説明

ラクトバチルス・パラカゼイと体重管理

本発明は概して、肥満及び/又は代謝異常の分野に関する。本発明は特に、肥満及び/又は代謝異常を治療するためのプロバイオティクスの使用に関する。本発明の一実施形態は、代謝異常を治療又は予防するための組成物の調製のための、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は概して、肥満及び/又は代謝異常の分野に関する。特に、本発明は、過体重、肥満及び/又は関連代謝異常を治療又は予防するためのプロバイオティクスの使用に関する。
【0002】
過去数十年の間に、肥満の罹患率は世界中で流行病の割合にまで増加した。世界で約10億人が過体重又は肥満の状態にあり、死亡、移動及び経済的コストを増加させている。肥満は、エネルギー摂取量がエネルギー消費量よりも高く、余剰エネルギーが主に脂肪として脂肪組織に貯蔵されると起こる。エネルギー摂取量又はバイオアベイラビリティを減少させること、エネルギー消費量を増やすこと、及び/又は脂肪としての貯蔵を減少させることにより、体重の減少及び体重増加の予防を実現することができる。肥満は、糖尿病、アテローム性動脈硬化、変性疾患、気道疾患及びいくつかの癌を含む多くの慢性疾患を伴うので、健康への深刻な脅威となる。
【0003】
最近、腸内細菌叢の改変が肥満と関連付けられた。このような変化は腸管内微生物叢の潜在代謝能力に影響し、結果として食物からのエネルギー回収能力を高めることが、肥満マウスにおいて示された(Turnbaugh PJ,Ley RE,Mahowald MA,Magrini V,Mardis ER,Gordon JI.An Obesity−associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest.Nature.2006;Ley RE,Turnbaugh PJ,Klein S,Gordon JI.Microbial ecology:human gut microbes associated with obesity.Nature.2006)。腸管内微生物叢のそのような改変は、肥満の病態生理に寄与するといわれている。食物又は栄養補助食品に存在する有益な細菌であるプロバイオティクスは、腸内微生物叢を改変させることで知られている(Fuller R & Gibson GR.Modification of the intestinal microflora using probiotics and prebiotics.Scand J.Gastroenterol.1997)。
【0004】
例えば、US7001756及びCN1670183では、単離された微生物株、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)GM−020が提供され、それが肥満の治療に有効であることが見出されている。
【0005】
しかし、ある微生物の摂取よりも他の微生物の摂取に対して耐性が高い生物もいる可能性があるので、治療対象の必要性に応じて選択可能な種々の微生物が入手可能であることが望ましい。
【0006】
WO03055987では、キムチの発酵液から単離、同定された特定のラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)株、ラクトバチルス・パラカゼイviro−01が開示されている。この菌株は、プロバイオティクスとして使用でき、下痢の発生を減少させる。
【0007】
WO2007015132では、特にアレルギー及び免疫不全を治療及び/又は予防するための免疫調節組成物の調製に使用可能なラクトバチルス・パラカゼイ株、I 1688が開示されている。
【0008】
この先行技術に基づいて、本発明は、肥満及び/又は代謝異常の治療又は予防に使用できる代替的なプロバイオティクス細菌を同定することを目的としていた。
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、ラクトバチルス・パラカゼイにより本発明の目的が達成できることを見出した。
【0010】
本発明の目的に特に有効なラクトバチルス・パラカゼイ株の一つはラクトバチルス・パラカゼイST11である。ラクトバチルス・パラカゼイST11は、ブダペスト条約に基づいてパスツール研究所(28 rue du Docteur Roux 75024 Paris Cedex 15)に寄託され、CNCM I−2116と命名されている。
【0011】
本発明者らは、プロバイオティックなラクトバチルス・パラカゼイが自律神経活動に作用し、血中グルコース及び心血管機能を制御することを示した。本発明者らは、ラクトバチルス・パラカゼイ(例えばラクトバチルス・パラカゼイST11)の摂取により体重及び腹部脂肪重量が減少することを見出した。この効果は、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)を長期摂取した後に特に顕著であった。本発明者らは、驚くべきことに、ラクトバチルス・パラカゼイ(例えばラクトバチルス・パラカゼイST11)の摂取が自律神経に作用し、脂肪分解を促進し、体重を減少させることを見出した。
【0012】
好ましいラクトバチルス・パラカゼイ株はラクトバチルス・パラカゼイST11である。ラクトバチルス・パラカゼイST11は、他のラクトバチルス・パラカゼイ株とは異なり多種多様な糖で増殖することが見出されている。この特性により、ラクトバチルス・パラカゼイST11は多種多様な糖と共生的に相互作用することが可能となり、それ故、より大きな健康上の利益をもたらすことになる。
【0013】
例えば、ラクトバチルス・パラカゼイST11は、他のラクトバチルス・パラカゼイ株が増殖しなかったタガトース(フルクトースの立体異性体)で増殖することができた。ラクトバチルス・パラカゼイST11は、試験した他の4種のラクトバチルス・パラカゼイ株が増殖しなかったラフチリンHP(長鎖フラクトオリゴ糖、イヌリン)で増殖することが見出された。ラクトバチルス・パラカゼイST11は、他の8種のラクトバチルス・パラカゼイ株が増殖しなかったポリデキストロースで増殖することが見出された。
【0014】
したがって、本発明の目的は、請求項1に記載の使用により達成される。
【0015】
