもよい。また、ライニング材1は、複合ライナー11の最外層のさらに外側に、水密性の高い材料からなる被覆層を付加した構成であってもよく、上記各形態に限定されるものではない。
【0093】
(ライニング施工方法)
図13は、前記各実施形態に係るライニング材1を用いたライニング施工方法の例を示し、管状体5の内面側をライニングする場合の説明図である。
【0094】
ライニング材1は、図13に示すようにライニング対象である管状体5に挿入して用いる。ライニング作業に先立ち、管状体5に上水又は下水等の流水がある場合には、堰き止め部材7により堰き止め、いったん管路から流水を除去しておく。さらに、管状体5内に存在する堆積物や木片等の異物を除去し、高圧水洗浄を行ってから管内のライニング作業に入る。
【0095】
ライニング材1は、例えば、発進側マンホールM1と到達側マンホールM2との間の長さに余裕長さを加えた長さで用意される。また、到達側マンホールM2の地上側に牽引ワイヤ91を巻き取るウィンチ9等の機器を設置する。牽引ワイヤ91は、到達側マンホールM2から管状体5内に挿通されており、ライニング材1の内側に配備された加熱装置6を、発進側マンホールM1から到達側マンホールM2方向に牽引する。
【0096】
管状体5に配置されたライニング材1には、内側に加熱装置6が設置される。この加熱装置6は、ライニング材1の内周面に沿う円筒状の外形を有するライニング用ピグ61と、ライニング材1に外装される筒状の補助用ピグ62とを備えている。ライニング用ピグ61は、ライニング材1を内周側から加熱蒸気等により加熱して、ライニング材1の複合ライナー11を構成する熱可塑性樹脂材料(マトリックス材料)を溶融する。また、補助用ピグ62は、ライニング材1の外周面を加熱し、外周側からも熱可塑性樹脂材料の溶融を補助する。加熱装置6のライニング用ピグ61は、後方部分が拡径したテーパー形状とされており、ライニング材1を加熱しつつ前進することで、ライニング材1が軟化されて徐々に拡径するように作用する。
【0097】
かかる加熱工程では、ライニング材1に含まれる熱可塑性樹脂材料の融点以上の温度で加熱する。これにより、ライニング材1の熱可塑性樹脂材料が溶融し、複合ライナー11は、強化繊維フィラメント31を混合した複合材料層を形成するものとなる。
【0098】
例えば、ライニング材1において、シート状基材3の熱可塑性樹脂フィルム32を構成する熱可塑性樹脂材料としてポリプロピレン(融点は160〜170℃程度)が採用されている場合には、ライニング施工過程での加熱温度は180℃に設定される。また、熱可塑性樹脂フィルム32の構成材料として高密度または低密度ポリエチレン(融点は140℃)が採用されている場合には、ライニング施工過程での加熱温度は例えば150℃に設定される。
【0099】
ライニング材1は、加熱工程を経た段階では未だ完全に拡径、硬化した状態ではなく、また管状体5の内面に密着した状態とはなっていない。加熱装置6は、後方に拡径手段を備え、この拡径手段により内側から加圧されて管状体5の内周面に沿う管状に拡径される。例示する拡径手段では、反転機8が地上に設置され、先端側から反転させつつ導入された拡径用チューブ81を備えている。
【0100】
拡径用チューブ81は、内圧により十分に拡径することが可能であり、かつ拡張に際して十分な強度を有する拡張性及び耐熱性に優れたエラストマーなどを材料として形成されている。また、拡径用チューブ81は、拡径後にも拡径用チューブ81と第1ライナー基材21とが接着しない材質により形成されている。拡径用チューブ81の外径は、最大拡張時にライニング材1を内側から管状体5の内周面に押圧し得る大きさで確保されている。
【0101】
拡径用チューブ81は、発進側マンホールM1側の地上に設置された反転機8に接続され、拡張していない状態でライニング材1の内側に導入されている。そして、その後、拡径用チューブ81には、反転機8から加圧気体が供給されて、加熱装置6の後方部分に追従しながら内周面が外周側に反転しつつ拡張していく。これに伴って、ライニング材1は、加熱装置6を経て軟化した部分から順に、拡径用チューブ81によって内側から押圧されて拡径する。ライニング材1の拡径した部分は管状体5の内面に密着する。加熱装置6が前進することにより、拡径用チューブ81の拡張範囲も前方へ広げられ、ライニング材1と管状体5との密着状態はそのまま維持されて、広範囲で均一な力を付与することができ、均一に成形される。
【0102】
管状体5のライニング対象箇所の全域に亘ってライニング材1が拡径されたならば、冷却及び硬化させ、これにより、管状体5の内面がライニング材1の複合材料成形体により被覆される。
【0103】
以上のように、ライニング材1は、シート状基材3からなる円筒体の複合ライナー11を備えた構成であるので、ライニング施工過程では、複合ライナー11に含まれる熱可塑性樹脂材料と強化繊維フィラメントとを、比較的短時間で完全な含浸状態とすることができる。これにより、熱可塑性樹脂材料の中に強化繊維フィラメント31を分散させた構成を、ライニング材1の全体に亘って得ることができ、そのための施工時間の短縮化を図ることができる。また、ライニング材1に対する加熱温度を過剰に高める必要がないので、熱可塑性樹脂材料が流動して偏肉してしまうといったことも回避できる。
