説明

ラジカル的に加硫されたゴム混合物を含むエラストマー製品

本発明は、ラジカル的に加硫されたゴム混合物を含むエラストマー製品、特に伝動ベルトに関する。極めて長い製品寿命と環境に優しい製造法を有する、利用可能なエラストマー製品、特に伝動ベルトを製造するために、そのゴム混合物には、少なくとも0.1〜50phrの、少なくとも不飽和であり、そしてその共役二重結合の末端に少なくとも1個のアリル性水素原子を有するカルボン酸、ならびに少なくとも0.1〜50phrの、共活性化剤としての金属凝結剤が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル架橋されたゴム混合物を含むエラストマー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば伝動ベルト、輸送ベルト、またはフレキシブルチューブのように、高い動荷重に耐えなければならないエラストマー製品は、耐摩耗性、弾性率、引張強度、引き裂き抵抗性、耐老化性、低温時可撓性、耐温度上昇性および耐化学薬品性および耐油性に関して、高い要件を満たさなければならない。駆動中の伝動ベルトにおけるさらなる要件としては、低騒音発生性、および高温において所望の機械的特性が保持されることが挙げられる。全体として、上述の特性は、そのエラストマー製品の実用寿命を延ばすのに役立つものであるべきである。
【0003】
特に耐熱性に関する、それらの高い要件を満たすために、ラジカル架橋された、すなわち過酸化物架橋されたゴム混合物が、多くのエラストマー製品、特に伝動ベルトにおいて使用される。それらのラジカル架橋されたゴム混合物は、たとえば水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)および/またはエチレン−プロピレンゴム(EPM)をベースとするものである。架橋密度を上げて、ラジカル架橋されたゴム混合物の加硫製品の特性を改良するためには、たとえばトリアリル化合物または反応性アクリレート誘導体のような架橋助剤/共活性化剤をその混合物に添加することがさらに知られている。架橋助剤としては、たとえば、アクリル酸またはメタクリル酸の亜鉛塩のような、α,β−不飽和カルボン酸の金属塩が提案されている。
【0004】
欧州特許第0 866 834B1号明細書には、たとえば、長い実用寿命を有する伝動ベルトが記載されているが、それは、EPDMおよび/またはEPMをベースとしていて、32〜100phrの、α,β−不飽和カルボン酸の少なくとも1種の金属塩、好ましくはアクリル酸亜鉛を含む。
【0005】
欧州特許出願公開第1 205 515A1号明細書には、伝動ベルトにおいて、エチレン−α−オレフィンゴム、たとえばEPDMおよびEPMの混合物中に、1〜30phrの、α,β−不飽和カルボン酸の少なくとも1種の金属塩、特にジメタクリル酸亜鉛を使用することが開示されている。
【0006】
日本国特許第2981575B2号明細書には、過酸化物架橋されたゴム混合物を含む伝動ベルトが開示されている。そのゴム混合物は飽和ゴム(たとえば、EPM)をベースとして、ステープルファイバーおよびエチレン性不飽和カルボン酸の金属塩を含む。この公報においてはさらに、エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩を直接使用することに加えて、適切な金属塩たとえば炭酸塩、酸化物または水酸化物およびエチレン性不飽和カルボン酸を混合物に添加し、そこで反応させて、対応するエチレン性不飽和カルボン酸の金属塩とすることで、混合物中でそれらの塩を生成させることさえも可能であるとの記載がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、ラジカル架橋されたゴム混合物を含み、長い実用寿命と環境に優しい製造を特徴とする、エラストマー製品、特に伝動ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、本発明においては、そのゴム混合物が以下のものを含むことにより達成される:
少なくともα,β−不飽和およびγ,δ−不飽和であり、その共役二重結合の末端に少なくとも1個のアリル性水素原子を有する、少なくとも1種のカルボン酸を0.1〜50phr(重量部、混合物中のゴムの全部を100重量部とする)、および
共活性化剤としての、少なくとも1種の金属塩を0.1〜50phr。
【0009】
本明細書において使用する場合、単位phr(ゴム100重量部あたりの部数または100重量部に対する重量部)を、混合物を調製するための量の単位として通常使用する。個々の物質の重量部の割当は常に、その混合物中に存在するすべてのゴムの合計した質量を100重量部としたものを基準とする。