すなわち、本発明の一実施形態は、過体重、肥満及び/又は関連代謝異常を治療又は予防するための組成物の調製のための、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の使用である。
【0016】
本発明はまた、過体重、肥満及び/又は関連代謝異常を治療及び/又は予防するための組成物であって、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)を含む組成物に関する。
【0017】
本明細書において、下記の語の意味は下記のとおりである。
【0018】
「ラクトバチルス・パラカゼイ」という語は、当該細菌そのもの、当該細菌を有する細胞増殖培地、又はラクトバチルス・パラカゼイが培養された細胞増殖培地を包含するものとする。
【0019】
「ラクトバチルス・パラカゼイST11」という語は、当該細菌そのもの、当該細菌を有する細胞増殖培地、又はラクトバチルス・パラカゼイST11が培養された細胞増殖培地を包含するものとする。
【0020】
「ボディマス指数」又は「BMI」とは、体重(kg)を身長(m)の2乗で割って得られる比を意味する。
【0021】
「過体重」は、成人については、25〜30のBMIを有することと定義する。
【0022】
「肥満」とは、動物(特に、ヒトやその他の哺乳動物)の脂肪組織に貯蔵されるエネルギーの量が、ある種の健康状態又は死亡率上昇がもたらされる程度にまで増加した状態である。「肥満」は、成人については、30より大きいBMIを有することと定義する。
【0023】
「プロバイオティクス」とは、宿主の衛生又は健康に有益な効果を及ぼす微生物細胞の調製物又は微生物細胞の成分を意味する(Salminen S,Ouwehand A,Benno Y.et al“Probiotics:how should they be defined”Trends Food Sci.Technol.1999:10 107−10)。
【0024】
「プレバイオティクス」とは、腸内におけるプロバイオティクスの増殖を促進する食物のことである。プレバイオティクスは、それを摂取したヒトの胃及び/又は腸上部で分解されたり消化管で吸収されたりすることはないが、消化管内細菌叢及び/又はプロバイオティクスにより発酵される。プレバイオティクスは、例えばGlenn R.Gibson and Marcel B.Roberfroid,Dietary Modulation of the Human Colonic Microbiota:Introducing the Concept of Prebiotics,J.Nutr.1995 125:1401−1412により定義されている。
【0025】
「食品用微生物」とは、食品で使用され、食品用として一般に安全と認められている微生物を意味する。
【0026】
「長期投与」は、好ましくは、6週間以上の継続的な投与である。
【0027】
「短期投与」は、好ましくは、6週間未満の継続的な投与である。
【0028】
本発明の使用により調製される組成物は、医薬品、食品、ペットフード製品、食品添加物又は機能性食品であってもよい。
【0029】
本発明の組成物は、保護親水コロイド(例えば、ゴム、タンパク質、加工デンプン)、結合剤、膜形成剤、カプセル化剤/材料、壁/シェル材、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、蝋、レシチン等)、吸着剤、担体、充填剤、共化合物(co−compound)、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動化剤、矯味剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、抗酸化剤及び抗菌剤をさらに含有してもよい。
【0030】
本発明の組成物は、公知の医薬品添加物、アジュバント、賦形剤及び希釈剤(例えば、水、ゼラチン、植物性ガム、リグニンスルホン酸塩、タルク、糖、デンプン、アラビアゴム、植物油、ポリアルキレングリコール、香味料、保存料、安定剤、乳化剤、緩衝液、滑沢剤、着色料、湿潤剤、充填剤。これらに限定されるわけではない。)をさらに含有してもよい。いずれの場合も、このような追加成分は、投与対象の個体への適合性を考慮して選択される。
【0031】
本発明の組成物は、総合栄養食(nutritionally complete formula)であってもよい。
【0032】
本発明の組成物は、タンパク質源を含んでもよい。
【0033】
任意の好適な食餌性タンパク質(例えば、動物性タンパク質(乳タンパク質、食肉タンパク質、卵タンパク質等);植物性タンパク質(大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、エンドウ豆タンパク質等);遊離アミノ酸の混合物;又はそれらの組合せ)を使用することができる。乳タンパク質(例えば、カゼイン、ホエイ)及び大豆タンパク質が特に好ましい。
【0034】
タンパク質は、インタクトなタンパク質、タンパク質の加水分解物、又はインタクトなタンパク質とタンパク質の加水分解物との混合物であってもよい。例えば、牛乳アレルギーを起こすリスクがあると考えられる動物に対しては、タンパク質の部分加水分解物(加水分解度:2〜20%)を与えることが望ましい。タンパク質の加水分解物が必要な場合、加水分解は必要に応じて公知の方法で行うことができる。例えば、ホエイタンパク質の加水分解物は、一つ又は複数のステップでホエイ画分を酵素で加水分解することによって調製できる。出発物質として使用するホエイ画分にラクトースが実質的に含まれない場合、タンパク質は、加水分解の過程でリジンの損失を受けにくくなることが見出されている。このことにより、リジンの損失の程度を、総リジンの約15重量%からリジンの約10重量%未満へ減少させることができる。例えば、リジンの約7重量%に減少させて、タンパク質源の栄養価を大幅に改善することができる。
【0035】
本発明の組成物は、炭水化物源及び/又は脂肪源をさらに含有してもよい。
【0036】
組成物が脂肪源を含有する場合、脂肪源は、好ましくは、該組成物のエネルギーの5〜40%(例えば20〜30%)を供給する。好適な脂肪プロファイルは、キャノーラ油、コーン油及び高オレイン酸ヒマワリ油のブレンドを用いて得ることもできる。