【0104】
また、上記繊維強化複合材料からなるライニング材1は、上記のいずれの形態にあっても、柔軟性が高く形態安定性に優れることから、取り扱いが容易であり、管状体5の管内の曲面への形状追従性も高い。そのため、作業性よく管状体5のライニングを行うことができ、管状体5の内面又は外面に十分に密着させたライニング層を形成することが可能となる。また、上記シート状基材3は、加熱及び加圧することにより管状体5の内面又は外面に密着し、一体化される。このため、シート状基材3を必要寸法に裁断したシート材2を、管状体5の内面又は外面における部分的な補強修復材としても用いることができる。この場合、ライニング材1に重ねてシート材2を密着させることにより、その部分においては強化繊維フィラメント31の密度を高め、熱可塑性樹脂材料を厚肉とすることができ、強度及び耐久性等をさらに高めることができる。
【0105】
なお、ライニング材1を用いてライニングする管状体5は、前記のように地中に埋設された下水道を構成する既設管に限定されるものではなく、上水道管や農水管等の多種の管状体5に適用することができ、多様な管径及び形状の管状体5が対象となり得る。上水道管の場合には、管路に急な曲がり部を有することが多いが、形状追従性に優れたライニング材1によれば取り扱いが容易であり、作業性にも優れ、曲がり部においても密着性及び信頼性の高いライニング層を形成することができる。また、ライニング材1は、管状体5の内面に施工されるだけでなく、管状体5の外面を被覆して補強したり補修したりすることにも用いることができる。そのため、上記の形態はあくまでも例示であって、限定的なものではない。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、熱可塑性樹脂複合材料からなるライニング材を用いた管状体のライニングに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 ライニング材
11 複合ライナー
2 シート材
3 シート状基材
31 強化繊維フィラメント
32 熱可塑性樹脂フィルム
4 テープ材
40 集束体
41 組糸
42 中央糸
5 管状体
6 加熱装置
61 ライニング用ピグ
62 補助用ピグ
8 反転機
81 拡径用チューブ
9 ウィンチ
91 牽引ワイヤ
M1、M2 マンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状体の内面又は外面をライニングするライニング材であって、
一方向に引き揃えられた多数本の強化繊維フィラメントと、熱可塑性樹脂フィルムとが加熱及び加圧されて一体化したシート状基材を略筒状に成形してなる筒状体を具備することを特徴とするライニング材。
【請求項2】
請求項1に記載のライニング材において、
前記筒状体は、前記シート状基材を繊維配向方向に沿って一定幅に裁断したテープ材又は該テープ材の集束体を組糸とする組物からなることを特徴とするライニング材。
【請求項3】
請求項1に記載のライニング材において、
前記筒状体は、前記シート状基材を繊維配向方向に沿って一定幅に裁断したテープ材又は該テープ材の集束体を製編した編物により略筒状に形成されたことを特徴とするライニング材。
【請求項4】
請求項1に記載のライニング材において、
前記筒状体は、前記シート状基材を繊維配向方向に沿って一定幅に裁断したテープ材又は該テープ材の集束体を製織した織物の端辺同士を接合して略筒状に形成されたことを特徴とするライニング材。
【請求項5】
請求項1に記載のライニング材において、
前記筒状体は、前記シート状基材からなるシート材の端辺同士を接合して略筒状に形成されたことを特徴とするライニング材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載のライニング材において、
前記シート状基材は、該シート状基材に対する強化繊維フィラメントの体積比率が10〜60vol%であることを特徴とするライニング材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つの請求項に記載のライニング材において、
複数の前記筒状体が内外に積層されて複数層の略筒状に形成されたことを特徴とするライニング材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−131218(P2012−131218A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254036(P2011−254036)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】