【0010】
ラジカル架橋の際にエラストマー製品中に存在する未架橋のゴム混合物に、少なくともα,β−不飽和およびγ,δ−不飽和であり、少なくともその共役二重結合の末端に少なくとも1個のアリル性水素原子を有する少なくとも1種のカルボン酸、ならびに少なくとも1種の金属塩を加えることによって、特に高い架橋度が得られ、したがって強化されたエラストマー製品を得ることができることが見出された。この強化によって、特に高い耐摩耗性が得られる。
【0011】
架橋度を改良するためには、そのカルボン酸が少なくとも2個の共役二重結合の系を有し、その系が電子を吸引するカルボキシル基を有しているということが本質的に重要であると考えられる。これによって、最後の共役二重結合に対してアリルの位置に、特に活性な水素原子がもたらされる。ラジカル架橋において、そのカルボン酸がそのようにしてポリマー鎖に、好ましくは、直接結合されると考えられ、その場合にのみ、過酸化物を用いて架橋を形成しながら金属塩と反応する。
【0012】
ここで重要なのは、その特定のカルボン酸および金属塩が、ゴム混合物に添加した際には、未反応の状態であるということである。特定のカルボン酸の金属塩を使用した場合、その強化効果が認められないであろう。その理由はおそらく、塩の存在下では、カルボン酸とポリマーとの予備的な反応が起こりえないためであろう。エチレン性不飽和のみで共役二重結合が存在しないカルボン酸の金属塩を使用すると、単不飽和カルボン酸はおそらく充分な活性がなく、環境的に不利であるため、いずれの場合においても特に良好な強化を与えない。
【0013】
さらに、所定の量の特定のカルボン酸および金属塩を含むラジカル架橋されたゴム混合物は、圧縮永久歪みが低い、すなわち、クリープが低いという特徴を有している。このことは、それらの混合物のエラストマー製品の実用寿命の間の性能の向上に効果を与えるが、それは、その製品の実用寿命の間における表面の形状の変化が小さいからである。
【0014】
特定のカルボン酸および金属塩を所定の量で用いた、ラジカル架橋されたゴム混合物は、さらなる利点を有していて、それらは高い動的耐久性を有しているために、それらのゴム混合物を含むエラストマー製品が、たとえば伝動ベルトの場合のような長時間の動的使用にも充分に耐えることができるようになる。さらに、そのゴム混合物は良好な強度と応力値とを有する。
【0015】
本発明のエラストマー製品のためのゴム混合物は、その特定のカルボン酸および金属塩がゴムマトリックス中に容易に分散されるので、何の問題もなく混合することが可能である。
【0016】
そのゴム混合物が、10〜40phrの、少なくともα,β−不飽和およびγ,δ−不飽和である少なくとも1種のカルボン酸を有し、その共役二重結合系の末端に少なくとも1個のアリル性水素原子を有する場合には、架橋度において特に良好な改良が得られる。1種のカルボン酸を使用することができる。しかしながら、混合物中にそのタイプのカルボン酸を数種使用することも可能である。
【0017】
カルボキシル基に対してα,βおよびγ,δ位に少なくとも2個の共役二重結合が存在することを特徴とし、その共役二重結合系の末端にアリル性水素原子を有する、すべてのカルボン酸が使用され得る。したがって、3個以上の共役二重結合を有するカルボン酸を使用することもまた可能である。
【0018】
しかしながら、本発明の好ましい実施態様においては、そのカルボン酸が2,4−ヘキサンジエン酸である。特に好ましいのは、トランス,トランス−2,4−ヘキサンジエン酸(ソルビン酸)である。これは市場で安価に大量入手することが可能であり、生態学的にも安全である。これは、保存剤としての使用は公知である。ソルビン酸は、ゴム混合物の中に特に都合良く混合することが可能であり、混合物中に充分に分散され、特に良好な動的特性を有するエラストマー製品をもたらす。それを組み入れる際には、刺激性または毒性の揮発性ガスが形成されることもないので、その混合物を製造する場合に特別な排気システムを備える必要はない。
【0019】
エラストマー製品のためのゴム混合物には、少なくとも1種の金属塩を0.1〜50phr、好ましくは5〜40phr含む。混合物の中で複数の金属塩を使用することも可能である。
【0020】
金属塩としては、たとえば金属水酸化物、金属酸化物、または金属炭酸塩が使用できる。架橋度に関しては、金属酸化物および金属炭酸塩が特に有効であることが見出されたので、それらを使用するのが好ましい。
【0021】