【0037】
炭水化物源を組成物に添加してもよい。
【0038】
炭水化物源は、好ましくは、該組成物のエネルギーの40〜80%を供給する。任意の好適な炭水化物(例えば、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、コーンシロップ固形物、マルトデキストリン及びそれらの混合物)を使用することができる。必要に応じて食物繊維をさらに添加してもよい。食物繊維は、酵素で消化されずに小腸を通過し、天然の増量剤及び緩下剤として機能する。食物繊維は水溶性でも不溶性でもよいが、一般には両者のブレンドが好ましい。食物繊維の好適な供給源としては、例えば、大豆、エンドウ豆、燕麦、ペクチン、グアーガム、アラビアゴム、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、シアリルラクトース及び動物乳由来のオリゴ糖が挙げられる。好ましい繊維ブレンドは、イヌリンとそれよりも短鎖のフラクトオリゴ糖との混合物である。好ましくは、繊維が存在する場合、繊維含有量は、摂取される組成物1L当たり2〜40g、より好ましくは4〜10gである。
【0039】
本発明の組成物は、政府機関(USRDA等)の推奨に従って、ミネラル及び微量栄養素(微量元素、ビタミン等)をさらに含有してもよい。例えば、組成物は一日量当たり、下記微量栄養素の1種又は複数を下記範囲で含有してもよい。カルシウム 300〜500mg;マグネシウム 50〜100mg;リン 150〜250mg;鉄 5〜20mg;亜鉛 1〜7mg;銅 0.1〜0.3mg;ヨウ素 50〜200μg;セレン 5〜15μg;ベータカロテン 1000〜3000μg;ビタミンC 10〜80mg;ビタミンB1 1〜2mg;ビタミンB6 0.5〜1.5mg;ビタミンB2 0.5〜2mg;ナイアシン 5〜18mg;ビタミンB12 0.5〜2.0μg;葉酸 100〜800μg;ビオチン 30〜70μg;ビタミンD 1〜5μg;ビタミンE 3〜10μg。
【0040】
必要に応じて1種又は複数の食品用乳化剤(例えば、モノ−及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル、レシチン、モノ−及びジグリセリド)を組成物に組み込んでもよい。同様に、適当な塩及び安定剤を含んでもよい。
【0041】
本発明の組成物は、好ましくは経口又は経腸投与可能なものである。例えば、ミルク又は水で戻す粉末の形態のものである。
【0042】
ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)は、任意の好適な方法に従って培養することができ、組成物に添加するために、例えば凍結乾燥法又は噴霧乾燥法で調製することができる。ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)に適した培養法は当分野で知られている。或いは、細菌調製物は専門業者から購入してもよい。
【0043】
概して、本発明の組成物は幼児、子供及び/又は成人を対象とする。
【0044】
本発明の一実施形態において、本発明の使用により調製された組成物による治療の対象となるのは少なくとも2歳である。この年齢制限は特にヒトに適用される。本発明の使用により調製された組成物による治療の対象が例えばイヌ又はネコである場合、イヌ又はネコは少なくとも4ヵ月齢であるべきである。
【0045】
本発明の組成物は医薬品であってもよい。医薬品としてのラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の用量は、医師の勧めに従い慎重に調整すべきである。
【0046】
本発明に従って調製された組成物は食品であってもよい。食品としてのラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の有益な効果は誰もが享受できる。代謝異常、過体重及び/又は肥満の治療は、ごく初期に低コストで始めることができる。さらに、食品であれば、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)ははるかに摂取しやすい。本発明に適用可能な食品としては、例えば、ヨーグルト、ミルク、風味付けされたミルク、アイスクリーム、デザート製品、粉末(例えばミルク又は水で戻す粉末)、チョコレートミルク飲料、麦芽飲料、Ready To Eat食品、ヒト用のインスタント食品又は飲料、或いはペット又は家畜用の飼料又はその一部となる食品組成物が挙げられる。
【0047】
したがって、一実施形態において、本発明の組成物は、ヒト、ペット又は家畜を対象とする食品である。
【0048】
本発明の組成物は、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、家禽又はヒトからなる群から選択される動物を対象とするものであってもよい。好ましい実施形態において、本発明の組成物は、成熟した動物(特に成人)を対象とする食品である。
【0049】
ラクトバチルス・パラカゼイは、褐色脂肪組織にも作用することが見出されている。褐色脂肪組織は、寒冷適応動物の熱産生の主たる場所である。したがって、本発明の組成物は、多量の褐色脂肪組織を有する動物(例えばイヌ)に特に好適である。
【0050】
本発明の組成物は、少なくとも1種の他の食品用微生物(特に細菌又は酵母)をさらに含んでもよい。食品用微生物はプロバイオティクスであってもよく、好ましくは、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオン酸菌又はそれらの混合物からなる群から選択される。
【0051】
いかなるプロバイオティクスも本発明に従って使用可能である。好ましくは、プロバイオティクスは、ビフィズス菌、乳酸桿菌、乳酸球菌、腸球菌、連鎖球菌、サッカロマイセス又はそれらの混合物からなる群から選択され、特に、ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、サッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)又はそれらの混合物からなる群から選択されたものであり、好ましくは、ラクトバチルス・ジョンソニイNCC533(CNCM I−1225)、ビフィドバクテリウム・ロングムNCC490(CNCM I−2170)、ビフィドバクテリウム・ロングムNCC2705(CNCM I−2618)、ビフィドバクテリウム・ラクティス2818(CNCM I−3446)、ラクトバチルス・ラムノサスGG(ATCC53103)、ラクトバチルス・ラムノサスNCC4007(CGMCC 1.3724)、エンテロコッカス・フェシウムSF68(NCIMB10415)及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0052】
例えば、プロバイオティクスは、ビフィズス菌に特異的な腸内微生物叢の形成を促進することもできる。これに適したプロバイオティックなビフィズス菌株としては上述のビフィズス菌株が挙げられ、さらには、デンマークのChristian Hansenより商標Bb12の下に販売されているビフィドバクテリウム・ラクティス株(CNCM I−3446)、日本の森永乳業より商標BB536の下に販売されているビフィドバクテリウム・ロングム株(ATCC BAA−999)、Daniscoより商標Bb−03の下に販売されているビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)株、森永乳業より商標M−16Vの下に販売されているビフィドバクテリウム・ブレーベ株、及びInstitut Rosell(Lallemand)より商標R0070の下に販売されているビフィドバクテリウム・ブレーベ株が挙げられる。適当なプロバイオティックな乳酸菌とビフィズス菌との混合物を使用してもよい。
【0053】
食品用酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及び/又はサッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)を使用することができる。
【0054】
本発明の好ましい一実施形態において、組成物は、少なくとも一種のプレバイオティクスをさらに含有する。プレバイオティクスは、腸内において、ある種の食品用細菌(特にプロバイオティクス)の増殖を促進できるので、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の効果を増強することができる。さらに、例えば消化に対して好ましい影響を及ぼすプレバイオティクスもある。
【0055】
本発明に従って使用可能なプレバイオティクスに特に制限はなく、腸内におけるプロバイオティクスの増殖を促進するすべての食物が包含される。好ましくは、プレバイオティクスは、オリゴ糖(フルクトース、ガラクトース、マンノースを含有してもよい)、食物繊維(特に水溶性繊維である大豆繊維)、イヌリン又はそれらの混合物からなる群から選択することができる。好ましいプレバイオティクスは、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(IOS)、イソマルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、グリコシルスクロース(GS)、ラクトスクロース(LS)、ラクツロース(LA)、パラチノースオリゴ糖(PAO)、マルトオリゴ糖(MOS)、ゴム及び/又はその加水分解物、ペクチン及び/又はその加水分解物である。
【0056】
本発明の利点の一つは、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)が生菌であっても非複製性細菌種であっても有効なことである。したがって、生菌が存在できなくなる条件下であっても、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の有効性は失われない。
【0057】
しかし、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の少なくとも一部は組成物中で生存しているのが好ましく、さらには、生存したまま腸に到達するのが好ましい。この場合、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)は腸内でコロニーを形成し、増殖によりその有効性を増大することができる。
【0058】
しかし、特別な無菌食品又は医薬品については、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)は組成物中で生存していないのが好ましい。故に、本発明の一実施形態において、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の少なくとも一部は組成物中で生存していない。
【0059】
ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)はいかなる濃度でも有効である。ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)が生存したまま腸に到達した場合、単一細菌であってもコロニー形成及び増殖により強力な効果をもたらす。
【0060】
本発明の組成物の一日量は、一般に、10〜1012cfu(コロニー形成単位)のラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)を含むのが好ましい。ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の特に好適な一日量は10〜1011cfuであり、より好ましくは10〜1010cfuである。
【0061】
非複製性ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の場合、組成物の一日量は、一般に、10〜1012個(cells)のラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)を含むのが好ましい。ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の特に好適な一日量は10〜1011個であり、より好ましくは10〜1010個である。
【0062】