金属塩には、たとえばマグネシウム、バリウム、カルシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、鉛、スズなどが含まれていてよい。好ましくは亜鉛塩、特に酸化亜鉛を使用するが、これらは、架橋の際に特に活性が高い。
【0022】
架橋度をさらに向上させ、特に耐摩耗性が良好で動的に使用可能なエラストマー製品を得るためには、活性酸化亜鉛を使用するのが有利であることが判った。活性酸化亜鉛は、大きな比表面積を有している。標準的な酸化亜鉛すなわち「チンクバイス(zinkweiss)」が10m/gまでのBET表面積を有しているのに対して(たとえば、グリロ・カンパニー(Grillo Company)製の「チンクバイス・ハルツジーゲル(zinkweiss HARZSIEGEL)(登録商標)」は約4.7m/gのBET表面積を有し、「チンクバイス・ロトジーゲル(zinkweiss Rotsiegel)」は約4.5m/gのBET表面積を有している)、活性酸化亜鉛のBET表面積は20m/gを超える。活性酸化亜鉛は、たとえば、ランクセス・カンパニー(LANXESS Company)からの商品名「ジンク・オキシド・アクティブ(zinc oxide active)」(BET表面積、約45m/g)または、ブリューゲマン・カンパニー(Brueggemann Company)製のジンク・オキシド・RAC(zinc oxide RAC)(BET表面積、約69m/g)として入手可能である。それらの活性酸化亜鉛は一般的に、溶液中での沈殿反応によって製造されるが、それに対して標準的な酸化亜鉛は、亜鉛蒸気を燃焼させることによって得られる。
【0023】
エラストマー製品のためのゴム混合物は、各種のラジカル架橋可能なゴムおよびそのようなゴムの混合物をベースとすることができる。
【0024】
したがって、そのゴム混合物は、たとえば、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンゴム、たとえばエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)またはエチレン−プロピレンゴム(EPM)をベースとすることができる。それらのタイプのゴムは、広い温度範囲で使用可能であり、良好な耐薬品性および耐油性を有している。EPDMおよびEPMは混合物(またはブレンド)として使用することも可能である。少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンゴムをベースとするゴム混合物を摩擦係合の伝動ベルト、たとえばVベルトまたはVリブドベルトで使用するのが好ましい。
【0025】
場合によっては、そのゴム混合物が、良好な耐摩耗性、良好な耐油性、および良好な低温性能を有する、少なくとも1種の水素化ニトリルゴム(HNBR)をベースとしていてもよい。1種の水素化ニトリルゴムをベースとするゴム混合物は、嵌合(または係合;form−fitting)伝動ベルト(たとえば歯付きベルト)において使用されるのが好ましい。
【0026】
さらに、そのゴム混合物には、他のタイプのゴム、たとえば、シリコーンゴム、ポリクロロプレン、エピクロロヒドリンゴム、天然ゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンなどが含まれていてもよい。
【0027】
ゴム混合物のラジカル架橋は、一般的な過酸化物を用いて起こさせることができる。たとえば、以下のものが使用できる:2,5−ジメチル−2,5−ジ−tert−ブチル−ペルオキシ−ヘキサン、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチル−ペルベンゾエート、ジクミルペルオキシド、α,α’−ジ−tert−ブチル−ペルオキシ−ジ−イソプロピルベンゼン。
【0028】
それらのゴム混合物にはさらに、慣用される添加剤を適切な量で含んでいてもよい。そのような添加剤としてはたとえば、充填剤(たとえばカーボンブラック、シリカ、および短繊維)、軟化剤およびワックス、老化防止剤、ステアリン酸ならびに結合剤などが挙げられる。
【0029】
本発明のエラストマー製品は、動荷重に耐える必要があり、良好な耐摩耗性が望まれる、広範にわたる様々な製品とすることができる。それらの特性は、たとえば、エラストマーを用いてコーティングした布、輸送ベルト、およびホースで必要とされている。
【0030】
しかしながら、本発明の好ましい実施態様においては、そのエラストマー製品は、ラジカル架橋されたゴム混合物を含む伝動ベルトである。それらの伝動ベルトは、コスト効果的に、かつ環境に対して安全に製造することが可能であり、高い動荷重容量と、摩耗が低下することによる長い実用寿命とを特徴とする。