本発明の組成物は、一般に、組成物の乾燥重量1g当たり10〜1012cfuのラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)を含むのが好ましい。ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の特に好適な量は組成物の乾燥重量1g当たり10〜1011cfuであり、より好ましくは組成物の乾燥重量1g当たり10〜1010cfuである。
【0063】
非複製性ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の場合、組成物は、一般に、組成物の乾燥重量1g当たり10〜1012個(cells)のラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)を含むのが好ましい。ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の特に好適な量は組成物の乾燥重量1g当たり10〜1011個であり、より好ましくは組成物の乾燥重量1g当たり10〜1010個である。
【0064】
本発明において、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)を含む組成物はまた、体重減少及び/又は体重維持を支援するために使用することができる。
【0065】
本発明の組成物は、特に組成物の長期投与については、体重増加を減少させるために使用することもできる。
【0066】
他方、特に短期投与については、本発明の組成物は摂食抑制剤として使用することもできる。
【0067】
本発明の組成物を摂取することにより、腹部脂肪の総生成量、特に腸間膜脂肪組織、精巣上体脂肪組織及び/又は腎周囲脂肪組織の生成量が減少することが見出されている。
【0068】
本発明の組成物は、高脂肪食に起因する過体重及び/又は肥満の治療又は予防に特に好適である。高脂肪食は、一般に推奨されている食餌に含まれる脂肪量の少なくとも110%を含有する食餌である。
【0069】
適正な体重(とりわけ許容可能な体脂肪率)の確立・維持が代謝異常を治療又は予防するための重要なステップであるので、本発明において、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)を含む組成物はさらに、代謝異常(例えば、糖尿病、高血圧、肝硬変、メタボリックシンドローム及び/又は心血管疾患)を治療又は予防するために使用することができる。故に、本発明により調製される組成物は、現代人(とりわけ先進国の人々)の健康に大きく貢献することができる。
【0070】
本明細書に記載の本発明の特徴はすべて、開示された本発明の範囲から逸脱することなく自由に組み合わせ可能であることは、当業者には理解されよう。特に、本発明の使用について記載された特徴は本発明の組成物に適用することができ、その逆もまた同様である。
【0071】
本発明の他の利点及び特徴は、下記実施例及び図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】高脂肪食を11週間与えた場合の、体重(A)及び摂食量(B)に対するラクトバチルス・パラカゼイST11(NCC2461)の効果を示すグラフである。データは各群の平均値±SEMで表す。使用した動物の数は括弧内に示す。水とラクトバチルス・パラカゼイST11との有意差はANOVAで分析した。P<0.05。
【図2】水又はラクトバチルス・パラカゼイST11を注射したラットのWAT−SNA、BAT−SNA、ASNA及びHVNA(A)、及びヘキサメトニウムクロリドの静脈注射に対するBAT−SNAの応答(B)の典型的な記録データを示す図である。注射した時点は矢印で示す。
【図3】自律神経活動に対する、ラクトバチルス・パラカゼイST11(NCC2461)のID注射の効果を示すグラフである。水又はラクトバチルス・パラカゼイST11のID注射後のWAT−SNA(A)、BAT−SNA(B)、ASNA(C)、HVNA(D)及びHR(E)は、0分時の値に対するパーセンテージの平均値±SEMで表す。使用した動物の数は括弧内に示す。水又はラクトバチルス・パラカゼイST11の十二指腸内注射後5〜60分の値の有意差(P<0.05)はANOVAで分析する。
【図4】BAT−T及びBTに対する、ラクトバチルス・パラカゼイST11(NCC2461)のIG注射の効果を示すグラフである。ラクトバチルス・パラカゼイST11のIG注射後のBAT−T(A)及びBT(B)は、0分時の値に対するパーセンテージの平均値±SEMで表す。使用した動物の数は括弧内に示す。注射後5〜60分の両群の値の有意差(P<0.05)はANOVAで分析する。
【図5】ラクトバチルス・パラカゼイST11(NCC2461)のIG注射後の血漿FFAの変化を示すグラフである。データ(平均値±SEM)は、0分時に測定されたFFAレベルに対するパーセンテージで示す。使用した動物の数は括弧内に示す。15〜60分の両群の値の有意差(P<0.05)はANOVAで分析した。
【図6】SCN及びPVNのc−Fos−ir細胞に対する、ラクトバチルス・パラカゼイST11(NCC2461)のIG注射の効果を示す図である。冠状切片の顕微鏡写真は、SCN及びPVNのc−Fos−ir細胞に対する水又はラクトバチルス・パラカゼイST11の効果を示す(A)。略語:3V:第三脳室;OC:視交叉。スケールバー=200μm。水又はラクトバチルス・パラカゼイST11の注射後のSCN及びPVNのc−Fos−ir細胞を計数した(B)。使用した動物の数は括弧内に示す。データは平均値±SEMで表す。有意差はP<0.05で示す(マン・ホイットニーのU検定)。
【実施例】
【0073】
動物:
8週齢の雄ウィスターラット8匹を使用し、室内(24±1℃に維持。光を毎日12時間(7時〜19時)照射。)で個別に飼育した。ラットは実験の少なくとも1週間前から環境に順応させ、2群に分けて水又はラクトバチルス・パラカゼイST11(NCC2461)(1×10cfu/2mL水)を11週間与えた。ウレタン麻酔したラットでWAT−SNAの用量反応を調べて、その用量を決定した(表1)。両群には高脂肪食[Oriental Yeast,東京,日本。食餌組成(%、カロリーベース):脂肪30%(牛脂14%+ラード14%+大豆油2%)、カゼイン25%、コーンスターチ15%、スクロース20%、セルロース5%、ミネラル混合(AIN−93G)4%、ビタミン混合(AIN−93)1%]を与えた。飼料と水は自由に摂取できるようにした。実験期間中はすべてのラットの体重をモニターし、屠殺後、腹部脂肪(腸間膜脂肪組織+精巣上体脂肪組織+腎周囲脂肪組織)の重量を測定した。
【0074】
【表1】

【0075】
電気生理学的検査:
体重300〜330gの雄ウィスターラットを使用した。ラットは室内(24±1℃に維持。光を毎日12時間(7時〜19時)照射。)で飼育した。飼料と水は自由に摂取できるようにした。ラットは実験の少なくとも1週間前から環境に順応させた。実験当日、手術の3〜4時間前に飼料を取り除いた。一般的な準備は、Tanida M,et al.,Brain Res 2005;1058(1−2):44−55(参照されることにより本明細書に組み込まれる。)に記載のとおりに行った。簡単に説明すると、次のとおりである。ウレタン1g/kgの腹腔内(IP)注射による麻酔下、静脈内注射及び十二指腸内注射のために、ポリエチレン製カテーテルをそれぞれ左大腿静脈及び十二指腸腔に挿入した。次いで、ラットの気管内にカニューレを挿入し、定位固定装置でラットを固定し、37.0〜37.5℃に維持した。遠心性のWAT−SNA(白色脂肪組織−シナプス神経活動)を記録するために、精巣上体の右WATの血管に平行に走る交感神経枝の神経線維を顕微鏡下で注意深く分離した。遠心性のBAT−SNA(褐色脂肪組織−シナプス神経活動)を記録するために、解剖顕微鏡を用いて、左背部の切開により肩甲骨間のBATに分布する左交感神経を露出した。副腎交感神経活動(ASNA)を記録するために、左側腹部の切開により左副腎神経を後腹膜に露出した。肝迷走神経活動を記録するために、腹部横隔膜下迷走神経の肝臓枝を同定し、腹部正中線切開後、食道上に露出した。神経の遠位端は結紮し、次いで、遠心性の神経活動を記録するために一対の銀線電極に接続した。記録電極は、神経の乾燥防止及び電気絶縁のために、流動パラフィンオイルのプール又は温かいワセリンと流動パラフィンオイルとの混合物に浸した。記録電極の設置後30〜40分間ラットを静置した。WAT−SNA、BAT−SNA、ASNA及びHVNA(肝迷走神経活動)の電気的変化を増幅し、選別し、オシロスコープでモニターした。神経活動の生データをWindow Discriminatorで標準パルスに変換した。2つの針電極を右腕及び左下肢の皮膚下に設置して、心電図を記録し、心拍数(HR)をモニターした。信号を生体電気増幅器で増幅した。これらのアナログ信号をA/D変換器(Power−Labモデル4sp,AD Instruments,米国)でデジタル信号に変換し、サンプリングし、オフライン分析のためにハードディスクに保存した。ラクトバチルス・パラカゼイST11(1×10cfu/2mL水)又は水(2mL)のID注射前の5分間、WAT−SNA、BAT−SNA、ASNA、HR及びHVNAのベースラインの測定を行った。ラクトバチルス・パラカゼイST11の凍結乾燥培養物を水に溶解後、実験に使用した。注射後60分間、上記パラメータを記録した。実験の最後に、記録のノイズレベルを判定するために、ヘキサメトニウムクロリド(10mg/kg)を静脈内投与して節後神経の活動電位をブロックした。
【0076】
テレメトリー記録:
BT(体温)及びBAT−T(褐色脂肪組織−温度)を測定するために、テレメトリーシステム181(Star Medical,日本)をTaniguchi H,et al.,Neurosci Lett 2006;398(1−2):102−6に記載のとおりに使用した。一部のラット(n=8)については、ラクトバチルス・パラカゼイST11の胃内(IG)注射の10〜14日前に、温度センサー、電池及び送信機(モデル10T−T,Star Medical)の入った1aカプセルを、ペントバルビタール麻酔(35mg/kg、IP)下、腹腔内又はBATの脂肪パッドの上に埋め込んだ。受信機の出力信号をアナログからデジタルに変換し、モニターし、PCに保存した。このシステムにより得られたデータを、16ch−Eight Star Program(Star Medical)により分析した。実験当日、注射の4〜6時間前に飼料を取り除いた。ラクトバチルス・パラカゼイST11又は水のIG注射(明期(14時))の直前5分間、動物が覚醒した状態で、BAT−T又はBTのベースラインの測定を行った。注射後、これらのパラメータを60分間記録した。
【0077】
血中FFAレベルの測定:
実験の3日前に、IPペントバルビタール麻酔下、外科的にカテーテル挿入を行った。末端が心房のすぐ外に位置するように右外頸静脈に埋め込まれた長期留置シリコーンカテーテルから血液試料を採取し、ラクトバチルス・パラカゼイST11(1×10cfu/2mL水)又は水(2mL)のIG注射前後に実施した。FFA(遊離脂肪酸)の測定のために、血漿を直ちに分離した。NEFA−C−testキット(和光純薬工業,カタログ番号279−75401)を用いるアシルCoAシンテターゼ−アシルCoAオキシダーゼ法によりFFAを測定した。
【0078】
免疫組織化学的検査:
ラクトバチルス・パラカゼイST11(1×10cfu/2mL水)又は水(2mL)のIG注射後、SCN(視交叉上核)及びPVNにおけるc−Fosタンパク質の誘導を調べた。注射はすべて14時に実施した。注射から60分後、ラットに麻酔(ペントバルビタール35mL/kg、IP)をかけ、氷冷生理食塩水、次いでリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中4%パラホルムアルデヒド(PFA,Sigma,St.Louis,MO)で心臓内を灌流した。脳を摘出し、PBS中4%PFAに一晩4℃で後固定し、20%スクロース中で凍結を防止しつつ二晩静置した。次いで、脳を凍結ミクロトーム(CM1900,Leica,ドイツ)でスライスして厚さ30μmの切片を得た。一次抗体としてc−Fosに対する特異的ウサギポリクローナル抗体(1000倍希釈;Santa Cruz,South San Francisco,CA)を用いて、SCN及びPVNにおけるc−Fosの免疫組織化学的分析を行った。発色基質としてジアミノベンジジン(Sigma,日本)を用いて、Vectastain ABCキット(Vector Laboratories,Burlingame,CA)で免疫反応を可視化した。SCN又はPVNの領域を特定するために、実験動物の近傍の切片をクレシルバイオレット(Sigma,日本)で染色し、SCNの輪郭を明らかにした。顕微鏡(BX51,Olympus,日本)で切片の像を観察し、Image Jプログラムを用いてSCN又はPVNのc−Fos免疫反応性(c−Fos−ir)細胞を計数した。