【0031】
その伝動ベルトは、たとえば平ベルト、Vベルト、またはVリブドベルトのような摩擦係合の伝動ベルトであって良い。その伝動ベルトがVリブドベルトであるのが好ましく、その場合、特に良好な摩耗性能が達成できる。
【0032】
その伝動ベルトがVリブドベルトである場合には、そのラジカル架橋されたゴム混合物が、それらのVリブドベルトのリブおよび/または背面および/またはコード埋め込み混合物および/またはゴム被覆混合物を形成することができる。
【0033】
伝動ベルトが、嵌合伝動ベルト、好ましくは歯付きベルトであることも可能である。歯付きベルトの場合には、被覆層および歯を含む基材がラジカル架橋されたゴム混合物で形成されているのが好ましい。そのような歯付きベルトは、その架橋された混合物の改良された強度と高い応力値のために改良された実用寿命を示す。それは、歯がより強いために、歯が剪断される危険性が低下するからである。強度および応力値における改良は、高温においても発揮される。
【0034】
本発明のエラストマー製品は、当業者に公知の方法に従って製造することができる。Vリブドベルトは、たとえば研削法または成形法で製造することが可能であり、歯付きベルトは、押出しプロセスによって製造することができる。ゴム混合物は公知の方法に従って混合することが可能であり、その後で、従来のゴム混合物の場合と同様に、製品のブランク(又は半製品; blank)を製造するのに用いる事が可能である。次いでそのブランクを公知の加硫方法を用いて架橋させてから、所望の形状とすることができる。
【0035】
以下において、本発明を詳細に説明するが、本発明がそれらの例に限定される訳ではない。
【0036】
以下の表1〜3において、エラストマー製品のために使用することが可能な、比較例および本発明のゴム混合物を示す。表1には、EPDMをベースとするゴム混合物を示し、表2には、EPMをベースとするゴム混合物を示す。それらの混合物は、たとえばVリブドベルトのリブのために使用することができる。表3には、HNBRをベースとする繊維充填混合物を示す。この混合物はたとえば、歯付きベルトのために使用することができる。表に含まれるすべての混合物の例において、その量の単位は、全部のゴムを100重量部としたときの重量部(phr)である。比較例の混合物には「V」を付け、それに対して本発明の混合物には「E」を付けている。表の中の混合物は、使用されたソルビン酸および亜鉛塩の量に関して変化させてある。
【0037】
表1で使用されたソルビン酸亜鉛は、以下の方法によって製造した。
【0038】
224gのソルビン酸を、1,000mLのエタノールに加えた。室温で、撹拌しながら、117gの塩基性炭酸亜鉛を少しずつ(incrementally)添加した。その混合物は、容易に撹拌することが可能な懸濁液を形成した。室温で撹拌を続けると、しばらく後に、COの発生が開始した。このことは反応が進行していることを示している。
【0039】
24時間後に、充分な量のジソルビン酸亜鉛が生成し、硬い物質(firm mass)が形成された。ロータリーエバポレーター中、真空下60℃でエタノールを除去した。ジソルビン酸亜鉛の白色物質を回収し、ミルで粉砕した。
【0040】
混合物の製造は、常套の条件下で実施した。相対的な架橋段階(relative cross−linking stage)10%に達するための転化時間(t10)および90%に達するための転化時間(t90)、さらには(架橋度の目安としての)最後のスラスト力Fと最初のスラスト力Fとの差を、DIN53 529に従い可動ディスクレオメーター(MDR)を180℃にて測定した。すべての混合物から、180℃(加熱時間:表1および2では10分、表3では20分)で加圧下にて加硫させることにより試験片を作製し、それらの試験片を用いて、ゴム業界において典型的な材料特性を求め、それらを表の中に列記した。試験片についての試験では、以下の試験方法を用いた:
ショアーA硬度(室温および必要に応じて150℃):DIN53 505;
引張強度(室温および必要に応じて150℃):DIN53 504;
破断点伸び(室温および必要に応じて150℃):DIN53 504;
応力値(室温および必要に応じて150℃、100%伸びで):DIN53 504;
圧縮永久歪み(100℃で22時間、変形25%):DIN53 517。
【0041】
カレンダー加工した繊維充填混合物について、カレンダリングにより配向させた繊維の大体の方向に対して縦方向さらには横方向における引張強度、破断点伸びおよび応力値を測定した。