【0079】
統計解析:
ラクトバチルス・パラカゼイST11の注射後、5分毎にWAT−SNA、BAT−SNA、ASNA、HVNA、HR、BAT−T及びBTを測定し、デジタル信号処理により解析した。すべてのデータは平均値±SEMで表した。マン・ホイットニーのU検定を用いて各群の基礎値を比較した。注射前の状態に個体間のバラツキがあるため、神経発火データ及び温度データについては、それぞれベースラインからの変化率及び温度変化を計算した。二元ANOVAを用いて、WAT−SNA、BAT−SNA、ASNA、HVNA、HR、BAT−T、BT、体重及び血漿FFAレベルにおける両群の応答を比較した。
【0080】
結果:
図1Aは、実験中の両群の体重の変化を示す。水群又はラクトバチルス・パラカゼイST11群のいずれにおいても、HFD(高脂肪食)を与えることにより体重の漸進的増加が生じたが、ラクトバチルス・パラカゼイST11群では、体重増加の有意な減少が確認された。さらに、ラクトバチルス・パラカゼイST11を摂取すると、腹部脂肪(腸間膜脂肪組織+精巣上体脂肪組織+腎周囲脂肪組織)の最終的な重量が、水を摂取したラットに比べて有意に減少した(表2)。
【0081】
【表2】

【0082】
水群とラクトバチルス・パラカゼイST11群との間で、実験期間中の長期的な飼料の摂取量に有意差は見出されなかった(図1B)。また、全実験期間中の水摂取量でも、水群(3248±295mL)とラクトバチルス・パラカゼイST11群(2738±415mL)とで有意差は認められなかった。図2Aに、ラクトバチルス・パラカゼイST11の腸内注射後60分間の、WAT−SNA、BAT−SNA、ASNA及びHVNAの典型的な記録を示す。ウレタン麻酔したラットにおいて、水の注射はWAT−SNA、BAT−SNA、ASNA及びHVNAに影響を与えなかったが、ラクトバチルス・パラカゼイST11(1×10cfu)の注射は、WAT−SNA、BAT−SNA及びASNAを有意に上昇させ、HVNAを抑制した。さらに、図2Bは、ヘキサメトニウムクロリドの静脈注射によりBATでの神経発火が明らかに抑制されたことを示すヒストグラムデータである(注射前レベル:283.3±90.4スパイク/5秒;注射10分後レベル:13.1±5.2スパイク/5秒)。
【0083】
図3A〜Eは、ラクトバチルス・パラカゼイST11又は水の注射後の、WAT−SNA、BAT−SNA、ASNA、HVNA及びHRの時間変化を示す。ラクトバチルス・パラカゼイST11(1×10cfu)の注射により、WAT−SNA、BAT−SNA、ASNA及びHRは徐々に上昇した。WAT−SNAは調査の最後の60分に最高値の147.2±7.3%に達し(図3A)、BAT−SNAは55分に267.2±88.6%に達し(図3B)、ASNAは調査の最後の60分に259.2±72.5%に達し(図3C)、HRは調査の最後の50分に107.9±4.0%に達した(図3E)。さらに、ラクトバチルス・パラカゼイST11の注射により、HVNAは徐々に抑制され、50分時に最低値の65.6±14.4%に達した(図3D)。対照的に、水の注射では、少なくとも注射後60分までは、WAT−SNA、BAT−SNA、ASNA、HR及びHVNAのレベルに有意な影響が見られなかった。0分時の基礎値については、両群間に有意差は見出されなかった(表3)。
【0084】
【表3】

【0085】
次に、覚醒ラットでBAT−T及びBTに対するラクトバチルス・パラカゼイST11の効果が引き起こされるかどうかを調べた。図4に示すとおり、ラクトバチルス・パラカゼイST11(1×10cfu)のIG注射により、BAT−T及びBTは有意に上昇した(図4A及び4B)。ラクトバチルス・パラカゼイST11の注射後、BAT−T(図4A)及びBT(図4B)は徐々に上昇し、最高値はそれぞれ55分及び60分で得られ、それぞれ0.45±0.09℃及び1.41±0.43℃であった。しかし、水の注射はBAT−T(図4A)及びBT(図4B)に影響を及ぼさなかった。図3に示す実験のBAT−T及びBTの基礎値(絶対値)(0分)を表3に示す。両群の基礎値に統計的有意差はなかった(マン・ホイットニーのU検定)。
【0086】
最後に、SCN及びPVNを含む視床下部の神経核におけるc−Fos−ir神経細胞に対するラクトバチルス・パラカゼイST11の効果を調べた。図6Aは、ラットSCN及びPVNの冠状切片の顕微鏡写真であり、c−Fos−ir細胞に対する水又はラクトバチルス・パラカゼイST11の効果を示す。図6Bは、SCN及びPVNにおけるc−Fos誘導のデータを示す。SCN及びPVNのいずれにおいても、ラクトバチルス・パラカゼイST11の注射により、水注射の場合よりも高いc−Fos−ir細胞の発現が誘起された(P<0.05)。
【0087】
結果:
本研究では、ラクトバチルス・パラカゼイST11(NCC2461)(ラクトバチルス・パラカゼイ一般の特に好適な一例である。)を摂取させることにより、摂食量を変えることなくHFD摂取ラットの体重及び腹部脂肪重量の増加を防ぐことに成功した。
【0088】
また、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)によりBAT−SNA及びWAT−SNAが有意に亢進されることを見出した(図2)。さらに、血中FFAレベル(脂肪分解マーカーの一つであり、WAT−SNAの亢進により刺激される。)は、ラクトバチルス・パラカゼイST11の投与により有意に上昇した(図5)。
【0089】
以上のデータは、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)が肥満(特にHFDによる肥満)を抑制することを示している。
【0090】
理論に縛られることを望まないが、本発明者らは、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)は、部分的に又は完全に中枢ヒスタミン神経系のシグナル伝達を介して、自律神経に作用し体重を減少させるものと考えている。