引き裂き抵抗性(室温、試験片厚み2mm):DIN53 507WRY;
摩耗量:DIN53 516。
【0042】
【表1】

【0043】
混合物と共に各種の架橋活性化剤を添加することを検討したが、それを表1に列記する。列1の混合物は、ソルビン酸、またはカルボン酸の亜鉛塩をまったく添加しない系を示している。過酸化物を用いるだけで架橋が達成される。EPDMベースの混合物の場合、たとえばVリブドベルトのような製品で使用するには、34dNmの架橋度では不十分である。
【0044】
列2の混合物は、当業者に公知(たとえば、欧州特許出願公開第1 205 515A1号明細書)のジメチルアクリル酸亜鉛を15phr使用した同一の混合物を示している。圧縮永久歪みが大きくなったが、このことは、その混合物がクリープしやすいことを表している。このために、たとえばVリブドベルトまたは歯付きベルトにおいて、ベルトの表面の形状寸法が変化し、そのために耐摩耗性が乏しい状況となる。列4の混合物は、ジメタクリル酸亜鉛に類似した物質、すなわちジソルビン酸亜鉛を同じモル量で使用しても、架橋度および圧縮永久歪みに関してはほとんどメリットがないことを示している。カルボン酸の金属塩をまったく含まない混合物1と有意な差のない、36.28dNmの架橋度が得られている。これに比較すると、硬度におけるほんのわずかな上昇が起きていて、このことは、ソルベートが不活性充填物質として機能していることを示唆している。
【0045】
ここで、同様の混合物において、酸化亜鉛と組み合わせて遊離のソルビン酸を使用すると(列3の混合物)、意外にも、極めて高い架橋度が達成され、その混合物は伝動ベルトのような耐摩耗性エラストマー製品を製造するのに好適である。中間的にジソルビン酸亜鉛を形成させることによってその反応メカニズムが進行している訳ではないと考えられるので、このことは特に意外なことである。そのようなことが起これば、得られる結果は、列4の混合物の場合よりもよくなることはないであろう。この架橋メカニズムは実質的なレベルでソルビン酸のEPM分子への結合を伴っていると考えられる。これには、また別な可能性も存在する。ENEタイプの反応は、EPMの鎖のC上の水素原子を介して可能である;EPM分子からの水素引抜きの場合には、ソルビン酸もまた極めて早いディールスアルダー反応をすることが可能である。圧縮永久歪みが顕著に低下し、そのためにたとえば、ベルトの実用寿命が改良されるが、それは、その混合物のクリープと圧縮永久歪みが低下するからである。
【0046】
遊離のメチルアクリル酸と酸化亜鉛とを用いた比較実験は回避せざるを得なかったが、その理由は、その混合物が、未転化のメチルアクリル酸残渣のために極端な催涙性を有しており、作業場所における衛生面の理由から急遽中断せざるを得なかったからである。この方法では、市場で販売可能なベルトを商業的に生産することは、環境面の理由から実際的ではない。
【0047】
【表2】

【0048】
表2には、EPDM混合物中で各種の亜鉛塩をソルビン酸と組み合わせた実験を示す。ソルビン酸の量が増えるにつれて、架橋度が上昇している。活性酸化亜鉛を用いた場合(混合物5および6)、最高の架橋度が得られ、それらは摩耗が特に低い結果を与える。強度および伸び状態での応力値に関しては、それら2種の混合物が最高の値を示している。表2はさらに、耐摩耗性が架橋度と平行することを示している。
【0049】
【表3】

【0050】
表3の混合物は、歯付きベルトにおいて常套的に用いられている、HNBRをベースとする繊維強化混合物である。カレンダー加工プロセスによって配向された繊維が存在しているために、張力試験で得られたデータは、縦方向と横方向とでは異なっている。
【0051】
混合物11から混合物12への変化においては、ジメタクリル酸亜鉛を、ソルビン酸と酸化亜鉛との等モル成分に置き換えた。混合物2は、架橋度が高くなった点に特徴がある。
【0052】
10%架橋までの時間(t10)が長くなり、90%架橋までの時間(t90)が短くなっているのも、さらなる利点である。このことは、その混合物のスコーチ安全性が改良されると同時に、全加硫時間が短縮されたということを意味している。製品の特性に関して言えば、混合物12は、強度において明らかに改良され、また引張値も明らかに高くなっていることを示しており、それらの特性はいずれも、温度が高くなっても発現されている。それらの特性は、歯付きベルトの場合には特に重要であるが、その理由は、それらが、歯が剪断されたり、実用寿命が短くなったりすることを防ぐからである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル架橋されたゴム混合物を含むエラストマー製品であって、前記ゴム混合物が、
少なくともα,β−不飽和およびγ,δ−不飽和であり、その共役二重結合の末端に少なくとも1個のアリル性水素原子を有する少なくとも1種のカルボン酸を0.1〜50phr(重量部、混合物中のゴムの全部を100重量部とする)、および
共活性化剤としての、少なくとも1種の金属塩を0.1〜50phr含む製品。
【請求項2】
前記ゴム混合物が、少なくともα,β−不飽和およびγ,δ−不飽和であり、共役二重結合の末端に少なくとも1個のアリル性水素原子を有する前記少なくとも1種のカルボン酸を10〜40phr含む、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
前記カルボン酸の少なくとも1種が、2,4−ヘキサンジエン酸である、請求項1または2に記載の製品。
【請求項4】
前記カルボン酸の少なくとも1種が、トランス,トランス−2,4−ヘキサンジエン酸(ソルビン酸)である、請求項3に記載の製品。
【請求項5】
前記ゴム混合物が、少なくとも1種の金属塩を5〜40phr含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製品。
【請求項6】
前記金属塩の少なくとも1種が、金属酸化物または金属炭酸塩である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製品。
【請求項7】
前記金属塩の少なくとも1種が、亜鉛塩である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製品。
【請求項8】
前記金属塩の少なくとも1種が、酸化亜鉛である、請求項7に記載の製品。
【請求項9】
前記酸化亜鉛が、20m/gを超えるBET表面積を有する活性酸化亜鉛である、請求項7に記載の製品。
【請求項10】
前記ゴム混合物が、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンゴムを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製品。
【請求項11】
前記ゴム混合物が、少なくとも1種のエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)を含む、請求項10に記載の製品。
【請求項12】
前記ゴム混合物が、少なくとも1種のエチレン−プロピレンゴム(EPM)を含む、請求項10に記載の製品。
【請求項13】
前記ゴム混合物が、少なくとも1種の水素化ニトリルゴムを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製品。
【請求項14】
前記製品が、伝動ベルトである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の製品。
【請求項15】
前記ベルトが、摩擦伝動ベルトである、請求項14に記載の製品。
【請求項16】
前記ベルトが、Vリブドベルトである、請求項15に記載の製品。
【請求項17】
前記ラジカル架橋されたゴム混合物が、Vリブドベルトのリブを形成する、請求項16に記載の製品。
【請求項18】
前記ラジカル架橋されたゴム混合物が、Vリブドベルトの背面を形成する、請求項16または17に記載の製品。
【請求項19】
前記ラジカル架橋されたゴム混合物が、前記Vリブドベルトのゴム引き用混合物および/またはコード埋め込み混合物を形成する、請求項16〜18のいずれか一項に記載の製品。
【請求項20】
前記ベルトが、かみ合い伝動ベルトである、請求項14に記載の製品。
【請求項21】
前記ベルトが、歯付きベルトである、請求項20に記載の製品。
【請求項22】
前記ラジカル架橋されたゴム混合物が、被覆層および歯を含む基材を形成する、請求項21に記載の製品。

【公表番号】特表2009−534486(P2009−534486A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505809(P2009−505809)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051926
【国際公開番号】WO2007/122031
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(503065678)コンティテヒ・アントリープスジステーメ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (3)
【Fターム(参考)】