【0091】
交感神経の活性化によるBATでの熱産生は、脱共役タンパク質1(ミトコンドリアでのATP産生から酸化を脱共役させることによって熱産生及びエネルギー消費を促進する。)を介して行われ、WATでの脂肪分解は、交感神経の興奮を介したトリアシルグリセロールの加水分解により誘導される。
【0092】
本発明者らはさらに、覚醒ラットにおけるBAT−T及び血漿FFAレベルに対するラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の効果を調べ、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)がBAT−T及び血漿FFAレベルを上昇させることを示すデータを得ている(図4及び5)。すなわち、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)は自律神経に作用し、熱発生及びWATの脂肪分解を亢進させるものと思われる。
【0093】
本研究では、交感神経活動だけでなく副交感神経活動に対するラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の効果も分析した。HVNA(肝臓でのグリコーゲン合成を通じて血中グルコースレベルの調節に関与する。)が、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の摂取により抑制されることが見出されている(図2)。
【0094】
本研究では、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)により交感神経の亢進及び副交感神経の抑制が引き起こされることが示されている。副交感神経の抑制は摂食阻害と関連があることが知られている(Shen J,et al.,Neurosci Lett 2005;380(3):289−94)。本研究では、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)の長期摂取は摂食に影響を与えない(おそらく消化管の適応による。)ことが示されているが、ラクトバチルス・パラカゼイ(特にラクトバチルス・パラカゼイST11)は、特に短期間使用される場合は摂食抑制剤として使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過体重、肥満及び/又は関連代謝異常を治療又は予防するための組成物の調製のための、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)の使用。
【請求項2】
前記ラクトバチルス・パラカゼイがラクトバチルス・パラカゼイST11である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組成物が、ヒト又は動物、特にペット、家畜及び/又はコンパニオンアニマル(例えば、イヌ又はネコ)の治療を目的としている、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記組成物が、医薬品、食品、ペットフード製品、食品添加物又は機能性食品である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物が幼児、子供及び/又は成人を対象とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記組成物が、少なくとも1種の他の食品用微生物(例えば、細菌及び/又は酵母)を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記食品用微生物がプロバイオティクスである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記組成物が、少なくとも1種のプレバイオティクスをさらに含有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記プレバイオティクスは、オリゴ糖(フルクトース、ガラクトース、マンノース、大豆オリゴ糖及び/又はイヌリンを含有してもよい)、食物繊維又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記ラクトバチルス・パラカゼイの少なくとも一部は前記組成物中で生存している、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記ラクトバチルス・パラカゼイの少なくとも一部は前記組成物中で非複製性である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記組成物が、一日量当たり10〜1012個のラクトバチルス・パラカゼイを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
体重減少及び/又は体重維持を支援するための、及び/又は特に短期投与については摂食抑制剤としての、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
特に、一定の摂食量が維持されている場合に、
脂肪分解を亢進し、及び/又は特に長期投与については体重増加を減少させるための、
請求項1〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記関連代謝異常が、糖尿病、高血圧、肝硬変、メタボリックシンドローム、心血管疾患及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−523407(P2011−523407A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508917(P2011−508917)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055822
【国際公開番号】WO2009/138448
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】